遂に十枚のカードを揃えたダナンがワールドとの契約者になるために頑張ります。
ロマ帝国を訪れた翌日。
宿屋を出ても別にフードの怪しい二人組を見かけたら殺せだのという噂は流れていなかった。どうやらあの二人は俺達のことを言わなかったらしい。
まぁ色々と思うところはあるだろうし、言わないのが賢明だと考えてくれたようだ。そのおかげであっさりと脱出できたので良かった。
すぐに二人でテレサと関わりのある美術館に向かう。
「こんにちは、館長」
古き良き備品はもちろん、新しい芸術も見受けられる。とは言っても俺に芸術はわからないのだが。最近なんかでこういうのが流行ってるとか聞いた気がするんだよな。
そんな美術館に正面から入り、受付に手を挙げるだけで入場料は払わなかった。それだけ顔見知りということだろう。
テレサが館長と呼んだ男性はテレサの姿を認めると人の好い笑みを浮かべた。
「いらっしゃい。今日はどうしたんですか?」
「実は彼の騎空団に入ることになって。しばらく顔を出せなくなるかもしれないから、その挨拶に」
「そうですか。……くれぐれも、お願いしますよ」
館長は頷いてから俺に向けてこそっとつけ加えた。彼は彼女の素性を知っているのかもしれない。
挨拶もそこそこにテレサに与えられた個室に向かい、カードを取りに行く。近くなってからワールドのカードが強く反応を示したので、賢者ではなくカードに反応するというのは本当だったようだ。まぁここまで来て疑っていたわけではないが。
「はい、これがカードよ」
テレサはそう言って厳重に鍵をかけた引き出しからジャスティスの描かれたカードを手に取って俺に差し出してくる。これでアーカルムシリーズのカードが十枚揃ったわけだ。
「これで……」
ワールドと真の契約が結べる。そう言おうとした時、周辺が一気に暗くなった。近くにいたテレサの姿も消え、四方八方が星空のような暗い空間に変わる。まるで夜空の中に立っているような感覚に陥った。
「……この壮大な演出、ワールドか」
「そこでオレだと判断しないで欲しいモノだが」
タイミングと起こった事象で判断したが、合っていたようだ。あれから一度も聞くことがなかったワールドの声が聞こえ、黒いのっぺりとした人型の星晶獣が目の前に現れた。
「久し振りだな、ワールド」
「オレからすればそうでもない。随分と早く、賢者を揃えたモノだ」
表情がないため声からしか感情を読み取れない。ワールドがなにを思っているのか見当がつかない。
「お前はオレの力を手にするだけの“運命”を持っていると、ここに証明された」
「運命?」
「そうだ」
ワールドは頷き肯定を示す。そして俺の目の前に
続けてそのカードの前に契約している賢者達が白黒になったような姿が出現する。ワールドのカードの前には、フードを目深に被った人影があるだけだった。まだ俺と契約を結び切っていないため、俺かどうかはわからないが。一応背丈は多分俺にしてくれているのだろうと思う。
「タロットカード、というモノを知っているか?」
ワールドに尋ねられて頷きを返す。
「ああ。占いとかでよく使われるヤツで、アーカルムシリーズの参考にしたヤツだろ?」
俺はそう告げた。「そうだ」とワールドはあっさりと肯定する。
「俺はアーカルムシリーズを創る時、空の民が持っていたタロットカードを参考にした。二十二のアルカナの半数、十一の星晶獣とそれに対応する十一の契約者」
これは俺もわかっていたことだった。覇空戦争の折にタロットカードなんてモノがあったのかどうかはその当時に生きた者しかわからないが、現代には存在している。
わかりやすいタワーやスター、デスなんかもいたのでそれぞれに対応してるんだなぁ、とは思っていたのだ。
「『塔』と“魔術師”。『悪魔』と“力”。『星』と“戦車”。『節制』と“隠者”。『吊るされた男』と“愚者”。『死神』と“恋人”。『審判』と“皇帝”。『月』と“女教皇”。『太陽』と“教皇”。『正義』と“女帝”」
ワールドの言葉に応じて対応するペアに色がついていく。
「そして、『世界』と“運命の輪”」
ワールドの契約者は共通のローブとケープに色がつくだけだったが、最後に灯る。
「“運命の輪”に相応しきは数奇な運命に左右される持ち主。お前はその資格がある」
数奇な運命って言うとグランとジータの方が合っているような気もするが。ビィとかいう謎に溢れた生物を連れているわけだし。ルーツのわかっているオーキスオルキスと違ってルリアもいるし。
「オレと契約を結べ。これらが揃い各賢者が集めたデータがあれば、新世界創造に近づく」
だが、とワールドはおそらく俺を鋭い視線で見据えた。
「お前がオレの支配下にあったアーカルムシリーズを次々とその枠組みから外していった結果、データは中途半端に終わってしまった」
「データなんて意味ねぇよ、ワールド」
「なに?」
俺はワールドに告げる。
「俺は覇空戦争のことをよく知らねぇが、データを集めたところで無駄なヤツはいる。……現在進行形で進化し続けるようなヤツらが」
「……」
「それに聞けば星晶獣である限り七曜の騎士にはどう足掻いても勝つことができない。剣に吸収できるらしいからな」
もう一度覇空戦争のような規模の戦争が巻き起こったら、星の民が創った兵器であるところの星晶獣は七曜の騎士によって殲滅される。七曜の騎士が元々どういう存在だったのかは知らないが。今の能力を考えると星晶獣に勝ち目はない。
「教えの最奥に至ったり契約したりすれば吸収されないが、果たしてどれほどの星の民がそれをやるか」
ロキは異端っぽいから例外としても、どうにも星の民が勝てるイメージが湧かない。星の民も強いんだろうが、空の民も強くなっている。
「空の民の最高戦力を使ったシミュレーションもなしにデータなんて、意味ないだろ」
「……一理ある」
「だから
「理解はできる。だが納得はできない」
「わかってる。俺もできればやりたいことをやらせてやるのが信条ではあるんだが、世界の命運を分けるとなれば今の俺には難しい」
「だから諦めろと? 都合がいいことだな。オレには目的を諦めろと言い、お前は周りを諦めないと言うのか」
「まぁな。けど譲れないんだからしょうがない」
「なら、オレも譲ることはできない」
平行線だ。交渉は決裂、と言ってもいいだろう。まぁ元々こうなることは予想していたが。
「よし、わかった。俺と勝負して負けたら俺の時は諦めてくれ」
「なんだと?」
「お前らは相応しい契約者を代々見つけてきてるんだろ? なら俺の次の契約者も見つかるってもんだ。現在に俺が確認してるだけで三人もいるんだし、俺が死んでから次の契約者探しても見つかるだろ」
俺はにっこりと笑って言った。覇空戦争なんていう大昔の時代から目的を遂行するために活動してきたって言うんなら、俺という一人の人間が死ぬまでの間くらい我慢してもらってもいい。賢者達はエスタリオラ以外寿命で死ぬだろうが、すぐに次の契約者を探せばいい。あいつらもワールドに従う義理はなくなっているが、契約者がいなければ存在が維持できないような星晶獣達だ。ワールドによって在り方を変えられてしまった今、それだけはどうしようもない。消滅を許容しなければの話ではあるが。
「……」
ワールドの表情は依然として読めない。だがなぜか呆れを含んでいるような気がした。
「“運命の輪”を司るに相応しい契約者はそう現れない。だからこそ新世界を創造するオレの契約者に相応しい」
「いつ現れるかわからないから待つのは嫌だと?」
「有り体に言えばそうだ。オレの契約者候補は何度か現れたが賢者を全員集め切ることはできなかった。賢者を揃えてオレと真の契約を結ぼうという段階まで進んだのはお前だけだ」
「それは買い被りすぎだと思うが、仕方がない。お前が勝ったら俺はお前の目的達成に尽力する。これなら平等じゃないか?」
元々考えていたことだが、俺は負け側の条件を伝える。
「……なるほど。負けた方がやりたくないことをやる、か。それなら平等ではある」
「だろ? 加えて俺は、一人で戦う」
「仲間は兎も角、賢者すらもか」
「ああ。これは俺とお前の一騎討ち、互いに譲れないからぶつかり合う勝負だ。なら邪魔はいらない」
「そうか。だが、それでオレに勝てるとでも?」
「ああ。お前に従うことになったらどうせ神とも戦うんだろ? なら新世界の神になるお前に対抗できるってところも見せておかねぇとな」
俺が笑うとワールドは鼻を鳴らした。
「いいだろう。ならば約束の地――セフィラ島に来るがいい」
「セフィラ島?」
「ああ。そこでオレは待っている。お前が言ったのだ、一人で来い」
「ああ、わかってるよ」
ワールドは俺が頷いたのも確認してから姿を消した。同時に周辺も元の美術館の一室に戻っていく。
「……今、ジャスティスがワールドが来ていたと言っていたけれど」
変わらず近くにいたテレサが神妙な表情で口を開く。
「ああ。来てたな。いよいよ最終段階ってわけだ」
「最終段階……ということはまだ契約は結べていないのね」
「まぁな。これからセフィラ島ってところに行くんだが、知ってるか?」
「セフィラ島? ええ、まぁ。確かメネア皇国が占領している島ね。立ち入るには皇国の許可が必要だったと思うから、ダナンの伝手で言うとシェロカルテさんか秩序の騎空団に頼むしかないわ」
シェロカルテか秩序の騎空団か。秩序の騎空団は伝手というかリーシャに頼むことになるんだろうが。
「じゃあ早速連絡を取ってみるか。セフィラ島がどんな島かってのは知ってるか?」
「ええ。覇空戦争の戦火が最も大きかった島の一つよ。調査隊以外に人は住んでいないと言われているわ。どうしてメネア皇国が真っ先にその島を占領したのかは不明だけれど。ああ、侵入はできないわ。上空に特殊な気流があって、島の中に飛んでいくことはできないの」
「わかった、ありがとな」
言って、早速どちらかに話をつけてみようかと思って踵を返す。
「ついてこいとは言わないのね」
「ああ。今回は一人で行く約束だからな」
「一人でって……セフィラ島は危険よ。その危険性故に未だあまり調査が進んでいないと言われているくらいだもの」
「それでも、だ。ワールドとの約束でな」
「そう……。なら仕方ないわね。無事を祈っておくわ」
「おう」
そうして俺はテレサと別れてアウギュステへと戻る。
「……また出かける?」
「悪いな、ちょっと優先したいことがあるんだ」
オーキスに尋ねられて苦笑を返す。
「それでリーシャ、セフィラ島へ行くことはできるか?」
「ちょっと私では……モニカさんに聞いてみますね。今なら父さんもいるかもしれませんし」
「頼んだ」
しばらくして、モニカと通信したリーシャから俺一人なら同行させられる、と伝えられた。
しばらく戻ってこない可能性を考えて他の団員に告げると、助けになれればということで武器を渡してくれるヤツもいた。ワールドとの戦闘があるとわかっているので有り難いことだ。中でも星晶獣の四体がそれぞれ三つずつ武器を渡してくれたことには驚いた。
おかげでいっぱいありすぎて荷物が大きくなってしまった。
「じゃあ、行ってくる」
俺が持つ全ての武器を引っ提げて向かうので一大決戦を迎えるのだとわかったようだ。
迎えに来たモニカの騎空挺へ乗り込む時には多くの団員が見送ってくれた。テレサも結局合流している。
「……がんばって」
「おう」
皆に見送られて、俺はセフィラ島へ向かう。
俺の命運を決める戦いに向かうのだ、気合いが入らないと言えば嘘になる。だが帰ってきた時俺は【十天を統べし者】に匹敵する力を得ることができるという、妙な確信があった。
だから俺は不安や緊張よりも、心が躍っているのかもしれない。
少し遅めですが周年記念イベントの感想などをば。
シスとネハンのやり取りが凄い王道で良かったですね。初期のシスたそは拗らせてたんだなぁと感慨深く思っていました。
全体的に凄く良かったので満足なのですが、一つだけ言わせていただきたい。
今回のイベントで十天衆と秩序の騎空団が戦ったじゃないですかぁ。
そこでシエテとヴァルフリートがいい勝負してたのはまぁ、シエテの底が知れていないので百歩譲っていいとしても。(とはいえヴァルフリートは主人公の父親を除くと現在最強キャラであることを考えて、シエテとはいえいい勝負する相手がいるのはどうかと思うところはありますが。まぁ多分いい勝負するような感じにしてたんだと勝手に思っておきます)
まぁ最初に言った通りそれはいいんです。問題はもう一個の方ですよ。
モニカ、サラーサに敗れる。
ここですよここ。この作品ではモニカだけとは戦わせなかったあの人がいるじゃないですか。むしろ十天衆&モニカで倒したあの人がいるじゃないですかぁ。
そう、黒騎士ですよ。
黒騎士さん、本編だとモニカに負けて捕まったんですよね。
つまり、
サラーサ〉モニカ〉黒騎士
ということでは?
……アポロってもしかしてホントに弱いんじゃ?
と思ってしまった周年記念イベントでした笑