ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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あの子の道中がちらっと出てきます。


別のゴーレムの少女

 俺はオーキス、フラウ、リーシャ、ナルメアの四人とのんびり街を回ることにした。ナル・グランデ空域に来てからずっと戦争に巻き込まれたり白騎士と戦ったりしていたからな。気の休まる暇がなかった。今は比較的のんびりできる時だから、街でゆったりと楽しむのだった。

 

 とはいえ街の雰囲気はあまり良くない。

 

 ギスギスしていると言うか、不安が見て取れると言うか。

 なんにせよ上が争っているせいで民衆にまで不安が拡散しているのは確かだった。真に国を想うんだったらこの街の様子を見て自分達がやるべきことを見直せ、と言いたい。

 兵士の配置もしっかりしているところもあれば手薄になっている箇所もあり、ちぐはぐだ。手薄になっている箇所の住民は武器を携帯している俺達を見ただけでも少し怯えた様子だった。

 

 民を不安にさせるなんてどいつもこいつも国王失格だな。と言ってやれば煽れるだろうか。

 

 その日の夜、レオナとカインから声をかけられた。

 

「三日後に、フォリア様の退位を正式に発表する」

 

 それが俺がレオナに話した、将軍や民衆が一同に集うタイミングとはそのことだろう。

 

「そこで俺が不安を煽り、動揺を誘って場を悪くする。その後でお前らが情に訴えかける。そんで上手くまとめてくれ」

「改めて聞くと完全な悪者になっちゃうみたいだけど、いいの?」

「別に気にしねぇよ。ここに長居する気もねぇしな」

「……わかった。成功した暁にはこの空域にある空図の欠片の情報を渡そう」

「そりゃ助かる」

 

 まだ全く情報がないからな。いくつあるのかは知らないが、ファータ・グランデ空域で十個だったことを考えると同じくらいと考えてもいいのかもしれない。

 

「このナル・グランデ空域は星晶獣との関わりが薄いから、多分空図の欠片も少ないと思うよ。だから重要な情報になる、はず」

 

 レオナがそう補足してくれた。丁度ファータ・グランデと同じくらいの数かな? と思っていたところだったので有り難い情報だ。

 

「そうか。じゃあその時には有り難く貰うとするかな」

「ああ。もう“蒼穹”は持っている空図の欠片だから、彼らの先に行かせるような真似でもないしな」

 

 なに? あいつらはもう持ってる空図の欠片なのか……。まぁ空域一つ分出遅れていると考えれば、それくらいは許容範囲内だろうな。

 

「わかった。とりあえず欲しい情報をくれるってんなら適度にやってやるさ」

 

 言って、今日のところは休むことにする。

 

 その際にぞろぞろと俺に宛がわれた部屋に四人がついてこようとしてきたので、

 

「悪いな。今日はオーキスと過ごすことにする」

 

 はっきりとそう言って三人には断った。

 

「だ、ダメですよ子供に手を出しちゃ」

「……子供じゃ、ない。そういう意味ならリーシャの方が子供。私の二倍も生きてるのに」

「うぐっ」

 

 リーシャが突っかかろうとするが、残念ながら経験ではオーキスの方が上なので逆にダメージを負わされていた。

 

「私は?」

「また明日な」

 

 フラウにはぽんぽんと頭を撫でて言い聞かせる。別に誰かを蔑ろにしたいわけじゃない。ただあまり逃げ続けるのも良くないとは思っているだけだ。

 

「……」

 

 リーシャは止めたいが俺の意向でもあるので強く言い出すことができない様子だが、ナルメアはおろおろしている。一人で抱え込まなければいいんだが。

 

「悪いが、そういうことでな」

「……ん。精々指咥えてて」

「こらオーキス」

「……ん」

 

 必要以上に挑発しない、と諌めつつ二人で部屋に入った。ちゃんと鍵はかけておく。まぁ俺から言ったので邪魔はしてこないと思うのだが……。

 というわけでその日は久し振りにオーキスと二人きりで過ごすことにしたのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 次の日の昼頃、スツルム、ドランク、レラクルの三人が戻ってくる。

 

「おっ? 目が覚めたんだね~。心配したんだよ~」

「嘘臭いな。あたしは心配してなかったぞ」

「無事で良かった」

 

 ひらひらと手を振って言ってくるドランクと、そんな彼にジト目を向けるスツルム。そして二人とは関係なくマイペースに振る舞うレラクル。

 

「おう。で、なにかわかって戻ってきたのか?」

「もっちろん~。聞いてくれる? 僕のモテモテ冒険活劇――いってぇ!」

「モテたことないだろ。嘘吐くな」

「これまでの人生も否定しないでね!?」

「仕事終わったなら寝てきていい?」

「お前はホントマイペースだな」

 

 傭兵コンビのいつものやり取りには関与せず、レラクルは自分のやりたいように振る舞っている。そこまで我を貫けたらある意味楽なんだろうな。

 

「いいから報告だ。無駄話をしている暇はない」

 

 スツルムは割りと真面目なトーンで告げると、ドランクも気を取り直すように咳払いをした。

 

「そうだねぇ。ちょ~っと厄介なことになるかもしれないんだ~」

 

 それでも軽い口調を崩さないのは、多分大した理由じゃない。

 

「厄介なことだ?」

「そそ。実はねぇ、アウライ・グランデ大空域のある方角から瘴流域を越えて一隻の小型騎空挺がナル・グランデ空域に到着したんだよね~。しかもその小型騎空挺は、そのままファータ・グランデ空域の方に抜けていったみたいなんだよね」

「アウライ・グランデから瘴流域を越えて、ってことは十中八九七曜の騎士じゃねぇか?」

 

 ドランクの言葉を聞いて確かに厄介なことになりそうだと思い眉を寄せる。

 

 七曜の騎士は、ファータ・グランデのどこかにいるであろうアポロこと黒騎士。今イデルバ王国にいる緋色の騎士バラゴナと黄金の騎士アリア。あと所在不明が紫の騎士と緑の騎士か。碧の騎士ヴァルフリートは最後に見た時はファータ・グランデにいた。あれからどうしてるかは知らないがな。残る一人、白騎士については真王の懐刀としてついて離れないだろうと思われる。

 つまり紫、緑、白と真王のどれかが乗っていると考えられるわけだ。

 

「で、どいつだ?」

「紫の騎士だよ~」

 

 ……紫かぁ。緑と紫はまだ全然行動原理が読めねぇんだよなぁ。だが真王の命令で動いている可能性は十分にある。ってことは真王がファータ・グランデ空域になにか仕込ませに行ったと考えるのが妥当か? とはいえあまり心配する必要はなさそうにも思える。なにせあそこには“蒼穹”の大半がいるはずだ。放置していてもいいと思えなくもない。

 

「……お前らは、どう見る?」

 

 だが俺の直感よりも実際に紫の騎士を見たこいつらに聞いた方が信用度が高い。

 

「実はねぇ、小型騎空挺に乗ってたのは紫の騎士だけじゃなかったんだよね~」

「蒼髪に赤い瞳の少女」

 

 ドランクに続いて言ったスツルムが、俺の隣にいたオーキスに目を向ける。確かに、その特徴はオーキスを連想させるモノだ。

 

「気づかれないように遠目だったからゴーレムかどうかの判別はできなかったけど、顔立ちはオーキスそのモノだったと言っていい」

「……私そっくりの娘が、紫の騎士と一緒に?」

 

 オーキスも困惑している様子だ。

 

 ……んー。紫の騎士に、オーキスとそっくりな少女、か。なんか引っかかって……あぁ、そうか。

 

「……オーキスの試作パーツで造られたゴーレムかもな」

 

 俺は以前に聞いた情報を思い起こし、そう口にした。

 

「へぇ? それは僕達も知らない情報だね~」

「根拠はあるのか?」

 

 情報収集を得意とする傭兵は気になるのか食いついてくる。

 

「ああ。そもそも俺がここに来たのは、お前らを助けるためじゃない。シェロカルテに依頼を受けて“蒼穹”の主格メンバーが無事かどうかを確かめるために来たんだ」

「……その前は言わなくて良かった」

 

 俺が告げるとオーキスは感情の込められていない瞳をジト目っぽくしていた。

 

「心配する必要はねぇと思ってたからな。で、そのシェロカルテがあいつらを心配してたのが、白風の境にあったグランサイファーを紫の騎士が奪ってったからだったんだ」

「なるほどねぇ。それでダナンに。空域を越えられる騎空士なんてほとんどいないもんねぇ」

「ああ。で、その紫の騎士が他に行った場所ってのが、帝都アガスティアと王都メフォラシュだ。そこでリアクターの部品とオーキスの試作パーツを奪ったらしい」

「……オルキスは無事?」

「ああ、問題ねぇよ。誰も殺さず、見張りも気絶させただけらしいしな」

「……良かった」

 

 オーキスはほっと胸を撫で下ろす。

 

「ってことは~、紫の騎士、というか真王はオーキスちゃんの試作パーツでオーキスちゃんそっくりのゴーレムを造ってファータ・グランデ空域に行かせたってことなのかな? でもそうなるとなんでそんなことをしたんだろうねぇ」

「さぁな。わからねぇが厄介なことが起こりそうなのは間違いねぇよなぁ」

 

 呟いて顎に手を当て考え込む。思考を巡らせて最適になるべく近い答えを出せるように。

 

 さて。

 その情報を知っている俺達が今すべきことはなんだ? 

 

 俺には真王の考えが全て読めるわけじゃない。真王になった気分で、と思ってもあいつはどんな思考回路をしているのはさっぱりわからん。だから、俺には俺だったらこれからなにをするか、という風に考えることしかできない。

 

 まず、これまでの情報を整理する。

 真王は(おそらく)紫の騎士に命令してオーキスの試作パーツとリアクターの部品を回収させた。グランサイファーは多分だが関係ない。真王が奪わせたのならもっと取り戻すのに苦労したはずだ。

 その後紫の騎士は造ったオーキスそっくりなゴーレム――ここでは一応偽オーキスとしておくが――とファータ・グランデ空域に向かった。

 

 つまり、真王はファータ・グランデ空域で偽オーキスにさせたいことがある。そんな誰でも思いつく推測が立つわけだ。だから、俺がもしファータ・グランデを手中に収めたい場合、偽オーキスになにをさせればいいかと考える。

 

 とはいえそう簡単に思いつくモノでもない。一番簡単なのはオーキスを知る人物にオーキスだと思わせて近づき、暗殺するという方法。だがオーキスを知っている人物と言うと……アポロやオルキス、アダムになるだろう。だがあいつらがオーキスと似ているゴーレムを間違えるはずもない。

 となると知り合いを騙すのは不可能と見た方がいいか? ならなんでわざわざオーキスのパーツにする必要がある? ゴーレムとしての最高傑作ならアダム、戦闘用ならロイドというもっと使い道のありそうなゴーレムがいる。アダムは長年エルステにいるからパーツも失われていそうだが、それなら同じ域に達しようと作られたパーツがあるはずだ。そういうのを使えばいい。

 

 ならなんだ? なんでオーキスの試作パーツを奪う必要があった?

 

 オーキスに似せて造るためなら知り合いを騙すためだろうが、知り合いを騙せるとは思えない。ならどういうヤツなら騙せる――?

 

 まさか、()()()()()()()()()()()()か?

 

 いや、意味わかんねぇだろ。なんでオーキスを知らないヤツにオーキスだと騙す必要があんだ? つうか騙してなにになるんだよ……。

 

「……なぁ、お前ら。特徴だけで言えば、そいつはオーキスだったんだよな?」

 

 俺は確信を得るために尋ねる。三人は顔を見合わせていたが、こくりと頷いた。

 

「強いて言うなら髪結んでなかったけどね~」

「そうか……。なら、そいつがオーキス自身を知らない民衆を騙せるだけの理由があるってわけだ」

「……。なるほど、ねぇ。でもそれがなんになるんだろうね~」

「それは俺も全くわからん。だが」

 

 俺は僅かに目を見開いたドランクに頭を振って、しかしニヤリと笑う。

 

「向こうが偽物を送り込んだなら、俺達は本物を送り込めばいい」

 

 俺の言葉に、スツルムとドランクが笑いオーキス本人ははっとしていた。

 

「……私が、行く?」

「ああ。オーキスだと名乗るつもりなら、お前が阻めばいいだけの話だ。なにをしたいのかは知らないが、あいつの思い通りにさせたくはねぇ。スツルム、ドランク、リーシャ。お前達はオーキスと一緒にファータ・グランデに向かってくれ」

 

 俺は戦力とファータ・グランデ空域の地理を知る者を選別し告げる。

 

「ザンツ。空図の欠片を渡す。四人を送り届けろ。なにか真王がやらかすなら、騎空挺の無事も保証されるとは限らねぇ。最悪戦争勃発だ。四人を送り届けて、騎空挺を守れ。団長命令だ。それから、戻ってこい」

「おう。任せときな、団長!」

 

 頼りになる操舵士に四人の送迎を頼む。

 

「三人はわかりますけど、私は?」

「ファータ・グランデのことならリーシャも各地を回って色々わかってるだろうからな。それに、七曜の騎士関連でヴァルフリートの動向も探っておきたい」

「父さんの……。わかりました、やってみます」

「ああ、頼んだ」

 

 他はまぁいいだろう。レラクルはこっちで情報を集めるのに必要だし、フラウ、ゼオ、ナルメア、ガイゼンボーガ、エスタリオラは基本的にただの戦力だ。ファータ・グランデには“蒼穹”の別の連中が山ほどいる。つまり戦力過多の状態だ。なら戦力を送る必要はなく、こっちでなにか起こる可能性もあるのでできるだけ戦力は残しておきたいところもある。

 

「よし、とりあえずの方針はこんなところだな。行動を起こすなら早い方がいい、行ってこい。アポロに会うようならよろしく伝えといてくれ」

「オッケー」

「三人のお守りは任せておけ」

「……任せといて」

「お守りは多分黒騎士さんとドランクさんとオーキスちゃんだと思いますが……」

 

 というわけで、ザンツに俺が持っている空図の欠片を渡しファータ・グランデ空域まで向かってもらった。

 

「オーキスちゃんもいなくなったことだし、これから私と毎日一緒ね」

 

 とフラウが腕に絡みついてきて、ナルメアが対抗するようにもう片方の腕を掴んでくるという一幕はあったのだが。四人から二人に減ったとはいえ、俺の負担はそう変わりそうもないのだった。




先がわかっている方ならわかると思いますが、ダナン君の予測は当たっていなくもないですが、そう思わせるための彼女であるため、真王は本物を送り込んでくれることを狙っています。
つまり、ダナン君は真王の掌の上ということですね。
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