ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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古戦場予選お疲れ様です。


本編で名前だけは出ているオリキャラ、みたいな感じのヤツが出てきますが本編でキャラが出てきたら変更しますのでご了承ください。
相変わらず裏側作品と化していますねぇ。


珍しく空を守るために

 騎空挺に戻った俺達は、留守を頼んでいた二人へ簡単な説明を行いできる限りの最高速でベスティエ島に向かうよう頼んだ。

 エスタリオラには教えの最奥について聞いた話を伝える。

 

「ん~むにゃむにゃ。なんとも抽象的じゃのう」

「ああ。外部の人間だからかは知らないが、概要だけって感じだったな。あいつとしても危機が迫っていることで時間を短縮したかったってのもあるんだろうけど」

「ふむ。機会があればワシも直接会って話したいもんじゃ」

「落ち着いたら、な。魔法に長けた戦力が少ない今、あんまりあんたを別行動させるのは良くない」

「わかっておる。意外と慎重じゃのう」

「意外って言うな。元々俺はこういう気質だ」

 

 話してながら、賢いエスタリオラならなにか掴んでこれるんじゃないかと思いいずれはクルーガー島に一時期滞在してもらうことを考えておく。

 

 それから数日経って、

 

「そろそろ着くぞ、団長殿」

 

 ガイゼンボーガに声をかけられた。彼に目を向けると彼方を指差されたのでそちらに見やる。確かに島が見えてきていた。およそ建物などの人工物が見えない島だが。

 

「……小型の騎空挺が一つ停まっている」

 

 単眼鏡で島の様子を窺っていたレラクルがそう口にしたことで不穏の気配が強くなった。星晶獣の楽園に用があるヤツなんて碌なモンじゃないだろ。

 

「マズいかもな。さっさと行くぞ」

 

 嫌な予感がひしひしとする中、俺達はベスティエ島に到着した。

 

 星晶獣の楽園と呼ばれるだけで、そこかしこに強力な気配を感じる。実際、少し歩いただけで星晶獣に遭遇した。紅蓮の鱗に蜥蜴にも似た体躯。ドラフにもあるような角を持つこいつは、確かイフリートだ。パンデモニウムで遭遇したことがある。

 しかし――。

 

「寝てる、な」

 

 俺はイフリートに近づき様子を確かめてそう呟いた。どこからどう見ても寝ている。鼻提灯まで作ってぐっすり眠っている様子だ。だがこれは、自然なモノじゃない、か?

 

「【ドクター】」

 

 『ジョブ』を発動してイフリートの状態を詳しく探る。

 

「……解除。誰かがこれをやったってことか」

「ダナン。向こうの星晶獣も眠っている。少し突いてみたが起きる気配はない」

 

 レラクルが戻ってきて報告を寄越してくれた。

 

「ん~むにゃむにゃ。ワシも眠ってしまうのぅ」

「元々寝てんだろうが。こんな時にボケはいらん」

 

 エスタリオラのボケは兎も角、一帯の星晶獣が全員眠りこけている現状はおかしい。

 

「もうちょい奥に行ってみるしかねぇか」

 

 呟いて、仲間達を引き連れて奥地へと進んでいく。ある程度広がって進んでいくと、やがてなにかの音色が聴こえてきた。

 

「急ぐぞ!」

 

 妙に不安を煽ってくる音色に気が急いて、全力疾走で向かう。

 

「う、うぅ……!」

「流石に島と契約する強力な星晶獣はしぶといですね」

 

 上半身は白髪の女性だが、下半身は蛇のようになっている巨大な姿。

 それと金の長髪を持つ青年が見えた。青年は琴を持っており、そこから出る音色で星晶獣と思われるヤツが苦しんでいる。となれば、

 

「耳障りな音色だな、五流音楽家!」

 

 俺は真っ先に青年へ突っ込んでいき、蹴りを放つ。しかし身のこなしはいいようで間一髪回避されてしまう。だが演奏は止まった。

 

「……君、達は」

 

 青年は糸目ながら眉を寄せて俺達の姿を確認する。

 

「なにをする気かは知らねぇが、お前の好きにさせるとナル・グランデ空域に未曾有の危機が迫るらしいんでな」

「誰からそれを……ああ、千里眼の賢者ですか。クルーガー島にいると言われる、未来を見通す力を持つと言われる。なるほど――先にそちらから潰しておくべきでしたね」

 

 青年穏やかな口調で言葉を紡ぐ。「潰す」という強い言葉を使いながらも一切感情を昂らせないのが逆に不気味だった。

 

「……星晶獣を眠らせて回ってたのはお前か?」

「ええ。とはいえここにいる星晶獣は元々疲弊していたようでしたがね」

 

 青年の言葉を補足したのはフォリアだった。

 

「それはギルベルトが真王の力で星晶獣を操り争わせた影響じゃな」

「あなたは……。幼い容姿と傍に仕える獣――イデルバ王国国王のフォリア様ですか」

「元、じゃがな」

「そうですか。ではそこにいる星晶獣が認知を司る星晶獣ハクタク。丁度いい機会ですので、一緒に始末してしまいましょうか」

 

 そう告げた青年は琴の弦を爪弾く。

 

「くっ!?」

 

 途端にその琴の音色を聴いたハクタクが顔を歪めて伏した。蛇女の星晶獣も苦し気にしている。

 

「ハクタク!? ……貴様、なにをした」

 

 フォリアが鋭い視線を向けて詰問するが、青年は全く表情を変えずに演奏を続けた。

 

「私の持つこの琴、レイドラスの琴の力は星晶獣によく効くんですよ。眠らせることも、こうして苦痛を与えることも、音色一つで自由自在」

「やめるのじゃ!」

「やめろと言われてやめる者がどの世界にいますか。それに、星晶獣の始末は私の使命ですので、やめるわけにはいきません」

 

 青年はフォリアの制止も聞かず演奏を続けて苦しめる。……フラウ達賢者には影響がないんだな。だが星晶獣を呼び出すのは良くないか。俺も特になにも感じない。だが、黙って見てるわけにもいかないだろう。

 

「なら、俺達人が相手ならいいわけだな?」

「誰が、人に効かないと言いましたか?」

 

 俺の不敵な笑みを嘲笑うように、ヤツは音色を変える。途端にがんと頭を殴られたような痛みが生じた。

 

「チッ……!」

 

 その痛みはずっと続く。ガイゼンボーガ以外は俺と同じように頭を押さえている。……そっか、あいつ痛覚ねぇんだったな。

 耳を塞げばある程度小さくなりはするが、完全に消えることはなかった。

 

「……五流っつったが、訂正するぜ」

 

 俺は顔を顰めながら告げる。

 

「なん流って呼ぶのも悪いくらいの、素人に毛が生えた程度だな。――【ライジングフォース】!!」

 

 俺は言って『ジョブ』を発動する。……実はこの『ジョブ』、別に武器がなくてもいいんだよな。なにせ、楽器を持っていてもぶん投げるから。そして自前のギターとアンプで演奏し始めるんだ。

 

「てめえの演奏じゃ全っ然ヘイヴンしねぇなぁ!」

 

 俺は言ってギターを掻き鳴らしヤツの音を相殺した。

 

「荒々しい、品のない演奏ですね……! しかし音で相殺するとは忌々しい!」

 

 ヤツは演奏を強めるが、俺も合わせて演奏するせいで効果を発揮しない。ハクタクもぐったりはしているがマシになったようだ。

 

「ガイゼンボーガ。俺は仲間を守るために演奏するが、後はあんたに任せる。好きに蹂躙してやってくれ」

「当然だ!」

 

 うちきっての戦いたがりに指示を出す。彼は嬉々として青年に突っ込んでいった。

 

「ぬぐわあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 雄叫びを上げて突進していくガイゼンボーガをひらりとかわす。

 

「品性のない方ですね」

「戦場に品など、貴賤など不要! ただ目の前の敵を蹂躙するのみ!!」

「なるほど……。あなたは確か苦痛を与えても反応がなかった方ですね。なら眠らせてしまいましょうか」

「させるか!」

 

 青年は音色を変えようとするがガイゼンボーガは鉄腕を振るって動きを阻害する。一般兵士を一撃で蹂躙し続けるあいつは避けられようが構わず攻撃を続けた。本人曰く攻撃を受けても構わないそうなので、攻撃を避けて手を止めるということすらない。その我が身を省みない戦い方が功を奏し、青年を圧倒していた。

 

「手強いですね! こうなれば仕方ありません。使う気はありませんでしたが、先にエキドナを落としてしまいましょうか!!」

 

 青年は琴を鳴らすことができない状況を変えるためかなにかをするようだ。ガイゼンボーガは様子を見ることもせずなにもさせず倒すつもりで襲いかかろうとするが、

 

「レイドラスの琴よ、力を示せ!!」

 

 青年が叫ぶと甲高い、頭が割れるような音がそこかしこから響いてきた。

 

「ぐぁ!?」

 

 頭が痛い。集中力が乱れて演奏を止めるともっと痛みが増した。

 

「あ、あぁ、あああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 一際大きな女性の悲鳴が聴こえる。エキドナらしき星晶獣だ。ハクタクも苦悶の声を上げていた。

 ガイゼンボーガは増幅した音によって眠りに落ちたらしく、攻撃の勢いを一切失くしてぱたりと倒れ伏した。

 

「使いたくはありませんでしたが、こうなっては仕方のないことです。大人しくエキドナが幽世に堕ちる様を見ていてください」

 

 青年が耳障りな音の中でも平然としている。……クソッ。この中で唯一音を無視して動けるヤツがやられちまった。残りは全員頭を押さえて蹲っている。

 

「クソが、【ライジングフォース】を嘗めるなよ!!!」

 

 俺は痛みを無視して仰け反りながらギターを思いっきり掻き鳴らす。音を相殺し、衝撃波でヤツ以外の音の出所を攻撃した。無理したせいで右の鼓膜が破けたらしいが、おかげで音は収まった。

 

「……クソ、無傷とはいかねぇか」

「驚きました。まさか私の子機を狙うとは」

「……煩ぇ。てめえ、組織の人間だな?」

「っ!?」

 

 俺が回復しようと『ジョブ』を解除し尋ねると、青年は糸目を開いて赤い瞳を露わにし驚いた。……やっぱりか。あの能力を発動した時の文言、アウギュステで聞いた覚えがある。それが確か、星晶獣の討伐を行う組織の一員だったはずだ。

 

「やっぱりか。さっきのセリフ、どっかで聞いたことあると思ったんだよな」

「……あなたは、ここで始末していかなければならないようですね」

 

 青年は言って琴を構え直すが、遅い。彼の目の前に紫の蝶が飛んでいた。

 

「蝶……っ!?」

 

 その蝶が瞬時にナルメアへと変わる。

 

「切り捨てる」

 

 冷たく呟いたナルメアが高速で刀を振るったのを、咄嗟に跳躍して回避したのは星晶獣と戦ってきている所以か。

 

「がぁ!!」

 

 しかしナルメアは十天衆にも匹敵する強さだ。完全には避け切れず袈裟斬りにされていた。とはいえ琴を弾くための腕は守ったのはいい判断だな。

 

「……ここは退くしかありませんか。ですが、目的は達しました」

 

 怪我を負いながらも嗤う青年に不気味なモノを感じ振り向くと、エキドナから黒いナニカが溢れ出ていた。クソ、間に合わなかったのか。

 

「また会いましょう。次は、ハクタク共々始末してあげますね」

 

 青年はそう告げると琴を弾いてナルメアを衝撃波で押し留めて撤退していった。

 

「こうなったらエキドナを止めるしかありません!」

 

 アリアが言って剣を翳すが、

 

「吸収できない? まさかもう混じって……」

 

 なにも起こらず彼女も困惑しているようだ。

 そうこうしている内にエキドナの姿が変わる。黒いマスクをした禍々しい姿に変化していった。そして虚空に黒い渦のような空いたかと思うと、紫の身体を持つヤツが湧き出てきた。雪崩のように多く、一斉に。

 

「あいつらは幽世の……! エキドナを落とすってのはこういう意味かよ!」

「毒づいている場合ではないぞ! 幽世の存在が次から次へと湧き出て、飛べる者は島を出ようとしているのじゃ! このままではナル・グランデ中に飛び散ってしまう!」

 

 歯噛みする俺にフォリアが言ってくる。確かに、湧き続けるヤツらの中で翼を持つヤツは飛び立ち移動しようとしているようだった。

 

「……総員、全力で迎え討て。一匹も島の外に出すなよ!」

 

 撤退するわけにもいかないが、長くは持たないとはいえやるしかない。仲間達にそう命令すると眠りに着いたガイゼンボーガを蹴り起こす。

 

「? 吾輩は……」

「寝惚けてんじゃねぇよ、ガイゼンボーガ。あんたの出番だぜ」

「吾輩の? ほう、これは」

「絶え間なく湧き続ける異形の存在だ。片っ端から蹂躙しろ。あんたの得意分野だろ?」

「くく、当然だ。吾輩の“戦車”たる所以、見せてくれよう! いざ行かん!!」

 

 状況を理解すると無限に湧き出ているような軍勢の中に単身突っ込んでいった。……まぁ、心強いっちゃ心強いか。

 あいつは多分こういう扱いでいいはずだ。

 

「オレも行くぜ、全力だ!!」

 

 ゼオは二刀を抜き放って赤い輝きを放つ角を出現させた。

 

「これより目標を殲滅する」

 

 レラクルが影分身を生み出してそれぞれ撃破に向かう。

 

「全て塵へと変えん」

 

 戦闘モードのナルメアが言って一刀ごと数体まとめて薙ぎ払っていった。

 

「私もやろうかな。デビル、力を貸して!」

 

 フラウが楽しげに笑ってデビルを呼び、一撃で十体近く屠ながら突き進んでいく。

 

「ワシらは空の敵を優先的に叩くとしようかのぅ、テンペランスよ」

 

 エスタリオラも星晶獣を呼び出して高い位置へ上がり魔法を連発していく。

 

「力を振るうことはないと思っていましたが、七曜の騎士の一人として負けていられませんね」

 

 アリアは黄金の鎧こそ身に着けてはいないが、七曜の騎士に選ばれた実力があるので幽世の存在を次々と切り刻んでいった。

 

「すまぬの、ハクタクよ。平気か?」

「……我が王。不甲斐ないところを見せてしまい、申し訳ありません」

 

 フォリアはぐったりしているハクタクに寄り添っている。近くに来た敵は魔法で処理しているが、本格的には戦わないようだ。まぁハクタクを放っておくわけにもいかないし、それくらいでいいだろう。

 

「……俺は空の敵を優先的にやるとするか」

 

 流石に数が多すぎてエスタリオラとテンペランスだけでは手が回らない可能性もある。まぁ今のところ問題はなさそうだが、

 

「穴が増えやがったな。……俺達だけでどれくらい持たせられるか」

 

 こんな時“蒼穹”がいたら、交代で押さえつつ解決に乗り出せるんだろうな。だが俺達には個々の強さがあってもあいつらとは数が違いすぎる。持って何日か、だろうか。

 

「……ハクタク、お前空飛べたりしないか?」

 

 救援とまではいかないが、知らせて回るくらいはやっておきたい。

 

「万全なら、空を駆けることも可能ですが?」

 

 今は無理ってことか。

 

「なら調子が戻ったらフォリアと一緒に近くの島々に警告をしに行ってくれ」

「なんじゃと?」

「……悪いが俺達じゃ数日持たせるのが精いっぱいだ。だからそれまでに、迎撃態勢を整えるよう訴えてくれ」

「しかし妾は……」

「信用されないならしょうがない、自業自得のヤツまで面倒見れる余裕はないからな。だが、少しでも信用するヤツがいれば少しだけは救えるはずだ」

「……わかった、責任を持って行うのじゃ」

「私が島と島を渡れるほどに回復するのは、おそらく半日ほどになります。それまでは駆けても落ちてしまう可能性があります」

「半日後でいい。俺達はできるだけここに幽世の存在を留めておく。エキドナを倒せば戻るかもしれないが、あいつの周囲には幽世の存在が多すぎて無理だ。今も増え続けてることを考えると難しいだろうしな」

 

 星晶獣を倒すって言うならそれこそ“蒼穹”に任せたいところだが。行方不明のヤツらを頼っても仕方がない。オーキスもいないができることはやらないとな。

 

「さて。じゃあ珍しく、空を守るために戦うとするか」

 

 俺は不敵に笑って参戦する。

 

 その後、俺達“黒闇”は一週間に渡って幽世の存在をベスティエ島に留めることに成功した。




ベスティエ島でエキドナを襲ったヤツとの交戦でした。

ネセサリアさんが本編で口にしていた組織の一員で、一応単独行動もしそうな感じのキャラクターにしてみました。
武器の能力は星晶獣の力を抑制する、みたいな? まぁ楽器得意なんで割りと適当です。戦闘力低そうでアレですよね。

残念ながら出し抜かれてしまったんですけどね。

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