ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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この番外編で一番描きたかったところかもしれない。

Twitterでは報告しましたが本日100連が当たりムゲンなどが出ました。天井まであと五十連になったので天井してリミジャンヌを取得しました。
……今日の新キャラはそれだけでしたが充分前半の爆死を取り返す当たりだったと思います。


EX:鮮烈なる力VS漆黒の断罪者

 入場してきたのは二人共エルーンだ。

 

 片や優勝候補の一角を予選で倒しアリーザを退けたフラウ。

 片や予選で他の参加者を瞬殺しすぎた結果早く終わりすぎたため実力に疑いを持たれている漆黒の断罪者。

 

「な、なぁあれって」

「うん。多分というかシス君だね」

 

 ビィの言葉にジータが同意する。漆黒の断罪者と名乗った彼は、普段と違う仮面をつけたシスだった。十天衆がなぜ、と考えるが答えは出ない。

 シスはシエテの頼みでこの大会に参加しているのだが、それを団長であるジータは知らなかった。

 

 騎空団の運営費用がバカ高いため稼ぐのは別に構わない。稼ぎ方も合法でという以外に縛りは設けていなかった。ギャンブルも可である。

 とはいえ十天衆がわざわざ動くなにかがこの大会にはあるのだろう。

 

 まぁシェロカルテの行方という世界にとって一大事なモノを探っているのかもしれないが。

 

 変な恰好の参加者が多いな、などと審判が話している間にリング上で二人は対峙する。

 

「「……」」

 

 両者は対峙してこの相手は強い、と確信する。

 

「漆黒の断罪者は予選で他の参加者を瞬殺した、とされている。だが速すぎて観客が目で捉えられていなかったという事態が発生し、嫌疑がかけられているぞ! フラウが紛れもなく強いことはわかっていると思うので、ここで是非彼の実力も見てみたい!」

 

 審判が場を盛り上げつつ、

 

「さぁ、それでは始めよう! 第七回戦、ファイトッ!!」

 

 試合開始の合図をする。と同時にシスの身体がブレた。一般客の目では正確に捉えられないほどの速度でフラウへと突っ込んだのだ。

 だがそれは一般客の話。シスが放った拳はフラウの蹴りで受け止められていた。

 

 互いの視線が交錯する。

 

 シスはこれくらいの動きにはついてくるか、という確認。

 フラウはこっちが蹴りなのに吹き飛ばなかったな、という喜び。

 

「は、速い! 漆黒の断罪者、これまでのどの選手よりも動きが速いぞ! だがフラウも防いでみせた! この勝負、面白くなりそうだぁ!」

 

 審判の盛り上げに応じて観客の熱気も高まっていく。

 

 シスが高速でフラウの背後へと回り込む。しかし最小限の動きで蹴りを合わせて防いでみせた。シスはそれを受けて更に速度を上げながらフラウの周りを移動して攻撃を重ねていく。フラウもそれを蹴りで相殺させた。

 観客にはシスが残像すら残るほどの速度で動いているように見えているのだが、それをフラウはコンパクトに動くことで対応していた。高い次元の試合に観客は大いに盛り上がっている。

 

 となると次に観客が期待するのは、試合が動くこと。

 

 いつどちらがなにを仕かけるのかを期待しながら観ていた観客達は、徐々にシスの動きが加速しているのを理解した。シスの攻撃が掠ることが増えてきたのだ。フラウも対応してはいるのだが、どうしても受け損なうことが出てきてしまう。

 それはフラウよりもシスの方が速いため当然のことなのだが、それでも直撃しないように立ち回っているのは脅威の一言である。

 

「あの姉ちゃん凄ぇぜ……仮面の兄ちゃんと互角だ」

「うん。実際に戦ったからわかるけど、シス君の強さは速さだけじゃなくて、力もなんだ。筋力っていう意味じゃなくて、速さをそのまま攻撃の威力に換えてるって言うのかな。徐々に調子を上げてくシス君の攻撃を、ずっとコンパクトに威力を抑えた蹴りで相殺し続けてるのは、あの女の人が凄いんだと思う」

 

 攻撃を受けた時はあの細腕のどこにそんなパワーがと思うのだが、速く動けるという利点を攻撃に変換していると思えば納得がいく。

 ただそれを腕力の三倍はあると言われているとはいえ蹴り一発で相殺できているフラウも充分おかしい。

 

「……ふふっ」

「なにがおかしい」

 

 戦いの最中に笑みを見せるフラウにシスが手を休めずに攻撃しながら返す。

 

「楽しいなと思って。本気の本気で戦えないのが残念なくらい」

「……」

 

 フラウの言葉になにも返さなかったが、シスも同様だった。戦いが楽しいと思っていることではなく、本気の本気が出せないという点だ。

 シスは暗殺者であるために本気を出すとはつまり、相手を殺してしまう可能性を高める。

 フラウは個人の全力なら兎も角、契約している星晶獣の力を駆使してこその本気だ。大会のルールに反してしまう。

 

「でも勝ちは捨てないけどねっ」

 

 フラウはシスの攻撃の一つに狙いを定め、相殺させるだけに留めておいた威力を本来の全力に変えて蹴りを当てる。攻撃力という点ではシスを上回っていたためにシスの体勢を崩すことに成功した。

 

「っ……!」

「ああっとここで漆黒の断罪者の動きが止まったぁ!」

 

 体勢を崩されてはシスもすぐには動けないため、フラウはそこを狙う。

 

「ふっ!」

 

 渾身の回し蹴りは衝撃が観客席まで届くほどの威力だったため、直前で回避したシスの体勢を風圧で阻害した。そこを追い立てるようにフラウは攻める。シスの速さを邪魔できるほどの風圧を起こす威力の蹴りを放つ、なんてことが可能なのはシスと同じ十天衆の中でも数人しかいないだろう。

 

「……衝動は止められぬ」

 

 自身を強化するアビリティを使用、動きを加速させてフラウ渾身の蹴りを拳で相殺する。その間に体勢を立て直したシスは瞬時に背後を取って攻撃を、というところで動きを読んでいたらしいフラウの回し蹴りが当たる――かに思われたがそこにいたシスは残像だった。

 シスは既にフラウの蹴りが向かう先とは別方向に移動しており、蹴りを放った直後の彼女の腹部に拳を叩き込んだ。

 

「この試合最初の直撃は漆黒の断罪者だ!」

 

 審判が声を上げて遂に試合が、と思われたがフラウは持ち前の脚力で吹き飛ぶのを抑えて手でシスの腕を掴んでいた。どこかで受けたような戦法で、フラウは避ける術のないシスへと浮かせていた脚を戻して全力の蹴りをぶつけた。シスの身体は勢いよく弾かれる。地面に足を着けて踏ん張ろうとするがそれでも勢いが止まらずリング際まで来て、ようやく停止した。

 

「……」

 

 シスは掴まれていない方の腕を防御に使ったのだが、その防御の上からでも傷が出来て血を流していた。防御に使った左腕も折れてはいないがヒビくらい入っているかもしれない。

 

 ……俺が相殺したと思っていた一撃は、まだ本気じゃなかったか。

 

 アビリティまで使って相殺した、と思っていたのだがその蹴りよりも格段に威力が高い蹴りだった。当然本気の蹴りはその分溜めが長いため動きの速いシスに当てられないという理由で、足を止めさせる必要があったのだと思うが。

 

「漆黒の断罪者が先に攻撃を入れたかと思いきや、フラウも負けじと反撃! これは凄まじいバトルだ!」

 

 二人の攻防に会場は盛り上がっていたが、

 

「……そろそろ決着をつけてやる」

 

 シスは構わず勝負をかけにいく。フラウは楽しげな笑みを浮かべたままシスの行動を待つ。

 

「……これで断ち切る」

 

 途端、シスが三人に分裂した。……ように見えるほどの速度で動き続けているのだとは思うが。

 

「こ、これは一体!? 漆黒の断罪者が三人いるように見えるぞ!?」

 

 会場にもどよめきが起こる。シスは三人になったままフラウへと駆け出し、

 

「――天地虚空」

 

 三人それぞれが攻撃を仕かけていく。

 

「夜叉閃刃ッ!!!」

 

 単純計算で先ほどの三倍の攻撃がフラウを襲うのだが、彼女は笑みを浮かべたまま右脚を高々と掲げると、

 

「はあぁ!!」

 

 ただ思い切り地面へと振り下ろした。観客席の一番上まで衝撃が届くような一撃がリングを真っ二つに割り、両側を持ち上げる。流石のシスも足場を狂わされては持ち前の速さを活かし切れず三人の分身は一人にまで減ってしまう。それでも怯むことなく強行した結果、シスの拳がフラウへと届いた。フラウの身体はなんとかリング際で踏ん張ったが、

 

「……これ以上は、流石に殺し合いになっちゃうかな」

 

 そう呟くと、

 

「楽しかったよ。また戦おうね」

 

 軽やかな足取りで自らリングを降りた。

 

「…………っと、私としたことが呆然としてしまいました! 漆黒の断罪者が三人に分裂しかかと思ったらフラウが一撃でリングを割って、それでも一撃入れられてしまいましたが、今、彼女自らの足でリングを降りました! よってこの勝負、漆黒の断罪者の勝利ですッ!!」

 

 各地で武闘大会を見てきた審判ですら唖然としてしまう事態ではあったが、ハイレベルな試合を見せてくれた

二人に惜しみない歓声が上がる。

 

 シスは腕を組んだ姿勢で喝采を受けながら、俺はやるべきことをやるだけだと思い直してリングを去った。

 

 その後リング修繕のため一時休憩となり、その間に目を覚ましたフェザーとランドルが決着をつけることとなった。

 リングが破壊されていることと腕相撲などでは拳を重視するフェザーが有利なのでは、という意見が上がったために究極の真剣勝負(じゃんけん)の三本勝負で二勝した方が勝者とされた。

 

 結果、真っ直ぐなフェザーがランドルの読みに敗北した。だが二人はいつか戦いで白黒をつけてやると誓い合い、今回は一旦の引き分けとしたのだった。

 

 その後リングの修繕が終わってからスカイグランデ・ファイト主催者にして民衆から圧倒的な支持を集めるハーヴィンの男性、アルハリードが勝者となったランドルと戦った。

 

 アルハリードは漆黒の断罪者並みの速度と力を見せつけ、終始ランドルを圧倒してみせる。

 支持する彼の活躍に会場は大きく盛り上がるのだった。

 

 こうして準決勝に駒を進めた四人が決定する。

 

 性格が悪いと噂され、悪役っぷりで観客から反感を買いまくるエヴィルマスク。

 有名強者と二回当たり、しかし今は策を弄しているのではないかと疑われているサイファーマスク。

 圧倒的な力を見せつけたフラウを倒して勝ち上がった最速の男漆黒の断罪者。

 支持を集め実力で魅せた主催者兼参加者にして英雄アルハリード。

 

 エヴィルマスクVSサイファーマスクでは色違いの同じ恰好をしているということでなにか関係があるのではないかと噂されている。この勝負では魔物が事前にけしかけられるのか、どちらかが自らリングを降りるのか、などなど嫌な雰囲気が漂っている。

 ただし純粋な勝負という点ではヘイトを集めまくっているエヴィルマスクではなく、サイファーマスクに勝って欲しいという声が大きいようだ。

 

 漆黒の断罪者VSアルハリード。アルハリードの活躍する姿を見たいと思う者も大勢いるが、準々決勝の戦い方を見る限りどちらも速くて強いタイプだ。つまりどちらがより速くて力強いかによって勝敗が決すると思われた。

 今大会最速決定戦だと言う者もいるくらいに注目度が高い勝負だ。

 

「きゃぁ! 場内にまた魔物が!?」

 

 突如現れた魔物に悲鳴が上がり動揺が広がる。なぜか、エヴィルマスクのいる近くで魔物が現れた。

 だが彼は慌てず、襲われそうな人を助ける素振りも見せない。

 

「フラウ」

 

 一言そう告げると、現れた女性が一発の蹴りに炎を纏わせて現れた魔物を一掃した。

 

「これで、今回のは全部かな」

「ああ。魔物の襲撃は結局、あいつの対戦相手を少し消耗させる程度で留めてる。客に被害が出ないのもそうだが」

「ええ。でも、なんでこんなことするんだろう」

「さぁな。だがフラウには、とりあえず一生わからないことだろうよ」

「……予想がついてるの?」

「まぁな」

 

 二人の会話から、今大会のダークホースとも言われていた彼らが知り合いだという事実が発覚する。

 

「さて、そろそろ行くか」

「試合、頑張ってね」

「ああ」

 

 言ってからエヴィルマスクは一人リングへと歩いていった。

 

 本気でサイファーマスク――グランと勝負するのは久し振りかもしれない。最近はどちらかというと共闘、同じ側で戦うことが多かった。

 

 ……【ベルセルク】でボコボコにされた時以来かね。

 

 そんなことを思いながら、ここに来た目的を達成するためにエヴィルマスクと名乗ったダナンはリングへと向かう。

 

「さぁ、いよいよ準決勝! まずは全く同じ恰好をした二人の戦いだ! エヴィルマスクVSサイファーマスクッ!!」

 

 エヴィルマスクの登場に会場中がブーイングを起こす。サイファーマスクへの疑いはあってもエヴィルマスクよりはマシなようだ。

 

「おっとここで新情報だぁ! 先ほど魔物の襲撃があった近くにエヴィルマスクがいたのだが、そこでフラウがエヴィルマスクと親しげに話しているところを見かけたとのことだぞ!」

 

 審判が告げると、魔物の襲撃がサイファーマスクの対戦相手にあったこと、ではなくエヴィルマスクがフラウと親しげだったことに対してブーイングが巻き起こる。マスクの下でダナンが「煽るんじゃねぇよ審判」と苦笑していたのは内緒だ。

 とはいえ順調な流れなので気にせず、リング上に上がる。反対側から入場してリングに上がったサイファーマスクと目が合った。

 

 真剣な面持ちの相手を見て、逆にニヤリと笑う。彼にとってこの勝負こそが本番なのである。

 

 ……さぁ、精々俺の計画のために利用されてくれよ? グラン。


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