ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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“黒闇”の団員と“蒼穹”の団員がそれぞれ関わるだけのお話。

大人しくキャラ崩壊タグを追加しました。
あとついでに死亡キャラ生存? だかを追加しました。まぁ紫の騎士生かしたので一応。


合同パーティの様子

 “蒼穹”と“黒闇”。

 ファータ・グランデ空域にあるアウギュステ本島にて合同パーティを開く両騎空団。

 全く関わり合いのない者も、話が合いそうなヤツを見つけて雑談しているようだ。俺は団員達の様子を見て回ることにした。

 

「くっ……! 俺の腕が疼く……!」

「ふっ。わかるぞ、強者ほど腕が疼くモノだからな」

 

 グリームニルが、腕を押さえた黒髪の青年に声をかけている。腕に包帯を巻いた痛々しい姿の青年だ。

 

「? いや、俺は病気で……」

「俗世の者は病気だと言うかもしれない。だが俺にはわかっているぞ、同志よ。強者は民衆とは相容れぬ定め。理解されない辛さも、共有できる」

「い、いやだから俺は本当に病気」

「隠さなくていい。ここで貴殿と巡り合えた奇跡を、分かち合おうではないか。思う存分語り合おう! 滅多に会えないし!」

「あ、ああ」

 

 どうやら友達を見つけたらしい。あと分析してみたが、そいつは本当に病気だからな。

 

「おっ、お前さん」

「なんだい?」

「その腕、カッコいいじゃねぇか」

「っ! おっさん、これのカッコ良さがわかるのかい!?」

「おうよ」

 

 ザンツが右腕にバルカンをつけたハーヴィンに話しかけている。

 

「実は俺も義手でな」

 

 ザンツはそう言って手袋を外し腕から銃を生やす。

 

「おぉ!」

「どうよ? 義手造ってくれたヤツに頼んで仕込んでもらったんだが」

「カッコいいぜ! 他にはなにかないのか!?」

「オレにも見せてくれよおっさん!」

「おう、いいぜ」

 

 酔っ払っているのか装備を見せびらかしていた。別の白髪褐色ハーヴィンも食いついている。流石歳を重ねただけあって誰かと打ち解けるのが早いようだ。

 

「妹を!? なんてヤツだ!!」

 

 一際大きい声が聞こえたかと思うと、ゼオの隣に座っている黒髪で頰に傷のある青年がだんと強くテーブルにグラスを叩きつけていた。

 

「全くだぜ。まァ仇討ちはしたし今は、そこまで執着してねェよ」

「復讐を遂げたのか。どうだったんだ、その感覚は」

「兄さん、あんまり人の事情に入り込むのは……」

「いいンだ、オレにとっちゃもう終わったことだしよ」

 

 どうやら自分の過去の話をしているらしい。俺も聞いたことがないんだがな。近くにいる金髪の兄妹も話を聞いているようだ。兄らしい男の方は顔つきが険しい様子である。

 過去のことを語るゼオの表情に翳りはなかった。ある程度吹っ切れたというか、今は今のことを見ているらしい。ゼオの話を聞いて黒髪の青年の方は涙ぐんでいた。

 

 あいつは不遇だが基本的に素直だからな。あの様子なら打ち解けるだろう。

 

「お前は忍者だというのか」

「うん。仕事中はね」

 

 次に見かけたのはだらけた様子で背凭れに体重を預けるレラクルだ。その向かいにいるのは褐色肌の少年だ。同年代ぐらいに見える。

 

「そう言う君は暗殺者? 気配の消し方とかそれっぽいけど」

「っ……よくわかったな。同年代はいるが、同じ影に生きる者はあまりいないんだ」

「わかるよ」

「そうか」

 

 なにやら共通点を見つけて会話しているらしい。その近くで会話に入ろうとしているのかおろおろしている短い銀髪に眼帯をした女性も見かけた。あまり自分から話しかけるタイプじゃないようだ。まぁ、頑張れとしか言えない。そういうのは勇気を持つことが大事。

 

「へぇ、糸が出せるんだ。便利だね」

「そっちこそ、髪の毛を動かせるなんて便利じゃない」

 

 次はクモルクメルだ。やたらと髪の長い金髪のハーヴィンと話している。

 

「ううん。髪の毛だと凄く遠くまでは伸ばせないから。私の髪の長さまでだし」

「糸だって束ねるのが難しいのよ。それに、指につき一本だもの」

「そうなんだ。でも斬れるところは一緒だね」

「ええ、一緒ね」

 

 なんかいい雰囲気で話している。同じ種族で同じく繊維を武器に戦うのか話が合うようだ。

 

「でもぱわーがないと操れないから。とうもろこしを食べないと」

「大変なのね。でも私も糸を出すのにいっぱい食べる必要があるのよ」

「一緒だね」

「一緒ね」

 

 ふふ、と笑い合っている。クモルクメルは人里離れて暮らしてたんだったな。彼女と話せて楽しそうだ。

 邪魔はしないでおこう。

 

「ネェチャン。俺達と一緒に楽しまねぇか?」

「嫌よ」

 

 おっと。フラウが男に絡まれている。白髪に髭を生やしたむきむきの男だ。傍らには黒髪の筋肉質な男が立っている。髪を後頭部で結び和服を着ていて刀を腰に提げていた。侍というヤツだろうか。

 まぁ、誘いはにべもなく断られていたが。

 

「ソリッズ殿、いい加減やめてはどうか。先程から断られてばかり」

「煩ぇ! こんなにネェチャンがいて一人も誘えないなんて、男が廃るってもんだろうが!」

「いや、某はボレミア殿とサラ殿がいる手前付き合いたくないのだが」

「ジンてめえ! 妻帯者みたいなこと言いやがって!」

 

 フラウを他所に男二人で言い争いを始めていた。

 

「まぁいい。なぁネェチャン、ちょっとくらいいいだろ?」

「嫌よ。あんまりしつこいと力尽くで黙らせるから」

「そういうことなら受けて立つぜ。俺ぁ腕っぷしには自信があるんだ。その代わりネェチャンの一撃を受けて立っていられたら、付き合ってもらうぜ」

「ふぅん、よっぽど自信があるんだ。いいよ、それで」

「ほら、いつでもいいぜ?」

 

 どうやらあの男、フラウの一撃をまともに受けるらしい。……まぁ頑丈さに自信があるみたいだし、死にはしないだろう。

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

 フラウは言って思い切り蹴りを繰り出した。男は全身に力を込めて耐える構えだ。だが、蹴りが直撃するとどごぉ! と重い音が響き男の厚い腹筋に足がめり込んだ。男の顔も苦悶に変わっている。

 フラウが足を引くのと同時に男が仰向けに倒れ込み、ぴくぴくと痙攣したまま起き上がらなかった。

 

「ソリッズ殿ーッ!!」

 

 ジンとかいうヤツの叫び声が響き渡る。フラウはふんと鼻を鳴らして去っていった。……まぁ、心配はいらなかったかな。ただこういう場だと浮かれてフラウの魅力にやられるヤツもいるだろうし、ちょっと悪いことをしたかもしれない。後で埋め合わせはしよう。

 

 しかしこうして見回っていると本当に色んなヤツがいるな。

 

「よーし、けんぞくぅをいっぱい増やしちゃうぞーっ」

「こら、走り回るなよ!」

 

 金髪の少女と少年がとたとたと走り回っている。

 

「こら、アイル。食べる時ぐらい行儀良くしなさい」

「姉さん、いいって。自分でやる」

 

 姉弟らしき二人がなんだか言い合っていた。黒髪のちょっとやさぐれた少年と、黒い長髪を綺麗に切り揃えた少女だ。

 

「お久し振りですね。再会を祝して、始めましょうか」

「うむ。良かろう」

 

 エウロペと水色の髪を持つ女性が会話をしている。どうやら向こうも星晶獣のようだ。

 

「では妾から。つい十年の話だが、妾の眠りを妨げた愚かな人共を凍てつかせたのだ」

「前にも聞いた気がしますが、聞きましょう」

「ふふ、やはり愚かで醜い人共が凍てつき美しい氷像と化すその瞬間がいい。人の文化ではこれをぎゃっぷと言うらしい」

「ぎゃっぷ、ですか。しかし貴女はどれだけ経とうと変わり映えしませんね」

「ふん。そこまで言うなら聞かせてもらおうではないか。そなたの美しいモノとやらを」

「ええ、いいでしょう。あれは私が旅を始めたばかりの頃です。幽世によってくすんだ色の空が蒼に戻り黄金の粒子が散る……。あれほど美しい光景は見たことがありません」

「吹雪の方が何倍も良いと思うが」

「あの光景を見ていないからそのようなことが言えるのですよ」

 

 美しいモノ談義? に花を咲かせているらしい。旧交を温めるのはいいことだな。そういえばエウロペはあの時の空をうっとりと眺めていたような気がする。そういう美しいモノが好きなのかもしれない。

 

「リュミエール聖騎士団のモットーは、『清く、正しく、高潔に』であります」

「む、立派なことだ。人の世にもそのような心得があるのだな」

 

 今度はブローディアがバウタオーダ達のいるリュミエール聖騎士団の面々と話をしている。生真面目そうなブローディアと馬が合うようだ。……うちのヤバいヤツらとは馬が合わないだろうし、ここらで息抜きをするのはいいことだ。そして精々苦悩するがいい。是非俺の悩みを共有してくれ。

 

「なぜだ! なぜ闘争本能を抑える必要がある!」

 

 聞き覚えのある声が、と思ったらガイゼンボーガだった。彼は対面に座っている黒い肌の男性ドラフに詰め寄っているような様子だ。

 

「……私の村の者達は皆、同じように闘争本能に悩まされていた。貴殿のような純粋に戦いを重んじる心はないのだ」

「では一度闘争本能に身を任せ、戦場を駆けるが良い。敵を蹂躙し、また自らも敵の攻撃を受ける! 勝利後の美酒はまた格別なモノよ。貴様も一度味わってみればわかる」

「い、いや。私はこの闘争本能を戒めねば……」

 

 相手の男を戦いの道に引きずり込もうとしているらしい。……やめてやれよ、ホントに苦しそうだから。

 とは思うが好きにさせてやった方がいいだろう。今正に勝利の宴の最中だからな。邪魔するのは俺とガイゼンボーガの取引に反するだろう。という名目で厄介事には関わらないのが良し。

 

「そのうぇーい、というのはなんだ?」

「そりゃあれよ、なぁ?」

「え? おうよ、あれだよなトモちゃん?」

「お前ら説明できねーからって俺に押しつけんなよ……。えっと、ウェーイってのはあれっす。挨拶とかかけ声とか、まぁなんていうかそういう時に使うモンすよ。別にこれといった決まりがないっつーか」

「ふむ、なかなか奥が深いのだな」

「そんじゃシヴァさんも一緒にやっちゃいます? せーのっ」

「「「ウェーイッ」」」

 

 うちのシヴァになんてこと言わせてんだあいつら。

 マズい場面に遭遇してしまった。ローアイン達とシヴァが話している。しかもウェーイを覚えてしまった。クソ、なんてことだ。

 

「シヴァさんなかなかノリいいっすね。バッチリっすよ」

「あ、バッチリってのはいい感じってことなんで」

「うむ、ばっちりであったな」

 

 ヤベぇ……! あいつらと会話しているだけでシヴァ語録がおかしくなっていく! とんでもねぇ出会いもあったもんだな。

 

「じゃあお次はあれいっちゃいますか」

「おう、あれだな」

「いやあれじゃわかんねーべ」

「トモちゃん、あれよあれ。さっきヤバいを教えたじゃん? その最上級、見せちゃおう的な?」

「もうあれいくのかよ。それはマジで」

「「「ヤバババハムート!!」」」

 

 ……流石に止めるか。

 

「それはなんであるか?」

「さっき教えたヤバいの一番上っすよ。超絶ヤバい時に使うんす」

「ふむ、心得た」

 

 流石にシヴァの無表情で「ウェーイ。ダンチョー、今日はカフェでパーリィと洒落込んじゃいますか?」とか言われた日には会話が成り立たん。笑い死ぬ。

 

「貴方はシヴァではありませんか。お久し振りですね」

 

 そこに赤い鎧を纏った赤髪の美女が現れた。

 

「アテナか。うぇーい、である」

 

 振り向いたシヴァは彼らに習った挨拶を早速活用する。

 

「…………」

 

 喧騒に包まれた宴の会場で、沈黙の風が吹き荒んだ。

 

「人違いだったようです」

「む、我はシヴァなるぞ。アテナ?」

 

 くるりと踵を返して立ち去る彼女を、シヴァは不思議な様子で後を追っていく。一応これで被害は最低限に抑えられたか。抑えられたか?

 念のため釘を打っておくか。

 

「……なぁ、ローアインよぉ」

「おっ、ダナンっち。あれ、なんか怒ってね?」

「いやぁ、別にお前らがうちのシヴァに妙なことばっか教えてて腹立ってるとかそんなこたぁねぇよ?」

「それおこなヤツじゃん」

「大丈夫だって。明日カタリナが急にお前を避けたりとか絶対ねぇから。なぁ?」

「……すんませんっしたーぁ!!」

「ぎゃははっ。謝るまではえー」

「お前らのこともローアインから聞いてるぜ? 街中の女性から避けられたりとか、釣り銭すら手を避けて台に置かれるとかねぇから、まぁ安心しとけよ」

「「……すんませんっしたーぁ!!」」

「おう、よろしくな」

 

 よし、これで釘は充分だろう。ヒソヒソと「……マジっべーわあいつ」「いやダンチョー並みに強くてダンチョーより容赦ねーからダナンっち」「うわー絶対敵に回したくねー」とか話している声は聞こえてきたが、まぁそれくらいはいいだろう。

 

「「「ずるるる……!」」」

 

 らぁめんの屋台コーナーで三人並んで麺を啜っているのは、らぁめん師匠にリルル、そしてリューゲルだ。二人のハーヴィンはらぁめん師匠を挟むように座っている。

 らぁめん好きな師匠が宴に用意するように頼み込んだのだと思う。あの人のらぁめんにかける熱意は本物だ。

 

「「「ぷはっ!」」」

 

 一気にらぁめんを完食し汁まで残さず飲み干した三人。

 

「実にいい食べっぷりですね、お二人共」

「私はステージが終わって久し振りのラーメンですからね」

「おじさんは、仕事の後に一杯と決めてるのよ」

 

 らぁめん談義に花を咲かせるのかと思い、ちょっと立ち聞きしてみる。

 

「あなたは“黒闇”の方ですよねぇ。ラーメン、お好きなんですか?」

「うん、まぁね。僕のいたところだとあんまりラーメンは知られてないんだけど、いつも行ってる大将のラーメンが本当に好きでね」

「凄いんですね、私も食べてみたいです」

「機会があれば行ってみるといいよ。ところでラーメンはどこで知ったのかな。おじさんはその大将のお店なんだけど」

「私は偶々そこにあったラーメン屋です。子供の頃にいっぱい通ってて好きになったんです」

「いいことだね。おじさんも君くらいの娘がいるんだけど、あんまり食べたがらなくてね。太るからって」

「うぐっ! そ、そうなんですよねぇ」

 

 確かそれでリルルは昔太ってた、って話をどこかで聞いたことがあったな。

 

「私はラーメン作りの師匠がいるんですよ。その、私が大将と呼んでいた人は私が知る限り、最高のラーメンを作る人です。ですが、ある日離れ離れになってしまいまして」

「七曜の騎士に連れ去られたんですよね」

「っ!? ぐっ、ごほっ!」

「だ、大丈夫ですか? すみません、お冷貰ってもいいですか?」

「あ、ありがとうね。おじさんは、大丈夫だから」

「七曜の騎士の一人に連れ去られてからは行方知れずですが、私は大将のようなラーメンを作ってみたいと思っていますよ」

「そ、そうなんだ。それでその、大将を連れ去った七曜の騎士のことを恨んでるのかな?」

 

 ……見るからにリューゲルが挙動不審だ。お前かよ、らぁめん師匠の師匠攫ったのは。

 

「どうでしょうね……とりあえず一発ぶん殴ってやりたい気持ちはありますが、そこまで恨んではいません」

「そうなの? ……ふぅ」

「ラーメン好きに悪い人はいません。なら、その七曜の騎士も大将のラーメンに惚れたのでしょう。流石に、手段は選んで欲しかったですが。いつか大将のラーメンに惚れた者同士、熱く語り合ってみたいですね」

 

 今隣にいるよそいつ。

 

「そ、そうなんだ。じゃあ、今日はおじさんと語り合おうか。仕事も忙しくて、身近に語れる人がいなくてね」

「いいですね、リルルも含めて三人で議論しましょう」

「もちろん、ラーメンのこととなったら手が抜けません」

 

 まぁ、盛り上がってるならいいか。水差すのも悪いし、放っておこう。

 

 ……ただリューゲル、いつかちゃんと謝れよ。

 

 辺りを見回せばニーアが誰かと話している。女性二人だ。あいつも気が合う人間ってヤツがいるんだろうか。

 と思って近づき様子を窺うことにする。

 

「愛、ねぇ。私は死んだ夫と息子がそれでも傍にいてくれるから、それが愛でしょうね」

「へんぜぇ……ぐれぇ……」

「今は俺達が家族だってよ! 嬉しいじゃねぇか!」

「確かに愛と言えるかもしれないな」

 

 やはりというか愛について話を聞いているようだ。

 女性の片方は見るからに怪しい。なにせ傍に骸骨の幽霊が二体寄り添っているからだ。おそらく言っていた夫と息子なのだろう。

 もう片方は黒髪のドラフだ。へんてこな人形二体を連れている。

 

「……死んでも、か。愛されてるんだね」

 

 ニーアは二人の話をどこか羨ましそうに聞いていた。彼女の琴線に触れるようなことは多分、ない、かな? これなら放っておいても良さそうだ。

 

 さて次はどこにいるかな。おっ、あそこの一角は……凄い、穏やかだな。

 

「ふむ、アストラルか。興味深いね」

「そうじゃろうそうじゃろう。ただ吸いすぎると酔うんじゃよ〜」

「じゃが寿命を極端に延ばすこともできる。一考の余地はあるじゃろう?」

「確かにね」

 

 ずず、と三人揃って宴の席で湯呑みで茶を啜るハーヴィン髭爺。十天衆のウーノ、サングラスをかけた白い髪と髭に長いヤツ、そして賢者エスタリオラだ。星晶獣などを除けば、多分一番平均年齢の高い集まりだろう。

 騒がず茶を飲み議論を重ねている。宴の中ではある意味近寄りづらい空気を醸し出しているところでもある。

 

 ウーノはここだったが、と他の十天衆がどうしているのかを見回して確認する。丁度ナルメアとアネンサがいるところにフュンフとオクトーがいた。最近アネンサはナルメアと凄く仲がいい。自分より強くて同じ種族で同じ刀使いというところから慕っているのだろう。最近はちょこちょことナルメアについて回ることも増えてきた。まぁ俺もお兄ちゃんと呼ばれて甘えられることが多い方ではあるのだが。

 

 フュンフとも上手くやっているようだし、心配はなさそうだと思っていたのだが。

 

「あんた、最強と名高いオクトーでしょ? 僕と勝負だ!」

 

 トキリがオクトーに勝負を吹っかけていた。

 

「良かろう」

 

 挑まれた勝負は受けると言うのか、あっさり頷いて席を立つ。一応俺も声をかけておくか。

 

「オクトー。そいつは本気で瞬殺でいいからな。格の違いを見せつけてやってくれ」

「? うむ。あいわかった」

「ふん! オクトーを倒せば他を倒せなくても僕が最強だ!」

「いや、俺らに勝てなくてオクトーに勝てるわけないんだが、まぁ頼んだ」

 

 どうやらまだ心は折られていなかったらしい。そろそろ折れると思うんだけどなぁ。

 

「あ、お兄ちゃん」

「ダナンちゃん。一緒に食べる?」

「よう。いや、悪いんだが皆の様子を見て回っててな。楽しそうで良かったわ」

 

 二人の頭を撫でてやって相手をしつつ、次の行き先を決める。次は一番の懸念人物だ。

 

「におおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 普段冷静そうなニオが奇妙な叫び声を上げている。その表情は恐怖に彩られていた。

 

「いきなり叫び声を上げないでくれないか? オレはただ、キミが音を好むって言うから是非話をと思って」

「ち、近づかないで! 歪んでるのに、正しい旋律? 調律しようもないのに、凄く嫌な音……!」

 

 ニオは彼が一歩近づいただけで怯えた様子を見せ、部屋の隅で耳を塞いでがたがたと震え出してしまった。……出会わせちゃダメなヤツだったかぁ。

 

「ニオ、しっかりして!」

「におおぉ……におおぉ……」

「ダメだね、心を閉ざそうとしてる」

「ニオがそんなになるなんて、あなたは何者ですか?」

「オレはロベリア。音を愛する天才魔術師さ。是非彼女と意見を……」

「におおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

「これはマズいことになった。着々とトラウマとして植えつけられてるね」

 

 これは、俺が始末をつけるとするかぁ。

 

「……なぁよぉ、ロベリア?」

 

 俺はがっしりと肩を組んでロベリアの胸骨を掴むようにみしみしと軋ませる。

 

「だ、ダナン。オレは大人しく彼女と話をしようと思ってたんだけど、なぜいい音をさせてくれるんだい?」

「いやぁ、お前って近づくだけで有害になることもあるんだなぁと思ってよぉ。是非遥か遠くへ行って欲しいんだよ。じゃあ、上空一万メートルから水面に叩きつけられて死んでこい」

「それは褒美じゃ――」

 

 俺はワールドの能力でアウギュステの海の上空一万メートルへとロベリアの身体を転移させる。今頃空から落下しながら楽しみにしているだろうよ。

 

「あー、悪いな。うちの団員が。言っても聞かないだろうが、ホント悪い」

「い、いやそれはいいんだけど、彼大丈夫なの?」

「ああ。あんなんで不死身だから性質が悪いんだ。……しかしシエテ」

 

 俺はぽんと彼の肩に手を置いた。

 

「お前は充分、頭目として頑張ってるよ」

「っ……!」

 

 団長という立場になってわかったこの苦労、シエテもさぞ大変だったと思う。

 と同情の目を向けていたらシエテが号泣し始めた。

 

「……ダナン君! 俺は君を誤解していたのかもしれない。君はすっごくいいヤツだ。最初に会った時はごめんね。いつか二人で飲みに行こう」

 

 どうやら気苦労が絶えなさすぎて感極まったらしい。俺から見たら充分頭目らしいと思ったのだが、実態はそうではないらしい。

 シエテと妙な友情が芽生えかけたところで、部屋の隅で震えるニオへと目を向けた。

 

「さて、ロベリアの尻拭いといくか」

 

 俺はニオに近づき一定の距離を置いて屈む。

 

「なぁ、ニオ。もうあいつはいないから安心していいぞ」

「……? 団長と、似た旋律?」

 

 できるだけ優しく声をかけたが、人それぞれの旋律とやら聴けるのか俺が声をかけたことで少しだけ目に光が戻ってきていた。

 

「うちの団員が悪いことしたな。誰か、一番安心する旋律のヤツはいないか?」

「……安心する旋律、なら団長」

「よし来た。悪いがニオ借りるぞ」

 

 俺は言って彼女を抱え上げ、なるべく最速で団長二人のところへ向かう。ジータは取り込み中のようだ、グランにしよう。

 

「おいグラン」

「ん? ってニオ? ど、どうしたの?」

「団長……?」

 

 ニオはグランに気づいたらしく、俺に抱えられた格好から両手を伸ばす。

 

「抱っこ」

 

 余程ロベリアの旋律が堪えたのだろう。グランに抱かれたニオはそのままじっとしていた。グランも戸惑ってはいるようだったが拒むつもりはないようだ。まぁニオも弱ってたしな。

 しばらくはグランとイチャイチャさせておこう。隣のルリアはオーキスと料理大食い対決中だから良かった。

 

「ダナン。丁度いいところに戻ってきたな」

 

 そこでアポロから呼び止められる。アポロの顔には朱が差しており、酔っているのだとわかった。

 

「まだ勝負はついていませんよ、まだ飲めましゅ!」

 

 その横にはアポロより盛大に酔っ払ったらしく耳まで真っ赤にして半眼のアリアがいる。……お前らなにやってんだ。

 

「あ、ダナン〜。丁度二人で飲み比べをしてたところなんだよ〜」

「だがアリアが思ったより早くバテて、それでも飲み続けて悪酔いし始めてな」

 

 二人の向かいにはスツルムとドランクもいる。席替えをしたらしい。

 

「なるほど。で、俺が戻ってきたのが丁度いいってのは?」

「お前にも審判をしてもらおうと思ってな。以前私とこいつは戦って引き分けたのだが、その時につかなかった決着を、今度は飲み比べでつけようという話になって」

 

 随分と平和的な方法にシフトしたんだな。いいことだけど。

 

「私はまだまだ飲めましゅから、負けてないんれす!」

 

 呂律の回っていないアリアはまだ酒を煽っている。お嬢様という品性が剥がれ落ちた姿だ。遠くでフォリアが笑っているのが見えた。あとなんか記録として残そうとしているらしい。後で怒られるぞ。

 

「と、ずっとこの調子でな。審判が私の勝ちを宣言してもやめないんだ」

「なるほど?」

「それで、ダナンにも混ざってもらって別の勝負をしようかと思ってね〜」

 

 ドランクのニヤケ面に嫌な予感がした。

 

「その名も誘惑対決~! ダナンを二人で誘惑して、どっちがいいかを審査してもらうんだよ~」

「てめえ禿げろ」

「辛辣すぎない!?」

 

 なんだその適当に考えた感満載の対決は。大体さっきまでいなかった俺を巻き込むんじゃねぇよ。

 

「大体、そんなの勝負にならないだろ。アリアお嬢様がそんな真似できるわけねぇじゃん」

 

 加えて、俺はそう口にする。ドランクの唇が吊り上ったのは目の錯覚だろうか。

 

「……いいれしょう。私にもできるということを証明してみせましゅ!」

 

 無造作に立ち上がったのはアリア本人だ。呂律が回っておらず、立ち上がる動作にも上品さが全くなかった。……ヤベぇ、地雷踏んだわ。こういう場面は以前にもあった気がする。あれはそう、アポロの告白翌日のオーキスとのやり取りだったか。

 

 俺の方に近づいてくる足取りも怪しい。思わず肩を貸したくなってしまうくらいだ。

 倒れないように少し手を伸ばしながら待っていると、ふらついた要領で俺に抱き着いてきた。俺の首の後ろに手を回し、しな垂れかかるような体勢だ。酒で火照った体温や彼女の持つ甘い香りを感じてしまうが、近づけた赤ら顔でにへらっとだらしなく笑ったことで台無しになる。なにせ酒臭い。

 

「どうれすか? ふふ、ゆーわくですよ」

 

 なにが楽しいのか微笑んでいる。倒れそうになる可能性も考えて剥き出しの腰に手を回した。でも確かに、これは誘惑だ。酔っていなければ完璧だったが、酔っていなかったらできないというこのジレンマである。

 

「これはまさかの優勢だな。酒で理性が緩んだ結果だろう」

 

 スツルムが解説のようなことをしている。どこかからヒューヒューと古臭い冷やかしが聞こえた。ローアイン達とフォリアだ。通常状態のアリアに言いつけるからな、お前ら。

 

「……む」

 

 対するアポロは少し困っている様子だ。アポロは俺とああいう関係になってはいるのだが、人前では恥じらいを持ってしまう。酒に強かったことが災いしてしまった状態だ。

 

「……まさか、こんな結果になるとは」

 

 アポロなりに頑張って俺の左手を取るが、誘惑には程遠い。人前でというだけでアポロには無理難題だったようだ。

 

「おおっと、我らがボスは初心なんだねぇ。これは勝負あったかな~?」

 

 ドランクがわかりやすく煽りを入れている。アポロは負けるのは癪だと思ったのか、意を決したように近づいて俺の腕を抱えるようにした。

 

「ふん、これでどうだ?」

 

 酔いではない理由で顔を真っ赤にしているようだが、確かに体勢の問題で柔らかいモノの間に腕が挟まっていて誘惑にはいいかもしれない。

 

「いやぁ、羨ましいね~。僕もあれやってみた痛ってぇ!」

「黙れ。お前には一生訪れない」

「酷い!?」

 

 傭兵コンビは相変わらずのやり取りだ。さて、そろそろ判定しないと俺の立場がおかしなことになりそうだ。あとアリアが酔った時のことを覚えていたら立ち直れなくなりそう。

 

「じゃあ、そうだな。アリアの勝ちで」

「なんだと!」

「誘惑っていうテーマ的にな」

「ふふふ、私の勝ちれすね」

「ま、待て! 飲み比べは審判の判断で私の勝ちだっただろう! だから一勝一敗一引き分けだ。まだ勝負はついていない」

「往生際が悪いですね。ダナンは私を選んだんです。貴女ではなく」

「貴様……!」

 

 アリアはいつになく饒舌で、アポロの怒りを煽っている。……勝負が終わったんだからいい加減離れてくれないかな二人共。

 

「……ダメですよ、ダナン。私を忘れちゃ」

 

 不意に背後から声が聞こえたかと思うと、後ろから手を回して抱き着かれた。

 

「リーシャ?」

 

 声からして彼女に間違いはない。

 

「ずっとダナンと離れ離れで寂しかったんですから。今日から一緒にいてくださいね」

 

 素直なリーシャは狡いと思う。さておき、主張は控えめだが確かに感じる柔らかな膨らみとかに意識がいってしまう。この状況は非常にマズい。

 

「……ダナン。両手と背中に華で、嬉しい?」

 

 無表情から紡がれる無感情な声が一段と冷え込んでいる気がした。

 

「お、オーキス」

「……嬉しい? 私を放って皆とくっついて、嬉しい?」

 

 なんだろう、凄く怖い。途端に空気が張り詰めていくような気がした。

 

「おっと、これは修羅場だね~。さ、スツルム殿~。僕達は料理食べてよっか~」

「ああ。お前の言う通り、他人の修羅場を見ながら食べる飯は美味い」

「てめえら後で覚えとけよ……!」

「……余所見?」

「……ごめんなさい」

 

 二人を睨みつけようにも、怒り心頭な様子のオーキスに服を引っ張られてしまう。……クソ、これはマズい。なんとかして鎮めなければ! フラウとナルメア(他の二人)が来る前に!

 

「楽しそうね、ダナン。私も混ぜて?」

「ダナンちゃんはお姉さんと一番仲良しだもんね」

 

 ――時、既に、遅し。

 

「……面白い冗談。ダナンの一番は私」

「オーキスちゃんに負けてるところはもうなくなったからね」

「……っ。また私がいない間に、他の女に手出しした」

「そういえば貴様、随分と増やしたな? 殴っていいか?」

「ダメですよ、ダナン。皆となんて。私一人だけにしてください」

「リーシャじゃ欲求不満になるでしょ? ダナンには私がいないと」

 

 ……嗚呼、この世界に俺の胃を労わってくれるヤツはいないのか。

 

 そしてニヤニヤしながら酒の肴にしてるそこの親友殿。爆発しろ。

 

「……すぅ」

 

 一触即発の状態だったのだが、寝息が聞こえてきたかと思えばアリアが俺に抱き着いた姿勢のまま眠っていた。

 これを口実にと他のヤツから離れてアリアを座らせ、机に突っ伏させておく、と思ったのだが。手を離してくれない。

 

「……クソ、寝てるのに力強いとかそんなところで七曜の騎士っぽさを主張するんじゃねぇ」

「……ダナンは私じゃなくて、アリアを選ぶ?」

「違うからな!?」

 

 傍目には俺が他のヤツではなくアリアとだけくっつくようにしたように見えるらしい。いや、引き剥がすの手伝えよ。

 

「アリアさんがいいなら私もいいですよね」

 

 珍しくと言うべきかリーシャが真っ先に背中に抱き着いてくる。腕をアポロに取られ、正面を三人が鬩ぎ合っている。

 

「いいから話を聞け。というかアリアを剥がすのを手伝えって!」

 

 なんとかアポロを真っ先に説得してアリアを引き剥がし、一人ずつちゃんと話をすることで収めていった。……クソ、二度とご免だ。だがこれから先はもっと大変になるんだろう。団長って、大変。いやこれは団長とは関係ねぇか。

 

 妙な疲労感を伴いながら移動した先には、ナル・グランデの錚々たる面子がテーブルを囲んでいた。

 

「それにしてもびっくりしたよ、レオ姉。まさかダナンの騎空団に入るなんて思ってなかった」

「ああ、俺もだ」

「うん、正直私もそう思ってるかな」

 

 イデルバの将軍、カイン。カインの戦友にして元トリッド王国でそれなりの地位だった人、ラインハルザ。イデルバの将軍カインの副官、レオナ。

 

「妾はお主の方が意外だったがの、バラゴナ?」

「はは、私もこうなるとは思っていませんでしたよ。……正直、余生を過ごしている気分ですがね」

 

 元イデルバ王国国王、フォリア。緋色の騎士にしてトリッド王国の第一王子だった、バラゴナ。そしてフォリアの横で座っているハクタク。

 

 ナル・グランデ空域におかえる一連の騒動を巡る中心にいた人物ばかりだ。アリアもその一人だが、彼女は今あれだったので入っていない。

 

「……そうでした。こんな機会でもなければ言うことがないかもしれませんが、お二人には謝罪と感謝を」

 

 バラゴナはふと思い出したように、カインとレオナへ深々と頭を下げる。おそらく言い出すタイミングを計っていたのだろう。それぞれ適度に酒も入っているようで、深刻な話をするには丁度いい。

 

「謝罪は、ハルヴァーダの護衛であった彼――アベルの死に関わっていた張本人であること。彼は真王の命令で一族を皆殺しにする私がハルヴァーダを殺すのを止めようとして、監視役だったギルベルトに殺されました。その場にいながら見殺しにするしかできなかったことを、謝罪したい」

 

 バラゴナは殊勝に頭を下げたまま罪を自白した。

 

「感謝は、今ハルヴァーダが生きており私が彼を生かすために尽力していたことからもわかる通りです。彼がいなければ、私はハルヴァーダを殺し、人の心を失くしてしまっていたでしょう。彼が、私の親友が命を賭してハルヴァーダを守るように説得してくれなければ、今の私はありません。……当時言えなかったために、これは私の身勝手な思いですが」

 

 バラゴナは抱え込んでいた想いを吐き出すように、そっと語った。それを聞いたレオナは涙していたが、悲しさを思い出したわけではなかった。

 

「……ああ、やっぱり、アベルは最期までアベルだったんだなぁって」

 

 涙を拭いながら、彼女は笑った。

 

「……そうだな。兄さんは兄さんだった。謝罪は受け取るけど、あんたを責める気はないよ。ギルベルトがその場にいなければ変わっていたことだと思うから。恨むべきはあんたじゃなくて、ギルベルトだ。それは今の変わらない」

「……ありがとうございます」

 

 顔を上げて話を聞いたバラゴナは、再度頭を下げる。

 

「……私も、バラゴナさんを恨む気にはなれません」

 

 レオナもそう言った。

 

「……まさかそんな、レオ姉の視野が狭くならないなんて……」

「いつの間にか随分と成長したようじゃな」

「カイン! フォリア様も。……私だって、そろそろ色々と考えなきゃなぁって思ってるんだからね」

「ほう? それはそこで俺達の話を盗み聞きしてる小僧の影響か?」

「えっ?」

 

 おや、バレてしまったか。なかなか鋭いなあのドラフ。

 

「ダナン君」

「おう。盗み聞きってほどじゃねぇけどな、問題が多いヤツが多いから様子を見て回ってたんだ。あ、もちろんそこにお前も入ってるからな?」

「うっ……。ちょっと否定できないけど」

 

 レオナは猪突猛進というか、視野が狭くなりやすいからな。あと精神的に不安定。充分注意が必要な人材だ。

 

「まぁ上手くやってるようなら良かった。じゃあ俺は他のところも寄るから」

「あ、うん。そうだ、ちょっとだけ話いい? そんなに時間が取らせないから」

「ん? まぁ、いいけど。そいつらとの話はいいのか?」

「うん」

 

 レオナが俺に話があるらしい。

 

「じゃあここだとあれだから、外でいい?」

「ああ」

 

 というわけでレオナに連れられて会場の外へと出ていく。

 

「……う~ん。まぁ、レオ姉に限ってそれはないか?」

「そうじゃな。レオナは変わり始めたばかりとはいえないじゃろう」

「ああ。そういや、俺としちゃあんたと飲むってのは妙な気分だよな。ただの軍人と王子様だぜ? 奇妙な縁もあるモンだ」

「確かに、そうですね。とはいえ腐敗した王国の王子となど、酒が不味くなりそうですが」

「トリッド王国の腐敗の話を出されると弱いのじゃ」

 

 残った面子は面子でそれぞれ話すようだ。初めて別空域に渡ったヤツも多いだろうから、もっとこの空域に馴染んだヤツと話してもいいと思うんだがな。

 まぁ、今はレオナの話をちゃんと聞こうか。

 

 彼女に連れられて、人気のない夜のベンチに腰かける。なんだかロマンチックだが、彼女がアベルという人物とのことを今も引き摺っているとなるとそんな気分にはなれない。流石に刺されそう。

 

「それで話っていうのは、私が騎空団に入ろうと思った理由なんだけど」

「ああ、そういえばそんな話をしてたな」

 

 あまり他人に聞かれたくない理由そうだったから聞かずじまいだった。

 

「うん。空を旅して自分の狭い世界から抜け出す、っていうだけならどこの騎空団でも良かったと思うけど。私ももうちょっと、前を向かなきゃいけないのかなって思ったから。……そう思わせてくれたのが、ダナン君だったから」

「俺が?」

「うん。ダナン君だけが、私を叱ってくれた。責めてくれた。今まではずっと、トリッド王国の崩壊に巻き込まれて婚約者を失った可哀想な人、っていう印象だったと思うから。カインも、他の皆も私に優しくしてくれた。私がフォリア様を裏切って、ギルベルトの口車に乗って行動した後も、それを知っても。“蒼穹”の皆だってそう。だからきっと、私がずっとアベルのことを忘れられずにうじうじしてたって、皆は受け入れてくれる。優しく」

 

 その言葉が容易に想像できた。もし“蒼穹”に所属したら、きっとそうなるだろう。俺が別に変わらないことを許容しないってわけじゃないが、変わらずヘマをやらかしたなら罰を与えるだろう。周りが優しすぎて、俺のように罰を与えてくれる人もいない環境だったのだ。そして、旅をしようにも“蒼穹”が優しいからそういう周りからは抜け出せない。

 

「アベルのことを忘れるっていうのは難しいし、忘れたいとは思ってないよ。でも変わらないままなんて嫌だなって、変わらないままいつかまたなにかをしてしまうことが怖くなって。カインも変わろうとしてる。ううん、もう少しずつ変わり始めてる。……昔は誰も死なせないっていうそれだけのためだったのに。目的は同じでも気持ちが違うって言うのかな。ラインハルザと一緒にいるのもいい影響だと思うし」

「そうか」

「それに気づいて、今の自分を見つめ直した時に思ったんだ。私、ただ十年足を止めていただけなんだって。バラゴナさんは、ハルヴァーダ君を殺そうとしたことをアベルに止められて、アベルの死にハルヴァーダ君を守り抜くって誓いを立てた。フォリア様はなにも知らない頃にトリッド王国の崩壊に手を貸して、でも今度は自分がトリッド王国に代わる国を造ろうってイデルバ王国を率いた。……このままじゃ私だけずっと変わらないままなんだなって思ったら、悩みが増えちゃって」

「それで、前を向こうってか。まぁ、いいんじゃないか? “蒼穹”にしなかったのは団長二人含めて環境が優しすぎるからなんだな」

「うん。まだいくつか理由があるんだけど。一つはカインが入ったって聞いたから。アベルがいなくなってからの十年、私はずっとカインをアベルに重ねてきた。まずはそれをやめるために、カインとは別の騎空団に入ろうと思ったの」

「なるほど」

 

 どうしても重ねてしまうなら、そういう物理的な離別も必要か。

 

「あと、あのほら、アベルのことを忘れるなら、新しい男の人を好きになればって思うところもあったんだけど」

「ああ、まぁそういう意見もあるよな」

「でね? アベル以外でいいなぁって思う人がいなくはなかったんだけど」

「へぇ? じゃあそいつのとこ行けば良かったんじゃないか?」

「その人っていうのがその、グラン君なの」

 

 ほう。いや、あいつは競争率高いぞ。現段階では俺もあれなんだが、いずれは俺を超えて伊達と酔狂の騎空団の団長くらいにはなるはずだ。

 

「じゃあそっちでいいんじゃないか? ちゃんと自分で自分を戒めればなんとかなるだろ」

「それが……グラン君がいいなって思った理由が、アベルに似てるからなんだ」

「……」

 

 それは、意味ねぇわな。

 

「だからアベルを連想する人が少ない“黒闇”の方がいいかなって思って。あと、ダナン君は容赦ないし」

「……それは貶してるんじゃないだろうな。まぁ、レオナがそれでいいんなら、好きにすればいい」

「うん」

 

 さて、レオナの話は聞いた。団長としてはここでなにかを言うべきなんだろうか。言うべきだろう。こう、ためになる言葉を。……いや、無理だな。俺は俺に思いつける範囲でしか言えん。

 

「まぁ、あんまり力になれる気はしないが困ったら相談しろよ。これでも団長なんだからな。団員の精神的ケアも仕事の内だしな」

 

 俺はレオナにできるだけ優しく笑いかける。上手くできていた自信はないが、まぁそんなモノだろう。

 

「……なるほどね。これが年上キラー」

 

 なぜかレオナが納得していた。……いや、それはどういう意味だ?

 

 疑問を抱えつつ残りの団員はと思って会場を見渡せば、残る一人であるカイムが一人でジュースを煽っていた。

 

 ……まぁ、あいつはあれでいいのかな。害はないし。

 

 そう結論づけることにした。

 因みに宴をお開きにし始めたところで目覚めたらしいアリアが気に入ったのか俺に抱き着いてきて、またもやあの状態に逆戻りした。寝たんなら正気に戻れお嬢様。

 結果、全員で同じ宿の大部屋に泊まる羽目になったのだが。……リーシャとアリアが目を覚ました時、ショック死しないといいんだが。

 

 俺は自分の心配よりも、生真面目な二人の心を案じるのだった。




次はそれぞれの騎空団の現団員の一覧を更新しますが、割り込みで幕間IⅡの最初にしようと思ってます。
実質明日は更新なしだと思っていただいた方がいいかもしれませんね。

“蒼穹”、“黒闇”の順にする予定。
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