ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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タイトルに全てが込められた一話。

リミカインのフェイト関連のイベントがあります。ネタバレ注意?


演説って難しい

 イデルバ王国国王フォリア・イスタバイオンの正式な退位式が行われる当日となった。

 

「ここに、フォリア・イスタバイオンは国王の地位から退位することを宣言する!」

 

 壇上に上がったフォリアが礼服に身を包んで高らかに告げる。彼女を見上げる形で多くの民衆が集っており、壇上の傍らには将軍達が座る席が用意されていた。

 

 フォリアの退位に拍手は沸かない。

 

 トリッド王国を崩壊させた一因であり、身勝手に地位を捨てた者だからだろう。

 フォリアが壇上から降りると民衆にとっては重大な演説が行われる。

 

 この国のこれからについて語る時間となるのだ。

 

 壇上を見上げる民衆の顔は、不安や期待など様々な顔となっている。だが不安の割合が多いだろうか。国王フォリアはいなくなり、将軍はレム王国に攻められたあの日から自分が国王になろうと躍起になり争っている。と来れば不安に思うのも無理はない。

 

「さて、不肖私めがこれからの進行を務めさせていただきます!」

 

 そしてここからが俺の出番である。司会が俺だ。この時のためにイデルバ王国でよく使われる一般的な礼服を着せられている。曰く、馬子にも衣装だなだそうだ。

 

「国王を長い間務めたフォリア様が退位され、不安に思う者も多いと思います! これからイデルバはどうなってしまうのか? 新たな国王が決まる気配もない中これまで国を支えてくれた将軍様方の意見を、展望を聞く場を設けたいと思います! この場で以って決めることはできませんが、是非皆様が誰を次の国王に据えればイデルバが良い国になるかを考えて欲しいのです!」

 

 ここまでは台本通り。事情を知っていてこういう大勢の前で緊張なく振る舞える者、ということで俺に白羽の矢が立っただけだ。あと俺が煽る時にこの立場が便利になる。

 各将軍にも事前に通達しており、誰が国王に相応しいかとか、この国をどうしていきたいとか、そういう演説を行ってもらうように依頼していた。三日後の退位に合わせてということで急な申し出ではあったが、民衆の支持を得られれば国王へ一気に近づくと説得した結果、了承を得ることができた。行動には出ていないが、なんだかんだ民意が大事であることは理解しているらしい。

 

「私が国王になった暁には――」

 

 自分が国王になったらどんな国を目指していくか、どういう施策を行っていくかを語る者。

 

「国王に最も相応しいのはフォリア様に挑んだレオナ様であり――」

 

 レオナを推し、その上で彼女は武人であるため将軍達が会議し国を運営していく方針を述べる者。

 

 様々な思惑が語られる中、袖で民衆の顔を見ていた俺は思う。顔の不安が全く拭えていない、と。

 

「若輩者の私にも他の将軍と同じ場を設けていただき、ありがとうございます」

 

 殊勝な物言いから始めたのは、一番最後の将軍カインだ。

 

「私は――この国に国王など必要ないと思っています」

 

 彼の発言に、当然民衆も将軍もざわつく。

 

「この国に、王族はおりません。なら王という立場に縛られる必要があるのでしょうか? より良い国にしていくために、象徴的な指導者が必要だという意見もわかります。ですが、国王がいなくても回る国は存在しています。誰か一人ではなく、誰もが代表であるという国の形。イデルバを王国ではなく、共和国にするというのが私の展望です。国の運営はこれまで通り将軍が行っていく。誰か一人の意見に偏ってしまわぬよう会議によって国の方針を決めていく。これまでフォリア様という一人の人間が行ってきた政策を、将軍の皆様、そして国民の皆様の手によって考え、引継ぎ、実施していくのです」

 

 最初に「若輩者にも~」と言ったのは俺の意見だ。他の将より年齢が低い分、そして国王直属の雑用部隊として動くことが多かった分、民衆の支持が少ない。彼を初めて見たという人はいないと思うが、それでも彼を見て「あんな若造に国を任せられるか?」と疑念を抱く者もいるだろう。だからこそ低い姿勢から入っていくことが大事だと考えたのだ。とはいえ演説の内容は彼が勝手に決めたヤツだ。ぶっちゃけカインの意見に支持を集めるのが俺の役目でもあるのだが、細かい内容については目を通していない。頑張って説得力のある演説をしてくれ、としか思っていないくらいだ。

 

「フォリア様が作り上げてくださったイデルバの民は、わかりやすい代表者がいなければ奮い立てないような弱い民だと、私は思っておりません。一丸となって皆様とイデルバをより良い国にしていければと思います!」

 

 カインはある程度政策についての展望を話し、王を立てないことでどう運営していくのかを語った。そして最後の締めにそう告げると、演説を終えた。第三者視点で聞いていてもカインの演説には力があった。少なくとも他の将軍よりはまともだったように思う。民衆がどう思ったかはまた別だが。

 

 そして、ここから俺の本番が始まる。

 

「皆様、如何だったでしょうか。これで将軍様全員の意見を聞き終わったことになりますが……どなたか王に相応しいと思えるような人物は見つかりましたでしょうか? 私はですね、僭越ながら申し上げさせていただきますと」

 

 俺は司会の体で切り出した後、トーンを下げ冷めた声音で告げた。

 

「どいつもこいつも眠たいこと抜かしてんじゃねぇよ」

 

 誰を、と注目を浴びる中で冷や水を浴びせてやったような状態に、場が静まり返った。

 

「という感じですねー」

 

 口調を元に戻して言うが、民衆はざわつき始め将軍は何人か苛立ち腰を浮かせている。

 

「まぁ正直な話、今誰が王になるかで言い争い仲間割れしてる時点で説得力ねぇよ、って話なんですわ。今国を守れてないヤツらがこれから国を背負っていきます! なんて笑い話にもなりゃしねぇ。お前らに任せていいのかって不安になるのは当然だよなぁ」

 

 俺の発言に、遂にキレたらしい将軍の一人が椅子を倒して立ち上がった。

 

「黙って聞いていればふざけおって! 将軍をなんだと思っている!」

 

 将軍をなんだと、か。そんなに聞きたいなら即答してやろう。

 

「今国を混乱に陥れている張本人だろ」

「なっ……!」

「間違ってるなら言ってくれ。将軍は今まで王を誰にするかやなんかの方針で会議し、連日言い争っていたらしいな。国王が不在の中なら将軍が一番上の地位になるよな? だというのに将軍が争い続けてたら、当然民衆には不安が広がるだろう。これから先この国はどうなっていくのか、そんな不安を抱えながら過ごさなきゃいけなくなる」

 

 この場において、大事なのは将軍の声じゃない。民衆の声だ。だから民衆に届くように、少し真剣な口調で告げる。

 

「ここ数日、俺は街を見て回っていた。誰もが不安そうだった。特に下らない内輪揉めのために兵を招集して、その後街を守る兵士がいなくなった日には武装した人が通るだけで怯える様を見せた。別の島では兵士が足りないせいで賊による人攫いが横行しているらしいな? つまり、今この国の民の不安を助長させ統治を蔑ろにしてるのは将軍だとも言えるわけだ」

 

 俺は民衆に語りかけるように、言葉を紡ぐ。

 

「今は混乱があるかもしれない。だがその混乱を収めるため、一刻も早く王を立てるべきだという話を――」

「なら民衆に聞いてみればいい。今国を治められていない人間が、これから国王になってこの国を統治できると思うか、ってな」

 

 俺は将軍の意見に対して真っ向から告げた。

 

「じゃあ折角だから聞いてみよう。さて、皆の衆! 今国を混乱させている将軍達の誰かが王になることに、賛成できる者はいるか? なに、これはただの一意見だ。民意の確認でもある。どちらにしなきゃいけない、なんてことはない。だから遠慮なく挙げてくれ」

 

 言いながら集まっている民衆を見回す。だが、しばらく待っても手が挙がる気配はなかった。ざっと見ても空気に呑まれて挙げられない、というようなヤツもいないように思える。

 

「な、なに……?」

「これが、結果だな。少なくともこの場にいる民衆は、あんた達を信用できていない。それはフォリアがいなくなってからの体たらくの結果だ。この場にいない民はそもそも治安が悪化して辟易しているとか経済が混乱しているとかそういう理由も多い。ここにいる者のほとんどは、レム王国の侵攻時にいて、当時の混乱を体験している者のはずだ。フォリアがトリッド王国を滅ぼした一端を担っていた、と聞いて動揺した者も少なくなかったはずだ。……その時点で次の国王の見定めは始まってたんだよ。これから国がどうなっていくのかを憂いてたのはあんたら将軍だけじゃない。なにより民が憂いていた。だからあれからずっともたもた争ってたあんたらを認めるわけがねぇんだ」

 

 俺は事実を突きつけるように、冷静に続けていく。

 

「とはいえ、だ。急に敵国に身柄を渡したフォリアが悪い部分は大きいけどな。いくらそれ以上戦争を続けさせないためとはいえ引き継ぎもなにもなしにいなくなれば国が混乱するのはわかり切っていたはずだ。それを無責任に投げ出したんだから非がないとは言わねぇ」

 

 誰が悪い、と一人だけを指定することはできない。俺から見れば誰もが悪いようにしか見えないからだ。

 

 最初になにも引き継がず身柄を引き渡したフォリアが悪い。

 その後民をまとめようともせず次の王をと言い争い続けた将軍が悪い。

 そして。

 

「だが俺にはフォリアや将軍だけが悪いとは思えない。国王がいなくなり、将軍が混乱している中、大勢の民がいてなぜ、誰一人として自分達が変えようとしない? 国王や将軍なんかよりも大勢いるはずの民衆で、なぜ誰もこのままじゃダメだと声を上げない? 将軍の結論が出るまで現状維持を許していたのはなんでだ?」

 

 続けて民衆に矛先を向ける。

 

「言っておくが、俺は外部の人間だ。だからこんなことも言える。……俺はレム王国の侵攻があった時にイデルバへ来た。つまり、俺が来た時にはイデルバはもう混乱の中にあったわけだ。だから俺はイデルバ王国がどんな国だったのかを知らない。どいつもこいつもなにをするでもなく、混乱を終わらせることはなかった」

 

 壇上から民衆を、将軍を見下ろす。

 

「フォリアは捕まった時、イデルバの民は強いと言ったそうだ。だが俺はここ数日イデルバを見てきて、全くそんな気配はないと知った。異論があるなら申してみろ。『イデルバは強い』と胸を張って断言できる者は名乗り出るがいい!」

 

 俺は言って全員を見回す。しかし民衆も将軍も、誰も声を上げる者はいなかった。カインやレオナは様子を見ているのかもしれないが。

 

「……それが答えか。わかってるなら言う必要もない、なんて言う気はねぇぞ。てめえらは弱い。わかりやすい誰かがいなけりゃなにもできないってことだ。その点フォリアはさぞ優秀だったんだろうな。てめえらを見事まとめ上げて国を運営してたんだから。それを敵国が流した噂で疑って士気落としてりゃ世話ねぇよな。過去の罪がなくなるわけじゃねぇが、これまでの頑張りがなくなるわけでもねぇだろ。バカなのか?」

 

 そろそろ適当言いすぎて論点がズレていそうだ。というかなにを話していたかすら怪しくなってきている。

 

「兎も角、てめえらは弱い。フォリアがいなくなってからの様子がそれを表してる。だから今のお前らにイデルバをより良くしていくなんて不可能だ。できもしない理想を掲げるなよ」

 

 できるだけ冷たく突き放すように告げる。しんと静まり返った広場で、俺は更に続ける。もしかしたら俺の煽りが下手クソでカインとレオナが出るタイミングを見失っているかもしれない。……柄じゃないが、ここは俺が盛り上げてやるべきだろうか。いやまぁ俺が適当やってたせいで入るタイミング逃したんなら俺の責任だし。

 

「弱さは自覚したか? 俺に言われるだけじゃなく、自分達の行動を思い返してそう思ったか? 周りの誰もが自分で変えていこうなんて、混乱を収めるために本気で行動することなんてしてなかったとわかったか?」

 

 まず、下げる。冷たく突き放して、今の自分達の在り様を理解させる。

 民衆も将軍も皆俯いて、表情に影を落としていた。空気が暗く沈んでいる。

 

「――なら、顔を上げろ」

 

 俺はトーンを変えず、言い分を変える。聞こえた声に驚いたらしく顔を上げる者は多かった。だがそれは俺の言葉を待つための「顔を上げる」行為だ。精神的に「顔を上げて」もらわなければならない。

 

「弱いお前らでは国は良くなっていかない。弱くても力を合わせれば、なんて綺麗事を言えるような現状じゃない。なら、変わるしかないだろ。弱くて国が動かせないなら、国を動かせるように強くなるしかないだろ。じゃなきゃ国は良くならない。今の不安募る状態は、お前達が作り出したモノだからだ」

 

 できるだけ熱く聞こえるように抑揚を持たせて語る。

 

「この国を想い、行く末を憂うなら顔を上げて俯くな。イデルバが好きなら変われ。でなきゃこの国はもう終わりだ。そうなりたくなければ前を見ろ。もうお前達を導いてくれる国王はいない。新たに優秀な王が見つかる、なんて淡い希望は持つなよ。現実はそんなに甘くない。油断すればまとまりのないこの国なんか一瞬で滅ぶぞ。国を守りたいなら意識を変えろ、行動を起こせ。誰かに甘えていい時間は終わったんだ。自分達で、自分達の国を作れ。……そうすりゃ、多少はマシになるだろ」

 

 似合わないことこの上ないが、俺は民衆を励ます方向にシフトした。カインやレオナには申し訳ないが、収集がつかなくなりそうだったので仕方がない。後で謝っておこう。

 

 急な転換についてこれていないのか、民衆は呆然としているような雰囲気さえあった。

 

 そこで、パチパチと拍手をする音が聞こえてくる。俺の演説(?)が終わり静まったこの場に、やけに大きく響く。

 

「いやぁ、立派な演説だね。感動しちゃったよ」

 

 民衆が集まっている向こうに、そいつらは現れた。

 

 先頭に立つのはドラフの女性だ。そいつらお揃いの青と黄色の衣装に、鉄の胸当て。金髪で前髪を全て上げている。背中には巨大な大砲を背負っている。

 彼女の三歩後ろを歩くのはエルーンの男性だ。青と黄色の衣装に鉄の胸当て。赤紫色の紙に笑顔の女性とは違いキリッとした表情をしている。背に槍を負い左腰に剣を提げていた。

 

 二人が引き連れているのは青と黄色の衣装に身を包んだ兵士達――イスタバイオン王国軍だ。

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