ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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人形の少女と比べるとややさっくりな章タイトルになってしまった……。
まぁ当初グレートウォールの分解で考えていたことを考慮すれば規模が大きくなった方ですね。

グラブルVSは意外にもストーリーが終わりそうです。短めでしたね。まぁおまけ程度だと思えば良かったという感じなんでしょうかね。


黄金の空

 ベスティエ島から離れた俺達は、おそらくグランサイファーがベスティエ島に向かうだろうと思いイデルバへ状況を聞こうかと向かっていた。

 

 ゼオがまた役立ったのが、幽世に落ちていた四人からある程度話を聞いていたというところだ。

 

 カタリナは空図の欠片とやらを持っていたアレスという星晶獣との教えの最奥に挑んだ。それは、空図の欠片同士が引き合い星晶獣として完全な力を持つことができれば現世に戻ってこられると考えたからだそうだ。

 また、幽世の力で覆われた空を戻すにはナル・グランデ空域の空図の欠片が全て必要になる。その数は四つなので、あと一つ、レム王国にあるガネーシャが持つ空図の欠片があれば俺達は全て揃うということになるな。

 そしてアレスとの遭遇は予想外だったが“蒼穹”は行方のわかっているガネーシャの空図の欠片を取りに向かったらしい。

 

 なんでも一緒にいた、ミカボシという名の幼女は星の民で、ナル・グランデ空域の管轄だったらしい。空図の欠片を設置したのもそいつなんだとか。

 こいつらが戻ってきた後に分析してようやくわかったが、そいつはグレートウォールに封印されていた星の民だった。なんの因果で一緒にいたんだか。

 

 肝心の“蒼穹”がなぜこの空域に来ていたのかはわからないらしいが、充分な情報だった。

 

「つまり、俺がこの空を戻してやればあいつらのお株を奪えるってわけだな」

 

 俺は言って不敵に笑う。

 

「大将達はまだ三つしか持ってねェんじゃねェのか?」

 

 ゼオが首を傾げて聞いてきた。

 

「まぁな。だが空図の欠片がなくてもこの空域から幽世の力を排除することは可能だ」

 

 俺はそう言ってくすんだ色の空に向けて手を伸ばす。ワールドの能力の把握範囲も順調に広がっている。カード四枚でグレートウォールの大半。五枚は試していないが、六枚となった今はどうか。

 十枚集めれば世界を把握できる、という可能性も出てくるので、そう考えると徐々に規模が広がっていくのなら七枚くらいで空域全体を把握できてもおかしくはない気がする。

 

 六枚なら、と最大限に駆使して空の状態を把握してみる――島やなんかの様子を含めなければ、ナル・グランデの空全体に把握が及んだ。

 

 どうやら幽世の力は瘴流域にも影響を及ぼしているらしい。入る者は拒まず、出る者は逃さずという風になっている。その辺りまで含めて、ワールドの力が行き届いていることを確認できた。これなら、問題なさそうだ。

 

「――消えろ」

 

 呟いて、力を行使する。空全体を覆っていた幽世の力を除去する。能力の行使により力の全てが金の粒子へと変換され、空に散った。くすんだ空の色も蒼に変わり空に舞う金の粒子を陽光が照らし出す。ナル・グランデ中の空で同じ光景が広がっていることだろう。

 

「……美しい」

 

 エウロペが空を仰ぎうっとりと呟いていた。他も見蕩れているのかは怪しいヤツもいるが空を見上げている。

 きっと“蒼穹”の連中も今頃、驚いていることだろう。一体誰が、と。もちろん誰も俺達のことを話していなければ、だが。

 

「これで空は良しと。エキドナも倒したし、それなりの活躍だっただろ」

 

 ファータ・グランデ空域では“蒼穹”に同行した形だった。ナル・グランデでも、遅れを取ったために裏で動くだけの状態だった。今回は、俺達“黒闇”が事態のほとんどを解決してやったわけだ。この空域の強者も結構集められたしな。

 

「幽世の軍勢を退けてエキドナを救い、空を取り戻したことが“それなり”の活躍ですか。過小評価ではありませんか?」

「俺はこれくらいで調子乗るほど現実が見えてねぇわけじゃねぇよ」

 

 バラゴナの言葉にそう返す。

 

「俺はただ、あいつらにもできることを先に終わらせたに過ぎない。俺達がいなくても“蒼穹”なら解決できたことだ。あいつらみたく、世界の命運を懸けて戦うようなこともしてないしな」

「それでも誇っていいと思いますが、言っても仕方がないことですね」

 

 バラゴナは、というか何人か苦笑している。いや、別に謙遜とかそういうんじゃないんだが。

 

「……なにより、彼らと比較するのが他にはない点でしょうね。普通に考えて、“蒼穹”と張り合おうとする騎空団など存在しません」

「俺だってあいつらと張り合えるとまでは思ってねぇよ。けどライバル宣言しちまったからな。なら、そう振る舞うまでのことだ」

「……なるほど。あなたはやはり、あの男とは違うようです」

 

 バラゴナは穏やかな笑みで告げると、俺の前で片膝を突いてみせた。予想外の畏まった様子に困惑してしまう。

 

「……どういう、つもりだ?」

「どうもこうもありません。私、バラゴナ・アラゴンは今後あなたの騎空団に入りましょう」

 

 これまた予想外の申し出だ。無論、見返りとしてある時だけでも力を借りようとは思っていたところだ。なにより戦力としてこれ以上ない加算となる。

 

「……有り難い、が。あんたとしては“蒼穹”の方に入りたいかと思ってたんだがな」

 

 関わりがあり、好意的に思っている男の子供の騎空団、ともなれば面影を追って入ることも考えられるだろう。だからこそ、一時だけでも力を借りれればと思っていたのだが。

 

「その気持ちはありますが……強さという点であの子供達はあなたより上、七曜の騎士にすら届きそうな領域に足をかけています。それが二人、ともなるとバランスが悪い。真王の企みには賛同しかねますが、一騎空団にあれほどの戦力が偏ってしまうのは、世界にとって良くないという見解には納得できます」

「だから、あいつらより弱くて人数も少ないうちに入った方がバランスが取れるってことか」

「はい」

 

 素直に俺達の方が弱いと肯定されるのは心外だが、おそらく紛れもない事実だ。

 

「それに、彼らの方が人に恵まれているようですから。あなたを鍛えるのも悪くないでしょう。あの男があなたを放置するとも思えませんし、放置していたせいであなたより強くなってしまいましたよ、と言ってやるのも悪くないでしょう」

「……そうかよ。まぁ、悪くない話だ。元々あんたには、そいつと戦う時に手を貸してくれっつう要求をする予定だったんだが」

「そうですか。では丁度いいですね」

「ああ。あんたがいいって言うなら断ることもねぇか」

「よろしくお願いしますね、団長」

「はいよ。頼りにしてるぜ」

 

 話がついて、バラゴナと握手を交わす。これでアポロに続き七曜の騎士が二人目か。かなりの戦力補強になるな。まさか俺達の方についてくれるとは思ってもみなかったんだが。

 

「……私も、貴方がダナンにつくとは思っていませんでした」

 

 一段落したのを見てからアリアが話に入ってくる。

 

「貴方はてっきり、ハルヴァーダ様と密かに暮らすモノだと」

「それもいいですね。しかし私は彼に恩義があります。その恩を返すというのも申し出の理由の一つですから」

「そうですか」

「ええ。ですので、これからよろしくお願いしますね」

「? ……あぁ、いえ。私は騎空団に所属しているわけでは」

「そうなのですか? すっかり彼らの一員として行動しているようでしたが」

「それは利害の一致と言いますか、同行してすぐに空域を揺るがす事態に巻き込まれたので、成り行きです」

「そうでしたか」

 

 そういえばそうだったな。アリアはしばらく旅もしたし、これでお別れかもしれん。

 

「妾も入っていないのじゃが、どうしようかの」

「私は我が王に従います」

「狡いヤツじゃ。一人気ままな旅というのも悪くはないが、折角の機会じゃ、アリアについていくとしようかの」

 

 フォリアは自分で決めるとは言わず、アリアに任せるようだ。

 

「わ、私にですか?」

「うむ。妾はゆるりとアリアと過ごしたいからの。お主の行くところについていこうと思うのじゃ」

「姉さん……」

 

 国外追放で逃げられるフォリアと、正当な理由がなく長期滞在が認められないアリアが一緒にいられるのは、俺達が攫ったという前提の下だ。もちろんその後で逃げ出したから行方なんて知らねぇよ自分で調べたら? と言うこともできるのだが。

 

「まぁ俺達“黒闇”が攫ったざまぁっていう形だけはついたし、もう自由にしていいんじゃないか?」

「えっ?」

 

 俺はアリアの選択範囲を広げるためにそう伝える。

 

「元々真王の追跡を撒くためってのもあったからな。もうその必要もないし、旅したいならフォリアとハクタクと三人旅でもいいだろ。ここにいなきゃいけないってわけでもない」

「……そう、ですか」

「まぁ大事な選択だから精々悩むんだな」

 

 アリアに笑って告げ、すぐの返答は貰えないだろうと考えていたのだが。

 

「わかりました。貴方の騎空団に入りましょう」

「そうか……って、あん?」

 

 アリアの思わぬ言葉に、一旦頷いてから聞き返す。

 

「……なんだって?」

「聞こえませんでしたか? 貴方の騎空団に入ると言ったのです」

「なぜに?」

「貴方の在り方は真王を描く理想とは真逆。場面も考えず、一大事だというのに自分のことばかり優先します」

「……貶してんの?」

 

 いやまぁ、自覚はあるんだが。

 

「いいえ。そういった在り方が自然とできる貴方を、私は多少参考にしたいと思います。一から十まで参考にするのは難しそうですが」

「自由って言うなら“蒼穹”でもいいんじゃないか? 少なくとも俺よりはいい見本になると思うんだが」

「ええ、そうでしょうね」

 

 だから素直に肯定するんじゃねぇよ。事実そうなんだろうけどさ。

 

「ですが、貴方から学ぶことも多いと思います。なにより彼らが切羽詰まっていたというのもありますが、貴方の方が楽しそうでした」

「そうか? まぁ、そうか」

 

 首を傾げたが、よくよく考えてみると確かにと納得できるような気がしなくもない。

 

「もちろん“蒼穹”の方が真剣に向き合っているという見方もできますが、貴方も決して適当を行なっているわけではないようです。それに、今私が自由の身なのは貴方のおかげです。強引なやり方とは思いますが、それくらいでないと真王の手からは逃れられないでしょうからね」

 

 俺もアリアの精神的な面で不安定なのをよく見るようにしていたが、彼女も俺のことをよく見ていたらしい。

 

「ですので、貴方から自由を学ぶために、今後も傍で見ていたいと思います」

 

 アリアは真っ直ぐに俺を見つめてきた。真剣な様子だ。なんだかまるで――

 

「告白のようですね」

 

 バラゴナの声が俺の思考と合致する。

 

「なっ!?」

 

 アリアは予想していなかったのか驚き赤面する。

 

「……遂に、遂にアリアが異性に興味を……」

「長い道のりでしたね、我が王」

「姉さんも乗らないでください! 違いますからね!」

 

 嘘の涙を拭うフォリアと、案外ノリのいいハクタクが続く。それをアリアが詰め寄るが反省の色が見えないのでフォリアの頬を左右から引っ張っていた。

 

「ひ、痛いのじゃ」

 

 アリアもそういうやり取りの加減がわかっていないのか、すぐに離してもフォリアの頬が赤くなっていた。それを掌で擦りながら、

 

「……軽い冗談じゃよ。なんにせよ、真王に縛られない意見が聞けて良かったのじゃ」

「姉さん……」

「後でこっそり馴れ初めについて教えてくれればそれでいいのじゃ」

「だから違うと言っているでしょう」

 

 茶目っ気を見せる小さな姉にツッコミを入れつつ、和んでしまった空気を咳払いで整える。

 

「兎も角。これからは貴方の騎空団の一員として、よろしくお願いしますね」

「妾も世話になるのじゃ」

「我が王共々、お世話になります」

 

 アリア、フォリア、ハクタクの三人(?)まで加わってしまった。仲間集めが捗りすぎてヤバい。やっぱりファータ・グランデ空域の強者は根こそぎあいつらが持ってってたんだよ。まだ手をつけ切れていないからこんなにいっぱい増えるんだ。いやぁ、あいつらが空の底かどっかに落ちて良かった。いや不謹慎すぎるか。

 

「……ってなると私だけ団員じゃなくなりますね」

 

 そこで騎空挺を操舵していたレオナが頬を掻いて言った。

 

「元々イデルバから派遣された戦力ってだけだし、まぁそうなるよな」

「そうだね。でもフォリア様達まで入ってる騎空団なんてね」

「国外追放を拾われた身じゃがな。お主も来るか? と言いたいところじゃが、カインがおるしの。イデルバがもう少し安定すれば、あやつとラインハルザと共に国を出るのも良いじゃろう」

「はい。それも、一つの手ですよね。まぁカインと一緒だとダナン君の騎空団は嫌がるかもしれませんけど」

「安心しろ、俺も遠慮したい。ラインハルザってヤツとも関わりないしな。そいつらと一緒ってんなら“蒼穹”に相談したらどうだ?」

「あぁ、うん。そうだね」

 

 レオナも今後について悩むところがあるらしい。俺としてはカインとラインハルザという関わりがない、若しくはあまり向こうがいい印象を持っていない相手となるとなかなか引き入れづらいところがある。だがレオナはあまり“蒼穹”に入るのにはっきりと応えなかった。フォリアもそれに気づいたようだが、理由はわからないらしい。

 

「じゃあイデルバで休んで、ガネーシャから空図の欠片貰いに行って、それからファータ・グランデに戻って向こうにいる連中と合流だな。騒動が落ち着いて良かったぜ」

 

 俺は言って、今後のある程度の方針を思い描く。

 だが俺達は知らなかった。なぜ“蒼穹”がこの空域に来ていたのかという理由をカインから聞くことで、まだ事態が終わっていないと理解することを。




前回に続きですが、戦力強化に次ぐ戦力強化。
やっぱるファータの強者根こそぎ奪ってたんだよあいつら。

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