ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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あの人が出てきます。

ストックがあと一話分しかないので明日書き上がらなければ明後日から更新が途絶えるやもしれぬ……。
その時は「まぁ半年持ったんならいい方じゃね?」と思ってやってください。


またまた宗教

「依頼ですか~? ではレナトゥス教の――」

「宗教はもう懲り懲りだ。なぁ、女神シェロカルテ様よぉ」

「……その呼び方はやめてください~」

 

 依頼がないかとシェロカルテに尋ねたら「~~教」という言葉が聞こえてきて、思わず嫌気を顔に出してしまう。そんな軽口を叩いていたが、

 

「レナトゥス教はこの間ダナンさんが遭遇した悪徳宗教とは違うんですよ~。教祖様もお優しい方ですし~。ただちょっとお金に困っているところがあって、よく買い取りとかを依頼してくるんですけどね~」

「ふぅん」

 

 レナトゥス教とかいう宗教の話らしい。俺が知っているのは世界的宗教のゼエン教ぐらいか。あと神の仔教。あれはもう滅んだ、というか滅ぼしたけど。

 

「こほん。で、今ある依頼としてはそのレナトゥス教に痛んだお野菜なんかを安く売りに行く、というモノがありますよ~。私も一緒に行きますので、護衛も兼ねてますけどね~」

「そんなん他の騎空士に頼めよ。もうちょっとこう、危なげがなくて宗教と関わらずに済んで儲かるヤツがいい」

「贅沢なこと言わないでくださいよ~」

「はぁ……それ以外ないって言うんならまた今度にするわ」

 

 俺はそう言って踵を返そうとしたのだが。

 

「あ、因みにレナトゥス教の司祭様は赤いケープに紺色のローブを着込んでいますよ~」

「……」

 

 続く言葉に足を止めた。

 

「……お前、先にそれを言えよ」

 

 わかっててやってるだろ、とジト目を向けるが彼女の笑顔には一分の隙もない。

 

「……はぁ。仕方ねぇな。受ければいいんだろ、受ければ」

「毎度ありがとうございます~」

 

 嘆息して言うと、にこにこ笑顔でシェロカルテがお辞儀した。よく言うぜ、と思いながら賢者と戦えるだけの戦力を集めないといけないなと考え始める。とはいえ先日のクラウスと出会った一件で宗教にあまりいい思いをしていない者が多そうだ。

 つまりあの辺のヤツらは誘えない。できてもアリアくらいだろう。“六刃羅”の誰か、もあんまり頼りにならない。星晶獣の四体は、誘うならシヴァか。七曜の騎士はアリア除く三人を誘うと過剰戦力すぎて相手が可哀想なので、誘ってももう一人か。他の初期メンツはいい人が多いので万が一のためにも誘いにくい。賢者は……好き勝手やりすぎててなぁ。最近は気が合うというのもあるがハーゼが癒しになりつつある。あいつもあいつで性格は悪いんだけどな。

 とはいえあまり誰かに頼りすぎるのは良くない。ここは少数精鋭で行こう。

 

 と、いうことで。

 

「うぇーい、である」

「珍しいな、私を誘うとは」

「……このメンバーでなぜ私が?」

「暇なのでついてきたのじゃ」

「皆様すみません」

 

 シヴァ、アポロ、アリアの三人を呼んでみた。ある程度割り切ることができつつ信頼が置けて強いという考えられる限り最高の戦力だ。……まぁちょっとフォリアとハクタクがアリアについてきてしまったのだが。

 

「……ほとんど護衛の依頼に七曜の騎士が二人とはまた、随分豪華ですね~」

 

 集まった俺達にシェロカルテが苦笑したのも無理はない。

 因みに他の二人については。バラゴナはファータ・グランデを観光したり白風の境に行ってハルヴァーダに会ったりしているらしい。リューゲルは子供の土産を確保したりらぁめん師匠が広めていることで普及し始めたらぁめん巡りの旅をしたりしているようだ。

 

 自由気ままか。

 

「教祖と戦うことになることも考えての布陣だよ。まぁシヴァは前回いてくれれば助かったってのが理由だが」

 

 あの村を丸ごと焼き払ってもらえただろうな、と思っている。

 

「まぁちゃんと依頼をこなしてくれるなら文句は言いませんよ~。ただいくら七曜の騎士とは言っても報酬が弾むわけではありませんからね~?」

「わかってるよ、団員一人分換算でいい。あ、ハクタクも一人分だからな」

「わかってますよ~」

 

 過剰戦力を連れてきて「こいつら超強いから報酬も弾めよ」は押しつけがましい。嫌がらせとも言える。だがハクタクも立派な団員なのでそこは譲れない。

 

「では行きましょうか~」

 

 ある程度話もまとまったのでシェロカルテが先導しようとしたところ、

 

「私もご一緒させていただきます」

 

 とどこからかクラウスが姿を現した。

 

「お前は呼んでないぞ」

「直接お呼びにならなくても声は聞こえます」

 

 それはただの幻聴だ。

 

「なにがなんでもついていきますよ。移動時も騎空挺にしがみつきますから」

「……はぁ」

 

 こいつは言ったら実行する。間違いなくだ。

 

「わかった。俺の指示には従えよ」

「はい、ダナン様の啓示に従うのは当たり前のことです」

 

 啓示じゃなくて指示な。ともあれ、俺達は島を移動した。

 

「ところで、私はなぜ呼ばれたのですか? 前回もご一緒したでしょう」

 

 移動中の騎空艇内でアリアが尋ねてくる。

 

「常識的で且つ、ある程度割り切れることが前回わかったから」

「なるほど」

「アポロはその辺もあるけど、二人が仲悪かったのは聞いたし互いに謝ってはいたけどそれからあんまり話してないっぽかったから、この機会にと思って」

 

 例外として酒の席でのあれこれはあったけど。アリアが普段通りではなかったのでノーカウントだろう。

 

「前々から思っておったが、ちゃんと団長してるんじゃな」

「団長になるって決めてからはな。昔は俺も団長なんて真っ平ご免だと思ってたんだがなぁ」

「そんな時もあったな。……随分と昔のことのように思える」

 

 思わずという風に零れたフォリアの感想に応えると、アポロが懐かしむように言った。

 

「付き合いの長さ故の通じ合っている感じじゃな。どうじゃ、アリア。羨ましいとかないかの?」

「ありませんよ、全く。姉さんはなぜそうもダナンとくっつけたがるんですか」

「くっつけたがるもなにも、アリアの中では一番脈アリじゃからの」

「勝手なこと言わないでください」

 

 からかっているのかそんなことを言い出すフォリアに、アリアは深く嘆息していた。

 

「真面目な話、妾は見た目が幼い故に恋が難しい。見た目は子供でも中身は大人じゃからな。吊り合う者が少なくなるのじゃ。その点アリアは普通に大人じゃ。そろそろ結婚も考えて欲しいと、姉として思うのじゃ」

「姉さん……」

 

 せめて妹には人並みの幸せを、ってか。それが俺相手だと多分思う通りにいかないと思うんだが。

 

「だからと言ってこの人だけは遠慮します」

「まぁ、そうだろうな」

 

 しかし冷たく言い放ったアリアに、他ならぬ俺が同意した。

 

「むぅ……。あ、そうじゃ! 妾がダナンといい感じになれば良いのじゃな」

「……なんでそんな結論に至るのですか」

 

 ぽんと掌を叩くフォリアに、アリアが額を押さえて呆れている。

 

「簡単に言うと姉妹丼というヤツじゃ。アリアも妾がおれば入りやすいかもしれんしの」

「嫌ですよ、姉さんと一緒とか」

「ふっふっふ。見ておれ、妾のセクシーポーズでダナンを悩殺してくれるわ!」

 

 フォリアはアリアの話を聞かず身体をくねらせて胸元を引っ張り鎖骨辺りまでを晒す。

 

「ほぉれ、どうじゃ? せくしぃじゃろ?」

 

 流石に恥ずかしさはあるのかほんのりと頬が桜色に染まっている。……ふむ。

 

「子供が無理して大人ぶっているようにしか見えないな」

 

 見た目のせいで。

 

「なん、じゃと……?」

 

 フォリアががっくりと膝を突いて項垂れてしまった。

 

「姉さん。ああいう真似ははしたないのでやめてください」

「うぅ……妾の悩殺ボディが通用しないとは」

「我が王よ、残念ながらそれを裏づける言葉を私は持っておりません」

「ハクタクまで!?」

 

 頼りにしている相棒にまで見捨てられ、フォリアはしくしくと嘘泣きを始めてしまった。流石に嘘泣きだとわかるモノだ。

 

「……のじゃ、であるか。そういう言葉遣いも……」

「シヴァ」

 

 なんか危ないことを言っていたシヴァにすかさず言葉を放る。

 

「口調ってのは個性にも繋がってくる。真似してばかりじゃ、元のお前の個性が潰れちまう。そして口調が被ることで被ったヤツの個性を殺してしまうんだ」

「人の子の個性を殺してしまう、か。ではのじゃはつけないでおこう」

 

 そう、それでいい。できれば挨拶にウェーイを使うのもやめて欲しい。

 

「随分と賑やかなことだな」

 

 アポロが苦笑して言ってきた。彼女は自然と俺の隣に並ぶような位置に立っている。

 

「混ざってもいいんだぞ? 団員として、アリアとも仲良くしてもらいたいところだしな」

「確かに(わだかま)りは解けたことだし、私としては思うところはあまりなくなった。あとは向こうがどう思っているかの問題だとは思うが」

「同年代で同じ七曜の騎士っていうライバルにいいヤツだし、仲良くなれると思うんだけどな」

「そうかもしれんな。だが考えてもみろ。お前の周りに私の同年代は多い方だぞ?」

 

 確かに。けどそれとこれとは別だ。

 

「あいつは父が真王だからお前と同じで父親のことで色々抱えてるし、お前もアリアも努力で七曜の騎士の座を勝ち取った身だ」

「……」

「あとあれ、腹心の二人が性別と種族一緒なんだよ」

「そうなのか?」

「そうですよ」

 

 アポロと話しているとアリア本人が入ってきた。

 

「貴女のところはあの傭兵……ドランクとスツルムでしたか」

「ああ、そうだ。私がエルステ帝国で最高顧問をやっていた頃からの付き合いだな」

「それはまた長いですね。私のところにはアニシダとハイラックという部下がいました。アニシダが女性でドラフ、ハイラックが男性でエルーンですね」

「ん、本当に性別と種族が同じなんだな」

「ええ。……あの時はただ真王に従わない者として見ていましたが、まさかこうして貴女と旅をする日が来るとは思ってもみませんでしたよ」

「私の方もな。お前と次会う時は真王を倒す時だと思っていた」

「ふふ、不思議なモノですね」

「全くだ」

 

 色々と憑き物が取れた後だからか、二人は自然と談笑していた。それを微笑ましく見守っていると、ちょいちょいと服の裾を引っ張られる。向けばフォリアがいた。屈むように合図されたので屈むと彼女は俺の耳元に顔を寄せる。

 

「……アリアと仲良くしてくれてありがとうなのじゃ。あの子は対等と言える関係が今まであまりいなかった。じゃがこの騎空団にはアリアと肩を並べられる者も多い。そしてその団員達をまとめるお主にも感謝しておる」

「俺よりレオナが一番仲良くしてると思うけどな」

「それでも、お主のおかげであることには変わりない。レオナもぽつりと『ちゃんと叱ってくれて良かった』って言っておったしの。世間は“蒼穹”にばかり注目しておるが、“黒闇”も負けず劣らずの騎空団じゃと思うぞ」

「そうかい。お前もその一員なんだからな?」

「わかっておる。協力は惜しまないのじゃ」

 

 普段からこうしていればアリアに怒られることもないと思うんだがな、とは思うが。多分二人も打ち解けたばかりで距離感を測っている最中なのかもしれない。まぁ団員は基本的に仲良くしてもらう方が俺に都合がいいので、それとなくフォローはしてやろうと思う。

 

「皆さ~ん。そろそろ着きますので、忘れ物がないように準備してくださいね~」

 

 仲間達と談笑していると、シェロカルテから声をかけられた。どうやら目的の島に着いたようだ。……ポケットのカードも熱く反応している。クラウスは大人しくしてろと指示を出したら本当に一切喋らなかった。従順すぎるというのも考えモノである。

 因みに、騎空挺を襲ってきた魔物共は話しながら蹴散らした。生憎とそれができる面子だったのだ。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 そこまで規模が大きい街ではなかったが、田舎の村というほど寂れてもなかった。

 治安はそこそこいい、んだろうか。柄の悪そうな男達はいるが老人の荷物を持つなど親切にしている場面も見かけた。

 

「司祭様はこの先の教会にいらっしゃいます~」

 

 シェロカルテの先導で教会へと向かう。彼女に案内されなくても、俺の場合カードの反応を追っていけば辿り着くことができるのだが、まぁそこはいいだろう。彼女を先頭に俺達が歩き、その後ろに商品を載せた荷馬車を押す店員達がついていく。荷運びの手伝いは申し出たが、そこまでやらせると護衛より報酬を払わなくてはならなくなるので構わないとのことだった。シェロカルテ曰く、頼りすぎると他の騎空士と仕事をした時に困惑してしまうから、だそうな。

 コンコン、とシェロカルテは教会の扉をノックしてから開く。

 

「おう、シェロカルテさんか。毎度毎度悪いな」

 

 扉を開けた先には、赤いケープに紺色のローブという賢者お揃いの恰好をしたエルーンの爺さんが立っていた。しわがれた声で長い白髪を揺らし、シェロカルテを歓迎するように笑みを浮かべる。

 

「いえいえ~。こちらも売れ残った商品を買い取ってもらうという利点がありますからね~」

 

 彼女は商人の笑みを浮かべて返した。

 

「で、そっちのは……」

 

 爺さんが見覚えのない俺達を見渡す。シヴァ、ハクタクという星晶獣二体の正体に感づいたのか表情を険しくして、最後に俺を見て狂喜の笑みを浮かべた。

 

「おぉ! あんたが創造神の遣いか!」

 

 

 創造神の遣い? なんのことだ?

 爺さんが俺を見て言っていたから仲間達から説明を求めるような目を向けられてしまうが、俺もよくわかっておらず首を傾げる。

 

「隠さなくていい。全て太陽神から聞いている。太陽神を創りし創造神が存在し、ワシと同じように契約者となっている、とな」

「あー……?」

 

 要はアーカルムシリーズの星晶獣を太陽神として崇めていて、そのアーカルムシリーズを創ったワールドが創造神というわけか。

 

「創造神の遣いが来たってことは、新しい世界に旅立つ準備ができたってことだろ? なら始めようじゃねぇか、ワシが思い描く楽園の創造を!」

 

 なにかに酔ったように、爺さんが大仰に腕を広げる。……どういう経緯でこういう考えになったかはわからないが、シェロカルテも戸惑っていることから普段はこうじゃないんだろう。

 

「なに言ってんだ、爺さん」

「なにっ……?」

「俺はあんたからカードを貰いに来ただけだ。なにより道半ばでな、楽園の創造なんて真似はできねぇよ」

 

 小規模なら可能な気もするが、そこはいい。

 

「なにを言う。太陽神は以前よりワシにそう告げて……」

 

 そこで爺さんははっとしたような顔をする。

 

「貴様、謀ったな!?」

「あ?」

「創造神の遣いのフリをするとはな。ワシを利用しようという腹づもりなんだろうが、そうはいかねぇ。――太陽神よ! その威光を示してくれ!」

「人の話を聞かない爺さんだな」

 

 俺はため息を吐きながら、虚空より出でた星晶獣を見上げる。

 そいつが姿を現した直後から周囲の気温が上昇し、すぐに汗ばんでしまう。見た目は可憐な少女のようだったが、その実そいつからはそれこそ太陽のような熱気が発せられていた。

 

「嗚呼、太陽神よ。あの不届き者に天罰を!」

 

 俺達は武器を構えて出現した星晶獣と対峙する。

 こうしてなし崩し的に戦闘が始まったのであった。


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