今回は朝に更新しますがあの子が出てくるため惨殺シーンがあります。あまり詳しくは描写していないので大丈夫だと思いますが、念のため読む時間にはお気をつけください。
そして、最後の島に来た。
途中トキリと会った島は当初の予定にはなかったので、二十一個目の島となる。これでレオナの宛ては全て回ったことになるか。ただ最後の島は広大だった。大きく発展しているというわけではないのだが、島が大きい。一応港には着いたが手分けして戦力を集うことになるだろう。
あとここまでフォリアはまだ見かけていない。島の心当たりを回ったらベスティエ島に戻ったのだろうか。
「……ん」
俺は島に上陸して、ローブのポケットにあるカードが熱を持っていることに気づいた。どうやらここにも賢者がいるらしい。……これで六人目か。まぁ順調と言えば順調だな。かなり短い期間で半分以上見つけられたみたいだし。
「どうかした?」
「ああ。まぁ、俺一人で済ませてくる」
カイムが怪訝そうに尋ねてくるのに答えると、彼はそれだけで理解したらしい。
「その方がいいね」
こくりと頷いた。
「じゃあ各自決戦前最後の補給を済ませておいてくれ。トキリからは目を離さないように。俺はちょっと用があるから別行動だ」
一応団長という立場なので、指示は俺が行う。
指示を出した後の細かいことは優秀な人材が揃っているので各々で調整してくれるだろう。
ということで、俺は一人カードを頼りに賢者を探し回ることにした。……島が広いから、大まかな感覚しかわからない分面倒そうなんだが。
とはいえ賢者集めに手を抜くわけにもいかない。できれば十人集めたいことだしな。ただ十人集めた瞬間にワールドの野望が実行される、なんてことになるなら対策を練っておいた方がいい。今のところワールドの手にない賢者がエスタリオラだけだからな。何人かワールドの支配から解放させておいた方がいいか? まぁそう簡単には集まり切らないだろうからまだ考慮の段階でいいだろう。
だが十枚目のカードを手にする段階では念のため全員解放させておいた方がいいな。ワールドの目的を阻止するか否かはまだ決め切れていない部分だが、諸手を挙げて賛同するわけでもない。着々と準備だけは進めておいた方がいいだろう。
賢者のことやベスティエ島に着いてからの作戦などを考えながら賢者を探し歩いていると、森に突き当たった。道なりには移動せず賢者のいる方へと歩くことにしていたのだが。カードの熱はかなり強くなっている。賢者が近い証拠だ。方角も、これまで歩いてきた通り真っ直ぐ森の方だと思われる。……つまりこの森の中に賢者がいる可能性があるわけだ。森がかなり浅い場合もあるけどな。
まだ午前中なので明るいし、方角さえ見失わなければ迷うこともないだろう。
「行くか」
道沿いではないが、真っ直ぐカードに導かれるまま賢者の下へ向かうとしよう。
次はどんなヤツなんだろうか。一筋縄ではいかない曲者だとは思っているが、さて。
できればマシなヤツであってくれという期待はすればするほど裏切られるんだろうなと思いつつ森を歩いていると、
「この女! お前この間ヨッちゃんと一緒にいたヤツだろ! あいつをどこへやった!!」
カードに触っていなくても熱くなっていることがわかるほど近づいてきたところで、男の怒鳴り声が聞こえてきた。気配を消してこっそりと窺う。
男が三人、険悪な雰囲気で各々剣などの武器を持って徒党を組んでいる。
そんな男共と対峙しているのは、長い黒髪を持つエルーンの少女だった。赤い瞳は怯えを帯びており、目の下には大きく隈が出来ている。服装は紺色のローブに赤いケープという賢者共通の恰好なので、彼女が探していた賢者なのだろう。おどおどした雰囲気で胸の前で手を組んでいる様子からは、他の賢者が持っているような自信というモノが見て取れない。だが彼女は星晶獣と契約した賢者のはずだ。
……ここは様子を見ておくか。
険悪な雰囲気だが、賢者なら相当に強いはず。どうやって撃退するのか見てみたいというのもある。あと人柄がわかるといいんだけどな。
「……ヨッちゃん? 誰のこと?」
賢者の少女は怯えた様子で男達を見ている。
「ヨハンネだよ! 数日前までお前と一緒にいた!」
「ヨハンネ……? ああ、あの」
男が名前を口にしたことで、少女も誰かわかったようだ。……その名前を聞いた時、少女が口元に暗い笑みを浮かべたのは俺の気のせいだろうか?
「覚えがあんだろ! あいつはどこにいやがる! 答えねぇと、ただじゃ済まさねぇぞ!!」
男達は相当怒り狂っているようだ。剣の切っ先を向けて怒鳴りつける。
それを受けて少女は、両手で顔を覆い――指の隙間から暗い瞳を向けた。ナルメアも偶に目から感情が消えることがあるのだが、それは目から光が消えるという表現が正しいだろう。ただ今の少女の目は闇が覗いていると言った方が正しい気がする。
「「「っ!?」」」
ぞっとしたらしく、男達が反射的に半歩下がった。
「……あなた達も、私も否定するのね」
低く暗い声で呟いたかと思うと、
「ならあなた達もいらない! 消えればいい! ――デス!!」
ヒステリックに叫び、少女はおそらく契約している星晶獣であるデスを呼び出す。デスは漆黒の死に装束のようなドレスを纏い仮面をつけた女性といったような姿だ。
「殺して!!」
「……嗚呼、私ノ愛シイ人。私ダケハ貴女ヲ愛シテル」
デスは言うと鎌のようになった揉み上げを振り回して襲いかかった。
呆気なく先頭にいた男が切り裂かれ絶命する。赤黒い血が噴き出して男二人の顔を濡らす。
「ひっ……!」
「嫌だぁ、死にたくない!!」
残った二人は怯えていた。一人は腰を抜かして尻餅を突き、もう一人が逃げ出そうと背を向けて走り出す。
デスは契約者の命令に忠実に応えて、まず尻餅を突いた男を頭から両断する。血塗れになるのも構わず走り出した男に追いつくと鎌のようになった刃を男の首前に持ってきて、そのまま引いた。男の首が飛んで血が噴出する。男の身体は斬られたことに気づいていないかのように数歩走ったがやがて崩れ落ちた。
「ありがとう、デス」
そう言って戻ってきたデスを見上げる彼女の目にはある程度の信頼が見て取れた。……ああ、こいつは。
俺は目を細めて六人目の賢者を見据える。
……ヤバいヤツだ。
確信した。間違いなくヤバいヤツだ。これまでの賢者で、ヤバいかヤバくないで分けるなら確実にヤバいヤツ側に入る部類だ。
因みにロベリア、ガイゼンボーガ、この娘がヤバいヤツ側に位置する。この三人に比べたらまだフラウやエスタリオラ、カイムはマシな方だ。
まとも順でいくとエスタリオラ、フラウ、カイム、ガイゼンボーガ、この娘、ロベリアだろうか。
「愛シイ人。迎エガ来テル」
デスは不意に俺が隠れている物陰の方に目を向けてきた。……そういやフラウも俺の存在を感知してたとか言ってた気がするな。
「えっ? 迎えって?」
彼女はきょとんとデスを見上げ、続けてデスの見ている方向に目を向ける。これは姿を現した方が身のためだな。
「……悪いな、様子を見てたんだ」
言って姿を現し、同時に頭をフル回転させる。……こいつはおそらく、選択肢を誤れば躊躇なく俺を殺しに来るだろう。つまりこれまでの様子を元に正解を引き続けなければいけないわけだ。ああクソ、ホント厄介なヤツがいたもんだ。ロベリアの方がまだ扱いやすいかもしれん。いや、ないわ。
「……あなたは?」
少女はさっきの様子からすぐにおどおどした様子に戻っていた。彼女の琴線にさえ触れなければ基本的には大人しいのかもしれない。
「俺はダナン。ワールドの契約者候補だ。あんた賢者なんだろ? あんたを探してたんだよ」
半分もこの期間に集めておいてなんだか、一応まだ仮のはずだ。有力候補ではあるだろうけどな。
「ワールドの……じゃあ、あなたがデスの言ってた人なんだ」
「デスが?」
「う、うん。デスがワールドの契約者がこの島に来たって教えてくれてたから」
「ワールドノ契約者、賢者求メル。賢者ヲ探シテイル。ダカラ、私ノ愛シイ人ノトコロニモ来ル」
「ふふ、デスの言う通りあなたが来たんだね」
こうしてみると、良好な関係を築いているようにも思える。……良好な関係を築いてた賢者ってロベリアぐらいしかいないぞ? つまりヤバいのでは? いや、今更か。
「なるほど。わかってるなら話が早い。俺達と一緒に来てくれないか? 賢者とカードを集めてるってのもあるが、今は少しでも戦力が欲しい」
俺は言って、少し近づき手を差し伸べる。少女は俺の掌と顔を交互に見比べておろおろしていた。
「……えっと、私なんかが行っても、いいの?」
「ああ。さっきのを見る限り、星晶獣が戦えるからな。充分戦力になる」
俺が頷くと、自信なさげな表情の中に少しだけ光が差したような気がした。
「もちろん、戦力が欲しいとかってのは俺の都合だ。俺にできることがあれば言ってくれ。できる限りの見返りはする」
一方的な関係はよろしくない。できれば俺もなにかあげたいところだ。さて、ここでなにを求めるかも人柄が出てくるんだけどな。
「……えっと、なんでもいいの?」
「俺にできることならな」
できないことを要求されても困る。しかし要求を断ったら「……あなたも私を否定するのね」モードに入る可能性が高い気がする。そうなったら終わりだから、できればそう難易度の高くないことだといいんだけどなぁ。
「……あなたにできるのか、できないのかがわからなくて」
「そうか。難しいことなのか?」
「多分……? 今までデスしか、してくれたことがないから」
疑問形だったがヒントが出てきた。……デスしかしてくれなかったことを、自分にして欲しいってのが要求か。これまでデスの発言は少ないが、そこで出てきたことから読み取るなら……愛するとかか? デスがこの娘を「愛シイ人」って呼んでるし、最初登場した時も「私ダケハ貴女を愛シテル」とか言ってたし。その可能性が高いか。
ってことは俺にも愛して欲しいってか? いや、愛するってなんだよ。けどもしデスしかこの娘を愛してくれたことがないんだったら、この娘は愛がなんなのかすらわかってないんじゃないか? つまり、実際に愛を求められるかどうかは怪しい。なら多分、「愛している」と告げて彼女を否定せずにいればいい、のか?
確信は得られない。だが今わかるだけではこれが限界だ。……やってみるしかねぇかぁ。どっちみち彼女を拒絶する道はないんだからな。
「……わかった。そういうことなら、言うだけ言ってみてくれ」
「いいの……?」
「ああ。できるだけ、できるように頑張ってみる」
「わ、わかった。じゃあ、その……」
少女は胸の前で軽く手を合わせて不安げな瞳で見上げてくる。
「……私を認めて、否定しないで……。私を、愛して……!」
それが、俺に対してして欲しいことのようだ。……いや重い。まぁ、覚悟の上だ。
「わかった」
俺は頷いて彼女に近寄りできるだけ優しく、柔らかく頭を撫でてやる。
「……え?」
エルーン特有の耳がぴくぴくと怯えたように動き、しばらく頭を撫でていると怯えが減ったのかへたりと倒れた。……こういうところだけなら小動物っぽい可愛さがあるんだけどなぁ。
「いきなり愛するってのもなかなか難しいモノがあるけど、そこはまぁ追々な。とりあえずは否定しないし、認めてみよう。これはその一歩だ」
「……うん」
嫌がる様子は見せず頷いてくれたので良かった。まぁ愛するなんてモノがなにかわかっていない以上、口にすればそれでいいような気はするんだけどな。
しばらく撫でてからそろそろいいかと手を離す。
「そういや名前を聞いてなかったっけな」
「あ、うん。ごめんなさい。私はニーア。そこにいるアーカルムの星晶獣デスの契約者」
「よろしくな、ニーア」
「うん。それでえっと、一緒に行くなら準備しないといけないから……」
「そうか。じゃあ荷物運びとか手伝うよ」
「ホント? じゃあうちに来てもらっていい?」
「ああ」
俺は言って、デスが引っ込んだのでニーアと二人彼女の家に向かった。この調子ならなんとかなるかな、とこの時の俺は思っていた。
だがまさか、彼女の家にあんなモノがあるなんて――この時の俺はまだ知る由もないのだった。