ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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アウギュステでの決戦

 アウギュステの守り神リヴァイアサンが現出し、荒れ狂う彼の星晶獣を鎮めるべく、グラン達は剣を取り気合いを入れ直す。

 

「皆、まだいける?」

 

 グランが仲間達に呼びかける。

 

「うん、いけるよ!」

「先程の戦いでの傷も治った。問題ない」

「わたしだってまだまだ魔力が有り余ってるんだから!」

 

 女性三人の頼もしい言葉を聞いて、グランはほっとしたような笑みを浮かべた。

 

「そっか。じゃあ皆でリヴァイアサンを止めよう!」

「はい! 絶対に助けてみせます!」

 

 グランとルリアが意欲を見せて、

 

「おっしゃぁ、やってやろうぜぇ!」

 

 小さな竜が拳を突き上げ動き始める。

 

「とは言ってもなぁ。リヴァイアサンは海にいるだろ? こうも遠いと俺かオイゲンのおっさん、ガキンチョぐらいしか攻撃が届かねぇ」

「ガキンチョって言わない!」

「私とグランが【ソーサラー】か【マークスマン】になれば届きはしますけど、決定打には薄いですよね」

 

 ラカムの声にイオが噛みつき、ジータが冷静な判断を下す。

 

「それなら、私が皆さんを運びます」

 

 ルリアが意を決したように告げて、グランと目配せをする。

 

「ルリア、一体なにを……」

 

 カタリナが困惑する中、グランがルリアの隣に並びその手を取った。二人が瞑目すると、繋いだ手に光が灯る。

 

「――始原の竜、闇の炎の子。汝の名は……」

 

 ルリアの詠唱が響く。二人は繋いだ手を掲げ、声を揃えてその名を呼んだ。

 

「「バハムート!」」

 

 どこからともなく、強大な力が溢れ出る。そして、黒銀の鱗を持つリヴァイアサンに勝るとも劣らない大きさの竜が召喚された。召喚位置を調整したのか、グラン達を背に乗せるように顕現していく。

 

「おわっ!? 運ぶってことはまさか……」

「はい! バハムートと一緒に突っ込みます!」

 

 ラカムが落ちないようバランスを取りながら呟くと、ルリアがはっきりと返した。

 

「無茶するなぁ、もぅ」

「全く。それならそうと先に言ってくれれば良かっただろう」

 

 窘める言葉だが、その顔は苦笑いだった。

 

「はっはっは! 嬢ちゃん意外と大胆なんだな!」

 

 しばらくぽかんとしていたオイゲンも、我に返って豪快に笑う。

 

「俺も付き合わせてもらうぜ。これまでずっとこのアウギュステや俺達を守ってくれていたリヴァイアサンを、災いとして残させるわけにはいかねぇ。行って目ぇ覚まさせてやらねぇとな」

 

 確かな決意を滲ませて言った。全員の心が一つに決まっ――

 

「ちょ、ちょっと待って! あんなのに突っ込んで落っこちたりしたらどうするのよ!」

 

 下は海。海こそリヴァイアサンの領域。確実に荒波に揉まれて溺死するだろう。

 最年少の心配にどう答えたものかと皆が悩む中、

 

「なんだガキンチョ。やっぱり怖いか? なら降りて待っててもいいんだぜ」

 

 ラカムが煽るように告げた。彼の言葉にかちんと来たようで、

 

「むっ。ガキンチョじゃないって言ってるでしょ! いいわよ、行ってお子様じゃないってところを見せてやるんだから!」

「言ったな? よぉし、じゃあ突っ込んでリヴァイアサンを助けてやろうぜ!」

「「「応!」」」

 

 売り言葉に買い言葉でイオが言ったことで、今度こそ全員の心が一つになる。

 

「行って、バハムート!」

 

 そして、ルリアの指示に従ってバハムートが翼を羽ばたかせリヴァイアサンへと突っ込んでいく。全員振り落とされないように屈んで掴まった。

 

 睨み合った二体の星晶獣が咆哮して激突する。手足のないリヴァイアサンと比べて手足のあるバハムートの方が有利なのか、がっしりと首を掴み動きを封じようとする。リヴァイアサンも負けじと海面から出した尻尾からバハムートの身体に巻きついて締め上げる。

 バハムートも動けないが、これでリヴァイアサンも動けない。

 

「グラン、今の内に!」

「ああ! ――《ウロボロス》!」

 

 ジータの声に応じて、グランが虹の結晶を出現させてから蛇が絡みついたような杖を召喚する。それを彼女に放り、もう一度。

 

「《パラシュ》!」

 

 両刃の斧を召喚する。

 これが、グランだけが持つ特異能力の『召喚』である。同じ『ジョブ』を持つジータやダナンは持たない能力で、ある特殊な石――宝晶石を消費することでランダムに武器を召喚することができる。また、一度獲得した武器は自在に召喚することが可能となるため、石で得るのに加えて武器屋で購入しても良い。

 石を消費しても被ることがあるため、その場合は無意味にただ消費するだけとなる。

 

 ちなみにグランは収集癖があり、ランダムで『召喚』される武器を全て集めたいと思っている。そのため最近はシェロカルテからルピで石を購入して『召喚』することが増えて出費が嵩んでいるのが、団の悩みだったりするのだが。

 

「【ソーサラー】!」

 

 元々【ウォーリア】だったグランはそのままで、ジータの姿が変わる。腰から伸びる布がスカートのようになっており、肩には黒いファーをつけている。……ただし如何せん上半身が目に毒だ。

 

「この巨体だ! 皆渾身の一撃を叩き込むぞ!」

 

 バハムートが抑えている間に各々力を溜めていく。巨体に人がダメージを与えるには、全力全開の一撃が必要だ。

 しかし小さき者達の大きな力を感じ取ったのか、リヴァイアサンは激しく暴れ回る。踏ん張るバハムートの上で揺られながらも、集中し力を高めていった。それを見てか、暴れるのをやめて代わりに。

 

 バハムートの胸元ほどの高さを持つ津波を引き起こす。

 

「なっ!」

 

 なんとか背に乗っていた一行は無事だったが、波は街の方へと向かってしまう。

 

「クソッたれ! このままじゃリヴァイアサンを倒せても街が滅んじまう!」

 

 オイゲンが叫び、他の者も街が危ないと知って集中が乱された。

 

「ルリア、大いなる破局(カタストロフィ)で波を打ち消せないか!?」

「む、無理です! リヴァイアサンを抑えるので精いっぱいで……。それに余波で街に影響が……」

「くっ……! 今から戻っても遅いかもしれないけど、さっきまで溜めていた力で波を相殺するしかない!」

「でもそれじゃあリヴァイアサンが……」

「だからって街の人達を見捨てるわけにはいかない!」

 

 リヴァイアサンを倒す力と、津波を止める力。一行にはどちらか一つしかなかった。そしてどちらを取っても打つ手がなくなってしまう。

 ここに来て手詰まりか、と誰もが思ったその時。

 

「若人が簡単に諦めるでないぞい」

 

 老いた男性の声が近くから聞こえ、一行が驚いてそちらを向く。そこには鍔の広い帽子を被り白い髭を蓄えた老人が立っていた。

 

「お爺ちゃんなんでこんなところに? ここは危ないわよ」

 

 イオが老人を心配するが、

 

「ふぉっふぉっふぉ。心優しいお嬢ちゃんや。心配は無用じゃよ」

 

 朗らかに笑うだけだ。

 

「そんなことよりほら、困っておるのじゃろう? 波はワシらの方でなんとかするから、気にせず海の神の相手に集中するのじゃぞい」

「なんとかするって? それにワシらって……」

「細かいことを気にしている暇があるかのう。お主らの竜も疲労が見えておる」

「バハムート……」

 

 巨体故にわかりにくかったが、確かにバハムートもリヴァイアサンを抑えることで徐々に消耗しているようだった。

 

「安心しな、嬢ちゃん達。その人がそう言うなら大丈夫だ」

「オイゲン、知ってるのか?」

「顔見知りってわけじゃねぇが。なぁ、剣の賢者さんよ」

 

 オイゲンの声に、老人は笑うだけで答えた。

 

「ふぉっふぉっふぉ。ではリヴァイアサンは任せたぞい」

 

 そう言って、剣の賢者はバハムートの背中を滑り降りるように駆け出した。

 

「あ、ちょっと!」

 

 イオは呼び止めようとして、彼が高速で駆け下りているのを目にしてやめる。老人は上を向いた尻尾の先端から、跳躍した。駆け下りた勢いをそのままに跳躍し空中に身を躍らせながら左右の腰に提げた剣と仕込み杖に手をかける。

 

「年甲斐もなく滾ってしまうわい。――白刃一掃!」

 

 二本の剣が波に向かって閃いた。交差するように一瞬の内に放たれた二つの斬撃は巨大な波を引き裂いた。……ついでに着水の瞬間剣を振るい、海を割って着地し海が戻るまでの間に陸へと戻っていった。

 

「……なんだあの爺さん。化け物かよ」

 

 歳を一切感じさせない覇気を纏った老人の所業を目にして、ラカムが呆然と呟いた。彼だけでなく、一行の誰もが目を見張っている。

 

「ったくよ。俺も老いぼれちゃいねぇとは思ってるが、あんなん見せられちゃまだまだだと思うわな」

 

 この中では一番年齢の高いオイゲンがボヤく。

 

「でもまだ他の波が……」

「そうだぜ、いくらあの爺さんでも波全部をなんとかすんのは……」

 

 ルリアとビィの不安に応えたのは、波が向かっている港近くにいた者達であった。

 

「あそこまでの業を見せられたら血が滾ってしまうわい」

 

 一人はハーヴィンの老人だった。髭を短めに揃えた彼は一見するとただの釣り人にしか見えない恰好をしていたが、左右の腰の剣に手を添え迫り来る波を見据えるその姿からは、先程の老人に匹敵するほどの覇気を発していた。

 

「万に及ぶ打ち合いを一太刀で結ぶが由来よ」

 

 二本の剣を抜き放ち波へ斬撃を放つ。しかし波の勢いは一向に収まらない。だが、

 

「奥義! 万結一閃じゃ!」

 

 最後の一振りが放たれた時、それまでに放たれた斬撃の軌跡が結びつく。すると結ばれた全ての斬撃が開き波を切り裂いた。

 

「まだじゃよ」

 

 きん、と剣を鞘に収めた瞬間、特大の斬撃が更に波を切断した。

 

「ま、ちょっとは手を貸してあげようかな」

「街の人達が危険に晒すわけにはいかないからな」

 

 また別の方面には、真紅の鎧を着たヒューマンの女性と漆黒の鎧を着たドラフの男性が佇んでいた。

 

「いくわよバザラガ! ヘマすんじゃないわよ!」

「お前こそしくじるなよ、ゼタ」

 

 二人は軽口を叩きつつも互いの実力は信頼しているようだった。

 

「アルベスの槍よ! その力を示せ!」

「大鎌グロウノスよ! 力を示せ!」

 

 二人は互いに、手に持った武器の名を呼び波へと突っ込んでいく。

 

「プロミネンスダイヴ!」

 

 ゼタは槍に力を収束し、突き出すと同時に高速で突撃した。槍の先端から収束した力が翼のように広がり波を裂いていく。波に向かって少し斜めに突撃することでより広範囲を攻撃していく。

 

「ブラッディムーン!」

 

 バザラガは津波に向けて赤い光を纏う鎌を振るった。鎌から放たれた赤い斬撃は津波へ激突すると、その場で円を描くように一人でに回転し始め勢いを散らす。

 

「こっちは気にしないで、星晶獣の方に集中しなさい!」

 

 ついでに近くまで寄ったゼタはバハムートに乗るグラン達へ向かって叫んだ。……その後すぐに海へ落ちたのはカッコがつかなかったが。

 

「……皆! 僕達はリヴァイアサンを!」

「手伝ってくれた皆のためにも、ここで決めなきゃ!」

 

 波が全て払われたことで余裕のできた二人の団長が仲間を鼓舞し、誰よりも率先して力を溜め直す。後押しされた二人は先程よりも強く、深く集中して力を溜めていく。

 二人に負けていられないと、他の面々も全力を出し切るために力を溜める。

 

 しかし、リヴァイアサンは再度津波を発生させる。規模こそ小さいが速い波だった。そしてその正面には誰もいなかった。

 

 その時、紫の蝶が海岸を飛ぶ。

 

「……舞えよ胡蝶。刃は踊り神楽の如く」

 

 紫の長髪を持つドラフの女性が忽然と現れて、腰の刀を抜くと柄を上に、切っ先を下にして構えた。

 

「鏡花水月」

 

 更に彼女の身体に赤雷が迸る。いつかダナンの使ったブレイクアサシンと同じように。

 

「舞い踊りなさい……」

 

 紫の蝶が刀の形状を変える。刃が広くいくつにも尖った歪な刀へと。彼女が一振りして斬撃をぶつけるだけで波は裂けていく。そして左腰に刀を構えると形状が元に戻り、代わりに波を横断するように紫の蝶が群がっていく。

 

「胡蝶刃・神楽舞」

 

 静かに放たれた一言と同時に横薙ぎに振るわれた刀の切っ先に合わせて、波が真っ二つに裂けていった。

 

 規模が小さめだったとはいえ一人分の三倍はある波を一人で対処してもせたのだ。

 ちなみにこの場で彼女を知る唯一の黒衣の少年は、フードを目深に被り決して見られまいとしていたらしい。

 

「あの娘っ子やるのう。これは変幻自在も世代交代かのう。きっちっち」

 

 妖剣士と呼ばれ変幻自在の剣技を持つハーヴィンの老人は、しかし自分の知らぬ強者を見て楽しげに笑うのだった。

 

「レイジ! ウェポンバースト!」

「イグニッション!」

 

 グランが仲間全員の筋力を上昇させた上で、自らの奥義の威力を高める。オイゲンも続いて奥義の威力を高めた。

 

「皆! 準備はいいか?」

「うん、いけるよ!

「ああ、問題ない」

「一発どでかいのぶち込んでやるぜ!」

「あたしの魔法も凄いんだって見せてやるんだから!」

「任せときな!」

 

 全員が頼もしく答えたところで、

 

「お願い、バハムート! 皆に力を貸して!」

 

 ルリアが最後の一押しでバハムートの力を仲間達に宿す。

 

「おっしゃぁ! リヴァイアサンを助けようぜぇ!」

「「「応!」」」

 

 ビィに呼応して、準備の整った一行が動き始める。

 

 先陣を切ったのはラカムだった。

 

「ちょっと痛ぇが我慢してくれよ。バニッシュピアーズ!」

 

 特大の火炎と共に弾丸を放ち、リヴァイアサンの顔を仰け反らせる。

 

「エレメンタルガスト!」

 

 極限まで集中したイオが冷気の竜巻でリヴァイアサンを襲う。本来なら巻きつかれているバハムートまで凍ってしまうのだが、完璧にコントールしてリヴァイアサンの身体のみを凍てつかせていた。

 

「我が奥義、受けるがいい! アイシクル・ネイル!」

 

 カタリナが出現させた水の刃でリヴァイアサンの身体を斬りつける。

 

「もう少しの辛抱だからね。アルス・マグナ!」

 

 ジータが杖を翳すとリヴァイアサンの頭部付近に青と赤二つの輪が現れ、衝突する。衝突した真ん中から雷撃のような一撃が放たれ、脳天を直撃する。

 リヴァイアサンがフラつきを見せたところに、

 

「うおおぉぉぉぉぉ!! 大切断ッ!!」

 

 雄叫びを上げてグランが両手で思い切り斧を真上から振り下ろした。斬撃は縦に大きく伸びてリヴァイアサンの身体にダメージを与える。

 遂に力なく倒れそうになったリヴァイアサンが最後に見たのは、鍛え抜いた身体を持つ眼光の鋭い隻眼の老兵が、銃を構えているところだった。

 

「……あの時は娘を助けてくれてありがとうな、リヴァイアサン。今度は俺が助ける番だ! ディー・アルテ・カノーネ!」

 

 オイゲンの銃から放たれた強力な一撃が、リヴァイアサンの意識を刈り取るのだった。




リヴァイアサンとの戦いはアニメやら漫画やらからちょくちょく持ってきています。
だからナルメアが出てきただけで、深い意味はありません。

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