ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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やってしまった……P5Sに手を出してしまった……。
VSのハードまだ終わってないのに。

ともあれそのP5Sで才能のない作家が登場してて、あぁなんかわかるなぁと思ってました。

古戦場? 朝からずっとフルオートですよ。
100ヘルフルオート放置できないかもなぁと思ってますが……。


例え死ぬとしても

 してやったりの名乗りをした俺と、牢獄で囚われていたやさぐれてしまった第四皇子レーヴェリーラ。

 

 とりあえず美味しそうな匂いには抗えないのか抗うつもりがないのか、彼女は俺が差し出した料理をがつがつと食べ始めた。全く以って上品は食べ方ではない。腹に入ればいいと言わんばかりのワイルドな食べ方だった。食べカスをあまり散らばらせないで欲しいのだが。

 

「ご馳走様。自信満々なだけあって美味しい料理だったわ。これまで食べたどの料理よりも」

「そりゃ良かった」

「それは皮肉? 料理が美味しくなれば美味しくなるほど、次の食事までの苦痛が強くなるのよ?」

「あんたがどこにいるかさえわかっていれば、俺の方でなんとかできる」

「今柵を通り抜けたみたいに?」

「ああ。俺だったら今すぐあんたを外に出してやることもできる」

「……つまり今は出す気がないってことね」

 

 はぁ、と彼女は嘆息した。よくわかったな。

 

「脱獄させるだけが目的なら、今ここで悠長に話す必要なんてないもの」

「飯食わせたら出て、安全な場所での方がいいもんな。よく考えてる」

「当たり前じゃない。捕まってから今日まで、それくらいしかできなかったもの。ドラフならまだしもハーヴィンの私じゃ身体を鍛えても付け焼刃でしかない。魔術を覚えようにも教材がないしこの枷で魔力が使えなくされてる。なら頭を働かせて鍛えるくらいしかないでしょう?」

 

 確かに。

 

「だけどよく皇子サマがこんなところに幽閉されて心折れなかったな」

「折れたわよ。三日だかそれくらいで」

 

 俺が言うと、彼女は素っ気なく答えた。短いな。

 

「……だって身内の不幸は多かったけど、当時は優雅な宮殿生活だったもの。お父様――前皇帝陛下がお亡くなりになる時も、私は所詮皇位継承権三位だから上二人どちらかのお兄様が就くモノだろうと思っていたわけだし」

 

 ふぅ、と憂いを帯びたため息を吐いた直後瞳に暗い炎が灯る。

 

「……あのクソ兄とクソ叔父。私にお兄様を殺した罪を着せるなんて。今度会ったらなにがなんでも十発くらいぶん殴ってやるわ」

 

 ふふふ、と歪に笑うお姉様は随分とわかりやすい。ともすれば下二人よりも復讐に燃えている。まぁ本人が直接実害を(こうむ)っているのだから当然だよな。というか随分と言葉遣いが汚いな。それも囚人生活の弊害かな。皇帝に就いても直るかどうかは怪しいよなぁ。

 

「で、さっき言ってた私の弟と妹の遣いっていうのはどういう意味?」

 

 そこまで時間を取らせる気はないのか、早々に切り替えて話題を振ってくる。

 

「そのまんまの意味だ。俺はカッツェとハーゼの二人から頼まれてガルゲニア皇国の現状を調査し国を引っ繰り返すために活動しているところだ」

「……それ、こんな場所とはいえ言っちゃっていいの?」

「ちゃんとあんたと話す前から防音はしてる」

「……へぇ?」

 

 聞かれたら困る話もしようと思ってたしな。

 

「でもそう、あの二人は生きているのね」

 

 そう呟いた彼女の顔には安心が浮かんでいた。俺が初めて見る姉としての表情だった。

 

「ああ。なんとか逃げ出したらしい」

「そう。なら一つ、伝えて頂戴。……二人を逃がした執事は凄惨な拷問の上処刑されたわ」

 

 彼女は真剣な表情でそう口にした。……二人を逃がした人物か。それはまぁ、おそらく覚悟の上だろうな。

 

「牢獄にいたらそういう情報には疎いと思ったんだけどな」

「最初の頃、あの二人はどうしたかと看守に詰め寄ってたのよ。私を突き放すために教えられたのは、その情報だけだったわ」

「そうか。わかった、伝えておく。――って、聞いてるよな?」

『ああ。しっかりとこの耳で聞いた』

「……え?」

 

 俺は彼女の言葉に頷き、俺の懐から別の男の声が聞こえてきてレーヴェが呆然としていた。

 

「……今の声。カッツェ? カッツェなの?」

『はい、姉上。カッツェリーラでございます。姉上がご存命でなによりです』

「……それはこっちのセリフよ、もう」

『先程とは打って変わって嬉しそうな声色になりましたね。お久し振りです、お姉様』

「ハーゼまで……もう、本当にあんたって二人の遣いだったのね」

「ああ。信じてもらえるように、一応通信だけ入れておいたんだ」

 

 防音を開始した直後くらいからな。まぁ二人が用事で聞けない可能性もあったからいきなりにはしないつもりだった。

 

「届くのは音声だけ?」

「ああ。今のみすぼらしい姿は映ってないぞ」

「……それが聞きたかったのよ。残念だけど、私は随分と酷い恰好だから見られなくて良かったわ」

「髪は伸び放題でボサボサ。ボロ切れみたいな服を着させられている上に隈がついてる。そして風呂入ってないから臭い」

「言わないでよ隠す意味ないじゃない!」

 

 俺が具体的に告げたらきっと睨まれてしまった。

 

『お労しいですわ、お姉様。そのような酷い有り様で』

『今しばらくの辛抱です、姉上。必ずや私達が国を変えてみせましょう』

 

 その後小さく『映像として見たかったわその無様な姿』という声が聞こえた気がするのは気のせいだろうか。一応映像として記録しておこう。ハーゼと打ち解けるきっかけになるかもしれないし。あいつ性格悪いな。俺も人のこと言えない気がするが。

 

「国を変えるかどうかは別にどうでもいいわ。私はあいつらを必ずぶち殺してやる。特にあのクソ兄とクソ叔父だけは必ず」

 

 憎悪に燃えた怨嗟の声で言った。

 

『姉上……』

『叔父様のやっていることは確かに非道ですが、お姉様はそこまで憎悪されてらっしゃるのですね』

「当たり前じゃない。私の暮らしをぶち壊してこんな臭い場所に幽閉して。あのクソ共をボコボコにぶん殴ってやるまで死ぬに死ねないわ」

 

 吐き捨てるようなレーヴェの言葉に、俺の懐に入っている宝珠からの返答はなかった。思わず黙り込んでしまったというような状態だろう。なにせ二人が知っているレーヴェリーラとはかけ離れた人格になっているだろうからな。

 

「と、いうわけでとりあえずレーヴェは無事だ。流石にこれ以上いると怪しまれるだろうから、一旦終わるぞ。続きは今日の夜の定期連絡でな」

「夜だったらダメなんじゃない? 一応料理を運ぶ仕事は食べた後の片づけも含まれるから」

「さっきみたいに通り抜けるから問題ない」

「ああ、そう」

 

 俺は宝珠での通信を切って盆を手に取る。

 

「……そういや、なんであんたを生かしておく意味があるんだろうな」

「えっ?」

 

 ふと思い立って口にする。よくよく考えてみれば、彼女を生かしておく意味がない。温情なんて有り得ないし、他の皇子には殺したヤツもいる。犯罪者に仕立て上げれば皇位継承権の剥奪まではいけるから問題ないと言えばない。だが情のない話をすると生かしておく必要もない。生かせばその分食費がかかるのだから。

 

「正直なところ、叔父が皇帝になるだけなら冤罪を被せた時点で皇位継承権はない。だがそれだったら生かしておく意味もない。他の皇子と同じく殺せばいいだけのことだ」

 

 そう、冤罪を被せたのならむしろ処刑しておくのがいい。

 

「……要は、私を生かして利用する価値が、あのクソ叔父の考えではあるってことね」

「ああ、多分な」

 

 一応いくつかの案は頭に浮かんできたが、一番最悪なケースを想定しておくか。準備は怠らず、油断しない。用意周到な相手だしな。

 

「ま、その辺も探り入れとくか。じゃあまたな、レーヴェ。夜になったら来るから」

「ええ、わかったわ」

 

 そんなやり取りをしてから各牢屋の空になった盆を回収して回った。それから牢屋を出ると看守と先輩が雑談している。

 

「おっ、やっと戻ってきたか」

「すみません、遅くなりました」

「いいって。……俺も散々煽られ付き合わされたからな」

「ははは、そうですね……」

 

 先輩の実感が籠もった言葉に困ったような笑みを浮かべてみせる。如何にも俺もそれに付き合わされましたよというように受け取れる顔で。長話をしていても怪しまれないのは有り難いな。レーヴェが今まで誰彼構わず噛みついて(物理精神問わず)いた結果だろう。

 

「もしかして、他の囚人に料理を持っていっても呼び止められるんですか?」

「ああ、そうなんだ。……頑張れよ、次からはお前一人だからな」

「はい……」

 

 気は進まないけどやるしかないんですよね、と思っていそうは表情を作って頷いた。内心では都合が良くて有り難い話だと思っているのだが。まぁハーゼぐらいでもなければ見抜くことはできないだろう。

 

「さて、じゃあ念入りに洗って囚人用食器棚に収納するところまでがワンセットだからな。戻るぞ」

「はい」

 

 流石に貴族様と囚人が同じ食器を使うということはないようだ。作った後の盛りつけ時は違う棚から取ってるなぁとしか思っていなかったが。まぁ考えれば当然だよな。貴族様が一緒の食器を良しとするわけがない。

 器具も決まったモノになるようなので、そこは徹底しているようだ。アマルティアとは全然違うな。あそこはまとめて作っていたし。そういう差別はしないのだろう。あそこは更生施設でもあるから分けて考えないようにしているのかもしれないな。

 

 その後囚人五人分の空になった食器などを洗い、その後で他の先輩方が用意した後の片づけを手伝わされた。俺が“シェフ”だとしても新入りには違いないからと扱き使われている。まぁ料理に関することならほとんど疲労しないし過酷な労働環境だろうがいいんだけど。

 給料はそこそこだった。宮廷で働く上に“シェフ”という何物にも変えられない称号を持っているので、既に何人かの先輩より高い。それには皇帝が一枚噛んでいるとの噂もあるが、果たしてどうだろうか。突然現れた料理人が宮廷料理人になって皇帝の信頼を得ている、と言えば聞こえはいいがこの国の現状が現状なのでなんらかの裏を感じてしまう。考えすぎだといいんだけどな。レーヴェのこともある。三人の中で誰が一番危険な立場かと言われれば、間違いなく俺だと思う。

 

 一応、充分に警戒しておくべきだろうな。

 

 そんなこんなで夜の定期報告の時間になりそうだ。仕事が終わって疲れたからとそのまま寮の部屋に戻り、制服から普段の服装に着替える。俺と全く同じ姿をした人形を創ってベッドに寝かせ、ちゃんと生きた人間の気配がするように細工しておく。その上で【アサシン】となり気配を消して部屋を出た。ClassⅣの【トーメンター】は【アサシン】の上位『ジョブ』ではあるのだが、隠密行動には向いていないという欠点を持つ。なにせ棺桶が邪魔だ。

 ともあれ誰にも見られず悟られずに宮殿へ侵入、地下牢獄へと入って姿を隠す壁を創り防音もしてレーヴェの牢屋に辿り着いた。そのまま本人も悟られず中に入り、それから彼女を壁の内側に入れることで俺の姿を認識させた。

 

「っ!? い、いつの間に」

 

 レーヴェからしてみればいきなり現れたように見えただろう。びくっと肩を震わせていた。

 

「姿が見えなくなって、音が周囲に聞こえなくなる壁を創ってたからな。その範囲内に入ったら、レーヴェにも俺が見えたってわけだ。そういうわけだから気にせず喋ってていいぞ」

 

 俺は言いながら【アサシン】を解除し服装を戻す。

 

「……あんた、なんだかんだ言いつつ凄腕よね」

 

 なんだか呆れられてしまっている。まぁ達人でないヤツから見たらそうかもしれないな。あらゆる才能を持つのが『ジョブ』だというだけの話だとは思っているが。

 

「こちらダナン、こちらダナン。こっちは準備オッケーだ。どうぞ?」

 

 俺は懐から取り出した宝珠に魔力を込めて呼びかける。

 

『こっちはオッケーだよ~』

『僕も』

『こちらも問題ない』

『私も問題ありませんわ』

 

 宝珠が明滅して他の四人から返事が来る。

 

「とりあえず俺から報告してくな。カッツェとハーゼの二人は確実に知ってるが、二人の姉、第四皇子レーヴェリーラだ」

 

 俺は言った後彼女の前に宝珠を差し出す。ここに向かって喋ればいいんだぞと小声で伝えた。彼女は不思議そうに眉を寄せながらも話し出す。

 

「紹介されたレーヴェリーラよ。今は牢獄で服役中。現皇帝と叔父だけは絶対許さないわ。よろしくね」

 

 わかりやすい自己紹介をどうも。

 

『へぇ? お姉様生きてたんだねぇ。てっきり処刑されてるモノと思ってたよ~』

「俺もそう思ってる。ってことは生かしておくだけの理由があるんじゃないかとは思うが、まぁそこは俺の方でなんとかする」

『そっかぁ。じゃあ任せるね~』

 

 流石にドランクは鋭い。早々にその可能性に行き着くとは。

 

「レーヴェとは度々顔を合わせられそうだから、こっそり料理食べさせてわかりづらい程度に体調を改善していく予定だ。身体洗ったり服変えるのはバレるから今はできない。いよいよ脱獄ってなってからだな」

「それは仕方ないわね。まぁ捕まってからずっとこんなんだし、今更気にしないわ」

 

 逞しい皇子様である。

 

「宮廷料理人の仕事をしながら日々怪しまれないように胃袋掴んでる最中だ。俺からは以上だな」

 

 俺の主な報告はレーヴェのことになる。彼女の無事をカッツェとハーゼに伝えられたら他には特に言うこともない。宮廷内の怪しい動きなんかも一応見てはいるが、仕事の都合上あまり宮殿をうろつくわけにもいかないので進み具合は良くないといったところか。

 

『じゃあ次は僕だね~。前回報告した裏社交界のメンバーリストを作成中だよ~。完成度は全体の三割ってところかなぁ。姿を見せない人もいるからこれから難易度上がりそうだけど、次までには半数いけると思うよ~』

 

 ドランクは裏社交界の全員を把握、始末するという目的を考えて構成員を洗っているところだ。

 

「裏社交界って?」

 

 そこでレーヴェが尋ねてきた。どうやら彼女は知らないらしい。

 

「叔父率いる貴族で構成されたクソ共だそうだ。人体実験とかやってるらしい」

「死ねばいいのに」

『口悪い皇子様だねぇ」

 

 ド直球な罵倒にドランクの苦笑したような声が聞こえてくる。折を見てレラクルが報告に入る。

 

『僕の方では裏社交界がよく使っている施設やなんかを調査してる。あと叔父の行方』

「叔父がいない?」

「ああ。少し前からいなくなったらしいんだよな。一応裏社交界は動いてるし、皇帝も権力振り翳してるからいるとは思うんだが」

 

 レラクルの調査でも未だに見つかっていないというのは相当だ。機を窺っているのだろうが。

 

『一応進捗はあるけど、完全な報告は見つかってからにする。施設の一覧はダナンとドランクにそれぞれ配っておくから』

「おう、頼んだ」

 

 レラクルが書類なんかの共有をしてくれる。……忍び込んで置いていくだけなんだけどな。表立って郵便を使わなくて済むので非常に助かっている。

 

『叔父の動きはどうだ? なにか進展ありそうか?』

「さぁ、どうだろうな。多分もうちょっとしたら動きがあるとは勘で思ってるが。その時多分俺は身動き取れなくなるだろうだからな」

『なに?』

「いや、まぁ憶測の域を出ないから言わなくでおく。俺なら大抵のことはなんとかなるし」

『……まぁ、ダナンがそれでいいなら良いのだが』

 

 念は入れておくつもりだが、俺程度の頭脳では叔父とやらを上回ることはできないかもしれない。まんまとしてやられる可能性もある。……そうなったらただ力尽くでやるだけだから楽と言えば楽なんだけどな。

 

『兎に角、このまま調査を進めてくれ。叔父の行方がわかったら緊急で連携してもいい。では、頼んだぞ』

 

 カッツェがいつものように“王様”らしく締めて、一旦通信を切った。

 

「……さて、じゃあ俺は準備のためにもう戻るわ」

「そう。……あんた、もうちょっとで叔父に動きがあるとか言ってたけど」

「ん? ああ、それはちょっと俺が予想し始めてることだから、気にしなくていい。ミスったら俺が死ぬ程度で終わるだろ」

「……そんなあっさり自分の命投げ出せるの?」

「いいや」

 

 俺は否定し、裂けるように口元を歪めた。

 

「俺が()()()()で終わるんだったらそれまでだ。倍返しにしてやるさ」

「っ……」

 

 死ぬ程度で終わるとわかっていれば対策の打ちようはある。

 

「さて。じゃあ色々対策練るからそろそろ帰るな」

「え、ええ」

 

 そう言って俺は踵を返し、牢屋の壁を消滅させ元に創り直しながら地上へと戻る。その途中、

 

「……なにあれ怖い」

 

 レーヴェの呟く声が聞こえた気がした。……いや、言っとくがお前とハーゼは多分同類だからな?


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