ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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昨日は二話更新してたのでいいかな、と思い夜に更新しませんでした。
ギリセーフかなと。


昏き決意

「あいつらマジかよ。リヴァイアサンを倒しやがった」

 

 ことの始終を見ていた俺は、呆然と呟いた。

 

 リヴァイアサンは大人しくなり、グラン達はバハムートが消えかかっているからか慌ただしく地上へと戻ってきた。落ち着きのないことだが彼らの顔は晴れやかで達成感に満ちていた。

 

「行くぞ」

 

 黒騎士に動揺はなく、つかつかとヤツらの近くまで歩いていく。

 

「……もう休んでいいからね、リヴァイアサン」

 

 ルリアがコロッサスの時と同じようにリヴァイアサンを吸収していく。……バハムートのことと言い、不思議な力を持つ子だ。仲睦まじそうにグランと手を繋いでいたが、どんな関係なんだろうか。話ができる機会があったら盛大にからかってたりたい。

 

「…悪いがその力、こちらにも渡してもらうぞ」

 

 傍らに立つ黒騎士が言って、

 

「……じゅる」

 

 オルキスもなにをする気なのかわかっているらしく少し前に出た。

 

「黒騎士!? なにをする気だ!」

 

 俺達の登場に警戒心を露わにするが、別に黒騎士自体が敵意を持っているわけではなさそうだ。これなら戦わないかな?

 

「言っただろう。我々にも役割がある、と」

 

 言って、黒騎士はオルキスへと視線を落とす。

 

「さぁ、人形。お前もその力を喰らえ」

「……ん。いただき、ます」

 

 オルキスは言うとルリアと同じような光を発して、リヴァイアサンからルリアへと流れ出る光の流れを自分へと移す。

 

「ひゃんっ!? な、なに……!?」

「あの女の子もリヴァイアサンの力を!? ルリアと同じことができるのか!」

 

 吸収を中断させられたルリアも、旅を共にしてきたラカムも驚いていることから、彼らも知らなかったのだろう。

 やがてリヴァイアサンから流れる光が全て吸収された。

 

「……ごちそう、さま」

 

 吸収し終えたオルキスはいつもと変わらぬトーンで呟いた。

 

「ちょっと黒い……鎧の! どういうことか説明しなさいよ!」

 

 イオが黒騎士に声をかけようとして、近くに真っ黒な俺もいるからか微妙につけ足しつつ尋ねる。

 

「答える義理があるとは思えないが……そうだな。答えを知りたくばルーマシー群島まで来るといい。まぁ、そこで答えが得られるかはお前達次第だがな。もう行くぞ、人形」

「……またね」

 

 黒騎士は言うだけ言って踵を返す。オルキスは表情を変えずに小さく手を振ってその後に続く。状況がイマイチ理解できていない俺は後で尋ねようと思いながら、グランとジータへ微笑みかける。

 

「じゃあな、お二人さん。また会おうぜ」

 

 ひらひらと手を振って別れを告げ、決してあの人にバレないようフードを被ったまま二人の後をついて歩いた。

 

 帝国兵はすっかり撤退したのか、全く姿が見えない。俺達三人が小型騎空艇まで戻ってきても、あれだけ盛大に出迎えてくれた兵士達はいなくなっていた。

 

「おいおい、寂しいな。俺達置いてさっさと逃げやがったぞあいつら」

「ふん。フュリアスが率いているなら当然のことだ。アウギュステへの侵攻は兎も角、アドウェルサは完成した。悪戯に兵を消費するよりは利口だろう」

 

 小型艇が残っていただけマシだ、と黒騎士は憮然として言う。まぁ帰れなくなるよりはいいか。

 

「いつまでフードを被っているつもりだ、貴様は?」

 

 小型艇に乗り込みながら、細工などされていないか確認していた俺に声をかけてくる。……ああ、そういや被ったままだった。いやだってまさかこんなところでナルメアと会うなんて思ってもみなかったんだもん。そりゃ隠れもするわ。

 

「そうだな、もう充分だろ。おっちゃん、こっちはオーケーだ。発進してくれ」

 

 俺はフードを外し小さな船室へと入る前に三人乗ったので操縦士のおっちゃんに声をかけた。帝国の息がかかっておらず事情に深く踏み込まないいい人だ。操縦の腕前も良くて乗り心地がいいというのもいい点だった。

 

「なぜフードを途中から被る必要があった?」

 

 こちらが先程のオルキスのことなどについて聞こうと思っていたのだが、先に質問されてしまった。

 

「あー……。別に話したくないわけじゃないんだが、ちょっと知り合いがいてな。あんまり顔見られるとマズいのかと思って隠したんだ」

 

 あなたに助けられた命で多くの人の命を奪っています、なんて言えるわけねぇしな。会わせる顔がないっつうか。まぁ金も少なくなってきたし、もうちょい稼いでから会った方が恩を返しやすいかな、っていうか。

 

「ほう? あの最後に波を斬った小娘がか。どこで知り合ったかは知らないが、まさか浮ついた関係ではないだろうな」

 

 少し面白そうに尋ねてくる。……こいつ、楽しんでいやがる。

 

「そんなんじゃねぇよ。ってかあんたもそういう風に結びつけるんだな。ドランクを連想したぞ」

「貴様、どうやら死にたいらしいな……!」

 

 黒騎士が冗談なのか腰の剣を握って威圧してくる。

 

「だったらそういうんじゃねぇ、で納得しとけ。……俺からも聞いていいか?」

 

 彼女を宥めつつ、少し真剣な雰囲気を持って聞いてみる。

 

「なんだ?」

 

 冗談だったようで剣にかけた手を下ろしてくれる。

 

「グラン達と一緒にいたあの隻眼の老兵、あいつお前の親父かなんかか?」

「貴様、なぜそれを……っ!」

 

 俺の質問に動揺し、その後で自分の失言に気づく。

 

「前に俺が軽口で言った『家庭を省みない父親』に過剰に反応してたし。あんたの素顔を知ってる身としちゃ、似たとこあるのがわかったしな。髪の色とか目つきの鋭さとか――っ!」

 

 語っている内に、俺の首筋に剣で突きつけられていた。

 

「貴様、どうやら死にたいらしいな」

「……ドランクと一緒にされた時とセリフが変わってねぇぞ」

 

 軽口を叩きつつも、兜の奥の瞳はおそらく本気だろうと当たりをつける。……この反応、どうやら親子ってことで間違ってはねぇようだな。なら、もう一つ疑問が湧いてくる。

 

「……俺の中ではあんたをあのおっさんの娘と仮定する。となるともう一つ疑問が出てきてな。あのおっさん、最後リヴァイアサンにトドメを刺す時『娘を救ってくれた』っつってたんだが、それがあんただとしたら。あんたは命を救ってくれたリヴァイアサンが苦しむようなことを、故郷の人が苦しむのを見逃してたってことになる。そうまでして成し遂げたいあんたの目的ってのはなんだ?」

 

 俺は表情と声を真剣なモノにして聞いた。最悪首が刎ねられることも考えていたが、黒騎士は剣を下ろして鞘に納めた。

 ……まぁ半分は嘘だけどな。あの距離で遠くの声が聞こえるはずもない。買ってた単眼鏡で眺めつつ読唇術でそれっぽく訳してみただけだ。どうやら無事当たってたみたいだけどな。

 

「……観察眼を褒めたのは間違いだったな」

 

 言いながら、どっかりと室内にあったベッドに腰かける。

 

「じゃあ……」

「そうだ。私はあのアウギュステで生まれ育った。あまり覚えていないが……海で溺れて奇跡的に助かったのも事実だ」

 

 覚えていないならまだしも、わかっていてそれを度外視したと言う。なにが彼女をそこまで突き動かすのか。

 

「いいだろう、貴様には話してやる。ただし他言無用だ。私が話すと決めた者以外には話すなよ。墓まで持っていく覚悟で聞け」

「おう、望むところだ。こう見えて口は堅いからな。と言うか、多分おいそれと口にできねぇ内容だろうしな」

「わかっているようだな」

 

 黒騎士は立てた膝の上に肘を突いて手を組み、壁に寄りかかって立つ俺に向けて語り始める。オルキスは変わらぬ無表情でちょこんと黒騎士の隣に、距離を空けて座った。

 

「私の目的は――オルキスを取り戻すことだ」

 

 重い口が開かれた。……オルキス、と言われてぬいぐるみを抱える青髪の少女を見るが、()()。そうだ、黒騎士はこの子を「人形」と呼んでいる。それはつまり。

 

「……オルキスは、あんたの言ってるオルキスとは別なのか」

「そうだ」

 

 黒騎士は全くトーンを変えずに断言する。オルキスは僅かに俯いた。……闇が深ぇなぁ。

 

「オルキスは……エルステ()()の王女だった」

「王国……エルステ帝国の基盤になったとかいう国か。王族は確か……王女を残して死亡。王女も行方不明、だったか。なにかの記事で読んだ気がするな」

「ああ。エルステ王国は、あの時滅んだと言っていい。今帝国はあの女狐――宰相フリーシアが実権を握っているが、ヤツも元々エルステ王国の人間だ」

「ふぅん。で、オルキス王女とこのオルキスの関係は?」

「さぁな。詳しいことは、その場にいなかった私が知る由もない。調べているが、オルキスがいなくなり代わりにこの人形があった。フリーシアも驚いているようだった。星晶獣の仕業だと言っていたが。ただ、なにかがあったのだけは紛れもない事実だ」

 

 黒騎士でも不確かってことか。

 

「ちなみにこのオルキスが本物のオルキス王女ってことは?」

「断じてない。オルキスは……明るく快活で周りを笑顔にするような、そんな優しい子だった」

 

 僅かな可能性を探ってみるも、きっぱりと断言されてしまった。確かに明るいオルキスを知っているなら今の感情が薄いようなオルキスは別人と言えるのかもしれない。

 

「……ただそれが、記憶を全て失ったオルキスなのか、それとも全く別の存在なのかは私にもわからん」

 

 黒騎士にも不明な点は多いということか。

 

「そんな不確かな状態で取り戻そうってのか? もし全く別の存在だとしたら、どうやっても取り戻すことは不可能だろ。こいつがオルキスじゃなくて、オルキスはもういないってんならな」

 

 現実を突きつけるようだが、取り戻すと一口に言ったってその方法がなければ無駄足だ。方法もないのに願望だけを抱えて動いているようなら、俺は協力できない。

 

「方法はある」

 

 またしても断言した。……まぁ、なければ心が持つはずもねぇ、か。夢幻(ゆめまぼろし)を追いかけるだけで七曜の騎士に至るのは、多分無理だ。確固たる意志と覚悟がなけりゃな。

 

「ルリアには魂を分け与える能力がある。その力で魂のない肉体へ魂を与えると、ルリアの人格が魂と共に移植される。そして、能力を持つルリアに以前のオルキスの人格を再現し、人形の人格を上書きする。記憶は引き継がれないが、以前の人格のオルキスを取り戻す……これが、私の計画の全てだ」

 

 意識してか一定の声音で告げてくる。

 

「待てよ? それって下手すりゃ二人共……」

「ああ、犠牲になるだろうな」

 

 俺の懸念を黒騎士は先んじて口にした。……わかっててやるつもりなのかよ。どんだけ重い覚悟なんだ。

 

「……そうかよ。話はわかった」

「そうか」

「つまりあんたは重度の友達想いってことだな」

「……貴様、おちょくっているのか」

「違ぇよ。俺はてっきりあんたがルリアとオルキスが持つ星晶獣の力で世界を滅亡させる。とでも言うのかと思ってたからな。随分、なんていうか身近で小さい目的だ」

「バカにしているのか?」

「してねぇって。現実味があって、いい目的じゃねぇか。今いるルリアとオルキスを犠牲にするとしてもな。大それた野望なんかより、余程好感が持てる」

「……嘘を吐くな、貴様友人などいないだろう」

「そりゃな。でも別に、俺はそれ聞いたからって離反はしねぇよ? ただまぁ、それとオルキスを人形と呼ぶことは別な」

 

 俺は表情が陰っているオルキスの脇を抱えて持ち上げる。少し驚いたようにこちらを見てくる瞳に笑いかけた。

 

「貴様なにを……」

「俺はあんたの目論見を阻むつもりはねぇよ。阻もうとして殺されたら俺の目的が達成できないしな。自分の目的を優先する、できる人間だ」

 

 例え今いるオルキスを見捨てる選択肢だろうと、弱い俺にできることなんてたかが知れている。多分俺には見捨てる以外の選択肢を選べない。仮に今のオルキスを助けたいから別の方法を探そう、という心があったとしてもそういった感情を脇に置けてしまう人間だからだ。

 

 しかし、同時にこうも思うのだ。

 

「――犠牲になるんだとしたら、もうすぐ終わるんだとしたら、もっとやりたいことやってかねぇと勿体ないじゃねぇか」

「……」

 

 オルキスを下ろし、黒騎士を見据える。

 

「なにもできなくて消えるより、なにか残して消えた方が、俺はいいと思うんだけどなぁ」

「……ふん。私が目的を成す前に、その人形に愛着が湧いて反抗しなければいいがな」

「へぇ? もしかしてオルキスを人形って呼んでるのってそれが理由だったりする?」

「なんだと?」

 

 にやりと笑った俺に、黒騎士が鋭い声を発する。

 

「いやだってそうだろ? わざわざ情がなくて『オルキスとは違う』っていう呼び方だからな。わかりやすく突き放す言い方ってのは相手にそれを伝えるモノでもあり、自分に言い聞かせるためのモノでもある。距離を置いて接しないと情が移って決心が鈍っちまうってことだよなぁ」

「……貴様、いい加減に口を慎め」

「やなこった。それに――」

 

 怒気を孕んだ言葉を受け流し、笑みを引っ込めて真面目な表情をする。

 

「全てを投げ打ってでもオルキスを取り戻したいんだろ? それとも、あんたの覚悟ってのはその程度で揺らぐのか?」

「っ……!」

 

 黒騎士は俺の言葉に視線を逸らした。

 

「いくらこのオルキスが昔のオルキスと違うったって、心はあるんだ。冷たく扱われて悲しいまま終わるより、大切に扱われて温かいまま終わった方がマシだと思うんだけどな。なぁ、オルキス?」

 

 俺が言って頭を撫でてやると、どうしたらいいかわからないのか瞳が揺れていた。

 

「確かに別れは辛くなるかもしれねぇが、俺はあんたらと手ぇ組みたいってだけで、あんたに協力するとは言ってねぇんだな、これが。あんたがどんな事情だろうが、俺にとっちゃあんたら四人に変わりはない。つまり、オルキスがこうしたい、ってんなら俺はそれを手助けするぜ。黒騎士にだけ協力するなんて不公平だろ?」

「……チッ。貴様に話したのは失敗だったようだな」

「それはまだわかんねぇよ? 別に俺はあんたの目的を邪魔しようってんじゃないからな。結末は変わらんかもしれん」

「そこの人形が感情を持って、嫌だと喚き散らすことになってもか?」

「もちろん、俺はやれる。残念ながらな」

 

 というか多分、そこまでいったら黒騎士はオルキス見殺しにできねぇんじゃねぇかなぁ。きっと。それかどうしたらいいかわからなくなって自棄になりそう。後者だったら怖いな。

 

「……そうか。なら好きにしろ。ただ、私の気持ちは変わらんぞ」

「それこそ好きにしたらいい。ただ、オルキスがもしあんたと仲良くなりたいって言ったら俺は協力惜しまないけどな?」

「……ふん」

 

 なんとか黒騎士は矛を収めてくれた。……俺は別に目的を打破したいわけじゃない。ただ黒騎士の目的だけじゃなくて、オルキスや黒騎士本人の気持ちを汲んでやりたいだけだ。折角全てを捨ててまで助けたい友人がいるんだ。生涯を賭けてやりたいことがあるんだ。

 俺なんかとは、違ってな。

 

「よし。じゃあ黒騎士の了承も取れたことだし、なんかやりたいことはあるか?」

 

 俺が屈み込んでオルキスに尋ねると、黒騎士さんから「私は了承していない」という鋭い視線が飛んできた。

 

「……やりたいこと?」

「ああ。最初は小さいことでいいからな」

「……」

 

 聞かれて、オルキスは少し悩むように顔を伏せた。返答を待っていると、顔を上げてこう言った。

 

「……アップルパイ、いっぱい食べたい」

「ふっ」

 

 普段と変わらない返答に、思わず吹き出してしまう。黒騎士も兜で見えないが多分凄く微妙な顔をしている。

 

「そっかそっか」

 

 俺はぽんぽんと頭を撫でる。

 

「……?」

「いや、なんでもねぇよ。それなら、帰ったらいっぱい食わせてやろうな。あと原案者に頼まれてチョコパイも作ってみてくれって言われてるから、それも試食してくれ」

「……わかった。がんばる。ぐっ」

 

 俺の言葉に、妙なやる気を見せたオルキスはぬいぐるみを抱えていない方の手を握った。

 

「……ふん」

 

 そんな俺達を、黒騎士はつまらなさそうに眺めるのだった。




ということで本編より大分早く黒騎士の目的が明かされました。
まぁこっち側についたらそうなりますよね。

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