ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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古戦場頑張ってください。私は程々に頑張りまする。


千里眼の賢者

 かくして、俺達“黒闇”はイデルバの首都から旅立った。目指すはカインから聞いた、空図の欠片があるというクルーガー島だ。

 

 騎空挺の操縦は一人旅で必要だった、と言うガイゼンボーガに任せている。なかなか安定した操縦だ。各地を転々とするために必要だという話だ。流浪の傭兵は大変だな。

 

 現在の面子は昔一緒にいたヤツらがほとんどいない状況だ。

 

 俺、ナルメア、フラウ、ゼオ、レラクル、ガイゼンボーガ、エスタリオラ。

 そしてイデルバで拾ってきたアリア、フォリア、ついでにハクタク。……ハクタクは星晶獣だということが判明した。俺はなんかモフれればそれでいいかと思ってたんだがなぁ。

 

「ナル・グランデ空域について一番詳しいのって、この中だと誰だ?」

 

 俺はふと思って甲板に集まっている全員に尋ねた。

 

「ふむ。なら、妾が一番事情に明るいかの」

 

 誰も言い出さないのを見て寝そべるハクタクに凭れかかったフォリアが口にする。確かに彼女はトリッド王国が滅んでからトリッド王国の代わりにナル・グランデを治める国を作ろうと頑張ってきたわけだし。統治するには情報の入手が必須だろうからな。

 フォリアは訥々と語り出す。

 

「クルーガー島。教えの最奥に至るため日夜修行する集団のいる島じゃな。その教えを源流として、しかし完全に分かたれた世界的宗教ゼエン教があるの。教えの最奥は、今まで秘匿とされておったが、知っての通り“蒼穹”のあやつらが会得したの。星晶獣と共に戦うための術じゃ。その力は複数集まれば七曜の騎士すら圧倒できるほどじゃな」

「その強さを身を持って知る私からしてみれば脅威としか思えません」

「そうじゃなぁ。……妾も聞き齧った程度じゃが、生死を彷徨う目に遭って短期間で手に入れた力じゃ。本来はクルーガー島で長く修行するらしいがの」

 

 ほう。つまり強力だがその分大変だというわけか。あいつらのことだからそうせざるを得ない状況に追いやられたんだろうな。俺も、結局白騎士を倒せてねぇ。仲間が一度殺されてるってのに情けねぇ話だよ。

 

「……星晶獣ねぇ。お前らは会得できると思うか?」

 

 俺はワールドのことを思い浮かべつつ、賢者の三人に尋ねた。

 

「私は無理。デビルの言うことを信じれそうにない」

「吾輩は孤高の“戦車”。星の獣、それも極星と共に戦うなどあり得ん」

「ワシは構わんがのう。のう、テンペランス」

 

 フラウとガイゼンボーガはダメか。エスタリオラについては彼の首に下がっている飾りが明滅したので問題ないのかもしれない。

 

「妾とハクタクはどうじゃろうな?」

「さぁ、どうでしょうね」

「なんじゃ、冷たいの」

「教えの最奥が実際にどういったモノかは知りませんが。私は既に我が王と共に在りますので」

「そうじゃな」

 

 星晶獣とのコンビということでフォリアも傍らのハクタクに声をかけていた。

 

「ダナンはどうなの?」

「俺は別になぁ」

 

 フラウの問いに頭を掻いた。……俺はワールドの意思とは別で動いている。向こうも俺と共闘するなんて夢にも考えていないだろう。

 

「? ダナンちゃんも星晶獣に宛てがあるの?」

 

 流れからそう読むのは当然か。どう答えたモノかな、と考えてしまう。

 

「ああ、まぁな。旅の途中で出会ったヤツが、な」

 

 結局、真実は話さなかった。嘘も言ってないんだが。

 

「そうなんだ」

 

 ナルメアは納得してなかったが、追及もしてこなかった。

 

「兎も角、クルーガー島の星晶獣から空図の欠片を手に入れるのが先決だ。教えの最奥の話は聞くだけ聞いてみるけどな」

「うむ。それがいいじゃろう。クルーガー島の星晶獣は教えの最奥に至った千里眼の賢者ぜエンと共に在るそうじゃ。因みにハクタクは空図の欠片を持っとらんの」

「ええ。私は島に縛られず、王と定めた方につきますので」

 

 島ではなく人か。ならしょうがないか。

 

「じゃあ他に候補はあるのか?」

「そうじゃな。少なくとも二つは予想がついておる」

 

 フォリアはそう言って鷹揚に頷いた。

 

「一つはベスティエ島。別名は星晶獣の楽園じゃ。そこを治めるエキドナが持っておるじゃろう」

「間違いないでしょうね。エキドナは幽世との門を封印する役目を負っています。島と深い関わりがあるでしょうから」

「うむ。二つ目はレム王国じゃ。レム王国には繁栄を司るガネーシャがおる。これも確実に島との関わりが深い星晶獣じゃ」

 

 フォリアの説明で三つまで判明してしまった。となれば、近いところから順に回っていくのがいいな。

 

「よし。じゃあ順に行くとするか」

 

 というわけで、俺達ははまずクルーガー島に到着するのだった。

 

「お待ちしていました。ゼエン様がお待ちです」

 

 島に着くと、修行僧らしき剃髪の男性に迎えられた。

 

「待ってただと?」

「はい。我らが師は千里眼の賢者。未来を見通す力を持っていますので」

 

 なんだその便利能力。俺も欲しいな。トラブルに巻き込まれる方だから、事前に知って回避したい。街でばったり殺人鬼に遭遇とかもうしたくないんだが。

 

「大人しくついてゆくのじゃ。何人か船に残しておくかの?」

 

 すっかりフォリアが溶け込んでいる。いや有り難いんだけどな。

 

「じゃあそうだな……。ガイゼンボーガとエスタリオラは騎空挺の守りに。レラクルは影分身を一体置いておいてくれ。ま、そんなもんでいいか」

「ワシを置いていくのかのう」

「ああ。あんたは魔法に長けている。なにより冷静だ。いざって時に動ける人材としてこれ以上のヤツはいない。ガイゼンボーガは戦闘があったら突っ込んでくだろうしな」

「流石は団長、よぉくわかっておるのう」

 

 というわけで大半を連れてゼエンとやらの下へ向かうことにした。

 

「私もついていっていいのですか?」

「なんじゃ、留守番が良かったかの?」

「いえ、そういうわけでもないのですが。私には星晶獣との縁がありませんから」

「これからできるかもしれないだろ。それに、お前には色んな場所に連れていく約束をしてるからな」

「……」

 

 アリアは俺の言葉にはっとしているようだ。

 

「妾が言わずとも、ダナンがおればなんとかなりそうじゃな。遂に妹にも春が来るかもしれん」

「ね、姉さん。変なこと言わないでください」

「んー? 顔が赤いのう?」

「これは姉さんが変なことを言ったせいです」

 

 フォリアは後ろを振り返っているせいで顔が見えなかったのだが、ニヤニヤしていることは間違いないと思われた。……いやマジでないと思うぞ。その紅潮は多分リーシャと同じあれだ。耐性がなさすぎるんだろう。

 

 弟子についていくと、それなりの厳かさを感じる建物に着いた。華美ではないが息を呑み背筋を正してしまいそうになる。

 

「ゼエン様。お連れしました」

 

 修行僧が恭しく頭を下げてから、建物の一室から出て行ってしまう。案内された部屋に佇むのは壮年になりそうな坊主の男だった。瞑目し落ち着きを払った動作で俺達を見据えてくる。

 

 こいつがゼエンか。教えの最奥に至った千里眼の賢者。

 

「ようこそ、クルーガー島へ。欲しいのは空図の欠片か、それとも教えの知識か」

「そのどっちも、って言いたいけどな。空図の欠片が最優先だ」

「良かろう。アンティキティラよ」

 

 ゼエンがそう言うと、俺の目の前で光が生まれ空図の欠片となりゆっくりと降りてきた。それを受け取った、はいいのだが。

 

「……随分と簡単に渡してくれるんだな」

「星晶獣アンティキティラの力で既に絆の力は見せてもらった。……間に合うかどうかわからないが、時間を短縮したのだ」

「よくわからねぇが、くれるって言うなら貰っとく。教えの最奥については教えてくれないのか?」

「……本来なら教えを無闇に外へ広めるわけにはいかないのだが、すぐに至れるモノではない。故に、話のみ聞かせるとしよう」

 

 なんだか話のわかるヤツだな。

 

「教えの最奥とは星晶獣と心を通わせ、共に戦う力。七曜の騎士にも対抗できるその力は、長い修行でしか会得することはできない」

「だがあいつらは短期間でやったらしいな」

「それは正当な方法ではなく、言ってしまえば邪道。あまりオススメはできない方法だ。方法を教える気はない」

 

 なるほど。まぁそこは期待してない。

 

「長い時をかけるのであれば、星晶獣と語らい、心を通わせ友として接するのだ。そうすることでしか辿り着くことはできない」

「わかった。まぁそう期待しちゃいない」

「……最後に、星晶獣と縁のある者を教えてしんぜよう」

 

 もう最後らしい。具体的にどういう修行を行うのか、とかは島外秘というわけか。

 ゼエンは俺達の中で、一人ずつ指を差していく。

 

 俺、はまぁワールドと仮契約中なので当然だ。フラウも契約しているからだろう。フォリアは見ればわかる。わからなかったのはゼオとレラクルだった。

 

「外の二人もそれぞれ星晶獣との縁があるようだ。契約上の関係、だろうか。だが契約するには契約するだけの理由がある。己と縁のある星晶獣のことをよく知ることだ」

 

 ゼエンの言うことも、少しはわかる。アーカルムの星晶獣達は、それぞれ自分達に相応しい誰かを探し出して契約を持ちかけることがほとんどだ。俺とワールドは少し違うかもしれないが、自分の能力を十全に活かせる契約者を探す、というのも理由の一つだろう。

 

「なァ、爺ちゃんよォ。オレと縁のある星晶獣ってのはなンだ?」

 

 ゼオは心当たりがなかったのかそう尋ねていた。いや爺ちゃんて。

 

「……。その腰にある刀から、微かに星晶獣の力を感じる」

「刀? あァ、妖刀ムラマサのことか。だがこれの由来が星晶獣ってのは聞いたことがねェ……あっ! そうだ、この刀を封印してあった祠だな!」

 

 ゼエンのヒントから考えて、どうやら思い当たる節が見つかったらしい。

 

「この妖刀ムラマサってのは人を鬼にしちまうやべェ刀だ。だからオレのいた村では、こいつをアシュラ様の祠に封印してたンだよ」

 

 ゼオは俺達にわかるようにそう説明してくれる。なるほど、それなら縁があるとも言えるかもな。

 

「レラクルはなんだと思ってる?」

「僕は多分だけど、ツキカゲ様だろう。僕の祖先が領地の守り神として祀ったとされているから。僕は領主の子孫で、ツキカゲ様から業を教わったとされる月影衆の頭領だ。これ以上ない縁だと思う」

 

 折角なのでレラクルにも聞いてみた。ある程度察しがついている上にゼオとは違ってはっきりとした縁がある。ってことは一番有力なのはレラクルなのかもしれないな。

 

「了解。じゃあ機会があって、やってもいいって言うなら星晶獣と仲良くなってみればいいか」

 

 俺やフラウは互いに腹に一物を抱えた状態だ。正直言って今の関係性で教えの最奥に至れるとは思わない。もし互いに歩み寄るような気配があったら、少しだけ考えてみようか。

 

「私から話せるのはここまでだ。では行くが良い。次の島、ベスティエ島に」

 

 ゼエンはそんなことを言って話を切り上げてきた。

 

「……なんで俺達がベスティエ島に行くと思ってるんだ?」

 

 ベスティエ島かレム王国のある島で近い方へ行こうとは思っているのだが。

 

「空図の欠片を目的に、そこの前イデルバ国王フォリアの申し出でベスティエ島とレム王国、どちらかの近い方に行こうと思っているのだろう?」

「……それが未来を見通す力ってヤツか?」

「左様。星晶獣アンティキティラは未来を見通すことができる。……このままではナル・グランデ空域が未曽有の危機に晒されることだろう」

 

 ゼエンの言葉にフォリアとアリアが身を硬くする。

 

「なら、なんであんたは動かない?」

「未来とは、少しの行動で変わるモノである。そして、なにをやっても変わらないモノでもある」

「……つまり、なんだ? その危機ってのはあんたがどう行動しようが避けられないモノだってのか?」

「そういうことになる」

「俺達がこれからベスティエ島に行けば避けられると?」

「……それは、わからぬ。行ったところで変わらないかもしれないが、変わる可能性は残されている」

「ベスティエ島に行ってなにが待ってるかってのは言えないんだな?」

「そうだ。未来に関わることは、(みだ)りに伝えてしまうと結果を変えてしまう」

 

 大体わかった。未来を見通す力とはいえ未来を変えられるかどうかはその未来の大きさによる。だから俺が例えばロベリアに出会わないように行き先を変えたとして、その変えた先で出会う可能性もあるってことだ。……そんな逃れらない運命だとは思いたくないんだが。まぁ、例えだ。

 

「……しょうがねぇ。ベスティエ島の星晶獣、エキドナだったか? そいつになにかあったら空図の欠片が手に入らない可能性もあるしな」

 

 ゼエンの思惑に乗るのは癪だが、結局のところ元々行こうとしていたのだ。彼がなにも言わなければそのまま呑気な気分でベスティエ島に行っていただろう。

 

「あんたの思惑に乗ってやる。代わりに、教えの最奥が必要になった時はまたここに来るぞ」

「……。空域の危機となれば、やむなし」

 

 不満そうではあったがその辺りの分別はあるらしい。

 

「よし、言質は取った。お前ら、早速ベスティエ島に向かうぞ。厄介事の処理はあいつらの領分だが、仕方ない」

 

 俺は言って踵を返し、仲間達の間を抜け先頭を切って建物を出て行った。

 

 ……ホント、行く先々で厄介事が起こんだな。世界ってそんなモノなんだろうか?


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