ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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ヤバさ増し増し注意です。こんな話を思いついてしまって申し訳ない。

グロ注意? だと思います。


気持ち悪い

 シスターのような恰好をした神の仔を名乗る刀使いと白いローブの一団に遭遇した俺達。どうやらこいつらが村を襲った悪徳宗教団体という認識で間違っていないようだ。

 

「っと」

 

 問題はその神の仔が、いきなり十字架だった刀を抜いて俺に斬りかかってきたことだった。間一髪避けたのだが、その刃に触れた木が伐採されている。家屋やクモルクメルの糸などでわかっていたが、切れ味はいいらしい。

 

「避けてはいけません。断罪を受け入れるのです」

「ご免だな」

 

 神の仔はどうやら俺に狙いを定めたらしい。しかも他のヤツらも魔法で攻撃しようとしてきている。

 

「とりあえず大人しくさせましょうか」

「そうですね、実態の調査をするわけですから」

 

 アリアとレオナが言ってそれぞれ魔法を掻い潜って接近し白いローブのヤツらを打ち倒していく。ハーゼも光線で倒し、クモルクメルは糸で軽く首を絞めて気絶させていく。ブローディアは仲間達に被害が及びそうな魔法を赤いガラス片のようなモノ――刃鏡というらしい――を使って防いでいる。エウロペも水の弾などで攻撃していた。白いローブの連中はあっという間に全員倒された。やっぱり過剰戦力だったようだ。

 

「避けてはなりません、天罰が下りますよ」

「なに言ってかさっぱりだな」

 

 俺は避け様腹部に蹴りを食らわせる。

 

「くっ! 神の仔を足蹴にするとは……!」

「いや知らんし。大体お前ただの人だろ」

「いいえ、私は神の仔。私の行いを妨げることは許しません」

「そこまでだ!」

 

 神の仔は再び俺に突っ込んできたが、割って入ったブローディアが剣で受け止めた。

 

「あなたも邪魔をしますか……!」

「人の子よ、神の仔とはなんだ? なぜ斬りかかる必要がある!」

「私が神の仔としてこの世に生を授かったからです。斬りかかったのは、神の仔である私の行いを阻もうとしたからです」

「なにを言っている、神の仔とは一体なんだ?」

「神の仔は私だと言っているでしょう?」

 

 埒が明かなかった。神の仔とやらの言っていることが全く理解できなかった。

 

「神の名の下に正義を執行します。神の力に平伏しなさい」

 

 彼女はそう言うと白く輝くオーラを纏いブローディアを押し返す。そして俺に斬りかかってきた。どうやら彼女はまず俺を仕留めたいようだ。

 

「【レスラー】」

 

 俺は『ジョブ』を発動して素早く突撃してきた彼女の不意を突いて腹部に思いっきりドロップキックをかました。

 

「っは……!?」

 

 悶絶してぶつかった木をへし折りながら吹っ飛んでいく。

 

「……やりすぎでは?」

 

 アリアに指摘されるが、俺はそうは思わなかった。

 

「……あなたは神の仔である私を傷つけた」

 

 ゆらり、と吹っ飛んだあいつが立ち上がったのだ。

 

「万死に値するッ!」

 

 身に纏うオーラの輝きが一層強まり、彼女は猛然と駆けてきた。

 

「そうかよっ!」

 

 俺は突っ込んできた彼女にカウンター気味のラリアットをかます。彼女の身体は呆気なく吹っ飛んだ。

 

「神の、仔は、私の正義が絶対です!」

 

 傷つけば傷つくほどオーラが強く輝き、何度も俺に立ち向かってくる。その心意気は認めるが、

 

「俺に勝てないってことは、てめえが神の仔でも正義でもねぇってことだろ」

 

 トドメの拳を顔面に叩き込み、完全に意識を刈り取った。流石に気絶してくれたのか、ぱったりと倒れて動かなくなる。『ジョブ』を解除して一息吐くと、

 

「ダナンは鬼畜ね、女性の身体をああもボコボコにするなんて」

「思ってた以上にタフだっただけだろ」

 

 それなりには強かった。結局俺に攻撃が当たっていないので、精々ClassⅢ程度の強さではあるだろうが。

 

「話を聞く前に全員倒しちまったし、仕方ないから全員縛り上げて村に戻るか。目を覚ましたら本拠地? とかそういうのの情報を聞き出そう」

「話が通じる相手ではないと思いますが、それしかなさそうですね」

 

 問答無用で襲いかかってきたことを思い返してはアリアが嘆息している。

 

「それにしても神の仔ってなんなのかしらね。私のお母さんは山神とか呼ばれてたけど、そういう意味だと私も神の仔?」

「さぁなぁ。言葉の定義が曖昧と言うか、『私が“神の仔”なので正義です』ってのをそのままで信じてるような感じだったし」

「ええ。おそらく神の仔の言葉の意味を彼女は知らされてないのよ。ただそうやって教えられて育っただけね」

 

 クモルクメルの疑問に答えると、ハーゼが見解を示してくれる。確かに中身があるような様子じゃなかったしな。

 

「とりあえずこのエロシスターは亀甲縛りでいいわね?」

「……なんで皇子がそんなモン知ってんだ。手だけでいいだろ」

 

 ということで手首だけを縛り神の仔とその一団を村へ連れていった。

 

「おぉ、ありがとうございます! 流石はシェロカルテ様の遣いの方々!」

 

 まとめ役らしい男性が喜色満面の笑顔で近寄ってきた。村の人達も嬉しそうだ。

 

「これで特産品を作れます!」

 

 特産品? と首を傾げる羽目になったのでそのまま聞き返してみる。

 

「ええ、特産品です。かつて女神シェロカルテ様がおっしゃいました。『お礼なんていいですよ~。ただ食糧を分けただけですので~。もしそれではダメだと言うのでしたら、そうですね~。この村に特産品が出来た時は優先的に私と取引してくださいませんか~?』と」

 

 その口調はシェロカルテで間違いねぇなぁ、と思いながらも特産品とはなんだろうかという疑問が残る。シェロカルテの像は壊されてしまっていたが再現度が高い様子だったので工芸品かなにかだろうかと思った。

 

「ああ、そうだ。シェロカルテ様の遣いの方々にはお見せしないといけませんね。おい、アレを持ってきてくれ!」

 

 男性が呼びかけると、村人の一人がすぐに無事だった倉庫のような小屋から布の被さった容器を持ってくる。男性はそれを受け取ると俺達に見せるため覆っていた布を取り去った。

 

「「「っ……!!?」」」

 

 ソレを見た仲間達は何人か青褪めた顔で口元を覆う。容器に入っていたのは茶色い液体に漬かった()()だった。魔物のではなさそうだ。

 

「……これはなんの臓器だ?」

 

 比較的マシだった俺が尋ねる。アリアが「尋ねないでください嫌な予感がするので」と視線を向けてきたが、聞かなければならない。

 

()ですよ?」

 

 男性はなんの躊躇いもなくそう口にした。こちらはほぼ全員が気持ち悪そうにしている。

 

「あ、もちろん村の者のは使っていません。ただでさえ人手が足りないので、その方達がいた村の人から作ってるんです」

 

 にこやかに、縛られているローブの集団を指差す。

 

「最初は苦味が酷かったんですけど、ここ最近は工夫を凝らして()()()()なってきたんです。これなら特産品として出せるんじゃないかと思うんです。あ、そうだ。皆様もお一つどうですか? シェロカルテ様への捧げモノとして相応しいか確かめていただきたいんです」

 

 男性はどこか誇らしげに告げてくる。男性だけでなく、村の者達全員が同じような顔をしていた。

 

 ……気持ち悪ぃ。

 

 オーキスやアネンサを連れてこなくて心底良かったと思う。

 こいつらはあれだ、ロベリアやニーアと同じ類いの人種だ。しかも村全体でこうなっている。全く罪悪感を抱いておらず、それを食すことにすら違和感を抱いていない。本当に救いようがなく、理解しようもない。

 

「「「……」」」

 

 俺達は結局押し黙ってしまった。

 

「だから、そんな神を信仰するのはやめなさいとあれほど言ったのです」

 

 そこで神の仔を名乗っていた彼女が目を覚ましたらしく声を上げた。

 

「……タフだなお前」

「神は私にここで終わってはならないと告げているのです」

「じゃあその拘束解いてみたらどうだ?」

「……」

 

 拘束はクモルクメルの糸で行っている。神の仔は力尽くで千切ろうとしたようだが断念していた。

 

「まぁいい。つまりお前らはコレについて知ってたんだな?」

「はい」

「ってことはこいつらの所業を止めるために襲ったってのか?」

「? ()()()。信者を殺されましたので、その報復です」

「……」

 

 つまり、この所業についてはなにも思っていないってことか。だからもしこの村のヤツらが村人を特産品に変えていたら知っていても攻め入らなかったと。

 

「偽りの女神への捧げモノとして信者を殺しているのであれば、神の仔を信じる信者となればやめるということでしょう? ですので、報復と同時に信仰対象の変更を推奨しました」

 

 彼女はそうとしか思っていないような表情でそう告げてきた。……こいつと話をしようとしても無駄だな。

 

「おいこら起きろ」

 

 俺は白いローブの一人を揺さ振って起こす。

 

「……な、なんだ?」

「あいつを神の仔だと言い出したのはどいつだ?」

「……」

「答えろ」

 

 俺は平坦な声音で命令し、縛られている手から指を一本捻り上げる。

 

「いっ!?」

「答えろと言った。お前はまだ自分の立場がわかってないのか?」

「わ、私達に手を上げてみろ! 神の天罰が、ぎぅ!?」

 

 ぼぎり、と持っていた指をへし折った。

 

「そんなことはどうでもいいんだ。答えろ」

 

 俺は折った指を離して別の指を掴む。

 

「わ、わかった! 話す、話すから!」

「いいから話せ」

 

 その指も折ってから、また次の指を持つ。ひくっと白ローブの男の喉が鳴った。

 

「む、村の占い師だ! その子は神の仔だと、従わなければならないとそう言った!」

「占い師か。わかった」

 

 これでもうこいつらに用はないな。

 

「さて、やるか」

 

 俺は男から離れて呟く。その意味がわかったのは二人だった。

 

「手伝うわ。醜悪すぎて見るに堪えないもの」

「気は進みませんが、貴方がやりそうなことです。ただ、貴方だけが背負う必要はありません」

 

 ハーゼとアリアだ。別にアリアが言うように背負うつもりはなかったが、まぁ手伝ってくれるなら手間が省けて助かる。ハーゼはまぁ割りと外道に対する容赦のなさがあるからな。

 俺は腰の銃を抜いて白いローブの連中に狙いをつける。

 

「や、やめろ! 天罰が、天罰が下るぞ!」

「ここで俺に天罰下すような神なら俺が殺してやるよ」

 

 言って引き鉄にかけた指の力を強める。

 

「てめえらが好きな言葉で言や、今まで散々人を苦しめてきた天罰ってことだ」

 

 俺は躊躇なく引き鉄を引いた。ローブの男の額を撃ち抜き後ろにいた男の身体に突き刺さる。その後も続けて引き鉄を引いていき、やがて白ローブの連中は全員絶命した。

 

「始末までやっていただけるなんて、ありがとうございます! これで処理が楽になります! ――えっ?」

 

 嬉々として声をかけてきた男性にも銃口を向ける。

 

「……そこの神の仔は置いておいて、まだこいつらの方がマシだったな。自覚がある分ただの悪党で済んだ。けどあんたらはもっと酷い。本当に、救いようがねぇくらいにな」

「つ、遣い様……?」

 

 驚く男性の額を撃ち抜いて殺す。村から悲鳴が上がった。……不思議なモノだ。さっきまで悲鳴の一つも上げず、特産品の材料が増えたと喜んでいるだけだったのに。

 アリアが腰を抜かした男性を斬った。ハーゼが逃げる女性を光線で撃ち抜いた。

 

「……なんで、どうして……!?」

 

 ハーゼの前にエウロペに捧げられようとしていた少年がいた。涙ぐんで訴えかけている。彼女は少年も殺そうと手を翳したが、躊躇っているようだった。

 

「ぼくたち、なにも悪いことしてないのに……!」

 

 少年の訴えを聞いて手遅れだと理解したのだろう。ハーゼは光線を少年に撃とうとして、その前に俺が銃弾で撃ち抜いた。

 

「……俺は人殺しではあるが、お前に子供殺させるほど外道じゃねぇよ」

「……別に、良かったのに」

 

 目を逸らすハーゼの頭をぽんぽんと撫でてから他の村人の始末に移る。

 家に逃げ込んだ三人家族がいた。気配を察知して家のどこにいるかを把握し銃口を向けたが、俺が引き鉄を引く前に家が巨大な水の玉に潰されてそこにいた人達も死亡する。

 

「……エウロペ」

 

 俺はそれをやったヤツに目を向ける。

 

「……。人の営みを知ったばかりの私には、あなた様ほどの理解はありません。ですが、この方達はとても――醜い。おそらくもう、綺麗になることはないのでしょうね」

 

 彼女は悲しげに目を伏せている。ブローディアはまだ躊躇いがあるのか手は出していなかった。クモルクメルとレオナもそうだ。まぁ無理に手伝ってもらう必要はない。頼むつもりもなかった。

 

 やがて、村人全員の始末がつく。

 

「信者と村の人々の冥福を祈りましょう」

「……お前ただ神の仔を名乗る痛いヤツじゃなかったのか」

 

 手を縛られた恰好ではあったが瞑目して祈りを捧げていた。それだけ見れば立派なシスターである。

 

「死せば全て神の下へ還る。となれば神の仔である私が祈るのは当然のことでしょう?」

「ここには頭おかしいヤツしかいねぇんだな、とは思ってる」

「神の仔に対する侮辱は死罪に値します」

「その天罰をお前が下すっていうなら立場逆だろうよ」

 

 言って彼女の手首を掴む。

 

「ほら、案内しろ。占い師がいるお前達の村にな」

「私達に仇をなす愚か者を村に入れろと?」

「村に訪れることも許さないなんて、神ってのは随分と心が狭いんだなぁ」

「そのようなことはありません。神は寛大な心をお持ちです」

「じゃあ案内してくれるよな?」

「……ええ、いいでしょう」

 

 ここの村の住人と比べればこいつの方が扱いやすく思えてしまうから不思議だ。

 こいつの村に行って占い師を問い詰めるかと移動を始める前に、すっかり気が沈んでしまっている仲間達のことを考えなければと思い至る。

 

「……あー、なんだ」

 

 俺が先導したのでなにを言っても通じないとは思うが。

 

「人ってのは綺麗なモノばっかりじゃない。俺含めてな。無理してついてこなくていいぞ?」

 

 それは団のこと含め、である。俺はこういうケースに遭遇した場合、どうしようもない連中を生かす必要はないと思って始末する。“蒼穹”ならそんなことはないのだろうし、あいつらに言えば多分引き取ってくれるはずだ。

 

「……ううん。今回のは私に覚悟が足りなかっただけ。団を抜けるとかはしないよ」

 

 レオナはそう言って困ったように笑う。

 

「……やりすぎだと思うが、間違いなく連中は悪だった。そこを責める気はない」

 

 ブローディアは憮然として腕組みをしてはいるが、ある程度理解している様子だ。

 

「わ、私は人は優しいって信じたいけど、悪いことがなにかもわかってないみたいだったのはわかるから、いい」

「悩むなら別に無理しなくていいんだぞ?」

「……私は今までお母さんに守られてたから知らなかっただけで、ちゃんと知らないといけないことだと思う」

「そうか」

 

 クモルクメルは一番悩んでいるようだったが、ちゃんと向き合う気持ちはあるらしい。

 

「じゃあ行くか。元凶の村にな」

 

 できるだけ軽く言って、神の仔の案内で彼女の村に向かうのだった。


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