ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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これにて黄金の空編は終わりになります。
次回から幕間Ⅱが始まる予定。

あと茶番注意です。


“蒼穹”と“黒闇”

 ナル・グランデ空域の騒動が終わり、アーカーシャを星に還した“蒼穹”の騎空団はイデルバに寄ってからファータ・グランデ空域へと帰っていったらしい。残りの団員を連れてくるためだろう。

 

 あとバラゴナから聞いたが、あいつら『ジョブ』のとんでもないヤツを手に入れたらしい。超強いんだとか。……また先を越されちまったな。

 それは兎も角、その制御をするために修行する可能性が高いそうだ。

 

 俺達は紫の騎士ことリューゲルを加えてレム王国へ向かい、こっそりガネーシャから空図の欠片を貰っていった。いやまぁ、全然こっそりじゃなかった。紫の騎士に頭が上がらないらしいから協力してもらった。

 

 で、その後はイデルバに戻っていった。ファータ・グランデに戻るにはザンツに預けた空図の欠片が必要になるので、戻ってきてもらわなければならないからだ。

 まぁ無事というか合流できたので良かった。“蒼穹”にバレるなという俺の指示を守るためか彼一人しかいなかったが。

 

 そしてめっちゃ人数が増えてぎょっとしていた。

 

「今まで世話になったな」

 

 というところで、レオナをイデルバに返すことにする。彼女は団員ではないのだから当然だ。

 

「えっと、それなんだけど」

 

 少し言いにくそうに返してくる。一応イデルバの人に事情は聞いていたのだが。

 

「カインとラインハルザのことか? まぁ顔出しをちょっと待ってもらうなら、送っていくぐらいいいんだが」

 

 そう。実はあの二人、一緒にファータ・グランデへ行く“蒼穹”についていってしまったらしい。レオナを置いて。レオナを置いて、だ。大事なことなので二回言った。

 

「うんと、少し考えていたことがあって」

 

 だがはっきりと答えはせずに言葉を続ける。

 

「私も、ダナン君の騎空団に入ろうと思うの」

「……なんでそうなった?」

 

 だがその言葉に、俺はこてんと首を傾げる羽目になった。

 

「えっと、色々思うところはあるんだけど。それは人に言いづらいから後でいい? 兎に角、“蒼穹”には入らないようにしようと思ってるから。……それに、悪くない旅だったかなって」

 

 一応彼女にとってもいい旅だったようだ。主にアリアのおかげだと思うのだが。

 

「まぁ、それでいいんならいいか。じゃあ行こうぜ、レオナ。入るって言うなら歓迎するよ」

「うん、ありがと」

 

 というわけで置いていくはずだったレオナまで加入してしまった。大分戦力の補強になったなぁ。まぁいいことなんだけど。

 

 ともあれ、戦力補充に加えて空図の欠片も追いついたし、次の空域にはほぼ同じタイミングでいけることだろう。

 とりあえず、ザンツが戻ってきてくれたおかげでファータ・グランデ空域へと戻ることができた。

 

「そういや、騎空挺の修理が終わったぜ」

 

 そのザンツから、吉報が齎される。

 

「おっ。マジかよ。じゃあなんでそれで迎えに来てくれなかったんだ?」

「バカ野郎。折角の進空式に団長がいねぇんじゃ締まらないだろうが」

「そうか。なら、仕方ないか」

「おう。楽しみにしてろよ、当時より凄ぇからな」

 

 ザンツの晴れやかな表情を見ていると、本当に復活したんだなとわかる。なんでも外見はそのままに、今の航行に耐えられるよう改造を施したんだとか。最新技術をありったけ突っ込みつつも重量などはそのままに、操舵のしやすさは向上させてとかなり金を使った様子だ。金額は足りるのかと思ったが、どうやらパイ屋が好評らしく将来的な売り上げも含めれば簡単に払えるらしい。つまり借金したというわけだな。

 まぁでもシェロカルテは売り上げを落とさず運営するだろうし、確実に払える金なら許されるのか。

 

「……また、女、増えてる」

「錚々たる面子だな」

「やっほ〜」

 

 行き先はザンツに任せていたが、オーキス達のいるアウギュステに向かっていたらしい。しかもここでは“蒼穹”がナル・グランデ騒動解決記念パーティをしているという。なぜまたアウギュステに、と思うが島を回ると海がなくて海の幸を食べに来たくなるらしい。気持ちはわからなくもない。

 

「アルトランテもここに運び込んできてもらってるぜ」

 

 ということらしいので、俺達“黒闇”の騎空挺を全員で見に行った。

 

 外観は新品同然でありながら、佇む様は威風堂々。俺が初めてこいつを見た時にも感じた歴戦の風格はそのままに、「俺は新しく生まれ変わったぞ」と言わんばかりの気迫を放っているようにも思えた。

 

「……流石ガロンゾの職人達。いい仕事しやがる」

「ああ、全くだぜ」

「ザンツさんは初めて見た時号泣したもんね〜」

「それは言わない約束だろ!?」

 

 俺の呟きに賛同するザンツだったが、ドランクに茶化されていた。……まぁ、ザンツの立場だったら号泣するよな。爺さんに足をかけた年齢とはいえ、そこは仕方がない部分だと思う。

 

「とりあえず全員集めたいな。アポロとリーシャの居場所はわかるか?」

「ああ。招集かけるなら俺が迎えに行くぜ」

「じゃあ頼んだ。他はアルトランテへの荷物の運び込みとか、日用品の購入をしててくれ。金額は……シェロカルテ?」

「あれ~? 私に気づくとは流石ですね~」

 

 相変わらずの神出鬼没。とはいえ“蒼穹”がいるともなればこいつがここにいるのは当然のことか。

 

「商品については任せる」

「はい~。この万屋シェロちゃんにお任せあれ~。皆さん~、様々な商品を取り揃えていますので、是非お立ち寄りください~」

 

 ということで大半をシェロカルテが引き取ってくれた。

 

「ドランク。俺はとりあえず元々の団長室を使おうと思ってるが、残りの部屋割りを決めるためにリストを見取り図を作っておいてくれるか? 話し合いで決められれば、決めていいから」

「了解~。ダナンはどうするの~?」

「俺はちょっと、“蒼穹”の団長に会ってくる」

 

 俺は笑って、宴をしているという“蒼穹”の騎空団の下へ向かうのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 “蒼穹”の騎空団。

 現存する騎空団の中で、秩序の騎空団に次ぐ大騎空団となった総勢二百人超の騎空団。しかもその戦力の中にはエルステ帝国を滅ぼした主力のメンバーに、国を代表する騎士団長諸君。星晶獣を殺す武器を持った“組織”の一員に、個人で一部隊並みの実力を持つ強者。そして伝説にして最強の騎空団、十天衆。

 

 半分事故ではあったが、空域を渡り活躍してきたのだ。しかも彼らのエルステ帝国との戦いは英雄譚のように語られており、戻ってきた時はなぜか島の()から飛んできたというところで、まさか空の底を冒険してきたのかという憶測を呼び、より話題になっていたのだ。

 

「じゃあナル・グランデ空域から無事に戻ってこれたことと、」

「ナル・グランデ空域で出会った新たな仲間に!」

「「「かんぱーい!!!」」」

 

 そんな彼らは今、ファータ・グランデ空域のアウギュステ本島にて宴を催していた。

 

 強敵との連戦続きだったがための休息もあり、ナル・グランデから連れてきたカインとラインハルザの歓迎会も兼ねてである。

 

「んーっ! ここのお料理美味しいですぅ!」

 

 宴が始まり早速料理に手をつけたルリアが頬に手を当てる。

 

「ん? これって……」

「Doしたよ、ローアイン」

「まさかシーメーが不味いとか? 超美味いっしょ!」

 

 料理を口にしたローアインが眉を寄せるのを、傍らのエルセムとトモイが言及する。

 

「おや、これは……」

「どうしたでありますか? 食べないと冷めてしまうのであります」

「これはこれは、とても美味しい料理ですな」

「はい。とことん食べるです!」

「あまり食べすぎないようにね」

 

 また別のところでは、バウタオーダが料理に反応を示し、シャルロッテに尋ねられる。卓越した料理の腕を持つセワスチアンの舌を唸らせる料理に、ブリジールが舌鼓を打つ。そんな彼らをコーデリアが優雅に見守っていた。

 

「これって確か……」

 

 一行の中でも、気づく者はいたようだ。ジータが小首を傾げている。

 そんな彼らの疑問は、

 

「はいよ、次の料理な」

 

 と黒髪黒目の少年が料理を運んできたことで瓦解する。

 

「ダナン君!? 久し振り!」

「おう」

 

 店のエプロンを身につけ料理を運ぶ様は、ライバル宣言をしたのと同一人物とは思えない。どこからどう見てもただの店員である。

 

「ここで働いてるの? 騎空挺を購入する資金集めとか?」

 

 横で同じく驚いていたグランが尋ねるが、ダナンは少し困ったような笑みを浮かべる。

 

「いやぁ、ちょっと思うところがあってな。それだけじゃないんだが、その話は後でな」

 

 言って料理を取りに戻り、他の店員と同じように各テーブルに料理を運んでいく。相変わらず料理を振る舞う時は心底楽しそうだ。いや、他の時も楽しそうではあるのが、裏もなく楽しそうな様子を見せる。

 そんなダナンを眺めながら、ジータはんん? と首を傾げた。

 

「どうしたんだよぅ、ジータ」

「えっ、ううん。なんか、前と違うなぁって」

「ダナンがか? あいつは前からあんなんだったと思うがな」

 

 ビィに聞かれて返すが、オイゲンは娘のこともあるためか素っ気なく答える。

 

「……う~ん。なんか、前より穏やかになった気がする」

 

 しかしジータはむむむ、と顔を顰めてダナンを目で追った。そんな様子に、本人が気づいたようだ。

 

「どうした、ジータ。料理美味しくなかったか?」

 

 近づいてきてそう尋ねる彼の顔は、少し悲しそうでもあった。

 

「えっ!? いや、全然、すっごく美味しいよ?」

 

 思いの外覇気のないことを言われたせいかジータは動揺してしまう。

 

「そっか、なら良かった」

 

 にっこりと、純粋に爽やかな笑顔を見せてまた厨房に戻っていくダナン。ジータと他の者達は確信する――やはり彼女の言う通り、なにかがおかしいと。

 

「……おいおい。あいつあんなに穏やかだったか? もっとからかったり自信持ってたりしてただろ」

 

 彼らは顔を突き合わせて声を潜め始める。ラカムの言葉に全員がうんうんと頷いた。

 

「もしかして私達がいない間になにかあったんじゃ……」

「なにかってなんだよぅ。オイラ、ダナンが変わっちまうような出来事なんて見当もつかねぇぜ?」

 

 イオの推測にビィが反論する。確かに、と他の者も納得した。

 なにせこれからアガスティアで最終決戦だ! という場面で「俺船降りるわ」とか口にする野郎である。他がどうしようと俺には関係ないねと言わんばかりの行動を取ってきた彼が変わるとは、到底思えなかった。

 

「……でもなにかなかったらあんな風にならないと思うんだよね」

「……けどさ、あれがダナンの演技って可能性も捨て切れないんじゃないか?」

 

 ジータとグランの考えについても話し合っていくが、結局結論は出なかった。ダナンの様子を逐一確認するという結論保留状態で終わり、なぜか歓迎会で一人の店員を観察するという事態になっていた。

 以下はダナンと他の団員達とのやり取りである。

 

「おい、ダナン。ここで会ったが百年目、今日こそ再戦してもらうぞ」

「嫌だよ」

「なに?」

「俺は今日厨房で働きに来てるんだよ。お前と戦うわけないだろ。それとも料理対決にするか? それなら受けて立つぜ」

「……いや、やめておく」

 

 十天衆が集まったところに通りかかればシスが再戦を希望するが、軽く流されている。

 

「また腕を上げましたね」

「っべーわマジで」

「負けてられないでっす」

「まぁ俺もただじっとしてたわけじゃないからな」

「……おいおいローアインのヤツあんな人達と仲良くしてんべ?」

「……べーっしょ。俺らお役目ご免的な?」

「バカ言えダチ公」

「「ローアイン」」

「俺が例えお前らより先にキャタリナさんといい感じになったとしても、俺らの友情はトワに永遠によ!」

「ローアインそれ被ってっし。ってかお前だけキャタリナさんといい感じになるとかねーから」

「それもそうだなー。ローアインが俺ら以外とバイブス合うとか多分ねーわ」

「そりゃねーっしょ。ってか今日は折角のパーリィなんだし、楽しんでいきましょーっ! せーのっ」

「「「ウェーイッ!」」」

「お前ら仲いいなぁ」

 

 料理得意同士の集まりかと思えば、チーム・ローアインに巻き込まれていた。

 

「……やっぱり違う。でも、楽しそうだね」

「うん。企んでるとかなさそう」

 

 そんな様子を見て、ジータとグランは納得してしまった。だから甘いと言われるのである。

 

「お前らずっと俺のこと見てたよな? なに、そんなに俺がここで働いてるのがおかしいか?」

 

 とまぁよく観察していたせいか、バレて突っ込まれることになったのだが。

 

「え、いや、なんか前と違うなぁって話してて」

「そうか? まぁあれだな、気持ちの問題だろ。……その話は、後で三人でな」

 

 そう答えたダナンだったが、グランとジータにだけ小声で囁きその場を去った。

 やっぱりなにかあったんだと考え、双子は顔を見合わせてからどんな話が聞けるのかと気になりながら、宴を楽しむのだった。

 

 それからしばらくして、成人組に酒が入り混沌と化し始めたところでダナンに合図されて、グランとジータはこっそりと抜け出す。

 

「悪いな、宴中に」

「ううん。話があるんでしょ?」

 

 二人共気になっていたこともあり、宴の最中だろうが彼の話を聞く気はあった。

 

「まぁなんつうか、さ」

 

 ダナンは二人を連れ出したベランダで、縁に体重を乗せて話し出す。

 

「俺、旅をやめようと思うんだ」

「「えっ!?」」

 

 思わぬセリフに双子は驚愕する。てっきり生涯のライバルとしてやっていくのだと思っていた。

 

「ど、どうして?」

「まぁ、ライバル発言をした手前言いにくくはあるんだけどな。やっぱり旅ってのは厳しいモンだ。お前らが平和にしたはずのファータ・グランデを回るだけで一苦労だったってのもあるが」

 

 ジータの問いかけに答えて、ダナンは自分の掌を見下ろす。

 

「……働いてると、悪くないなぁって思えてくるんだよな」

 

 思いがけず優しげな笑みを浮かべた彼に、二人はなにも言えなくなってしまう。

 

「料理を食べたヤツがさ、笑顔で美味いって言ってくれるんだよ。料理を手伝ったヤツがさ、おかげで助かったって言ってくれるんだよ。なんつうか、それも悪くなくてな」

 

 感慨の込められた言葉に、納得してしまう。そうか、ダナンは旅以外のやりたいことを見つけてしまったのだと。

 

「だから、旅は終わりだ。俺はこの空域で、精々お前らが持ち帰る武勇伝を聞いて、お前らを最高の飯で迎えてやるよ」

 

 ダナンは振り返り二人に向けて笑いかける。その真摯な言葉に、本当に旅をやめてしまうのだと理解してしまう。

 

「……そっか、そうなんだ」

 

 最初は敵対していた。短い時間ではあったが一緒に旅をし、世界の命運を懸けて共に戦った。その彼が旅をやめてしまうことに一抹の寂しさを覚え、思わず瞳を潤ませてしまう。なんだかんだ言いつつ、楽しかったのだ。

 

「……泣くなよ。別に後ろ暗い理由じゃないんだから」

「……うん」

 

 目元を拭うジータ。グランも目頭が熱くなっており、ダナンと競い合うような関係も良かったのだと物語っている。

 

「……僕達が、ダナンの分まで旅するから」

 

 グランは決意を秘めた表情で告げる。

 

「うん。私達は空の果てまで辿り着いてみせるから」

 

 強い意思の込められた瞳には、双子の決意が表れている。

 

「……そうか。楽しみにしてるよ」

 

 ダナンは笑って言い、二人の頭をぽんと撫でてベランダから戻っていく。

 残された二人は託された思いを背負って旅していくのだと決意を新たに、拳を打ちつけ合った。

 

 ――翌日。

 

 決意も新たに物資の補給をしようかとグランサイファーの停めてある港に向かった一行。ぞろぞろと仲間を引き連れて注目を浴びる行列を形成していた。

 

「でね、ダナン君は料理人としてやっていくんだって」

「なるほど、それで昨日のような感じに」

 

 一夜明けて、団長二人は昨日ダナンと話したことについて仲間達に打ち明けていた。

 

「うん。だから僕達がダナンの分まで頑張ろうっていう話を――」

 

 グランは話を締め括ろうとしたのだが、その途中でグランサイファーの横に停泊してある騎空挺に目を奪われる。

 その騎空挺は新品同然の見た目ではあったが風格があり、見た時の感覚はグランスルース、父が乗っていたという騎空挺を見た時に近しいモノがあった。

 

 思わず言葉を止めたグランを不思議に思って視線を追った団員達も、その騎空挺に目を奪われる。

 

「……嘘だろ、おい。こいつぁ……」

 

 中でもオイゲンの驚き様は大きかった。ラカムも眉を寄せて首を傾げ、記憶を思い起こしたのかはっとする。

 

「オイゲン、知ってるの?」

「……ああ。なにせこの騎空挺は、あまりの活躍に模倣した騎空挺が一帯を埋め尽くしたしたくらい、当時の人間にとっちゃ馴染みある船だ」

「そうだな。しかもこいつ、本物だ」

 

 イオの問いに答えたオイゲンとラカムの表情は真剣そのモノだ。

 

「騎空挺アルトランテ。かつて伊達と酔狂の騎空団っつう、伝説の騎空団の本船だった騎空挺だ。事故で失われたって話だったが、こいつぁ間違いなく本物だ。俺が見間違えるはずがねぇ」

 

 オイゲンの言葉に、一行もごくりと生唾を飲み込んだ。古くからの騎空団で、各地に拠点を持たず空域を越えることができた、数少ない一つ。未開の航路を行った伝説の騎空挺。父の乗っていた船も星の島イスタルシアに辿り着いた歴戦の騎空挺だったが、紛れもなく比較できる船だった。

 

「当たりだ、オイゲン。目は曇ってねぇみたいだな」

 

 そこに声をかけてきたのは、オイゲンと同年代ぐらいの見た目をした男性だった。

 

「っ!? ……いや、そうだよな。この騎空挺を操縦するのが、お前さん以外にいるわけがねぇ。なぁ、伊達と酔狂の騎空団本船操舵士、ザンツ」

 

 驚き、しかし考えてみれば当然だと笑う。

 

「まぁな。久し振りだなぁ、オイゲン。すっかり老けちまってよ」

「ははっ。そりゃお互い様だろうが」

 

 二人は旧交を温め合うように笑って、歩み寄る。そしてがっしりと抱き合った。

 

「ったく。事故から落ちぶれたって聞いてたが、元気そうじゃねぇか! それに腕失ったんじゃなかったか? なぁおい!」

「こりゃ義手だ。オイゲンこそ生き別れた娘と再会はできたみたいじゃねぇか、良かったなぁ!」

 

 ばしばしと互いに手で背中を叩き、笑って再会を喜ぶおっさん二人。とそこでザンツがラカムの姿に気づいた。

 

「おぉ、お前ラカムだろ! あの頃はこんなちっこかったってのに、すっかりおっさんの仲間入りだなぁ!」

 

 オイゲンと抱き合うのをやめ、彼はラカムに近づきぐりぐりと頭を撫でる。

 

「痛っ、痛ぇよ! おっさんは余計だが子供扱いもすんな!」

 

 仲間とも交流のあるらしいザンツ。ラカムに対する接し方は、ガロンゾの職人達を思い出させた。

 

「けどよ、お前さん騎空挺あっても騎空団は解散しちまっただろ? なんでここにアルトランテが……」

「それはあれだ、俺はこいつと新たな旅に出るからな」

「なに? ってーことは、別の騎空団に入ったのか?」

「おう。そっちほど立派じゃねぇが、操舵士としての腕で負けるとは思っちゃいねぇな」

「けっ。言ってろ、歳重ねただけの爺さんと、年季が入り始めた俺は違うんだよ」

「ははっ、そりゃ楽しみだな」

 

 伝説の騎空団の操舵士が、新しい騎空団に所属した。ザンツという人物の経歴上、もっと全空を駆け巡る大ニュースになってもおかしくない情報だ。しかも騎空挺アルトランテが大復活、ともなれば湧き上がって然るべきとも言える。

 

「これを運び込めば良いか?」

「はい、とりあえず甲板に置いていってください」

 

 四本腕を活かして荷を四つの手で持ち運ぶ男と、手元に書類を持ち荷の確認をしているらしいレオナが騎空挺の前で会話している。

 

「レオ姉!?」

「あ、カイン」

 

 置いてきたはずのレオナがこっちに来ていることにカインが驚きラインハルザも目を見張る。本人は軽く手を挙げて応じ、他の団員の荷を確認していたが。

 

「あ、あの人、星晶獣です! あの人も、あの人も、あの人も……!」

 

 ルリアが四本腕の男を指差し、続けて他の者にも指を向けていく。

 

「他にも星晶獣の気配がする人が……た、たくさんいます!」

 

 紺色のローブに赤いケープというお揃いの恰好をした者達からも星晶獣の気配を感じ取る。なぜそんなに多くの星晶獣が自分達以外に? と疑念しか湧かない。

 

「騒がしいですが、あなた達がいれば当然かもしれませんね」

 

 穏やかな表情で荷物を多く運ぶドラフの男性。

 

「ば、バラゴナだと……っ!?」

「確かハルを送ったって話じゃ……」

「それから合流したということですよ」

 

 面々の驚きに答えたのはまた別の女性。

 

「「アリアちゃん!」」

「……だからその呼び方はやめてくださいと言っているでしょう」

 

 嘆息しつつ荷物を運ぶのは黄金の騎士アリアその人だ。その二人も騎空挺アルトランテへと向かっている。

 

「……嘘、でしょ。七曜の騎士が二人もなんて……」

「妾もいるのじゃ」

 

 騎空挺の甲板からハクタクが前足を縁に乗せて顔を出す。その上に乗ったフォリアが見えた。

 

「ふ、フォリアちゃんまで!?」

 

 ルリアが片手で口の覆ういつもの驚きポーズをする。

 

「はぁ。おじさん、こういう力仕事は苦手なんだよね。最近腰に来るから……いたたた」

 

 そうボヤいて槍を背負い荷物を運ぶハーヴィンの男性は、

 

「紫の騎士だぁ!?」

「あ、この間振りだね」

 

 つい最近まで敵対していた者の登場に、もう驚きが追いついていない。まさか真王が騎空団でも設立したのか、とすら思うような面子である。

 

「……ふん。どうやらあいつの悪戯は成功したようだな」

「アポロ!?」

 

 続いて姿を現したのは一行にとっても馴染みある黒騎士ことアポロである。彼女のあいつという言葉と、彼女のいる騎空団ということで「ま、まさか……」という理解が広がり始めた。

 

「いやぁ、あの人達を一つの団に引き入れるなんて、君達以外だと考えられる人いないんじゃないかな~」

「全くだ。とはいえ、あたし達も驚いたがな」

 

 続いても顔馴染みだ。スツルムとドランクの傭兵コンビだった。

 

「……ルリア、久し振り。()()()、挨拶して」

 

 二人の後ろから現れたオーキスが、紳士然とした出で立ちのゴーレムを連れてくる。

 

「「「ロイド!!?」」」

 

 声を揃えて驚愕する。当の本人はぺこりとお辞儀してみせた。

 

「……もうなにがなんだか」

「……ダメだ、頭がついていかねぇ」

「……なんでロイドが動いてるんだよぅ。アーカーシャのコアはないはずだろ?」

「……そのはず、なんだけど」

 

 もう頭を抱え始めていた。だが彼らがいるということは、誰の騎空団なのかはわかった。だが理解が追いついてくれない。

 

「団員の名簿を作って……あとは荷物のリストと……」

 

 ぶつぶつ言いながら歩くのはリーシャだ。見ればナルメアが知らないドラフの少女を連れて一緒に荷物を運んでいる。

 

「おう、大将。頼まれてた分置いとくぜ」

「彼は、幽世で会った……」

 

 甲板で誰かに声をかけている赤髪褐色の少年を見て、カタリナが目を丸くする。こんなところで再会するとは思っていなかったという顔だ。

 だが話し合った時、彼の言う“大将”という人物がエキドナを幽世から解放し、ミカボシが晴らす予定だった空を戻した張本人だというのは間違いないという結論に至っていた。

 

 つまり、

 

「おう、ゼオ。ありがとな」

 

 その少年の視線の先から現れた黒髪黒目の少年こそが。

 

「「「……ダナンじゃねぇかっ!!!」」」

 

 ダナンが旅をやめるという話は既に団全体に広がりかけていたので、総ツッコミである。

 

 その様子を見て彼は、ニヤリと笑い甲板の縁に肘を突いた。

 

「はっ。なに言ってんだよ、当たり前だろ? 俺以外に誰がこんな面子集められるよ」

 

 その余裕たっぷりで意地の悪い笑みこそ、馴染み深い彼の表情である。

 

「き、昨日の話は?」

「は? あんなん嘘に決まってんだろ」

「「っ!!」」

 

 あんなに殊勝だったのに、と双子は愕然としていた。……一部彼の人となりをわかっている人達はああやっぱりという表情だったのだが。

 

「まさかあんな当日考えたような作り話に騙されるとは思わなかったわ。むしろお前らくらい付き合いあったら見抜いて欲しかったなー」

 

 本気でダナンの分まで、と考えていた二人の決意を嘲笑うような発言である。

 

「……じゃあ、旅をやめて料理人目指すっていうのは?」

「料理は楽しいが、それよりもこっちの方がいいに決まってんだろ」

「……じゃあなんで僕達がナル・グランデで会った人達が加わってるの?」

「そりゃだって俺もナル・グランデ空域行ったしな」

「「……」」

 

 あっけらかんと答えるダナンに、二人は黙り込んでわなわなと震え出す。

 

「いやぁ、笑い堪えるのが大変だったんだぜ? お前らがマジに受け取って泣くからさ」

「いやぁ、あれはびっくりだったよね~。皆で見てたんだけど」

「「……っ」」

 

 ダナンとドランクの言葉で、あれが完全な演技でしかも他の者達にも見られていたと知ってしまう。

 

「……何度も言うようだが、俺が旅をやめるわけねぇだろうが。ったく、人を信じやすいっつうか。詐欺に騙されやすそうなヤツらだな、相変わらず」

 

 ダナンは苦笑するが、二人は怒り心頭の状態である。

 彼は騎空挺から飛び降りて、グランとジータの前まで歩いてきた。彼の仲間達もその後ろについてくる。

 

「「……【十天を統べし者】っ!!」」

 

 双子は新たに手にした最強の力を発動させ、怒りを込めてそれぞれ拳を振る。――ライバルに向けて、ふざけている間に強くなったんだぞと。

 

「無に帰せ」

 

 だが全員まとめて吹き飛ばせるくらいの拳圧は、突如消滅した。――ライバルに向けて、強くなったのはお前らだけじゃないんだぞと。

 

 グランとジータは思わぬ光景に目を丸くし、『ジョブ』を解く。しかし悔しそうな表情はしなかった。

 

「改めて名乗ろうか、“蒼穹”の諸君。俺達“黒闇”の騎空団はお前らより先に、イスタルシアに辿り着く。よろしくな」

 

 ダナンを代表として、錚々たる面子が後ろに並び立つ。その威容は“蒼穹”に劣ると言い切れない。

 

「「上等!」」

 

 対する“蒼穹”の団長二人も、ダナンの宣戦布告に応えて不敵に笑った。

 彼らはきっと、無意識の内に願っていたのだ。ダナンが自分達のライバルであることを。

 

 だからこんなにも、彼らは燃えている――。




黄金の空編、完。

人形の少女編は始まりの物語。
黄金の空編はダナンがグランとジータに追いつく物語。

アウライ・グランデ編はどうしようか悩んでいる最中ですが……。
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