ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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鬼滅の刃って面白いなぁ(今更
二次創作も盛り上がってるし良さげなの思いついたら書きたいですが、まぁそれはナンダクは一段落してからですね。あとまだ漫画買ってないので買わないと。


素のハーゼ

 ガルゲニア皇国での調査は順調に進んでいた。

 

 ドランクのリストも八割方完成したそうだし、レラクルが裏社交界の潜伏場所をほとんど特定している。

 根絶やしにする準備は着々と進んでいた。

 

 二人が活躍しているのに、俺だけ料理してレーヴェの面倒見てを繰り返すだけでは味気ない。一応休日を貰ったら街でひもじい人々に料理を振る舞っていたのだが。

 

「ダナン、報告だ。言われていた孤児院を見つけた」

 

 ある日の休日。午前中に街で料理を振る舞い人々を笑顔にする“シェフ”としての役目を果たした後、寮の部屋に戻ると天井から素早くレラクルが降りてきた。膝を突き畏まった姿勢だ。

 

「おう、ありがとな」

「あと例の見世物についても、次の日程を掴むことができた。五日後の夜に行われる」

「……そうか。わかった、仕事に戻ってくれ」

 

 彼の報告を聞き終える。しゅばっ、とどこかへ移動していった。

 

「……いよいよ、動く時が来たな」

 

 孤児院と、重要な要素である見世物の日程を掴んだ。レラクルには、探り当てても襲撃するなと伝えてある。人体実験に使われる子供達を見るのは心苦しいだろうが、やるなら一気に始末する必要がある。だからこそ、見世物のタイミングを見計らうのだ。

 

 俺は色々と頭で策を巡らせながら、懐から一つのモノを取り出す。

 

「じゃあ、始末に向いたヤツを呼ぶとするか」

 

 俺の手には小さな()()が握られていた。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 レラクルが置いていった紙に簡単な地図が描かれていたので白いシャツに黒いズボンというラフな恰好で孤児院へと足を運ぶ。

 

「ここか」

 

 孤児院の子供達に会うためここに来た。とはいえ土産の一つでも持っていかないのはあれかと思い、子供達も食べられる簡単なお菓子、クッキーを作ってきていた。

 

「すみませーん」

 

 孤児院の扉をノックして大きな声で呼ぶ。しばらくしてがちゃりと扉が開き、中から女性が出てきた。孤児院を管理している人だろう。

 

「あら、えぇと、確か料理を配っていた……」

 

 女性は俺の顔に見覚えがあったらしい。俺も何度か見た記憶があったので、どこで会ったのかはすぐにわかる。

 

「はい。この国に孤児院があると聞いて、暇を見つけて来てしまいました。実は私も孤児だったので、一度見に来たいとは思っていたんです」

 

 嘘は言っていない。ただ、それ以外の目的があるというだけだ。

 

「そうだったんですか。わざわざありがとうございます」

 

 ぺこりと女性はお辞儀をする。と、頭を下げたからか俺が手に持っている袋が目に入ったようだ。

 

「ああ、これですか? 子供達にと思って、クッキーを焼いてきたんです」

「え、く、クッキーを?」

 

 俺が笑って袋を掲げると、なぜか院長の女性は表情を強張らせていた。……ん? なにかおかしかっただろうか。

 

「えっと、クッキーダメでしたか? 子供達が分けやすいようにと思ってこれにしたんですが……」

「ああ、いえ、その……すみません。前によくクッキーを焼いて持ってきてくれる方がいらっしゃったので」

「そうですか」

「その方は今行方不明になってしまって……」

「そうだったんですね。となると、クッキーを子供達に渡すのは良くないでしょうか」

「あ、いえ。子供達は喜ぶと思いますよ、私が考えすぎてしまうだけで」

 

 ふぅん。ってことはハーゼの噂話として語ったあのエピソードは、彼女が実際に見聞きしたことってことだろうかね。ハーゼは孤児院と個人的な付き合いがあって、その孤児院の子供達が裏社交界に人体実験として使われていると知って復讐したい、といったところだろうか。

 

「院長せんせー、お客さま?」

「え、ええ。最近お料理を配っている優しい方よ」

 

 院長が入り口で立ち話をしていたからか、子供の一人が声をかけてきた。

 

「あ! あのお料理の人? すっごくおいしかった!」

 

 幼い少女は顔を輝かせてお礼を言ってくれる。

 

「そうか、それは良かった」

 

 屈んで目線を合わせにっこりと笑う。

 

「あ、そうだ。今日はお土産にクッキー焼いてきたんだ。皆と分けて食べていいよ」

「わぁ! ……えへへ、クッキーなんてハーゼお姉ちゃんみたい!」

 

 俺がその女の子にクッキーの入った袋を渡すと、少女は顔を綻ばせて言った。ハーゼの名前を出したことで院長が息を呑んだのがわかる。

 

「そっか。ハーゼお姉ちゃんは優しい人だったんだな」

「うん! いつも来る時はクッキー焼いてきてくれて、あとお絵描きが下手なの!」

「ふふっ、そうか」

「えっと、クッキーありがとうお兄ちゃん!」

「ああ」

 

 どうやらあいつは絵が下手らしい。いいことを聞いた。からかってやろう。

 女の子が「料理おいしいお兄ちゃんがクッキー持ってきてくれたよー!」と袋を持って他の子供達の下へ向かってから、俺は立ち上がる。

 

「……あの、その」

 

 ハーゼという皇族の名前を出されてしまったからか、院長はとても言いづらそうにしている。

 

「一応、場所を変えましょうか」

「はい」

 

 子供達にはあまり聞かせたくない話の可能性もある。院長と二人、孤児院から少し離れた場所に移動した。

 

「ハーゼ様は、度々ここに来ていたんですか?」

「は、はい。お忍びで偶に。ですがその、ある時行方不明になったと聞いています」

「ええ、行方知れずとは聞いています」

「あの、このことはご内密に……」

「大丈夫ですよ、他人に言うような真似はしません」

 

 院長はそこが不安だったようだ。現皇帝の暴君っぷりは知っているだろうし、子供達含め皆殺しにされるようなことは避けたいのだろう。……まぁ、その心配は無用だな。なにせここの子供達を引き取るフリして人体実験しているんだから。裏社交界の催しに使われる大切な材料だ。そう簡単に潰すとは思えない。

 

「と、そうでした。一つ気になっていたことがあったんです」

「?」

「ハーゼ様の叔父、ここの支援を行っていたモノと思われますが、最近の行方などはご存知ないですか?」

「えっ? ああ、あの方ですか。よくあの方が大きくなった子供達の引き取り先を探してくださっていたので関わりはあったのですが、申し訳ありません。今どこにいらっしゃるかは全く」

 

 嘘は、言っていないようだな。

 

「そうですか。ボランティアなどの慈善活動を行っていたというその方でしたら、その現状を変えてくださる可能性があるんじゃないかと思ったんですけどね」

「そうですね。よく、街の人達もあの方がいればと口にしていますが」

 

 しかし院長は続けた。

 

「……実は私は、あまり良く思っていません」

 

 彼女の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったので、思わずきょとんとしてしまう。

 

「それはなぜ?」

「実は、引き取り先を探してくださるのはいいのですが、度々引き取られた子供達と連絡が取れなくなってしまって。もしかしたら子供達に悪い人へ引き取らせているのではないかと思って……」

 

 院長は悲しげな表情で顔を伏せ口元を手で押さえる。……嘘は言っていなさそうだ。ただ、それが真実を言っているかどうかはわからない。

 

「そうなんですか、そういう意見はここに来てから初めて聞きましたね」

「もしかしたら、私の思い違いかもしれませんが。ハーゼ様もいなくなって、悪い方向にばかり考えがいってしまうせいかもしれません」

「いえ、子供達を想ってのことなので仕方ありませんよ。貴重なお話が聞けて良かったです。ではまた、気が向いたらクッキーを持ってきますね」

「あ、ありがとうございます」

 

 俺は話を切り上げて、ぺこぺこと頭を下げる院長を背に寮の方へと歩いていった。

 

 その途中、見知った顔を見かける。向こうも俺に気づいたようでこちらに近寄ってきた。

 

「ダナン殿。休日に料理をしていないとは珍しいな」

 

 私服姿の三十代ぐらいの男性だ。この人はガルゲニア皇国の騎士団で部隊長を務める人で、俺が初日に料理していた時突っかかってきた隊長さんでもある。道理で悪役が板についていないと思った、というのは後に自己紹介してもらってからなのだが。

 

「ちょっと孤児院にな。俺も孤児だったから、ちょっとお菓子でも持っていこうかと思って」

「そうかそうか。いい心がけだ。私も小さい子供がいるからな、今度誕生日ケーキを作ってもらえないかと打診するつもりだったのだが」

「それくらいならいいぜ。子供の年齢と誕生日さえ教えてくれれば、最高のケーキを作ってやる」

「はは、それは頼もしいな」

 

 この人とはそれなりに打ち解けていた。その理由は、

 

「そうだ、良かったら鍛錬に付き合ってくれないか?」

 

 とよく彼と手合わせをしているからだった。初日に料理人とは思えない速度で彼の剣を弾いたので、それから手合わせを頼まれている。

 

「ああ、いいぞ。丁度今日やろうと思ってた用事はなくなったところだ」

「そうか。では頼む」

 

 向こうも俺の方が強いことはわかっているので、勉強になるということらしい。

 しかし彼については俺に重大な隠し事をしているので、完全には信用していない。だがそれでも問題ないとは思っている。彼の抱えている事情を思えば、な。

 

 それから部隊長と汗を流して寮に戻った。それからシャワーを浴びて身体を綺麗にする。……さて、今日のことをあいつにだけ報告しないとな。

 そう思って防音した中で宝珠を取り出し魔力を込める。全体にではなく、特定の誰かと通信する時は魔力を込めながら設定した特定の単語を口にする必要がある。

 

「淑女」

 

 それがハーゼリーラと繋ぐための単語だ。淑女然とした振る舞いをするからという理由だ。誰かがわかりやすければなんでもいい。

 カッツェの場合は指揮者、レラクルは忍者、ドランクは傭兵。因みに俺は黒衣だそうだ。俺だけなんか人の命名じゃないのはなぜだろう。

 

『こんな夜遅くに、それも個人通信だなんて、どうかなさいました?』

 

 やや間があってハーゼの声が宝珠から聞こえてくる。

 

「ちょっとお前とだけ話したいことがある。カッツェは聞いてない方がいい」

『では少々お待ちくださいね』

 

 それから少しの間があって、

 

『いいですわ。それで、私とだけ話したいことというのは?』

 

 場所を変えてカッツェには聞こえないところに移したのだろう。それは俺からだとわからないが、聞かれて困るのは彼女の方だ。

 

「とりあえず、腹割って話さないか? その口調もやめていい」

『どういうことですの?』

「レーヴェと話している時にちらっと聞こえるように言っただろ。ああいう感じでいい。なにせこれからする話は、孤児院の子供達を見世物にするっていうあんたにあったことだからな」

『っ!』

 

 ハーゼの息を呑む声が聞こえた。それから彼女は、淑女然とした口調とは打って変わって話す。

 

『……まぁ、ヒントはいっぱいあげたし、それくらい気づかなかったらおかしいわね』

 

 嘆息混じりにそう言った口調は、どちらかというとレーヴェに近い。あいつは牢獄生活で憎悪を燻らせているからだろうが、素でそれなのはちょっと問題だと思う。

 

「やっと話す気になったか。それは良かった」

『いいから早く話しなさいよ。こっちはあのお兄様の目を撒いてるんだから。見つかったら元の口調でしか話さないわよ』

 

 つっけんどんと言うか、刺々しい言い方だ。まぁそれくらい明け透けな方が接しやすい。変に畏まられてもなという感じではあった。

 

「じゃあ簡潔に。次に人体実験した子供達を見世物にするパーティの日程がわかった。五日後の夜だ」

『……パーティ、ねぇ。ホント殺してやりたいくらい』

 

 明らかな怒りを含んだ声音だ。

 

「全くだ。で、そのパーティに潜入した来ていた全員をまとめて始末しようと思ってるんだが、お前はどうする?」

『私が言うのもなんだけど物騒な考え方ね。どうするって言うのは?』

「今日、お前がお忍びで通ってた孤児院に行った。クッキー焼いて持っていって、絵が下手で優しいお姉ちゃんだとか言ってたな」

『……そう。絵が下手は余計よ。誰が言ったんだか』

 

 「……そう」だけは優しい響きがあったが、それ以外は刺々しかった。

 

「どうするって言ったのはお前が一番、子供を実験して見世物にした連中を殺してやりたいだろうと思ったからだ。お前に与える選択肢は、『始末を俺達に任せる』、『映像としてヤツらの死に様を見届ける』、『生で見に来る』、『直接始末する』の四つだ」

 

 これは皇国を取り戻す戦いでもあるが、同時にハーゼとしては復讐するための戦いでもある。俺達が勝手に始末をつけるのは今後の関係のためにも良くないだろう。

 

『……そりゃ、直接この手でぶっ殺してやりたいわよ』

 

 真っ先に口にしたのは四番目の選択肢だったが、それはつまりその選択肢を選ばないということだ。

 

『お兄様の目があるから単独でそっちへは行けないし』

 

 続いて三番目の選択肢も潰す。

 

『けどあいつらの死に様は見たいわ。二つ目の選択肢、映像として見届けるにするわ、大人しくね』

「言ってることは全然大人しくねぇんだけどなぁ。ま、今の方がいいと思うぜ、俺は』

『……あなた変わってるわね』

「取り繕ってるのが気に入らなかっただけだ」

 

 そういう意味ではドランクもなかなか見せてはくれないが、ちゃんと心からの言葉を織り交ぜて話すからある程度信頼が置けるのだ。その点ハーゼは偽りの姿とでも言うべき上っ面なので信用しづらい。なにを考えているのか常に疑わなければならないのだ。その点で言えば上っ面を取っ払った今の彼女は思ったことを口に出すので好感が持てる。

 

『ここまでバラしちゃったならあなたには言ってもいいわね』

 

 そう切り出すと、ハーゼは当時あったことの全てを語ってくれた。

 

 孤児院によく通っていたこと。孤児院の子供達を誰よりも大切に想っていたこと。……ある日引き取られた子供が、裏社交界の人体実験で洗脳され殺そうとしてきたこと。そこで病死した前皇帝から預かっていたムーンのカードから出てきたムーンと契約を交わし、自分を庇って死んだ侍女と洗脳された子供と始末の後片づけに来た兵士の死をなかったことにした。ムーンとは真実を暴き、欺瞞で真実を隠すモノだそうだ。

 それから「あいつら全員八つ裂きにしてやるわ」という激情を抑え込みながら過ごしていたらしい。

 

「……賢者ってのは、色々抱えてるもんだなぁ」

『他の賢者も私ぐらいのモノを持ってるわけ?』

「まぁ、一部はな」

 

 男達から欲望の捌け口にされたり、先導者に仕立て上げられて妻を殺されたり、全く愛されなかったり。

 壊れる音を聴くのが快感だと知ったり、戦場で見捨てられたり、人の気持ちがわからなかったり。の三つはまぁ、なんとなく周囲の気持ちが理解できたから同情はしない。というかロベリアだけ異色すぎんだろ。

 

「その賢者の一人、一番ヤバいヤツに始末してもらうから、楽しみにしておけ」

 

 二重の意味でな。

 

『ええ、まぁ、そうしとくわ』

 

 これで会話は終わりかと思ったが、

 

『……なんで、あなたにこんなことまで喋っちゃったんでしょうね』

 

 そんな声が聞こえてきた。

 

「バレたからいい、ってお前が言ったんじゃなかったか?」

『ええ。でも、話さなくてもいいことでしょ』

「どうだろうな。順当な流れだったと思うぞ」

『そう。なら、気にする必要はないわね』

「ああ。じゃあ最後に、お姉様のみっともない姿の映像を送るな」

 

 俺は言って魔法で記録してあった映像をハーゼが持つ宝珠から映し出されるようにした。

 

『ぷっ……ふふっ! お、お姉様ったらみっともない……! ふふっ、……っ!』

 

 姉の無様な姿を見て笑っているようだ。牢獄に入れられている姉に対して失礼じゃないだろうか。

 

 やっぱりお前、性格悪いわ。……こうなるとわかってて見せる俺も性格悪いんかね。


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