今回からの話はヤバいヤツ多めなのでご注意ください。
ガルゲニア皇国の一件が終結した後。
アウギュステに戻って俺はオーキスやアポロ達と離れ離れだった時間を埋めるのに数日を費やした。
その後、騎空士として依頼を受けないと資金が足りないということもあり手分けして行動していた。その中でシェロカルテ経由である村を襲った悪徳宗教団体の様子を見に行くという依頼を受けたのだが。
「ダナン様。依頼ならば私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
「我も共に行こう。偶には身体を動かさなければな」
街でばったり遭遇したエウロペとブローディアが同行することになった。
「私も一緒に行くわ」
とハーゼが単体で現れまた一人増える。カッツェはと尋ねれば、
「ダナンが言ってた“蒼穹”の騎空団ってのがあるでしょ? 楽器演奏できる人がいたから押しつけてきたわ。いつまでもお兄様と一緒だと肩が凝るもの」
ということらしい。
「依頼? じゃあ私も行こうかな」
「困っている人がいるなら積極的に動くべきでしょうね」
偶然にも遭遇したレオナとアリアもついてくることになった。
「暇だからついていってあげてもいいわよ」
ということでクモルクメルもついてくるらしい。
よって俺含め七人で行くことになった。……食費や旅費なんかを考えると確実に赤字なんだが、まぁいいか。なにかしらの理由をつけてシェロカルテに割り増し料金を貰おう。例えば悪徳宗教団体を退治したとか。
「今回は様子見だから大事にはならないと思うんだけどな」
「それ多分大事になりますよね」
アリアは俗に言うフラグというヤツがわかるらしい。
兎も角、おそらく過剰戦力だとは思うがこの七人で依頼のあった村へと向かった。
◇◆◇◆◇◆
アウギュステ列島内にある島の一つにその村があったので、その日の内に到着していたのだが。
「酷い……」
「こんなことが許されていいのか」
俺達が目にしたのは焼け跡を残す惨状となった村の姿だった。火を放たれたのか焼け焦げた家屋があり、かと思えば斜めに両断された家もある。あちこちからすすり泣く声が聞こえ、血の滲んだ包帯を巻きつけている痛々しい姿の怪我人が歩いている。
レオナとブローディアが悲しみと怒りそれぞれで言葉を発したが、他も息を呑んだり険しい表情をしたりしている。
「私は皆様を治療してきます」
「私も行ってくる」
エウロペとレオナが率先して怪我人の治療に当たる。
「我はこれ以上の襲撃を防ぐため、周囲の警戒に当たろう」
「私も警戒の方についておくわ」
ブローディアとクモルクメルが周囲の警戒に当たる。
「……悲惨ね。宗教を相手取るならどんな宗教観を持っているのかきちんと見定めないと、一生追われ続ける羽目になるわ。報復するにしてもね」
「そうですね。しかしこの様子だと皆殺しにはされていないようです。この村の方々の立場をわからせて、この後また別の行動を起こすかもしれません」
「ああ」
二人の考えに同意する。こんな状況でも冷静に頭を回せるヤツがいてくれると非常に助かるな。
「じゃあ俺達は村の人に話を聞くか」
ハーゼとアリアというこの中では適した人材が傍にいるので、詳しい状況を、村の人の偏見なしで見抜くこともできるだろう。早速怪我で意識がはっきりしていない人ではなく、大人でまとめ役そうな人を探して村を練り歩く。あまり大きな村ではないのでせっせと人を治療するレオナの姿が見えた。エウロペは魔法でさっと回復してしまうので必死さはあまり見えないが、「もう大丈夫ですよ」と可憐な美女ににっこりと言われてしまえばそれはもう元気になると思う。治療された男性が「……女神だ」とエウロペにやられていた。
……なんか嫌な予感がするなぁ。
エウロペから醸し出される神々しさにうっとりしている人達を見てそんなことを思っている内に、村の人達に指示を出している男性を見つけた。
「すみません、ちょっといいですか」
三十代ぐらいの男性に声をかける。
「あ、はい。なんでしょう?」
男性はこちらを向いてくれる。
「俺達はこの村が悪徳宗教団体に襲われたと聞いて来た騎空士なんだが」
「ああ、シェロカルテ様の遣いの方達でしたか」
俺が説明すると男性が顔を輝かせて言った。尊敬されてんな、あいつ。
「村の者を治療していただきありがとうございます」
「いえいえ。村の現状は……どうにもできないので申し訳ないのですが、その宗教団体について詳しい話を聞かせていただいても?」
「はい、もちろんです。シェロカルテ様があの狼藉者達を放っておくわけがないと思っていたんですよ」
人任せとも取れる発言だが、まぁ頼りにされていると考えれば?
「あの宗教団体は、いもしない神、その仔を教祖とする宗教です。ですが神の仔を祀り上げてその恩恵に縋り他の村を“小布施”という名目で襲撃する野蛮な集団ですよ。神の仔の意向に沿わぬ者は罰する、とかで村もこの有様に……」
嘘は言っていないな。後でハーゼとも確認しておこう。
「要は食糧とかを分けろとそいつらが言ってきて断ったらこうなった、と」
「ええ。簡単にまとめればそうなります」
なるほどなぁ。確かに傍迷惑な集団だ。
「この村に戦える者はいませんから、神の仔を名乗る教祖には抗えず、何人か殺されてしまいました」
男性の表情が明らかに沈む。
「ふぅん。その神の仔っていうのは強いんですか?」
「ええ、それはもう。歯向かった者を一太刀でばっさり。あそこの家屋を斬ったのも彼女です」
男性が怯えた様子で一つの家を指差す。斜めに斬られてズレるように崩れた家屋があった。……刃物の使い手で女なのか。
「一先ずの安全は保証しましょう。向かってくるようなら迎撃しますので」
「ありがとうございます! 村もこんな有様で、シェロカルテ様に感謝しなければ」
「尊敬しているのですね」
「ええ、それはもう! あ、そうだ。遣いの方々には大変申し訳ないのですが、こちらに来ていただけますか?」
男性の妙な迫力を怪訝に思いながらもついていくと、村の広場に石像の残骸らしきモノが転がっていた。
「ここに建てたシェロカルテ様の像を壊されてしまったのです。神の仔に従わずこんなモノを信仰するなど、と」
像って……。確かに残骸の中にシェロカルテがいつも連れているゴトルらしき形がある。粉々にされた残骸の破片の造形もシェロカルテを連想するモノになっているような気はした。というか今信仰って言ったか?
と思っていると壊されていない台座のところになんの像かというのが彫られていた。
『女神シェロカルテの像』
と書かれている。
「「「……」」」
俺、アリア、ハーゼは多分同じことを思ったに違いない。間違いなく嫌な予感が的中した形だ。もしエウロペがやりすぎた場合信仰が移ってしまうことも考えられる。
「き、奇跡だっ! 奇跡が起きたぞーっ!!」
その時、歓喜の声が響き渡る。……あ、もうやってたわ。
「蘇生は一日以内でないと不可能とされているのに三日前の死者を生き返らせるとは……! あなた様こそ正に女神! お名前をお聞きしても?」
「? ……私はエウロペと申します」
「エウロペ様! こうしてはいられない! 早速新たな女神エウロペ様の像を作らねば!!」
「???」
圧が凄い。エウロペはこてんと首を傾げて不思議そうにしているが。……確かに俺達が使うリヴァイブもそうだが、一日経過した以降に使っても蘇生ができないなどの制限が存在するのだ。基本的には蘇生できても一日が限度なので、エウロペは星晶獣であるからとはいえ常識を覆す蘇生魔法の使い手ではあるようだ。
「あなた様こそ天から遣わされた、正に天使です!」
「バカ野郎! 天使なんかと一緒にするんじゃねぇ! エウロペ様はシェロカルテ様と同じ女神様だぞ!」
村の人々が言い合う中、俺はエウロペの指がぴくりと動いたのを目にした。
「……天司
底冷えするような声が聞こえた。効果音をつけるならゴゴゴ……だろう。
「あなた方は天司を、ガブリエル様を愚弄すると言うのですか!」
エウロペは完全にキレてしまっているようだ。右手を掲げて頭上に星空を描く。あれは死ねるな、とあわあわする村人達を見て思っていたが。……エウロペってあいつの知り合いだったんだなぁ。今の様子を見ると知り合いっていうレベルじゃない気もするが。
「ま、待ってエウロペさん! それは死んじゃう、死んじゃうから!」
とりあえずエウロペを羽交い絞めするようにレオナが止めてくれたので村人は助かった。
「放してください! 天司様を愚弄するなどあってはならないことです!」
「多分エウロペさんの言ってる天司様とこの人達が言ってる天使は違うから!」
レオナの言う通り、意味合いが違う。とそこにブローディアが駆け寄ってくる。
「どうした!? エウロペが技を使っていたが、なにかあったのか?」
騒ぎを見て駆けつけてくれたらしい。
「ブローディア。この者達が天司様を愚弄するような発言を……!」
「……ほう?」
底冷えするような声第二弾。ブローディアはどこからか赤と白の巨剣を取り出すと村人の喉元に突きつけた。
「ひぃ!」
「貴様らは天司様を蔑ろにするというのか。いいだろう、その報いを受けるがいい!」
「ブローディアさんも待って! っていうかその三人見てないで止めて!?」
怯える村人に剣を振り被るブローディアを、すかさずレオナが羽交い絞めにした。加えて遠目に見ていた俺達に文句を言ってくる。アリアははっとして三人のいるところに駆け寄った。
「……あいつらをまとめる団長って大変だと思わないか?」
「……ダナンも苦労してるのね」
ハーゼに同情されながら四人のいるところに向かい、事態を収束させてやる。なんとか宥めたのだが、
「全く、人は天司様の尊さを知らなさすぎます」
「全くだ」
エウロペは腕組みをして頬を膨らませている。ブローディアも同意するところではあるのか頷いていた。
「女神エウロペ様! 生贄に村一番の美少年を捧げますので、どうか! どうか機嫌を直してくださいませ!」
村の男性が十にも満たない可愛らしい少年を連れてくる。……そういうことじゃねぇんだよなぁ。
「……あなた方はこのような幼い子供を差し出すのですか、恥を知りなさい!」
案の定エウロペ様はお怒りである。
「ひぃ! 何卒、何卒~!」
村の人達は怯えっ放しである。まぁ自業自得だな。
「大変よ!」
そこにクモルクメルが飛び込んできた。
「妙な連中が攻めてきてるわ! 私の糸を斬れるヤツがいるの」
どうやら想定外の事態のようだ。クモルクメルの糸は鋼鉄並みの強度を誇っているはずなのだが、それを斬るとなると相当な腕だな。村の家屋を斬ったっていう神の仔かもしれない。
「ヤツらです! どうか、どうか我らをお助けください!」
周囲にいた村人達は膝を突き額を突いて俺達、特にエウロペに頼み込む。当の彼女ははぁとため息を吐いていた。
「……まぁ、シェロカルテからの依頼は宗教団体の様子見だし、行くか」
仕方がない。あと放置しておいたらおいたでこいつら面倒なことになりそうだし。まぁ滅んだ方が世のためになる可能性があるかもしれないが。
ともあれクモルクメルの案内で集団が現れたという方向に向かった。
そこで待ち構えていたのは、純白のローブに身を包みフードを被って素顔を隠した一団だった。しかしその先頭に立つ女はシスターのような恰好をしている。
修道服と呼ばれるモノに似ているが、服装の雰囲気が同じだけで全く異なる。まず修道服はそんなに胸を強調しない。ボディラインに貼りつくようなデザインで抜群のプロポーションを見せつけることはしない。下は短くスリットが入っているものの黒いストッキングがあるため露出はなかった。豊満な胸を強調しているのは黒い紐が間を通っているからでもあったが、その紐は細長い白銀の十字架を背負うためのモノだろう。金色の長髪に金の瞳、白磁のように透き通った肌。
見た目の神々しさの度合いで言えばエウロペといい勝負だ。
「あなた方はどうやら私の行く手を阻むおつもりのようです。ではあなた方を“悪”として、神の仔である私が断罪しましょう」
彼女は俺達を見るや否やにっこりと微笑んで言うと、背の十字架を手に取り上を通して抜き放った。……それは背の太刀を抜く動作にそっくりで、事実十字架の長い縦棒が交差している箇所から抜けている。白く透き通った刀身が現れていた。
……ああこいつ、ヤバいヤツだ。
会って数秒で敵として認定する辺りにヤバさが滲み出ている。
そしてどうやら、残る光属性っぽい刀使いとの遭遇である。