ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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急遽のクリスマスで伏線を張ったアレが登場します。
……また、ダナン君は置いてかれるな。


Class0

 異形と化したギルベルトを遂に倒した、かに思われたが。

 満身創痍でありながら彼はグレートウォールへと続く魔方陣を抜けて行ってしまった。

 

 一行が慌てて向かった先には、既に意識のない状態となったギルベルトがいた。

 

 待ち受けていた真王と白騎士によって、幽世の力を際限なく取り込む肉の門にされてしまっていたのだ。意識はなく、トドメを刺す気で倒しても不死身と化したギルベルトを、あろうことか真王はグレートウォールの燃料として炉に通じる穴に放り込んでしまった。

 

 グレートウォールを使うには、“弾”となる燃料と“鍵”となるトリッド王家の人間が必要だった。

 

 ギルベルトは常人の何倍もの魔力を保有するフォリアを燃料にしようとしていたが、それでは数発しか撃てないと真王はギルベルトを燃料にしたのだ。

 

 真王の非道に憤る一行だが、連戦の上に万全な白騎士を相手取るとなると難しい。

 

 真王に連れてこられたハルヴァーダを鍵にされてしまうかというところで、緋色の騎士バラゴナが登場。

 彼はずっと、トリッド王国が崩壊する前からずっとこの時を待っていた。

 

 かくしてバラゴナがグレートウォールと一体化したことでグレートウォールを起動させ、“蒼穹”に自分ごとグレートウォールを破壊するように頼む。

 

 だが彼らは心底お人好しだ。敵として暗躍してきたギルベルトでさえも助けようとしてしまうくらいの。

 だから双子がこう答えたのは必然だったのだ。

 

「「嫌だ!!」」

 

 二人の絶対に助けるという意志の込められた瞳を見て、バラゴナは諦めたように笑う。

 

「……彼の言う通りでしたか」

 

 直前でのやり取りを思い出して口の中だけで呟くと、真王に邪魔されないように場所を変えていく。グレートウォールは破壊するがバラゴナを助けるという意志の下彼の待つ方へ行く前に、白騎士が立ち塞がった。

 

「行かせるとお思いか?」

 

 真王としてはグレートウォールが欲しい。バラゴナと言えどグレートウォールと一体化して意識を保ち続けるのは難しかった。つまり、白騎士に足止めを命じてバラゴナの意識が消えてからじっくりグレートウォールを使えばいいというわけだ。

 

「――貴方達は行ってください」

 

 だがそこに、傷が癒えた様子の黄金の騎士アリアが到着する。

 

「白騎士は私が足止めします。貴方達は早くバラゴナの下へ」

 

 白騎士に剣を向ける彼女の目に、迷いはなかった。その行動は全て、真王というこれまで心酔してきた者への反逆を意味するというのに。

 

「アリア。私の邪魔をするというのか?」

 

 真王は慈悲すら匂わせる表情で彼女を見据えた。以前なら真っ直ぐに自分を見ていることに感激すら覚えたかもしれないが、この期に及んでそんな目が出来る者を少し気味悪く思ってしまう。

 

「……はい。私は私のために、戦います」

 

 だからこそ、しっかりと目を見て言葉を紡いだ。白騎士が構わずグランに向けて接近しようとするのを、アリアが割り込んで防ぐ。

 

「行ってください!」

 

 アリアとしても傷が癒えているとはいえ格上の相手である白騎士相手にそう長い間持つとは思っていない。すぐに通す必要があった。

 

「ありがとうございます、アリアちゃん!」

「死なないでくださいね、アリアちゃん!」

「ならその呼び方はやめなさい!」

 

 気の抜けそうになる双子の声に言い返しつつも、一切気は抜かない。

 

 アリアの助力もあり、バラゴナの待つ場所へと一行は辿り着いた。ちゃっかりハルヴァーダもついてきている。

 

「……考えを改める気は、ありませんか」

「はい。僕達はグレートウォールを破壊して」

「でもバラゴナさんを助けます」

 

 剣の師である彼の子供二人の真っ直ぐな言葉と瞳を受け止める。

 

「どちらもいい方を、などと都合がいいとは思いませんか? 受け取りようによっては傲慢とも言える考えです」

「そうですね。でも、そのどっちもいい方を取れる、誰も犠牲にしないために力を得た!」

「うん。いくよ、グラン!」

 

 二人は視線を交わして頷き合う。

 

 仲間達も教えの最奥に至り、たった三人(四人)で七曜の騎士一人を渡り合うほどまでになった。

 

 ――なら、彼らの団長として自分達も強くならなくてはいけない。

 

 それは彼らの父親やダナンの父親ですら辿り着いていない、二人だけの一つの境地。

 ClassⅣやClassEXⅡとも一線を画すチカラ。

 

 ファータ・グランデ空域で、伝説とされる十種ある武器それぞれの最強の使い手達と出会った。

 彼らは皆個人で得たとは思えぬほどの能力を有しており、かつての英雄にすら並び立つ戦力だった。

 

 ――だから二人は願ったのだ。

 

 全ての武器を扱える自分達が、彼ら全てのチカラを統合したチカラを得たいと。

 彼らのように十種ある武器の最強となり、どんな強敵がいても仲間を守れるチカラを得たいと。

 

 その願いに『ジョブ』は応えた。それこそが――。

 

「「【十天を統べし者】!!!」」

 

 二人声を揃えて唱える。

 ()()()()()に、()()()

 既存の『ジョブ』の枠組みを超えた境地の一つ。

 

「「……」」

 

 これまで以上の力が二人の底から湧き上がる。溢れ出る闘気が風のように吹き荒れてマントを靡かせた。

 

「……これは」

 

 グレートウォールと一体化したバラゴナですら畏怖を感じるほどの力が発現している。

 

 それこそが、二人だけが辿り着いた『ジョブ』。

 ()()()()()()、【十天を統べし者】。

 

「……僕達はこれまで以上に強くならなきゃいけない。強くならないと、仲間を守れないから」

「私達はもっと強くなりたい。強くなきゃ、相手を救えないから」

「「そのための力がこれです!!」」

 

 威風堂々と並び立つ彼らに、バラゴナは少しだけ笑みを浮かべてしまう。この子達はいつだって、自分の予想を超えてくると。

 

「……わかりました。全力でかかってきなさい!」

 

 一体化し巨大になったバラゴナが一行に襲いかかってくる。

 

 二人はそれに対して半透明な白い天星器の形をしたエネルギーを手に出現させた。そして攻撃に対して一振りすることで圧倒し本体まで斬撃が飛ぶ。

 

「す、凄いです……」

 

 ルリアが呆気に取られたのも無理はない。

 

「皆。僕もジータも初めてこれを使う。だから制御が効かないし、いつまで持つかもわからない」

「だから力を貸してくれる? 皆でバラゴナさんを助けよう」

 

 二人は振り返らず背後にいる仲間達に告げる。

 

「もちろん! あたし達だって強くなったんだから! いくわよ、ロゼッタ!!」

「ええ、もちろんよ」

 

 イオと教えの最奥に至ったロゼッタがその力を発揮する。

 

「ははっ! まるで十天衆がそれぞれ二人ずついるみてぇだな! 頼もしいぜ、うちの団長はよ!」

 

 オイゲンは笑ってリヴァイアサンを顕現させる。

 

「全くだ。俺達も負けてられねぇな、ティアマト!」

 

 ラカムもティアマトを顕現させて教えの最奥で得た力を発現させた。

 

「また、置いていかれてしまうな。微力ながら力を貸そう」

「ホント、驚かせてくれるよ。なぁ、ラインハルザ?」

「ああ。オレ達も負けてられねぇなぁ!!」

 

 苦笑を湛えたカタリナが前に進み出て、カインも呆れを交えて言い、ラインハルザは胸の前で拳を打ちつけると黄色い闘気を纏う。

 

「す、凄い……」

 

 それらを少し下がった位置で見ていたハルヴァーダが呆然と呟いた。

 

「当たり前だぜ! オイラ達は、星の島イスタルシアに行く騎空団なんだからな!」

 

 その声を拾ったビィが得意気に、誇らしく返した。

 

「……これが、“蒼穹”の騎空団」

 

 そう小さく呟くハルの瞳には、紛れもなく彼らに対する羨望が混じっているのだった。

 

「いこう、皆!」

 

 グランの声を合図に、ナル・グランデ空域最後の戦いが幕を開ける。

 

 グランとジータが消えたと思う速度で移動する。制御が上手くいかず巨体を通りすぎて後ろに辿り着いていた。二人の動きに驚きつつも、自分達も負けていられないと教えの最奥に至った後衛の三人が巨体に攻撃をしかける。地面から生えた腕に対して牽制する形で、遅れて駆けた前衛三人の援護をする。

 

「おらぁ!」

 

 ラインハルザは正面から突っ込み、本体に殴りかかった。カインは遊撃に徹するようで、回り込むように駆けていく。カタリナは防御を担当した方がいいと考えライハルザを襲おうとする魔法などを防いでいった。

 

 グランは思っていた以上に動けてしまった身体の調子を確かめるように手を閉じたり開いたりする。そして頭に浮かんできた【十天を統べし者】の使用方法を整理した。

 

「……七星剣!」

 

 グランが唱えると、彼の手に半透明な七星剣が現れる。エネルギーとして形成された七星剣だったが、本物の七星剣と変わらぬ力を秘めていた。それは言ってしまえば、シエテの使用する剣拓に似ている。

 

「なら、こうするしかないよね!」

 

 グランは面白いことを思いついたとばかりに七星剣を握っていない左腕を横に払った。それと同時に彼の頭上に自身が持つモノと同じ七星剣が出現する。シエテの剣拓をそっくり真似したような状態だ。

 

「いけっ!」

 

 払った左手を前に突き出して、七星剣の全てを巨体に叩き込んだ。

 

「あ、それはいいね」

 

 それを見ていたジータはグランが思いついた戦法に対して呟くと、左手の指をぱちんと鳴らして半透明な五神杖を虚空に並べる。グランの七星剣と違って縦のまま並べていた。

 

「発射――――ッ!!」

 

 彼女の号令直後、五十本はある五神杖の全てからエーテルブラストと同等の魔法が放たれる。

 二人の攻撃を受けてグレートウォールから生えた巨体が大きく揺れた。

 

「凄すぎでしょ……」

「ふふ、私達も負けてられないわね」

「もちろん!」

 

 驚嘆するしかない団長二人の強さに、仲間達はやる気を漲らせる。

 

 “蒼穹”とカイン、ラインハルザは順調にダメージを与えていた。

 

 人智を超えた力を手にした者達と言っても過言ではない彼らの中でも、やはり際立つのはこの二人。

 

 駆けたグランは手元に三寅斧を出現させて握り、高速移動の勢いそのままに斧を振るう。着地しながら身体の向きを変えると再び飛び出し、八命切を構えて突きを放つ。巨体が大きく穿たれ彼はそのまま反対側へ抜けていった。その位置から振り向き様に十狼雷をぶっ放す。再び突っ込むと両手に六崩拳を装着して連続で殴り続けた。格闘をしながら七星剣を出現させて飛ばし攻撃を加える。

 

 ジータは並べた五神杖から魔法を、二王弓から矢を、九界琴から音の衝撃波を放ち続けていた。加えて彼女自身は次々と四天刃を手元に出現させて投擲していく。両手に複数持って一斉に投擲した後全速力で駆ければ投擲した短剣と並んで走ることができた。そこで一伐槍を持ち短剣達と共に槍で巨大な本体を穿つ。

 

「一気に決めるよ!!」

 

 ジータはそのまま仲間達に告げて、トドメを刺すべく力を溜める。

 

「んじゃ俺からいかせてもらうぜ! テンペスト・ピアーズッ!!」

「いっちょ叩き込んでやるか! ディー・ドラッヘン・カノーネッ!!」

 

 ラカムはティアマトの風を銃弾に纏わせて放つ。

 オイゲンはリザイアサンの水を銃弾に纏わせて放つ。

 

「私達だって負けてないんだから!」

「ええ、いきましょう!」

「「インヴィテーション・ガストッ!!」

 

 イオとロゼッタが声を合わせて唱え、氷と茨が魔方陣から突き出て本体を襲った。

 

「ははっ! いくぜおらぁ! 千・烈・絶・招ッ!!」

 

 黄色い闘気を纏ったラインハルザが拳の乱打を見舞った後、トドメの一発を叩き込む。

 

「張り切ってるな。俺も、ちょっとは頑張らないとな。乾坤陣ッ!!」

 

 カインは緩そうな表情を引き締め連続で刀を振るった。

 

「グラキエス・ネイルッ!!」

 

 そこに加えてカタリナの放った青い巨剣が突き刺さる。

 トドメは当然この二人。

 

 グランとジータは自分の身体の周囲に十種の天星器を出現させていた。

 そして右手を引いて腰を落とすと周囲を回転していた天星器の全てが右手にエネルギーとして集約されていく。

 

「「……レギンレイヴ・」」

 

 双子故に息が合い同時に動いた。

 

「「天星ッ!!!」」

 

 凝縮された天星器のエネルギーが放出される。

 それは星晶獣が生み出す天災よりも強く、グレートウォールと一体化したバラゴナを消し飛ばした。

 

 新たに得た、圧倒的な力。それで以ってバラゴナを倒しグレートウォールから分離させる。二人の放った衝撃は一体化したバラゴナに多大なダメージを与えたからか、グレートウォール全体が震動し崩壊していく。

 急いで倒れたバラゴナとグレートウォールを脱しなければというところだったのだが。

 

「「っ〜〜〜!!?」」

 

 『ジョブ』を解いた二人が全身に走ったあまりの激痛に顔を歪めて膝を折りそうになる。解放されただけで、まだまだ使いこなせるような段階ではないようだ。

 それでも彼らが新たな力を手にしたことには変わりない。

 

 そして、彼らが戦っている相手さえ救えるようにと願ったことからもわかるように。一度救えなかったと思った者が落ちてきたら、つい身体が動いてしまうのだろう。例えそれが仇敵であっても。

 その結果仲間達と共に空の底へと落下したとしても、“蒼穹”は諦めることを知らないのだ。




というわけで十天を統べし者に手をかけました。
スキンをご存知の方はわかっていると思いますが、使いこなし始めると武器も手にします。まだまだ制御できないってことですね。

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