ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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グレートウォールにて真王に喧嘩を売るお話。
あと一話で暁の空編上は完結します。次話はグランとジータ達側の話です。

度々誤字脱字報告いただいてありがとうございます。
一応更新前に見直そうかと思います。昨日報告が多かったというのもありましてね。

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黄金の騎士との共闘

 転移した俺の視界に入ってきたのは少し離れた位置で真王、そして白騎士と戦う黄金の騎士の姿だった。

 

「はあぁ!」

「……」

 

 アリアの渾身を、全く退かずに受け止め切る白騎士。やはり白騎士は七曜の騎士の中でも別格らしい。

 しかしグレートウォールってのは殺風景だな。本当にただ壁の上に立っているような状態だ。その壁ってのが島のように巨大というだけなのだが。

 

 俺はまず右手で地面に触れてグレートウォールが把握可能かを確かめる。……まぁ、無理だよな。分析にも時間がかかる。それでもナル・グランデ空域に見えている大半は範囲内だ。いざとなったらやるしかねぇか。

 

「同じ七曜の騎士でも苦戦してんな」

 

 俺は言って吹き飛ばされたアリアに近づき回復を行う。

 

「御子の代用品か。再び相見えるとは」

「いや、なに言ってんだよ。俺は真王の座が貰えねぇかなって思ってるんだぜ? 会いたくねぇんだったら俺を殺すんだな」

「白騎士」

 

 余程俺を始末したいのか、白騎士に命じて俺を襲わせる。白騎士はすぐさま俺へ飛びかかってきた。

 

「真正面から俺を倒せると思ってんなよ?」

 

 俺は右手を伸ばし掌を向ける。ザンツのレーザーを想像し放った。もちろん、後ろの真王を巻き込む方向で。足を止めさせたが白騎士はレーザーを切って後方の真王の左右へ逸らす。

 

 レーザーが収まってから傷の治ったアリアが切りかかった。俺も【クリュサオル】でイクサバとブルトガングを持ち白騎士に襲いかかる。

 しかし俺とアリアが力を合わせても押し切れない。俺達の計三本の刀剣に防御が間に合っている。だが攻撃の手は劇的に少なくなっている。俺はアリアがいることで余力があることもあって落雷や突然の炎などを使い白騎士を削っていく。だが果たしてちゃんとダメージが通っているのか不安に思ってしまうほど戦いに揺らぎがない。真王をバカにした時が一番揺れたかもしれない。

 

「アリア、合わせろ!」

「仕方ありませんね」

 

 俺はブルトガングを振り被り、アリアは剣を大きく引いた。白騎士も剣を腰に据えて白光を発生させる。

 

「――黒鳳刃・月影ッ!!」

「――星閉刃・黄昏ッ!!」

 

 俺が虚空にブルトガングを叩きつけると、空間に亀裂が走っていく。亀裂はカードが増えて再現度が上がったからか以前より大きくなっている。やがて空間が砕け散ると闇の奔流が放たれた。

 アリアが剣を三度振るい軌跡で黄金のトライアングルを描く。三角形の中央から黄金の奔流が放たれた。

 

 同時に放った奔流が混ざり合い、一つとなって白騎士に向かっていく。対する白騎士も剣を振るい白の奔流を放つ。

 

 黒と黄金、白の奔流が激突して辺りに衝撃が発生した。グレートウォールが抉れ、ヒビ割れ激突している箇所が陥没する。

 二人の奥義を以ってしても、白騎士には相殺されてしまった。

 

「クソがっ! どんな力してやがんだあの野郎。俺が足りないとしても七曜の騎士二人分だぞ!」

「流石に、一筋縄ではいきませんか」

 

 とんでもないヤツもいたもんだ。七曜の騎士をある程度自由にしていて、服従せずとも構わないという姿勢すらある真王の懐刀をやっているだけはある。

 

「白騎士。遊びは良い。早々に始末を」

 

 真王が焦れたのかそんな命令を下した。直後白騎士の動きが明らかに良くなる。加減していたわけではないだろうが、本気になったということだろう。

 

「くっ!」

 

 先にアリアが狙われる。アリアの剣は速く鋭いが、その分一撃が軽い印象を受ける。もちろんそれが悪いと言うつもりはない。だが、白騎士はアリアよりも剣速が速い上に威力が高い。彼女からしてみれば完全な格上、到底敵わない相手だろう。事実三度剣を合わせたところで弾かれてしまう。

 そこに俺が突っ込み彼女への追撃を中断させる。だが一撃が重い。片手で受け流せるほど柔くない上に、片手では受け切れない。

 

「【レスラー】」

 

 俺は『ジョブ』を切り替えて懐に潜り込むと首の前に腕を持っていった。左腕に力を込めて二の腕で首元を打つようにする。

 

「ラリアット!」

 

 腕に伝わる確かな手応えと、白騎士が吹き飛ぶという光景。……ようやくいいのが一発入った。

 

 だが白騎士は吹き飛んだものの容易く着地してみせる。

 

「……ホントにダメージ入ってるんだろうな」

「ええ、そのはずですが」

 

 『ジョブ』を解いて武器二つを拾い様子を窺うも、負傷した様子もなく呻き声一つ上げない。本当に人なのかこいつ。一応ラリアット中に分析をかけてみたがわからなかった。おそらくあの甲冑に真王の加護が宿っているせいだ。カード四枚分の力じゃそれを貫けない。

 

「疲労は回復しねぇだろ、まだいけそうか?」

「ええ。でなければ私達は終わりでしょう」

 

 彼女も白騎士と自分の実力差はわかっているのだろう。二人がかりなら若しくは、と思っていたのだが二人がかりでも互角かそれ以上だ。

 油断ならない相手……一人だったら周りを巻き込むようなモノも使えるんだが、と思ってしまうのは俺の甘えなのだろうか。ワールドの能力で心当たりのある強化方法を全て使用した全力ならいい勝負もできるかもしれない。どれだけ持続させられるかと、俺の身体が持つかどうかは怪しいところだが。

 あと、グレートウォールの分析に割いている分魔力的な余裕がなさすぎる。全力全開はちょっと厳しいか。

 

 俺達が勝つために必要なことはなにか、と考えていた時。

 

 グレートウォールが揺れた。

 

 思わず体勢を崩し地面に手を突いてしまうほどの揺れだ。なにが起こったのか理解が追いつかないまま、崩壊の音が響く。

 

「うおっ?」

 

 グレートウォールに亀裂が入り、割れる。俺達のいる場所だけじゃなくグレートウォール全体が崩壊しているようだ。

 覚束ない足場に苦戦していると、軽やかに割れた足場を渡った白騎士が迫ってきた。間一髪振られた剣を回避したが、俺の体勢が崩せればそれで良かったらしい。俺はバランスを崩し落下し始めてしまう。

 

 その間にも白騎士は落下する地面にいるアリアの方に

へ向かい崩した体勢で受けられた一撃目を餌に、二撃目を直撃させる。

 

 

「かはっ……!」

 

 吹き飛び落下中だったために壁に激突し、意識を失ったのかそのまま落ちていく。

 

「アリア!」

 

 別に情が深いわけでもないが、ここまで共闘した相手をあっさり見捨てるほど薄情ではない。俺は落下しながら身を翻して裂けたグレートウォールを駆け下り間を縫って跳び彼女の身体を抱き止める。腹部に手を回し脇に抱える形になってしまった。

 気配に顔を上げれば眼前まで白騎士の剣が迫っている。……俺と見せかけてアリア、と見せかけて俺ってか。

 

 俺は反射的になによりも硬い壁を想像する。それは今手に触れている、アリアの腹部にある鎧の硬さだ。剣との間に割り込んだ黄金の鎧は白騎士の剣を弾いてくれる。その隙に壁を蹴ってグレートウォールの上を目指すが、白騎士がそれをさせてくれない。どうやらここでまとめて始末する気らしい。

 

 手元にあるパラゾニウムで剣を受けるが、人一人抱えた状態では格上の白騎士相手に戦うことすらできない。

 

「おい、アリア! アリア! 起きろ!」

 

 だから俺はなんとか傷を増やしながらも攻撃を受けて、アリアに呼びかける。

 

「おい、黄金の騎士! ったく、いつまで寝てんだよ」

 

 全く反応がない。連戦の疲労もあったのと、白騎士の直撃を受けたのがいけなかったのだろう。どう呼べば起きるんだか、と思うと悪ふざけを入れたくなってしまう。

 

「アリア! 真王の娘! フォリアの妹! ……えっと、アリアちゃん!」

 

 ふざけているように見えるかもしれないが、切羽詰まった状況だ。白騎士の攻撃をやり過ごしながらのこれである。

 

「……ちゃんづけは、やめなさい」

 

 掠れた声が聞こえたかと思うと、アリアの身体に少しだけ力が戻る。

 

「やめて欲しいんならさっさと自分で立て!」

「え? あ、……」

 

 まだボーッとしているのか生返事だ。そこに白騎士の斬撃が迫る。俺はなんとか受け流して透明な壁を作り白騎士の邪魔をした。

 

「お、下ろしてください! 離せば貴方だけは助かります!」

「それは無理な相談だ。俺はこの状況を打開する策を持ってるが、発動に時間がかかる。時間稼ぎのできるお前の力が必要だ」

「っ……!」

「意地見せろよ? どうせ姉さんと大して話せてないんだろ。こんなところで死んでいいのか?」

 

 俺はアリアに発破をかける。

 

「……そうですね。ありがとうございます」

「礼はいい。そろそろ腕が限界なんだが」

「わ、私はそこまで重くありません」

「いや鎧着てんだから重いに決まってんだろ」

 

 緊張感の欠けるやり取りを咎めるように白騎士が突撃してくる。防御が間に合わず横腹を浅く裂かれてしまう。

 

「ダナン!」

「いいから、作戦開始だ! 頼んだぞ、これが決まれば真王ごと殺れる!」

 

 アリアを壁に足をつけられる姿勢で離し、白騎士が俺を狙ってくるように大声で宣言する。案の定、傷を治す魔力も惜しいと上を目指し始めた俺を狙ってきた。

 だがそれは折り込み済みだ。

 

「はぁ!」

 

 そこにアリアが突っ込み攻撃を防ぐ。白騎士が俺を狙って上に向かえば、アリアも上でヤツを阻む。そうなればアリアが助かる確率も上がるはずだ。

 俺は出せる限りの全力でグレートウォールの上に向かう。真王は崩れるグレートウォールの上で悠然と佇んでいた。……余裕こいてられんのも今の内だ。

 上に着いて俺の荷物が落ちていないのを確認してほっとする。一応戦いながら落ちてきてないか確認していたが。とりあえず回収だけはちゃんとしておく。

 

「……大体把握は完了してるな。分析も終わってるか」

 

 屈んで地面に手を突けばグレートウォールの情報が俺の頭に流れ込んでくる。製作者がどうやって作ったのかも。そしてグレートウォールの中で奇妙なモノを見つけた。……こいつは星の民ってヤツか? なんでこんなとこに封印されてるんだかは知らねぇが、まぁ消さないでおくか。というか単純にグレートウォールの中にあってもグレートウォールでないので余計に魔力を消費することになる。

 あと燃料と化したギルベルトか……。こいつは元に戻さなくてもいいんだがな。真王の情報とか貰える可能性もあるから、一応元に戻しとくかぁ。

 

「もう俺達以外は転移した後か。なら存分にやれるな」

 

 “蒼穹”もいない。後は俺が好き勝手やるだけだ。

 

「グレートウォールを手中に収めようとしてバラゴナに裏掻かれて、その上あいつらにグレートウォール壊されて、これから俺に跡形もなく消されるんだ。欲しいモノが手に入らない悔しさでも噛み締めて落っこちろ!」

 

 俺は依然として悠然としている真王を睨みつける。

 

「アリア、上がってこい!」

 

 俺は白騎士を止めてくれているアリアに声をかけてから、能力を発動した。

 

「――消えろ、グレートウォール!!」

 

 地面に突いた右手から力の波がグレートウォールを這っていく。壊れて離れた場所にも力の波を届かせた。そして、次の瞬間にグレートウォール全体が金の粒子へと変換される。

 

 俺は予め透明な足場を形成しておいたので落下しなかったが、真王は重力に従って落ちていく。のを白騎士が拾った。

 

「ほれ、捕まれ」

 

 俺は跳び上がってきたアリアに腕を伸ばし抱える。白騎士に利用されることを考えて、最低限俺の足裏程度にしか作っていない。

 大量の金の粒子が舞っていく。流石にグレートウォールの質量だとすぐには消えていかないようだ。

 

「これは、一体なにを……?」

「ちょっとした俺の能力だな。まぁ今は気にすんな」

 

 アリアの困惑には答えずにおく。というか白騎士のヤツがどうやったのか知らんが、真王を置いてこちらに跳んできていた。ってか真王のヤツが浮いていやがる。……流石にただの老害ってわけじゃねぇか。

 

「……チッ。全く、面倒な連中だな」

 

 俺は跳び退き足裏に足場を創って避けていく。さて空中で動きを取ったのは真王の力か、白騎士の力か。

 と思っていたら俺が創った足場に着地してきやがった。

 

「クソッ!」

 

 悪態を吐きながら迫ってきた白騎士の剣を身体で受けてしまう。真っ二つにされる前にヤツを蹴って離れたが、袈裟斬りにされかけた。

 

「ダナン! このままでは」

「わかってる!」

 

 俺が応用を効かせてアリアの足元にも同時に足場を創れればいいんだが、もう魔力もカスほどしか残っていない上にそこまで器用には扱えなかった。

 小さな足場を創って離れようと跳び続けるが、アリアの防御が挟まったとしても、どうしても押されてしまう。

 

 致命傷は防いでいたが遂に白騎士の蹴りをまともに受けてしまう。グレートウォールだった金の粒子の中に突っ込んでしまい空気抵抗を受けて体勢を直すことすら難しい。

 

 その時頭上に白い光の柱を見た。

 

 白騎士が空中で振り被った剣に巨大な光を纏わせている。

 

「……まだ余力あるってのかよ」

 

 こっちは二人共満身創痍だってのに。

 

 白騎士は無情に剣を振り下ろす。俺は魔力を振り絞って足場を形成し、白い剣の軌道から逃れる。……だがここからは落下していくだけだ。

 金の粒子を真っ二つにして白の斬撃が向かう先を見ると、一隻の騎空挺があった。

 

「は……?」

 

 間違いなく、それはグランサイファーだった。なんでそこに、と思っている内に白の巨剣が迫り回避が間に合わず騎空挺に掠めてしまう。結果浮力を維持することができなくなったのか、徐々に落ちていってるように見えた。

 

 俺のせいで、と思うことはない。俺なら避ける方法はあっただろうが、そもそもあんなところにいるあいつらが悪い。

 だがそれよりも、白騎士があいつらの騎空挺に気づかなかったという方が不自然だ。……まさか狙ってやったんじゃねぇだろうな。

 

 それを問う間もなく白騎士は姿を消した。隠れているのではなくこれ以上ここにいる意味はないと判断したのだろう。ワールドの能力で知覚範囲を広げて探ってみたが感知できなかった。真王もさっき見かけた場所にいない。

 

「……余計なことしてくれやがんな、ホント」

「それよりこれからどうするのですか? ここまでは私達も空の底に……」

「俺はもうなにもできん」

「えっ?」

「だってさっきグレートウォール消したので魔力ほぼ尽きたし。白騎士の攻撃避けるのに足場創ったので、もう空っぽだ」

「え? で、では本当にこのまま……」

 

 アリアが兜の奥で若干青褪めているのが見て取れた。だが本当にどうしようもないので俺は待つしかない。

 

「どうしても島に戻りたいってんなら俺を踏み台にして島までジャンプしてみたらどうだ?」

「い、いえ……。貴方を蹴落として生き延びるくらいなら、一緒に落ちます」

「そうかい」

 

 本音を言うと別にそれでも構わなかったのだが。大体二人って掴めるんだろうか? 重くて持ち上げられないとかあるかもしれない。いや、ロイドを操れるくらいなら問題ねぇか。

 

 俺は蹴られた勢いそのままの速度で急激に落下しながら、そんなことを考えていた。

 こんなこともあろうかと、ちゃんと事前に頼んでおいたんだ。

 

 加えて、グレートウォールを消した後白騎士から逃げながら徐々に島の方に近づいていっていたのもある。

 

 だからこれは信頼していたというだけでなく、必然の生還だ。

 

 しゅる、と伸びてきた細い糸が俺の身体に絡みついてくる。勢いで切断しないように緩めた状態で、上から引っ張りながら受け止めてくれた。

 

「……ロイド」

 

 彼女の声に応じて、島の端に現れた影が俺に巻きついた糸を掴んで引っ張り上げてくれる。

 

「助かったぜ。オーキス、ロイド」

 

 島に引き上げられて、助けてくれたゴーレム二人に礼を言う。

 

「……ん。そっちのは落としても良かった」

「そう言うなよ。アリアがいなかったら俺だって普通に殺されてただろうしな」

 

 島に上がったことで、オーキスのジト目もありアリアを離す。傷が多いせいか、救助されたことで気が緩み立っていられなくなる。

 

「ダナンちゃん!」

「悪い、ちょっと血が足りねぇ。回復とか、任せるわ」

 

 ナルメアが呼びかけてくるのにも応えられず、俺は意識が薄れていくのに抵抗せず、気を失うのだった。


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