古戦場お疲れ様です。ちょっと早いですが、多分現役騎空士の皆さんは日付変わってからになると思いますが。
私は今回ギリギリ十万位に入れるかどうかというところになりそうです。
なんで俺はアネンサに抱き着かれているんだろうか?
そんな疑問を俺が抱いてしまうのも当然だと思う。だって初対面の女性だぞ? 普通そんなに気安くされるとは思わないだろう。……背中に突き刺さる痛い視線は俺のせいじゃないと思う。だって俺はなにもしてないし。一緒に戦ってくれとは頼んだけど、それだけだ。
「……えっと、アネンサ? 悪いんだが、ちょっと離れてくれないか?」
「あっ! ご、ごめんね~」
俺が言うと彼女は我に返った様子でぱっと離れてくれた。
「で、一緒に来てくれるんだよな?」
「うん~。一緒に行く~」
アネンサは人懐っこい笑みを浮かべると間延びした口調で言った。
「俺はダナンだ。これからよろしくな」
「うん~」
改めて手を差し出すと、今度はちゃんと握手を交わしてくれた。残る面子は騎空挺に乗った後で自己紹介してくれればいいと思ってのことだ。
「じゃあとりあえず騎空挺の方に行くか。状況とかの話は移動しながらにするぞ」
「うん~」
俺は踵を返して騎空艇の方へと歩き出す。すると柔らかな手が俺の右手を握ってきた。ぐさりと正面の女性陣からの視線が突き刺さる。視線を落とせば水色の頭があった。どうやらアネンサが俺の手を握ってきているようだ。そんなに懐かれるようなことをしただろうかと疑問に思うが、それよりも突き刺さる視線が痛い。ってかなんで俺が責められてるんだ?
「アネンサ?」
「? なに~」
俺は声をかけにくいなぁと思いながら呼ぶ。きょとんと顔を上げてきた彼女の目には俺がなにを言いたいかわからない様子が浮かんでいる。
「いや、なんで手繋いだのかと思って」
「えっ!? あっ、ご、ごめんね~」
俺に言われてようやく気づいたらしく、はっとして頬を赤らめ手を離した。だが少しだけ名残り惜しそうな顔にも見える。
「別に繋ぎたいならいいぞ」
「ホント~? じゃあぎゅ~」
なぜこうも懐かれているかはわからないが、どうやら彼女は年下のようだ。ドラフの女性は小柄だから見分けが難しいのだが、ナルメアより幼さを感じる。
アネンサはにこにこしながら俺の右手をまた握った。嬉しそうに腕を振り出している。子供っぽい様子だ。これで強いっていうんだから不思議なモノだよな。
彼女が無邪気な様子だからか視線の痛さも和らいだ。
「えへへ〜。こうしてるとお兄ちゃんみたい」
そう呟くアネンサは実に嬉しそうだ。
「お兄さんがいるの?」
子供の相手ができるのか、ナルメアが話しかける。しかし兄の話題になるとアネンサの表情は沈んだ。
「……ううん。もういないの」
「……そっか。ごめんね、嫌なこと思い出させちゃって」
彼女の様子から、もうこの世にはいないんだろうなと察しがつく。
「ううん、大丈夫。お兄ちゃんのおかげで嫌いだった村を出ることができたから」
そう言って笑顔を見せるアネンサは少しだけ晴れやかに見えた。……嫌いな村ってのが気になるが、まぁそこは気にしても仕方がないか。戦力になりそうなのは間違いないし、精々懐いていてもらおう。ナルメアも相手にしてあげられそうだしな。
というわけで新たな戦力であるアネンサを味方につけることができた。
彼女を連れて騎空挺に乗り込み、アリアの操舵で発進する。
「これからどこ行くの~?」
「とりあえずはアネンサみたいに強いヤツを集めるところだな。もうちょっと戦力が欲しいところなんだが」
「そんなに大変なの~?」
「ああ。あいつらがいっぱい湧き出てくる島に乗り込んで、親玉みたいなヤツを止めないといけないんでな」
「そうなんだ~」
アネンサに説明をして、島を巡る順番とかはレオナに任せているので、操舵のできる彼女とアリアに行き先は完全に丸投げの状態だ。まぁ俺はナル・グランデ空域内の地図すら持っていないからな。行く宛てもなく彷徨うには時間が足りなさすぎる。
「この騎空挺は俺達が借りてるヤツだから、好きな部屋使っていいぞ」
子供っぽいので自分の自由にできる部屋が貰えると聞けば嬉しいだろうと思ったのだが。
「じゃあね~……一緒の部屋がいい~」
少しだけまた視線が痛くなってしまった。……いや俺のせいじゃないじゃん。
「一人一部屋の決まりだからな」
「え~。わかった~」
アネンサは少し唇を尖らせて不満そうだ。しかし他、特にアリアの目が怖いので別の部屋に行ってもらわなければ困る。
「アネンサちゃん、お姉さんと一緒にお部屋見に行こ? 荷物置いてゆっくりしたいでしょ?」
「うん~」
ナルメアは流石と言うべきか、手を差し出してアネンサを誘った。アネンサはナルメアの手を取ったが俺の手を離すのが惜しいというように困った顔をしていたが、やがて離した。
その様子に苦笑して、さっきまで繋いでいた手でアネンサの頭をぽんぽんと撫でる。
「あっ……」
「これから一緒に行くんだからいつでも大丈夫だろ。行ってこい」
「うん、お兄ちゃんまた後でね~」
嬉しそうにはにかんだアネンサは、手を振ってナルメアと二人船内へと向かっていった。……お兄ちゃんて。まぁ、拠り所ができるのはいいこと、なのか?
「……また女を増やした」
「オーキスの真似かそれは。やめてくれ、アネンサを見ればそういうんじゃないってわかるだろ」
感情の込められていない平坦なアリアの声にツッコみ、これからのことを話す。
「で、ナル・グランデにはあと島がどれくらいあるんだ?」
「細かな数までは私もわからないけど、私が回ろうとしているだけの数でも三分の一くらいは回ったと思うよ」
レオナの返答に、少しだけ考え込む。三分の一、か。まぁナル・グランデ全体を回り切ることはできないだろうが、回ろうとしている島の数が大体二十ぐらいってことか。今イデルバの首都含めて六つ目だし。イデルバの他の島に寄らなかったことを考えてもまぁそれくらいになるだろう。元々トリッド王国が崩壊してからは小国同士の小競り合いやなんかも多かったらしいしな。
六つの島を回って二人、か。そのペースで行くと多くても六人。六人でも充分多い方か。とりあえずレオナの宛てを回り切ったらベスティエ島に向かうとするか。あまり長くかけすぎても残したヤツらが力尽きる可能性だってある。あいつらは強いが、無茶をしそうなヤツが多い。そこはエスタリオラが調整してくれるとは思うが、あまり時間をかけられないのも事実だ。
「次々行くしかねぇか。レオナ、フラウ。部屋で休んでていいぞ。俺がしばらく撃退を担当する」
ここ最近フラウとナルメアの相手をすることが増えて全く戦っていなかったからな。色々とワールドの能力を駆使して試したいことも増えてきたし。
というわけで、それから日が落ちるまで俺が魔物やら幽世の存在やらを撃退していった。騎空挺に被害を出さずできるだけ早く仕留めるのが大事らしい。久々に伸び伸び戦えて楽しかった。途中アネンサが来たのだが、今回は見ているだけにしてもらった。実力を示す意味もあることだしな。
夕飯時に改めてアネンサに自己紹介をした。なぜか食べる時俺の膝の上に乗りたがっていたのだが。まぁ子供のすることだと思って大人しくその通りにした。どうやら俺をお兄ちゃんに見立てて甘えたいらしい。俺に妹なんて、少なくとも今はいないだろうが。子供の可愛がりというヤツだ。悪い気はしない。
聞けば十四歳だそうなので、ゼオと同い年のはずだ。ただ戦闘時以外はかなり幼く見える。ゼオも打ち解けてくると素直で少年らしい部分が見えてくるのだが。
「お兄ちゃんとお風呂入っちゃダメなの〜?」
夕飯後の問題発言である。ナルメアが付き添ってくれるということでなんとかなったので良かったが。下心の一切ない純粋な甘えというのもまた扱いが難しい。断ると悲しい顔をされるからだ。その辺り、ナルメアが上手くやってくれている。なんだかんだフラウも面倒見はいいのか、邪険にはせず声をかけられた時は優しく接していた。この中で接し方に困っているのはアリアだろうか。あいつ不器用そうだもんな。どっかの誰かさんと一緒で。
「お兄ちゃんと一緒に寝る~」
入浴後、ナルメアの寝巻きを借りて着込んだアネンサが抱き着いてくる。アネンサの身長はそこまでナルメアと変わらないので、サイズが少し大きいかなというぐらいに留まっている。同じドラフの女性がいて本当に良かったな。特徴的だからなかなかサイズが合わないことが多いだろうに。
「アネンサも大きいんだから一人で寝られるんじゃないのか?」
「うん~。でもお兄ちゃんと一緒がいいの~」
「そっか」
服の裾を引っ張ってにこにこと笑うアネンサの頭を撫でて、今日は仕方がないかと思いアネンサと寝ることにした。フラウには自重しろよと伝えておく。
「抱っこ~」
「はいはい。全く、アネンサは甘えん坊だな」
ベッドに座った俺に、両手を伸ばしておねだりしてくる。苦笑して小さな身体を抱き上げた。
「えへへ~。だってお兄ちゃんみたいな人に会うの久し振りだから~」
「そうか。兄ちゃんのこと、好きなんだな」
「うん、大好き。……お兄ちゃんにだけは、話しておくね」
「……ああ、聞くよ」
アネンサは俺の胸に顔を埋めるような恰好で、ぽつりぽつりと語り始めた。
アネンサと兄が生まれた村のこと。
その村の在り方が嫌になって二人で逃げ出そうとしていたこと。
アネンサを外に出さないために兄を殺した村人達のこと。
兄の遺書を読み自分の意思で村を出て、助け合う仲間を探す旅に出たこと。
「……だから、どこか一箇所には滞在しすぎないで旅してたんだ~」
「そっか。大変だったな」
いくら強いからと言っても、五歳の女の子に魔物の狩りをやらせるか? その神経が信じられない。村の背景は語られなかったが、まぁ魔物が強くなって狩人がどんどん減ってしまっているとかそういう事情があったのなら、理解は示せるかもしれないな。共感と納得はできないが。
「うん。でもお兄ちゃん達と会えたから。皆強いんだね、ナルメアお姉ちゃんに負けちゃったの」
負けたことを、とても嬉しそうに語る。村と旅の間も強さが逸脱しすぎていて仲間に出会うことがなかったのだろう。……いやでも、ホントに凄かった。最初は加減しているらしく豪快に刀を振り回すだけだったんだが、ナルメアが相当強いとわかって巨大な刀で剣術を使い始めた時、ナルメア独特の回避方法がなければ無傷では済まなかったんじゃないかと思うほど強くなった。それからかな、フラウがアネンサに優しくするようになったのは。
アネンサの話を聞いて思ったが、確かに強すぎる力という点で二人は共通している。そういったところに気づいたのだろう。
「ナルメアはまぁ特に強いが、他のヤツらも皆強いからな。ちゃんと、アネンサと一緒に戦えるだけの実力は持ってる」
「うん。お兄ちゃんも強いよ」
「俺はまだまだ、もっと強くなるからな」
「そうなんだ~。お兄ちゃんが強くなるなら、一緒に戦えるように頑張るね~」
「ありがとな」
よしよしと頭を撫でてやる。
「そろそろ寝るか」
「うん~」
話をしている内にすっかり夜が更けてしまったので、眠ることにする。
アネンサの要望もあって抱っこしたままの体勢だ。ちょっと息苦しいと思うところもあったが、彼女が嬉しそうだったのでそれくらいは我慢することにした。
できればもっと色んなヤツと仲良くなって、アネンサにとって大切な居場所になればと思う。
グラブルとは全く関係ありませんが。
ラフム、やっべぇっすわ。
シナリオで読んでいたとはいえ、アニメになるとやっべぇっすわ。