ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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オリキャラ加入編完結。

割りとさっくりとですが六人の刀使いの総称をつけます。


フェス開催からのレイやリーシャ、ヴァンピィ&ベスの追加が来ましたね!
……ま、出なかったんですけど。ココミミだけだったんですけど。


六人の刀使い

「次に生まれる子は、神の仔である」

 

 田舎の小さな村にいた占い師は、ある日そう予言した。……割りと適当に。

 占い師の予言の的中率はこれまで半分程度と高いのか低いのか微妙なところではあったが、その予言は正直なところ勘であった。

 

 占いの結果出たモノではなく、つい口から出任せを言ってしまった。

 

 その裏には最近占いが当たらなくなってきて、村の人達から信用を失っていたという事情がある。とはいえ本気で当てずっぽうだったために当たることはないだろうと思っていたのだが。

 

 生まれてきた赤子は両親と全く違う鮮やかな金髪を持ち、透き通った肌を持つようになった。目の色も両親とは異なり、金であった。

 あまりの美しさに生まれた瞬間から輝いて見えたというその少女は、村の人々から占い師の予言通り神の仔として崇められることになる。

 

 そのことに一番驚いたのは占い師である。

 

 生まれたその日に見て村人達が神の仔だと信じてやまないことから、占い師はあることを思いつく。

 

(……神の仔を利用しよう!)

 

 そして自分の地位を確固たるモノにし、莫大な富を築こう、と。

 

 それから占い師は村人達が神の仔をどう育てれば良いかと聞いてくるのに(かこつ)けて、自分の思うままに神の仔を育てさせた。

 

 曰く、神の仔の行いは絶対である。

 曰く、神の仔を阻んだ場合天罰が下る。

 

 などなど。

 加えて神の仔である彼女を自分に都合のいい、命令を従順に聞く子に育て上げた。両親からも取り上げ、自分の手で神の仔として仕込んでいった。

 尚、彼女の両親は「神の仔であるなら仕方がありません」と潔く引き渡したそうな。

 

 神の仔は育てば育つほどその美貌を進化させていき、絶世の美女に育っていく。

 神の仔は育てば育つほどその実力を進化させていき、強靭無比な戦士に育っていく。

 

 誰もが羨む美貌に頑丈な身体。鍛えれば鍛えるほど強くなる天性の才能。そして占い師にとって都合のいい従順な思考回路。自らを神の仔として疑わない異常性。

 

「この子さえいれば、儂はもっと名を上げられる!」

 

 占い師は神の仔へのお布施と称して金を集め、豪遊していた。彼女には最低限の食事と衣服などしか与えず、富は全て自分のモノとして活用していた。

 村人は進んでそうしてくれるし、金や食糧が足りなくなったら神の仔と神の仔を信奉する者達で構成された教団に攻め入ってもらえばいい。神の仔は強い。大抵の場合問題なく攻め滅ぼせるだろう。

 

 だから自分を省みることもなく。神の仔が出張るだけなので自分が襲われる心配もなく。なに一つ不自由なく暮らしていた。

 

 ――が、好き勝手やってきた報いを受ける時は近い。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「ひぃ!」

 

 村の家屋から怯えた悲鳴が上がる。いや、正確には家だったモノか。

 

「てめえが神の仔がどうとか言い出した占い師だな?」

 

 まぁ、俺が家を蹴りで吹っ飛ばしたんだが。

 中には頭を抱えて震えるとんがり帽子にローブという怪しげな恰好の老人がいた。

 

「だ、誰じゃ! 儂になんの用がある!」

「今言ったのが聞こえなかったかクソ爺」

 

 俺は近づいて胸倉を掴み上げる。やけに鼻が長く皺だらけの老人だ。腰が曲がっているせいで小さく見え、肉つきが悪いせいか軽かった。

 

「な、なにをする! おい、誰か助けんか! 儂は偉大な占い師じゃぞ!」

「もう、誰もいねぇよ」

「へ?」

 

 間抜けでぽかんとした顔をする老人を掴み上げたまま外に出して、人気のない村を示す。

 

「な、なんじゃと……」

「神の仔を語って多くの人を手にかけた報いだ」

「わ、儂はなにもしていない! 儂はただ神の仔の生誕を予言してだけで……!」

 

 俺は見苦しく言い訳する老人を地面に叩きつけた。うぎゃ、と情けなく倒れる。

 

「てめえが吐いた嘘だろうが」

「っ……!?」

 

 老人の顔がなぜそれを、と告げている。

 俺達は道中神の仔を連れてこの村に辿り着くまで、他の村にも立ち寄った。そこでも神の仔率いる集団の非道な行いを目にし、また頭おかしいヤツがいなくても問答無用で襲撃されていることを理解した。

 その中で神の仔を捕らえた俺達の前に、神の仔の誕生からおかしくなった村を逃げ出したという男性に会ったのだ。占い師が適当に予言し、偶々当たってしまった。それを占い師は私腹を肥やすために利用している、というモノだ。ハーゼとも相談し彼が嘘を吐いておらず、また正常な感性を持っていたことから話を信用することにしたのだ。

 

「神の仔を利用して豪遊とはまた、恨まれて当然だよなぁ?」

「ひぃ! ち、違う! 違うのじゃ! 儂はただ、村の者を見返せればそれで……」

「嘘を言うなよ、この家にある調度品だって、この村の水準からすれば高級すぎる品ばかりだ。神の仔が得たお布施とやらもてめえが懐に入れてたんだろ?」

「……そ、それは」

 

 老人は気まずそうに目を泳がせる。

 

「神の仔とは、なんでしょう? 正しいこととは一体、なんでしょう?」

 

 ふらふらと神の仔本人である彼女が老人に歩み寄っていく。

 

「お、おぉ! クラウス! 儂を助けておくれ! これまで育ててきた恩があるじゃろう! さぁ、クラウスよ! この者達を殺し、儂を!」

 

 老人は近づいてくる彼女に両腕を広げて迎え入れる構えだ。ただ、今の彼女は今までの彼女とは全く異なる精神状態だ。

 

「占いは信用できるのでしょうか? そもそも神はいるのでしょうか? 私はなぜ……?」

「く、クラウス……?」

 

 クラウスというらしい彼女は虚ろな目でぶつぶつと呟いている。

 実は道中、俺とハーゼがついつい暴言を吐き続けてしまったのだ。他の村に行けば村人から石を投げつけられ、基本的に肯定されることしかなかった彼女の精神がずたずたになってしまった。

 九割方ハーゼの罵詈雑言だと思う。他のヤツが引いてたぞ。……いや俺もそう変わらないか。

 

「救い? 殺人? お布施? 強奪? 供給? 略奪?」

「く、クラウス!? どうしたというのだ!」

「……なぜ、あなたは、生きて、いるの、でしょう?」

「え? ――かひゅっ」

 

 呆然と彼女が呟いたかと思うと、手に持っていた十字架モドキを振るって老人の首を切り落とした。

 

「なんだ、結局殺すのか」

 

 事前に彼女には話をつけていた。

 占い師が全てを仕組んだのであれば、占い師はその報いを受けるべきだ。というか俺は確実に始末する。

 だが、人生を狂わされたのはお前も同じだ。だから殺すか生かすか、まずはお前に選ばせてやる、と。

 

 結局殺す方を選んだようだが。

 

「はい。私や他の信者の方を操り、他の村の方々に非道を、間接的に行ってきた彼は死ぬべき存在だと考えます」

 

 クラウスの声には以前のような覇気がない。心をずたずたにしすぎてしまったようだ。

 

「そうか。で、これからどうする?」

「これから?」

 

 こてん、と彼女は首を傾げた。

 

「……神の仔としての役目――は元々なかった。守るべき信者も、育ての親ももういません。私は、なにをしたら良いのでしょう?」

 

 言われるがままに生きてきた彼女が壊れた後に残った、自然な問い。

 

「それはお前が決めることだ。人に決めてもらうばかりで生きられるわけがないだろうがよ」

「人に言われるがまま生きてないで、自分の心に従いなさいよ」

 

 俺とハーゼが冷たく告げる。クラウスは俯いてしまった。……とはいえすぐに答えなんて出せるわけがねぇし、見張る意味も含めて団入って旅する中で見つければいいさとでも言おうかな。

 と俺が思っていると、

 

「……わかりました」

 

 先にクラウスが顔を上げた。その瞳には先程よりも意思が宿っているように思える。だがそう簡単に思いつくことではないはずだ。

 

「私はあなたを神と崇めましょう」

 

 クラウスは真っ直ぐに、俺を見つめて言った。

 

「…………は?」

 

 理解が追いつかない。こいつがなにを言っているのかわからない、と言うかわかりたくもない。

 

「この世に神はいないのでしょう。しかし、あなたは神です」

 

 なに言ってんだこいつ。

 

「あなたは人を罰し、私の間違いを正しました。それは人ではなく神の所業です」

 

 言いながら、クラウスは十字架刀を手放すと胸の前で手を組み俺の前で膝を突いた。まるで祈りを捧げるような姿勢だ。

 

「私はこれからあなた様に従います、神よ」

 

 瞑目する彼女を、俺は蹴り飛ばした。

 

「……や、り直しだボケ!」

 

 どさ、と背中から地面に取れるクラウス。……思わず足蹴にしてしまった。しまった外道みたいな行為を、と思ったが上体を起こしたクラウスの顔を見て一切消え去った。

 

「嗚呼、これが神から与えられる痛みなのですね」

 

 と頬を染め恍惚とした表情でうっとりと頬に手を当てている。思わず顔が引き攣った。

 

「……ぷっ、くくっ……! い、いいんじゃない? ダナンが神、いいじゃない。……ふふっ」

 

 ハーゼは他人事だからか肩を震わせて笑っている。ぱしぱしと俺を叩いていた。

 

「おいこら他人事だからって面白がってるんじゃねぇぞ」

「真面目よ……ふふっ。どうせ見張る意味も兼ねて団に入れるつもりだったんでしょ? ならダナンの言う通りに行動するようになってくれるならいいじゃない。すぐにはクラウスが正常になることはないんだから……ぷっ」

「笑い堪えながら言うんじゃねぇよ」

 

 呆れつつも、確かにハーゼの言うことにも一理ある。だが正直言って関わりたくない度合いで言えばそう変わらない。無作為に人を殺さなくなることを考えればマシなような気もするが、俺が気を揉むことが前提になると考えれば嫌だ。

 

「神よ、どうか私にご慈悲を」

「俺は神じゃねぇっつってんだろうが」

「ではダナン様。卑しき迷い人に救いを」

「与えられるだけでいいと思ってんじゃねぇ」

「その通りですね、まずは徳を積まなければなりません」

 

 そういう意味じゃねぇんだが。いや待てよ? これを利用してこいつを再教育すれば真人間に近くできるんじゃないか?

 

「……わかった。じゃあまずは道徳を学べ」

「わかりました。道徳を学びます。それはどこで学べるのでしょうか?」

「あー……図書館とかで道徳の本を読めばいいと思うし、今度連れていってやろうな」

 

 こいつを放っておいてまた誰かに利用されでもしたら問題だ。それにこいつはなまじ見た目がいいのでフラウの過去のような事態にもなりかねない。「俺が神だ。だから俺に奉仕するのは当然なんだ。わかるよな?」などと宣う外道が現れる可能性だってある。

 

「嗚呼、神よ。なんとお優しい」

「蹴り倒すぞ」

「はい、どうぞ。神に与えられるモノであれば全てを受け入れます」

 

 彼女は両腕を広げて受け入れる構えだ。ぷふっ、とハーゼが吹き出していた。

 

「だから他人事だからって笑うんじゃねぇよ」

「あら。男ってああいう従順な子が好きなんでしょ? ならいいじゃない」

「いや、俺はどっちかというとお前みたいに気が合うヤツの方が好きなんだが」

 

 ドランクもそういう友人だし。

 

「えっ!」

 

 ハーゼは頬に朱を差したが、次の一瞬でジト目に変わった。

 

「……あの胡散臭いドランクさんと同じ扱いを受けた気がするわ」

「よくわかったなお前心が読めるのか」

「女の勘よ。はぁ……」

 

 なんか思い切りため息を吐かれてしまった。冗談はさておき、当面クラウスは道徳やら常識やらを学ばせることにする。アウギュステの図書館に放り込んでやった。

 

 因みに女神シェロカルテ様に今回のことを報告すると、

 

「……私の不用意な発言で殺人に繋がってしまうとは、言葉は難しいですね~。皆さんにご迷惑をおかけし、不快な思いをさせてしまいました~」

 

 と神妙な様子で俺達に深々と謝罪してくれた。基本的に善人ばかりなので謝罪を受け入れ、シェロカルテに悪気はなかったのだからと許していた。

 

「じゃあ割り増し料金で頼む」

「謝るって言うなら形のある誠意が必要よね?」

 

 ただし、俺とハーゼを除いては。なんていうか性分が似てるんだろうな、俺達は。

 ともあれ、クラウスは俺が教育することになった。いや、基本的に図書館通わせてるだけなんだが。

 

 俺の精神にダメージを与えてくること間違いなしではあったが、とりあえずこれで六人の刀使いが揃ったわけだ。丁度光っぽいし。……こんなことになるんだったら仲間集めなんて始めなきゃ良かったかもしれない。

 いや、気を取り直して名前を考えよう。

 

 六人の刀使いの総称だ。十天衆とか七曜の騎士とかそういう感じで六という数字を使う。とはいえそいつらみたいに滅茶苦茶強いヤツばかりではないから、大仰な名前はいらない。刀使いっぽい感じがあれば良し。

 

「よし、“六刃羅(ろくはら)”にしよう」

 

 思いついたままに口にする。

 

「いきなりなにを言ってるんですか~?」

 

 思わず声に出したことで周囲が驚いてしまう。

 

「ああいや、当初目的にしてた六人の刀使いが集まったから、呼び名をつけようかと思って」

「それは私を含めてのことですね? ありがとうございます、ダナン様に呼び名をつけていただけるなんて光栄の至り」

 

 街中で拝み始めやがった。

 

「こら、拝むの禁止だ」

 

 チョップという名のツッコミをくれてやる。

 

「ありがとうございます、ダナン様」

 

 ……そうだった、と思った時にはもう遅い。更に喜んだ顔をしてしまっている。

 

「個性豊かですね~。あ、私は仕事がありますので~。今回のことはご迷惑をおかけしました~」

 

 シェロカルテは忙しいのかぺこりと頭を下げて去っていく。

 

「……もう色々あって疲れたわ。しばらく騎空艇の部屋で休む」

 

 クモルクメルは外の世界のあれこれに疲れてしまったらしく、とぼとぼと歩いていった。

 

「人には色々な者がいるのだな。善もあれば悪もある、奥が深い」

「はい。できれば今回のような美しくない方が、少数であればと願っています」

 

 ブローディアとエウロペもどこかへ行ってしまう。一応ベスティエ島を襲ったのは汚い人間だったが、根本から醜悪なヤツは初めて見たのだろう。休息は心の整理のために必要だ。

 

「ホント、色々あって疲れたよね。ダナン君もお疲れ様。今度はもうちょっと普通の依頼の時に協力するね」

 

 レオナは俺を労って、しかし疲れたのか立ち去った。

 

「私もこれで。団長としての責務、頑張ってくださいね」

 

 アリアが珍しく俺を労って去っていく。どんな心変わりだろうか。

 

「私もお兄様に謝っておかないと。じゃあまた」

 

 ハーゼもさっさとどこかへ行ってしまう。残されたのは俺と――

 

「ではダナン様、図書館に行きましょう。道徳を学び、ダナン様から色々なモノを与えていただけるように」

 

 クラウスだけだった。……あいつらまさかこいつを俺に押しつけるために逃げたんじゃないだろうな。いや、多分アリアとハーゼだけだ。あの二人は絶対そうだ。

 

「与えてくださるモノは苦痛でも快楽でも、ダナン様に与えられるモノは全て喜んで受け入れます。のでどうか、ご慈悲を」

 

 クラウスはうっとりと微笑んでそんなことを言ってくる。殴り飛ばしたいが、喜ばせるだけなのでそれもできない。

 

 ……俺はまた、厄介なヤツを拾ってしまったらしい。




というわけで次はクラウスのキャラ紹介。

“六刃羅”は日本史からです。別に共通点とかはありません。響きで決めました。

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