ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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古戦場はなんとか七万位以内に入りました。
今回は玉髄ではなくヒヒ取ってカトル君を取得。周年イベでウーノを取ることで統べるという計画です。

金剛が集まったのでバハ五凸目指そう、と思ったら天司のアニマが足りなかった……。
あ、金剛ガチャでは出たことないので悪しからず。

なにはともあれ、短い準備期間の中古戦場お疲れ様でした。
六周年も期待しましょうね。私はアリア実装を願います。収録的な意味合いでもあり得そうですし。


動き出す事態

 会場に囚われていた子供達は全員俺が分析、除去をして実験の影響をゼロにした。成功しているかどうかは子供達がいる前でドランクに頼んで生け捕りにしてもらった一人に命令させてみて効果がなかったことを確認している。命令が「その男を殺せぇ!」だったのはウケた。

 誰も言うことを聞かなくて焦っていたのもウケたが。そいつもちゃんと子供達のいないところで始末しておいた。

 因みに俺が来ていた衣服はレラクルに回収してもらっている。

 

 子供達はハーゼの通っていた孤児院に預けることにした。レラクルに買ってきてもらった大量の食料を渡したのでそれで食い繋ぐように頼み込む。

 院長は突然のことに驚いていたが、以前引き取られた子供もいたらしいので再会できて涙ぐんでいた。

 

「……あの」

 

 さて俺は戻るかと思っていると、最初に助けた少女が俺の服の裾を引っ張ってきている。

 

「ん?」

「……お父さんと、お母さんのとこへはいけないんですか?」

 

 不安げに顔を上げた少女の問いに、この子は孤児じゃなかったのかと少しだけ驚いた。まぁ政界の大半を牛耳っていれば誘拐の一つや二つ簡単に揉み消せるだろうが。

 

「んー。一応全部が片づくまではここにいてくれ」

 

 俺は少女の頭を撫でてそう告げる。

 

「因みに名前はわかるか?」

「はい、――」

 

 少女は両親の名前を口にする。……その名前には聞き覚えがあった。

 

「……なるほど、そういうことね」

 

 俺は合点がいってニヤリと笑う。

 

「?」

 

 少女はなんのことかわからずこてんと首を傾げていた。

 

「ああ、気にするな。とりあえずはここでな。必ず会わせてはやるが、もうちょっとの辛抱だ」

「は、はい……」

 

 落ち着くようにとしばらく頭を撫でてから、俺は孤児院を後にする。その直前、

 

「あ、あのっ!」

 

 院長から呼び止められた。

 

「なんですか?」

「……」

 

 俺が振り返ると院長は口を開いたり閉じたりする。言いたいことはあるが言い出せないという様子だ。……その理由も察しがついている。

 

「言えないなら無理に言わなくてもいいですよ? 相手が悪かったんですから」

「えっ……?」

「まぁそれは相手も同じですけどね――俺達を相手にするなんて、運が悪い」

 

 不敵に笑って告げ、踵を返し歩き出す。言い出そうとしてくれただけで充分だ。

 

「……ハーゼ。緊急通信で全員に繋ぐ」

『わかったわ』

 

 俺は言ってから宝珠に強く魔力を込めた。

 

「……ダナンだ。いきなりで悪いがカッツェとハーゼはバレないように首都まで来てくれ。レラクルは二人が到着後身を隠すように案内するのと護衛を。向こうも動いてくるだろうし、こっちも決めるぞ」

『詳しい説明はちゃんとしてくれるのだろうな?』

「ああ」

『なら良し。では後日直接会おう』

「ああ、悪いな」

『構わない。元より私達の戦争だったのだからな』

「そうか。じゃあ、頼んだ」

『わかった』

 

 ハーゼから了承を取っていないが彼女は事情を知っているので急ぐ理由も予想をつけているだろう。なによりカッツェが来るとなったら彼女もついてくる。

 

「さて、と。終わりにするか」

 

 そろそろ他の仲間達も恋しくなってきた。帰ったら思う存分のんびりしたいところはある。

 

 もう深夜だが、一度レーヴェにも会っておこう。今回やったことの報告も兼ねてな。

 そう思って俺は見えない壁を作り姿を消すと宮殿の地下牢獄に向かう。

 

「よう」

「っ! びっくりさせないでよ」

 

 壁から出てきた俺をレーヴェは鋭く睨んでくる。入った瞬間に防音と不可視は整えてあった。

 

「正面から入るわけにいかないんだから仕方ないだろ」

 

 俺は言いながら屈んでレーヴェの手錠に触れる。そのまま消滅させて金の粒子へと変えた。

 

「……どういうつもり?」

 

 レーヴェは急な俺の行動に訝しむような目を向けてくる。

 

「詳しい話は場所を変えてからな」

 

 言って虚空に右手を翳し、レーヴェと全く同じモノを創る。

 

「……うぇっ」

 

 自分と全く同じ姿の人形が出てきたらそりゃ気持ち悪いだろうが。

 

「文句は言うなよ? お前の脱獄に必要なんだから」

 

 人形の方にはちゃんと手錠をつけてある。

 

「でもこれは流石に気持ち悪いわよ」

 

 つんつんと倒れ伏した人形の頬を突いて本物の感触に顔を顰めている。

 

「そりゃお前と全く同じだからな。違いは命がないことくらいだ」

「……私の死体ってことね。気味悪いわ。じゃあさっさと行きましょう」

「ああ。よっと」

「……抱え上げるのはやめて。荷物みたいじゃない」

 

 俺がレーヴェの脇を持って持ち上げると文句を垂れた。少しの間なんだから気にしなければいいのに。

 

「転移」

 

 空間移動を発動してそのまま俺の割り当てられた部屋に来た。常に防音してあるので問題ない。牢獄の方は解除しておこうか。

 

「……あんた、割りとヤバいヤツよね?」

 

 なぜかレーヴェからそんなことを言われてしまった。

 

「俺は色々できるだけでヤバいヤツじゃない。そんなことよりまずは風呂だな」

 

 抱え上げたままシャワールームへ向かう。

 

「よし、洗うか」

「ちょっと待って」

 

 シャワールームでレーヴェを下ろしローブを脱いでシャツの袖とズボンの裾を捲くる。シャワーを出して湯にしてさぁ始めるかと思ったが、レーヴェが止めてきた。

 

「ん? どうした?」

「どうした? じゃないわよ! なんであんたが洗う感じなの!?」

「安心しろ。流石に汚すぎてなにも抱かないから」

「私が気にするの!」

 

 要は裸を見られたくないんだろう。だがよく考えて欲しい。何年も風呂に入れてもらえず汚れ切った身体と髪。言葉を選ばずに言ってしまうなら今のレーヴェリーラは洗濯物だ。それも汚れが酷い。

 

「汚れが酷くて一人じゃ洗いづらいってのが一つ。で、ずっと運動してないお前が身体を洗うっていうことすら疲れて倒れる可能性が一つ。わかったら大人しく洗われろ」

「は、ハーゼ! ハーゼは!?」

「まだ来ない。大体見られるの嫌がってただろ」

 

 ハーゼには映像で見せたんだけど。

 

「今のよりはマシよ!」

「洗わなかったら部屋で過ごさせないからな。というか俺もシャワー浴びたいんだからさっさとするぞ」

 

 今日は仕事終わってからすぐ会場に行ったからシャワー浴びてないんだよ。

 

「やーめーてー!」

「大人しくしなさい」

 

 というわけでボロ切れのような服を剥ぎ取り半ば無理矢理レーヴェを洗浄した。特になにもない。時間はかかったなぁ、と思うくらいだ。

 

「……しくしく」

 

 その後部屋のベッドで買っておいたハーヴィン用の寝巻きを着たレーヴェがうつ伏せになっていた。本当に泣いてるヤツはしくしくとは言わないんだよ。

 

「めそめそしてないで次だ次。髪整えるぞ」

「……それはさっきのよりはマシ」

「悪かったからほらこっち来い」

 

 湯上がりなせいか別の理由はまだ顔の赤いレーヴェが俺の方に来る。俺はレーヴェを椅子に座らせ、ビニール製の布で首から下を覆い口の隙間をなくすと散髪用の櫛と鋏を取り出した。目の前には姿見がある。地面には切った髪を集めるためにビニールを敷いておいた。

 

「元々はどういう髪型だったんだ?」

 

 少しだけカッツェとハーゼとは髪色が違う。同じ茶色ではあったが、レーヴェの髪はどちらかというと焦げ茶に近い。伸び放題だったため地面に着いて余りある長さになっている。風呂で切らなかったのはレーヴェが動揺しまくってて刃物が危なかったからだ。

 彼女の髪を櫛で整えながら尋ねる。

 

「うーん……そうね、肩にかかるかかからないかくらいの長さだった気がするわ。変に編んだり結ったりはしてなかったと思うけど」

「そっか。じゃあその辺はセンスに任せるかな」

「不安だわ。というか切れるの?」

「ああ」

 

 その不安を払拭するように鋏を入れていく。基本的にばっさりやってしまっていいので後ろ髪を肩甲骨の辺りまでばっさり切ってしまう。肩ぐらいの長さにするならそれでいいだろう。その後も櫛と鋏を駆使して髪を切り揃えていく。

 

「へぇ、結構手際いいのね」

「手先が器用だったからな。ただまぁ、美容師とは違うんだけどな」

 

 俺にできるのは精々切って整えるくらいだ。高い技術まで持っているわけではないので求めらたら困る。だが切り揃えるのに必要な手際だけは確保してあった。故郷の街ではレーヴェの牢獄生活よりちょっとマシくらいの生活レベルだったから髪切るのも大変だったしな。商人の知り合いがいたら鋏を借りていた。

 その後も雑談しながらレーヴェの髪を切り揃えていく。

 

「ま、こんなもんだろ」

「なかなか上手ね。確かにこんな髪型だった気がするわ」

 

 大分さっぱりした髪型になった。いや、この場合は元が酷かっただけか。

 

「じゃあ髪洗いに行くぞ。さっきは洗うだけだったが、トリートメントは大事らしいからな」

「今更な気もするけど、まぁそうね」

 

 切った髪は消滅させておく。大量の俺じゃない髪が見つかったら誰のだ!? ってなるだろうから、そこは仕方がない。というわけでビニールの布を着たままのレーヴェの髪だけを洗った。乾かせばそれなりに整った感じになる。

 

「まぁ、こんなところか。随分マシになったんじゃねぇの?」

「ええ、そうね。隈はちょっとずつ薄くなってるけどまだ消えてないし、ある程度化粧で誤魔化せば以前みたいに見えるでしょうね」

「そうだな。簡単な運動やらをここでしてもらって、外には出ず留守番してもらうことになるだろうが」

「わかってるわ。表立って街を歩ける立場じゃないもの」

 

 そういうところの理解があるのは助かるな。

 

「……ってことはここであんたと同居?」

「そうなるな」

「……まぁいいわ。もう、お嫁に行けないし」

「皇族なんだから婿貰う可能性の方が高いし問題ないな」

「そういう意味じゃないわよ、もう」

 

 なぜかレーヴェは膨れっ面である。

 

「じゃあ俺は風呂入ってくるから、眠かったら先寝てていいぞ」

「ええ」

 

 言ってから俺もシャワーを浴びて身体を綺麗にして戻ってくる、とレーヴェがベッドの上で横になってうとうとしていた。

 

「あ、やっと戻ってきた」

「先寝てていいって言わなかったか?」

「それはそうだけど」

 

 眠そうに目を擦る彼女に近づくと、少しだけ頬を染めてこちらを見上げてきた。

 

「……脱獄していつ襲われるとも限らないから、不安なの。一緒にいてくれる?」

「俺が暗殺者だったらどうするんだよ」

「大人しく殺されるわ」

 

 レーヴェは手を伸ばしてきてぎゅっと俺の服を掴んでくる。牢獄から出て気が緩んでいるのだろう。まぁ少しの間だけだろうしいいか。

 

「仕方ないな」

 

 俺は苦笑してベッドに入りレーヴェの隣に寝転んだ。

 

「……襲ったら許さない」

「大人しく殺されるんじゃなかったのか?」

「そういう意味じゃないわよ、もう」

 

 言った後もう限界だったのかレーヴェの瞼が落ちた。仕方ないので俺もこのまま眠ることにする。せめて安らかに熟睡できるといいんだけどな。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 二日後。

 カッツェとハーゼがガルゲニア皇国の首都に到着した。レラクルが合流して誰にも見つからないよう気をつけて俺が暮らす寮の部屋まで来てもらった。

 

「姉上!」

「お姉様」

「二人共、元気そうね」

 

 レラクルは分身の方だったらしく二人を送り届けてくれた後に消えてしまった。感動の対面、とばかりにひしっと抱き合う三人。

 

「姉上、よくご無事で」

「お姉様、聞いていたよりも随分とマシになっていますのね」

「ええ。ダナンが色々としてくれたの。おかげで人前に出られるような恰好にはなったわ」

 

 兄妹と会う、ということで少しおめかしした恰好ではあったが、この二日で随分と血色が良くなっていた。夜もぐっすり眠れるようになったし、俺が持ってきた飯もきちんと食べている。このままなら健康状態も快復するだろう。

 

「……そんなことが」

「悪いな、つい子供達が非道な人体実験でと思うと」

「いや、いい。つまらない遊びで無辜の民が犠牲になるよりは遥かにマシだ」

「そうか、そう言ってくれると助かる」

 

 ハーゼは多分心の中で「よく口が回るものね」と思っていることだろう。お前だけには言われたくない。

 今は三人に二日前の夜にあったことを話し終えたところだった。

 

「……あのクソ叔父、そんなことやらせてたのね」

 

 レーヴェがちょっと皇子がしてはいけなさそうな憤怒の表情になっている。

 

「で、向こうがそろそろ動くだろうからそれに応じて俺らも作戦を開始、国を引っ繰り返す。あんたらの叔父ももう姿を見せるはずだからな」

「わかった。作戦の段取りは――」

 

 カッツェが俺の立てた作戦の段取りを聞こうとしたところで、部屋の扉がばんと荒々しく蹴破られる。

 

「「「っ!?」」」

 

 三人がびくりと震えた視線の先には、兵士達がいる。……おっと、もう来たか。

 

「……抵抗はしなくていい。作戦開始だ」

 

 俺は想定通りの流れに笑って小声で三人に告げる。

 

「宮廷料理人ダナン!」

 

 俺は後ろを向いていたので背後から押し倒され、腕を後ろに捻られてがちゃりと手錠をかけられる。

 

「並びに元皇族三名!」

 

 三人もそれぞれ兵士が取り押さえた。

 

「放せこのっ!」「放してください!」「ハーゼ!」

 

 などと俺の言葉を汲み取ってか演技をしてくれている。……カッツェだけはガチか?

 

「国家反逆の罪で逮捕する!」

 

 兵士の宣言に、まぁだろうなと内心ほくそ笑んだ。ここまでは俺の予想通り。多分ここからも。

 

 じゃあ、そろそろガルゲニア皇国を引っ繰り返してやろうか。




追伸:最寄りの本屋に鬼滅の刃は一冊もなかった。

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