戦力を確保するために島を回り始めてどれくらい経っただろうか。
次で十個目の島になる。
「……っ」
小国のとある島だ。国の都市というわけでもなく、住人が小競り合いに辟易しつつ平和に暮らしていた街がある。
その島が見えてきたというところで、俺のローブのポケットに入っているワールドのカードに反応があった。
どうやら、五人目の賢者があの島にいるらしい。
狂った殺人鬼に、魅力が過ぎる女に、痛みを感じない戦闘狂に、感情を奪われた老魔導士。
さて、次はどんなヤツがいるんだか。
まともなヤツは期待していないが、マシなヤツだといいな。
俺はそう思いながら島への着陸を待った。
「俺はちょっと行くところがある。宛てがあるかどうかは、お前らで探しといてくれ」
俺は言って、フラウならある程度察しがつくだろうと思い島での助力交渉を任せてカードの反応を頼りに歩いた。
熱と光が強くなっていくので、カードをポケットの中で握りながら反応を見て方向を決めて進む。
しばらく追いかけっこをしていたが、やがて人気のない路地裏で待ち構えられていた。
耳や頭の特徴から種族はヒューマンだとわかる。ただ小柄だったので、明らかに子供なのだとわかった。賢者でお揃いの紺のローブに赤いケープを着ているので間違いはないだろう。乱れた銀髪に銀の瞳をした少年だ。ゼオよりももっと若く、俺が知っているヤツで挙げるなら“蒼穹”のイオと同年代ぐらいだろうか。
しかし彼の瞳にはその歳にそぐわない知性が宿っていた。見た目通りの子供と侮ってはいけなさそうな雰囲気を持っている。
「賢者の一人、か。全く、今度は頭の良さそうな子供とはな」
俺は頭を掻いて呟く。
「へぇ? 見た目で人を判断しない辺り、慎重だね」
少年は笑って言葉を返してくる。……今のは俺の観察眼じゃない。頭のいいこいつは、多分だが俺を試したんだ。こういうヤツの相手は面倒なんだがな。
「よく言うぜ。わざと無邪気な子供を装わずわかるようにしてただろ? まずはそれを見抜けるか、ってのがお前の試験ってわけだ」
俺が告げると、少し驚いたように目を丸くしてから面白いと笑った。
「なるほどね、流石にワールドの契約者に選ばれただけはあるかな。それくらいやってくれなきゃ、こっちも面白くない」
「その様子だと、間違ってはなかったみたいだな。悪いが俺はそこまで頭が良くないんだ」
「ふぅん? でも最低限の頭は回るみたいだし、とりあえず合格にはしといてあげるよ」
上から目線の生意気なガキだな。まぁ、話が通じる分マシな部類だと考えるべきか?
「……その分だと俺にカードを渡すかどうか、いくつか試してから決めるってことか」
「そう、察しがいいね。そういう人は嫌いじゃない」
今のところは大丈夫なようだ。
「カードを渡すだけでも意味があるけど、それ以上に今あなた達は戦力を欲してるでしょ? だったら賢者として星晶獣と契約した僕が加わるのは有り難いんじゃないかな」
「そこまで察しがついてるのか。確かに、そうだな。賢者が二人いても時間稼ぎぐらいしか思いつかなかった状況だ。まぁ、お前みたいに頭が良ければ他の手を思いつけたかもしれないけどな」
「そうだね。僕が知るだけの情報からでも二つくらいは案が思いつかないでもないけど、でもシミュレーションと現実は違う。そこにいなかったのにあれこれ言うことはしないよ」
意外と話のわかるヤツだな。さり気なく僕だったら案の一つや二つ思いつくけどね、と自慢してくることがなければな。まぁでもこいつを引き入れられればいい参謀になりそうだ。今いるうちの参謀は頭がいいのを気取らせないタイプなんだけどな。
「で、どうやって俺のことを試す?」
「簡単だよ。僕と勝負をしよう」
「勝負だ? ……頭脳戦重視なら勝ち目はねぇぞ」
「もちろん、そうなったら僕が勝つ」
即答するんじゃねぇよ。まぁ自信と言うよりただの事実だと思っているんだろうが。
「でも頭脳を使わない勝負というのもつまらない。チェス。そして記憶の世界でどれだけ多くの敵を倒せるか。もう一つの勝負はあなたが決めていいよ」
「……わかった。三本勝負で、二回勝った方の勝ちか?」
「ううん。一回でもあなたが勝ったら勝ち」
……言い切りやがるな。まぁ、チェスは俺に勝ち目がねぇし、どれだけ敵を倒せるかも事前にシミュレーションできる立場が有利だ。となるとその二つでどこまでこいつに食い下がれるか、三つ目の勝負で勝利を捥ぎ取れるかはどんな勝負なら勝てるか、というのを二つの勝負中に見出すかにかかっている。
つまり俺は二つの勝負に全力の様子見で挑み、三つ目で勝てる勝負を用意すると。……それがこいつの筋書きなんだろうな。それができてついていってもいいと思わせることができると。
思惑に乗っかりすぎるのも減点の可能性があるから、できれば敵を倒す方の勝負で勝ってみたいんだけどな。勝てると思っているなら、俺では無理な可能性もある。
「よし、じゃあチェスからだな。ルールを教えてくれ」
「えっ?」
「俺はやったことがない」
「…………」
少年に呆れた目を向けられてしまった。
「……はぁ、いいよ。流石にルール知らないと勝負にもならないし」
嘆息して、ごそごそとチェス盤を取り出し地面に置く。そしてチェスの概要を教えてくれた。どの駒がどんな役割を持っていてどんな動きができるのかを説明してくれる。キングの駒を獲得した方が勝ち、ということのようだ。
つまりチェスとは、各駒を動かして互いの駒を取り合いながらキングの獲得を目指すゲーム、のようだ。
「……よし、覚えた。じゃあ早速やるか。勝負は一回でいいんだよな?」
「うん。一発勝負。精々足掻いてね」
こうして俺と少年のチェス勝負が開始した。
ルール覚えたての俺と頭がいいらしい少年では、序盤全く勝負にならなかった。適当に駒を取ったり取られたりしながら相手の出方を窺うと、少年の大まかな戦略が見えてくる。
これは多分、理詰めと呼ばれる戦法だ。
俺が悪手を打てば容赦なくその悪手を攻めて後々の痛手にしてくる。堅実かつ効率的。
逆に向こうは一切の悪手を打たない。まるで勝利への道筋が見えているかのように迷いなく、俺を追い詰めていく。中盤でそこそこ押し返したりもしたが、終盤になればもう打つ手がない状態にさせられていた。
「なるほどな、いい戦い方だ。堅実で効率的、最適な一手でスムーズな勝利」
俺はニヤリと笑う。……こいつに勝つ方法が、見えてきたかもしれない。
「負けたのに楽しそうだね」
「ああ。だって三本勝負の勝ち筋が見えてきたからな」
「へぇ?」
少年のつまらなさそうな瞳がすっと細まった。
「もちろん次も負ける気で挑むわけじゃねぇが、まぁ簡単に勝てるとは思ってない」
「当然だよ。次も僕が勝つ」
言ってからいそいそとチェス一式を片づけると、少年はカードを取り出した。今までのどのカードとも違う絵柄だ。おそらく彼と契約している星晶獣なのだろうが、異形ではなく人型だ。なぜ逆さまなのかはわからないが。
カードはやがて光り出し、視界を白く染めていった。感じる風の種類が変わったと思い目を瞬いて慣らすと見覚えのある光景が広がっている。
「覇空戦争時の記憶、だったか。どっちの味方をするとかはあんのか?」
「ないよ。空も星も、どちらも倒してしまって構わない」
「そうか」
俺と少年が立つ丘の下で、星晶獣らしき巨大な影と人々が戦っていた。どちらに味方する必要もないなら手早く済みそうだ。
「集計方法は?」
「この世界の全ては記録されているからね。僕と契約しているハングドマンが集計できるよ」
「勝てる勝負をイカサマする理由もないか」
「当たり前でしょ。じゃあ、始めようか」
とは言ったものの、集計結果を鯖読まないとは限らない。ワールド能力でどれだけの数がいるのかは把握しておくか。倒した数も数えておこう。
さて、一見すると子供にしか見えない彼がどんな力を持っているのかは気になるところだ。
だが加減する気はない。様子見をして出遅れれば負けるのは当然だ。
「さて、やるか」
俺は言って全力、無数の剣拓を出現させ争っている中に降らせた。これなら特に狙いをつけなくてもかなりの数が倒せる。
「やるね。じゃあ、僕も」
少年は感心したように言って、右手を掲げる。
「それ、
口先だけの自信ではない。本当に、俺が出してみせた剣拓を無数に出現させていた。……おいおいマジかよ。天星剣王形なしだな。俺ら二人にパクられるなんて。
「見たまんまを真似できるのか。本人の能力あってのモンだな。まぁ俺も真似したヤツだけどな」
「そうなんだ。さぁ、どんどんやっていってよ。僕も同じように、あなたより多く倒すからさ」
生意気なガキだ。それを実行できるだけの能力があるのが面倒臭さを引き立てている。
直接殴りに行っても良かったが、それだと剣拓を真似した方が効率的なのでそうされてそのまま負けるだろう。
その後、増える光の矢や焼き払う熱線など色々な攻撃方法で殲滅していったが、全て少年に模倣されてしまった。まぁ悔しくはない。元々そこまで拘りのある能力じゃないからな。なにより俺の力じゃなくてワールドの能力でのことだ。
「678対492で、僕の勝ちだね」
「そうだな」
俺が把握していた数とも相違ない。俺が放ったのより少しだけ規模を大きくして放てば、まぁ勝てるのも当然だろう。
「随分あっさりしてるんだね」
「まぁ、最初の攻撃でどう勝ってくるかは予想ついたからな。後は適当に攻撃しながら三本目の内容を決めてればいい」
「なるほどね。じゃあ、最後の勝負を始めようか」
「ああ。じゃあ元の場所に戻してくれ」
「わかった」
この記憶の世界じゃ、最後の勝負はできないからな。
また光に包まれて元の場所に戻ってくる。
「さて、じゃあ最後の勝負をするために、人のいるところに行くぞ」
「まぁいいけど、どんな勝負でも僕が勝つと思うよ?」
当然の如く、少年は口にする。だから俺は不敵に笑った。
「
「……へぇ? それは楽しみだね」
俺の宣告に、少し眉をヒクつかせて返してきた。
というわけで俺が勝てる最後の勝負の場へ向かう。と言ってもただの街だ。人がいて、幽世の存在が襲撃してくる中必死に生きようとしているただの街だ。
「ここでどんな勝負をするの?」
「簡単だ。これから、一つのカップルを指定する。そのカップルにチンピラが絡んだ時の反応を予想して当てた方の勝ちだ」
「……なにその勝負」
俺の告げた勝負内容に、少年は呆れた顔をした。
「天才なら実に簡単な勝負だろ?」
俺は挑発的に笑う。
「……いいよ、やってあげる」
「そうこなくちゃな。じゃあとりあえずチンピラは金で雇って、指定したカップルを脅迫させるか」
「じゃあ先にどのカップルにするか決めないとね」
すんなりと乗ってくれて助かった。これで逃げられたら勝ち目をまた探さなくちゃいけなくなる。
「そうだなぁ。じゃあ、俺が買収してないって証拠のためにお前が選んでいいぞ」
「ん、いいけど。じゃあ……あのカップル」
買収するタイミングなんてなかったのでこいつもそれを疑うことはないだろうが、一応な。少年が指差したカップルを確認する。そこまでカップルの数が多いわけじゃないので、ある程度仕込む疑いが持てる状況ではある。
……あのカップルか。男の方は気が弱そうで、女の方は緊張してそうな男を見て苦笑と微笑が混ざった表情をしている。
「わかった。じゃあちょっとチンピラ雇いに行くか」
そう言って彼を連れ立って手頃なチンピラ二人組に金を渡し、カップルに脅しをかけるよう依頼する。女性の方がそれなりに可愛いので「奪っても構わない」と口にすると乗り気になってくれた。
「じゃあ準備は整ったことだし、屋根の上で予想タイムといこうか」
ってことで屋根の上からカップルとチンピラの様子を見守る。
「お前からいいぞ、ハンデだ」
俺の言葉にむっとした様子だったが、素直に従って予想を述べていく。
「……勝負にならないね。彼氏の方が逃げて彼女は取り残される」
と簡潔に告げた。
「ほう、思い切ったな」
俺の予想を裏切らない答えに内心でほくそ笑む。
「理由を聞こうか?」
「あの彼氏がチンピラ二人に勝てる道理がない。抵抗しても無駄なのに、逃げる以外の選択肢があるわけないでしょ。チンピラは彼女の腕を掴むから、逃げれば自分は助かると理解する。だから彼女は取り残されて、彼氏だけが逃げる」
そうなるに決まっているというような口調だった。……ああ、良かった。こいつが俺の思った通りの人物で。
「……じゃあ、俺の予想をしようか」
俺は笑って、予想を口にする。
「まずチンピラが彼女の腕を掴むってところは同じだな。だがそこから先が違う。彼氏は勇気を振り絞ってチンピラの手を払い、その彼氏の行動で頭に血が昇ったチンピラは彼氏をぶん殴る。で、その騒ぎを聞きつけた秩序の騎空団団員が駆けつけてチンピラ二人は捕まってことなきを得る。そんなところだな」
「そんなわけないじゃん。あり得ないね」
「さぁ、どうだろうな。見てればわかるさ」
俺の観察眼をフル活用した答えは気に入らなかったらしい。まぁ、今にわかるだろう。
俺達が目を向けると、丁度チンピラ二人がカップルに声をかけたところだった。
「彼女可愛いじゃん。そんなヤツより俺らと遊ぼうぜー」
「い、いえ、その……」
柄が悪く体格のいいチンピラ二人に声をかけられるという不運。当然のように他人は見て見ぬフリだ。
「いいから来なって」
「嫌っ!」
二人が予想した通り、チンピラの一人が彼女の腕を浮かんだ。嫌がる彼女と、蒼褪めて突っ立ってるだけの彼氏。
「ほら、なにもできない」
少年はわかっていたとばかりに呟く。彼氏は拳を握ることもなく愕然とした様子だ。確かに、ここまではこいつの予想通りだな。だが、お前には肝心なことがわかっちゃいない。
「それはどうかな?」
俺が言った次の瞬間、彼氏は目を剥き自らを奮い立たせて彼女の腕を掴んでいる手を払った。
「なっ!?」
「彼女に手を出すな!」
少年の驚く声。震えた、でも勇ましい声が彼氏の口から放たれる。
「あ? 調子乗ってんじゃねぇ!」
腕を払われたチンピラは額に青筋を浮かべて彼氏に握り拳を見舞う。彼氏は避けられもせず呆気なく倒れた。街中で行われた暴力に小さな悲鳴が上がり見て見ぬフリをしていた人達も野次馬と化す。彼女は倒れた彼氏に近寄って声をかけていた。
「おい、なんの騒ぎだ!」
そこに野次馬を掻き分けて秩序の騎空団団員が現れ、状況を見るとチンピラ二人を拘束する。
「ち、違う! 俺達は頼まれただけなんだ!」
ホントにな。まぁ殴れとまでは言ってないし俺達は無実だろう。ともあれチンピラ二人は秩序の騎空団に連れ去られていった。
「……嘘」
「ま、こんなところだな」
少年は一連の様子を呆然として見ていた。俺は結果に内心でほっとしている。なにせ俺の観察になかった予期せぬ要素が出てくる可能性だってあったからな。
「さて、あの二人に謝っておかねぇとな。答え合わせは後でしてやるよ」
「……」
納得のいっていない様子だったが、構わず俺は屋根から降りてカップルの下へ行き、ヒールで彼氏の傷を治してやる。
「あ、ありがとう」
「いや、礼は言わないでくれ。元はと言えば俺がやったことだからな」
「えっ?」
「これは詫びだ。二人でなんか美味いモノでも食ってくれ」
俺は彼氏に五万ルピを手渡し、そそくさと去っていった。同じ屋根の上に少年はまだいてくれたので、屋根に上がる。
「……なんで、あそこまでわかったの」
少し拗ねたような声になっている。天才君でも悔しいと感じることがあるのかもしれない。
「一つ、あの彼氏は確かに気が弱そうだったが、気が弱いってのは自信が持てないヤツに多い特徴だ。それに服装からも、オシャレしようとはしてみたがそこまで決めすぎるのもなぁという葛藤が見て取れた」
俺の純粋な観察眼だ。
「一つ、そういう自信がないヤツってのは、運良く恋人ができたけど次はもう恋人ができないかもしれないという不安を抱く。となれば二度とないチャンスだし、こんな俺を好きになってくれた人は他にいないかもしれない、という二つの理由、若しくはどちらかの理由で奮い立つ可能性が高い。ここぞという時で勇気を出せないヤツが、彼女なんてできるわけないんだよ」
二人の様子から、おそらく告白したのは男からだろうというのが予想できた。もし逆だった場合男はかなり浮かれた様子だったはずだ。
「一つ、遠くに秩序の騎空団団員が見えた。だからチンピラがキレて殴ったら騒ぎになって駆けつけるとわかるな。というわけであんな推測が立つわけだ」
「……」
俺の答え合わせに少年は難しい顔になる。
「なんにせよ、お前がバカで助かったよ」
「なんだって……?」
俺の貶すような言葉に少年は剣呑な空気を纏う。
「……お前がいくら天才だって言ってもな、人は心を持った生き物だ。効率や合理性なんかを無視して行動する。お前は頭がいいから、それがわからないんだ。違うか?」
「っ……!」
「頭が良くて効率良く物事を考えられる。だがその代わりに心が理解できない。ただ効率を突き詰めるなら、極端な話誰にだってできる。突き詰めるまでの時間には個人差があるだろうけどな。だが人の心を読み解き掌握するのは難しいことだ。なにせ心には明確な答えがない。不可解で不確かな心をこうと決めつけるのは難しい」
俺だって、いくつか可能性を考えた上で一番高そうなヤツを口にしている。見方と捉え方には個人差があるし、全員が全員俺と同じ答えにならないことだってある。
「だから、そういう不確定要素を取り除いて普通に考えたらそうなるっていう答えに辿り着いたお前を、バカだって言ったんだよ」
「……」
少年は少しだけ考え込むようにしていた。もしかしたら、かつて誰かに心がわからないのかと言われたことがあるのかもしれない。
「さてと、とりあえず一回勝ったし俺の勝ちでいいんだよな?」
「……まぁ、いいよ。約束は約束だから」
「よし」
ここで駄々を捏ねる気はないらしい。俺はぽんぽんと少年の頭を撫でた。ぱしっ、とすぐに払われる。
「なにすんだよっ」
「いや、生まれつきそうなんだとしたら人の輪に溶け込めなさそうだなと思って」
「余計なお世話だよ」
「そうかい。けどまぁ、人の輪に溶け込もうとしないでずっとそうやってきたんだったら、お前はやっぱ子供なんだなって思ってよ」
「? どういう意味?」
「人に合わせず我を貫くってのは歳を取ると段々としづらくなることだからな」
「……まだ十も違わないでしょ」
「違いねぇ。まぁいいさ。もし人の輪に入りたいと思うならさ、バカになってみればいいんじゃねぇか?」
「……なに?」
「お前が孤独なんだったら、バカなフリができるようになればいい。頭がいいだけのヤツならいっぱいいるが、頭が良くて周りに人がいるヤツは少なくなる。……今は離れてるうちの団員に、そういうヤツがいてな」
「……」
「それでも心は理解できないだろうが、天才なんだったら人の心まで計算に入れてみろよ。そうしたら少しはわかるだろうぜ、人がどういう時にどう思うかがな」
それっぽいことを言っているが、こいつに心がなさそうというのは二番目の勝負で判明した。
なにせ、十歳前後の少年が記憶の世界とはいえなんともなさそうに人を殺していったんだぜ? 観察していたが、全く心が動いていなかった。その辺りで予測がついたんだけどな。
「……口車に乗ってあげるよ。負けたままなのも嫌だしね」
「そっか。じゃあよろしくな。えっと……」
どうやら誘いには乗ってくれるようだ。そういえば名前を知らないなと思っていると、
「カイム。僕はカイムだよ。アーカルムシリーズの星晶獣ハングドマンの契約者」
『よろしく、ワールドの契約者君。君は確かに面白いね。ワールドの契約者にしておくのが勿体ない』
カイムの名乗りに合わせて、彼の首飾りが明滅し別の声が響いてきた。ハングドマンの声のようだ。こうして喋るのは初めてのことかもしれない。
「俺はダナンだ。仮の契約者だが、まぁ頼むわ」
俺は言ってカイムに右手を差し出す。
「それは知ってるよ、握手でしょ。意味があるとは思えないけどね」
相変わらずの生意気さだが、握手には応じてくれた。
「人は形ってのを重んじるんだ。国と国との同盟時、代表者同士が握手していたらこれからは手を組むんだってのがわかりやすいだろ? まぁ、それが起源なのかは知らないけどな。多分そんなんだ」
「適当すぎない? まぁいいや」
カイムは言ってからハングドマンの書かれたカードを渡してくる。
「約束だったからね」
「おう」
受け取って、これで五枚目か。
「じゃあ騎空挺まで行くか。あ、そういやチェスでもお前最適で効率いい手を打ってきてたよな? ってことは罠とか搦め手とかに弱いんじゃね?」
「理論上は可能かもしれないね。途中で破られたり不利を招いたりすることもあるだろうけど」
「そうかそうか。じゃあもうちょっと勉強すればチェスでも勝てるようになるかもしれねぇなぁ。なにせ、人の心を読み取る方が俺の得意分野だ」
「だといいね」
俺の挑発に、しかしカイムは乗ってこなかった。しかし彼の口元には少しだけ笑みが浮かんでいた、と思う。
その後騎空挺に戻ってから仲間達にカイムを紹介しておいた。俺の真似を容易くできるってのはいい戦力だ。ベスティエ島での決戦にも役立ってくれるだろう。あと、彼が状況を聞いて思いついた案二つというのも聞いてみたいな。
五人目の賢者にして頼れる頭脳を持つカイムが同行することになった。ちょっと生意気なのは大目に見るしかないな。
というわけで、五人目の賢者カイムとの遭遇回でした。
カイム君とダナンはなんというか、空と白みたいな感じですかね。得意とするジャンル的に。
こんな感じの結果になったので、カイム君はダナンがバカ扱いしたことによって本編のように記憶喪失になることもなく、そのままの状態で加入します。