ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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展開は同人誌の如く。

……いやホント、申し訳ない。
サブタイトルまで同人誌のような気がするのは気のせいです。似て非なるモノがあったとしても一切本話とは関係ありません。

タイトルから推測できる通り、ナルメア回かな。


姉なるモノ

 騎空挺がレオナの操舵で出航してから、フラウは兎も角ナルメアの様子を見ていなかったなと思い、自室へと戻る。

 

「ナルメア、いるか?」

 

 がちゃりと扉を開けると、ナルメアがベッドの上で座り込んでいた。

 

「……あ、ダナンちゃん。ちょっとこっちに来て?」

 

 こちらに気づいて手招きしてくるのは不自然じゃない、んだが。なんだか頰が上気していて、ぼーっとしているようにも見える。熱でもあるのかと思い、不思議には思ったがそのまま近づいていく。

 

「えいっ」

「うおっ」

 

 ベッドの近くまで来るとナルメアは俺に手を伸ばして引き倒しながら身体を入れ替えてきた。結果俺はベッドでナルメアに覆い被さられている状態だ。

 

「な、ナルメア?」

 

 近くだとわかるが呼吸が荒い。おそらくだが、興奮状態にはあるようだ。

 

「……ダナンちゃんは、フラウちゃんのこと好き?」

「えっ?」

 

 なんでここでフラウの名前が?

 

「いいから答えて? フラウちゃんのこと、好き?」

 

 妙に気迫のある問いに、ここは真剣な答えを返さなければならないのだと悟る。

 

「……俺は、好きかどうかの答えは出せない。あいつらの気持ちに応えることは、今もできてないんだ。けど嫌なら拒んでる」

「そっか。じゃあ、なんでフラウちゃんとエッチなことするの?」

「それは、その……。フラウがそれでもいいからって。それに甘えてるのは確かなんだけど」

 

 やっぱり聞かれていたのか、と気恥ずかしさが出てくるがちゃんと答えを返す。

 

「でもダナンちゃんも、嫌なら拒むんだよね? だったらダナンちゃんもフラウちゃんとエッチなことしたいの?」

 

 ……なんだこの状況。ってかなんでそんなこと聞く必要があるんだ? でも真面目に答えないといけない気だけはする。

 

「……嫌、じゃないからな。俺も別に、人から好かれること自体が嫌ってわけじゃない。フラウはああやってでしか気持ちを表せないって言うから、それに応えてる」

「でもこの間のはダナンちゃんも乗り気だったでしょ? ダナンちゃんがエッチなことしたいなら、お姉さんが相手でもいいんだよね?」

「えっ?」

 

 俺が戸惑う間もなく、ナルメアはふにゅとドラフ特有な大きい双丘を押しつけてくる。

 

「……ダナンちゃんがエッチなことする相手は、私でもいいの?」

「な、なにを言って……」

 

 ナルメアの紫色の瞳が妖しく光っているように見えた。これはフラウでよく見る目だ。

 

「ダナンちゃんのお世話、お姉さんがしてあげよっか?」

 

 やはりおかしい。「はい是非」と頷こうとする欲望を抑えつける。だが彼女の身体を押し退けようにも腕が押さえつけられているので無理だった。体勢の不利もあるが、ドラフに筋力で敵うはずもない。

 

「な、ナルメア。急になにを言い出すんだ? 俺は別に、俺のやりたいってだけでフラウとシてるわけじゃ……」

「ホントに?」

「ああ」

 

 しっかりと頷く。そこに偽りはない。もちろん興が乗ることはあるが、嫌がるなら絶対にしない。

 

「……じゃあ、お姉さんがしたかったらしてくれるの?」

「へぁっ?」

 

 俺としたことが、間抜けな声が出てしまった。

 

「い、いきなりなにを言って……今日のナルメアは様子がおかしいぞ」

「うん。おかしいの。フラウちゃんが来てダナンちゃんとエッチしたのを見てから、ダナンちゃんとフラウちゃんが隣の部屋でエッチしてるのを聞いてから、変なの」

 

 やっぱり聞いていたのか。というかあの時も起きてたのかよ。

 

「……ずっと、ダナンちゃんと一緒にいられるだけで良かったのに。一緒にいるだけじゃダメみたいなの」

 

 ぽつりぽつりと呟くナルメアからは、苦しんでいる様子が見て取れる。

 

「ダナンちゃんともっと、進んだ関係になりたいって思っちゃってるの。あの時一緒に暮らしてからずっと、ダナンちゃんと一緒にいたいと思ってた」

 

 ナルメアは少しだけ潤んだ瞳で俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。

 

「……ダナンちゃん、大好き」

 

 どくん、と心臓が大きく跳ねた。なんて返せばいいか咄嗟に出てこない。他のヤツに言われた時ともまた違う。これは多分、あれだ。()()んだ。

 俺は彼女に追い打ちをかけられないように、身体を抱き寄せる。

 

「……ごめん、ナルメア」

「……えっ」

 

 耳元で囁くと悲しんでいるとわかる声が聞こえた。真っ先に謝罪が出てきたからだろう。

 

「すぐに、答えは返せない。けど、俺の話をちょっとだけ聞いてくれるか?」

「うん」

 

 言って、頭の中で自分の気持ちを整理する。……そうだ。俺はナルメアに対してだけ、オーキスともフラウともアポロともリーシャとも、この世で誰に対しても持っていない感情を抱いている。それは恋なんてモノじゃないが、俺の中では初めての感情だ。

 

「……俺はあの時、ナルメアから貰ったモノで今を生きていくことができている。だからか、俺がナルメアに抱いてる気持ちは他とはちょっと違うんだ」

「違う?」

「ああ」

 

 俺にはずっとなくて、でも他のヤツらには大半が持っているモノ。

 本来なら生きる過程で色々と教育してくれて、人生にとって必要不可欠となる存在。

 

「家族だ」

 

 そうだ。俺はナルメアを、家族だと思っている。

 

「今の俺が持ってるモノの最初をくれたナルメアのことを、そう思ってるんだ。母親じゃないからまぁ、姉……かな」

 

 今まで言ってこなかったから気恥ずかしいが、嘘偽りはない。俺はナルメアを大切に想っている。だがそれは色恋ではなく、姉のように見ているからだ。

 だから、肉体関係を持ってしまえば、それが崩れてしまうから。俺は怖いと思ってしまう。

 

「……そっか」

「ああ。だからごめんな」

「謝らなくていいよ。私もダナンちゃんのこと、弟みたいに思ってたから。でも、それだけじゃないの」

 

 ……俺はナルメアのことを家族だと思ってるからそういう関係にはなれないと伝えたはずなんだが?

 

「ダナンちゃんとずっと一緒にいたいのは、大好きだからだよ」

「い、いや、だから俺はナルメアを姉みたいに思ってて、だからずっとナルメアには幸せになって欲しいと思ってたんだよ。他は、幸せにしてやりたいだけど。ナルメアはそこが違って」

「ふふっ。逃げちゃダメ」

 

 諭すように言われてしまい、俺が逃げ道を探していたことを自覚させられる。

 

「私に幸せになって欲しいなら、ダナンちゃんが受け止めてくれないとダメ。だって私の幸せは、ダナンちゃんと一緒じゃなきゃないもん」

「っ……」

 

 少し離れて見た彼女の笑顔に、俺は自分の敗北を悟った。

 

「……そっか」

「うん。けどこれからもずっとダナンちゃんの傍にいるのは変わらないよ」

「……ああ」

 

 ナルメアには敵わないな。俺が不安に思ってることも見抜かれていたらしい。

 

「だから、ダナンちゃんが幸せにして欲しいな」

「……頑張ってみる」

「うん。辛くなったらお姉さんがいっぱい癒してあげるからね」

 

 よしよしと頭を撫でてくる。接し方はこれからも変わらないと伝えているようだ。

 

「……ホント、ナルメアには敵わないな」

「だってダナンちゃんのお姉ちゃんだもん」

「……そうだな」

 

 できればもうちょっと前向きなヤツのところにいて欲しかったんだが、これも今まで俺がしてきたことのツケなのかね。

 

「……わかった。じゃあしようか」

「う、うん。優しくしてね?」

「もちろんだ」

 

 緊張し始めたナルメアをリードする形で、その行為は始まった。……ちゃんと防音はして。

 

 ただまぁ、夢中になりすぎてしまったらしい。何日か経過して呼びに来たフラウに気づかず、興奮した様子で参戦してきた彼女を巻き込んで、という風になってしまったからだ。

 それもこれもナルメアの身体が悪いんだきっと。よくあれでフラウと同じ過去にならなかったもんだと思う。それはあれか、強くなることにしか興味がなかったせいか。

 

「えっと、若いって凄いね?」

「……はぁ」

 

 とはコメントに困ったレオナと呆れてため息しか吐かなかったアリアである。

 というのも俺の理性が結構きてたせいで休みなくだったために、様子を見に行くこともできず二人で最初の島で協力を求めたからだ。……いやホントすまん。

 

「……いや、俺もあそこまでとは思ってなかった。悪い」

 

 流石に罰が悪かったので素直に頭を下げて謝った。

 

「……次からはないようにお願いしますね」

 

 アリアからの好感度が見る見る低下していっているように思う。元々大してなかったような気もするのだが。

 

「じゃあまた次の島に行くまでにいっぱい楽しめるってことね」

「お、お姉さんも頑張るからね」

 

 なんでお前らはまだ元気なんだよ。

 

「いや、寝たいし。あと流石に悪い気がして気が乗らん」

「じゃあ添い寝するね」

「添い寝はお姉さんの特権なのに」

 

 関係上の優勢が消えたこともあり、フラウとナルメアの言い合いは基本拮抗することになった。挟まれている側としてはそう変わらないんだが。

 兎も角次の島に行くまでは身体を休めることにした。まぁ、少し二人に付き合ったのは仕方がない。

 

 ともあれ次の島に着いてからは俺が自主的に協力を求めることにしたのだが。

 

「戦力? なにをバカなことを! ここの現状を見てもわからないのか!?」

 

 島の代表者らしきヤツに尋ねてみたのだが、結果はこの通り。

 

「……まぁ、だよな」

 

 前の島もそうだったそうだが、どこも襲い来る幽世の存在に手がいっぱいで俺達に助力してくれそうなところなんてなかった。レオナが協力してくれるだけでも幸運だったのだろう。

 

「どうでした? 結果は聞くまでもないことでしょうけど」

 

 騎空挺に戻ってくるとアリアが冷たい言葉をかけてくる。

 

「まぁな。……あいつらの殲滅力を考えてもこれだけの数が空域中に散らばってるとなると、難しいか。せめてフォリアだけは回収しないとな」

「確かに姉さんがいれば戦力の補充にもなるでしょうが、この状態の空を駆け回っているとなると運良く合流できるかどうか……」

 

 確かに、アリアの懸念も尤もだ。

 

「あ、そうだ。アリアさんにはもう言ったんだけど」

 

 とそこでレオナが騎空挺を発進させながら思い出したように声をかけてくる。

 

「皆がイデルバを去った後、幽世の存在が来る前かな? その時点で真王がイデルバを訪ねてきたの」

 

 ほう、あの真王が?

 

「へぇ、そりゃ知らなかった」

「真王は白騎士を伴って訪れて、黄金の騎士アリアの身柄を返還するように求めてきたんだ」

「なるほど。で、手筈通り“黒闇”の騎空団が誘拐したって伝えたのか?」

「うん。というか、そうするしか私達にできることはなかったから。ちゃんとイデルバは無関係だっていうことを強調しつつ伝えておいたよ。……ありがとうね、私達のために」

「別にイデルバのためじゃねぇよ」

 

 レオナの感謝を拒絶する。照れ隠しではなく、本当にイデルバのためじゃない。

 

「ふふ、そっか。アリアさんのためだもんね」

「……その言い方も引っかかるが、まぁ間違っちゃいないな」

 

 本人を前にして言うのもあれだが。

 

「私のため、ですか。……もしイデルバに残っていたらこうして面倒事に巻き込まれることもなかったかと思いますが」

「捻くれるなよ。そうなった場合騎士剥奪されてお姫様になってたかもしれないな? で、真王の目的のためにどっかの誰かに嫁がされる人生だ。どっちがいいよ?」

 

 彼女の皮肉に笑って返す。

 

「……確かに、まだマシなような気もしてきます」

「だろ? ならこれでいいんだよ。精々今の内に自分のやりたいことでも探してな。それを叶える手伝いぐらいは、してやるよ」

「そう、ですか」

 

 まだ吹っ切れていない様子だが、この旅で少しでも得るモノがあればいいと願っている。

 

「……ダナン君って結構面倒見がいいよね」

「そうか? ……まぁだとしたら俺の唯一の家族のおかげだろうな」

 

 どこの誰とは言わないが、面倒見の良さの塊みたいなヤツに拾われたのが今の俺を形成している要素になっているのだろうと思う。

 

「ふぅん? でもダナン君ってオーキスちゃん以外は年上が多いよね? 年上好きだったりするの?」

「はっ……。まさかそれで先程のような言葉を?」

「別にそんなんじゃねぇよ」

 

 アリアも冗談を言うようになって、全く。……だが確かに、今のところオーキス以外は全員年上だ。というか同年代の知り合いがジータぐらいしかいないんだが?

 

「多分だが空を旅するには若い方だからだろ。十代半ばで空の旅路に出てるヤツなんて、俺か“蒼穹”の双子ぐらいなモンだろ? あいつらの騎空団は人数が多いから若いヤツも多いだろうが、うちは少ないからな。危険な旅に出るには若い方の年代ってだけだ」

 

 よくよく考えてみれば、そういった理由だろう。ルリアやオーキスは特殊な事情を抱えているから除くとして。そうなるとイオが一番若いか。それもまぁ色々バルツでのあれこれがあった結果だろうし。

 

「確かに、そうだね」

「そこまで真面目な回答が返ってくるとは思いませんでしたが」

「年上だとか年下だとか、そういうので括られちゃあいつらが不憫だからな」

 

 そんな簡単な言葉で俺を好きになってくれるような物好き達を語って欲しくない。

 

「……案外真面目なんですね。ところ構わず手を出しているのに」

「その一言が余計なんだよ。というか別に俺は自分から手を出してるわけじゃねぇ」

「向こうから手を出させるように日々口説いているでしょう」

「そんなことはしてねぇ、よ?」

「……そこで疑問にしちゃう程度には自覚があるんだね」

 

 リーシャに関してはその辺りが否定できない部分がありますね。

 とはいえ他はあまりそんなに口説いてはいない、ような? いや、あまり否定しすぎると怪しくなってしまうか。

 

「兎に角、また次の島に着いたら教えてくれ。あとこの中だとナル・グランデに詳しいだろうレオナに聞いておきたいんだが」

「ん、なに?」

「この空域で強い刀使いの噂とか聞いたことないか?」

「えっ? 刀使い? ないこともないけど……なんでそんなピンポイントに?」

 

 あるんかい。

 

「いや、ちょっとな。で、あるなら聞かせて欲しいんだが」

「あ、うん。一つは凄い大きな刀を引き摺って歩く剣豪の噂。大きな刀を柄の鎖で引き摺って歩いた跡と、小さな足跡が特徴なんだって。戦う時は身の丈の二倍はある凄く重い刀を豪快に振り回して戦うとか」

「へぇ、そいつは凄いな」

 

 小さな足跡ってことは女性ドラフかハーヴィン辺りか? まぁどっちでもいいか。なんとか会ってみたいな。

 

「うん。でも放蕩の旅をしているみたいで、色々なところで目撃されているけどなにが目的かはわからないからどこにいるかはさっぱりって話だったかな? 悪い人じゃないとは思うけど」

「なら、この非常事態に表に出てくるかもしれないし、声かけてみるとするか」

「私が知ってる他の噂はあと一つかな。こっちは悪い人の噂だけど、ナル・グランデ空域で時々現れる人斬りの話」

 

 人斬り? また物騒な噂だな。

 

「腕の立つ剣士の下を現れては勝負を挑んで斬殺することから、人斬りって呼ばれてるんだ。人斬りに殺された人の傷跡から、剣士の剣術を真似した上で殺してるらしいから、紛れもない天才だとは思うんだけど」

「天才か。しかも剣術を真似して殺すとか調子乗ってんな。会ったら鼻っ柱を叩き折ってやりてぇ」

「そこだけは同意かな。なんの罪もない人を殺して回ってることも許せないし」

「……まぁ、会えたらの話だな。ありがとな、教えてくれて。一応頭に入れておくわ」

「うん。じゃあ島に着いたら呼ぶね」

「ああ、頼む」

 

 俺はレオナとアリアに甲板を任せて自室に戻った。直前までぐったりしていたであろう二人の相手をしてやらないといけないからな。


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