朝。
それは目覚めの時。
意識が覚醒し、新たな日にちが始まる最初の時。
同時によく眠ると酒を飲んだ酔いからも覚める時である。
「……あ、ああ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
心地良い朝の目覚めから、真っ青と真っ赤を行き来して頭を抱えるのは当然アリアである。
「……私はまぁ、酔っていたので頑張った方ですね」
リーシャは思っていたよりマシだった。なにやら自分を褒めている。普段だったら絶対にできないことだったからだろうか。いや、少しずつではあるが彼女は進んできている。油断はならない。
「……アリアが一番、ダナンとイチャイチャしてた」
「言わないでください! なぜ、なぜあんな行動に……! しかもなぜ記憶が残っているのですか!」
なまじ記憶が残っているタイプだったからか、アリアの精神状態はしっちゃかめっちゃかになっているようだ。
「……お酒は、当分控えます。二度とあんな過ちは犯しません」
アリアは表情を普段のモノで取り繕い、きっぱりと告げた。そして俺をきっとなぜか俺を睨んでくる。
「念のため言っておきますが、私は全く貴方のことを好いていません。昨日のことは忘れなさい」
「……ん。なら良し。今後ダナンに色目使わないなら、昨日のことは許す」
アリアに対してなぜかオーキスが鷹揚に頷いた。
「なぜ貴女が……いえ、やめておきましょう。兎に角、昨日のことはなにかの間違いなので勘違いしないよう」
彼女も俺と同じようなことを思ったらしいが、触れずにおくらしい。
「ああ。二日酔いには気をつけろよ」
「問題ありません。気遣いは無用です」
「あとフォリアが昨日の酔っ払いっぷりをどうやってか映像に残してるはずだから気をつけてな」
「……そうですか、ありがとうございます。どうやら姉さんとはじっくり話し合う必要がありそうですね」
ふふ、と少し暗い笑みを浮かべるとアリアは身だしなみを整えて部屋を出て行った。おそらく宿屋の店主に「昨晩はお楽しみでしたね」と言われて赤面しているだろうか。それとも意味がわからなくて首を傾げているだろうか。まぁ、どっちでもいいか。アポロとの飲み比べの結果酒に呑まれたのはアリアの責任だし。
「……ダナン。今日はどうする? デート? それともこのまま?」
昨夜当然のように俺の上を陣取ったオーキスがそう尋ねてくる。「このまま?」の問いはあれだろう、昨夜は大半が酔っていたこともあって大人しく寝ることにしたからな。本当にお楽しみする気だ。正直なところそうなるとリーシャが仲間外れになるので、あまりよろしくない。リーシャを追い出すか、見学させるかという究極の二択を迫られることになってしまう。後者はあり得ないと思うのだが。
「折角皆いるし、出かけるか。とはいえ前来た時にデートスポットは回り尽くした気もするしな」
「……むぅ。二人きりがいい」
「また今度な。今日は皆で出かけるぞ。嫌なら好きにしててくれ」
「……ついてく」
「そっか」
結局、全員ついてくることになった。
街では死ねオーラを事ある毎に向けられ、宿に戻ってきた時には「あ、この人達二日連続なんだ」と悟ったような目を向けられることになる。
まぁリーシャがいたのでなにもなかった。ホントだよ。
それからは翌朝九時まで含めてを一日とし、一人ずつ二人きりの時間を作ることにした。翌朝まで、つまり夜を含むのはまぁ、あれだ。リーシャには不利な理由ですね。
オーキス、アポロ、フラウ、ナルメア、リーシャの順だった。ただしリーシャとは同じ部屋で寝泊まりしたが本当になにもなかった。彼女は勇気を振り絞って添い寝するという事態が起こったのだが。顔を真っ赤にして頑張っていたのでよしよししてあげた。
「放っておいて皆一緒なんて狡い!」
むすっと頬を膨らませてそう言ったのはアネンサだった。挙句、
「私もお兄ちゃんと一緒に寝る~」
と無邪気に抱き着いてきたので、ホントどうしようかと思ったモノだ。
まぁとはいえ拒むわけにもいかないので、アネンサとも二人で街を回り一緒に寝ることにした。もちろん彼女には一切下心がない。「お兄ちゃん抱っこ~」と無邪気に甘えてくるアネンサに苦笑して、抱えて眠った。
他のメンバーも含めて、数日は自由に過ごすように言っている(ロベリアとニーアは殺人厳禁)ので束の間の休暇を過ごしているわけだ。当然ガイゼンボーガのような変人は休暇だと告げると「戦場が吾輩を呼んでいる」とか訳のわからないことを言い出してどこかへ行ってしまったのだが。無論どこにいるかは連絡を寄越す約束は取りつけてある。
もちろんシェロカルテに頼んでおいた賢者の情報が入ってくればそこへ向かうし、残り一人の予定である六人の刀使いの情報も欲しい。
そう簡単に手に入るとは思っていないが、最近別行動をしたり厄介事に巻き込まれたりして相手してやれていなかったのでしばらくは一緒にいてやろうと思っている。まぁどうせ移動中は相手することになると思うんだけどな。
男連中とも多少はやり取りがあった。
レラクルは仕事がないとわかった途端惰眠を貪っている。宴以来会っていない。仕事があるまではずっと宿で寝泊まりするそうだ。
とはいえザンツに会ったところそろそろ進空式をやりたいと言い出したので、全員を呼び戻してアルトランテの新たな門出を祝った。
そこで結局決まらなかったらしい部屋割りを議論することになったのだが。
「……ダナンの隣の部屋は私」
「片方は私が貰おう」
「ダメ、私もダナンの隣の部屋がいいんだけど。移動が楽だし」
「お姉さんはダナンちゃんのお世話をするから隣だよね?」
「皆さん落ち着いてください。ここは私が風紀を乱さないために監視として……」
「私もお兄ちゃんの隣がいい〜」
「わ、私もダナン君の隣がいい、かな」
とまぁ数人が数少ない枠を争っている状態だった。
レラクルは「ダナンの部屋から遠い静かな部屋」。
ゼオは「どこでもいいぜ」。
トキリは「端っこでいいよもう」。
クモルクメルは「破廉恥から遠いところでお願い!」。
ガイゼンボーガは「どこでも構わん。強いて言うなら甲板の近くだ」。
エスタリオラは「どこでも一緒じゃのぅ」。
面倒なので一気に。レオナ、バラゴナ、リューゲル、アリア、シヴァ、ブローディアはどこでもいいそうだ。
エウロペは「美しい空が見える部屋がいいです」。
グリームニルは「真ん中に決まっている。ボスに相応しいだろう?」とのことだった。オーキスに「……ダナンが団長なのになに言ってるの」とロイド越しで小突かれていたが。小突かれるという感じではなかったのだが。まぁ真ん中でいいんじゃないかな。
ロベリアは俺の独断で誰の隣でもないぽつんとした位置に確定している。異論は認めない。
アルトランテは中型の騎空挺だが部屋数は多く五十部屋となっている。全て個室なのはかつての団長の意向だそうだ。
ザンツ曰く、
「女を連れ込めるようにな」
とのことらしい。確かに相部屋だと連れ込めないからな。いや、連れ込む必要はあんまりないんだが。……俺が言えるセリフかそれ。
兎も角団長部屋は居住区画の一番下だ。向かいに部屋はなく、階段だけがある。隣に二部屋あるので、そこをうちの団員が争っているらしい。
団長部屋のある階を含めて三階層あり、団長部屋のところは騎空挺に対して横になっているが、他は縦に並んでいる。団長部屋のある場所から階段を上がると左右に部屋が並び廊下が続く。逆側の下り階段を降りると倉庫やらがあるようだ。
その上にも居住空間があり、同じような廊下と左右に並ぶ部屋がある。その上が甲板だ。
他にも機関室とか船に必要な部屋に案内されたが、正直覚えていない。ザンツが覚えてればそれでいいと思う。食堂と厨房は大事だが。
以前の団長の要望により個室にはシャワー室完備である。一応浴場もなくはないのだが。男女別でないのが困ったところだ。団規則として入浴中の札がなかった場合を除き覗いたら落下刑に処されるので注意。まぁ俺は把握できるから誰が入ってるかはわかるし問題ないだろう。
あと個室の前には名札を下げることが確定した。俺の場合団長室があるのでいいが、他はすぐに覚えられないだろうという判断だ。考案はリーシャ。
あとは救護室やなんかの位置も大事である。まぁ、甲板を降りてすぐの階層でいいだろう。運び込むのに便利な位置がいいと思う。
「あー……相談して決めといてくれ」
俺はぶん投げた。自分の知らないところで決めてくれればいいと思う。
結果。
俺の左隣がオーキス、右隣がリーシャになった。
すぐ上の左列がアポロ、ニーア、フラウ。右列がナルメア、アネンサ。
となれば、必然上を一階とするなら一階を男が、二階を女が使うことになっていった。その辺りは節度を持って。それぞれ二十人ずつくらいは入るので、まだまだ余裕がある状態だ。救護室は以前使っていた場所をザンツが覚えていたのでそこにした。一階の階段を降りてすぐの場所だ。回復を使えるヤツがいれば必要ない可能性もあるが、回復を使えるヤツが倒れたり病気にかかったりしたら使う必要が出てくるだろう。問題は治療できるヤツが【ドクター】の俺と軍にいたレオナとなぜかできるナルメアぐらいだということか。そこはレオナ教官に頑張って広めてもらおうか。【ドクター】はあんまり教えるの上手じゃないし。
家具やなんかは部屋を決めてから個人で、ということなので、俺もベッドを購入しなければ新品の家具なんていつ以来だろうか。
ともあれ、それからは部屋のレイアウトを考えながら過ごしていた。
ゼオは自分の部屋を持ったのが初めてだとかで浮かれていたし、強くなるためにオクトーへ弟子入りしてくるとか言ってどこかへ行ってしまった。
レラクルは言った通り。ただし騎空挺があるのでそっちで眠るらしい。家具を運び込むのは流石に早かった。
ガイゼンボーガは必要最低限の準備をしたらまた戦へ。
ロベリアは趣味の悪いコレクションを置くために大きな棚を立てていた。
カイムはシンプルだ。眠る場所と机さえあればいいと言わんばかり。
四体の星晶獣はそれぞれ好きに人の街を見て回っているようだった。
まぁ、それぞれ楽しんでくれていたようなので良かった。
買い物に付き合わされたりもしたが、概ね何事もなく過ごせていた。
ある時皆で街を回っていたところに、見覚えのある黒髪の少女が俺達の前に躍り出てきた。
「だ、ダナン君!」
ニーアだ。優しく接しているはずだが未だに隈が消えないのは癖になっているからだろうか。一応フラウにも頼んで仲良くしてもらっているので、多分マシになっているとは思うのだが。
「どうかしたのか?」
そんな彼女は俺に話があるらしい。
「えっと、その……ふ、二人で話したいの」
ニーアはそわそわとした様子でそう言ってくる。隣のオーキスがむっとしていたが、流石にオーキスが警戒するようなことではないだろう。多分。
「まぁ、いいか。場所変えるか」
「っ、うん。ありがとう」
買い物も一通りは回ったところだったので、悪いなと一緒にいたヤツらに謝って彼女を連れ場所を移す。二人でゆっくり話せる場所か、どこに行くかと思っていたのだが彼女は迷いなく歩いていく。どうやら行く宛てがあるらしい。
街をすいすいと進んでいく。俺は呑気にニーアが行先を決めてるならそこでいいか、と考えてついていった。
やがて人気のない路地に差しかかり、ん? と首を傾げることも増えてくる。俺はどこに連れていかれるんだと眉を顰め始めて、ようやくどこへ向かっているかに見当がついた。
まだ昼過ぎなので人気のない通りに入る。その通りにある看板には「休憩 一時間 ○○ルピ」みたいな項目が書かれていた。……いやいや。
「……ちょっと待って」
「?」
俺はニーアを呼び止める。本人は振り返ってこてんと首を傾げていたが。
「……ちょっと確認なんだが、もうちょっと歩くのか?」
それが大事。すぐそこと答えられたら「え、マジで?」となること間違いなし。
「ううん。そこだけど」
ニーアはすぐそこの建物を指差した。……あ、マジでそういう建物なんだな。
「なんでそこにするんだ? 話すだけならこう、喫茶店とか……」
「えっとね、フラウちゃんに相談したらここがいいって」
あいつかーっ!!
あいつのことだから確信犯だ。間違いない。ってことは今日ニーアが声をかけてきた時もわかってて退いたんだな? ……後で仕置きが必要なようだ。
「……相談する相手、間違ってないか?」
「えっ? で、でも私はその、いつも家だったから。家以外だったらどうすればいいかわからなくって」
いつも家? ……一体なにをフラウに相談したんだ?
……まぁ、行くしかないか。場所が場所なだけで話の内容とは一切関係ないしな。
と、思っていた時期が俺にもありました。
「私を愛して!」
部屋に着いて早々、ニーアはそう訴えかけてくる。
「ぐ、具体的にはなにかあるのか?」
「う、うん……。えっとね、私を抱いて欲しい、の」
……ああ、そういう愛し方は知ってるのね。
頰に朱を差して上目遣いにそう告げてくるニーアに対してそんなことを思っていた。愛されたことがなさそうだから愛され方を知らないモノだと思っていたが。どうやら間違っていたらしい。
「……なんで急に?」
だがそれなら初日にそう言って迫れば良かったんだ。このタイミングで言い出す意味がわからない。
「最初はダナン君が愛してくれるようになるのを待つつもりだったんだけど、ダナン君がその、いっぱいの子を愛してるって知ったから。私も愛して欲しいって……」
なるほど。確かにニーアは仲間外れとかを嫌う感じするしな。宴の時のことを見てフラウに相談したのかもしれない。人に相談するより先に行動を起こすタイプだと思っていたが、どうやら過去家に男を連れ込んでいたことから、俺をどこに連れ込めばいいかわからなかったから一旦聞くという過程が生まれたようだ。
いいのか悪いのかわからんな。
「それでか、なるほどな」
「それでその……ダメ、かな?」
頷く俺にニーアが再度尋ねてくる。……断ったら死ぬよなぁ、これ。
ニーアの性格上、選択肢は受け入れるという一択しかない。そして一度受け入れれば一生ついてくるモノである。まぁどっちかが死ぬ前提なら一生というわけではなくなるのだが。
「わかった、いいよ」
俺は頷くとニーアは嬉しそうな表情になる。そこだけなら特に不安もないんだけどな。
「ただ一つ聞いてもいいか? なんでここにしたんだ?」
「? フラウちゃんが、愛のための施設だからって言ってたから」
……確かにまぁ、名前だけならな。
しかしフラウもよくニーアに勧めたよな。オーキスとか相手だと対抗しがちなのに。アリアの時も勧めてたし、共感するところがあったんだろうか。
頑張っていたのに愛されなかったニーアと、愛していたのにほとんどの人から大事にされなかったフラウ。確かに境遇で似ているところはあるのかもしれない。
「そうか。じゃあ、いっぱい愛してやらないとな」
「っ、うんっ」
ニーアはこくりと頷いて、まず賢者共通のローブを脱ぐ。続いて中に着ていた服を脱ぎ去り、下着姿になる。下着は黒の扇情的なモノだった。扇情的というか、透けているせいで隠すべき部分がほとんど見えている。
恥じらいはあるようで頬を染めもじもじしている。
「ど、どうかな……?」
そうやって尋ねてくる様はとても可愛らしい。ニーアと初めて会った時揉めていたのは、元カレだかの関係だったと思うが、正直こいつに彼氏ができるのかと思っていた。だが琴線に触れさえしなければこうして可愛らしい姿を見せてくれる。……一歩間違えれば即死なんだけどな。
「凄く似合ってる。それもフラウが?」
「うん。フラウちゃんが、こういう下着を着ていった方がいっぱい愛してくれるって」
間違ってはいないんだよなぁ。「愛して」の定義がアレなだけで。
「じゃあ始めるか。おいで、ニーア」
俺はできるだけ優しく接してやろうと、ニーアに声をかける。恐る恐る近づいてきて抱き着いてきたニーアは潤んだ赤い瞳で俺を見上げてくる。
それから俺は、ニーア判断で愛されているか不安にならないように手を尽くした。全力も全力である。夜戦はフラウのお墨つきなので例え過去男を何人も連れ込んでいたとしても大丈夫な、はずだ。
フラウの時のような注釈。
私独自の解釈では、ニーアちゃんが家に男を連れ込む→男が肉部屋を見つけてしまう→ニーアちゃんを拒絶してバイバイ。
というパターンと、
ニーアちゃんが家に男を連れ込む→無事に致す→肉部屋を見つけたり彼女の態度で拒絶してサヨウナラ。
のパターンがあるんじゃないかと思います。
おそらくニーアちゃんは今まで多くの彼氏を連れ込んではいますが、経験があるかないかはその人の解釈によって違っていいと思います。どっちのパターンもあり得そうですしね。
というわけで、本作では後者のパターンがあって経験豊富(意味深)という解釈で進めます。
ご注意ください。