ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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独自解釈ならぬオリジナル設定が入ります。
勝手な想像で補足しているのでご了承ください。


皇帝の姉妹

 俺とテレサは仲間達、特に俺の周りにいてくれる女達に依頼を受けたから少し離れると伝えたのだが。

 

「……怪しい」

 

 オーキスがじっとフードを被ったテレサを見据えていた。

 

「なにも怪しくないわ。あなたが懸念してるようなことはないから」

 

 テレサはなんの動揺もなく冷静に答える。

 

「……むぅ」

 

 しかしオーキスはじーっとフードの奥の思惑を見透かそうとでもしているのか、テレサを見つめていた。

 

「正妻のあなたが不安がるようなことはないわ」

「……っ」

 

 テレサは自然を装って告げる。するとオーキスの目の色が変わった。ちょいちょい、と俺の袖を引っ張ってくる。

 

「……この人、いい人」

 

 認めるの早ぇな。……そういやオーキスを正妻と言った人はいなかったか。テレサはその辺りの事情もある程度知っているからこそそう言ったんだろうが。

 

「兎も角、私の用事に少し彼を借りるだけよ。正当な取引だから、心配することはなにもないわ」

「……ん。仕方ない。でも接触は最低限に。手を繋ぐのも抱き合うのもダメ」

「ええ、わかっているわ。親しい男女でもなければそうはしないもの」

 

 テレサは微笑んでオーキスに告げる。……いやまぁ、抱き合ってはいないよな? うん。

 

 テレサの手腕によってなんとかオーキスを説得して、他の面々はある程度賢者の関係だとわかっているのかあまり口出ししてこなかった。

 というわけで、俺はテレサと一緒にロマ帝国へと向かうのだった。

 

「決行は夜ね」

「ああ」

 

 ロマ帝国内に潜入して宿を取っていた。どうせ泊まりはしないのとテレサが気にしないと言ったのとがあり、二人部屋にしている。一人部屋を二つよりは安くて選択肢が多いというのもあるか。

 ただお互いフートを目深に被って顔を隠すようにしていたからか恋人同士には見られなかったようだ。それとも種族が違うとはっきりわかるからそう思わなかっただけなのか。

 

「それで、どうやって潜入するつもり? 私としては色々と伝手を当たって紛れるのを想定していたけれど。あなたはこっそり潜入するんでしょう? 言っておくけれど、私はあなたと違って隠密に優れていることはないわよ」

 

 それはわかっている。今回も顔隠すだけでいいのか? と懸念したほどだ。なにせ前皇帝その人だからな。月日が流れているとはいえ現皇帝の顔とそっくりではあるのだろう。姉妹だそうだし。

 

「わかってる。だからワールドの能力で不可視、防音防臭やなんかの効果を持つ壁を創って歩いていく。壁や鍵なんかも俺の前じゃ意味がないし、扉が消滅するところを誰かに見られなければ大丈夫だろ」

「……便利すぎて怖いわ」

「それが新世界の神になろうって星晶獣の能力だからな」

「あなたに使いこなせるのかしらね」

「さぁな。だが手放す気はねぇよ」

 

 便利だから、という意味ではなく。この能力がなければ俺はあの二人に置いていかれてしまうだろうから。

 ライバルを名乗っている手前、そこだけは譲れない。

 

「……まぁいいわ。もしあなたが道を違えることになったら、私は離反するから」

「いいんじゃないか、好きにしたら。それもお前の“正義”を貫くってことなんだろ」

 

 笑いかけるとテレサは少し驚いたように目を丸くしてから、ふっと微笑んだ。

 

「そうね」

 

 しかしその後で少し真剣な表情をする。

 

「……それがわかるなら賢者のまとめ役もやらないということで」

「それはダメ。絶対お前にやらせる」

「気が重いわ」

「清濁併せ呑んでこその皇帝だろ?」

「濁の方が強すぎるのよ」

 

 同感だ。だが撤回はしない。というか彼女以外にあいつらをまとめられるヤツなんていないと思う。……いや、もしかしたら彼女でも無理かもしれないな。

 

「そうだ、折角だし過去のことを聞いてもいいか?」

「過去のこと? ……あまり聞いていて気持ちのいい話じゃないわよ?」

 

 雑談している間に思い立って尋ねると、テレサは少し悲しげな表情で薄く笑った。

 

「大丈夫だ、他の賢者も似たようなモノだろうからな。皇帝の座を奪われたっていうしガルゲニア皇国の兄妹の話は――」

 

 俺は例としてカッツェとハーゼの境遇について語る。

 

「……皇室は策謀蠢くモノよね、どこの国でも」

 

 話を聞いたテレサは嘆息してそう零した。

 

「というわけだ。勝る劣るって話じゃないが、他もまぁそれなりの修羅場経験してるからな。問題ない」

「そうね、それなら私の話も重すぎるということはないわね」

 

 そうして、テレサはこれまでの経緯(いきさつ)を語った。

 前々皇帝の父が崩御した後、テレサが皇帝となってロマ帝国を治めていた。

 しかしロマ帝国は男系相続の国であり、跡継ぎが他にいない関係でテレサが初の女帝として就くことになる。

 若くして皇帝になったが才覚はあったため国を動かすのに支障はなかったのだが、周囲には婿を迎えたらなどと言ってくる輩が多かった。やはり初めての女帝では不安が多かったのだろう。

 だがテレサは自由恋愛を謳っており政略結婚に興味がなかった。そんな中城から抜け出したところで出会った男性に惹かれていく。

 しかしある時テレサは裏切り者によって投獄された。だが皇帝マリア・テレサはそのまま君臨していた。生き別れた妹をマリア・テレサと偽って挿げ替えたのだ。妹はマリア・テレサとして婚約者と結婚した。その婚約者とは、テレサが惹かれていた男性その人だった。

 

 テレサはこうして自分の名前も地位も想い人も奪われてしまったのだ。

 

 その時一緒に投獄されていた侍女のシャーロットが自決し、ジャスティスの契約者だった彼女が死ぬことで新たな契約者を探すジャスティスとテレサが契約。皇帝の座を奪い返すと決意した。

 その後偶然亡くなったと聞いていた母と再会し、妹と二人で平和に暮らしていたのをお前が邪魔したと罵倒される。権力争いになることを懸念して妹は存在を隠されて暮らしており、その妹と共に暮らすために母は死を偽った。しかしマリア・テレサの代わりにするために妹は母から引き離されてしまったのだ。

 

「だからこそ私は妹の本心を聞きたい。あの子――マリアンナが果たして皇帝を続けたいと思っているのか、母と暮らしたいと思っているのか。それがわかればあの子が素直に退いて私が再び成り代わるだけで済む可能性もある」

「皇帝を続けたいと言ったら?」

「残念だけど奪うわ。私は皇帝としてロマ帝国を治めるために生まれたのだから」

 

 ふむ。だがまぁ今回の依頼は妹と話をするところまでだ。そこまでは手助けしない。頼まれてもする気はない。なにせ賢者のまとめ役に任命するんだからな。

 

「了解。とりあえず夜潜入しようか。それまでは休んでいよう」

「そうね、バレないか気を張っていたから少し疲れたわ」

 

 というわけで、本番の夜を迎えるまで互いにそれぞれのベッドで仮眠を取ることにした。テレサがすぐにすやすや眠ってしまったのは、ただ疲れていたと取るべきか信頼されていると取るべきか悩ましいところだったが。

 

 そして夜が更けた頃に俺とマリア・テレサは宿を出て皇帝のいる城へと向かった。

 

「よし、人目のない内に隠すか」

 

 宿を出てからは少し人目があったので難しかったが、離れた人気のない場所で能力を発動する。不可視、防音防臭などの効果を持つ壁だ。ほぼ自分の姿を消すと言ってもいい。

 その壁を周囲に展開して歩けば誰にも認識されることなく行けるというわけだ。

 

「……ホントにこれバレてないんでしょうね」

「ああ。見えない聞こえない匂わないその他諸々。まぁとはいえ壁で遮断しているだけだから壁を抜けられると意味がない。一応後ろから突っ込まれることは警戒しておけよ、俺の方でも壁の位置とかは調整してぶつからないように気をつけてはいるが」

「壁じゃなくて膜とかでできないものなの?」

「それだと互いの声が聞こえない。管とかを伸ばしても声の聞こえ方が違ってくるし、まぁ壁でいいかと思ってる」

「そう」

 

 夜更けなので人通りもそこまで多いというわけではない。だが念のため二人共フードを被って顔を隠している。見えないとしても能力を破られる可能性や、不測の事態で破れてしまう可能性もあるからな。まぁいきなり姿が現れたフードの男女なんて即捕縛されるだろうが。

 

「流石に門は閉まっているわね。どうするの? 裏口が開いているか見に行く?」

「いや、その必要はない」

 

 俺はテレサに答えて振り返り、

 

「ほれ、捕まって」

「えっ?」

「跳び越える」

「…………」

 

 手を伸ばして告げるとテレサが呆れたような顔になった。

 

「まぁ、それが手っ取り早い方法よね」

 

 そう言って自分を納得させると身を寄せて屈んだ俺の首に手を回した。腰と膝裏を腕で持ち上げる。所謂お姫様抱っこだが、流石にテレサは頬を染めることもなかった。

 そのまま少し助走をつけて跳躍し、見えない足場を作って更に跳び、を繰り返して大きな城の門を跳び越える。テレサは流石に肝が冷えるのがぎゅっとしがみついてきていた。越えてからもいくつか足場を作って落下の衝撃を弱め着地する。

 

「……お姫様抱っこってもっと優雅で甘い場面に使われるモノだと思っていたわ」

「城の門を跳び越えるのに使われるモンだよ」

 

 冗談めかしてそう答えつつ、テレサを下ろす。

 

「で、皇帝はどこにいると思う?」

「私に成り代わった形だから、十中八九私の部屋でしょうね。場所は覚えているわ。行きましょう」

「ああ。壁なら擦り抜けられるから、向こう側に誰かいなきゃそうするから言ってくれ」

「ええ」

 

 そうして俺とテレサは城内を歩き回り、とある部屋の前でぴたりと足を止めた。

 

「……ここよ」

 

 テレサの声が重くなる。珍しく緊張を孕んだ声だった。

 

「覚悟はいいか? 中で妹と想い人が行為中、なんて可能性もあるんだぞ」

「それは遠慮したいから日を改めるわ! というかワールドの能力でわかるのよね!?」

「ああ、わかるよ。残念ながら取られた現場は見れないな」

「そんなモノ見なくていいのよ! ……はぁ、もう。調子狂うわね」

 

 軽口を叩いているとテレサは嘆息しながら扉にノックをした。周囲を警戒しつつ発動していた壁を解く。

 

「……はい」

 

 返事は来た。

 

「本日は皇帝陛下に重大な用件があって参りました。夜分遅くに申し訳ございませんが、扉を開けてください。――マリアンナ様」

「っ!?」

 

 本来皇室周辺の者しか知らないはずの現皇帝の本名を口にすることで、話に興味を持たせたのだろう。扉越しにも驚いた気配を感じる。

 

「……あなたは、誰ですか?」

 

 恐る恐るといった風に尋ねてくる。

 

「私はマリア・テレサ・フォン・エスタライヒ。……前皇帝と言った方が、あなたにはわかりやすいのかしらね」

「っ……」

 

 テレサが名乗ると正体がはっきりとわかったのだろう。微かな足音が近づいてくると、かちゃりと鍵を開ける音がした。

 

「……どうぞ」

 

 少なからず警戒が読み取れる声音だ。テレサは一つ深呼吸をしてから扉を開けて中に入る。……と、妙な視線を感じた気がした。背後を振り返って見回してみるが、俺の視界には入らない。ワールドの能力で周辺の把握を行い――見つけた。単眼鏡でこちらを見ているヤツがいる。不可視の壁を解いたのが仇になったな。まぁ仕方がないか。テレサもそれくらいのリスクは覚悟の上だと思う。一応釘を刺す意味を含めて覗いているヤツを真っ直ぐ見据えて薄く笑った。

 見えるはずがないと思いつつぞっとしてくれれば御の字かな。

 

「ダナン?」

「ああ、悪い」

 

 テレサに呼ばれて俺も皇帝の寝室に入った。

 

「……そちらの方は?」

「私の護衛、みたいなモノよ」

 

 皇帝は寝るためにネグリジェを着ていた。テレサとそう変わらない年齢だが恰好のせいか妙な色香を纏っている。夜伽用かと思いつつも視線は集中させないでおく。流石に人妻に興味を示すほどのモノでもない。顔つきはテレサによく似ているが、少し覇気がないというか気弱という印象を受けた。そのせいかやつれているようにも見える。

 

 テレサは素顔を見せるためかフードを取っている。

 

「……初めまして、ですよね。お姉様?」

「ええ、そうね」

「あなたが私の名前を知っていることに驚きました。存在を知らないとばかり」

「ええ、知らなかったわ。偶然母と再会して、あなたのことを聞くまではね」

 

 妙に刺々しい口調だ。まぁ話を聞いた限り、マリアンナはテレサに人生を振り回されてばかりだからな。今更戻ってきてなんの用かと思っていてもおかしくはない。テレサもそれには気づいているようだが、努めて冷静に応えている。もしかしたらそれが苛立ちを募らせることになるかもしれないが、俺には関係ないことだ。

 

「会ったんですか、母に?」

「ええ。……あなたさえいなければ、と罵倒されたわ」

 

 マリアンナの目が少し細まる。テレサは正直にあったことを話していた。

 

「ええ、そうでしょうね。私が連れ去られるまでは平和に過ごしていたもの」

 

 彼女は皮肉げに薄く笑う。やはりというかいい印象を抱いていないようだ。

 

「それで? 本日はどんな用件ですか? まさか、奪われた全てを返して欲しい、なんて言うんじゃないでしょうね」

 

 マリアンナは尋ねる。正にテレサが思っていることとそのままだった。テレサはその言い方が更に刺々しくなったのを感じ取って少し表情を歪めそうになっている。

 

「……ええ、その通りよ」

 

 テレサの答えを聞いて、マリアンナは表情を憤怒に歪めた。目を見開き握り締めた拳を震わせる。

 

「……虫のいいこと言わないでよ! 今まで私がどれだけあなたに人生を左右されてきたと思ってるの!? 私があなたの代わりに連れてこられたのだって、あなたが婚約者と結婚しないと言ったからでしょう!? 皇帝でいたかったなら妥協すれば良かったじゃない! 自由恋愛で伴侶を、とか言ったらしいけど、それなら一度その人と会ってみれば良かったじゃない! そんなこともしないで自分勝手にやって追い出されたから、今度は皇帝の座を返して欲しいって!? 身勝手にもほどがあるわよ!!」

 

 今まで積もりに積もった不満が爆発したようだ。防音くらいかけておけば良かったと後悔する。防音がある程度効いているかもしれないが、それでも外に聞こえそうなほど悲痛な叫びだったのだ。

 

「……っ」

 

 ある程度覚悟していたのかもしれないが、想像よりも現実の方が厳しいモノだ。テレサは唇を噛み締めてぎゅっと拳を握っていた。

 

「どうしました!? なにかありましたか……っ!?」

 

 一大事と思ったのかノックもなく一人の男が部屋に駆け込んでくる。そして俺達を見てぎょっとした。見られてしまったなら口封じするかと思ったのだが、入ってきたドラフの男性はテレサを見て目を見開いている。

 

「……マリア・テレサ様……?」

 

 彼女を一目見て本物だと見抜いていた。つまり皇帝だった彼女を知っている人物なのだろう。面識のない俺はそいつが裏切り者なのかどうかと思っていたのだが。

 

「……今日は無理のようね」

 

 テレサは彼の存在を無視してフードを被った。

 

「ま、待ってくれ! 私はあなたを……!」

 

 男がなにかを言いかけると、マリアンナは唇を強く噛み締めていた。テレサはこれ以上なにも言わせないためか俺の方に抱き着いて、唇を重ねてくる。柔らかな感触が伝わってきた。……これは予想外。

 

「……急にどうしたんだ?」

「……いいえ、なんでも」

 

 唇を離した後に尋ねるが答えてはくれない。だがおそらく彼女も俺と同じ予想を立てたのだろうと思う。

 

「さぁ、行きましょう」

「ああ」

 

 テレサは首に手を回して身を寄せてくる。それを片手で抱き上げ、俺は思い立ってマリアンナの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「な、なにを……!?」

「あんたが、誰かに泣きつきたそうな顔をしてたからな」

「っ……!」

 

 俺の言葉に彼女は泣きそうな顔をする。すぐ近くでため息が聞こえてきた。

 

「そんなだから女誑しって言われるのよ」

「煩い」

 

 言って、空間転移を使う。

 

「待ってくれ、話を……!」

 

 男はテレサに手を伸ばしてくるが、その手が届く前に俺達は宿屋の裏に転移した。

 

「……これができるなら最初からこうしていれば良かったんじゃない?」

「俺じゃ皇帝の居場所がわからないだろ。ほら、とりあえず下りて部屋行くぞ」

「……」

 

 しかしテレサは下りなかった。

 

「テレサ?」

「……私にも、少し誰かに寄りかかりたくなる時くらいあるのよ」

「そうかい」

 

 仕方ないと思ってそのまま宿の中へ向かった。驚かれはしたがまぁいいだろう。顔はバレてないことだし。

 テレサをベッドに下ろして、しかし離してくれなかったので俺も隣に腰かける。手は離してくれたがこてんと体重を預けてきた。

 

「……はぁ。覚悟はしていたけれど、辛いモノね」

「やっぱ自分から言われにいってたか。優しくせずただ自分はなにも気にしてませんってフリしてたしな」

「ええ。あの子の本音を引き出すために、少しね。でも予想以上に複雑というか、厄介そうだわ」

「あの男……結婚相手のことか」

 

 テレサは「ええ」と呟く。

 あの様子を見るに、テレサとマリアンナ、“マリア・テレサ”の結婚相手の関係は複雑だ。

 

「お前はあの男が好きだったが、皇帝の座と一緒に奪われた。妹はいきなり皇帝になったが、婚約者の男を好きになった。男はお前に想いを寄せていて結婚する予定だったが、実際には成り代わった妹がいた」

 

 ドロドロしてんなぁ。

 

「だからって目の前で俺とキスする必要あるか?」

「ええ。少なくとも今の私に……あの人と純粋な気持ちで接することができるかと言われれば微妙だもの。私は皇帝の座を取り返したい。けどそれは妹を不幸にしたいということではないの」

 

 だからこそ悩ましい。

 

「むしろあの子には幸せになって欲しい。そう思ってはいるけれど、今のままだとどうにも難しそうね」

「だからその一歩として、もう他に好きな人ができたから諦めてねアピールをしたわけか」

「そういうこと」

 

 まぁ二人共若いから、まだやり直せると言えばやり直せるだろう。

 

「皇帝の座を渡したくない気持ちはありそうだけれど、それも私への恨み辛みの結果だとすればなんとかできる。けど恋愛はどうしようかしら。あのままあなたに口説いてもらって新たな恋を見つけさせるとか?」

「それだとキスしたのが裏目に出るな。またお前に、ってなるかもしれん」

「それもそうね……」

 

 考え込むように唸って、それから嘆息する。

 

「……すぐには思いつかないわ。またゆっくり考えることにする」

「それでいいと思うぞ。向こうも今回のことで頭に血が上ってるだろうし、いくらいい手だろうがすぐには納得できないだろう」

「そうね」

 

 テレサはまたため息を吐く。……なんだかんだ言ってかなり精神的に参っているようだ。

 

「なぁ。良かったら今度、気晴らしにどこか行かないか?」

 

 そう尋ねてみる。テレサは身体を起こして呆れた顔で見上げてきた。

 

「そんなだから女誑しって言われるのよ」

「煩い。まぁなんだ、団に入ってくれるなら団長として、団員の精神状態もちゃんと見ておかないとだしな」

「そういう気遣いが自然とできるからモテるのね」

「煩いって」

 

 からかうように言ってくるテレサにそう返す。彼女は少し考え込むようにした後、

 

「今度、なにか古いモノが飾られている場所に連れて行って」

「古いモノ?」

「ええ。私は幼い頃から父に『本物と贋作を見分けられるようにしなさい』と言われてきたの。そこで養った鑑識眼で、今は鑑定士をやっているのよ。そういう影響もあって、そういうモノが好きなの」

「ふぅん。まぁ、また今度な」

 

 今度シェロカルテに聞いてみようか。そしていいのがあったらテレサを誘おう。

 

「ええ。改めて、これからよろしくね。カードは私が鑑定士をしている美術館の個室に入れてあるから、明日取りに行きましょう」

「了解」

 

 それから二人で少し話した後、それぞれのベッドに入った。

 明日、いよいよ十枚のカードが俺の手元に揃うことになる。

 

 長かったような短かったような賢者集めの旅ももうじき終わるのだ。そんなことを考えながら、目を閉じ眠りに着くのだった。




しかし姉妹の関係がドロドロしてんなぁ、我ながら。

ゲームではもっと爽やかに終わると信じていてください。
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