ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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本編で言うところの暁の空編が終わった直後からのお話が始まります。
黄金の空編は一応区切りの良さを考え星の旅人編の途中まで入ります。

具体的に言うとナル・グランデでのお話が終わるまでは黄金の空編にします。

ダナン君は落っこちていないので本編だと見えていない部分を作者の想像で埋めています。
ご了承ください。


暁のその後

 後から聞いた話だと、俺は翌日に目を覚ましたらしい。

 

 心配をかけた連中に謝りつつあの時なにが起こったのかを周囲に尋ねた。

 

「団長達はグレートウォールと一体化したバラゴナを助けるために奮闘して、見事助けた。まぁバラゴナはグレートウォールの鍵になった影響か意識不明の状態で、ここイデルバ王国にある王宮の一室で寝かせている」

 

 そう答えたのはカインというイデルバの将軍だった。彼の言葉でここがイデルバ王国だと察する。

 

「ふぅん。で、なんであの時、グランサイファーは飛んでたんだ?」

「それは……。グレートウォールが金の粒子になった後、ギルベルトが落ちてきたんだ。二人はあいつを助けるために島を飛び出して……」

「はっ。あいつら、敵助けるために空の底に落ちそうな危険に飛び込んだってのかよ。バカなくらいのお人好しだな」

 

 そういうところが、好きじゃないんだ。

 

「……全くだ。それより黄金の騎士から聞いたよ。君がグレートウォールを消滅させたんだって?」

「ああ」

 

 どうやら俺が眠っている間に、アリアが話してしまったらしい。そのアリアは兜や鎧を外した恰好で腕を組み壁に背を預けている。ぴっちりタイプではないがそれなりに薄着だ。

 

「ギルベルトはグレートウォールの燃料にされたはずだ。それが元に戻るなんてあり得ないと思っている。君がなにかしたんじゃないのか?」

「ああ。ギルベルトは俺が、真王の情報が得られないかと思って元に戻した」

「っ!」

 

 そう答えるとカインは怒りを露わにして俺の胸倉を掴み上げてきた。

 

「カイン!」

「……あんたが余計なことさえしなければ、“蒼穹”の皆は落ちることがなかったんだ」

「ギルベルトを助けるとは思わないだろうがよ。大体、落下したのはその後の白騎士の攻撃だったろうが」

「それだってあんたが避けたから当たったとも考えられるだろ」

「冗談キツいな。白騎士の一撃を俺が受ける程度で威力弱められるわけねぇだろうが。アリアを盾にして一緒に真っ二つにされたとしても、結果は変わらねぇよ。……責任をすり替えるなよ、将軍。白騎士が狙ったんであって、俺がどうにかできたわけじゃない」

「……」

 

 カインは俺の言葉に唇を噛み締めると、乱暴に手を離した。頭ではわかっちゃいるが、吐き出さないわけにはいかなかったって感じか。

 

「大体お前、これまであいつらと旅してきたんだろ? なのにどうしてわからねぇ? あいつらが、墜落した程度で死ぬヤツらだと思ってんのか?」

「……それは」

「あいつらは常識を超えてくる。そんなこともわかってねぇんだったらそうやって誰かを責めてるんだな。精々葬式気分でいやがれ」

 

 空の底に落ちた? ならあいつらはそこから這い上がってくるだろう。そして何食わぬ顔でただいま、とか抜かしやがるんだ。

 だから、シェロカルテもそうだがあいつらを心配するだけ無駄だってんだよ。

 

「もう良い、カイン」

 

 そこで幼いようで厳かな声が聞こえた。アリアの横に立つ少女、フォリアだったか。

 

「その者はアリアに協力し、助けてくれた。妾にとってそれ以上の信頼はない。なによりもうわかっておるのじゃろう? アリアから状況を聞いて二人にはどうしようもなかったということに。誰かを責めたくなる気持ちはわかる。じゃが、それよりもやるべきことがあるはずじゃ」

「……はい、陛下」

「これこれ。もう“陛下"ではなくなるぞ」

 

 引き下がるカインにフォリアは笑って告げる。

 

「ふぅん。イデルバ王国の国王は辞めるのか?」

「そうじゃ。ギルベルトの流した噂もあっての。晴れて隠居の身というヤツじゃな」

 

 そこまで重く捉えてはいないのか、彼女は朗らかに笑っている。

 

「んで、ギルベルトは? 意識あるなら話を聞こうと思うんだが」

「地下牢に幽閉しておる。じゃが幽世の力を取り込み真王に肉の門とされてしまった影響か心が磨耗してしまったのじゃろうな。受け答えもはっきりしない状態じゃ」

「そうか……。俺にできたのは燃料をギルベルトに戻して、幽世の力と分離するところまでだからな。なにより正常だった頃の精神を知らねぇから、戻すことはできない」

「……それで良いじゃろう。あやつは幽世の力を手にする前から他者を支配できるだけの力を欲していた。グレートウォールがなくなったとはいえ、同じようなことを繰り返すじゃろうな」

「ならいいか。元々、真王の情報もダメ元だったしな。後の身柄は煮るなり焼くなり、死刑にするなり好きにするといい。レム王国と相談して決めればいいだろ」

「うむ。じゃが一つ問題があってな」

 

 フォリアは鷹揚に頷いたが、眉を寄せて語る。

 

「今イデルバ王国は、妾という国王の不在により混乱状態にあるのじゃ」

「あんたは……そうか、過去の罪を民の前で認めたんだったな。じゃあ無理か。今までやってきたことは兎も角、信頼は落ちてる」

「そういうことじゃ。今イデルバは誰が次の王になるかで揉めておる。内乱の気配すらあるほどじゃ。……正直、今はギルベルトの処遇を決める余裕はないの」

 

 なるほど。イデルバもイデルバで大変らしい。まぁほとんどフォリアのせいと言えばそうなんだが。

 

「……ダナンはこれからどうするつもり?」

 

 俺が寝ているベッドの傍にいたオーキスが尋ねてくる。団員全員は狭いからか入っていなかったが。

 

「いくつか思うところはあるが……まぁしばらくはナル・グランデで情報収集だな。ファータ・グランデ空域の強者は“蒼穹”に取られちまったから、こっちで団員集めでもしてるかとは思ってるんだが」

「……わかった」

「俺としちゃあ騎空挺を見に行きたいところもあるんだがな」

「それは後にしといてくれ。俺も様子は見たいんだけどな」

 

 ザンツの言葉に返して、これからの行動を考える。

 

「ふむ。もう少し滞在するならどうじゃ? イデルバの内乱を抑えるのに協力してくれんかの」

「陛――フォリア、様!?」

 

 カインが陛下と呼びそうになりながら驚きを示す。

 

「もう国王でないのじゃ、様をつけずフォリアちゃんと呼んでくれてもいいんじゃぞ?」

「いや流石に年上の女性をちゃんづけは……」

「姉さん、恥ずかしいのでやめてください」

 

 茶目っ気たっぷりにウインクするフォリアだったが、カインとアリアに呆れられてしまい子供っぽく頬を膨らませていた。

 

「なんで俺達がイデルバに協力しなきゃいけないんだよ。アリアにうちのヤツらが世話になった礼は返したつもりだし、イデルバに協力する義務はねぇぞ?」

「そう言うな。お主らは騎空団なのじゃろう? なら妾からの依頼ということで受けることは可能なはずじゃ」

「依頼なら断る権利はあるだろ?」

「もちろんじゃ。じゃが、これを機にイデルバを離れたいという者もおるじゃろう。そういった者達を勧誘する機会ではないかの?」

「元国王が引き抜き推奨してどうすんだよ……」

「ふふ、もちろん妾は今内乱が起ころうとしているのも、単にそれぞれがイデルバをいい国にしようと思っておるからじゃと考えておる。なればこそ、イデルバを出て騎空士になると考える者がいないとも考えられるじゃろう?」

 

 彼女は不敵な笑みを浮かべて笑った。その表情には自信が見て取れる。

 

「ふぅん? 敵の噂を信じかけて左右されるような民がねぇ」

「うっ。そこを突かれると痛いのじゃが」

「ま、そういうことなら引き受けるか。ただの騎空士風情になにができるかは知らんけどな」

「そこは臨機応変に、じゃな。案内にはレオナについてもらう」

「姉さんに?」

「うむ。本人の要望もあってな」

 

 そこはカインじゃなくて助かったと言うか、多少関わりがあるヤツならやりやすくはあるな。というか本人から言い出したらしい。だがここにレオナの姿がないので、元からそのつもりでフォリアは動いていたのだろう。

 

「そのレオナはここにいないみたいだが?」

「うぅむ……。あやつは妾の罪に一足早く気づいて挑んだとして、次期国王にと押されている一人でな。将軍達に捕まっておる」

「そんなんで案内とかできるのかよ」

「まぁ、それはお主ら次第じゃな」

 

 こいつ、その問題も俺達に協力させようとしてやがんな。まぁ、それくらいはいいか。どうせ行く宛てもないから島を巡る旅をするだけだしな。

 

「しょうがねぇ、引き受けるか。レム王国の動きはどうなってるんだ?」

「今のところ、イデルバの使者であった彼らがイスタバイオン軍との戦いに協力してくれたということもあって比較的友好な関係を築いておる、と言っても良いじゃろう。向こうも疲弊しておるが故、無駄な争いは避けたいというところじゃろうがな」

「だろうな。ギルベルトの身柄については?」

「民衆の全員があやつの所業を知っているわけではない。それにギルベルトがイスタバイオン軍と協力関係にあったということは、身柄を保持しているとイスタバイオン軍が奪いに来る可能性があるということを懸念しておるのじゃろうな」

「ないだろ」

「じゃな。……イスタバイオン王国の国王は、捨てた駒に未練など持たぬ」

 

 即答した俺に、フォリアも即答で返してきた。

 

「大体は、把握した。とりあえずはレオナのとこに行くのもあるが、先にバラゴナだな」

「うん? あやつは今も眠ったままじゃが……なにか用があるのかの?」

「状態を確認する。あいつには見返りを要求してあるんでな。きっちり返してもらうためにも、早く目覚めてもらわないといけない」

「ふむ。ではアリアよ、案内してやるといい」

「私が?」

「アリアも気にしていたじゃろう?」

「それはそうですが」

「なら行ってくるのじゃ。なに、妾は既に隠居を決めた身。国王という立場ももうすぐなくなるでの、いつでも話せるじゃろう」

「そう、ですね」

 

 フォリアの言葉にアリアは少しだけ柔らかく微笑むと、壁から背を離した。

 

「では案内します。ついてきてください」

「ああ」

 

 アリアが言って部屋を出ようとするので、俺もベッドから降りてついていく。露わになった彼女の引き締まった背中を眺めつつ、七曜の騎士ってのは鎧の中が薄着じゃないといけない決まりでもあるんだろうかとバカなことを考える。いやまぁ蒸すだろうから実用的ではあるんだろうけど。

 

「……ついてく」

「別に来なくてもいいぞ?」

「……心配だから」

「バラゴナが?」

 

 オーキスとバラゴナに接点なんかあっただろうかと首を傾げるが、オーキスはふるふると横に首を振った。

 

「……ダナンは目を離すとすぐ他の女に手出しする」

「いや出してねぇから。というか変な印象つくだろうが」

「……つければこれ以上増えなくなる」

「さいですか。まぁ好きにすりゃいい」

「……ん」

 

 というわけでなぜかオーキスの他にもフラウ、ナルメア、リーシャがついてきた。

 

「ここです」

 

 アリアについていき、案内された一室へと入る。扉をノックすると中から「どうぞ」と少年の声が聞こえてから扉を開ける。

 

「あ、アリアさんにダナンさん、皆さんも」

 

 中でベッドの横にある椅子に腰かけていたのはハルヴァーダだった。あとレオナもいる。俺の名前はアリアか誰かから聞いたのだろう。

 

「よう。バラゴナの様子はどうだ?」

「呼吸や脈は安定していますが、意識が戻っていません。命に別状はないということですが……」

「そうか」

 

 俺は頷いてから、なぜいるかわからないレオナに目を向ける。

 

「で、なんであんたがいるんだ?」

「それはその、次期国王を誰にするかっていう言い争いが嫌になって、容態を確認するためにって言って逃げてきたから……」

 

 レオナは辟易した様子で苦笑した。

 

「そうかい。フォリアから依頼されてあんたに協力することになったから、また後で詳しく聞く」

「あ、うん。引き受けてくれたんだ。ありがとう」

 

 レオナとの会話は区切り、眠るバラゴナの横に立つ。

 

「【ドクター】」

 

 こういう時にはこれ、という『ジョブ』を発動。黒衣の医者へと姿を変えてバラゴナの身体を眺める。布団を捲って上半身の触診を実行。中は普通のシャツとズボンだった。薄着というルールはなさそうなので、つまりはあいつらの趣味ということになるか。

 脈拍は問題ないが、身体の方に影響が出ているな。目で見えない傷みたいなモノだから普通の医者が気づかないのも無理はない。

 

「なるほど。グレートウォールと一体化した影響で身体に見えない傷が生じているようだ。グレートウォールが崩壊した時のダメージもあるようだが」

 

 俺がグレートウォールを分析したのはバラゴナが一体化した後のことだ。だから彼に混ざってしまったグレートウォールを消すことはできなかった。だがこれくらいなら対処可能だな。

 

「今のままでは目覚めるのに三ヶ月から半年ほどかかるだろう」

「……そうですか」

「だが、私が治療すれば多少早まるだろう」

「本当ですか?」

「ああ。だが、私の治療は高いぞ?」

 

 俺が言ってハルを見据えるも、特に怯むことなく真っ直ぐに見つめ返してきた。

 

「どんな金額であっても、バラゴナさんが目を覚ますのであればお支払いします。どれだけかかっても、僕が必ず」

 

 一切の躊躇がない返答だった。

 

「そうか。ならいい。早速始めるとしよう」

 

 俺は言って、バラゴナの顔の上に右手を翳す。ワールドの力でバラゴナの身体を分析し、混じってしまった異物を取り除いて正常な状態に戻していった。バラゴナの身体から金の粒子が浮いてきて虚空に消える。

 

 続いて先程視診した時に最適として頭に浮かんできた薬を作成する。近くにあった台を借り、持っていた素材を使って手早く薬を作った。

 五分ほどで作成できた薬をバラゴナの後頭部を以って僅かに開いた口から飲ませる。

 

「……これで、およそ三日で目覚めるだろう」

「さ、三ヶ月がたった三日に、ですか?」

「だから高いと言っただろう。代金は目覚めてから請求するとしよう」

「あ、ありがとうございます! 里の者達のことも助けていただいて、バラゴナさんまで」

「気にする必要はない。見返りは要求する」

「はい、必ずや」

 

 残念ながらこの少年に俺が最初三ヶ月と言ったことを疑うという考えはないらしい。まぁ、多額の代金を吹っかける闇医者という『ジョブ』の人格だから、見返りはたっぷり請求してやるんだが。とはいえ患者に関して嘘は吐かないという信条がある。制御できない時は金をふんだくる上に薬の実験体にするとかいう非人間と化すのだが。

 俺は【ドクター】を解除して肩の力を抜く。

 

「これでまぁ、いいだろう。こいつの戦力は必要になるだろうからな。さっさと目を覚ましてくれねぇと困るんだ」

 

 まだ俺の要求も伝えてないことだし、な。

 

「しかし薬の作成の手際が凄まじいですね。白騎士との戦いでも見ましたが、戦闘も薬剤もこれほどとなると全空を探してもそうはいないでしょう」

「まぁ、それが俺達だからな」

 

 アリアの言葉にそう返して、ここでの用は済んだのでレオナに向き直る。

 

「さて、お次はイデルバの内乱を起きる前に対処しろって依頼だが。詳しい話、聞かせてくれるか?」

「わかったわ。じゃあ場所を変えましょう」

 

 レオナは俺の言葉に頷くと、バラゴナの眠る部屋でする話ではないと思ったのかそう言って部屋を出る。

 移動するのだが、戻るのもあれだったのかアリアまでついてくるようだった。


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