ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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勢いで書きましたごめんなさい。
前回いい感じで終わったのになぁ……。

あと前話の後書きに補足説明を追加しました。そんなに重要ではありましたが、気になる方は戻ってみてください。
新ジョブとオリジナル奥義についてです。


帰ってくる場所

 目を覚ますと知らない天井が見えた。

 だが木造の天井なのであの後メネア皇国に捕まったというわけではないらしい。

 

「ようやく目が覚めたか」

 

 少し嬉しそうな声に顔を向けると、簡素な白いシャツに黒のスカートという滅多に見ない私服姿のモニカが立っていた。なぜか俺に背を向けていたが。

 

「ああ、モニカか」

 

 柔らかな布団の感触に包まれているので彼女がこの宿屋? に連れてきてくれたのだろう。

 

「あれからどうなった?」

「ダナンが気絶した後、ワールドとやらの能力で身体自体は治った。だが寝不足や疲労を解消するように丸三日眠っていたところだな。あのままセフィラ島にいるとメネア皇国に目をつけられかねなかった。だからこうしてセフィラ島から一番近い島に来て宿を取ったというわけだ」

「そうか」

 

 モニカの説明で大体の状況を把握できた。ワールドと契約できたのはとりあえず夢ではない。俺の勝ちなのもだ。ワールドと話せる首飾りはベッドの横の棚の上に置いてあった。

 

「色々してくれてありがとな」

「構う必要はない。私としても貴重な体験だった」

 

 礼を言っているというのに彼女は背を向けたままだ。……なんだ? 流石に表情を見れないと考えを読み取るのも難しいな。こういう時はそのまま指摘するのがいいか。

 

「……で、なんでずっと背を向けてるんだ?」

 

 俺の指摘にびくりと小さな肩が震えた。

 

「い、いや、気にしないでくれ」

 

 平然を装っているが、少し上擦った声だった。……ふむ。俺の顔を見られない理由があると考えてみよう。とはいえなにか後ろめたいことがあるわけでもないと思うのだが。武器を失くしたとか? いや、多分全部あのバッグに詰め込まれている。それが理由なら彼女の性分で顔を見られないというより気まずそうに謝ってくるだろう。つまり違う理由だ。

 

 もう少しよく室内を見渡してみようと思って上体を起こす。かけられていた布団が滑り落ちた。……ぴくっとモニカが反応する。

 おや? と思っていると違和感に気づいた。俺の服はワールドの攻撃で破けてしまったので、上半身のモノがないのはわかる。だが焼けていても残っていたはずの下の服がない。下着もない。全裸だ。俺の記憶が正しければ下は残っていたはず。

 なるほど、つまりはこういうことか。

 

「……なんだ、裸見ただけか」

「っ!?」

 

 呟くと後ろから見ても耳が赤くなっているのがわかった。……いやリーシャじゃないんだから。

 

「……はぁ。所詮はリーシャの姉だな」

「なんだと? 私はリーシャよりも大人だぞ」

「俺の顔を見て、もう一回どうぞ」

「……」

 

 しかしモニカはこちらを向かなかった。

 

「はぁ。ったく、お前がそんなんだからリーシャがあんなんなんだぞ」

「う、煩い。仕方がないだろう、私はこの歳になっても子供扱いが抜けないのだ」

 

 そこでようやく振り返ってくれた。「……どうせ私は子供っぽいんだ」と唇を尖らせて拗ねている。そういうところが可愛く見られるんだろうなぁ、とは思うが。

 

「まぁ、とりあえず気にするな。見られても気にするようなモノじゃないし」

「こちらが気にするのだ。……これまで一切そういう縁のなかった私にはな」

 

 羞恥と諦観が混じったような珍しい表情をしている。

 

「まぁリーシャの姉だと考えれば不思議じゃないだろ」

「……姉代わりがここまで不名誉に聞こえたことがないぞ」

 

 この姉にしてあの妹あり、と言われれば納得できる。あとちゃんとしたお相手がいなければ秩序を重んじる彼女らが恋人さえいない、というのはそう珍しいことではないのかもしれない。根が真面目だと結婚するまでそういう行為はしない、と決めている人もいるだろうし。そこは個人の裁量だ。

 

「しかしあれだけリーシャを情けないとか言ってた癖に、お前もそう変わらないんだな」

 

 セフィラ島を探索する一ヶ月の間で彼女とは色々な話をした。その中でも一番話題に上がるのがリーシャのことだったのだが、姉らしく「全くあいつは、十にも満たない子供か」と呆れた様子を見せていたのに。

 

「なんだと……?」

 

 ぴくり、とモニカが眉を寄せて険しい顔をする。

 

「私がリーシャのようだと言うのか?」

「ああ。リーシャよりそれなりに年上なんだろ? なのに男の裸見ただけで動揺するとか、今頑張って成長してるリーシャを思えばリーシャ以下だな」

「なんだと!? 私をあのリーシャ以下だと言うか!」

 

 俺に煽られてつかつかと憤慨した様子で歩み寄ってきた。

 

「ああ。リーシャも今のままならお前の年齢になる頃には問題なくなってるだろう」

 

 あいつから羞恥が消えることは想像できないが、ある程度吹っ切れる様子ならなんとなく想像できる。

 

「……いい度胸だ。私の大人っぽさを見せてやろう」

「俺にはいいから彼氏でも作るんだな」

 

 まぁ、今更無理だろうが。

 

「……いいだろう、受けて立つ」

 

 モニカはそう言うと、ばさっと着ていた服を脱いだ。

 

「あ……?」

 

 目の前に飛び込んできた無駄な脂肪のない引き締まった身体なのに胸元の(無駄な)脂肪があるという小柄ながらもプロポーションで見れば見劣りしない体型に驚くしかない。もちろん下着に覆われてはいたが。

 

「お、おい、モニカ?」

 

 だが俺はそこまでしろとは言っていない。というか俺じゃないヤツに見せてくれと言ったはずだが。彼女はそのまま俺に跳びかかってくる。見た目相応に身軽だった。

 

「おい、落ち着けって。煽ったのは悪かったから」

 

 ついついリーシャ相手のように煽りすぎてしまった。モニカに対しては悪手だったらしい。この一ヶ月ぐらいしかまともに関わってないからわかっていない部分があるのは仕方ないと思うのだが。

 

「……私がリーシャより大人であるところを見せてやる」

「そんな身を切らなくてもいいから。悪かったって、ほらよしよし」

 

 俺は他のヤツにやっているように頭を撫でて宥めようとするのだが、

 

「そうやってすぐ菓子を渡すか頭を撫でるかしてくるのだ! 私は子供ではない!」

 

 モニカ、心の叫びである。

 

「わかった、わかったから。別に俺は子供だから撫でてるわけじゃないって。こうすると落ち着くって言うから」

 

 俺が煽ってしまった後ろめたさもあり、できるだけ優しく接してやることにする。俺が裸なので肌の密着箇所を意識してしまわないようにしなければならない。胸元で形を変える柔らかな膨らみもである。

 

「……うぅ。どうせ私なんか一生女扱いされずに十年も二十年も子供っぽく見られて気がついたら小さいおばさんになって年老いていくんだ……!」

 

 少しは落ち着いたかと思ったが今度はネガティブになってしまった。……アラサー拗らせてんなぁ。

 

「大丈夫大丈夫。モニカにもいつかいい人が見つかるって」

「他人はいつもそうやって言うのだ。二十年以上相手なんて見つかってないというのに」

 

 若干瞳から光が消えた。良くない傾向である。

 

「種族がドラフなら良かった。この低身長も大人と見られるし。ヒューマンでこの身長だから子供に見られるのだ」

 

 随分と思い悩んできたんだろうなぁ、と思いながらどうやって宥めれば丸く収まるのかと考えていく。……とりあえず今までの経験通りに声をかけてみよう。

 

「そう言うなって。モニカは充分魅力的な女性だから。種族とか見た目とか関係なくそう見てくれる人はいる」

「本当か?」

「ああ」

 

 不安そうに見上げてくるのでしっかりと頷きを返す。できるだけ不安を払拭できるように。

 

「……そ、そうか。それで、その、ダナンはどうだ?」

 

 モニカにそう尋ねられて、少しだけ固まってしまう。だがこういうのはこの状況だと簡単に伝わってしまうのですぐに答えを出さなければならない。

 

「俺はちゃんと女性として見てるぞ」

「そ、そうか……!」

 

 声が喜色に変わる。……答えとしては間違ってない、かな。じっくり考えても俺の周りにいるヤツで言えば……それこそオーキスは一番一応年齢が低いわけだし。あと某ハーヴィン皇子とも約束があるし。ハーヴィンはどう足掻いても小さい子供の身体のままなので、モニカより見た目的なあれがな。

 

「で、では私に色香を感じるか?」

 

 モニカはそう言って俺に首に手を回す。余計に密着するような体勢になってしまうが、モニカはなにを考えているのか。ただ感じないと答えることはこれまでのやり取りから不自然な流れで、正直に言えば色香は感じている。当たり前だ。モニカは低身長で子供っぽく見られがちだが大人っぽさも兼ね備えている。身体つきもだが性格もそうだ。リーシャといる時の大人な対応は素直に立派だと感じる。

 

「ああ。もちろんだろ」

「そうかそうか」

 

 モニカは嬉しそうに何度も頷いていた。これで良かったらしい。

 

「では……私をオトナにしてくれないか?」

 

 ……え?

 

 思わず表情が固まってしまった。モニカは潤んだ瞳で俺を見上げてきている。……なんだこのモニカ。これがリーシャにも受け継がれた上目遣い……かどうかは知らないがぐっとくる表情である。

 

「……え?」

 

 内心で思ったことをそのまま声に出し直した。

 

「……私は子供っぽい見た目のせいでこれまで一切男と縁がなかった。どうせこれからも一緒だ」

 

 そんなことはない、と言うのは簡単だがそれを理由に断っては「やはりダナンも一緒だったんだな」と言って拗ねる可能性もある。

 

「こんな機会でもなければ私なんて一生未経験だ」

 

 目に光がなかった。

 

「……でもお前はそれでいいのか? そんなって言うとあれだが好きでもない男となんて」

「それなんだが……」

 

 モニカはそっと目を逸らして薄っすら頬を染める。

 

「……この一ヶ月、その、なんだ。悪くはなかった」

 

 妙に照れ臭いことだが、確かに俺自身も悪くはなかったと思っている。それはおそらくモニカが根本的に善人で人柄がいいという理由なのだろうが。

 

「……本当に俺でいいのか?」

 

 改めて聞き直す。モニカも根が真面目だから遠慮したい相手だろうと思っていたのだが。

 

「ああ。私がいくら切羽詰まっていてもいいか悪いかくらいはある。……だから、問題ないと言っている」

 

 モニカの顔は赤かった。この一ヶ月で随分と好意的に思われたモノだと思いつつ、それなら俺に断る理由はないと考える。最近受け入れすぎて主にオーキスから咎められているが、ここまで来たらそれ以外の選択肢を持たなかった。

 

「そうか。なら、オトナにしてやろうな」

「っ……」

 

 言うとモニカは顔を真っ赤にしてしまう。リーシャみたく気を失わないだけマシなのかもしれない。

 こうして、俺はモニカにまで手を出すことになったのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 モニカと何夜か過ごした後。

 

「では私も“黒闇”に加入しよう」

「いいのか? 第四騎空挺団の船団長だろ?」

 

 事後心なしか晴れやかな表情をしたモニカがそう言い出したので尋ねたのだが。

 

「構わないだろう。今はヴァルフリート団長もいることだし、こんなこともあろうかと後進の育成には力を入れてきたつもりだ」

 

 ということで、モニカが“黒闇”の一員となったのである。

 それからアウギュステに戻ったのだが、

 

「……ダナン、おかえり」

 

 オーキス含むほぼ全員に迎えられて俺達は無事帰ってきたんだと実感する。

 

「お帰りなさい、ダナン」

 

 気になるのはリーシャである。彼女はそれはもういい笑顔で出迎えてくれた。……一見すると全く怒っていないかのようである。だがそんなわけがないと俺は知っている。

 

 なぜなら戻ってきた俺はモニカと腕を組んでいるのだから。

 

「それで……その腕はなんですか?」

 

 リーシャはそのままの笑顔で尋ねてくる。それが逆に怖い。

 

「新たに団員となったモニカだ」

「改めてよろしく頼むぞ、リーシャ」

「それはいいんですけどなんで腕組んでるんですかって聞いてるんですよ」

 

 トーンも全く変わらない。それが不気味さを増していた。

 

「実はな、リーシャ。私もダナンに誑かされてしまってな」

 

 モニカははにかむように笑って頭の後ろを掻く。……リーシャの額に青筋が浮かぶのが見えた。

 

「……へぇ? モニカさんはダナンに手を出したんですか」

 

 リーシャはゆっくりと近寄ってくる。

 

「なぜ私が、なんだ? ダナンが手を出したのかもしれないぞ?」

 

 モニカは平静を装って答えているがリーシャの妙な迫力に冷や汗を掻いていた。

 

「ダナンからは手を出さないってわかったんですよ。ダナンがするのは女性を口説くことだけです。ダナンと女性が二人きりで長期間一緒にいてなにもないと思うほど私はバカじゃないんですよ」

 

 俺はリーシャにそんな風に思われていたのか……。だが否定できなさそうなのが痛い。

 

 リーシャはモニカの真ん前に立つともにぃと彼女の頬を両手で挟んだ。

 

「じっくり、話聞かせてもらいますね?」

 

 リーシャは終始笑顔のままモニカを手早く拘束して引っ張っていった。

 

「ま、待てリーシャ! 落ち着いて話を!?」

「話ならこれからじっくり聞かせてもらいますので」

 

 やはり小柄故なのか、モニカは成す術なく引き摺られていった。

 そこにひしっとオーキスが抱き着いてくる。

 

「……一ヶ月も放置して他の女作って、もう」

「悪いな」

「……ん。わかってたことだから、仕方ない」

 

 わかってたとか言わないで欲しい。

 

「……でも、その分はちゃんと取り返す」

 

 相変わらずオーキスは俺の周りの中でも一番積極的である。

 

「上手くいって良かった」

 

 俺の右腕を取って言うのはフラウだ。彼女はデビルからある程度事情と経過、そして結果を聞いているのだろう。彼女は俺の首に提げられている飾りを掌に載せた。

 

「でも、待たせた分はちゃんと埋めてもらうからね」

 

 それはそれとして妖しげに笑っている。

 

「ダナンちゃん疲れてるでしょ? お姉さんが癒してあげるね」

「私もお兄ちゃん癒す〜」

 

 ナルメアが申し出ればアネンサも追随し、皆がわらわらと寄ってくる。

 俺の周りで口々にああだこうだ言っている様子に、思わず笑みが零れてしまう。

 

「どうした?」

 

 アポロに尋ねられて、周囲に集まっている者達の存在を確かめながら、俺は心から本心を口にする。

 きっと、だから俺は死ぬ気で戦い、ここに戻ってきたのだろう。

 

「いや、なんていうか」

 

 彼女達の気持ちには応えられていないが、それでも全員を大切に想っているのは間違いないのだろう。

 

「……帰ってこれて良かったなぁ、って」




というわけで最終回感出して終わりましたが、まだ幕間Ⅱが続きます。

とりあえず明日は一話の番外編の予定。
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