ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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世間ではP5Sの発売で盛り上がっているらしい。
いや私も勝ったんですけど。

ただVSのハードクリアしてないのに他のゲームに手を出しちゃうと、多分VSやらなくなるんですよねぇ。
あと古戦場が忙しい。オート編成作らないと他ゲーをやる暇はありませんな。


初日の報告

 宮殿は流石に立派だった。中の従業員も街の人達とは違って元気そうだ。身形も整っていて、街の人達と見比べるとかなり格差がある。

 

 俺はと言えばいきなりではあるが、謁見の間に連れていかれることとなった。

 

 謁見の間最奥に玉座があり、そこに豪華な衣装で身を包んだハーヴィンの男が座っている。人を見下すような目と曲がった口髭が小物感を醸し出している。……なんだろうこの、見ればわかる皇帝に相応しくない感じは。本人もその自覚があるから叔父の口車に乗って次々に弟妹達を嵌めていったんかね。

 

「貴様が腕の立つ“シェフ”か」

 

 自分が人の上に立つのは当然と言わんばかりの態度だ。カッツェの方がまだいい王様に見えるが、あいつもあいつでハーゼの言いなりになりそうだからなぁ。いや、こいつが叔父の言いなりなんだったか。大して変わらないな。

 

「腕が立つ、かどうかは食べた方が決めることですのでわかりかねますが。私が“シェフ”にございます」

 

 畏まった所作で恭しくお辞儀をしてみせる。

 

「ふむ。ならば今日の夕食を任せる。そこで貴様の腕を見せてみるがいい。……ただし、もし口に合わなかったらどうなるかわかっているな?」

「皇帝陛下は冗談がお上手ですね。私の料理が口に合わないわけがないでしょう?」

 

 そんなふざけたこと、なにがなんでも言わせるわけがねぇだろうが。

 

 俺がにっこりと微笑んで告げると、皇帝はきょとんとしてから笑った。

 

「ほう? 相当に自信があるようだな。よし、ならばこの舌を唸らせてみるがいい!」

 

 ばっ、と手を突き出して堂々と宣言したのだが、その数時間後には。

 

「美味い! この料理は最高だ! 流石は“シェフ”、これまでに食べたことのない美味しさだ!」

 

 本気で料理を振るった俺に死角はない。皇帝陛下もお気に召したようでなによりでございますねぇ。

 

「お褒めに与かり光栄です、陛下」

 

 表向きは殊勝な態度で優雅にお辞儀をしてみせる。内心でチョロいなこいつ、やっぱ皇帝向いてねぇわと思ったのは全くおくびにも出さない。

 

「決めたぞ! この者を宮廷料理人に任命する! 異論がある者はいるか?」

 

 俺の意思とは関係なしに話を進めていく。嫌な皇帝だが、この場合は都合がいい。皇帝が見回すが、毒見役や他の味見した者、全員が首を横に振っていた。

 

「では貴様を宮廷料理人に任命する。して、名をなんという?」

 

 今更か、とはツッコまない。

 

「ダナンと申します。謹んで宮廷料理人の任、受けさせていただきます」

 

 まさかこうも上手く、初日で潜り込めるとは思ってもみなかった。……裏で誰かが俺を利用しようとしていないか警戒しておく必要があるな。レラクルにもその辺りを調べさせるか。

 

「そうかそうか。では励むが良い。この者に宮殿内を案内してやれ」

 

 皇帝は満足そうに頷くと、従者に命じて俺をまず厨房へと案内してくれる。

 料理人とは食事を作った時に顔を合わせているので問題ないが、まずは快い自己紹介から。

 

「本日から宮廷料理人になりましたダナンと言います。よろしくお願いしますね」

 

 にっこりと爽やかな笑顔で自己紹介をしてやった。愛想のいい自己紹介は大事、リーシャから学んだ。まぁ、別にいい顔はされなかったんだが。そこはこれからの俺の振る舞いで改善するとしよう。鼻っ柱をへし折る気で本気出したからな。仕方がないと言えば仕方がない。

 

 その後その場にいた料理人全員と顔合わせを行い、料理長ともちゃんと挨拶をした。それから宮廷料理人用の寮に案内されて荷物を運び込む。

 それから皇帝の従者らしき案内役の人に宮殿内を大まかに案内してもらって、初日は終わった。

 

 盗聴されないように音を通さない壁を創り、ドランクから渡された宝珠を取り出す。

 

「こちらダナン、こちらダナン。初日の成果は宮廷料理人になった、どうぞー」

『いやぁ、流石に手が早いよねぇ』

 

 俺が魔力を込めて話すと、すぐにドランクから返答があった。

 

『初日で問題の皇族に取り入るとは思っていなかった』

 

 レラクルも今会話できる状況のようだ。

 

「俺だってこう上手くいくと思ってなかったんだけどな。で、その件で裏社交界が俺を起用させてなにか企んでる可能性も考慮した。二人共頭の片隅に置いておいてくれ」

『はいは~い。考えすぎだと思うけどねぇ』

『僕もその可能性が高いと思う。だが慎重なのはいいことだ。調べておく』

「頼んだ」

 

 あまりにもスムーズにいきすぎて裏を勘繰ってしまう。なにより俺が皇帝と謁見する時も叔父が姿を現さなかったのは気がかりだ。

 

「じゃあこの流れで俺から報告。見た感じ掴みは上々、しばらくは大人しく宮廷料理人として宮殿全員の胃袋を掴みまくる予定だ」

『……平然ととんでもないことを口にしてるけど、秩序の騎空団でも同じことをやってたんだもんね~。胃袋掌握されたら気を許しちゃうだろうし』

『……うちの団長は本音に自信のない物言いが目立つが、明らかに異常だね』

 

 異常とか言うなよ。俺はあのとんでもない連中と張り合おうと精いっぱい頑張っているだけだってのに。料理はまぁ、好きでやってるのもあるんだが。

 

「ま、精々溶け込んでみるさ。もう一つ気になることがあった。……皇帝と謁見したんだが、裏社交界を仕切ってるはずの叔父がいなかった」

『へぇ? それはおかしいねぇ』

『僕の方でも分身で宮殿を探っていたけど、見かけた覚えはないかな』

 

 レラクルは既に宮殿へも手を伸ばしているようだ。分野が違うから仕方がないとはいえ、手が早いな。

 

「で、色々と街で聞き込みをしてる中で、俺は一つ叔父の目論見について仮説を立てた」

『僕も多分似たような考えだけど、聞かせて~』

 

 どうやらドランクも同じような結論に至ったようだが、俺に華を持たせてくれるらしい。

 

「叔父は現皇帝を批判、処刑して次期皇帝になる気のようだ」

 

 簡単な推測だが間違ってはいないだろう。そうでもなければ今この民が苦しんでいる状況で慈善活動を行う表の顔を維持するためになにもしないというのはおかしい。

 

 

「叔父の計画では多分だが、暴走して政治を行う現皇帝を作り出した上で、最後に残った他の皇族で且つボランティアなども行う善人だという立場から国民が自分が代わって皇帝になって欲しいと願われる存在になるよう謀略した。……そろそろ民も限界だ。近々突如現れた叔父が現皇帝をわかりやすく批判して皇国を乗っ取るんだろうぜ」

 

 クソみたいな話だ。カッツェの話では己の野心のために、ということだったが果たしていつから皇帝になろうと計画していたのかは見当がつかない。

 二人から聞いた話では叔父は少なくとも二人が知る限りずっと慈善活動を行ってきている。二人の年齢も考えて数十年単位で費やしているのは明白だ。

 

 加えて、俺は現皇帝の元第一皇子が叔父が操るのに適した性格なのも気がかりだった。

 

 プライドが高く身内でさえ処刑するのにためらいがない。

 叔父の言うことを疑いもせず真に受ける。

 他の皇子を皇帝にしようと画策していると聞いて信じてしまうほど他の皇子に劣等感を持っている。

 

 こういった点が、叔父が裏から操るのに適しすぎている気がしたのだ。

 要は、第一皇子にそういった刷り込みを行ってきているのではないかということ。もちろん劣等感を抱くかどうかは続けて生まれる皇子が優秀かどうかにかかってくるのだが。とはいえ第二皇子が非常に優秀だった場合、劣等感を抱くことがほぼ確定する。後は地道に刷り込み作業を行っていけば、唆すことも容易になるかもしれない。

 

 そう考えると何十年越しの悲願というヤツになってくるのだが俺には皇帝という立場になることがそこまで価値の高いモノかと言われれば首を傾げるしかない。そもそも俺に譲れない信念みたいなモノがあるかどうかさえ怪しいところだとは思っているのだが。

 

「ってところが俺の初日の報告だな」

『いやぁ、ほぼ僕と同じ結論で有り難いよ~。じゃあその流れでこっちの報告も済ませちゃうね~』

 

 いつものニヤケ面を浮かべているであろう声音の後、ドランクの報告が始まった。

 

『僕は今回裏社交界に属してる貴族サマに取り入ろうと思ってるんだけど、そのために色々聞き込みして情報収集してる最中かな~。ダナンほどの進捗はないけどねぇ。で、聞き込みをしてた時に思い浮かんだ叔父の目論見はほとんどダナンと一緒。でね? 僕占い師でもやろうかと思ってるんだ~。水晶の中に未来が視え~る~って。どぉ? それっぽくない?』

「『胡散臭い』」

『え~? 合ってると思うんだけどなぁ』

 

 いや、似合ってはいるぞ。顔隠して路地裏に迷い込んだヤツに意味深な占いをしていく占い師とか。

 

「まぁ占い師は胡散臭いモノだし、ドランクの胡散臭さなら右に出るヤツいないだろ」

『……いや、褒めるように物凄く貶されてるんだけど? 僕ってそんなに胡散臭い?』

「『かなり』」

 

 またレラクルと俺の声が被った。レラクルとは比較的接点が少ないはずだが、どうやら既に共通認識と化しているようだ。流石は俺の親友殿だぜ。小声でぶつぶつ言っている声が聞こえてきたが、報告には関係ないことなのでスルーする。帰ったらスツルムに慰めてもらえ。いや、あいつはあいつで「なんだ、そのニヤケ面で胡散臭くないとでも思っていたのか?」と更に追い打ちをかけそうな気がする。根本的Sだからなぁ、スツルムは。

 

『僕の報告はそこまでない。分身を使って街の内外を調べて回っていた。首都のここも酷いが、外の街も同じような状態で、景気が(すこぶ)る悪い。崩壊寸前だ』

「全くだ。だからこそ俺の料理を振る舞って宮殿のヤツらの目に留まらせるという作戦ができたんだが、複雑だな」

『裏社交界も嫌なことするよねぇ』

 

 この国の現状を見ればわかる。早くなんとかしなければならない。裏社交界という害悪を排除しなければ、間違いなくこの国は滅ぶだろう。……まぁ、好き勝手に民衆をコントロールする叔父様が皇帝になってどうするかはわからないがな。皇族が他にいないからと暴君になるのかもしれないし、善良な政治を心がけるのかもしれない。それは本人に問い質してみないとわからないよな。

 

「初日はこんなところか。じゃあ第一報として、カッツェとハーゼに繋げるぞ」

『はいは~い』

 

 二人に告げてから魔力を込めて遠方にいる二人まで魔法を届かせることに成功する。これはワールドとの契約が近いせいか魔力量が跳ね上がっている俺にしかできなかった。

 

「こちらダナン、こちらダナン。仲の良い兄妹はいらっしゃいますか?」

『こちら、幼い頃からずっと仲の良い兄妹だ。今問題ない』

『……あの、やはりこの合言葉やめませんか?』

 

 俺の呼びかけにカッツェの声が応え、続けてハーゼの少しだけげんなりした声が聞こえてくる。この様子だと、ドランクがこっそり耳打ちしてきた「この子あんまりお兄ちゃん好きじゃないのかもね~」という言葉は本当だったのかもしれない。カッツェは嬉々として賛同してくれたのでハーゼは断れないという結果に終わったのだが。

 

『なぜだい、私の可愛いハーゼ。私達が仲の良い兄妹であることは事実だろう』

『それは当然のことですが、ダナンさんが名前なので』

「お前らは身分を隠す必要があるからな。でまぁ、とりあえず今日わかったことについての報告を、手短に済ませる」

 

 悠長に話す必要もないだろう。二人も立場はわかってしまった場合追われることになってしまう。

 

「まず、国の現状は酷い有様だ。増税に次ぐ増税で民は疲弊し、見るからにやつれて活気がない。あ、因みに宮殿の方は充実してたし小奇麗だったぞ」

『……なんということだ』

 

 カッツェの愕然とした声が聞こえてくる。

 

「まぁ手が届く範囲の一時凌ぎはこっちでもやってみるが、時間がない。そして民衆の限界が近いということは、叔父の計画の最終段階が近いってことでもあると思ってる」

『どういうことだ?』

「民衆がやつれて今の皇帝、お前らの兄貴への不満を燻らせている。そして一番最後に残った他の皇族、慈善活動も行っている叔父が国を変えてくれることを期待している。ここまで言えばどんな計画かは見えてくるよな?」

『……ええ。叔父様は現皇帝を批判、処刑して民衆の支持を得て皇帝へと即位。裏社交界による新政権を立ち上げる気なのでしょう』

 

 そう口にするハーゼの声は震えていた。おそらく怒りに。

 

『……一刻も早く止めなければならないな。欲を言えばもう少し準備をしていたかったが、場合によっては早めなければならない』

「ああ。こっちで裏社交界の動きは探っておく。初日は現状の把握と地盤作りを始める程度だったが、俺は宮廷料理人になって、ドランクとレラクルは情報収集の最中だってよ」

『初日で宮廷料理人とはな……。いや、“シェフ”なら当然と思うべきか』

『美味しいお料理でしたわ。ここしばらく宮殿の豪勢な料理から離れていましたので、もう恋しくなってしまいました』

『なに!? ダナンが恋しいだと!?』

「『言ってねぇから(おりませんわ)』」

 

 このシスコン耳めが。そんなやり取りをして無駄に時間を使ってしまったが、とりあえず初日の報告は以上となった。

 

「じゃあこれからは事前に決めた通り三日おきに連絡する。緊急だった場合宝珠を熱く発熱させるから、肌身離さず持っていてくれ」

『肌に直はダメだよ~。熱いからねぇ』

 

 そう報告を締め括り、

 

『では皆の者。ガルゲニア皇国をこの手に取り戻すために』

 

 “王様”らしくカッツェがそう告げて気を引き締めさせ、通信はお開きとなった。

 

「じゃあ俺らも終わるか。次はまた三日後にな」

『はいは~い』

『ああ』

 

 それぞれの返事があって、通信が切れる。……さて。国を滅ぼすために、全力を尽くすとしましょうか。


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