ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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幕間Ⅱの最終決戦みたいなモノ。(番外編は除く)
ちょっと長めでワールドと戦います。

スクラッチ四回でガリレオ・サイトとエーケイ・フォーエイ当たった私は多分めちゃ運がいい方。
リミジャンヌ出ないかなぁ。


“世界”をこの手に

 セフィラ島の中心で、ワールドと対峙する。モニカにはバッグを下ろして離れていてもらった。この辺はもう慣れたモノだ。なにせここまで一ヶ月かかっている。

 

「ワールド。勝負をする前に、ルールを決めようか」

「ルールだと?」

「ああ」

 

 俺はバッグから武器の数々を取り出しては周辺に間隔を空けて設置していく。

 

「お前に勝つとは言ったが、それは俺が勝てる勝負でなければ不可能なことだ。例えば俺そのモノを消滅させる、とかされたらな」

 

 あれをやられたら一溜まりもない。あれに耐えるのは「世界に対する己の存在力」が強くなければならないが、全空に名が轟くような者でなければ耐えられないだろう。大半に一撃必殺という俺には絶対勝てない能力である。

 “黒闇”の名は“蒼穹”の影響もあって有名になってきているが、団長の俺の存在が世界に知れ渡っているわけではない。精々“蒼穹”と同じくらい若い団長、というくらいだ。その程度では存在を保てず消滅させられてしまう。

 

「他には武器そのモノを消滅させるのも禁止とする。他には島にいられなくなるようなのも、俺が問答無用で即死するようなのもダメだ」

 

 問答無用で即死する、というのは消滅でなくとも肺の中の空気を水に変える、とか。血液を空気に入れ替える、とか。人なら対策のしようがない攻撃をされてしまったら負けは確定してしまう。

 

「加えて俺の荷物は壊さないこと。それくらいか」

 

 武器も含まれるが、バッグが壊されては持ち帰るのも大変だ。あとついでに荷物兼荷物持ちの安全も入る。

 

「……いいだろう。元よりする気もない。真っ向から勝負しなければ、この戦いに意味などない」

「はは、流石に空の民と同じ学ぶ力を持った星晶獣だ。考え方が似てるんだな」

「無駄口はいい。準備は終わったか?」

 

 俺は全ての武器を並べ終えていた。

 

「ああ。やろうか」

「そうだな」

 

 言って、俺は身を低く構える。じっとワールドを見据えて集中した。ワールドはまだ動かない。俺に合わせて動く気なのだろう。

 深く息を吐き、一つ目の戦略を頭に浮かべる。

 

「……【ベルセルク】」

 

 駆け出すと同時に今回初のClassⅣを発動。黒い毛皮を被った狂戦士へと姿を変える。格段に上がった身体能力で一気にワールドの下へ行く途中でブルドガングを手に取った。ワールドも駆け出すのとほぼ同時に地面からトゲを突き出してきていたが、それを置き去りにした。後ろからでは創造速度が間に合わないと見たのか俺の直線上に壁を創ってくる。だが構わず突っ込みぶち抜いた。

 あと十メートル、というところまで来た途端に地面の感触が変わる。硬い土ではなくずぶりと沈む沼に創り変えられたようだ。これでは駆けるのも難しい、とは思わない。足の回転を速めて無理矢理に沼の上を駆ける。そして思いっきり跳躍した。もちろん沼が足場では跳躍なんて厳しいため、より詳細に言えば蹴り出した風圧で跳んだのだ。ここに至るまで地力を滅茶苦茶に鍛える必要があったのだが。

 

「レイジ、ウェポンバースト。――無明剣ッ!!」

 

 初っ端、ワールドの眼前で渾身の奥義を解き放つ。だが、

 

「キャンセル」

 

 俺の奥義そのモノが、伸ばされたワールドの右手から放たれた力に掻き消される。俺もよく使っていた手だ。

 

「……流石にそう上手くはいかねぇか」

「当然だ」

 

 俺はブルドガングを沼になっていない場所に投げて突き刺し、【ベルセルク】から次の『ジョブ』に変える。

 

「【ウォーロック】」

 

 携帯しているパラゾニウムを持って魔法使いの最上位『ジョブ』へ。四方八方から迫るワールドの放った火焔を魔力の壁で防ぎ、自由落下に身を任せて沼を凍らせて着地する。直後俺の周辺に無数の剣拓が出現した。

 

「エーテルブラスト!」

 

 俺は魔力の奔流を放ちながら一周させて全てを薙ぎ払う。だが地面が突如水に変わったせいで落ちてしまう。身動きが遅れる、と思った直後に落雷が襲った。雷撃が全身を貫く激痛に耐えながらバニッシュを発動して水から上がった。

 

「っ……!」

 

 だが足を着いた地面が溶岩に変化して呆気なく靴を溶かして足にまで侵食してくる。いくら堪えたって無駄だとわかる。自分の足が焼け溶ける痛みなんて味わうもんじゃない。俺はそれでも無視してワールドに攻撃を仕かけた。

 

「リゾブル・ソウルッ!!」

 

 パラゾニウムを持った時の奥義だ。ワールドは予想外ではあったらしいが当たる直前でキャンセルと唱えて無効化する。その間に溶岩から飛び出して【セージ】となり回復を行う。焼けた足もなんとか戻ってくれた。『ジョブ』を発動した状態だったので元の靴に影響はないし、【ウォーロック】でも発動し直せば戻るから問題はない。

 

「あの状態から反撃するとはな。痛くないのか?」

「痛かったに決まってんだろ。骨の髄まで焼かれて痛くないヤツなんているかよ」

 

 ワールドから問われて鼻で笑う。正直なところ滅茶苦茶痛かった。思考が掻き乱されて勝負どころじゃなくなりそうだった。だが、無視できる範囲だった。それだけのことだ。

 

「なら、次はもう少し激しく攻めるとしよう」

「好きにしろ。次も上手くはいかねぇよ」

 

 『ジョブ』を解いて腰の銃を抜きワールドに発射する。空気の壁だかで受け止められてしまうが、まぁいい。その間に武器を刺しておいた場所に戻ってきて、次の手を考える。

 因みにこの銃も新調していた。自分だけ武器を渡していないからと言ってリーシャが選んでくれたモノだ。

 

「よし、次はこれでいこう」

 

 決めて、まずは【スパルタ】となる。

 

「神聖滅闇晄ッ!!」

 

 虚無ノ哭風で奥義を撃ちながらワールドに向けて投擲した。それとは別にエウロペから最初に貰った水色の槍、ガリレオ・サイトを手に取る。持った手がひやりと冷たくなっていく。

 

「テュロス・ワンダーッ!」

 

 こちらも奥義を撃った直後に投擲してやった。二つを迎え撃つ構えのワールドに、俺は【ハウンドドッグ】に切り替えてシヴァから貰った悪滅の雷を手に取る。腰にもう一つ武器を備えておいた。

 

「この世界の破壊を目論む星晶獣相手に相応しい一撃だ。ダガラハットッ!!」

 

 雷の矢を構えて渾身の一矢を放つ。矢は二つの槍よりも速くワールドへと飛んでいくが、結果的にそれら三つはほぼ同時に到達する。

 暴風、冷気、雷鳴の三つが向かうと少しワールドの動きに迷いが見えた。……キャンセルを使うのは両手だろ? なら三つで攻撃してやればいい。

 

 無論これだけで当たるとは思っていない。俺は【トーメンター】に切り替えると腰の短剣を抜いて駆け出した。

 

「キャンセル――ぐっ!」

 

 ワールドが両手で三つの中でも威力の高そうな二つを選んで奥義をキャンセルさせた。雷と氷の二つだ。結果暴風に片腹を抉られる。

 

「ワールド! 油断してんじゃねぇぞ!」

 

 俺はわざわざ呼びかけて手に持った短剣、ブローディアから貰った刃鏡片を構える。そうすればこれが強い星晶獣の力を持った武器だとわかるだろう。

 

「剣盾一体!」

 

 間合いに入ってすぐに奥義を放つ――直前でこっそり【トーメンター】でのみ扱える『秘器』の針をいくつか飛ばしておく。強大な奥義をキャンセルさせてその裏で針を刺す企みである。

 

「キャンセル」

 

 想定通りにワールドはガラス片を巻き込む巨大な刺突を消失させた。その間に投げた針が向かい、刺さる。

 

「ぬっ」

「……流石に石化と睡眠は無理か。だが、麻痺さえかかればこっちのモノだ」

 

 ワールドの動きが止まる。だが意識はあるので睡眠でもなく、固まっているわけではないので石化でもない。三つの針の一つ、麻痺は効果があったようだ。

 

「この、程度で、オレを、止め、られると、でも?」

 

 麻痺のせいか途切れ途切れの言葉で告げて、俺の周囲から火焔の津波が巻き起こる。身体は動かなくても能力は使えてしまうらしい。強い星晶獣だとそうなのだろうか。いや、この場合は身体を動かさなくても能力を駆使できる星晶獣だからか。

 

 だが問題はない。この場面も考慮した上で戦略を練ってある。

 

 俺はニヤリと笑って刃鏡片を手放し落ちていたガリレオ・サイトを拾う。そしてある『ジョブ』を発動させた。

 

「【キャバルリー】!」

 

 控えめに言って俺に似合わないきっちりした黒い軍服と軍帽。そして俺の下から突如出現する灰色の馬。馬は『ジョブ』発動時に出てくる服などと同じ扱いのため、この『ジョブ』を使っている間だけ出現してくれる。『ジョブ』能力の内なので通常の馬とは馬力が桁違いで、賢くとても優秀ときた。

 

 馬は状況を見ると俺の考えを汲み取って火焔の津波を上から抜けるように跳び上がる。助走もなしに数メートルの高さに至る脚力は、この世の馬の範疇ではない。

 

「なに……!?」

 

 そしてそのまま俺はワールドの眼前へ。奥義は消去されるので決定打になりにくい。だが武器による直接攻撃なら防ぐしかない。馬の力を借りて意表を突いた俺はそのままワールドの顔面にガリレオ・サイトを突き刺した。絶対零度の槍から星晶獣すらも凍てつかせる冷気が容赦なく広がっていき、やがて全身が氷漬けになった。そのまま重力に逆らわず進んでいけば勢いで氷像と化したワールドは崩れていく。星晶獣なので死にはしないだろう。

 

「……これで」

 

 俺の勝ち、と言おうとした瞬間に全身を怖気が襲った。

 

「ダナン!」

 

 モニカの声と怖気はほぼ同時。その怖気の正体は俺の()()()――。

 

 俺が顔を上げ切る前に放たれた白い熱線に焼かれる。だが咄嗟に反射だけで身体を動かせたおかげか左肩の周辺が消し飛ぶだけで済んだ。衝撃で仰向けに倒れるが、一瞬のことだったため痛みはあまりない。というか感覚がほとんどなくなっていた。左目も見えなくなっている。おそらく熱線に近かったせいで焼け焦げたのだろう。足は動くが上半身は半分がまともに動かない状態。辛うじて生きているという体である。なんとか首を動かして左側を見れば離れた場所に黒焦げになった俺の腕の肘から先が落ちている。相当な高威力だ。油断したな。

 

「オレの勝ちだな」

 

 仰向けになったことで目の前にいる黒い巨体が目に入る。

 

「その身体では碌に動けないだろう」

「……まぁな。だが負けを認めるわけがない」

「そこからどう盛り返すという? その状態では『ジョブ』の発動すら不可能だろう」

 

 だな。負傷しすぎて『ジョブ』が発動できない。だが打つ手がないわけじゃない。

 

「バニッシュ」

 

 俺はアビリティを使用してワールドの下から離れると、バッグの中に入れておいたキュアポーションを取り出して身体にかける。

 

「……往生際が悪いな」

 

 ワールドの呟きが聞こえたかと思うと、俺の身体を癒すはずのポーションが酸に変わった。痛覚がほぼ遮断されている左半身だったので少し焼け爛れてしまったが、慌てて魔法で水を生み出し流す。

 

「これで回復手段は封じた。回復魔法ヒールは『ジョブ』発動時しか使えないことは知っている。……これでもまだ諦める気はないか、我が契約者よ」

 

 ワールドは努めて淡々と俺の敗北だと告げてくる。……甘いな、ワールドは。

 

「なに言ってやがる。諦めが悪くなかったら、そもそも空の民は覇空戦争で星の民に負けている」

 

 動かない顔の左半分では笑えなかった。右端だけ唇を吊り上げる。

 

「お前も覇空戦争の時にいたんならわかってるはずだ。……星の民は長寿で星晶獣なんかを創っちまうほどの技術を持っていて、ロキを見てればわかるが強い」

 

 そこに数多の星晶獣も加われば、空の民に勝ち目はないと思っている。それでも、少なからず影響が出ているとしてもこうして空の世界が残っているということは、そういうことだ。

 

「悪いが、俺も世界の命運を懸けた戦いで命張らないわけないんでな」

 

 左目は潰れている。左腕は肩から消失している。俺の利き腕は左だったんだが。右手でも武器を扱う練習をしておいて良かったと思う。

 

「その身体で万全のオレに勝てるとでも?」

「さぁな。だが俺に勝ち目のある勝負にする気があるならさっきみたいな分身体は一度きりだ。今のは弱体化したお前の分身体で、俺がどこまでやるのかを見るためのモノだった。道中もClassⅣを温存してたし。……お前はデータ収集を重視する傾向にあるから、そういう意味でのあれだと推測するが、どうだ?」

「当たりだ。だがそれがわかったところで今の劣勢が覆るわけでもない」

 

 そして、最初に遭遇した時と全く同じ姿になったワールドはつけ加える。

 

「今まではお前の発想を参考した創造の能力を行使していたが、これからは使わない。オレがこれまでに培ってきた能力でお前を倒す」

「そうかい」

 

 俺は話の最中ずっと突き立てた武器をできるだけワールドに近づけるために放っていく。……弓と楽器は無理だな。両手じゃないと。斧とか槍はもう頑張るしかない。

 ついでに言えばワールドは俺には告げていないが、ある程度自分の中でルールを課していると思う。創り直しによる自己回復はキリがないので使わないのだろう。分身体だったとしてもそれくらいできるならやるはずだからな。

 あと把握能力だろうか。完璧に俺の仕かけがわかっていれば攻撃を受けることもない。麻痺させた針だってそうだ。

 

「ま、待てダナン! その身体で戦っては死ぬぞ!」

 

 しかし決着をつける前にモニカが呼び止めてくる。

 

「死んでも大丈夫だ。ワールドが治すだろうから」

「そ、そうは言ってもだな……!」

 

 どうやら彼女には俺が瀕死の重傷に見えるらしい。

 

「問題ねぇよ。俺は勝つからな」

 

 振り返らずに答える。

 

「……今の状態の貴殿が、どう勝つと言うのだ」

「見てればわかる。だから心配は無用だ」

「今のダナンを見て心配するなという方が無茶だ」

「はは、優しいなモニカは。だが問題ねぇよ。俺は勝つ、だからそこで見てろ」

 

 言いながら身体の調子を確かめる。……問題ないな。

 

「……信じるぞ」

「ああ」

 

 やっぱりモニカはいいヤツだ。立場を考えなければ“蒼穹”に入っても違和感がないだろう。

 

「悪い、待たせたな」

「構わん。いくら待ったところで勝敗は変わらない」

「ああ、そうだな。俺の勝ちで決まってる」

「……この状況でそう言い切れる根拠はどこから来るのか」

 

 ワールドは表情がなくとも明らかに呆れているとわかる声音だった。それに俺は右半分だけで笑い返す。

 

 ……とはいえ勝つと言い切れる根拠なんてありはしない。負けるわけにはいかないから勝つしかないんだ。

 

「そろそろ、決着といこうか」

「ああ」

 

 呼吸を整えて身構えるワールドを片目で見据える。片目になって狂った距離感の修正は武器を手に取って投げる最中にやった。片腕だと少しバランスが取れなくなるのだが、それも動いている内に調整している。セフィラ島を回る道中で『ジョブ』なしの戦闘に慣れておいて良かった。『ジョブ』なしの利点はどんな武器でも即座に使うことができるということだ。焼けて破けた上半身の服を剥いだ。俺は別にゼオのように上半身肌蹴(はだけ)たら気合いが入るとかはない。

 

 まずは腰の銃を抜いてワールドを撃つ。が特に壁を創られたわけでもないのに弾かれてしまう。肉体の強度が高いのか、身体には当たっているように見えたが。

 

「その程度の攻撃ではオレに傷一つつけられん」

 

 回避や防御を取るまでもならしい。ワールドの身体は鍛え上げられた筋肉で出来ているように見えるが、通常ならあるべき目などの弱点がないので銃弾はほぼ無意味。相当な威力を出さないとダメージを与えることはできないだろう。ならこの銃はここで留守番だ。

 

 俺はシヴァの力が宿った武器の一つ、三叉の赤い槍を地面から抜き取って投げの構えを取る。

 

「ルドラ」

 

 紅蓮の業火を纏わせて投擲、その間にエウロペの力が宿った杖を手に取った。

 

「ふんっ」

 

 槍は両側から拳を叩きつけるように相殺されてしまったが、そう簡単にいくとは思っていない。氷弾を生み出して放つが、防御姿勢を取られるだけで防がれてしまった。……奥義なら効果あるんだろうが、序盤から連発しすぎたな。かといって距離を取って戦うには魔力が少なくなってきてる。近づくしかねぇ、が。

 こうして遠距離にいる時まだなにもしてこないと見るに、遠距離より近距離なのだろう。俺が考えた使い方は基本遠距離なので俺が近づくのを待っているはずだ。

 

 と思ったのだが。

 

「コメット」

 

 ワールドが唱えると上空の空間が開き、中から巨大な燃える岩石が降ってきた。隕石を持ってくるだか創るだかする技か。なかなか有用だ。

 普段ならファランクスで防御やら攻撃して相殺するやらするところだが、今の俺には難しい。避けるしかないので降ってくる隕石を避けるように次の武器の下へ走った。

 

 グリームニルの力が宿った、虚無ノ哭風とはまた別の槍。手に取ってすぐに振り竜巻を起こして隕石を逸らしながら、また奥義を使いながら投擲する。

 

「瞬滅閃」

 

 突風を巻き起こして加速する槍はワールドの防御より先に身体へ到達した。ヤツの右脇腹が抉れる。

 

「マイムールパニッシャー」

 

 更にバアルから貰った槍をぶん投げる。雷撃を纏って飛ぶ槍はしかし、ワールドの拳に打ち払われた。多少焼け焦げたようだがあまりダメージはなさそうだ。

 その後も走り回って隕石を避けながら道中で拾った槍をぶん投げていく。……槍はもう全部投げ終わったかな。

 

 戦略の一つは下準備が整った。

 

「借りるぜ、バアル。――響け、レゾナンス・オブ・ランスッ!!」

 

 バアルが持つ共鳴する力が宿ったマイムールクローズを基点に、それぞれの槍に込めておいた魔力を誘発させる。ワールドの周りを囲むように突き刺さった槍達が共鳴し、それぞれが持つ能力を発揮して一斉にワールドへと攻撃を放つ。

 火、氷、風、雷。様々なモノが混じった嵐に呑まれたワールドは、防御するも傷を負いダメージを増やしていく。

 

「ぬぅ!」

 

 おそらく全てなにかしらの星晶獣の力が宿っている槍だ。これにはワールドも苦悶の声を上げる。……だが、かなり高威力ではあったはずだが倒すには至らなかった。

 

「一応、俺のとっておきだったんだけどな」

「槍を投げていたのがこの布石とはな」

 

 もちろん投げて牽制を行うってのも一つの手だったんだけどな。分身体で集めたデータによってそれらは防がれる、警戒されると思っていたから別の手でも使えるように投げた槍には魔力を込めておいたのだ。

 

「随分傷だらけになったな。自分ルールで創り治すのは禁止してるんだろ?」

「……ああ。どんな傷も修復できるのはお前に勝ち目がないからな」

 

 有り難いことだ。おかげで少しは勝ち目が見えてきた。とはいえここからは近接戦闘を強いられる。奥義も温存していかないと体力が尽きてしまう。

 近くに突き立てていた丙子椒林剣を右手で握る。ゆらりと倒れるように踏み込み一気にワールドへ近づく。対してワールドは右拳を突き出してくる。見た目通りと言うか豪腕が振るわれてゴォ! と音がした。俺は最低限の動きで回避、拳の上に着地して一気に駆け上がる――前に腕を横に振られて宙に放り出される。空中で身動きできない俺をワールドの左拳が狙っていた。

 

 ……研ぎ澄ませ。俺の師匠なら簡単に斬ってみせるぞ。

 

 昔習ったことを思い出す。天才ながら狂気の修練で高みへと駆け上がっている彼女はいとも容易くやってみせるだろう。一番弟子を自称する俺がそれをできなくてどうするよ。

 

「ふっ!」

 

 身体を捻って勢いをつけ、ワールドの拳に向けて刀を振るう。集中して研ぎ澄ませた一撃はワールドの拳を裂いた。が、勢いを弱めた程度だったので殴られて吹っ飛んでしまう。……痛ってぇ。痛み分けにしてはこっちが不利だな。

 

「コメット」

 

 しかもワールドはまたしても同じように隕石を降らせてくる。急いで体勢を立て直し走り出す。刀を置いて転がっていたブルースフィアを拾う。だがほとんど魔力もない今魔法を使う余裕はない、か。

 

「チッ」

 

 俺は舌打ちして、ブルースフィアを地面に転がす。余力を考えれば当然のことだ。

 続いてイクサバを手に取る。……二回奥義が撃てないとどうしても最大限活かしづらいんだが、仕方がない。隕石が絶え間なく降ってくるので足を止めずにワールドに接近。近接は己の肉体を使う気なのか、斬られたままの左拳はそのままに攻撃を繰り出してくる。斬れているせいで微妙に軌道が読みづらいので、無事な右拳より優先して肘から切り落とした。そのことに集中していたせいで殴り飛ばされ、その先で隕石が迫る。

 

「無双閃!」

 

 余裕が一切なかったので奥義を使用して隕石を両断するが、その後ろにも隕石が迫ってきていた。奥義を使うのは反動がキツい。なら奥義を使わず相殺するしかない。

 

「おらぁ!」

 

 イクサバを手放し拳で隕石を殴りつけた。イクサバの奥義効果で超強化された一撃が隕石を砕く、が代償として俺の右手は焼けてしまった。だがまだ指が動く。普段通りとはいかないが動くなら問題ない。

 

「……俺の、魔法の師匠は言った」

 

 ちらりと見れば転がしたブルースフィアがワールドの足元にまで届いている……狙い通りだ。

 

「『魔法って色んなことができるけど~、やっぱり相手の意表を突くのが楽しいよねぇ』」

 

 口調を真似して告げた直後、ブルースフィアに込めておいた魔力が爆発を起こす。

 

「くっ!」

 

 ワールドが爆破に足をやられて膝を突いた。俺は勝負を決めるつもりで駆け出し、足が縺れるのを右手で立て直しながら接近する。武器の一つを手に取った。片手では扱いにくいが、レラクルと戦ったオロチとかいうヤツが持っていた武器を模倣して作ってもらった特殊な刀だ。遠心力を使って伸びる刀の本領を発揮、間合いは充分を見て思い切り振るいワールドを袈裟斬りする。

 

 直前で少し後退されてしまい、切断し切ることはできなかった。

 

「……武器を消してはダメだが、吹き飛ばしておくべきだったな」

 

 ワールドはそう呟くと、無事な右手を俺に向けて突き出す。そして、強大すぎる魔力が俺の眼前に現れた。ぎゅる、と空間が中心に向かって歪曲していく。渦を巻くように空間が収縮していった後、

 

「エンド・オブ・ワールド」

 

 カッと白い光が俺の視界を染め上げたかと思うと、全身が焼かれて吹き飛んだ。

 

「まだ、息があるか」

 

 いつの間にか仰向けに倒れていて、ワールドが俺を見下ろしているのが見えた。

 

「だがもう動けまい。オレの勝ちだな」

 

 彼がそう言う中で瞬時に身体の状態を把握。全身黒焦げの状態だが、まだ身体は動く。……問題ないとは言わないが、勝ちを確信してる今が好機だ。動けよ、俺の身体。たった一回でいいんだからな!

 

「っ!」

 

 俺は無事だったパラゾニウムを右手で握り飛び起きた。ワールドが息を呑むのがわかる。

 

「リゾブル・ソウルッ!!!」

 

 残るありったけを込めた、文字通り渾身の奥義。漆黒の斬撃が幾重にも重なり、ワールドを細切れに――

 

「……キャンセル」

 

 しなかった。

 当たる直前で掲げられた右手に消去されてしまう。……ああ、クソ。届かなかった。

 

 急激に力が抜けてパラゾニウムは手から滑り落ち、足に力が入らなくなってへたり込む。

 

「……使わない、つもりだったのだがな。これはオレの負けか?」

「……いいや」

 

 ここでそうだ、と言ってしまえば俺の勝ちになるかもしれないが、元々そんなルールはなかった。

 

「あれはルールじゃなくてただの宣言だ。破ったところで負けじゃねぇよ」

「……そうか」

 

 ワールドは返すと拳を振り被ってそこに光を集束させる。

 

「反撃の余地がないように、一度葬る」

 

 死ぬか気絶しない限り負けを認めないと判断したのだろう、そう告げた。……全くその通り、だが。生憎ともう抵抗するだけの気力がない。今ので力を使い果たしてしまった。あいつらには悪いが俺はこの世界を滅ぼすのに力を貸そう。それがこの勝負の約束だ。

 

 諦めたくはないがもう一度パラゾニウムを拾って奥義を使うだけの力すら残っていない。

 

 ……ああ、これは俺の負けだな。

 

 ワールドの振り被った拳を眺めてそう思う。悔しいが仕方ない。俺の実力が遠く及ばなかっただけのことだ。

 

 いよいよワールドの拳が振られて俺へと迫る。目は閉じずそれを受け入れた。

 

 ……はずだったのに。

 

 ()()と共に剣が降ってきて、ワールドの拳を切り飛ばす。目を見張って一瞬なにが起こったのかわからず、しかしこんなことができるのはこの場に一人しかいなかった。

 

 俺が目を向けると、張本人であるモニカが紫電の名残を纏いながらなにかを投げた姿勢で立っている。

 

「……すまない! ()()()()()()()()()!」

 

 彼女はそんなことを言った。思わず笑ってしまう。そんなわかりやすい言い訳があるのかと。しかもワールドの拳を切り飛ばすだけの威力とタイミングで投げてきている。誰がどう見たって明らかだ。

 

「……これは、俺の負けかな?」

 

 自分一人で戦うと言った手前、俺はワールドにそう尋ねる。

 

「いいや」

 

 だが彼は首を横に振った。

 

「仲間に託された力も、お前の力だ。ルールには反しない」

 

 意外な言葉だった。正直言い訳が苦しくてお前の負けだと宣言されるかと思ったんだが。

 

「……そうかい」

 

 それにワールドにとって新世界創造という悲願は早く叶えたいモノだろう。それが遅れることを許容するとは思ってもみなかった。

 

 俺がその剣を手に取ると纏っていた紫電が流れ込んでくる。死にかけの身体に活力が戻ってきた。立ち上がり剣を振り被る。ワールドに抵抗の意思はないのか身構えなかった。両手もないままだ。

 

 ……ありがとな、モニカ。それとワールド。

 

 なにを使えばいいかはなんとなくわかった。彼女に託された力を持って使うべきはあの技だ。

 

「紫電一閃ッ!!!」

 

 真っ直ぐに剣を振り下ろす。俺の残りカスみたいな魔力と剣に込められた魔力が紫電の斬撃を発生させ、ワールドを両断した。

 俺のように往生際悪く足掻くこともなく、ワールドは消滅する。

 

『勝負は勝負だ。我が真なる契約者よ。ここに汝との契約を交わそう』

 

 どこからかワールドの声が聞こえてきて、俺の首に赤い石のついた首飾りが出現する。他の賢者が持っているのと同じモノだ。

 

「……ああ、悪いな。せめて、世界を旅して世界構築のデータだけは集めるようにするよ」

 

 言ってから、勝負が終わった安堵感とどっとやってきた疲労感やらに身体の言うことが利かなくなり、手を突くこともなくその場で倒れ伏した。

 

『……よく、その身体で動けたモノだ。オレのデータでもこの状態でオレを追い詰められる空の民は存在しない』

「お、おい!」

 

 ワールドの呆れたような声とモニカの慌てた声が聞こえてくる。

 

「悪い、もう無理だわ。寝る」

「このタイミングでか!? 確かに睡眠を削ってはいたのだろうが、おい寝るな!」

 

 駆け寄ってきたモニカに呼び止められるが、俺の意識は旅立った。死の淵に立って戦っていたんだ、これくらいは許して欲しい。

 

 ……ワールドと契約したことについては、また次目が覚めた時だな。

 

 ワールドの能力で治っていく身体の感触を味わいながら意識を暗転させていった。




あと一話後、一話の番外編を更新してインターバルになると思います。


※追記&補足
・【キャバルリー】について
実装当日に持ち込んだClassⅣジョブ。馬は召喚することにしました。
まだ使ってもいない時に書いたのでアビリティなどは使用せず。
馬の毛色はグランが黒、ジータが白だったので間を取って灰色に。
服装はグランが青、ジータが赤なのでダナンは黒で。
性格については厳しくも真面目で凛とした軍人、のような感じになる予定。

・【ランバージャック】について
未だ出番はなし。
馬が召喚できるなら動物も召喚すればええやん、と思ったのでどこでも使用可能。
適性はグランが斧で、ジータが楽器、ダナンが動物とそれぞれに特色を強めた形になる予定。
性格は心優しき野生児。

・唐突なオリジナル奥義『レゾナンス・オブ・ランス』
バアルが持つ共鳴効果を使ってバアルの力が宿った武器を含む同じ武器種を共鳴させ、その武器に宿っている能力を、注ぎ込んだ魔力を消費して一斉に発動させる。共鳴させることによってそれぞれの能力を高め合い、強力な一撃を放つことができる。
複数の同じ武器種を使わなければならないが、共鳴させる武器が多ければ多いほど威力を増す。下準備に時間がかかる分強力な技となっている。
因みに現在バアルの力が宿った武器は槍、銃、斧の三種しかないので、同系統の奥義は三つまで。ただしバアル本人がいれば共鳴させることができるのでどの武器種でも可能になる。
また市販の槍では全く効果を生まないため、星晶獣の力が宿っている、曰くつきであるなど強力な武器である方がいい。
ダナンが『召喚』持ちのグランにだけは絶対バアル武器は触らせんと誓っている理由の一つ。

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