題して「ガルゲニア皇国編」です。……わかりやすっ。
今これの終盤を書いているところですので、ストックは残り六つ。日々増やしているとはいえいつか追いつく日も近いかもしれません。
あと二話か三話で書き上がる予定なので、他の賢者と比べるとかなり長めのエピソードになります。
この間ツイッターでは言いましたがカッツェも加入させたのでフェイトエピソードはばっちりです。
※ただし独自解釈を含みます。
皆とゆったり過ごしつつ、鍛錬は欠かさなかったが数日が経過した。
「あ、ダナンさん~」
一人で街をぶらぶらしていると、神出鬼没の大商人シェロカルテから声をかけられる。
「どうした? 新レシピならこの間渡しただろ?」
アウギュステに来て宴を行ってから、外出中に彼女と遭遇した時ついでに旅の最中思いついたレシピを渡していたのだ。季節モノを取り入れたレシピやなんかも参考にしたので、しばらく売り上げが落ちることはないだろう。
「いえいえ~。本日はその件ではなくてですね~」
そっちの用件ではないらしい。またなにかの厄介事だろうか。例えばロベリアが集団虐殺をしたからその後始末とか。絶対嫌だ他人のフリをしたい。
「実は、以前ダナンさんから頼まれていた紺色のローブに赤いケープ姿の方を見つけたんですよ~」
「マジかよ。この間いた“黒闇”の団員以外でだよな?」
「はい~。ダナンさんがナル・グランデ空域に行っている最中の発見ですので。一応特徴も合致していませんね~」
「そりゃ助かる」
どうやら新たな賢者の情報を持ってきてくれたらしい。あと四人、長い道のりだろうがなんとかファータ・グランデにいるヤツは全員会っておきたい。アウライ・グランデに行ったらまたしばらく戻ってこれなくなるだろうからな。
「それが二人も、ですよ~。お代は弾みますよね~」
「勝手に売り上げから差し引いてろ。んで、どことどこだ?」
「……ダナンさんは私のことを信頼しすぎでは。まぁいいです~。実は、そのお二人は同じ場所にいるみたいなんですよ~」
ほう。フラウから聞いた話では、賢者同士の関わりはないとのことだったが。他のヤツらも賢者の存在は知っていても面識はないようだった。第一互いに協調性がなくて一緒に行動するのに向いていない。
「とある島の貧民街に、その二人はいるそうです~。名前はわかりませんが、それぞれ“王様”、“王女”様と呼ばれているようですね~」
「王に王女、か」
「はい~。とはいえ本人がそう名乗っているわけではなく、名前を知らないので貧民街の方々がそう呼んでいるみたいです~。その方の立ち居振る舞いから“王様”、と」
「へぇ、随分大層な名前だな」
王と言うと真王しか出てこないんだが。あと振る舞いだけで王と呼ばれるってのはなんだか偉そうだ。
「それがかなり優秀な方みたいですよ~。実はその貧民街で密造酒を売っている方がいまして、私達商人の間ではなんとかしたいとは思っていた場所なんですよね~。ですが、その密造酒を売っている方が材木屋に転職しまして、なんとも素晴らしい目利きでいい材木を仕入れてくださるようになったんです~」
「へぇ? 話の流れからすると、そいつの木の目利きの良さを見破った“王様”ってヤツの指示か」
「そうです~。貧民街の皆さんは“王様”の指示で天職を見つけ、真っ当な仕事を見つけて暮らしも良くなったそうなんです〜」
へぇ、そりゃ凄い。適材適所を実現できる指導者ってのは有能だ。人の上に立つことに慣れてるんだな、そいつは。
「“王様”についてはわかった。“王女”の方は?」
「それが、あまり情報がないんですよね〜。“王様”の傍に仕える侍女だそうですね〜。それ以上の情報がないんです〜」
「ふぅん……」
それはおかしいな。今いる賢者を考えればわかる通り、曲者揃いだ。ただの侍女で収まるわけない。断言しよう、そいつは本性を隠している。
憶測を立てるなら侍女を演じ自分を見せないようにしている可能性が高いか。そうなると頭が回るヤツということになる。俺も演じることには多少自信があるとはいえ、本場の人間には敵わないだろう。
「ただそのお二方、気になる情報がありまして〜」
「?」
「いえ、私も半信半疑と言いますか、確証のない情報なんですが」
首を傾げた俺に、シェロカルテはそう前置きしてから口を開く。
「……実はその二人、行方不明になったガルゲニア皇国の皇子様と似ているらしいんですよね〜」
厄介事の匂いしかしねぇな。よりにもよって皇族かもしれないのか。
「“王様”の方は、ガルゲニア皇国第五皇子にそっくりだそうですね~。楽団の指揮者をしていて表に出てくる方だったので、目撃情報は“王様”の似顔絵情報と照らし合わせていった結果、同一人物ではないかと思われます~。もちろん、この情報はどこにも売ってないですよ~。いくら私でも、弱みを握れないと国に楯突く気にはなりませんからね~」
弱み握ったら楯突く気かよ。
「今のガルゲニア皇国は暴君による独裁政治とされていますが、きな臭くて取引していないのであまり情報がないんですよね~。前の皇帝が病死し、第一皇子が皇帝に即位した直後などは相当色々あったようで。第二皇子を殺害したのが第四皇子だとされて投獄、第三皇子は皇帝より前に病死していましたし、第五、第六皇子は行方不明、と。皇族が現皇帝ただ一人になってしまったというのは知っていますが~」
なるほどなぁ。つまり皇子と思われる二人が貧民街で暮らしているのは、その皇族が次々に死んだり捕まったりしていった結果ということかもしれない。現皇帝が暴君だと言うなら、現皇帝が他の者が皇帝になれないよう謀略した、というのが簡単な考えだ。二人は魔の手から逃れるために国を離れた、という考え方もできる。
もちろんシェロカルテの話を聞いただけでの推測だし、彼女が俺にそう思わせるように話を選んでいる可能性も捨て切れない。まぁ、実際に行って聞いてみるのが一番だな。
「よし、情報さんきゅ。同じ恰好をしたヤツは、多分あと二人いるはずだからもし見つかったらまた教えてくれ」
「はい~。引き続き刀使いさんも探しておきますね~」
「助かる。あとは光っぽいヤツが欲しいから、よろしくな」
「……更に限定的な。もし見つかったら連携します~」
「ああ、頼んだ」
シェロカルテから情報を貰った俺は、とりあえず二人の賢者がいるという場所の詳細を聞いた。
最近一緒にいるヤツらにしばらく留守にするとだけ告げて、そこへ向かうことにする。
◇◆◇◆◇◆
シェロカルテの情報を頼りに、その貧民街へ入ろうとした。しかしドラフの男性が俺の前に立ち塞がる。
「待て! 君みたいな子供が貧民街に入っちゃいかん! ヤツらは姑息だ。所持品を根刮ぎ奪われちまう!」
その男はそう俺に忠告してくる。……別に俺を騙している様子はないな。ただの親切心か。
「気にすんな、俺は貧民街の“王様”に用があるだけだからな」
言ってするりと横を抜け貧民街へ入っていく。
ワールドのカードが反応しているので、間違いはないのだ。事情を知らないとはいえ無駄な時間を取られるのは勿体ない。
「……どうなっても知らないからな」
男はそう呟いていたが、俺はひらと手を振るだけに留めた。止めても無駄なのだからわざわざ答えてやる必要もない。
というわけで貧民街へ。
貧民街はかなり汚らしいところではあった。だが治安が悪いわけではないようだ。街を歩いている住民の身なりはそれなりに整っている。顔色も俺の故郷のヤツらとは全く違う。
住民達は余所者の俺を警戒するように見ていたが、危害を加える気はなさそうだと思ったのか話しかけてはこなかった。恰好から街の住民ではないとわかったのだろう。
俺はローブのポケットに手を突っ込み、右手で握るワールドのカードの反応を頼りに歩いていると、一つの家屋に辿り着く。
ここにどうやら賢者がいるようだ。
「……なぁ、あんた」
とそこでようやく貧民街の住人が声をかけてきた。
「ん?」
「……そこになんの用だ?」
「“王様”と“王女”様に用があるんだよ」
「“王様”は俺達の恩人だ。怪しいヤツを行かせるわけにはいかない」
「安心しろ。危害を加える気はねぇよ。それに、危害を加える気なら正面から行く必要がないだろ?」
俺は声をかけてきた住人に言ってから、扉をノックする。
「入っていいぞ」
中から男の声が聞こえた。おそらく“王様”だろう。向こうも俺が近づいてきていることはわかるので、アポなしでも問題ないと思っていたが。
“王様”の許可が下りたからか、住人は大人しく引き下がっていった。
さて、ガルゲニア皇国の皇族はハーヴィンだと聞いているが、実際にどういう人物かはわからない。本当に皇族なのだとしても、『平民と一緒に楽団をやる物好きな指揮者』に『皇位継承権が低くパーティなどで顔を見せるだけのお飾りの皇子』。それが本当の顔なのかは直接会って話をしてみないといけないからな。
俺は許可が下りたので扉を開けて中に足を踏み入れる。玄関から少し行った居間の奥に二人はいた。
片方は堂々と椅子に腰かけているハーヴィンの男性だ。茶色の髪をオールバックにしている。小柄だとヒューマンの感覚で子供のように思ってしまうが、一切そんな雰囲気を感じさせない理知的な瞳と醸し出される威厳があった。あと目つきがちょっと悪い。
もう一人は椅子には座らず、男の少し後ろで慎ましく佇んでいるハーヴィンの女性だ。髪色は男と同じ茶色で、長い後ろ髪を編んでいる。佇まいから英才教育の跡が見えた。
そして二人共、やはりと言うか紺色のローブに赤いケープを纏っている。
「ようこそ、我が城へ。歓迎しよう、ワールドの契約者」
男が口を開く。堂々とした口振りは、まるで「俺が王だ」と言わんばかりである。そう思っているのかそう振る舞っているのかは不明だが、王だと思われるような態度を見せ民に采配を与えるところが“王様”なのだろう。
「あんたが“王様”か」
「如何にも。ここの住民達は、私のことをそう呼んでいる」
自分から名乗っているわけではない、という情報だったか。
しかしシェロカルテから借りたガルゲニア皇国皇族の肖像画にそっくりだな、二人共。もちろん小さな模倣品なんだが。行方不明となってから見かけたら情報を、という動きはあったようで、肖像画を小さく印刷したモノを配布していたようだ。
「立ち話もなんだ、座ってくれ」
許可が出てから“王様”の向かいに腰かける。礼節なんて弁えなくてもいいんだが、まぁ一応な。本物の皇族だしなにが相手の気分を害するかわからない今、下手なことはしない方がいいだろう。ニーアみたいになにかがきっかけで豹変する可能性もあるわけだしな。
「用件はわかっている。ワールドの真の契約者となるために、私達の持っている星晶獣のカードが必要なのだろう?」
「話が早くて助かるな」
敬語を使ってまで畏まる必要はないと思っていたが、特に二人の表情は変わらない。そこは期待していないと取るべきか。
俺が席に着いたところで女性の方が一礼してから離れてキッチンの方へ向かう。茶でも淹れてくれるんだろうか。
「あんたの言う通り、俺はワールドと契約するために賢者が持つ星晶獣のカードを集めている。あんたら二人が持つカードが欲しい。代わりに、俺にできる範囲であんたらのやりたいことに手を貸そう」
すぐ本題に入る。
女性が俺の傍に紅茶をことりと置いた。ハーヴィンなのでテーブルから顔だけを出すようになるが、危なげはない。軽く会釈だけして手繰り寄せ、一口紅茶を飲んだ。
貧民街にいるからかそう高級な茶葉ではないようだが、美味しい。キッチンの方でちらちらと見えた範囲で確認していたが手慣れているようだった。
「手を貸す、か。有り難い申し出だが、君にはなにができる?」
“王様”の品定めが始まった。いや、最初の瞬間から始まってはいたのだが。
「戦闘、料理……盗難、暗殺?」
とりあえず俺にできそうなことを並べてみる。少しだけ彼の表情が崩れた気がした。
「……随分と物騒なモノだが」
「生憎とここより酷い環境で孤児として育ったんでね」
肩を竦めて返す。孤児という言葉に少しだけ女性の方から感情の揺れが見えた気がしたが、すぐに戻ったので気のせいという可能性がまだ残っている。
「そうか。細かく聞く必要はないな。力を借りれると言うなら、借りるとしよう。――我らが祖国のために」
彼は真っ直ぐに俺を見据えて告げてきた。
「……祖国、っつうとガルゲニア皇国か」
俺はある程度そちらの事情を知っているんだぞと見せるためにそう相槌を打った。“王様”の眉が明らかに上がる。
「ほう、知っていたか」
「ああ。優秀な情報網を持った商人と伝手があってな」
言って、ローブの左側のポケットから二枚の肖像画のコピーを取り出し机の上で滑らせ放った。
「……これは私達の肖像画の」
これには驚いた様子で目を見開く。“王女”が横から手を伸ばして彼の見やすいように絵の向きを調整した。“王様”が迂闊にモノに触れないのはいい判断だな。皇族なら当然なのかもしれないが。
「ああ。あんた達二人がガルゲニア皇国で行方不明になった後、見かけたら連絡する程度の捜索が行われた時に配られたモノだ」
何年前の話なのかまでは聞いていなかったが、そっくりな絵だった。二人を直接見たことがあって、絵を渡されればわかるモノだと思う。皇子の時とは恰好が異なるが。
「……ここ最近貧民街の住民以外の目があったのはこれが原因か」
「かもな。あんたらには悪いが、情報網の広い商人に紺色のローブと赤いケープを身に着けたヤツを見かけたら情報をくれるように頼んでたんだ。それで探っていた可能性はある」
「そうか」
賢者を集めるという急務に、伝手を使って早めに臨むのは当然の結果だろう。まぁ、どうやって割り出したかまでは俺の知るところではないのだが。
「では私達の素性についても察しがついているということだな。一応、私の方から名乗らせてもらおう。ガルゲニア皇国第五皇子、カッツェリーラ・アロイス・ガングスである。カッツェと呼ぶが良い」
「同じくガルゲニア皇国第六皇子、ハーゼリーラ・アロイス・ガングスと申します。ハーゼとお呼びください」
カッツェは偉そうに、ハーゼは深々とお辞儀して自己紹介してくれた。
「俺はダナンだ」
名乗る名字も、他称もないので簡潔に名前だけを告げる。
「では、ダナン。我々の祖国ガルゲニア皇国の現状についてもある程度知っているという前提で話す。私達はガルゲニア皇国を取り戻したい。我が祖国には残念ながら、害悪が蔓延っている。ヤツらから国を取り返し、民を救う。それこそが私達二人の目的だ」
カッツェは堂々と、目上に立つ者であると疑っていない表情で口にした。ハーゼはなにも言わず、ただ佇んでいる。
「力を貸してくれるというなら、私達の目的に協力してくれ。無事祖国を取り返した暁には、私達の持つカードを渡そう」
なるほど。まぁ、妥当な条件だな。目的はやたらと壮大だが、国を相手にするくらいできるとは思う。戦力が足りなさそうだったら団員を呼び集めてやろう。人格に問題がありそうな連中は除いて、話がわかって且つ侵略を良しとできる人物を。
「わかった、協力しよう。互いの目的のために、な」
俺は笑ってカッツェに手を差し出す。相手は“王様”であり皇族だが、媚び
「ああ。よろしく頼む」
カッツェは少しだけ逡巡したが、その関係を良しとしたらしい。俺の手を握って握手を交わしてくれた。
さて。兄貴の方はちょっと見えてきたが、妹の方は全然見せてこない。一応、注意だけはしておくとするか。
ナンダクでは本編とは異なり、ダナンと協力して国を引っ繰り返す話になります。お楽しみに。