ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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ただの傭兵としてだけでなく

 二人の傭兵の情報によると、ヤツらがルーマシーへ行くまでに一週間の猶予があるとわかった。今回は別に策を弄するわけではないので、俺達もギリギリまで待って問題ない。

 

 どうやら二人もあのタイミングでアウギュステに顔を出していたようで、グラン達が手を貸してくれた人達と宴を催し、それぞれと関わりを持とうとしているという話だった。……とんでもねぇ剣士がいっぱいいたからな。もしあいつらの騎空団に加わるようなら大幅な戦力アップとなるだろう。旅を共にするかは兎も角、協力を取りつけるだけでも充分な戦力だ。

 ついでに個人的な話をするなら、ナルメアには是非あの騎空団に入って欲しい。いいヤツしかいないし。俺みたいなヤツと関わるより余程健全だ。

 

 加えてルーマシー群島で黒騎士と戦うことも考えて少し特訓しようという話になったらしい。そのためにも手伝ってくれた人達と関わりを持つ必要があったとか。

 

「あの場にいたのは“剣の賢者”アレーティア、“妖剣士”ヨダルラーハ。加えて対星晶獣組織に属する“真紅の穿光”ゼタ、“冥闇の剛刃”バザラガ、あと参加はしてないけど“地砕の霹狼”ユーステスもいたかな〜。最後の凄い可愛い娘は知らな痛ってぇ! す、スツルム殿!?」

「報告くらいちゃんとしろと何度言えばわかる。最後のドラフの女はまだ名前の知られていない無名の剣士だ。それにしては見事だったがな」

 

 俺達が戻ってきたその日中にドランクとスツルムも帰ってきた。いつもの調子で報告が上がってくる。……よく調べてくるよな、ホント。ってかいつあの島に来たんだよ。

 

「ドラフの剣士についてはこいつが知っている。なぁ、ダナン?」

 

 黒騎士のヤツ、裏切りやがった……!

 

「えっ? ダナン君ってばいつの間にあんな可愛い娘と知り合いになってたの? 今度僕にも紹介し痛って! 痛て、痛ててて! ち、ちょっとスツルム殿!? 刺しすぎ! 刺しすぎだから!」

「……煩い黙れ」

 

 ドランクが軽口を叩いてスツルムにざくざくと刺されている。それは兎も角。

 

「てめえみたいなヤツに紹介するわけねぇだろ鏡見てこいよこの軽薄男が」

 

 にっこり笑顔で言おうとしたら、ごっそり感情の抜けた声が出てしまった。

 

「「「……」」」

 

 全員の表情が固まっていた。……おっとつい本音が。

 

「……ってのは冗談だ。えっと……あれだな。昔世話になった人だよ」

 

 慌てて取り繕うが、四人は一ヵ所に集まって小声で話し始める。

 

「……ねぇちょっと? ダナン君凄い怖いんだけど」

「……お前が不用意なこと言うからだ」

「……怖かった」

「……実は人形より感情がないのではないか?」

 

 おいお前ら聞こえてんぞこら。

 

「あー……悪い、ついな。それよりほら、飯作り終わったから席に着け」

 

 俺はちゃんと普段通りの声が出るように意識しながら言ってテーブルに料理を並べていく。空腹には逆らえないのか、気まずくなった空気を無視して着席していった。

 

「……ダナン。唐揚げ欲しい」

「なに? ダメだ、ドランクから貰いなさい」

「……ドランク」

「えっ? 僕も嫌だなぁ。スツルム殿――痛って! フォークで刺さないで!」

「肉をやるわけがないだろう。むしろもっと欲しいぐらいだ」

「……」

 

 三人に断られたオルキスは一人黙々と食べている黒騎士を見上げるが、なにも言わず唐揚げのなくなった皿に目を落とした。そんな彼女を見てか三人で黒騎士を見つめたからかはわからないが、オルキスの皿へ唐揚げを一つ分けてやる。驚いたようにオルキスが黒騎士を見上げた時には、素知らぬ顔で食べ進めていたが。

 

「……ありがと、アポロ」

 

 少し嬉しそうなオルキスの礼を無視して黙々と食べ進める黒騎士だったが、思わずドランクと顔を見合わせて笑ってしまう。……後で締め上げられたのは兎も角。

 

 そして毎度の食後会議。

 今日はポテトを薄くスライスして油で揚げたモノを摘んでいる。オルキスは五段アップルパイだが。

 

「アウギュステ以外の島はどうだったかまだ聞いていなかったな」

「ルーマシーにはユグドラシルがいるねぇ。アルビオンはすぐわかったよ、シュヴァリエだって。でもこっちはフュリアス少将が手を出してるみたいだねー。あっちこっち忙しい人。あと近くだとガロンゾかな。こっちはまだ帝国が踏み出す前ってところ」

「そうか。もう一つの方は?」

「十天衆は付近の島で目撃され始めている。よく聞くのはシエテ、ソーンの二人だが、エッセルとカトルも二人一緒にいるところを目撃されている」

「続々と集まってきている、というわけか」

「ああ。目撃情報は上がっていないが、ウーノとシスは近くにいるだろう。他の四人は情報が全くない」

「そうか」

 

 色々名前が出てきてわからんな。

 

「……エッセル、銃の人。カトル、短剣の人。ウーノ、槍の人。シス、格闘の人」

 

 顔に出ていたのか、オルキスが簡単に説明してくれる。

 

「へぇ。オルキスはよく勉強してて偉いなぁ」

「……ん。伝説の騎空団は本にも出てくる」

 

 わしわしと撫でてやる。後で整理しておこう。次はただじゃやられん。

 

「この街には?」

「来てないよ。なにが狙いなのか、じっくり探ってみたいところだけどね」

「今はいい。それに、ヤツらが集まっているということは余程の強敵だろう。この空でヤツらが動くほどの相手は限られるだろう」

「ボスは十天衆相手にどれだけ戦えると思う?」

「さぁな。だが戦うだけなら三人、いや五人程度か。流石に十人全員は無理だろうな」

「つまりボスより強い存在を相手にしようっていうわけね。巻き込まれたくないね〜」

「ふん。憶測の域を出ない話をしていても無駄だ。次はこれからの予定だな」

 

 十天衆の目的は定かではないが、今は気にしても仕方がないか。そもそも追っているのが人なのかすら怪しくなってくる。

 

「これから、ね。ボスとオルキスちゃんはルーマシー群島に行くんでしょ?」

「ああ。ダナンも連れていく予定だ。ただお前達には休暇をやる」

「えっ? ……いや欲しいって言ったけどねぇ。こんな時に僕達いなくて大丈夫?」

「ルーマシー群島は帝国の手が入っていない。ヤツらと戦うことになるかもしれないが、今のヤツらなら私一人でも問題なく勝てる」

「雇い主がそう言うなら気にしない。が、休暇とは急だな」

「お前達には休みなく働いてもらっているからな。偶には休暇をやってもいいと思っただけのことだ」

「それにしてもタイミングが悪い」

「そうか? ならアルビオンとガロンゾの辺りで情報収集でもしてくるといい。ルーマシー群島の後、ヤツらは必ずその辺りの島に向かうはずだ。休暇だろうが仕事だろうがどちらでもいいが、なんにせよその辺りへ行け」

 

 ドランクは表情を変えなかったが、なにかを勘づいたようだ。

 

「ボス〜。なんか僕達遠ざけようとしてない〜? まさかダナン君と愛の逃避行痛ってぇ! アイアンクローと突きの二重苦……」

「冗談やめろよな、ドランク。こんな物騒なヤツこっちから願い下げだ」

「貴様も沈むか?」

 

 そして二人揃って床にめり込まされた。つんつんと身体を突く指がある。オルキスだな。なんとか自力で脱出する。

 

「ふん。妙な勘繰りはしなくていい。ルーマシーの後ヤツらがどう動くかはわからないからな。先回りして情報を提供すればいいだけの話だ。それ以外は好きにしていいから休暇と言っただけのことだ」

「ふぅん。ま、ボスがそう言うなら。スツルム殿〜。休暇だって、二人でどこ行く? ガロンゾで結婚式挙げれば絶対離婚しないらしいよ?」

「……島の星晶獣のせいだろ。休暇ならやることは一つ。傭兵として依頼を受ける」

「えぇ〜。スツルム殿それじゃあつまんないでしょ〜。もっとこう、キャッキャウフフな感じが痛って! 刺さってる、刺さってる!」

「今から三途の川で遊ばせてやろうか?」

 

 目がマジだった。

 

「……ごめんなさい」

 

 ドランクもこれには謝るしかなかったようだ。というかよく懲りないよな。

 

「次の話に移るぞ。ダナン、お前にはClassⅢまで到達してもらう。おそらくグランとジータは到達してくるはずだ」

「あー、まぁ。あんなヤツらと特訓してりゃな」

「ああ。だが忘れるなよ、こちらの人員も負けず劣らずの一流だ」

 

 自分で言うか、というツッコミを入れるような無知さはない。黒騎士はもちろんのこと、スツルムとドランクも凄腕で間違いなかった。

 オルキスが座り直した俺の足の間にちょこんと座ってくる。

 

「わかってるよ。一週間でどこまでいけるかわかんねぇが、できるだけのことはやってやるさ」

「決っまり〜。じゃあ僕達三人の、」

「剣はもういいだろうが、二刀流の心得を教えてやる」

「ちょっとスツルム殿! そこは『地獄の特訓が、』とか僕に続いてよ〜。ノリが大事だよこういうのは!」

「お前の悪ふざけに付き合っている暇はない。やりたいなら一人でやってろ」

「スツルム殿が冷たいよオルキスちゃん〜」

「……ドランクはその方が嬉しい?」

「おっとオルキスちゃんが危険なことを。僕も真面目にやろうとすればできるんだよやらないけど」

「真面目にやれ」

「痛ってぇ! 痛って! 痛ってぇ!」

 

 ぐさぐさと容赦のない突きがドランクを襲う。

 

 ……騒がしいが、ま、こういうのも悪くないな。

 

 いつものやり取りを見て笑いながら、ルーマシーへ向かうまでの一週間が始まった。

 

 飯前一時間以外はずっと特訓だ。アウギュステ前もキツかったが、その時以上に特訓メニューがキツくなっていた。初日はどうしてもぐってりとしてしまう。

 とはいえあまり時間もない。夜遅くはジョブを広げるために日中特訓しにくい楽器を練習する。【ハーピスト】になって夜空の下、夜風に当たりながらハープを奏でていた。寝ている人の邪魔にならないような、静かで落ち着いたメロディーを奏でる。

 

「器用なもんだよね、ホント」

 

 バルコニーで演奏していた俺の下へ、ドランクがやってくる。

 

「器用じゃなけりゃ、色んな武器を使いこなすっていう前提条件が成り立たねぇからな」

 

 『ジョブ』を持っているなら当然のことだ。おそらくグランは剣技、ジータは魔法、俺は……なんだろうな。まぁ兎に角『ジョブ』とは別に才能ってのはあって。ただし苦手はないってところだろうな。

 

「確かにね。しかし不思議だよねぇ、『ジョブ』って能力はさ。双子だけが持ってるなら遺伝もあるかもしれないけど、君は違うもんね」

「ああ。つっても親のことなんてわかんねぇから異母異父兄弟って可能性もあんのかねぇ。で、そんな話をするために来たのか?」

 

 わざわざ俺が一人でいるタイミングを狙って声をかけてきたんだ。なにか話があるんだろうとは思う。

 

「いいや。ダナン君にちょっとお願いがあるんだよね〜」

 

 軽い口調だったが、珍しいこともあるものだと演奏を止めてドランクに向き合う。

 

「あぁ、演奏はそのままでいいよ。あんまり他の人に聞かれたくないからねぇ」

 

 意外なことに少し真面目な雰囲気を醸し出していた。少し音を小さくして演奏を再開しながら、耳を傾ける。

 

「で?」

「あー……なんていうか、さ。僕達はどうやら一緒にいられないみたいだから、ボスのことお願いしてもいい?」

「七曜の騎士の心配なんて、する方が無駄だと思うけどな」

「まぁ強さだけで言うなら、そうだろうけどね。あの人はちょっと……その強さの基幹が脆いと思うんだよね」

「戦闘力とかじゃなくて、精神力の方ってことか」

「そういうこと。だからもし僕達のいない間になにかあったら、君がボスを助けて欲しいんだ」

 

 思いの外本当に真面目な話だった。

 

「戦力としては兎も角、そういう意味でなら任せろ」

 

 自信はないが戦闘以外の方が向いている気はする。

 

「じゃあ、任せたよ。できれば戦力としても任せたいんだけど?」

「なら精々俺が強くなれるよう協力してくれ」

「それはもちろん」

 

 ふと、彼の話を聞いていて思ったことを聞いてみる。

 

「一つ、俺からも聞いていいか?」

「いいよん。ちなみに僕のスリーサイズは企業秘密痛って! 頭割れそうな音出さないで!」

「ふざけたこと言うからだ」

「……ちょっと君スツルム殿に影響されない?」

「別に、ただお前ってそういう扱いだって思ってな」

「それはそれで酷いよ〜。で、どんな話?」

 

 軽口を叩きつつ、疑問に思ったことを尋ねた。

 

「なんで黒騎士にそこまでする? 傭兵ってのは金で雇われただけの関係だろ」

 

 そう。言ってしまえば頼まれた仕事だけをやっていればいい。雇い主の安全を守るように、なんて気にする必要はない。

 

「そうだね。ただ金で雇われただけの傭兵なら、だけど」

 

 意味深な返しがあって、続きに耳を澄ませる。

 

「何年前だったかな。エルステが王国から帝国になってすぐのことだった。その頃からスツルム殿と一緒だったんだけど、馴染みの酒場の店主からとある依頼主を紹介されてねぇ」

「それが黒騎士だったのか」

「そそ。今と違ってゴツい鎧着てなかったけどね。すっごく険しい顔で威圧感振り撒いて……まぁ浮いてたよね」

 

 言われて、なんかその様子が思い浮かんだ。きっと腕組みして席陣取ってたんだろうなぁ。

 

「ただあの人って王家と一緒だったじゃない? だからか隙が多いというか場馴れしていないというか。正直敵意ばら撒いてるのも虚勢にしか見えなくってね」

「あいつにそんな時期がなぁ」

「あの人も人の子だってこと。むしろダナン君が慣れすぎてるんじゃないかな〜」

「俺の話はいいから」

「はいはい、っと。とまぁ浮きっぷりにもびっくりしたんだけど、依頼内容もびっくりでさ。僕達を側近として雇いたいって言うんだもん。エルステのトップがだよ?」

 

 仰天ものの話だな、ったく。

 

「まぁ宰相さんの息がかかってない部下が必要だったみたいだけど……だからって金で雇った傭兵を側近にするなんてねぇ。笑っちゃうでしょ?」

「そんだけ切羽詰まってたんだろうな。つっても側近ってのは信用ならねぇ初対面の傭兵にする依頼じゃねぇよな」

「そうそう。しかもあの人、前金で報酬全額渡してきちゃってさ」

「は!?」

「そうなるよねぇ。もう笑うっていうか引いたよねぇ」

「……傭兵雇うなら半額ずつ、依頼の前後で渡すもんだろ。それも知らなかったってのかよ。ったく、信用がどうとかじゃなくて、疑ってねぇんだな」

「その通り、さっすがダナン君。僕らが裏切ったらどーすんの? って聞いたわけ。そしたら『金を払った以上、決して裏切らないだろう?』って」

 

 ドランクが雰囲気のある物真似をしながら言った。

 

「そりゃ僕らはまともな傭兵だから金を受け取った以上、仕事はやり遂げるよ? でも世の中そうじゃない人も多いからねぇ」

「俺は逆にそうじゃないヤツばっか知ってるけどな」

「君も随分偏った人生観だよねぇ……。でまぁその時僕らがいる汚れた世界とは無縁の……綺麗な世界で生きてきたんだろうな、ってそう思っちゃったんだよね。それに側近すら金で傭兵を雇うしかないくらい当時あの人の周りには誰もいなかった。そうしたらさ、あの人のこわーい顔が一気に不安そうな顔に見えてきちゃってさ……。自分の弱さを隠すために、必死に吼えてるワンちゃんみたいに思えてねぇ」

「……」

「ま、そーいうわけで、僕達はちゃんとお仕事するわけ。多少の私情はあるけどね」

「そうかい。よぉーくわかったよ」

 

 ドランクの話は一区切りついたようだ。演奏の手を止めてドランクを振り返る。

 

「あんた達がなんでそんなに黒騎士に協力するのか。あと、なんで俺がお前と気が合いそうだなって思ったのかもな」

「えっ? ダナン君そんな風に思ってたの?」

「ああ。汚い世界ばっか見てきたのと、あとあれだ。心内でなに考えてるかわからんとことか」

「自覚あったんだねぇ」

「そりゃまぁ、な。あと」

「あと?」

 

 聞き返されて、にやりとした笑みを深めながら告げた。

 

「よく笑う。他三人と違ってな」

「ぷっ、ふふふっ。そうだねぇ、確かに。そう考えると僕ら似た者同士なのかも?」

「俺に似てるヤツなんていないと思ってたんだがなぁ」

「僕もだよ〜。色々見てきたけどね」

 

 笑い合って、俺の掲げた拳とドランクの拳がこつんと当たる。

 

「そのついでに一個頼まれてくれ」

「えっ、なに? いくら仲良くなってもお金は貸せないよ? お婆ちゃんの言いつけでねぇ」

「いらねぇよ。オルキスのことだ」

「……」

「黒騎士の目的は知ってるか?」

「まぁ、一応ね。ってことはダナン君も聞いたんだ」

「ああ。で、それを聞いた俺はオルキスにやりたいことはやらせてやりたいと思った。なにも残さずに消えるより、マシだと思うからな」

「ふぅん。でもそれだと別れが辛くならない?」

「なるだろうな。でも俺は感情を二の次にできる。あんたもそれができるヤツだと思って言ってんだぜ」

「なるほどねぇ。でもさっきも言った通り僕達のボスは心の強い人じゃないよ? もしあの人が躊躇しちゃったらどうするの?」

「そんなん俺が知るかよ。俺達は黒騎士の指示に従うのみ、だ。もしあいつが死なせたくなくなったら、死なせない方法を探すしかねぇよ。だって俺達は、黒騎士がどんな目的持っていようが協力すんだろ? ならどっちに傾いたって、やることは変わらねぇよ」

「ふふっ。そうだねぇ、それはいい考えだね」

「だろ?」

「若いっていいよねぇ」

「別に俺はオルキスを助けたいわけじゃねぇぞ。グランとかと一緒にすんなよ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」

「それが若いっていうんだよ。大人になると、自分のことより仕事を優先するようになっちゃうからねぇ」

「そうかよ。で、ドランクはどうする?」

「それは僕個人で、ってことだよね。そうだなぁ、乗るよダナン君。そっちの方が、面白そうだからねぇ」

「ははっ」

 

 二人で笑い合い、俺は座っていた椅子から立ち上がってドランクへ右手を差し出す。

 

「ダナンでいい。これからもよろしく頼むぜ、ドランク」

「了解、っと〜。……あれ? そういえばダナンって僕達のこと呼び捨てにするよね」

「敬語ってのが性に合わねぇってのもあるが、まぁドランクは威厳ねぇしな」

「ひどっ! ……ってもう今更だね。よろしく、ダナン」

 

 軽口を叩き合いながらもドランクが俺の手を握り、俺達は握手を交わすのだった。


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