ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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六人の刀使いで、二番目にヤバいヤツの登場です。

あとTwitterではちらっと言いましたがハーゼリーラを加入できました。四人目の賢者です。ダナン君は今四人賢者がいるので同数ですね。
古戦場までにカッツェいけるかなぁ、というところです。


人斬りの噂

 幽世の存在によって燻んだ空へと変えられたナル・グランデ空域を、今日も俺達は騎空挺で駆けていた。

 

 カイムと出会ったのが十個目の島で、次が十三個目の島になる。実はこの島、当初は行く予定がなかったのだが人斬りの噂を聞きつけ急遽寄ることにしたのだ。

 

「ベスティエ島で最初に幽世の存在が現れた時の案を教えて欲しい?」

 

 俺はカイムと日課になりつつあるチェスをしながら件のことについて尋ねていた。

 

「ああ。前に当時の状況については話しただろ? それを聞いた上で、話を聞いただけで思いついたっていう案からこの状況でも活かせるのがないかと思ってな」

「ああ、そういうこと」

 

 話しながらチェスをするが、なかなかカイムは手強い。少しずつこうすればというのは見えてきたのだが、なかなか突破口が見えてこないのだ。

 

「二つ思いついてたけど、一つは使えなそうだからもう一つの案だね。もう一つは場所を利用した案だから今の状況でも、使おうと思えば使えるモノだとは思うよ」

「ほう?」

 

 じゃあ天才の案とやらを聞かせてもらおうか。

 

「幽世の門があったのはベスティエ島、別名星晶獣の楽園だ。そしてベスティエ島の主は母を司る星晶獣エキドナ。エキドナは言ってしまえばチェスで言うキングの位置なんでしょ? だったらそのエキドナを守るのが周りの駒、星晶獣達の役割だ。だから島にいる星晶獣達はエキドナを救うために協力してくれると思うんだ」

「確かになぁ。役割とかで動くもんじゃないだろうが、答えだけは合ってる」

 

 母を慕うってことがこいつにはわからないんだろう。

 

「しかし星晶獣の力を借りる、か。幽世の存在をあの島に留めることばっかり考えてたぜ」

「これくらいは思いつかないとね」

「……やっぱ生意気だわお前。まぁいいや。だがエキドナが中心になっていたベスティエ島の星晶獣が無事だと思うか?」

「普通の星晶獣なら意識が呑まれるだろうね。でも強力な星晶獣なら意識を戻す可能性がある。だから一旦幽世の存在を押し留めておいて、その間に声をかけるんだ」

「声を?」

「そう。小説で読んだよ。人はそういう時、発破をかけるんでしょ? ダナンの得意分野じゃん」

 

 どうやら着実に学びを得ているようだ。

 

「なるほど。まぁ俺の能力なら全体に伝えるってのもできるし、やってみる価値はあるわけだ」

「そういうこと。はい、チェック」

「なんだと? ……………これ、事実上のチェックメイトじゃねぇか」

「よくわかったね、次どう動いてもチェックメイトになるようにしたんだ」

「チッ。また負けかぁ。初心者にしては善戦してると思うんだけどなぁ」

 

 一日三戦。カイムとチェスをやっているが勝った試しがない。

 

「今日も三勝だね。どうする? まだ続ける?」

「……いや。戦略を練るターンだ。また明日な」

「いつでもどうぞ」

 

 余裕綽々である。十歳の癖に大人びたガキだ。まぁ頼りにはなるし悪くはないのか。ロベリアに比べたらマシだろ。

 

 そんなこともありつつ俺達は次の島に到着した。

 

 ここ最近部屋に籠ってばかりのレラクルを連れ出し、剣士狙いのようなのでアネンサとナルメアとで人斬り探しに向かった。残りには戦力がいないかどうかの確認と物資の補給を頼んでおく。

 

 俺達は道行く人に人斬りの話を聞きながら回った。

 そこで一人の少年と出会う。

 

「あ、お兄さん達も人斬りを探してるの?」

 

 少年は人懐っこい笑顔を浮かべて声をかけてきた。歳はカイムと俺の中間くらいだろうか。薄い青の髪に和装を着込んでいる。刀を腰に差しているので剣士だろう。体格はしっかりしているので鍛えてはいるようだ。身のこなしも良さそうなので手練れには違いない。俺より若くてかなり強い可能性もあるってことか。カイムに引き続き、天才ばっかりで嫌になる。

 しかし、それよりも気になることがあった。

 

「……お前は?」

 

 俺は警戒して尋ねる。気になることのせいで信用できないが、そうでなくとも人斬りを追っていて遭遇したヤツを信用することはない。

 

「そう警戒しないでよ。僕はトキリ。僕も人斬りを追ってるんだ。痕跡を探している内にお兄さん達を見つけてね。見たところ剣士だし、一緒に戦えるならその方がいいかと思って」

 

 少年は笑みを浮かべたまま言った。……そういうことね。

 

「そうか。じゃあ一緒に行くか」

「おい、団長」

 

 俺が快く引き受けるとレラクルから待ったの声がかかった。まぁこいつは気づくだろう。エルーンは鼻がいいからな。

 

「いいんだよ、レラクル」

「……わかった」

 

 俺は言って彼の懸念を理解していると示す。ここは大人しく引き下がってくれた。

 

「良かった。さっきまで人斬りがいたんじゃないかってところまで追って、怖くなっちゃってね。人数が増えれば心強いよ」

 

 トキリはいつまでも無邪気な笑顔で言ったのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「ここが人斬りがいたと思われる現場だよ」

 

 トキリが案内したのは街道沿いの林だった。そこには一人の男性が絶命している。アネンサくらいは青褪めるかと思っていたが、取り乱すことなく冷静そうだった。それがいいことなのかはわからないが。

 割りと綺麗な太刀筋で斬りつけられている。人斬りの噂が本当なら、この男性が使っていた剣術を真似して斬ったからだろう。なにがしたいのかよくわからんが、下らないことをする。

 

「人斬りは剣術を真似て相手を殺す。この人はさぞ悔しかったんだろうなぁ。憤怒の表情をしてる」

 

 呑気というかなんというか、トキリはそんな感想を零した。内にある感情が隠し切れてないぞ、未熟者。

 

「下らないことをするヤツもいるもんだな。……血が乾いてないし、近くにいるかもしれねぇ。手分けして探そうぜ。見つけたら大声で呼ぶ、それでいいだろ」

 

 俺は言って死体に屈み傷跡を見る。……【ドクター】になれるようになったおかげでこういう傷跡からどういう武器を使ったかがわかるんだよなぁ。まぁ人斬りは剣士だって話だから大雑把には刀なんだけど。【ドクター】を所持してる俺は、更にその先を行く。どんな形状の刀なのか、刃渡りはどれくらいなのか。そういったことを含めて傷から割り出せるのだ。観察が得意という俺の長所を伸ばすいい『ジョブ』だ。

 誰も俺の提案に反対しなかったので、五人それぞれで分かれて探索することになった。俺は死体を少し調べてから、四人が行かなかった方角へと歩を進めていく。とはいえ多分こうして探していて出会うことはないだろう。

 

「あ、ダナンさん!」

 

 少ししてなぜかこっちに来たトキリが声をかけてきた。

 

「どうした? 手分けして探してるところだろ?」

「そうなんだけど、ちょっと見て欲しいモノがあって」

「俺に?」

「うん。だってダナンさんがリーダーなんでしょ? レラクルさんが団長って呼んでたし」

 

 なるほど、いい判断だな。よく見ている。

 

「わかった。じゃあ案内してくれ」

 

 俺に声をかけるのは正しい判断だ。こうして彼の案内で見てもらいたいモノとやらの場所へ行く。

 

「……これは、さっきと同じ殺され方をしてるな」

 

 トキリに連れていかれた場所には、別の死体があった。こっちはさっき見たモノより更に新しい。傷跡から同じ剣術で殺されているだろうということがわかった。

 

「やっぱり、ダナンさんにお願いして良かったよ。同じなんじゃないかなぁとは思ってたんだけど」

「いい判断だな。確かにこれは同じ力の入れ方、振り方が基本となってるみたいだ」

 

 俺は死体に屈み込んで様子を調べる。

 

 ――そこで、俺の首横に冷たいモノが触れる。刀だ。

 

「……さっきさぁ、人斬りを下らないって言ったよね? その言葉、撤回した方がいいよ? だって、僕こそが人斬りなんだからさぁ!」

 

 紛れもなくトキリの声だ。興奮した様子なのが伝わってくる。……なんだか、簡単すぎてつまらない結末だな。

 

「……そうだな、だからいい判断だって言ったんだよ」

「? ……っ!」

 

 俺は言って即座に振り返り様拳を叩き込もうとしたのだが、間一髪スウェーで避けられてしまった。それくらいはやるらしい。

 

「いやぁ、俺を狙ったのはいい判断だったぜ。なにせ、俺はあの三人とは違って凡才でな。まだ、お前に勝ち目がある」

「……はっ。なに言ってるんだよ。僕は剣士が相手なら誰にも負けない。僕は最強だ。僕に真似できない剣術なんてないんだからね」

 

 俺の言葉に、トキリは表情を豹変させ歪に嗤う。……いや、あいつらが剣士とかいう次元ならな? でもあいつらの剣は昇華されすぎてて真似しようもないと思うんだが。

 

「そうかい。じゃあ俺は剣士じゃないし真似される心配もないってことで」

 

 俺は軽く言って首を回し手首をぶらつかせて身体を解す。

 

「さて、かかってこいよクソガキ。痛い目に遭わせてやる」

「遺言がそれでいいのかなっ!」

 

 トキリは刀を構えて突っ込んでくる。……うん、まぁ速いっちゃ速いんだけどな。

 俺は必要最低限の動きで刀を回避するとカウンター気味に脚の爪先を鳩尾へ叩き込んでやった。

 

「がっ!?」

 

 呻いて後退したところを追い、懐に潜り込んで顎に一発拳を入れる。続けて顔面をぶん殴ってやったが、その後後ろに跳んで距離を取られる。間合いが確保できれば問題ないと言わんばかりに距離を一定に保って攻撃してくるが、横一閃を屈んで回避しながら足払いをかけて体勢を崩させると、低い姿勢から倒れていくトキリの腹部に掌底を捻じ込んだ。

 

「ぐっ、あぁ!」

 

 呻き声を上げて吹き飛び、地面を転がって和服に土をつける。それでも俺を睨み上げながら立ち上がろうとしていた。

 

「なんだ、弱いなお前」

「っ!!」

 

 俺ががっかりしたように呟くと、トキリが憤ったらしく目を剥いて歯軋りして立ち上がり、そのまま俺に突っ込んできた。

 

「相手との力量差くらいわかれって」

 

 俺は言いながら突っ込んできた攻撃をかわす。どこの剣術かは知らないが、こんなヤツに使われていたら可哀想だ。

 とりあえず肋の一本や二本は折って大人しくなってもらうとしよう。ということで回避した隙に蹴りを叩き込んでやった。手応えはあったし、トキリも動きを止めて咳き込んでいる。

 

「クソッ、なんで……!」

「実力の差だろ。お前みたいな見様見真似だけの剣士に負ける筋合いはねぇよ」

「なんだと!? 僕は最強なんだ! 天才なんだ! お前なんかに負けるはずがない!」

 

 肥大化した自尊心故だろうか。だが顔に痣を作って言う様は天才だとか最強だとかには程遠い。

 

「ふぅん。じゃあ剣士として戦ってやろう。【剣豪】」

 

 『ジョブ』を使っていない俺にすら勝てないようじゃ、他三人にも当然勝てない。だがプライドが高いようなので剣士としての勝負なら乗ってくれるだろう。

 俺は【剣豪】を発動してイクサバを担ぐ。

 

「……後悔しても遅いからなぁ!」

 

 トキリはこれなら勝てると言わんばかりの笑みを浮かべて襲いかかってきた。当然、俺が負けるはずがない。むしろ徹底的に叩きのめすために、

 

「無明斬」

 

 自分の動きを短時間三倍にさせる。『ジョブ』なしでも圧倒できたので【剣豪】を発動すれば相手にもならない。その上三倍速になれば、

 

「は……?」

 

 トキリの目にはもしかしたら、俺が複数人いるように見えているのかもしれない。敵を前にして呆然とした声が漏れていた。俺は容赦なく、しかし峰打ちでトキリを滅多打ちにしてやった。

 何本かは骨折しているだろう。吹き飛ばされてごろごろと転がったトキリは血反吐を吐いた。

 

「主の剣には心がない。信念がない。そっ刀で儂に傷つけようゆうのが百年早い。そうやって地べた這うのがお似合いじゃき」

 

 俺はイクサバを肩に担いで無様に転がるトキリを見下ろす。

 

「……クソ。僕が負けるわけない。僕は最強なんだ!」

 

 そこになんの意地があるのか、彼は立ち上がった。

 

「……これは僕がコピーした中で一番の技を改良した技だ。これを受けてみろ!」

 

 トキリは刀を両手で握り左腰に添える。

 

「上等じゃ、かかってこい。真っ向から叩き潰したる」

 

 俺は言って刀を持っていない右手の人差し指でかかってこいと挑発する。

 

「風間心眼流、奥義!」

 

 トキリは風を纏い突進してくる。落ちていた草木や土などが舞い上がり、技だけは凄いのだと訴えてくる。

 そして俺の目の前で立ち止まると刀を振った。振った刀に巻き起こした風が集中し、竜巻すら纏っているかのような一太刀が襲い来る。

 

「疾風怒涛ッ!!」

 

 技自体は確かに強力だ。だが本人に気迫が備わっていない。こいつの剣術はただの真似事。中身が伴っていないのだ。

 

「無駄じゃ」

 

 俺は言って、渾身の一振りをぶつけて技を相殺してやった。

 

「……嘘、だ」

 

 眼前のトキリは愕然とした表情で呟く。

 

「じゃあもう一度放ってみゆうか?」

 

 俺は言いながら、殺気をぶつけ冷たい目で見下す。

 

「次はそっ首刎ねちゃるが」

「っ……!?」

 

 トキリの顔から血の気が引き、震えた手から刀が落ちた。がっくりと膝を突いたので、勝負はあっただろう。

 俺は『ジョブ』を解除して屈み込む。

 

「お前は今のところうちの団員の誰にも勝てないが、まぁいいだろ。お前に殺せるヤツはうちにはいない。上には上がいることを教えてやるよ。つまんない自己満足の旅は終わりだ」

「……なにを言って」

 

 俺は髪の毛を掴んで顔を上げさせる。

 

「……お前は負けたんだ。お前が今までしてきたように、殺してやってもいいんだがな。今は少しでも戦力が欲しいところだし、なにより今風っぽい奥義使ったから、丁度俺が集めてる六人の刀使いの風枠になりそうだしな」

「……なんだよ、それ」

「死にたくなけりゃ俺と来い。断るなら殺す。簡単な話だよ」

 

 俺は表情を消して冷淡に告げる。トキリは自分が負けると思っていなさそうだったし、ピンチに弱いのかもしれない。視線を泳がせると力を抜いた。

 

「……わかったよ、言うことを聞けばいいんでしょ」

「立場がわかってるようでなによりだ」

 

 俺はにっこりと告げて手を離す。それから顔を別の方向へと向けた。

 

「ってことでいいな、お前ら」

 

 俺の視線の先には先程分かれた三人が立っていた。おそらくレラクルが声をかけたのだろうと思う。

 

「それが団長の判断なら。なにより、そこの自称天才剣士の痛々しさは目に余る。人斬りを放置しておくわけにもいかないしな」

「ダナンちゃんがそう言うならいいと思うよ」

「弱いのにいいの~? そういう人、足手纏いって言うんでしょ~」

 

 レラクルとアネンサの言葉に苛立っていたようだが、トキリは我慢しているようだ。流石に多対一で粋がるほどではないようだ。

 

「人数の埋め合わせみたいなもんだからいいんだよ。それに、その辺の幽世の存在になら負けないぐらいの実力はあるだろうしな」

 

 あと本人には絶対言わないが、戦っている間に相手の剣術を真似するところは天才さが窺えはする。……まぁそれ以上の天才にこの間会っちまったからショボく見えるかもしれないが、才能自体はあるようだ。

 ただそれが間違った方向に伸びてしまっているようだったので、ここらでプライドをべきべきにへし折って更正してもらった方がいいだろう。

 

 というわけで、騎空挺に戻り他と合流してから、人斬りを確保して仲間に入れたと報告した。善人のアリアやレオナは驚愕していたが。




六人の中で二番目にヤバいヤツ、ではありますが同行している者も含め仲間達の中では最弱君です。
中途半端に天才性を持っていたせいで性格が歪み、他者を害することを楽しみ出してしまいましたが、天災ともされる星晶獣とも戦うような化け物達と遭遇した結果プライドがべきべきにされていく予定。

更正というか矯正させられる子ですね。まぁ自業自得ですが。

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