“蒼穹”より少し遅れて参戦します。
新たな賢者エスラリオラを仲間にした。
それからゼオ達と合流して一通り自己紹介を済ませる。
「あ、じゃあ僕達から報告するね~」
そして互いになにが起こったのかを確認し合うところだ。まずドランクはいつもの調子で手を挙げる。
「僕達は“蒼穹"を無視して真っ先に捕まってる二人のところに行ったんだけどぉ、なぜか来てたギルベルトと鉢合わせちゃったんだよね~。彼、幽世の力もあって逃げられちゃった」
「不覚を取った。次会う時はやり返す」
ドランク、スツルム、オーキスの三人でも逃げられてしまったらしい。相当な力なのだろう。
「ギルベルトはフォリアちゃんを使ってなにかしようとしてるみたいだねぇ。ハル君の方はいらないみたいだったから置いてきちゃったんだけど」
そこでドランクはちらりと俺の方を見てくる。宝珠による通信やレラクルの情報共有でハルのその後を知ったのだろう。
「その後ギルベルトを追いかけて交戦したが苦戦している内に“蒼穹”が追いついてきて、幽世の力なのか異形化したギルベルトをなんとか倒したんだよねぇ。でもフォリアちゃん連れて逃げられちゃってぇ。その後はゼオ君に任せよっかな~」
「おう! まずガイゼンボーガの兄貴がぶン殴って止めたンだけどよ。そこにオレとフラウの姐さんも合流したンだが、異形化するととんでもねェ強さでよォ。結局逃がしちまったンだ」
「と言ってもガイゼンボーガが殴り合おうと躍起になって私とゼオがサポートに回ることになったからだけどね」
「戦いの場では、いつ如何なる時も己が前に出るモノだ」
“蒼穹”プラスうちの三人から逃げ果せただけじゃなく、ガイゼンボーガと戦闘力だけなら随一の三人からも逃げやがったらしい。なかなかとんでもないヤツだったんだな。小物だと思ってたんだが。
「と言ってもありゃ正気じゃなかったぜェ、大将。力に呑まれかけちまってる」
ゼオがそう言ったことで、大物感はなくなってしまったが。
「……際限なく力を欲してる。その結果、収まり切らなくて潰れそう」
オーキスが苦々しそうに言った。それが事実なのだろう。
「で、あとは俺達か。まず別ルートからハルを連れ出した二人がいて、そいつにレラクルの影分身がやられた。それから俺が向かったんだが、到着する前に……ナルメアとリーシャの二人が殺された」
「生きてますけどね」
「不甲斐ないお姉さんでごめんね?」
二人がそれぞれに反応を示す。
「俺が駆けつけて蘇生したから良かったが、あいつはヤバい。俺がその後戦ったが、その時の全力全開でも勝てないってことは確かだった」
今はカードが一枚増えたので多少マシになるだろうが。
「で、そのハルを連れ去った二人ってのが、遠路遥々やってきた真王とその腹心、白騎士だ」
俺の発言に緊張が走る。
「……真王と白騎士……ってなんだっけ?」
神妙な顔をしていたかと思ったら、こてんと首を傾げるゼオ。……思わずずっこけるところだったぞ。
「真王ってのは全空の正統なる支配者を謳うアホ。白騎士ってのは真王が手駒にしてる七曜の騎士の一人。で、白騎士ってのは七曜の騎士でも最強だ」
「ほう」
適当ではあるが簡単に説明をしてやった。わかってるんだかわかってないんだか。
「……アポロよりも強い?」
「ああ、そうだな。あと俺は碧の騎士とも多少手合わせしたんだが、あいつよりも多分強い。本気出したらどうかってところまではわかんないけどな」
「そう、ですね。あそこまで手も足も出ないとは思いませんでした」
ヴァルフリートも相当に強かった。だが白騎士はおそらくもっと強い。真王が懐刀にしているだけのことはあるだろう。
「真王サマが来てるってなるときな臭いよねぇ。流石にちょっと予想外かな~」
「僕の情報にもない事態だ」
情報収集を得意とする二人が言ったことで、より不明点が増える。
「まぁわからないことを考えても仕方がない。で、その真王達とギルベルト、あと“蒼穹”の連中はどこに向かったんだ?」
俺は様子を見るように言いつけていたレラクルに顔を向ける。
「真王と白騎士は不明だ。だがおそらく、グレートウォールに向かっている。一定間隔で影分身を向かわせて、消されても居場所が掴めるようにしていたが」
「グレートウォール?」
「あれだ」
俺が尋ねると、レラクルは遥か遠方を指差した。そこにはナル・グランデ空域のどこからでも視界に入るような大きさの、壁がある。あれがグレートウォールというヤツなのか。
「どうやってあそこまで行くのかは知らないけど。ギルベルトに関しては小型騎空挺で別の島に向かったが、それがシュテルケ島だ。シュテルケ島はかつてトリッド王国の王都があった場所で、“天罰”が落ちた場所だ」
「天罰ってのはなンだ?」
「トリッド王国崩壊の決定打になった、空から降り注いだ光のことだ。その光によってシュテルケ島は王宮のあった辺り一帯が抉られたらしい」
「ほう、そんなことがあったのか」
「正体不明、だがバラゴナならなにか知っているかもしれない。トリッド王国崩壊に立ち会った人物の一人と思われるから」
「そうか」
グレートウォール、天罰、トリッド王国の崩壊。それらが一つとなっているということは、ドランク達の調べでわかっている。
「……そろそろ最終局面ってか。で“蒼穹”は?」
「教えの最奥を会得した仲間達と合流し、騎空艇に乗ってギルベルトを追っていった。行き先はシュテルケ島だ」
「なるほどなぁ」
真王はグレートウォール、ギルベルトと“蒼穹”はシュテルケ島。
「あ、実はグレートウォールの秘密握ってるのってトリッド王家だったっていう噂があるんだよね~。だからバラゴナさんもグレートウォール行くんじゃないかな~って。それにもしグレートウォールの調査とかをしてたんならグレートウォールへの移動手段やなんかもあるのかな~って思うんだよねぇ」
「ふぅん。じゃあ行くか。今から行けば“蒼穹”の連中と鉢合わせるようなこともねぇだろ」
ドランクの話を聞いて、俺はシュテルケ島に向かうことを決める。真王の動向も気になるが、最終的にグレートウォールへ行くのであればまた出会うだろう。その時は絶対ぶん殴る。あの白騎士野郎は絶対にぶん殴る。ナルメアとリーシャの仇だ。今は生きてるけど。
「じゃあ早速乗りな。出遅れた分、最速で向かうからよ」
ザンツが俺の出番だとばかりに言って、俺達はまた増えたことにより狭い小型騎空挺でシュテルケ島に向かった。
シュテルケ島に近づくとその異様な様子が目に見てわかるようになってくる。
廃墟の島だった。
「十年前、天罰によって廃墟と化した島」
「トリッド王国の首都として栄えたって話だけど~」
「こりゃ見る影もねぇな」
人すらいる気配のない島だった、はずなのだが。島を回っているところでグランサイファーと小さな騎空挺が停まっているのが見えた。しかも
「えっ!? あれ、まさかモニカさん?」
見覚えのある紫電にリーシャが驚愕する。どうやらなにかと戦っているらしい。上陸する前だとよく見えないが、なにかが無数に蠢いているようにも見える。
「グランサイファーとは離れた箇所に上陸するぞ。んで、事情を知ってそうなヤツに会いに行く」
「ここまで来てもこっそりは変わらないんですね……」
「一度決めたことをあっさり曲げても仕方ねぇだろ」
呆れるリーシャに言い返し、俺達はシュテルケ島に上陸した。それから紫電の見えた方向に駆け出したのだが、異形の生物が道を阻む。
「あん?」
「なンだァ?」
俺とゼオが首を傾げる。魔物、なのかはわからないが同じような姿の生物がうようよといやがった。色は姿形が違って種類があっても統一感がある。紫とか黒の辺りのぱっとしない色見だ。……別に自虐ではない。
「……ギルベルトと、同じ感じがする」
蠢く妙なヤツらに、オーキスがぽつりと呟いた。
「じゃあこれ、幽世の魔物ってことなのかな~」
「さぁな。兎に角さっき見た感じだとモニカしかいなかった。さっさと合流してやるぞ」
「はい」
俺は言って、先頭を切って歩く。数は多く際限なく湧き出ているようであったが、強さはそうでもない。複数体が相手でも問題なく戦えていた。
「モニカさん!」
しばらくしてようやく合流を果たした。リーシャは心配ではあったのかすぐに駆け寄る。
「おぉ、リーシャ。こんなところで会うとは奇遇だな」
モニカは疲労は見えていたが笑顔で応える。
「モニカさんこそ、どうしてここに?」
「……ヴァルフリート団長からの重要な案件だ。リーシャもいることだし、諸君になら言ってもいいだろう」
そう言ってモニカはヴァルフリートに頼まれたという案件について語る。
「ヴァルフリート団長からの依頼は、『ナル・グランデ空域の罪について調べる』ことだ。その罪とはグレートウォールが関わっているのではないかと、調査の結果睨んでいる。この島の奥の地下にグレートウォールへ転移可能と思われる魔方陣を発見したのだが、周りにいる者共に阻まれてしまって、ここまで後退してきたという現状だ」
「ナル・グランデ空域の罪……。それで、こっちに“蒼穹”の人達が来たと思うのですが、どちらに?」
「彼らは最初に来たギルベルトを追ってこの奥に向かった。ギルベルトが来てから敵が増えたからなにか関係があるとは思うのだが」
「……ギルベルトと同じ力を感じる」
「ルリアも同じことを言っていたが、そうか。なんにせよ加勢するなら急いだ方がいい」
迫り来る異形に対処しながら会話を続ける。
「いや、別にあいつら助けに来たわけじゃねぇしな」
「なにっ?」
俺の返答にモニカの剣閃がブレる。
「ではなぜ貴公らはここにいる」
「グレートウォールにいる真王と白騎士をぶん殴るため」
「なんだと……?」
「俺はあいつらと顔を合わせる気がねぇ。まぁそう簡単に死ぬヤツらじゃないとは思ってるけどな」
「それはそうだが……」
モニカと言い合いながら、俺はこれから俺達がどう動くかを考えていく。
「……なぁ、ドランク」
「なぁに、ダナン?」
俺は頼りになる親友に声をかける。周辺の敵はゼオ、フラウ、ガイゼンボーガ、ナルメアに任せても大丈夫そうだ。
「バラゴナは、なにがしたいんだと思う?」
「緋色の騎士? うーん、難しいよねぇ」
「わかってる。だがおそらく知る必要のあることだ」
「ん〜。黄金の騎士様は、バラゴナがギルベルトと結託してグレートウォールの力を手にしようとしている、とか考えてそうだけどねぇ」
「それはないな。バラゴナは俺の親父を嫌ってる。それはつまり、悪人を嫌う性分を持ってるってことだ。ギルベルトに好き好んで協力するとは思えねぇ」
「確かにね〜。あと調べてる内に思ったんだけどぉ。なんでハルヴァーダ様は生き残ったのかなぁって」
「ああ、俺もそれは思った。バラゴナがみすみす見逃すとは思わねぇ。余程ハルの護衛が手練れだったらわかんねぇけどな」
「そうなんだよね〜。大体バラゴナのトリッド王家虐殺って、真王の命令じゃないっけ? 反抗したトリッド王家に対して、バラゴナに忠義を示せ〜って。なら余計にハル君が生きてるのはおかしいんだよね〜。だってそれって真王に虚偽の報告をしたってことでしょ〜?」
「ああ。忠義を示すための行動で嘘を吐く意味がわからん。なら簡単だ、バラゴナがハルを逃したとしか考えられねぇ」
ドランクと話しながら考えをまとめていくと、一つの答えに辿り着いた。
「ま、待て。諸君はこの空域のことについてどれだけ知っている? グレートウォールとは一体なんなのだ?」
聞いていたらしいモニカが慌てたように言ってくる。
「グレートウォールはこいつらが調べたところによると、兵器なんだとよ」
「そそ。このシュテルケ島を襲った天罰ってあるでしょ〜? その光が、グレートウォールから放たれているのを見たって人がいてねぇ」
「なんだと……!?」
「しかもグレートウォールの秘密はトリッド王国が握ってた。ならなぜ天罰はトリッド王国に落ちた?」
「その答えはトリッド王国を崩壊させた張本人だ。一応黄金の騎士への報告書には書かなかったがな」
「……トリッド王国を滅ぼしたのは、真王、だと思ってる」
実際に調査をした三人が補足してくれる。
「真王が……?」
「まぁグレートウォールっつう兵器が欲しかったんじゃねぇか? とんでもない兵器みたいだからな」
「そんな軽く口にすることか?」
「口にするだけならタダだしな」
俺はモニカに肩を竦める。三人の調べを知る俺以外の話がわかっているヤツらは驚いているようだ。ゼオとガイゼンボーガは戦いに夢中で聞いていないようだったが。
「……なら、グレートウォールをぶっ壊すのが真王の邪魔になるか」
ワールドの能力で把握可能な大きさだろうか。いや、流石に難しいか? グレートウォールの端っこだけ残してできる限り消滅させるとか、やってやりたいところだな。
「いやぁ、あれ壊すのは無理でしょ~」
「まぁ、普通に考えればな」
もしバラゴナがハルを逃がした張本人なのだとしたら、彼は真王に奪われたハルを取り返すために戦うはずだ。だが真王に協力しているということは、おそらく彼にはグレートウォールを破壊する手立てがある。ハルにどんな利用価値があるのかわからねぇが、ハルを利用することがグレートウォールに関係があると考えれば、根幹から覆すためにグレートウォールの破壊を目論むのが一番だ。……流石に飛躍しすぎか。
「……とはいえ真相を知るにはグレートウォールに行かなきゃいけねぇか」
俺は頭上を見上げて遥か高いところまで伸びているグレートウォールを見据える。
「よし、じゃあ俺だけ行ってくるわ」
頭の中で決めたことを団員達に告げる。
「なんで? 白騎士と戦うならリベンジしたいのに……」
ヤツに負けたナルメアがそう呟く。
「“蒼穹”に顔の割れている人は行かせづらいってのと、オーキスには下に残って欲しいってのと、モニカを手助けしたいだろうってのと、その辺かな」
「そんな拘りよりダナンちゃんの力になる方が大事なのに」
「……私も一緒に行く」
「そうですね、私はここに残ろうと言い出すつもりでしたけど」
俺が挙げた三人がそれぞれに言った。
「“蒼穹”の連中がハルを助けるために白騎士と戦っている可能性は高いから、ちょっとぶん殴ってくるだけだし無理そうだったら逃げるつもりだ」
「そ、それでも……」
「ナルメア。そんなに心配しなくても大丈夫だから」
俺は不安そうな彼女の頭を撫でて宥めてやる。
「……うん」
「今回は、とりあえず俺が無事グレートウォールまで行けるように道を開いてくれ」
「わかった。お姉さんに任せて」
ナルメアをケアして次にオーキスを見据える。
「オーキスには、もし俺がグレートウォールから落っこちてきた時のフォローを頼みたいんだよ。糸でな。これはオーキスにしか頼めないことだ」
「……ん。わかった。任せて。絶対キャッチする」
「ああ、頼んだ」
俺はオーキスの頭を撫でて頼み事をする。少し卑怯な言い方だったかもしれない。
「スツルムとドランクはオーキスのフォローを。リーシャはさっき言ったようにモニカの手助けをすればいい。ゼオとガイゼンボーガはそのまま戦わせておいて、エスタリオラとレラクルが二人の補助をしてくれ。ザンツは適当にここで戦ってればいいわ。小型騎空挺だけは守ってな」
俺は仲間達に指示を出していく。大体はここで戦って待ってろっていう簡単な指示だったが。
「よし、俺は歩いていくから、道はお前らが切り開け。これから最終決戦会場に向かうんだし、温存させるくらいいいだろ?」
俺は笑って言い、幽世の魔物共が犇めく方へ徐に歩き出した。