ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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人形の変化

 一先ず二日経てClassⅡを網羅した。いや、させられたと言うべきか。初日なんか楽器得意がClassⅠの【ハーピスト】だったんだぞ? それを二日で会得しろとか……。

 

「……クソッ。治ったのに全身が痛ぇ」

 

 ドランクもいるから治療には事欠かない。ただし傷を負ってすぐ回復しても痛みが引くかどうかは別だ。痛みだけが残る奇妙な状態のまま

 

「怪我は治ったな。では再開するぞ」

 

 と来たもんだ。容赦のなさが半端じゃない。まぁグラン達を相手取るとしたら、の話だが黒騎士だけではオルキスを守って戦えない可能性を考えているんだろう。伸び代は未知数だからな。その点で言や俺もそうだが。Classを超えると強さが跳ね上がる。大体ClassⅢがどんなもんかってのも早く知っておきたいんだろうがな。

 

「……大丈夫?」

 

 特訓には人目につかないよう家として使っている工場の広い場所を選んでいる。部屋を出てすぐのところだ。そこで昼飯まで三人にボコられた俺は、大の字で寝転がっていたわけだが。

 相変わらず猫のぬいぐるみを抱えたオルキスが覗き込んできた。

 

「……いや全然。ってか飯だろ。作り置きしてあるが、もう食べ終わったのか?」

「……ダナンと一緒に、ご飯食べる」

「っ!?」

 

 俺は痛みも忘れて飛び起きた。オルキスを脇に抱えて部屋へ向かう。

 

「おい! 聞いてくれ!」

 

 俺を扉を開け二階の部屋に入る。三人は既に食べ始めているようだ。視線がこちらを向く。

 

「一大事だ」

「なになに? どうしたのダナン。落ち着いてご飯食べたら?」

「……オルキスが……オルキスが飯を食べることより俺が来るのを優先した……!」

「「「っ!?」」」

 

 俺の言葉に三人共が固まり、利き手に持っていたフォークやスプーンを落とした。

 

「え? 待って、オルキスちゃんが!?」

「なんだと……」

「あり得ない事態だな」

 

 三人の間に戦慄が奔っていた。俺は脇に抱えたオルキスを下ろす。

 

「お、オルキスちゃん? どこか調子悪いの? お腹でも壊した?」

「……どこも悪くない」

「オルキス。変なモノでも食べたのか。サイコロステーキ一つやろう」

「……食べてない。けど貰う」

 

 まず傭兵二人が詰め寄って尋ねた。そして最後に黒騎士がやってくる。

 

「おい、人形。不調があるなら言え。お前は私の目的に必要不可欠だ。なにか不備があっては困る」

 

 相変わらずオルキスへの態度はこんなんだったが、一応心配しているらしい。今のだって別にわざわざ「目的のために必要だから」とか言ってるし。

 

「……どこも、悪くない」

 

 しかしオルキスの答えは変わらなかった。そのことについて俺達四人は顔を突き合わせて会議する。

 

「ねぇダナン。ホンットにオルキスちゃんに変なモノ食べさせてなぁい?」

「当たり前だ。俺は厨房を預かる身だぞ。まぁ確かに新作を味見はしてもらってるが、第一自分で味見しないで他人に食わせる阿呆はいねぇだろうが」

「だとしたらどこかで拾い食いでもしてきたのか? いやそれはないか」

「ああ。前は色々な場所で食べていたが今は違う。ダナンの料理が余程気にっているのか、外へ出ても後で作れの一点張りだったか」

「そうなんだよなぁ。じゃあ一体どうしたってんだ?」

 

 しかし、一向に答えは出ない。

 

「……もういい。一人で食べる」

 

 どこか拗ねたような声でオルキスが言って、猛然と自分の分(スツルムのサイコロステーキは一個取ったが)を食べていく。

 

「いやまさか。だってオルキスだぞ? 食べること以上があるわけない」

「だよねぇ。オルキスちゃんだし。あ、最近アップルパイ食べてないとか?」

「あるかもしれないな。オルキスだし。新作ばかりでアップルパイを食べさせてなかったんじゃないか?」

「なるほどな。確かに、人形は昔から食べることにしか関心を示さなかったからな」

 

 どうやらアップルパイの頻度が減ったことでイレギュラーが発生した、という結論が出た。確かにそう言われてみれば食べない日もあったかもしれない。なるほど、ずばりそこだな。

 

「……ごちそうさま。寝る」

 

 高速で食べ終えたオルキスは、やや憮然とした様子でソファーの背凭れへ顔を向けて寝転がった。

 

「……これは不貞寝、か?」

「不貞寝だねぇ」

「不貞寝だな」

「不貞寝で間違いだろう」

 

 おやおや。けどまさかそんな、あのオルキスがなぁ。

 

「オルキス?」

「……」

「おーい、オルキスー?」

「……知らない」

 

 これはもう完全に拗ねてますねぇ。

 

「……こうなったらあれを出すしかねぇか。悪い、ちょっと協力してくれ」

 

 俺は秘密兵器を出すことを決めて三人に小声で耳打ちし、とりあえず飯を食べる。その間ずっとオルキスは動かなかった。多分本当に寝てるわけじゃないんだろうが。

 座る位置にも気をつけた。オルキスの寝ているソファーにも座らないと四人で食べれないので、俺がオルキスの頭の方に踏まないよう気をつけて座り、黒騎士が間を空けて隣に座る。向かいには傭兵二人が並んだ。

 とりあえず談笑しながら食事をする。

 

 そして食べ終わってからが本番だ。

 

「よし、じゃあ俺の特製デザートをちょっと食べてみてくれ」

 

 そう言って下ごしらえは一応しておいたモノを取り出し仕上げに取りかかる。

 これもまたパイ。新作のパイだ。他にもチョコパイなども試してみているが、オルキスのお気に入りはアップルパイから変わっていない。それを変えさせるのが今の俺の一つの目標ではある。

 

 そうして出来上がったのがこの、レモンパイである。

 

 アップルパイと違って実が入っているわけではなくレモンソースをゼリーのように固めたモノを入れている。甘酸っぱくさっぱりとした味わいは大人にも人気が出そうな気はしているが。

 端的に言えばリンゴを煮込むだけと違って中身に仕かけが施せるのがいい点だ。

 

 甘さを足すなら蜂蜜をかけるのもありだ。……トッピングで追加料金払うようにして、売り物にしてみようか。今度シェロカルテに相談してみよう。

 

 焼き上がるとレモンの爽やかな香りが部屋中に広がった。匂いが広がったせいかオルキスがもそもそし始めた。……ふっふっふ。既にオルキスの胃袋は掌握済みなんだよ。いつまで耐えられるかな?

 

「よし、出来た。俺特製レモンパイだ。こっちは蜂蜜かけたヤツな」

 

 二枚分のレモンパイを皿に乗せてテーブルまで持ってくる。ちゃんと八等分にしてある。

 

「おっ。美味しそうだねぇ。じゃあ早速いただきまぁ〜す」

「おう。ほら二人も食べていいぞ。俺も食べるかな」

「ああ」

「レモンと来たか。甘さ控えめといったところか」

「美味ぁい! ダナンは料理のセンスあるよねぇ。この中身のヤツ、噛むととろりとしたレモンソースが溢れてきて、濃厚でありながらさっぱりとした味わいが口いっぱいに広がるよ〜。スツルム殿、どぉ?」

「美味いな。女に人気出そうだ。もう少しパイを薄くして全体のボリュームを減らせば、もっとな。屋台とかで片手で持てるサイズで売り出したらどうだ」

「それはいいな。ダナンが稼げば資金調達も楽になる。さっぱりしているからか食べ終わった後にもう一つ食べたくなるな。……もう一切れ貰っていいか?」

「……なんか真面目に講評してんな。ってか気に入ってんじゃねぇよ。食べてもいいけど先にこっちの蜂蜜かけた方も食ってみてくれ。甘さに拍車かかってるが、元がさっぱりしてるからそこまでクドくはないはずだ」

「つい手を伸ばしちゃうよね〜。早速一個もぉらいっ」

「おいドランク狡いぞ」

「全くだ」

「一番最初に次行こうとしたヤツがなに言ってやがる。まぁ取り合いするくらい美味けりゃ成功だな。試作用に二枚しか作ってないから、早いもん勝ちにはなるか」

「ヤバッ。早く食べて次行かないとスツルム殿に全部取られる痛って!」

「あたしはそんな意地汚くない。……それよりそっちの雇い主が三個目に手を」

「好みだ。次からはもう少し作ってくれ。蜂蜜はいい」

「おぉ、予想外の食いつき。もうなくなっちまうじゃねぇか」

 

 事前に打ち合わせしていたとはいえ思いの外反応が良くぱくぱくと食べていってしまう。

 しかしそこで服を後ろから引っ張られる感触がした。

 

「……全部食べちゃ、ダメ」

 

 当然オルキスだ。

 

「なら、オルキスも食べるか?」

「……ん」

「よし。じゃあそこ座って」

 

 俺の問いに頷いたことを確認し俺と黒騎士の間に座らせる。

 レモンパイは通常が一個、蜂蜜ありが四個残っていた。……お前ら食べすぎなんだよ。俺が残さなかったらなくなってたじゃねぇか。俺が三人にジト目を向けるとドランクだけウインクで謝ってきた。殴ってやりたい。

 オルキスはそっと蜂蜜のない方を手に取ってはむと口に含む。表情はあまり変わらなかったがはむはむと食べ進めていたので気に入ってはくれたかな?

 

「……美味しい」

「そっか。なぁオルキス。皆で食べるご飯は美味しいか?」

 

 オルキスが一切れ食べ終わるのを待ってから尋ねた。じっと感情の見えづらい赤い瞳が俺を見上げてくる。

 

「……美味しい。一人で食べるよりも、美味しいと思う」

「そっか」

 

 明確な答えを得れて、俺はオルキスの頭を撫でてやる。

 

「じゃあ今度から皆一緒で食べるか?」

「……ん。そうしようと、してた」

「悪かったよ……。でもまさかオルキスがなぁと思ってな」

「……ダメ、だった?」

「いいや。驚いたけど悪くない。したいならしたいでいいんだよ」

「……ん。でもダナンが疑った」

「うっ。だからそれは悪かったって」

「……許さない。今度からは、絶対一緒」

 

 どうやら根に持っているらしい。

 

「わかった。これからも一緒に飯食べような」

「……ん」

「そうと決まれば。どんどん食っていいぞ。お前のために作ったんだからな」

「…………そう」

 

 ん? なんか食べる速度が早くなった、か?

 

「いやぁ、ダナンってば落として上げて、って詐欺師の手口だよねぇ。向いてるんじゃないの?」

 

 いつも以上にムカつくニヤケ顔でドランクが言ってくる。

 

「当たり前だろ。六歳の頃にはやってたんだからな」

「……君割りと悪人だよね。じゃあ資金調達、詐欺の方でやっちゃう? スツルム殿にこわーい顔で立っててもらってさ」

「あたしを巻き込むな。余所でやれ」

「貴様ら……ここでエルステ帝国内で、ここに最高顧問がいるのを忘れていないだろうな」

「やだなぁボス。冗談に決まってるじゃないですかぁ」

「そうだぞ。本気でやるつもりならこんなとこで話さないだろ」

「……そういう意味で言ったんじゃないよ?」

「ん?」

 

 よく意味はわからない。とりあえずオルキスの機嫌は直ったみたいだしいいか。

 

 そうして俺達は、なんだかんだ平和に、楽しく日々を過ごしていった。

 

 いずれ、戻ってくることができなくなるのだとしても。


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