ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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お久し振りな気がします。
今日はエイプリルフールですので、特別な番外編になります。

タイトルの通り通常の番外編EXとは違う、IFの番外編です。もしもの世界のお話です。
もしもボックス風に言うなら「もしもダナンがグラン、ジータ、ビィと一緒にザンクティンゼルで育ったとしたら」という感じになります。

なぜこういうのを書こうと思ったかですが、エイプリルフールに近年IFルートを書く作品があって、それが好きだからです。具体的に言うとリゼロです()。

注意事項をよくお読みの上、読むか読まないか決めてください。

※この番外編はエイプリルフールネタのため、本編ではありません。一切関係ありませんとは言いませんが、別の物語として考えてください。
※るっ関係ではありません。
※IF世界のため本編とはキャラの関係性などが違ってきます。そういったモノが許せる方のみお読みください。
※本編の重大なネタバレはないはずです。本編の細かな伏線などはありますが、気にしなくても平気です。
※約五万字と長いのでエイプリルフールイベントなどをこなす人はその後でも大丈夫です。明日になったら削除することはありません。


IF:『ゼロから共にイスタルシアへ』

 島民が自給自足をしているために他島との交流が少ないザンクティンゼル。

 

 その島から途轍もなく強い男性二人と巫女として滞在していた女性が空の果てへと旅立った。

 それから十年近い月日が流れ、その子供達がザンクティンゼルに暮らしていた。

 

 茶髪の男の子と金髪の女の子の双子。そして小さな赤き竜。ある日、双子の父親が突然汚らしい黒髪の男の子を連れてきた。

 

「今日からこの子はうちの家族だ」

 

 双子の父はそう言って紹介した。

 

「ぼくグラン。よろしくっ」

 

 茶髪の男の子は無邪気な笑顔を浮かべて黒髪の男の子に手を差し出す。汚らしくて臭い相手であっても嫌な顔一つしないいい子である。だがその相手はぱしんと手を払いのけた。双子とは違ってやさぐれた目で睨みつけている。

 

「きやすくしてんじゃねぇよ」

 

 刺々しい言葉にグランは怯んでしまう。当然空気も悪くなるが、

 

「そんなこといっちゃダメでしょ!」

 

 双子のもう片方が叱りつけるように言った。だが彼はぷいとそっぽを向くばかりだ。それに女の子、ジータと赤い竜のような生物、ビィがむっとした様子を見せる。

 

「四人共仲良くな」

 

 そんな様子に父は苦笑しながら、仲良くなるためには裸の付き合いだと言ってまとめて風呂に入れてやった。そこでもまぁ一悶着あったのだが、後のことは当人達に任せて父はまたどこかへ行ってしまうのだった。

 それから夕食になったのだが世話をしてくれている女性が作った料理に、黒髪の男の子、ダナンは手をつけなかった。

 

「ど、どうしたの? お腹空いてない?」

 

 女性はできるだけ優しく声をかける。島の大人達はダナンが双子の父と共に旅へ出た極悪非道の問題児の子供であるということを聞いていた。だからこそ接し方に迷いがあるのだ。

 

「……これはなんだ?」

 

 だが彼は貧しい孤児として育った影響で、知らないだけだった。

 

「えっ? ……えっと、シチューって言う料理よ?」

「りょうりってなんだ?」

「えっ!? ……食べ物を美味しく食べられるようにしたモノ、かしら」

 

 思わぬ質問にこれで合っているのか迷いながら答えを返す。ダナンはじっとシチューを見つめていた。存在すら知らなかった目の前の白い液体が食べ物であると認識しているのだ。だが彼が普段口にしているモノが入っていない。

 

「たべものか。けどむしとかねずみがはいってないぞ?」

「「「っ!?」」」

 

 彼は不思議そうに首を傾げているが、一般的にそういったワードは食事中に出してはいけない。

 

「うへぇ、へんなこというなよな」

 

 ビィがしゃりしゃりと齧っていたリンゴから口を放して嫌そうな顔をする。グランとジータも虫が入っていないかちょっと気にし始めてしまった。

 

(食べ物と言って虫と鼠が出てくるなんて、スラム街にでも住んでたの? もう、あの人はなんでこの子を連れてきたのよ!)

 

 女性は頭の中でそう考えて彼を連れてきた男を恨む。

 

「……えっと、虫や鼠は料理には使わないのよ」

「そうか」

 

 少し引き攣った笑みで告げると、ダナンはあっさりと頷いた。

 どうこの料理を食べるのかで少し悩んだ後、グランとジータがしているようにスプーンで掬って一口入れる。

 

「っ!!」

 

 口にした瞬間、ダナンが口元を押さえて俯いた。

 

「だ、大丈夫? 口に合わなかった?」

 

 突然変わった様子に慌てて腰を浮かせる。他三人も心配そうな表情をしていた。だが、そんな彼らとは裏腹に顔を上げたダナンは――無邪気な笑顔を浮かべていた。

 

「これがりょうり、これがりょうりか! おいしいというのはこういうことか!」

 

 やさぐれた様子とは打って変わってきらきらと目を輝かせている。あまりの豹変っぷりに四人がぽかんとしたほどである。

 

「なぁ! りょうりおしえてくれ! おれもできるようになりたい!」

「え、ええ……」

 

 ダナンに予想外の視線を向けられて戸惑いながらも、女性は頷いた。かつてのあの男を知っている身としては、不思議で仕方がない顔だったのだ。

 食事中、ダナンはずっと笑顔だった。

 

 その後寝る前になって、女性は三人に話をすることにした。まだ心が出来上がっていない子供の時期なら、そしてあの人の子供達なら彼をきっといい方向に導いてくれるのではないかと思ったのだ。

 

「ダナン君は多分、色々知らないだけだと思うの。家族とか友達とかもね。だから、できれば三人にそういうのを教えてあげて欲しいの」

 

 ただの希望的観測かもしれない。それでも彼女はそう言った。将来お人好し代表として有名になる双子はあっさりと頷く。

 それから寝る時になってとりあえず床の端で寝転がればいいかと思っていたダナンを、顔を見合わせた三人が頷き合ってから、

 

「つかまえた! グランそっち!」

「なにしやがる」

「つかまえたっ!」

 

 ジータが左腕を掴み、グランが反対の腕を掴んだ。楽しそうなのは結構だが寝るのを邪魔しやがって、と思うばかりである。

 

「ビィ!」

「おう!」

「うぎゃっ」

 

 二人でダナンを寝室に引っ張り、それでも抵抗する彼をビィが正面から突撃して押し込んだ。結果ダナンは抵抗できずベッドに倒れ込む形となる。

 

「じゃまだ、このトカゲ」

「オイラはトカゲじゃねぇ!」

「いいからここでねるの」

「かぞくはいっしょにねるものなんだよ」

 

 双子より一歳年上とはいえ、三人がかりでは抵抗することもできない。ため息を吐いた。

 

「わかったよ、ここでねればいいんだろ」

 

 ぶっきらぼうな言い方だったが思い通りにいって三人が笑い合う。

 

「でもおもいからどけ」

「やなこった」

「……」

 

 寝るに寝れないから退いて欲しいのに、と思いながらも言うことを聞かなさそうなビィを見て嘆息した。

 

「……はぁ」

 

 そして目を閉じる。いきなり生活環境が変わって疲れたのだ。

 

「おやすみくらいいえよぅ」

「はいはいおやすみおやすみ」

「てきとうかよ!」

 

 ビィのツッコミが炸裂するも、少し煩いなと眉を寄せただけで眠ってしまう。本当に疲れていたのだ。

 

 それから四人は一緒に過ごして、ダナンも少しずつ三人と仲良くなっていった。料理を教わって才能を現したのは意外だったが、そういう理由で街の人とも接していく。親のことを理由に不安がっていた大人達も受け入れていった。

 

「グラン、ダナンも! 危ないからやめてって!」

 

 なぜか張り合いたがる二人が、今日は崖登り勝負をしていた。先に上まで登った方が勝ち、というルールである。それをジータとビィが呆れと心配の混じった顔で見守る。最近ではいつものことだった。

 

「へへっ。こりゃ俺の勝ちだな」

 

 ダナンが素早く登って差を離す。グランは悔しそうにして一気に登ってきた。その結果足を踏み外して、そのまま落下する。

 

「っ〜〜〜!!」

 

 後頭部を勢いよくぶつけ、手で押さえながら悶絶して転げ回った。

 

「ははっ。じゃあこの勝負も俺の勝ち、ってあれ?」

 

 無様なグランを笑って登っていくダナンも足を踏み外して、落下する。

 

「っ〜〜〜!!」

 

 後頭部を勢いよくぶつけ、手で押さえながら悶絶して転げ回った。

 

「こりゃ引き分けだな!」

 

 同じような格好で悶絶する二人を見てビィが笑う。

 

「もうっ、二人共危ないって言ったでしょ」

 

 頰を膨らませて怒るジータ。ダナンは頭を撫でながら彼女に近づくと、別の手でジータの頭に手を置いた。ちゃんと土は払ってある。

 

「っ……」

「ジータがちゃんとしてくれてると助かるよなぁ。よしよし、いつもがんばっててえらいいな」

 

 そして撫でた。ジータは払うべきか迷ってされるがままになる。ジータは世話の焼ける双子の兄と小さい竜、あと友達がいるくらいなので身近な年上が少なかった。よく「ジータちゃんはしっかりしてるわね」と言われるくらいである。だがダナンという身近な年上が現れたことで素直に甘えられるようになっていたのだ。

 

「ジータ、ごまかされてるぞ!」

「はっ!」

 

 ビィに指摘されるまで先ほどまでの怒りがどこかへ行ってしまうくらいである。

 

「ちぇっ、ビィはするどいな。よしもっとなでてやろう」

 

 しかもダナンはこれを狙ってやっている。それはわかっているのだが、どうしても抗えないのであった。

 

「あ、おい! ジータになにしてやがる!」

 

 そこへ三人と同年代の少年アーロンがやってくる。彼は傍目から見れば一目瞭然なのだが、ジータに片想いをしているのである。

 

「よう、メーロンじゃん」

「アーロンだよ!」

「マーロンな」

「だからアーロンだって! わざとだろ!?」

 

 ダナンとしてはからかい甲斐があるのでそれなりに気に入っているのだが、アーロンとしてはジータを取り合う(?)ライバルのような存在である。食ってかかるのは当然だった。

 

「グラン! 今日こそダナンをたおすぞ!」

「わかった!」

 

 アーロンはグランを誘ってダナンに挑む。

 

「上等だ、やれるもんならやってみやがれ! いくぞ、ビィ!」

「オイラかよ!?」

 

 そういう時ダナンは決まってビィを指名する。その上で二人をボコボコにしてしまうのだから、一歳差というだけでなく巧いのだろうとわかった。

 残ったジータはむくれつつも楽しそうだからまぁいいかと思ってやりすぎだと思ったら止めることにしている。

 

 ダナンが来てから二年。随分と仲良くなったモノである。

 

 そうして時は過ぎ。

 

「あれ、帝国の船じゃないか……?」

「嘘だろ、なんでこんな辺境に」

 

 グランとジータが十五歳、ダナンが十六歳になった年にそれは訪れた。

 

 今ファータ・グランデ空域で最も勢力を持つエルステ帝国の騎空挺がザンクティンゼルの上空を移動していたのだ。ザンクティンゼルは控えめに言って辺境の田舎である。エルステ帝国がわざわざ兵力を割いてまで支配しようと思うはずもなかった。

 それだけならまだ良かったのだが、騎空挺が爆発する。なんだなんだと混乱が起こる中、グランは蒼い光が落下していくのを見て駆け出し落下地点である森の方に向かっていった。

 

「お、おい、グラン!」

 

 ビィが慌ててグランを追う。

 

「ち、ちょっと! もうっ!」

「はぁ、しょうがねぇな」

 

 後からジータとダナンがついていった。

 そこでグランは蒼の少女ルリアと出会い、帝国兵に追われる彼女を助ける。ジータとダナンも協力すれば修練されているとはいえ帝国兵など相手ではない。そこにルリアを守らんとする女騎士カタリナも合流したが。

 

「ここまでですよォ、裏切り者のカタリナ中尉とガキ共」

 

 ポンメルン大尉が多くの帝国兵を引き連れてやってきた。

 

「なんだあのセンスない鬚のおっさん」

 

 ダナンの率直な悪口にポンメルンの額に青筋が立った。

 

「う、撃ち殺してしまいなさいィ!!」

 

 そのまま怒りに任せ兵士に命じた。銃口が一斉にダナンを向く。なにも知らないルリアとカタリナは息を呑むが、彼のことをよく知っているグラン、ジータ、ビィは次の動きに頭を働かせていた。

 一斉に引き金が引かれて森の中に銃声が木霊する。だがダナンは引き金を引く瞬間に屈んで銃弾を回避した。そしてそのまま低い姿勢から帝国兵へと駆け出し攻撃を仕かけていく。ほぼ同時にグランとジータも駆け出しており、帝国兵達は囲んでいた有利から一人残らず倒されてしまった。

 

「こ、こんなガキ共に……!」

「こんなガキに状況覆されるようじゃ、帝国も大したことねぇな」

 

 呻くポンメルンに不敵な笑みを浮かべて返すダナン。だが残るはお前一人だ、とはならなかった。

 

「チィ! 仕方ありません。こうなったらあれを出すしかありませんねェ、ヒドラァ!!」

 

 奥に潜ませていたらしい帝国兵達が、五つ首の魔物、ヒドラを連れてくる。木々をへし折りながら突き進んでくる巨体にカタリナが戦慄した。カタリナだけではない。六人の内五人は息を呑みその圧倒的な存在感に圧されていた。

 そんな中グランが密かな決意を固める。自分達三人の中でも自分だけが持っている『召喚』という能力によって性能のいい武器を『召喚』して戦えるからこそ、僕がやらなければならないと。

 

 そう決意してヒドラに向かって飛び出――そうとしたのだがパーカーのフードをダナンに掴まれてつんのめる。

 

「ぐえっ」

 

 思わず潰された蛙のような声を出してしまい、けほけほと咳き込んだ。

 

「バカかお前は。いずれ騎空団の団長になろうってヤツが真っ先に死にに行くような真似するんじゃねぇよ」

 

 唯一冷静だったダナンは呆れたように言う。そう言われてはなにするんだと目で訴えていたグランもなにも言い返せなかった。

 

「ほら武器出せ」

 

 そして手を差し出してくる。グランの『召喚』のことだろう。

 

「……勝てると思う?」

「意地でも勝つんだよ。じゃなきゃまとめて死ぬだけだ」

 

 一緒に暮らす前のこともあってか一つ年上と言うには達観したところも見せるダナンに言われて冷静さを取り戻し、大人しく三人分の武器を『召喚』する。グランは剣、ダナンは短剣、ジータは杖だった。

 

「……さり気なく私も戦う流れになってるんだけど」

「おいお前の妹酷いぞ。兄が決死の覚悟で戦おうとしてるのに見殺しにする気だ」

「しないからねっ!?」

 

 話に入っていなかったジータの分まで武器を『召喚』しているため、巻き込む気満々だ。当然彼女の助けなしではヒドラを倒すことができないし、ジータ自身も黙って見ている気はないのだが。

 とはいえそんなやり取りをすることである程度ヒドラが現れた時の緊張は解れていた。

 

「よし、じゃあやるか」

「ま、待て! 多少腕が立つ程度でヒドラをどうにかできるわけがない!」

 

 構える三人をカタリナが呼び止める。

 

「すみません、カタリナさん。僕達旅に出たいので、ここで立ち止まるわけにはいかないんです」

「目指すは空の果て、だもんね」

「そういうことらしいぞ。……あんたは大人だから、やるべきことくらい察しがついてんだろ?」

 

 グランとジータはダナンもノってきてくれなかったことに不満を示していたが。

 

「……私はこの子を、ルリアを守ると誓っている。勝ち目のない勝負には乗れないぞ」

「だろうな。だが俺達三人が無事な時の方が勝率が上がると思わないか?」

「……」

 

 どうも彼の思い通りに動かされているようで嫌だったが、確かに言う通りではある。

 

「はぁ。仕方がない。私も手を貸そう」

 

 嘆息して腰の剣を抜き放ち、三人の近くまで歩く。

 

「ふん。カタリナ中尉が加わったところで所詮ヒドラには敵いませんよォ。やってしまいなさい、ヒドラァ!」

 

 戦う構えの四人を見て、ポンメルンは鼻を鳴らし始末を命じる。ヒドラが雄々しく吼える中、

 

「ジータは援護を頼む。突っ込むぞグラン!」

「「わかった!」」

 

 ダナンが言ってジータは三人固有の『ジョブ』を駆使して【ウィザード】へ姿を変え魔法の準備する。グランは『召喚』した輝剣クラウ・ソラスを構えて威勢良く突っ込んだ。しかしダナンはそれに隠れて腰の銃を抜いて()()()()()()()銃口を向ける。そのまま身構えられる前に引き金を引いた。銃弾はダナンの()()()()、ポンメルンの頬を掠める。顔すれすれに放たれた銃弾に、ポンメルンの顔から血の気が引いた。

 

「チッ。もうちょっとで当たったにのな。まだまだ狙いが甘いな俺も」

「当たってたらそれはそれでダメだからね!」

「お前らがそうやって甘いから、俺がこうして非情さを演出してやらないといけないんだよ」

 

 ジータに注意されて肩を竦めるダナン。その間に帝国兵はポンメルンを守るように身構えていた。

 

「……もう不意打ちは狙えねぇな」

 

 銃口を向ければ盾を構えた兵士が割り込んでくる。奇襲失敗、と思わせておいてさっきの一発には二つの意味があった。

 

「ひ、ひひ、ヒドラァ! あの黒いガキを真っ先に殺すんですよォ!!」

 

 青褪めたポンメルンが慌ててヒドラに命令することで、ヒドラの攻撃がダナンへと多めに向かう。そしてヒドラ以外の脅威である帝国兵達はポンメルンを守るために動けない。

 ダナンはこれを狙っていたのである。自分が狙われればグランが攻撃しやすくなり、カタリナもダナンのフォローをすればいいのだとわかる。即興の連携をするために攻撃が向く相手を限定しようと考えたのだ。グランとダナンで比べるとダナンの方が動きが速いというのも理由の一つだ。

 

 その結果。

 そして誰にとっても予想外であったルリアの皆を助けたいという気持ちに呼応して出現した黒銀の竜によって、ヒドラは滅された。大地を抉る一撃と堂々たる威容に気圧されたポンメルン達は、一睨みで退却を決意したという。

 

 それから勝利を分かち合った六人は、カタリナが用意していた小型騎空挺でルリアと逃げるのについていく形で、ザンクティンゼルを旅立つ。

 

 ……というところで待ったがかかったのだが。

 

「えっ!? 一緒に来てくれないの!?」

 

 始まりはダナンの「おう、いってら」という何気ない言葉だったのだが。てっきり一緒に空の果てを目指してくれると思っていた双子にとっては衝撃の事実である。

 

「一緒に空の果てを目指そうって言ってたのに?」

「それ言ってたのお前らだけじゃん。俺は行くって言ったことないし」

 

 いよいよ旅立てるとなった時にそんなことを言い出すのはダナンらしいと言えるのかもしれないが。

 

「……ホントに来てくれないの?」

 

 ジータが悲しそうに告げる。流石に十二年もの付き合いだ。情がないわけではない。

 

「だって俺は別にイスタルシア目指す理由ないしな」

 

 だが彼はあっけらかんと言った。

 

「でもダナンがいてくれないとルリアちゃんもカタリナさんもいい人そうだからきっとどっかで騙されちゃうよ? ダナンみたいにちょっと意地悪な人がいないとすぐ騙されて身売りされちゃうんだ……!」

 

 うっうっと嘘泣きして目元を拭いながらジータが言う。

 

「ならそうならないように頑張ればいいだろ」

「その前に身売りされて、見知らぬおじさんに奴隷として飼われて一生過ごすんだ……!」

「……どこで覚えたんだそんなの」

 

 呆れつつも、人のいい彼らならそれもあり得てしまえそうだと思ってしまう。奴隷として飼われるジータか、それはそれで悪くないかもしれないが流石にな……と外道の子供たる所以を見せつつ、大きくため息を吐いた。

 

「しょうがねぇな、ついていってやるよ」

 

 やれやれと言いたげにダナンが言うと、ジータは笑顔を見せる。

 

「ありがと、ダナン」

 

 しかしダナンは眉をハの字にしながらもジータの顔に手を伸ばして目元を拭った。

 

「なに自分で言って泣いてんだよ」

「うっ……だってなんか悲しくなっちゃって」

「……まぁ、そういうことにならないように守ってやるから」

 

 指で目元を拭った手で頭を撫でてやる。そんな二人を微笑ましく眺めた後、ザンクティンゼルを旅だった。

 

 因みに操縦はダナンが行い、アクロバティックな操縦を知識だけで実行した結果ほとんどがグロッキーな状態で次の島に着陸した。その操縦を着陸地点の近くで見上げていた操舵士ラカムが声をかけてきて、彼と共に次の島ポート・ブリーズ群島での騒動を解決することになるのはまた別の話。

 その騒動の一環で青髪のエルーンと赤髪のドラフの傭兵コンビと遭遇して一戦交えることになるのだが、そこで裏を掻いて奇襲しようとしたエルーン、ドランクの作戦をダナンが防ぐ場面があった。

 その後二人がそれぞれ、相手は自分と思考が似ていると思ったと言う。何度か繰り返される対戦の始まりだった。

 

 騒動を解決する最中で騎空挺グランサイファーと操舵士ラカムを仲間に加えた一行は次なる島へ向かう。

 近くの他の島に立ち寄ったり、バルツ公国で星晶獣コロッサスを巡る騒動で傭兵コンビを含む黒騎士の一行と対面したりした。

 またバルツでの騒動に際してイオという魔法使いの少女が仲間に加わった。

 

 次はアウギュステ列島へ向かうとなった時、途中でパンデモニウムに立ち寄りそこで獲得できる『ジョブ』をいくつか獲得して戦力を上げていく。

 

 アウギュステ列島でラカムが操舵を教わった一人であるという隻眼の老兵、オイゲンと出会いエルステ帝国との戦いに身を投じていく。そこでエルステ帝国の兵士に追いかけ回されていたのだが。

 

「こりゃキリがねぇぞ!」

「わかってる。けど一回戦ったらその間に他の部隊に囲まれる可能性が高いんだ。オイゲン、ちゃんと道案内してくれよ!」

「任せろ! と言いたいところだが俺も帝国兵がどこにいるかまでは知らねぇからな。できるだけ人通りが少なくて囲まれにくい方へ行くぞ!」

「それでいい。やっぱ立地知ってるヤツがいると役に立つなぁ、グラン?」

「……そこでなんで僕に振るのか聞いていい?」

「だってお前方向音痴じゃん」

「方向音痴じゃないから、偶々道間違えるだけだから! ね、二人共……?」

「「……」」

 

 そもそもここまで追いかけ回されているのがグランが方向音痴を発揮して帝国兵の滞在している方へ入り込んでしまったせいなのだ。流石に大勢で囲まれるとマズいのでこうして逃げ回っているのである。

 グランは長い付き合いである残る二人、ジータとビィに顔を向けるが逸らされてしまった。

 

「ねぇ、なんでそっぽ向くの? 二人共?」

 

 本人に自覚がないだけで、周知の事実であるというだけの話である。

 

「ははっ。こんな状況でもそんなやり取りができるなんて、お前さんら度胸あるなぁ」

 

 オイゲンはそんな彼らを見て笑っていた。確かに今は一大事な状況である。

 

「それを心強く思うこともあるが、今は自重してもらいたいところだな」

「時と場合を考えなさいよね」

 

 カタリナとイオは少し呆れた様子を見せた。ただ実際どんな強敵が目の前にいてもその態度がブレないので、精神を落ち着かせるのに一役買っているのはわかっているのだ。

 走って帝国兵の追っ手から逃げる彼らとは別に、走っている人影があった。

 

「……全く、逃げた先々に帝国兵がいるなんてついてないわ」

 

 たった一人で帝国の追っ手から逃げ回る彼女は長い黒髪を靡かせて走っていた。腰には剣と白い仮面を提げている。

 別方向から来ていた彼女と、先頭切って走っていたダナンが曲がり角でぶつかった。互いに逃げることに必死で直前まで気づかなかったのだ。

 

「悪い」

 

 ダナンは彼女の腕を掴んで後ろに倒れそうなのを支えた。相手ははっとした様子でダナンを見上げてくる。先頭が立ち止まったので慌てて後ろも停止した。

 

「いえ、こちらこそごめんなさい。……あなた達、帝国兵じゃないのね」

 

 彼女も謝り、一行の恰好を見てかそう呟いた。

 

「ああ、今追われて――」

「いたぞ、あそこだ!」

「機密の少女を奪った連中もいるぞ! まとめて捕らえろ!」

「おっとマズい。逃げるぞ! 牽制は任せた!」

 

 のんびり話をしている時間はなかった。女性を追っている帝国兵達が追いついてきている。一行の後ろの連中も距離を詰めているだろう。

 

「ジータ、イオ。氷壁! こうなりゃ巻き添えだ、あんたも来い」

「あ、ちょっ……」

 

 魔法が得意な二人に道を塞ぐ氷壁を頼み、とりあえず追われている彼女の手を掴んで引っ張っていく。……因みにジータはずっと手を掴む必要はないんじゃないの? と少し不機嫌だったらしい。

 土地勘のあるオイゲンの誘導で見事追っ手を引き離して辿り着いた先に、しかし大勢の帝国兵が詰めかけていた。

 

「ようこそ、間抜け諸君」

 

 待ち構えていた帝国兵を率いていたのは、眼鏡をかけたハーヴィンの男性。

 

「これはこれは、ポート・ブリーズ群島で結果的に作戦が失敗したフュリアス将軍じゃないですか」

 

 彼とはポート・ブリーズで一度対面したことがあった。ダナンはそれを挑発に使うのだが。

 

「チッ……。そんな挑発に乗ると思う?」

「当たり前だろお前短気だし」

 

 あっさりと肯定してみせた。フュリアスの額に青筋が浮かぶ。やめて挑発しないでという視線が仲間達からではなく帝国兵から向けられた。

 

「……んん? おやおや? そこにいるのは仮面の実験体じゃないか。まさか君達と一緒にいたなんてね。これはまとめて始末できるしラッキーってところかな?」

 

 だがフュリアスは冷静さを失わずにダナンが引っ張ってきた女性を見て嫌らしく笑った。そこでそういえば掴んだままだったなと思い出し手を放す。

 

「仮面だと……?」

 

 その言葉に元帝国騎士のカタリナが反応する。

 

「……知っているのね。そう、私は帝国の新兵器、仮面の装着者として選ばれた。その後逃げ出した脱走兵よ」

「確か装着者が研究資料を持って逃げ出したという話だったと思うが、それが君なのか」

「ええ」

 

 カタリナの言葉に彼女は頷いた。そして腰に提げた仮面を手に取り、顔の右半分に装着する。

 

「……目論見通り巻き込まれてしまったからには手を貸すわ」

「それは有り難い。じゃあさっさとこのアウギュステから退いてもらうぞ、短気で足が短くて背の小さいフュリアス将軍閣下?」

 

 仮面には装着者の能力を大幅に上げる効果があることは帝国兵も知っているのか、彼女の参戦にたじろいでいる。その上ダナンがフュリアスもこれでもかと煽るのだが、

 

「フュリアス将軍閣下!!」

 

 キレて皆殺しを命じようとするフュリアスを呼び止める声があった。その声は一行にとっても聞き覚えのある声だ。

 

「……心中はお察ししますが、そのガキはペースを乱そうとしてきます。フュリアス将軍閣下の頭脳があれば問題なくこの場を収められるでしょうが、冷静さを欠いては思う壺ですねェ。それにここは私に任せていただけるお約束では?」

「ポンメルン大尉!」

 

 帝国兵を割って歩み出てきたのはポンメルンだった。彼の言葉によって少し落ち着きを取り戻したフュリアスは苛立たしげに舌打ちする。

 

「……チッ。いけ好かないけど向こうの思い通りになるよりはマシか。いいよ、ポンメルン大尉。その代わり皆殺しだ」

「わかっていますよォ。私はあの時から、こうして復讐する機会を窺っていたんですからねェ」

 

 ポンメルンはそう言って笑うと懐から禍々しい気配を放つ結晶を取り出した。

 

「っ! す、凄く嫌な気配がします!」

「これは魔晶と言うんですよォ。星の力を解析している過程で生み出されたモノですねェ。これをこうして使えば……」

 

 ルリアがなにかを感じ取る中、ポンメルンは魔晶を掲げてその力を自分に注ぎ込む。ポンメルンの身体が禍々しい騎士のような巨体に覆われていった。

 

「力が、力が漲ってきマすネェ! これなら全員、私の手で殺せますヨォ!」

「これはマズいな」

 

 巨大化したポンメルンが放つ威圧感に言いながら腰の銃を抜いて躊躇いなく発射する。胸部にポンメルンの顔が出ているためそこを狙ったのだが、右腕と一体になったような剣で防がれてしまった。

 

「銃弾を弾くとかどんな装甲してやがる!」

「多少怯ませるくらいならなんとかなるかもしれねぇが、決定打にはなりそうもねぇな」

 

 ラカムとオイゲン、銃を主に使う二人が険しい顔をする。

 

「じゃあしょうがねぇ。グラン、二人でやるぞ」

「珍しいね、ダナンが僕となんて」

「近接でお前より息の合うヤツはいねぇよ」

「確かにね」

 

 ダナンとグランが並び立ってグランが『召喚』した武器を手にポンメルンと対峙する。

 

「僕達でポンメルンは抑えるから、残りは皆でよろしく」

 

 グランがアバウトな指示を出して【ウォーリア】へと姿を変える。ダナンも色違いの【ウォーリア】となった。

 

「二人だけデ、今の私を倒せると思わないことですねェ!」

「それはどうだろうな!」

 

 ポンメルンの振るった剣をダナンとグランがそれぞれの武器で受ける、が。

 

「……おいグラン、まさか手加減してねぇだろうな?」

「……そんなまさか。全力だよ」

「その程度ですカ? 軽いんですよォ!」

 

 徐々に二人の方が押されていき、ポンメルンが押し勝った。ダナンは直前で身を屈めたが、グランは吹き飛ばされてしまう。その隙に距離を詰めようとするダナンだが、ポンメルンの動きが速くすぐ剣を戻されてしまい間合いに入る前に攻撃されてしまった。それを回避すれば、続けて回避させられる状況に陥り攻撃に手を回すことができない。

 そこに体勢を立て直したグランが斬りかかるがダメージはなさそうだった。ポンメルンは攻撃が効かないのをいいことに相打ちで殴り飛ばす。

 

「グラン!」

「チッ!」

 

 ビィの呼び声とダナンの舌打ちが重なる。

 

「次はお前の番ですねェ。魔晶剣・騎零ッ!!」

「っ!? 【フォートレス】! ファランクス!」

 

 ダナンに強力な一撃が放たれ、咄嗟に障壁を張り最大限の防御態勢になるまでは良かった。だが障壁はあっさりと打ち砕かれ、ダナンは吹き飛ばされた。

 

「ダナン!」

 

 ジータの悲痛な声に反応することもなく、遠くまで吹き飛んだダナンは地面を転がってそのまま動かなくなった。

 

「ククッ。まさかここまでとは思いませんでしたねェ。この力があれば皆殺しなど容易いでしょう。クーックックック!!」

 

 ポンメルンはあっさりグランとダナンを打ちのめし、高笑いしている。事実一行の中で主戦力となっているのは『ジョブ』が使える三人だ。その内二人をいとも簡単に倒してしまうとは、全員がかりでも厳しくなってしまう。

 

「――帝国式操符術・穿」

 

 しかし別方向から飛んできた光線がポンメルンの巨体を直撃し、よろめかせた。

 

「クッ! これは、帝国の……!」

「ええ、そうよ。帝国式操符術。油断したわね」

 

 攻撃をしたのは近くの帝国兵を一人残らず倒してみせた彼女だった。仮面は二つの穴から紫のオーラを発している。

 

「あなたも帝国を裏切ったんですよねェ。万死に値しますよォ……!」

「帝国に加担する気になれる方がおかしいわ」

 

 両者の視線が交錯して新たな戦いが、というところで。

 

「ふ、フュリアス将軍閣下! たった今、海に展開していた帝国の軍艦が全て、海に呑まれました!」

「なんだと……!?」

 

 どうやら帝国にとっても予想外の事態が起こっているらしい。

 

「……撤退だ」

「えっ?」

「撤退するって言ったんだよ! もうアレは出来てる! 無事に持ち帰ることが最重要だ!」

「……チッ。命拾いしましたねェ。次こそは必ず、この手で始末してあげますよォ」

 

 フュリアスの号令でポンメルンも魔晶による変化を解き、撤退していく。そのすぐ横を銃弾が駆け抜けた。

 

「っ……!」

「あ、惜しいな。こんな姿勢じゃなきゃ当てられたかも」

「貴様……!」

 

 倒れ伏したままのダナンだ。苛立って振り返るポンメルンだったが、それが相手の思う壺なのだと思い返してそのまま撤退していった。

 

「あれで撤退をやめて襲いかかってきたらどうするつもり?」

「そうしないとわかってたからの挑発だろ」

 

 仮面を外した女性が倒れたダナンに手を差し伸べる。その手を取って立ち上がったダナンだがフラついていた。

 

「威勢良く挑んでいた割りには情けない姿ね。肩貸すわ」

「悪い。……まぁ勝てないのはわかってたから、生きてりゃ大丈夫だろ」

 

 ダナンはフラつく中肩を借りて皆が集まっている方へ歩いていく。ジータはなぜか膨れっ面だ。

 

「ジータ、治して――」

「……嫌」

「……」

 

 治療を頼んだのに不機嫌な様子で断られてしまう。なぜかはわからないが、とりあえず他にもいることだしまぁいいかとイオを向く。

 

「イオ、頼むわ」

「なんであたしが」

「ジータに断られた今、頼れるのはイオしかいないんだよ」

「ま、まぁ治してあげてもいいけど?」

「助かる。ありがとな」

 

 頼られると弱いイオであった。怒り損のジータは拗ねてしまうのだが。

 

「ああ、そうだ。助けてくれてありがとな。えっと……」

 

 ようやく一人で立てるようになり、ダナンは助けてくれた彼女に礼を言う。そこでまだ名前を聞いていなかったなと思い返した。

 

「ロザミアよ。帝国の騎士だったけど、今は脱走兵として追われる身ね」

 

 名乗った彼女にそれぞれ名乗り返して、

 

「とりあえず今は海の異変? を気にしないとな」

「それなんですけど、凄く、怒ってるみたいなんです」

 

 事情を聞くなどは後々にやればいいことで、今は対処するべき事態がある。そう切り出すとルリアが言った。

 

「怒っている? 誰が、なににだ?」

「それは多分、この島の星晶獣だと思います」

「アウギュステのってーと、星晶獣リヴァイアサンだな」

 

 カタリナの問いに答えたルリアを、オイゲンが補足する。

 

「そうだ」

 

 それに頷いたのはしかし、一行の中ではなかった。

 

「黒騎士!」

「バルツで会ったあの子も!」

 

 声のした方には黒騎士と猫のぬいぐるみを抱いた蒼髪の少女が立っている。

 

「黒騎士だぁ?」

「……ふん」

 

 オイゲンの声に忌々しそうに鼻を鳴らし、その存在を無視するかのように視界から外して言葉を続ける。

 

「海の化身リヴァイアサンは、エルステの研究によって廃棄物が大量に海へ流れ込んだことを怒り、荒れ狂っている」

「なんだと? てめえ、それがわかってて……!」

「貴様にとやかく言われる筋合いはない!!」

 

 オイゲンは責めようとしていたが、強く一喝されて口を噤んだ。どうやら二人は知り合いのようだ、とはわかったが。

 

「……リヴァイアサンは暴走するだろうな。街を呑み込むかもしれんが、我々は見物させてもらおう。精々足掻くことだな」

 

 黒騎士はそう言って踵を返す。少女もそれについていった。

 

「ま、……っ! 来ますっ!」

 

 ルリアは少女を呼び止めようとしたが、その前になにかを感じ取った。次の瞬間海が逆巻き、青い竜が顕現する。

 

「リヴァイアサン……!」

 

 オイゲンの言葉を聞くまでもなく、その巨大な姿と放たれる威圧感が、星晶獣であると認識させてくる。

 

 暴走状態にあるリヴァイアサンは海にいるため手が出せなかったが、ルリアが召喚したバハムートに乗って近づき、攻撃できる場所にまで辿り着く。だが街を狙った大津波を発生させられてしまい、巨体にダメージを与えるために力を溜めていた一行はどちらかを選ぶ他ない状態に追い詰められる。しかし街にいた猛者達が津波を相殺して街を守ってくれたため、一行は気兼ねなく全力の一撃でリヴァイアサンを倒すことができた。

 それからバハムートが消えそうになったため急いで海岸まで戻り、ルリアの力で吸収する。だが途中で黒騎士の傍にいた少女が吸収をしてしまった。

 

 謎が謎を呼ぶ中、一行は街を守ってくれた人達と一緒に宴に招かれる。そこでオイゲンが旅に加わることが決まり、ロザミアも同じく帝国に追われる身なので利害の一致があり加わった。

 津波を相殺してくれた強者達は一行の誰よりも強かったため、またグランとダナンの二人がかりでも魔晶を使ったポンメルンには手も足も出なかったため強くしてもらえるように頼み込むのだった。

 

 結果、三人は『ジョブ』のClassⅢにまで至ることに成功する。

 

 そして途中で立ち寄ったパンデモニウムの素材の中で、武器のレプリカと思われるモノを発見していたため、それを目利きのできる商人シェロカルテに見せたところ、英雄武器と呼ばれる代物に加工できるかもということになった。

 同じくパンデモニウムの素材で強化して出来上がった英雄武器を手にすると、対応した『ジョブ』のClassⅣと呼ばれるこれまで全くの未知であった領域に足を踏み入れることができるようだったが。

 

 残念ながら制御できず、また性格も変わってしまうために扱える代物でないと結論づけられた。

 

 それから黒騎士が言った「ルーマシー群島で待つ」という言葉通り、一行はルーマシーへ向かう。

 そこで妖艶な美女ロゼッタと出会い、黒騎士と一緒にいた少女オルキスと話をして、緋色の騎士バラゴナと手合わせした後に最奥で黒騎士と対面した。

 バラゴナと会った際にバラゴナが双子の父だけでなくダナンの父についても知っている風な口振りを見せた。双子やビィもダナンの父親についてはなにも聞いていなかったが、ダナンは朧気な記憶で黒い長髪に赤い目をした男が父だと知っていたが、言う必要もないとして覚えていないと嘘を吐くのだった。

 

 黒騎士に人形と呼ばれた少女によってルーマシーに眠っていた星晶獣ユグドラシルが呼び起こされ、一行に襲いかかる。それをなんとか制した後、ロゼッタがなぜかついてくると言い出し仲間に加わった。

 それからルーマシーに帝国の使者が降り立ち、フュリアスが和解を望んでいると聞かされる。アルビオンにて話し合いの場を設けるとして去ったのだが。

 

「いや絶対罠だろ」

「罠に決まっている」

「罠以外にあり得ねぇな」

 

 ダナン、カタリナ、ラカムが口を揃えて言った。だが結局は城塞都市アルビオンの人々が帝国兵に脅かされている可能性もあるとして、向かうことになった。

 それからアルビオン、霧に包まれた島、ガロンゾと旅を続けていく一行。

 

 ガロンゾでオルキスが帝国の宰相フリーシアと共に現れ、騒動の後秩序の騎空団から黒騎士を捕縛したと言われ重要参考人として秩序の騎空団第四騎空挺団が本拠地とするアマルティア島に招かれる。

 

 招かれたのだが……。

 

「あなた方の手を借りる必要はありません」

「じゃあどうぞ、船団長様。一人で頑張ってください?」

「なんですかその言い方。喧嘩を売っているつもりですか?」

「は? 喧嘩売ってんのはそっちだろうが。そこまで言うならさっさと魔物倒してどーぞ」

「っ……ええ、もちろん全部倒しますよ。あなたの力なんて必要ありませんので」

「よし、言質取れたな。あーっ、しまったー。魔物用の撒き餌がー」

「え?」

「船団長お願いしまーす」

「な、なんてことしてるんですか! というかわざとですよね!? わざとですよね!?」

「じゃあよろしく船団長ー」

「あ、あなたと言う人はーっ!!」

「えっ? もしかして船団長ともあろう人が二言あるんですか? 頭下げてくれるならまぁ手を貸してあげてもいいですけど?」

「っ! 必要ありません、私一人で充分ですからっ!」

 

 第四騎空挺団の船団長を務めるリーシャがつんけんしているのが気に入らなかったのか、ダナンがやけに突っかかって言い争っていた。

 

「……そういえばあいつ、アーロンをからかう時すげー楽しそうだったよな」

「……うん。ダナンってああいうところあるから」

 

 ビィとグランが少し遠い目をしていた。ジータ以外はそういうダナンを見るのが初めてだったので意外に思うばかりだ。ジータはといえば楽しそうに話しているせいで不機嫌度が溜まっていくばかりだったが。

 結局リーシャが一人で襲い来る魔物を一掃してみせたので、彼女の強さだけは証明されたのだが。

 

「こ、これで、文句、ない、でしょう?」

「ああ。お疲れ様。あーまた撒き餌がー」

「ふ、ふざけないでください!」

「冗談だよ冗談。ただのおやつ」

 

 肩で息を切らすリーシャに追い打ちをかけるフリをしたダナン。リーシャは「本当に撒き餌じゃないんでしょうね?」と彼を睨みつけるばかりだ。

 

「……全く、もう」

 

 しかしダナンがそれを仕舞うとようやく安堵できたのか、リーシャは一息吐いた。襲い来る魔物の群れをばったばったと薙ぎ払っていたのでかなりの運動になっているためか頬が上気している。薄っすらと汗ばんでいて陽光に照らされる姿は色気を纏っていると言っても良かった。

 

「……ふぅ、熱いですね」

 

 リーシャが胸元の衣服を引っ張って仰ぐのだが、元が薄着なせいで目のやり場に困る見た目となってしまう。

 

「ああ、ほら。リーシャのせいでグランが真っ赤になってるじゃねぇか」

「えっ? な、なんで私のせいなんですか?」

「だって今エロい顔してたし」

「えろっ!? そ、そんな顔してるわけないじゃないですか、ねぇモニカさん!」

「なぜ今私に……まぁ、悔しいことに先ほどのリーシャとお色気勝負をしても私は勝てないだろうな……」

「えぇ……」

 

 小柄な船団長補佐のモニカに尋ねるが、残念ながらダナンを肯定する言葉だった。元々お色気じゃ勝負にならないだろ、とは誰も言わなかった。

 他を見るとグランは耳まで真っ赤になってそっぽを向いていた。その近くでルリアが頬を膨らませている。

 

「さて、リーシャがエロい顔をしてたことは証明されたし、そろそろ汗拭いて身嗜み整えような? 元は俺のせいとはいえ目に毒だ」

「あ、はい」

 

 ダナンにタオルを手渡されて、リーシャは素直に汗を拭うことにした。汗を拭う時もリーシャの無自覚さが発揮されたのだが。それを見たダナンが「まさか人前で胸元拭うヤツがいるとは思わなかったわ」と言ったのがその全てであった。

 

 その後一行は一泊した後に捕らえられた黒騎士と邂逅する。

 白いレオタード姿の、目つきが悪いとはいえ美女が拘束されていた。

 

「いい気味だな、黒騎士さんよぉ。牢獄で不味い飯を食う気分はどうだ?」

「いいから入って。進まないから」

 

 悪どい笑みたっぷりに告げるダナンだったが、ロザミアに後ろから押されてしまった。「一回やってみたかっただけなのに」と唇を尖らせる姿は子供のようである。

 黒騎士と話している最中に帝国による襲撃があり、リーシャとモニカはそちらに手がいっぱいになってしまう。そこで黒騎士ことアポロニアから脱獄の手助けをするように頼まれてしまった。彼女になにか理由があるとわかった一行は彼女の提案を受け入れ、真の敵が宰相フリーシアであると再認識した上で脱獄を目指す。

 オイゲンと黒騎士が親子だったという衝撃の事実は流された。

 

 だが黒騎士の脱獄に手を貸すということは秩序の騎空団と敵対することであり、脱出する寸前でリーシャとモニカが率いる秩序の騎空団とポンメルン率いる帝国兵に挟まれてしまう。

 

「これはこれは、最高顧問閣下ではありませんか」

「黒騎士を逃がすということは、あなた方も捕らえなければなりません」

「うむ。秩序のために、貴殿らを捕縛させてもらう」

 

 ポンメルン、リーシャ、モニカがそれぞれ黒騎士の身柄若しくは命が欲しいために一行を標的とする。

 

「……チッ。まず黒騎士の枷を外すのが先決だ! ジータとグランはモニカを、俺がリーシャをやって鍵を奪う!」

「そう簡単にやれると思わないでください」

 

 ダナンがリーシャ、ジータとグランがモニカと対峙する。三人それぞれがClassⅢを使用して挑んでいた。……その戦いでダナンがなんの因果かリーシャの胸元に手を入れるハプニングが起こり、頭が真っ白になった彼女を人質に取ることで秩序の騎空団を無力化した。

 

「さぁリーシャ、大人しく鍵の在り処を吐け。安全性を考えて、お前らのどっちかが持ってることはわかってるんだ」

「い、言いません!」

「なら仕方ないな。勝手に(まさぐ)って探すか」

「えっ!? ひゃっ! ち、ちょっとどこ触ってるんですか!?」

「ん~。ここかな、それともこっちか?」

「ぁんっ。……わ、わかりました、わかりましたから! 鍵はスカートの左ポケットです、左ポケットですから!」

「そうかありがとう」

「うぅ……」

 

 ダナンは全く罪悪感を抱いていないような顔であっさり鍵を手に入れると、黒騎士のいる方へと放り投げた。

 

「ビィ!」

「お、おう!」

 

 その鍵をビィが受け取り、黒騎士の枷を外す。他の仲間達が帝国兵、特に魔晶を使ったポンメルンをなんとか抑えていたのだが、それが楽になる。

 

「ふん。上出来だ」

 

 黒騎士は笑うと、転がっていた帝国兵から剣を奪い身体の調子を確かめるように素振りする。そしてポンメルンへと顔を向けた。

 

「試し切りには丁度良さそうだな、ポンメルン大尉?」

「い、いいでしょう! 今の私には勝てないことを教えてあげますねェ!」

 

 黒騎士は一行が苦戦したポンメルンを三振りで撤退に追い込んでしまうのだった。

 帝国兵は撤退し、アマルティアには一行と黒騎士と秩序の騎空団が残る。しかも秩序の騎空団はリーシャがダナンに捕まったままだ。

 

「よし、これで状況が覆ったな。さて秩序の騎空団。お前らの可愛い船団長をあられもない姿にされたくなければ俺達を出航させるんだな」

「あられもない姿ってなんですか! 放してください!」

「……なんかオイラ達が普通に悪者に思えてくるぜ」

 

 脅しにかかるダナンに対して、リーシャはなんとか抜け出そうとする。ビィ含めて一行は本気で呆れていた。

 

「まずは武器を下ろしてもらおうか? 十秒経って全員武器を下ろさなかったらリーシャを本当にあられもない姿にしてやるぞ。まずはそうだな、この上のヤツからいこうか?」

「や、やめてください!」

 

 ダナンが取り出して短剣の刃をリーシャの上の服に滑り込ませる。悪役が堂に入った演技だった。

 

「十、九、八……」

 

 カウントダウンが進むとまずモニカが武器を下ろした。他の団員も武器を下ろすかと思いきや、微動だにしない。

 

「一、零……ってほとんど下ろしてねぇじゃねぇかよ」

 

 ダナンはカウントダウン後すぐにはなにもせず、ただ嘆息した。

 

「ち、秩序は屈してはいけないんです……うぅ」

 

 そうは言いつつもちょっと涙目になっているリーシャ。

 

「いや、実はただお前の下着が見たいだけじゃねぇの? なぁ」

「えっ? い、いやそんなはずは……ありませんよね、皆さん!?」

 

 ダナンの言葉にリーシャが尋ねると、団員がさっと顔を背けた。

 

「皆さん!?」

 

 わざわざ取り繕わないで顔を背ける辺り正直者と捉えるべきか。ともあれリーシャにとってはショックが大きかった。

 

「はぁ。なんかごめんな、リーシャ」

「えっ?」

 

 ダナンはため息を吐くと拘束を解いてリーシャを解放する。

 

「まさか団員に見捨てられるなんて、お前も苦労してんだな。なんか不憫だし、戻っていいぞ?」

 

 ダナンは優しげに頭を撫でてやる。ショックを受けていたリーシャの心には温かく浸透していった。

 

「それとも俺達と来るか? あんな薄情者はいないぞ?」

「えっ? ……いいんですか?」

「ああ。あいつらは心が広いから、快く受け入れてくれるぞ」

「……」

 

 リーシャの心は傾きつつあった。

 

「り、リーシャ船団長! 違うんです! わ、我々は秩序の体現者として悪に屈してはならないと!」

「そ、そうです! 決して下心とかは一切ありません!」

 

 団員達は口々に叫ぶが、残念ながら彼女の心には届かなかった。

 

「そうですか皆さん今までお世話になりましたではさようなら」

「「「リーシャ船団長ーっ!!!」」」

 

 にっこりと他人行儀な笑顔で別れを告げられた団員達の阿鼻叫喚を眺めて嘆息したモニカは、

 

「……リーシャ。とりあえず監視の名目でついていくということにしてくれ」

 

 と提案した。

 というわけで妙な流れではあったがリーシャの臨時加入が決まる。

 

「というわけで皆さんよろしくお願いしますね」

「あ、ああ」

 

 にっこりと笑顔で挨拶したリーシャに戸惑いを隠せないカタリナ。

 

「まさかダナン、ここまで考えてリーシャさんを人質に取ったの?」

「まさか。俺が狙ってたのはあそこで武器下ろしてくれた後、リーシャを出航間際まで捕まえといて直前で解放するって方法だしな」

「……因みにあれって演技?」

「ああ、もちろん。できるだけ悪役っぽい方が様になると思ってな」

 

 ははは、と笑うダナンに一行は呆れ顔から戻らない。唯一ロゼッタだけは微笑ましく見守っていたのだが。

 

「……ねぇ、ダナン? 随分楽しそうだったね?」

 

 笑顔の額に青筋を浮かべたジータが彼に尋ねた。

 

「なに言ってんだよ、ジータ。人質を取るような真似が楽しいわけないだろ? ……真っ向から戦うよりは被害が少なさそうだったからそうしただけだ」

「……」

 

 思いの外真面目な表情にジータは責めるに責められなく――

 

「でもリーシャさんの服に手を入れたのは違うよね?」

「あれは不可抗力だ」

「問答無用ッ!!」

 

 ダナンにはジータの鉄拳制裁が下ったという。

 

「……呑気なモノだな」

 

 少しだけ疎外感を覚えた黒騎士は、ぽつりと呟くのだった。

 因みにグランサイファーには黒騎士を助けようとしていたらしい傭兵二人が潜り込んでいて、また一悶着あったのだが。

 

 それから一行はフリーシアにオルキスを奪われたという黒騎士の案内で王国時代のエルステの首都メフォラシュがある、ラビ島に向かった。そこで黒騎士とオルキスの過去について触れたが、しかしフリーシアとオルキスはいなかった。

 一行がグランサイファーに戻るとシェロカルテがいて、彼女からフリーシアはルーマシー群島へ向かったという情報を得る。

 

 そして一行はルーマシー群島でフリーシア率いる帝国兵と戦い、それからユグドラシル・マリスという既存の星晶獣に魔晶を使って強化、コントロールする術を用いた。

 マリスの強さは異常であり、黒騎士がオルキスを取り戻せないと知って茫然自失となる中一行は全員まとめて倒されてしまう。

 フリーシアと一緒にいたオルキスがルリアと接触してルーマシーの遺跡に眠っていた過去や未来の事象を書き換える能力を持つ星晶獣アーカーシャが出現するが、オルキスがアーカーシャの能力を使うことを拒否した結果フリーシアの野望はあと一歩で叶うことがなかった。だが一行の窮地は変わらない。

 

「……こうなったら、ClassⅣを使うしかない!」

「ダメ、グラン! あれはまだ制御できないでしょ!」

「でも……! このままじゃ皆が……! それは、それだけはダメだ!」

 

 人一倍仲間想いのグランであるからこそ、このまま全滅してしまうことだけは避けたかった。だから『召喚』でベルセルク・オクスを手元に呼び出し、【ベルセルク】の『ジョブ』を発動する。

 

「それの情報は少ないですが、制御できないそうですね。では、私はこのまま離れましょうか。マリス、行きますよ」

 

 フリーシアはあっさりと退いた。グランの手で仲間達を皆殺しにした方がより残酷な仕打ちだからである。もちろんその後グランも殺すのだろう。

 

「待てよ、逃げんのかあぁ!?」

 

 グランとは思えない柄の悪さで言うが、結局フリーシアとマリスは離れてしまった。

 

「お、おいグラン! 今の内にここから離れようぜ!」

 

 無事なビィがグランに呼びかけるが、

 

「あぁ!?」

「ひっ!」

 

 グランに睨まれて縮こまってしまう。

 

「てめえはいつもいつも指示するばっかで戦わねぇで、役立たずの自覚あんのか?」

「っ……!」

 

 普段のグランからは想像もつかない暴言に、ビィは俯いた。

 

「わかったなら邪魔すんじゃねぇよっ!」

 

 グランはベルセルク・オクスを振り上げてビィに攻撃しようとする。精神的ショックなどで動けないビィは目を瞑ることしかできず。

 しかし痛みとは別の誰かに押されるような感触があって手を開けた。……そのビィの視界に血がいっぱい広がる。

 

「……全く」

 

 普段の余裕がない少し掠れた声だった。

 

「ホント、世話の焼ける弟を持つと大変だよな」

 

 ビィが見れば、肩から右腕を削ぎ落とされたダナンが立っている。

 

「ダナン!!」

「なに、して……!」

 

 ビィの悲痛な呼び声と、グランの驚きが重なる。流石に家族同然に育ったダナンに致命傷を負わせたという事実がClassⅣの精神状態に一石を投じていた。

 ダナンはふらりと残った右腕をグランの肩に回せて寄りかかる。急激に落ちていく意識の中で最後の力を振り絞り、グランが手に持っている英雄武器を蹴飛ばして放させた。グランの『ジョブ』が解ける。

 

「ダ、ナ……」

 

 呆然としたグランはダナンを抱き止めようとするが、血で滑ったのかずるりとダナンの身体が崩れ落ちた。

 

「ダナン!!」

 

 慌ててジータが駆け寄り、治療を施す。グランは呆然として突っ立ったままだ。

 

「残念ですね、一人だけでしたか」

 

 遠くから見ていたフリーシアがマリスを引き連れて戻ってくる。最悪の事態だ。

 

「……ここは私が時間を稼ぐわ。皆は急いでグランサイファーに戻って頂戴」

「ロゼッタ?」

 

 そこで前に出たのはロゼッタ。直後、突如として現れた巨大な薔薇に彩られる星晶獣がユグドラシル・マリスへと襲いかかった。

 

「ろ、ロゼッタさん……?」

 

 なにが起こっているのかほとんどが理解できない中、未だショックで固まるグランへと、ロゼッタは背後から抱き着いた。

 

「大丈夫よ。強い力は確かに怖いモノだけど、怖がってはダメ。力は全て使い方次第。滅ぼすも、守るもね」

「ロゼッタ、さん……?」

 

 優しく、それこそ母のように温かく包み込まれたグランの目に光が戻ってくる。

 

「皆を守りたいなら、もっと力がいるわ。あなた達なら、きっと大丈夫」

 

 それからロゼッタはビィの力について仄めかすと、一行から離れていった。

 イオがロゼッタを引き止めるがどうしようもなく、一行はなんとかグランサイファーへと逃げ帰るのだった。

 

 ダナンは意識不明となり、ロゼッタはルーマシーに残った。黒騎士も行方知れずだ。

 不安や現状について吐き出し、言い合って、それでもロゼッタや黒騎士を助けるための手がかりを探すという方向に落ち着いた。特にダナンを傷つけてしまったグランはビィや他の皆に深く謝っていた。

 ジータはダナンの治療をして、なんとか腕を繋げることができた。

 

「……ん」

 

 二日経って、ようやくダナンは目を覚ます。

 

「だ、ダナン! 良かった、目が覚めたんだ!」

 

 ベッドの横で座っていたジータが感極まって抱き着いてくる。丁度ザンクティンゼルで育った三人がいる時だった。

 

「全く、心配かけやがったよぅ!」

 

 続いてビィも飛びついてくる。

 

「……ああ、悪い。心配かけたみたいだな」

 

 ダナンは二人の頭に手を乗せて優しく微笑んだ。罪悪感のあるグランは少し黙ってしまったが、ダナンと目が合ってから意を決して口を開く。

 

「……ダナン、あの」

「悪かった、グラン」

 

 謝ろうとしたグランを遮るように、ダナンが先に謝った。グランが戸惑う中、彼は言葉を続ける。

 

「俺が、いや俺達が弱いせいでお前にClassⅣ使わせるくらい、追い詰めちまったな。……悪かった」

「っ……! そんな、僕が、僕のせいでダナンは……!」

 

 グランはくしゃりと顔を歪める。

 

「……強くなるから、絶対、皆を守れるように」

「ああ。俺達で強くなろうな」

 

 近づいてきたグランの手を、ビィを撫でていた方の手を放して掴み固く握り合った。

 

「……グランには散々言ったけど、ダナンもああいうことしちゃダメだからね」

「ビィの命よりは腕一本の方がマシだろ」

「それでも! ……凄く、心配したんだから」

「……わかったよ、極力気をつける」

「うん」

 

 また涙目になりそうなジータに、ダナンは苦笑して答えた。

 四人は改めて強くならないとという気持ちを強めるのだった。

 

 それから目覚めたダナンはリーシャにちゃんと腕が繋がっているのか確かめると言われて脱がされそうになったのを「大胆だな」と茶化したり、ロザミアに「二人と違って底抜けのお人好しじゃないとは思ってたけどあなたもバカなのね」と言われて「心配してくれたのか?」と返し「(心配なんてしてないわ。あなたが戦えなくなると戦力ダウンすると思ったのよ)心配しないわけないでしょ。あなたは大事な仲間なんだから。……ハッ」と本音と建前を逆転させてしまったのをからかったりした。

 

 それからロゼッタが言っていたビィの力があればユグドラシルを救えるかもしれないという言葉からヒントを得るために、まずは全空に支部を持つ秩序の騎空団の資料を漁ることになり、アマルティア島へとグランサイファーを進めるのだった。

 

 しかしアマルティア島は帝国兵によって占領されていた。モニカさんがいたはず、と動揺するリーシャの前にエルステ帝国中将ガンダルヴァというドラフの戦闘狂が現れる。ガンダルヴァは秩序の騎空団していたことがあり、秩序の騎空団団長ヴァルフリートとの一騎討ちに破れ追い出されたという。

 リーシャが団員達やモニカを倒された怒りで突っ込み、ガンダルヴァを圧倒するのだが。結局は倒されてしまう。それから一行は全力を尽くして戦うのだが、結局は負けてしまう。スツルムとドランクがなんとか撤退に追いやったものの、全員がかりでも勝てるかどうか怪しいところだという結論になった。

 残っていた団員達と合流し、全員が目覚めたところで現状の確認を行う。

 

 リーシャはモニカからの伝言を団員から預かり、ガンダルヴァ打倒の一手を考えるのだが。

 

「……はぁ」

 

 前提条件は、ガンダルヴァを誰かが足止めまたは倒すこと。全員がかりでも厳しいが、捕まっているモニカや他の団員を助け出す戦力は必要だ。できるだけ少人数でガンダルヴァに対抗できるのが望ましいのだが。

 

「はぁ」

 

 リーシャはアマルティア島に着いたその日の夜、建物のベランダで何度目かもわからないため息を吐いた。

 

「なんだ、悩んでるのか?」

 

 そこに、何気なく訪れたのはダナンだ。当然リーシャが悩んでいそうというのをわかって来たのだが。

 

「ダナンですか。……はい。正直なところ、ガンダルヴァを止める手立てが思い浮かばなくて」

 

 自分の頭では、モニカの助言を実行したとしてもどうなるかわからないという結論に至っていた。だから他の誰かを頼ることにしたのだ。それだけでも最初に会った頃から変化しているようである。

 

「まぁ、あいつ強かったもんな」

「そうですね。父さん――ヴァルフリート団長と一騎討ちの末追い出されたとは言いますが、ヴァルフリート団長は七曜の騎士です。年齢差を考えても、黒騎士さんより強いと考えられます。そもそもモニカさんでも勝てない相手にどう戦えば……」

 

 考えを述べるリーシャの声は少し沈んでいた。父やモニカへの劣等感を感じて、ダナンはなぜリーシャに食ってかかるようなことをしたくなかったのか理解する。

 

「ああ、なるほど。俺が最初お前を気に入らなかった理由がわかったわ」

「えっ」

 

 気に入らないと言われて地味にショックを受ける。まぁリーシャもあまりいい印象を受けていなかったのでお互い様だろう。旅の最中ただ悪ふざけをする人ではないと理解しているからこそ、今はマシなのだが。

 

「お前は周りと自分を比べて過小評価してるからだ」

「そんなことは……」

「あるんだよ、それが。確信したのは今日のガンダルヴァとの戦いを見た時だ。……悔しいことにお前以外は相手になっていなかったと言っていい。だからこそモニカはお前が一皮剥けるような助言を残して、ガンダルヴァに対抗できるようになってもらいたいんだろうな」

「私はそんな……」

 

 ダナンは言うが、リーシャは自信なさげに俯いてしまう。

 

「リーシャ」

 

 そんな彼女に、ダナンは優しく呼びかける。リーシャが顔を上げると柔らかく微笑んだダナンの顔が真っ直ぐに見つめてきた。

 

「大丈夫だ、お前は強いよ。お前がそう思えなくても、俺が、俺達が保証してやる。だからもう少しお前の力を、お前の努力を認めてやってくれないか?」

「私の、努力を」

「そうだ。お前はこれまでヴァルフリートやモニカなんていう強者達に追いつくために一生懸命努力してきたんだろ? だったら大丈夫だ。お前ならできるよ。だからもう少し自分を信じてみな」

「……」

 

 思いの外優しい声音がリーシャの心に染み渡る。それでも、まだ自分を疑ってしまう自分がいた。

 

「それでもダメなら、そうだな。俺が一緒に戦ってやるよ」

「えっ?」

「リーシャがガンダルヴァに及ばないって思ってる分を、俺が補ってやる。お前が勝てないと思っても、隣に立って支えてやる」

 

 ダナンはリーシャの手を握る。優しく、包み込むように。

 

「だから心配するな。お前はお前ができる最善を尽くせばいい」

 

 手に伝わる温もりが、かけられる優しい言葉がリーシャに浸透していく。

 

「……えっと、では」

 

 だから少しだけ、自分のことを信じてみようと思う。

 彼女は頬を染めて上目遣いにダナンを見つめて告げた。

 

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 それこの場面で言うセリフか? と思うダナンではあったが、空気を読んでツッコまないことにした。

 

「ああ」

 

 代わりに力強い笑顔で応えるのだった。

 

「またダナンが女の子と仲良くしてる」

「あれは天然の誑しね。気を揉むだけ無駄だと思うわ」

「……ひゅーひゅー」

「お、オルキスちゃんっ。気づかれちゃう!」

 

 ……いい雰囲気になったところで、隠れているつもりなのか顔だけを出しているジータ、ロザミア、オルキス、ルリアの四人の声が聞こえた。リーシャがはっとして振り向くと、目が合ってからささっと顔を引っ込めている。オルキスはなぜか抱えていたぬいぐるみの顔を覗かせた。それで誤魔化せると思っているのか。

 

「い、いつからいたんですか!?」

「ほとんど最初からだな。皆お前のこと心配してたんだろ」

「気づいてたなら言ってください!」

「いや、それ言って雰囲気壊れると大事なことが言えなくなるだろ、流れ的に」

 

 ダナンは悪びれずに答えたのだった。顔を真っ赤にしていたリーシャだったが、こほんっと咳払いをして居住まいを正す。

 

「……皆さん、作戦が決まりました。明日、庁舎を襲撃します。私とダナンでガンダルヴァを抑えますので、皆さんでモニカさんや他の方達を救出してください。細かい作戦は明日詰めます。おやすみなさいっ!」

 

 リーシャは冷静を装って告げると、恥ずかしかったからか勢いよく部屋に駆け込むのだった。

 

 翌日。

 昨日より晴れやかな顔をしたリーシャはテキパキと作戦の説明を行い、事情を知らない者達を驚かせた。だが事情を知らなくても、ダナンと二人でガンダルヴァに挑むということからダナンとなにかあったのだろうなとは推測されたのだが。

 

「なんだ、一対一じゃねぇのか?」

「はい。あなたに確実に勝つためには、仕方のないことだと思ってください」

「はっ。オレ様に勝つだと? 上等だ、二人がかりでも勝てねぇってことを教えてやるよ!」

 

 リーシャの作戦で誘き出されたガンダルヴァはリーシャとダナンと対峙する。その間に他の全員で庁舎を襲撃するという算段だった。

 

 他がモニカ達を救出している間に二人はガンダルヴァとの死闘を繰り広げる。リーシャが少し前向きになって一皮剥けたことと、ダナンがそのリーシャに合わせて共闘したことが要因となり、ガンダルヴァと互角以上に渡り合えていた。

 

「ぐっ、てめえ……!」

 

 傷だらけのガンダルヴァが呻く。

 

「これで、お膳立ては済んだな。……リーシャッ!!」

 

 向かい合っているのはダナンだ。ガンダルヴァの太刀が彼の脇腹を裂いているが、代わりにダナンの短剣がガンダルヴァの太腿に突き刺さっていた。相打ちで機動力を奪った形だ。共闘相手に呼びかけ、短剣を抜いて正面から逸れる。そこにリーシャが駆け込んでいた。

 

「これで決めますッ! トワイライトソードッ!!!」

「嘗めるんじゃねぇ! フルブレイズ・バッター!!!」

 

 リーシャの剣に纏わせた疾風と、ガンダルヴァの太刀に纏わせた火焔が激突する。近くに立っていたダナンの全身が焼き尽くされるのではないかというほどの衝突が一帯の水分を干上がらせ、両者互いに奔流に呑まれていった。

 あとに残ったのは刻まれ焼けた周囲と、互いにボロボロになったリーシャとガンダルヴァ。どちらが勝ったのか、と思う間もなく両者同時にふらりと身体を傾けた。

 

「っと」

 

 しかしリーシャは倒れる前にダナンに支えられる。

 

「これでお前の負け、俺達の勝ちだな」

「……チッ、ぐっ、ははっ。二対一でも、勝てると思ったんだが、な。だが次こそは、てめえらが相手だろうがオレ様が勝つ」

「何度やっても、同じ結果にしてみせますよ」

 

 ダナンに支えられながらも気丈に返すリーシャに対して笑い、ガンダルヴァは遂に気を失った。逃げてきた帝国兵達がガンダルヴァを連れて行ってしまうが、流石にダナンも見逃す他ない。体力が尽きてしまっていたのだ。

 

「リーシャ!!」

「モニカさん……!」

 

 そこに仲間達が救出したモニカが顔を綻ばせてやってくる。リーシャも満身創痍の状態で彼女の無事を喜んだ。

 

「流石だぜ! ガンダルヴァを倒したんだな!」

「ああ、なんとかな。リーシャがいてくれたおかげだ」

「そんなことありませんよ、ダナンがいてくれたおかげです」

 

 ビィの声に応えると、リーシャも同じようなことを言う。彼女と顔を見合わせて笑った。

 

「……ガンダルヴァを倒せたのはいいけど、なんか複雑な気分」

「なら彼を労ってあげたらどう?」

「そうだね。……って別にダナンは関係ないから!」

「へぇ? なら行かなくていいんじゃない?」

「そ、それはその、やっぱり一番大変だった人を労わないのはダメって言うか……」

 

 言い訳しつつジータはダナンとリーシャの方に近づいていき、それぞれ治療するからという名目で引き剥がしていた。なにやらジータとリーシャの間で火花が散っているように見えたのは気のせいだろうか。

 

 無事アマルティア島を取り戻した一行は、第四騎空挺団の資料庫を漁ってビィに関する記述を探していた。

 そこでリーシャが父ヴァルフリートの手記を発見する。そこにはビィと思われる小さな赤き竜とルリアと思われる蒼の少女の記述があったが、相容れない存在であるという文言があった。思わず見せる前に破いて隠そうとしたのだが、様子がおかしいことに気づいたダナンは誤魔化されないのだった。

 

 ビィに関連すると思われる記述を元に、一行はビィ、双子、そしてダナンの故郷と言えるザンクティンゼルへと立ち寄った。

 ザンクティンゼルの森の奥の祠にビィの力が封印されていると推測した一行だったが、その前に四人が一緒に暮らした家に別の誰かがいた。

 

 それがエルステ帝国皇帝を名乗る、オルキスの父の弟であるロキという星の民と枷を嵌められた星晶獣フェンリルだ。

 

 一戦交えるもすぐに撤退してしまった。そんな時村から聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえて、慌ててそちらへ向かう。そこには帝国の少将フュリアスがいた。彼は一行の顔に覚えがないようなことを言って魔晶を使い味方の兵士諸共薙ぎ払ってくる。精神を犠牲にしていることもあってか強力な相手に追い詰められる中、魔晶によってマリスと化したユグドラシルを助けることができると言うビィの能力なら、フュリアスをどうにかできるのではないかと推測を立てて祠へと向かう。

 

 しかし祠の前で自分が自分じゃなくなる不安に怖気づくビィ。

 

 そんなビィを、黒騎士を助けたい傭兵二人が脅そうとするが、それを読んでいたダナンがビィを庇う。

 

「ビィ。安心しろ、お前がとんでもない化け物になって仲間を傷つけるようなら、その前に俺がお前を殺してやる」

 

 一切軽い雰囲気を見せない、覚悟を決めた表情に普段ならそんなこと言わないでと注意する面々も押し黙ってしまう。

 

「ダナンのはちょっと置いといても、心配しなくていいよ」

「うん。僕達は気にしないから」

 

 彼の作った真剣すぎる空気を緩めるかのように、双子が声をかける。

 

「まぁそうだな。それに、今更なにを言われるまでもなく、覚悟はとっくに決まってるだろ? ……あの時、強くなろうって決めたじゃねぇか」

 

 ダナンも真剣さを引っ込めて普段通りに告げる。

 ビィは彼の言葉に、マリスに負けてルーマシーから逃げ帰った後のことを思い出していた。あの時、誰も彼もが無力感に打ちのめされていた。特にビィは戦えないこともあってそれがより重くのしかかっていた。

 

 ……そうだ、オイラだってもうあんなことにならないようにしたいって思ったんだ。

 

 そう思い直したビィの目には覚悟が宿っていた。くるりと祠に向き直って意を決し、祠についている扉を開け放つビィを、三人は保護者のように温かな目で見守っている。祠を開け放つと光が溢れて――特にビィの身体に変化はなかった。

 だが確かな力を感じるらしく、丁度やってきたフュリアスにそれを試して大幅に弱体化させることに成功する。またグランもビィの覚悟に感化されロゼッタの言葉を思い返し、強力な武器である天星器を取り出した。天星器は強力故に制御が難しく、未熟な時に誤って仲間を傷つけてしまったことがあるのだ。それ以来少し恐れを抱いていたのだが。

 

 グランが天星器の一つである七星剣を取り出し制御しているのを見て、負けられないとジータも四天刃を取り出す。ダナンはどれを使おうかな、と思いながら二王弓を取り出して援護射撃に回っていた。

 弱体化したフュリアスなど相手にならず、一行は彼を倒す。しかしスツルムとドランクとダナンがトドメを刺そうとしたところ、突如現れたロキに回収されてしまうのだった。

 

 それから、一行の前に謎の老婆が現れる。それはザンクティンゼルでは“なんでもお見通し婆ちゃん”と呼ばれる不思議な老婆だった。特にグラン、ジータ、ついでにダナンのことなら百発百中である。

 

「ClassⅣにもう足をかけてるね?」

「な、なんでお婆ちゃんがそのことを!?」

「ふぇっふぇっふぇ。なに、年寄りは物知りなモノだよ」

 

 一見普通の老婆にしか見えないのだが、底が知れない人物である。

 

「ClassⅣ、会得したいんじゃないかい?」

「「「っ!」」」

 

 老婆の言葉に『ジョブ』持ちの三人が反応する。

 

「他の子達もまとめて面倒見てあげようかね。もし、良ければだけど」

「「お願いします!」」

「ふぇっふぇっ。……本当はあんたにだけは教えないと思ってたんだけどねぇ」

 

 グランとジータが声を揃えて言うのに笑い、三人目のダナンに目を向けた。

 

「まぁ、だろうな」

 

 他の面々はなぜと驚くのだが、ダナンはあっさりと頷いた。双子の『ジョブ』が父から受け継がれたモノだと言うなら、ダナンも父から受け継いだモノだという簡単な推測だ。そしてダナンは物心つく前に一度、父親に会っていた。

 

「覚悟は決まってるんだろうね?」

「当然。……野郎に会った一歳の時からな」

「ふん。だったら、この子達のためにも協力してやらないとねぇ。なんの因果であたしがあの男の子供を鍛えるんだか」

「さぁな。けど多分、こいつらの親父は最初からそのつもりだったんだろうよ」

「だろうね。まぁ全員まとめて面倒見てあげるよ」

「助かる」

 

 ダナンが礼を言うと老婆は変な顔をするのだった。

 

 ともあれ三人はClassⅣを取得し、その他も鍛えてもらった。途中ロザミアが仮面の力を暴走させてしまうなどもあったがなんとか乗り越え、一週間の時を経て装備も一新した一行は、満を持してルーマシー群島へ向かう。

 

 ルーマシーに来ていたポンメルンを退け、ロゼッタを助け、スツルムとドランクが黒騎士を探しに行き、マリスと戦う。その戦いでオルキスが黒騎士と話し、心ここにあらずの状態であった彼女に自我を取り戻させた。

 黒騎士が加わった一行にとってビィの力で弱体化したマリスなど相手にならず、ユグドラシルを元に戻すことに成功したのだった。

 

 しかし肝心のアーカーシャは帝国に奪われてしまったらしく、フリーシアの野望を止めるには帝都アガスティアへ行かなければならないとわかる。

 スツルムとドランクが申し出てこれまでの旅で出会ってきた者達や秩序の騎空団などに加勢を頼む手紙を届けることになった。

 

 二人に手紙を任せて一行と黒騎士、オルキスはアガスティアへと乗り込む。

 そこで帝国大将のアダムからフリーシアの計画を聞き、計画を止めて欲しいと告げられる。お人好しの双子は了承し、帝国兵が大勢いるアガスティアへ本格的に攻め込んだのだった。

 またオルキスを元に戻す方法があることもわかる。

 

 絶え間なく兵士達が襲ってくる中、突然ロザミアが別方向に走り出した。

 

「お、おい! ……ロザミアがどっか行きやがった! 俺は後を追う、先に行っててくれ!」

「えっ? ああもうっ!」

「あいつ、連戦に次ぐ連戦でずっと仮面つけてたから、多分精神に影響が出てるんだ。さっさと連れ帰らねぇと」

「……放っとけないんだね?」

「お前らお人好しほどじゃねぇよ」

「わかった、私も行く」

「そういうことなら俺も行くぜ。あの嬢ちゃんの顔、どっっかで見覚えがあってな」

「……わかった。グラン、すぐ戻ってくるからがんがん突き進んでくれ。なんならフリーシア倒してもいいからな」

「うん、いってらっしゃい」

 

 ダナンが少し焦りを見せる中、ジータとオイゲンが彼についてロザミアを追っていく。グランは三人を苦笑しながら見送った。

 

 ロザミアを追うダナン達は彼女の影を追って帝国内の研究施設に辿り着いた。

 すぐに来たはずだったが、そこで目にしたのは施設内にいた研究者達がロザミアの手によって殺害されている光景だった。

 

「ロザミア!」

 

 ダナンにしては珍しく、声を荒らげる。

 

「珍しいわね、あなたが血相を変えるなんて。そんなに慌ててどうしたの?」

 

 振り返ったロザミアはいつもと変わらないように見えた。

 

「……なんで、そいつらを殺したんだ?」

 

 ダナンは警戒しつつ、ロザミアに語りかける。

 

「こいつらは私に仮面の実験をして望まない仕事を強要させた。そして私の両親を殺すように命じたの。……死んで当然の外道よ」

 

 冷めた声音で告げるロザミアの様子にジータが息を呑むが、ダナンは平然を装って言葉を続けた。

 

「そうだな。……全員殺したなら一旦休憩したらどうだ? 連戦で疲れてるだろ、仮面を取って休むべきだ」

「必要ないわ」

 

 遠回しに仮面を取って精神状態を確認しようとしたが、きっぱりと断られてしまう。

 

「仮面は完全に私の制御下にあるの。外れなくなってしまったけどもう問題ないわ。仮面は完全に私の力になった」

 

 ロザミアは告げるが、ダナンは顔を歪める他なかった。どうやら仮面がロザミアの一部となり、精神にじっくりと影響を与えている状態のようだ。それを覆すには、ロザミアが仮面の影響を受けていると自覚し抗わなければならない。

 

「それは違うな」

「……なにが?」

「お前は仮面を制御下に置いちゃいない。体良く操られてるだけだ」

「なにを根拠にそんなこと……」

 

 ダナンはロザミアに近づき、顔を持って目を合わせた。

 

「これまでと顔が違うからな」

「……」

 

 ロザミアはなにそれ、という呆れた顔をしている。

 

「なにも変わらないわ、私は私よ」

「いや、この辺とかちょっと違う」

「……」

 

 むにむにと無遠慮に仮面に覆われていない顔を触るダナンに、ロザミアの目が冷たくなっていた。

 

「あなたになにがわかるの?」

「むしろ俺がわからないとでも思ってるのか?」

 

 突き放すような問いに聞き返されて、ロザミアは怪訝な目をした。

 

「……どういう意味?」

「どういう意味もなにも、俺はずっと見てきたからな。それくらいわかる」

「っ……」

 

 ロザミアはほんのりと頰を染める。もちろん特別な意味はなく、仮面の力が暴走しないか心配だったからである。

 

「そう……」

「一番は目だな。……普段のお前はもうちょっと優しい目をしてる」

「そんなこと……」

「ないと言い切れるか? ほら、戻ってこい。お前はこっちにいていいんだ」

 

 ダナンはロザミアの手を握って身体を引き寄せる。こっち、の意味がわかったのはオイゲンだけだったが。強引とはいえ少しだけ効果があったらしい。

 

「……私はそっちにいていいの?」

「ああ。わざわざ復讐しなくてもいい。無理に人を傷つける必要はない。お前がホントにやりたいなら兎も角」

「あなたは本当にバカね」

 

 ロザミアはふっと微笑んだかと思うと、ダナンの腹部に剣を突き刺した。

 

「私が、仮面に操られてるってわかっててなんでそんなに無警戒で近づいてこられるの!?」

 

 仮面のない方の目からは涙が流れていた。だが身体は言うことを聞かないからか刃を突き刺す手が止まらない。

 

「大丈夫だ」

 

 しかしダナンは構わず前に出た。

 

「な、何が大丈夫だって……っ!?」

 

 ロザミアの言葉は、ダナンが抱き寄せたことで遮られる。

 

「ロザミア」

 

 真に心に届いて欲しい言葉がある時だけ、彼は優しく呼びかける。

 

「大丈夫だから。剣から手を放して、心を落ち着かせて。仮面の支配に抗えるよ。ロザミアならできる」

「っ……、ぁ……」

 

 そうすると不思議とできる気がしてくるのだ。ロザミアは震えながらも剣から手を放した。

 

「そう、その調子。深呼吸して、心を落ち着かせるんだ」

「……ええ」

 

 ダナンの声に応じることができるようになって、ロザミアは落ち着きを取り戻す。

 

「これで大丈夫だな。後は仮面には精神を渡さないよう気をつけて」

「大丈夫なわけないでしょ!!」

 

 ダナンは彼女を落ち着かせたので離れようとするのだが、今度はロザミアから抱き着かれた。

 

「刺されても優しくして、ホントにバカなの? バカなのね?」

「そうかもな。でもまぁ、それでロザミアが戻ってくるなら安いモンだ」

「バカ……」

 

 笑うダナンにぎゅうと抱き着くロザミア。これで仮面の支配から盛り返せたようだが。

 

「終わったら離れてもらっていい? ダナンを治療しないといけないし」

 

 笑顔に青筋を浮かべて割って入ろうとするのはジータだ。

 

「……まだ仮面の支配が不安定だから、誰かと一緒にいて存在を保ってた方がいいと思うわ」

 

 ロザミアは平静を装って告げるが、その頬は紅潮していた。ダナンには身長差と密着度で見えていないが、ジータにはばっちり見えている。額の青筋が一つ増えた。

 

「ふぅん? 逆転してないってことはそれが本音なんですよね? つまりそれは私でもいいんですよね? じゃあ私と抱き合いません? 私もロザミアさんが仮面の支配に抗えて嬉しいなー」

 

 終始笑顔ではあるが、妙な迫力が備わっている。

 

(……よりにもよってこんな時に、ちゃんと建前が言えるなんて)

 

 そう、残念ながら建前だった。おそらくジータもそれがわかっていて、それが本音ならと言い出したのだ。

 だがロザミアの本音としては、離れるという選択肢はない。けれどジータを納得させるには自分の意志で本音を言わなければならない。どちらを取るべきか、ロザミアは少し逡巡した後、少し深呼吸をしてから意を決した。

 

「……だ、ダナンともう少しこうしていたいから、離れたくないわ」

 

 自分でも顔が熱くなっているのを自覚できるほどに羞恥心がやってくる。ぴしり、とジータの身体が硬直した。

 ジータはつかつかと近寄ってくると、密着する二人を離れさせようとする。

 

「尚更離れてくださいっ。そんな私情で治療を邪魔するなんて……!」

「治療くらいこのままでもできるでしょ?」

「傷口をちゃんと診て最適な治療方法をする必要があるんです!」

「回復魔法で一発の癖に患部診る必要ないでしょ!」

 

 二人の視線が交錯し、火花が散った。正に修羅場、ではあるのだが。

 

「あー……悪ぃが後にしたらどうだ?」

 

 疎外感溢れたオイゲンが気まずそうに声をかける。理由は、さっきから全く無言な彼である。

 

「ダナン、多分貧血で意識朦朧としてるからな」

「「っ!!」

 

 言われて気づいたが、顔から血の気が引いて青褪めており、意識がはっきりしていないのか反応を示さない。

 

(仕方ないから、ここは一時休戦ね)

(はい、まずはダナンを治療しないと)

 

 先程まで睨み合っていたはずなのに、完全に息の合ったアイコンタクトでテキパキと行動していた。

 

「……若ぇって凄ぇな」

 

 彼自身若い頃はまぁ、モテなかったわけではなかったが。嫁一筋だったのでよくわからない。とはいえもっと凄い化け物みたいなモテ方をする男を知っているので、まだまだ一般的にはモテるという範囲なのかもしれないが。

 ともあれダナンはジータの治療によって一命を取り留めた。その後意識を失ったダナンにどちらが膝枕をするかという言い合いに発展したのだが、結局はロザミアが「元々は私の失態よ。これくらいは私にやらせて」との言葉でジータが退いた。

 

 ここ、敵地のど真ん中だぞ。

 

 とはオイゲンもツッコまなかった。ただ、目覚めたダナンは二人にそう告げるのだった。

 

 それから充分休憩になったので四人はグラン達と合流するために研究施設を出る。

 因みにロザミアの両親は殺されたと思っていたが、オイゲンが助けていたので今も生きているらしい。

 

「(仮面の力が不安定だから手を繋いで人の存在を感じるようにすべきだと思うの)ねぇ、手を繋ぎたいんだけどいい? ……ハッ」

「ん? ああ、いいけど」

「えっ、いいの?」

「ああ。またどっか走って行かれても困るし」

「そ、そう……」

 

 役得と思うべきか信頼されていないと嘆くべきか微妙なところだと思うロザミアであった。

 ガンダルヴァとフュリアスに立ち塞がられているグラン達と合流した時、リーシャが目敏くそれを見つけて一悶着あったのはまた別の話である。

 

 敵地でなにイチャついてんだと微妙に帝国兵の指揮が上がったのだが。

 

 そこにモニカ率いる秩序の騎空団やザカ大公率いるバルツ公国軍、四騎士や組織の面々などが参戦し、彼らに書状を届けてくれていたスツルムとドランクも合流する。

 帝国兵を薙ぎ払い、他の者達が帝国兵の足止めを引き受けてくれたことで一行はタワーに接近することができたのだった。

 

 しかし帝国兵が召喚したマリス四体に絶体絶命の窮地を迎える。

 

 そこに天星器を強化する過程で知り合った最強の騎空団、十天衆の面々が参上して足止めを買って出てくれた。

 一行はフリーシアの野望を止めるためにタワーを登る。

 

 だが皇帝ロキが人数が多いから減らそうという理由で一人が残ってマリス一体と戦うようにさせる。断ればマリス四体を一斉に使うと言われてしまい、一行は従う他なかった。

 

 一人ずつ置いて一刻も早くフリーシアを、と駆け上がる。

 

 そして契約遵守の星晶獣ミスラと野望を果たすまで何度でも立ち上がると契約し、その履行によって不死身と化したフリーシアを剣と鎧を取り戻した黒騎士が足止めする中、タワーの最上階でアーカーシャを起動させる。契約をしてしまったフリーシアを解放するには、未来で存在を消す他ないという黒騎士の言葉に従って。

 だが正規の手順で起動されなかったアーカーシャは暴走してしまう。

 

 あわや存在を消される直前でビィの力により踏み留まり、一行に敵意を向けるアーカーシャを鎮めるために戦闘へ入った。

 下の階で留まったままの仲間達もいるが、彼らが託してくれたモノのために人数が少ない中で全力を尽くしていた。

 

「ジータッ! 四天刃!」

「うん!」

 

 全員が瀕死になるという異常事態をオルキスの機転で脱した一行は、切り札を切ってきたらしいアーカーシャにトドメを刺すべく最後の一撃を繰り出そうとしていた。

 強力な武器である天星器は武器種それぞれに一つ、計十種存在している。それを三人はグランが四つ、二人が三つずつそれぞれ所持しているのだ。とは言っても双子に得意なヤツからどうぞ、というスタンスを取った結果ダナンは得意というわけでもない武器が増えてしまったのだが。

 

 ジータが持っている四天刃を借りて、自分が持っている十狼雷を手に取る。

 

「【義賊】ッ!!」

 

 ダナンが一番に会得したClassⅣを発動する。【義賊】の得意武器は短剣と銃、持っている天星器と同じなので使えなくはない。

 

「我が隙を作る。後は任せよう」

「わかった。いくよ、グラン!」

「うん!」

 

 ダナンは二人に後を任せてアーカーシャへと迫る。

 

「ブレイクアサシン! 桜門五三桐!」

 

 まずは【義賊】で最大の攻撃力を発揮できるように準備を整えた。そして、

 

「四天洛往斬ッ!!!」

 

 左手の四天刃を閃かせる。渾身の奥義がアーカーシャの巨体を怯ませた。……通常であれば、特殊な『ジョブ』でもなければ奥義を連発することはできない。奥義後の反動が激しく身体が動かなくなるからだ。

 だがダナンはそこを、無理矢理に右腕を動かしていた。

 

「ブレイクアサシン……!」

 

 再度僅かな間だけ攻撃力を大幅に上げるアビリティを使用。右手に持った十狼雷の引き鉄を引く。

 

「十絶星駆!!!」

 

 体勢が整わず威力が落ちるのをアビリティの強化でフォローした奥義がアーカーシャを追撃した。

 強すぎる反動によって『ジョブ』が強制的に解除されてしまうが、今回はそれで構わなかった。

 

「お膳立ては終わりだ、決めろよ?」

 

 軋む身体に汗を浮かべながら不敵に笑う彼に、残った全員が応える。

 追撃の一番手はルリアの召喚したバハムートの大いなる破局(カタストロフィ)。アーカーシャの巨体にその強大な一撃を食らわせた。

 オルキスの召喚したリヴァイアサンが水の奔流で更に怯ませる。

 ロゼッタ、リーシャ、カタリナ、イオ、スツルム、ドランクが放つ奥義が次々と決まる。

 

「操符術・虚冥穿ッ!!!」

 

 幸か不幸か仮面と一体化したことでより仮面の力を引き出せるようになったロザミアが奥義を放った。剣を突き出すと同時、呪符の力で力を増幅させて極大の閃光を放射する。撃った後に呪符が援護攻撃を行った。

 

「レイジ! ウェポンバースト!!」

 

 【ベルセルク】となったグランが強化を行う。双子は同時に駆け出していた。アーカーシャにトドメを刺すために。

 

「北斗太極閃!!!」

「聖柱五星封陣!!!」

 

 【ベルセルク】グランの七星剣、【ウォーロック】ジータの五神杖が閃き、それぞれの最大の一撃がアーカーシャへと叩き込まれ、そして。

 

「――――」

 

 断末魔のような声を上げて、アーカーシャはようやく沈黙するのだった。

 

 それからルリアとオルキスの手でアーカーシャは正常に再起動される。

 そして、黒騎士の意思に反してフリーシアとミスラの契約をなかったことに書き換えた。

 

 その後下の階に残って合流できなかったラカムとオイゲンが十天衆に助けられて合流し、秩序の騎空団に後始末を任せる。一行はグランサイファーを守って壊れてしまったゴーレムのアダムを埋葬するために旧王都のメフォラシュへと向かうのだった。

 

 そこで星晶獣によって心を喪い人形のようになってしまった今のオルキスと、天真爛漫だった昔のオルキスどちらも大切に想っているが、昔のオルキスを諦めることもできない黒騎士がそれぞれの立場となって戦おうと一行に進言してくる。

 一行は黒騎士の覚悟を受け止め、魔晶を使った黒騎士と全力で戦い勝利するのだった。

 

 これで黒騎士は昔のオルキスを諦めようと決めるのだが、それをオルキス本人が不意にする。

 しかし魂だけの存在となっていた昔のオルキスがアダムに用意させていたオルキスと同じ身体をしたゴーレムがあったため、今のオルキスは“オーキス”と名を改めてゴーレムの身体を得た。

 昔のオルキスは生身の身体に戻り、肉体と魂が定着するまで眠り続けることになる。

 

 それから一行は帝国を倒した祝勝会をアウギュステで開く。その際本格的に騎空団を立ち上げることにしようという話題が持ち上がり、多くの伝手を持つシェロカルテにこれまで関わってきた人達の中で騎空団に入ってくれそうな人達は宴に呼ぶことにした。

 

「ねぇ、ダナンはどんな名前がいいと思う?」

 

 アウギュステへ向かう途中、騎空挺の甲板でジータはダナンに尋ねる。グランとビィも合わせて、四人で騎空団の正式な名前を相談しているのだ。

 

「ん? まぁ適当でいいんじゃね?」

「ダナンも一緒に考えようぜ? オイラ達の騎空団なんだからよぅ」

「俺は別に、お前らの手助けしてるだけだしな。お前らで決めればいいじゃん」

「ダメだよ。ダナンだって団長なんだから」

「は?」

 

 興味なさそうなダナンだったが、グランの言葉に思わず聞き返す。

 

「なんで俺が団長だよ」

「え? だって僕達三人で始めた旅だよ? ビィはまぁ、団長って柄じゃないから置いておくとしても」

「そこはオイラ気にしてねぇって。オイラとしてもダナンが団長やった方がいいと思うぜ?」

「いや、団長三人って聞いたことねぇから」

「例外はあるモノじゃなくて作るモノなんだよ?」

「作らなくていいだろそんなモノ」

 

 他三人はダナンにも団長をやって欲しいようだが、本人はあまり乗り気でないようだった。

 

「なんでやらないの?」

「面倒。柄じゃない」

「ダナンなら団長もできるって」

「やだよ、平団員にしてくれ」

 

 ダナンは断り続け、三人は不満顔になる。

 

「じゃあ百歩譲って副団長は?」

「なんで俺をそういう立場にしたがるんだよ。お前らの旅についていってるだけなんだから、俺はそんな立場いらないっての」

「そうじゃなくて、僕達はダナンに団を支えて欲しいんだ」

「……」

 

 グランの真っ直ぐで曇りのない目に見つめられて、ダナンは押し黙った。

 

「……はぁ」

 

 そして諦めたように嘆息する。このパターンは常人が折れる時のモノだが。

 

「だから断るって言ってるだろ」

 

 付き合いの長い彼には関係なかった。

 

「なんで? 一緒に団長やろうよ~」

「そうだよ、三人で団長やろう」

「オイラも三人が一緒の方がいいと思うぜっ」

 

 三人はぐいぐいと詰め寄ってくる。付き合いの長い彼だからわかる。

 

 ああ、これ頷かないと先進まないヤツだ。

 

 がりがりと頭の後ろを掻いた。自分が折れるしかないとわかっている。

 

「……ああ、クソ。わかったよ、やればいいんだろやれば」

 

 仕方ない、という彼の言葉に三人は顔を見合わせて笑った。

 

「ただし」

 

 しかし有無を言わせないように語調を強めて釘を刺す。

 

「副団長だ。あと面倒な仕事を押しつけるようなら団ごと辞める」

「「わ、わかった」」

 

 その言葉に団長となる二人が揃って頷いた。

 それから四人で改めて騎空団名について相談して、“蒼穹(あおぞら)”と名づけることにするのだった。

 

 宴がいい感じに盛り上がってきたところで二人の団長と副団長の三人で宴に来ていた者達を勧誘する。

 これにより“蒼穹”の騎空団は二百人超の大騎空団となる。

 

 更には、

 

「ねぇねぇ団長ちゃん達~。俺達も団に入れたくない?」

 

 十天衆の頭目であるシエテが軽い調子で声をかけてきた。

 

「えっ!? 入ってくれるの!?」

 

 それを聞いたグランは最強の十人とも言える彼らが加入してくれることを無邪気に喜んだのだが。

 

「うん。俺達一人ずつと戦って勝てたらね?」

「え」

 

 しかし彼の言葉に固まった。

 

「いいじゃねぇか、とりあえず加入させるために三人で分けて戦おうぜ」

 

 だがダナンは笑って条件を呑む。

 

「ま、まぁそれならとりあえずはいいかな」

「異論はないよ~。ま、いつかは全員とそれぞれが戦って欲しいけど」

「でもどうやって分けるの?」

 

 ジータの問いにダナンはニヤリと笑った。

 

「持ってる天星器でいいんじゃねぇか?」

「ああ……って僕一個多いんだけど?」

「団長やるって言うならそれくらい許容しろよ」

「いやでも、天星剣王のシエテさんに刀神オクトーさんもいて四人はキツくない!?」

「それを言うなら俺だって一番手堅くて攻略しづらいウーノとやるんだぞ? 残る二人は遠距離から一方的に嬲れるし、お前はお前の土俵でもあるんだから頑張れよ」

「うぅ……」

 

 グランは想像した。一騎討ちとはいえシエテ、オクトーという二強とも名高い二人と戦う上にサラーサとシスとも戦うという難題を。

 しかしダナンが戦う相手であるソーンとエッセルという遠距離得意な二人を相手に戦う難しさもなかなかのモノだ。確かに優先的に得意な武器種の天星器を持っていることもあってグランの土俵であるのだが。加えてあと一人が攻防一体で隙のないウーノである。ウーノの手堅さは理解しているので、正直なところグランとしてはダナンが戦うのがいいとは思っているのだ。

 ジータが戦うフュンフ、カトル、ニオも厄介というか、正攻法の通じない相手ばかりである。なら自分が多く天星器を持たせてもらっている分頑張らなければならない。

 

 ……と、グランに思わせるところまでがダナンの思惑である。

 

「わかった、やろう!」

 

 グランが意を決したことでジータも受けるしかなくなり、三人はそれぞれ十天衆と戦うことになったのだった。

 

「……まさか負けるなんて、ね」

 

 それぞれ巻き添えにしないよう別々の場所で戦っていたのだが、ダナンは無事ウーノ、エッセルに引き続きソーンを打ち破ることに成功していた。おそらく別の場所で戦っている二人も順調に勝っているだろうという確信にも近い予感があった。

 

「まぁ、流石に三人連戦はキツかったけどなぁ……っ」

 

 そうは言うがダナンに一切怪我が見受けられないので相当綱渡りだったとはいえ凄まじいことだった。

 

「まぁ、俺もあいつらもあんた達に入って欲しいし手段選ばなかったところはあるけどな。真っ向勝負でなんとかなるのが一番だが、ならなければ他の手も辞さないってことだ」

「……ふふ」

 

 ダナンが言うと、不意にウーノが笑う。同じ十天衆の二人もあまり見たことがないことだったため小首を傾げている。

 

「いや、すまないね。君のスタンスは少し、育ての親に似てるような気がして、思い出してしまったんだ」

 

 そう言うと彼は少しだけ懐かしむように目を閉じた。

 

「……いや、今の俺のセリフで思い出すようなスタンスのヤツってあんまいいヤツじゃなくないか?」

 

 ダナンは自分の言葉ではあるが、そうツッコんだ。ウーノはしかしどうだろうね、とはぐらかして去っていく。これからよろしく、と言っていたので入る気ではあるようだ。

 

「じゃあ私も、カトルの勝負が気になるから行くね」

「ああ」

 

 エッセルもジータと戦うカトルの様子を見に行ってしまう。その場にはダナンとソーンだけが残った。

 

「ほら、立てるか?」

 

 ダナンも他二人、特に強い二人と戦うことになっているグランの様子を見に行きたいという気持ちもあったので、まずは勝負直後のソーンに手を差し伸べる。

 

「あ、ありがとう」

 

 手を取って、引っ張られるのに合わせて立ち上がる。

 

「……私も化け物だと思ってたけど、なんて言ったら勝ったあなたに失礼かしら?」

「いや、いいんじゃないか?」

「えっ?」

「俺はできる限り強く在りたいからな。……あいつらを守るためなら、化け物だろうがなんだろうが被ってやるさ」

 

 遠く見つめるようなダナンの横顔に、彼が誰のことを言っているのか察しがついた。彼は言った後に片目を閉じて人差し指を唇の前に立て「あ、今のはあいつらには内緒な」と悪戯っぽくソーンに笑いかける。釣られて笑って、ふとまだ手を握ったままであることに気づいた。

 

「ああ、まだ放してなかったな」

 

 ダナンもソーンの視線に気づいて手を放す。その温もりが離れていってしまうことを少し惜しく思ってしまい、

 

「えっと、これから化け物同士仲良くしましょうってことでもう少しだけ……」

 

 と口に出してしまってからはっとする。いくらなんでも気安すぎたかもしれない、というかいきなりこんなことを言って引かれないだろうか? と後から色々なことが頭の中を巡るがもう遅い。

 

「ああ、じゃあこのまま行くか」

 

 だが天然の誑しとして周知されつつあるダナンはなんの迷いもなくソーンの手を握った。

 

「化け物同士なら共喰いでもしない限り一緒にいるだろうしな」

「ええ……!」

 

 ソーンは華やぐような笑顔を綻ばせた。ダナンの笑顔がとても眩しく映ったという。

 

 当然ながら手を繋いで仲睦まじく談笑して戻ったせいでジータ、リーシャ、ロザミアに睨まれることとなるのだが。ソーンが申し訳なさそうにしょんぼりすると凄んでいた三人も強く出れず彼女に譲ってしまう辺り、どいつもこいつもお人好しばかりである。

 

 しばらくアウギュステで滞在している中、ダナンはある人物を見かけた。近くに誰の目もないことを確認してそいつを追った。

 そいつもダナンが追っていることに気づいているのか人気のないところに進んでいく。完全に人目がなくなったところで、ダナンはそいつを本気で殺しにかかる。

 

 しかしそいつはモノともせずダナンを殺した。その後蘇生させたのだが、その相手こそダナンが記憶に留めている黒髪の長髪に赤い瞳を持った男、彼の父親であった。

 父親はダナンが息子だとわかると嬉々として殺して生き返らせを続け、最後に殺して立ち去っていくのだった。

 

「ダナン……!?」

 

 偶然、なにかに引かれるように現れたジータが血塗れの一帯で死亡しているダナンを見つけていなければ、リヴァイブでも生き返ることができなくなっていたであろう。

 ジータは一体この場所でなにが行われていたのか理解できなかったが、すぐにダナンを蘇生させた。死んでから少し経ってしまっていたのか呼吸しない彼を人工呼吸で息を吹き返らせる。

 

「……ジータ?」

 

 咳き込み、目を覚ましたダナンは目を開くと真上にあったジータの顔を認めた。声に気づいてはっとしたジータはぼろぼろと涙を零しながら倒れるダナンに抱き着く。

 

「良かった……! 良かったよぉ……!」

 

 彼女の様子にどうやら意識不明ではなく殺されてしまっていたらしいと認識した。

 

「……悪かった。心配かけたみたいだな」

「……うんっ、すっごく心配したんだから」

「悪い。ちょっと、下手打ったみたいだ」

「なにがあったの?」

「そんな難しいことじゃないんだが、なんて言うかな。今のままじゃどうしても勝てない敵とばったり出くわした? らしい」

「らしいって……」

「俺もちょっと意識がはっきりしなくてな。まぁ、助けてくれてありがとな」

「うん。……でも、私達は家族なんだからちゃんと頼ってね?」

「ああ、わかってる」

 

 けど、これは俺がやらなければならないことだ。

 

 ジータと会話しながら、ダナンは内心でそうつけ足していた。とりあえず心配をかけないために他の人達には内緒にしてもらい、彼はいつかイスタルシアに行く時、全ての決着をつけると決心するのだった。

 

 それから“蒼穹”は最強の騎空団十天衆を加入させたという事実が周知され、各国の要人も続々と加入が判明して一躍ファータ・グランデ空域中にその名が轟いた。

 とはいえ一気に団員が増えたことで団の運営費用だとか、大人数で移動する手段としてグランサイファー一隻じゃ足りないとか、様々な問題が浮き彫りになってしまう。

 

 とりあえずなにをするにも金が必要ということで、自腹は切らないで欲しいが金稼ぎは手伝って欲しいという妙な団長命令が下ったのもいい笑い話である。

 資金も必要だが強い敵と対抗する力も必要だ。ClassⅣ、そして突如現れたEXⅡという『ジョブ』を全て解放することにした。

 

 ある程度準備が整ってから色々あって隣のナル・グランデ空域で旅したり、空の底に落ちそうになったり、神聖エルステ帝国と戦ったり、また少し準備を整えてからナル・グランデの隣、空の支配者を自称する真王が待つアウライ・グランデ大空域に行ってそこでも騒動を起こしたり巻き込まれたりした。

 それから他全ての空域を回り、遥かなる旅路を経て、遂に。

 

 ――“蒼穹”の騎空団は空の果てである星の島イスタルシアに到達した。

 

「来たか」

「大勢引き連れやがって、大層なこったなぁ」

 

 グランとジータ、ビィ、そしてダナンが目指す旅路の果て。父の手紙から始まった最終目的。

 ここに来るまで数多のドラマと伝説があり、苦難と悲哀を乗り越えて、彼らはここに立つ。

 

 そこで待ち受けていたのは、グランとジータの父親、そしてダナンの父親である。

 

「父さん」

「二人共、いや三人共大きくなったな」

 

 グランの呼び声には応えず、彼の父は温かい笑みで三人を見つめる。三人は既に二十近い年齢になっていた。彼の顔つきはグランにそっくりだ。グランをそのまま歳を重ねさせたような姿に見えた。

 

「だが……」

 

 そのまま彼はグランとジータの傍にいるビィとルリアの姿に目を向ける。

 

「ヴァルフリートならきっと忠告しただろうが、それには応じてもらえなかったようだな」

 

 少しだけ悲しげに言った。

 

 ビィとルリアはそれぞれ、空の神と星の神が遣わせた特殊な存在である。空の神は星の力を、星の神は空の力を狙っていたために二人が創られたらしく、充分にそれぞれの力を取り込めた段階で神が二人を回収しに来るだろうと予想されていたのだ。

 だからこそ相容れない存在だという記述があったのだ。

 

「うん。ごめん、父さん。僕達はどっちも大切な仲間だから、二人を放すことなんてできない」

「……覚悟は、決まっているようだな」

「うん。私達はビィもルリアも、神が相手だろうと渡さない」

 

 双子の強い覚悟が宿った瞳を見て、二人の父は諦めたように笑った。

 

「……そうか。いや、これも当然の結果かな」

「ええ、そうでしょうね。だってこの子達は、あなたとあの子の子供なんだもの」

 

 かつて彼と共に旅をしていたロゼッタが告げる。

 

「ああ、そうだな。……わかった。覚悟は受け取ろう。だが本気で神に挑む気なら――俺を、この父を超えてみせろ……ッ!!」

「「っ!! うん……ッ!!!」

 

 剣を構えた父の姿とその身から放たれる威圧感に、双子は興奮を覚えた。いよいよ憧れていた、ずっと背中を追ってきた父と刃を交えるのだ。

 

()()()()()で来い。お前達が長い旅路で紡いできた絆もお前達の力だ。旅で培ってきた全てを、ぶつけてこいッ!!!」

「うん! 行くよ、皆!」

「“蒼穹”の騎空団第一部隊、戦闘用意!!」

 

 “蒼穹”の騎空団、その団員は空の世界全てを回って集めてきた者達だ。

 その団員数は二千を優に超える。だが、今双子についているのは便宜上第一部隊とした千名ほどの団員達だ。

 

「おうおう。なんだよ、あいつの子供と同じくらいの数の団員率いて、俺のガキがまさか団長って柄じゃねぇよな?」

「お前にしては珍しく戸惑っているようだな」

 

 ダナンの父親に笑って返したのは、彼らと縁の深いヴァルフリートである。

 

「あん? てめえもこっちにいやがんのかよ。てっきりあっちかと思ってたぜ」

「それも面白そうだが、生憎と彼は私の、そうだな。義理の息子みたいなモノでな」

 

 その言葉に、相手は目を丸くした。ダナンの近くにいたリーシャが真っ赤になったのはご愛嬌だ。

 

「……ぷっ、ははははっ! なんだよそれ! てめえのガキと俺のガキが!? なんの冗談だそりゃ! くくくっ……!!」

 

 腹を抱えて、心底可笑しそうに笑う。その様子に、向こうと違って事前に聞いていた通り神経に障るヤツだなと団員達は思った。

 

「いや、そうか! 俺の息子だもんな! 俺と同じように手当たり次第犯して孕ませたんだな!? そりゃ納得――」

 

 全てを口にする前に疾風が、呪符が、光の矢が、炎が、闇が、水が、様々なモノが一斉に襲いかかった。それらは片手を払うだけで掻き消されてしまったが。

 

「……父さんに聞いていた通りの下種ですね」

「ええ。こんなのが肉親なんて苦労するわ」

「彼はあなたとは違うわ。バカにしないで頂戴」

「全く。あなただけは以前の私でも愛さないでしょうね」

「彼をバカにするなら、殺すね?」

「こんな外道死ねばいいのよ」

 

 全員がダナンに想いを寄せる女性達だった。その中でも手が出やすい方と言ったら失礼だろうか。

 それにまたダナンの父はきょとんとしてから、腹を抱えて笑う。

 

「くくっ……! 随分とモテモテじゃねぇかよ! あいつに聞いた通り、あいつのガキと一緒に育って影響されてんな? 本気で俺のガキか疑っちまうぜ」

「ええ、彼とあなたでは器の大きさが違いますね」

 

 その言葉にバラゴナが返す。

 

「んん? なんだよ、七曜の騎士が勢揃いしてんじゃねぇかよ。なんだお前、真王の真似事でもしようってのか?」

「さぁな。それより早く始めようぜ。てめえと話すことなんてねぇんだからな」

「そうかよ。まぁそこは俺のガキらしいってことにしとくか」

 

 言ってから、ダナンの父親が左手に剣、右手に短剣を持つ。

 

「かかってこいよ、皆殺しにしててめえが今まで培ってきたこと全部、無駄にしてやるからよぉ……ッ!!」

 

 父親の挑発には応えず、少なくとも表面上は冷静そうにダナンは呟く。

 

「……遠慮はいらねぇ。全力を尽くして、こいつを倒す!! いくぞ、てめえら!!!」

 

 まるで別の誰かの子供を見ているような感覚だ。

 

「……つまらねぇな」

 

 ぼそりとしたその呟きは、他の誰にも届かなかった。

 

 それから一人対千人以上の戦いが二つ、イスタルシアにて開始される。

 空の世界を旅してきた“蒼穹”は既に空の世界最大最強の騎空団と言っても過言ではない。その騎空団が二分されているとはいえたった一人と死闘を繰り広げられていること自体がおかしいのだ。

 

 誰も彼もをして規格外と称し、本人の強さは兎も角一時は全空の大半を支配下に治めた真王が目の敵にしていたほどの存在。

 それも集団ではなく単体での警戒である。

 

 星晶獣すらもモノともしない強さで、且つ星晶獣を還す力を持っている。今回は団員にも星晶獣がいるのだが当然その力は使わない。

 とはいえそれでも、空を巡って成長し続けた彼らであっても、二人との戦いは熾烈を極めていた。

 

 しかしその戦いも、数時間に及べば状況が変わってくる。

 

 ――結果は、“蒼穹”の勝利だった。

 

「……はは、成長したな。本当に、強くなった」

 

 傷だらけで仰向けに倒れ込んだグランとジータの父親が、清々しく笑っていた。

 便宜上第一部隊と名づけられた面々も後衛まで含めて誰一人無傷な者はおらず、戦いが終わったとわかってへたり込む者も大勢いる。

 

「……チッ。クソ、俺のガキの癖に、皆と力を合わせてとか柄にもねぇことしやがって」

 

 ダナンの父親は倒れ込みこそしなかったものの、疲弊した様子で怪我を負い片膝を突いていた。

 

 これでひとまず戦いは終わりだ。皆安堵して達成感を味わう中。

 

「……」

 

 ダナンは傷だらけの身体でふらふらと父親に近寄っていく。その手には愛用の短剣が握られていた。

 

「……俺を殺すか」

 

 父親は笑っている。そうするのが当たり前だとでも言うように。

 

「ああ、殺す」

 

 頷いたダナンの瞳にはなんの感情もない。躊躇いも当然ないが、目の前の人物を恨む理由も憂う理由もないのだ。そうする必要があるとでも言うかのように父親の眼前まで歩み出るダナン。その瞬間だけ、彼の父は息子の気持ちをよく理解していた。

 

「ダメだよ、ダナン」

 

 だがそんなダナンの前に、傷だらけのジータが両腕を広げて立ち塞がる。彼女もふらふらのはずだが、それでも気丈に立っていた。

 

「こんな人のために、ダナンが手を汚す必要はないよ」

「いや、そいつは……」

 

 ジータの言葉になにか返そうとするが、言葉を切る。彼女の真っ直ぐな目を見てしまったからだ。

 そもそもこうなるとわかっていたから、必要最低限の人達にしかこうすることを伝えていなかった。具体的に言うと敵対していた時から気が合いそうだったドランク、そして父を好んでいないバラゴナなどだ。

 特に一緒に暮らしてきた三人は絶対に止めるだろう。相手が例え生粋の悪人であったとしても、殺すことを許してはくれない。できればその前に殺っておきたかったが。

 

 ダナンはジータを退かすことができずに、短剣を下げた。

 

 もしあのまま、スラムで孤独に生きていた彼なら引かなかっただろう。確実に仕留めていた。

 だからここで短剣を下げたのは、彼らと一緒に過ごしてきたダナンであったからこそである。

 

 仕方ないな。そう言って笑おうとした時、ジータの頭から股座まで赤い線が走った。

 

「え……?」

 

 呆然とする中、ジータの身体に無数の線が走ったかと思った直後、彼女の身体が細切れになってほぼ液体へと変わる。

 

「ジー、タ……?」

 

 目の前で姿が消えびちゃりと地面に落ちる彼女の名前を呼ぶダナンの瞳から光が失われた。光のない目を彷徨わせてジータが死んだことを認識したのか力なく膝を突く。

 

「……リヴァイブ」

 

 しかし諦めたわけではなく蘇生を試みる。反応はなかった。

 

「無駄だ。てめえも知ってんだろ? 俺はリヴァイブを極めてっからなぁ。逆に言や蘇生されないように殺す、なんてこともできる」

 

 それをやった本人であろうダナンの父親が平然と立ち上がる。先程までの疲弊した様子はない。

 

「……リヴァイブ。リヴァイブ、リヴァイブ」

 

 目の前で仇が立ち上がっているのにも関わらず、ダナンは何度もリヴァイブと呟くだけだった。

 

「無駄だっつってんだろうが。まさかてめえ、そいつのこと好きだったのか? あぁ、そりゃ悪いことしたなぁ。――どうせなら滅茶苦茶に犯してやってから殺すべきだったぜ!」

 

 愉快そうに、不愉快に嗤う。

 ダナンはリヴァイブを唱えることをやめ、そこにいないジータを探すように手で血溜まりを掬った。

 

「お前……! ジータはお前を助けようとしてたんだぞ!」

「は? それがなんだってんだ?」

 

 ビィが怒りを露わにするが、ダナンの父は怒っている理由がわからないとでも言うかのように首を傾げた。その様子に大勢がぞっとする。

 相変わらずの様子と娘を殺されたことで双子の父も立ち上がろうとするが、本当に死力を尽くした戦いだったため身体を起こすに留まっていた。一番そいつに近いと思われるロベリアも立ち上がって「キミの音は美しくない、不快だ」と告げようとしていたのだが、動いた者に気づいて口を閉ざした。

 

「……てやる」

 

 怒りをぶつけたいのに、あいつの口を封じたいのに、誰も先の戦闘で傷つきまともに動くことができない。

 だが、ダナンはゆらりと立ち上がった。

 

「あ? なんだよ、まだリヴァイブでも唱えてんのか――っ!」

 

 煽る気もなく煽るが、顔を上げたダナンの目を見て言葉を区切り、今までで最も嬉しそうに笑った。

 

「……殺してやる」

「ははっ! いい面になったじゃねぇか! その方が俺のガキっぽいぜ、なぁ!!」

 

 ジータの死で光を失っていたダナンの目に、再び光が宿っていた。憎悪という名の炎で。表情も一番長い付き合いであるグランとビィが見たこともないほど憤怒に歪んでいる。最初に会った時も廃れた表情だったが、今はそれよりも酷い。

 全身から放たれる殺気がその場にいる全員の肌にピリピリと刺さっていた。

 

「てめえだけは俺が、ぶっ殺す……ッ!!!」

「やってみろよ、次のヤツを殺されたくなきゃなぁ!!!」

 

 父は歓喜を、息子は憎悪を表情に浮かべて対峙する。

 当然、ダナンの父親はこうなったらダナンを容赦なく死ぬ寸前まで痛めつけてから他のヤツにも手を出すつもりである。できるだけダナンが怒り狂うように、なるべく手段を選んで。

 

「――あ?」

 

 が、計算違いが起こった。

 黒いなにかが通ったかと思ったら、左腕の肘から先の感覚がなくなったのだ。直後に痛みがやってきてようやく理解する。腕を切り飛ばされたのだと。

 

「っ、あぁ!! クソ、どうなってやがる……ッ!!」

 

 混乱と困惑が襲ってきて大きく回避しようと後退して――距離の変わらなかったダナンに袈裟斬りにされる。

 

「がぁ! クソ、クソッ!!」

 

 ヒールを唱えて腕を修復し、右手の短剣でダナンを殺しにかかった。……だが、当たる直前で二の腕の半ばから切り落とされ、届かない。

 

「あぁ、痛ぇ!! クソ、クソッ、クソがっ!! てめえが、俺より速く動けるわけねぇだろうが!!?」

 

 何度考えても、どう思考しても理解できない。納得できない。

 さっきまで手加減した上で千人といい勝負だったはずだ。その中の一人であるだけのダナン一人に圧倒されるのはおかしい。大体さっきまでと動きが全く違う。

 

 ダナンの父も、グランとジータの父も、他の団員も。誰一人としてその動体視力でダナンの動きを完璧に捉えられている者はいなかった。おそらくこの世の中で頂点に君臨する二人ですら動きが霞んで見えるのだから、誰にも追えるわけがないのだ。

 

 誰も、知っている者がいなかっただけだ。

 

 ダナンが()()()()()()()ということを。

 

 幼少期、双子の父に拾われてグラン、ジータ、ビィと一緒に育ってきた。それからずっと、誰かと一緒に戦ってきた。皆と力を合わせて、協力して。一人で戦うことももちろんあったが、彼らの影響でいつも周囲や相手を気にして戦ってきた。それが普通になっていたし、違和感を覚えることもなかった。

 だから、ダナンがその本領に気づくことはなかった。周囲も気づくことはあり得なかった。

 当然、形振り構わなければ普段よりも強いだろう。そこにダナンの才能が加わって、憎悪というブーストがかかって、圧倒している。その上観察力で以って相手が行動するよりも早く動いているのだ。

 

 毒づくために口を開けば舌を切断され、こちらを見るなとでも言うかのように目を切りつけられる。掴みかかろうとしても腕を切り落とされ、おまけとばかりに腹を抉られる。

 治った目でダナンを見てみれば、てめえは必ず殺してやると言わんばかりに睨みつけてくる目と合ってしまう。

 

 ――背筋がぞっとした。

 

「あぁ! 違う、違うッ!! 俺は、俺が……っ!!」

 

 得体の知れない感情を掻き消すように修復した左掌に強大な魔力を集め、目の前の相手を消し飛ばそうとする。だが左手を突き出す途中で指から肩までを細かく輪切りにされてしまい、中断される。

 

「づっ!」

 

 その痛みに顔を顰める。だが動きを止めることはできない。ずっと、ダナンが睨んでいるから。

 

「……掻っ消えろッ!!!」

 

 初めて胸中に生まれた感情を消すために、目の前の存在を消すように武器を振るう。だがどれだけ本気で斬りつけても刃が届かない。憎悪の瞳から逃れられない。

 

「っ!?」

 

 一歩、後退した。初めてだった。血の気が引いて、口の中が乾き、ここから逃げ出したい衝動に駆られる。

 

 人はその感情を、恐怖と呼ぶ。

 

「ふ、ふざけ、るんじゃねぇ!!」

 

 自分が怯えていることを理解しかけた頭からそのバカな考えを振り払い、全力で殺しにかか――

 

「いい加減その汚ぇ口閉じろよ」

 

 る前に皮肉なほど流麗な斬撃が四肢を半ばから切断した。

 

「っがあああぁぁぁぁぁ!!?」

 

 思い通りにならない現状への苛立ちと激痛による悲鳴が混じり合う。どさりと仰向けに倒れこんだ彼は、あることに気づいた。

 

「あぁぐっ! こ、これはまさか……! ふ、ふざけんなよ!? なんで俺が……ッ!!」

 

 切り落とされたはずの四肢に()()()()()()。その現象を、彼は知っている。

 

「……ここまで来てもまだ、喋る余力があるのかよ。反吐が出るしぶとさだな」

「っ!」

 

 嫌悪たっぷりの声にびくりと身体が反応した。見上げれば瞳に憎悪と殺意と嫌悪を燃やすダナンと目が合う。

 

「や、やめっ……!」

 

 口を突いて出た言葉は届かず、ダナンの腕が振るわれて更に切り刻まれる。痛みが全身を襲って、脳が真っ二つにされた状態であっても意識が保たれ、しかし出血はしない。脳が痛いという気が狂いそうになる頭で理解していた。

 ヒールは効かない。死んでいないのでリヴァイブも不可。死んだとしてもリヴァイブが効果ないようにされている。かと言って全身を蝕み続ける痛みを無視することなどできはしない。受けた者の気が狂うまで生き続け、狂っても身体だけは生き続けるこの醜悪な所業。

 これをよく、彼は知っていた。なにせ()()()使()()()()()のだから。

 

「……できればこのまま永遠に生き続けて欲しいが、てめえが存在していること自体が不快だ。せめて、苦しんで絶望して恐怖して、死んでくれ」

 

 吐き捨てるような言葉と共に、ダナンは魔法で火を放つ――焼死は長く苦しむ死に方だと有名だ。

 

「あががあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 繋がっていない喉から絶叫を上げる。だが、それを止める者はいなかった。

 焼死した彼が最期に見たモノは、少し離れた箇所で可哀想なモノを見る目でこちらを眺める人達の視線だった。

 

 ダナンは焼死体を踏み砕き、一部を地中に埋め、一部を空の底に落とし、一部を魔法で消滅させ、灰一つ残さず後処理を行った。そこに収まらぬ怒りなどなく、ただ徹底的に生き返らないように念を入れているような、事務的な作業だった。驚くべきほどに空虚でなんの感情もない作業だった。

 

「……」

 

 ジータの仇討ちを終えたダナンがその場に立ち尽くす。誰にも、彼が今どんな表情をしているかは見えなかった。想像もできない。

 

「ダナンッ!!」

 

 そんな彼に声をかけるべき人がいるなら、きっとそれはたった一人だ。

 勢いよく駆け寄って、背後から思い切り抱き着く。いきなりのことに前のめりになるダナンは、信じられないとでも言うかのように目を見開いていた。

 

「……ジー、タ?」

 

 彼がその声を聞き間違えるはずがない。恐る恐る振り返れば、見慣れた金髪の女性がいる。涙をぼろぼろと流しているのがわかった。

 

「ごめんね! 私が、私が余計なことしたばっかりに、悲しい想いさせちゃって……! でも大丈夫、ビィの力でリヴァイヴできるようにして、ちゃんと生き返ったから。私はここにいるからっ!」

 

 彼女の訴えに、ダナンの瞳に光が戻っていき、顔がくしゃりと歪んで目に涙が溜まって頬を伝う。少し彼女の身体を離すようにして身体の向きを変え、向かい合う形で強く抱き締めた。

 

「……良かった! 良かったぁ……!」

 

 ぼろぼろと泣き崩れてジータを抱き締めるダナン。彼がここまで泣き崩れることなど今までにあっただろうか。いや、なかったからこそほとんどが微笑ましいような表情で彼を見ていた。

 

「ごめんね。私が余計なことしたばっかりに」

「いや。わかってたのに、あそこで退いちゃったのは俺の甘さだ。ごめん」

「ううん、いいよ」

「……でもホントに良かった」

「うん。……ふふっ、でもなんか、不謹慎だけど嬉しい。ダナンがそんなに怒ってくれるなんて」

「当たり前だろ」

「そっか。えぇと、いつまでこうしてるの?」

「もう少しこうしてたい。ダメか?」

「ううん、いいよ。……ちょっとだけど、弱さを見せてくれるダナンって可愛い」

「……そんなことねぇよ、誰かが死んだらこんなモンだ」

 

 まぁ当たり前だけど、自分だけじゃないよねとジータは内心で苦笑する。だから少しだけ、聞いてみたくなった。

 

「……その、ダナンは私のこと大切に想ってくれてるんだよね?」

 

 まずは遠回しに尋ねてみる。頷いたところに次の問いを投げて確かなモノにする目論見だったが、彼女がなにを言わせたいかを察したダナンは先手を打つことにした。

 

「ああ。好きだよ、ジータのこと」

「ふぇっ!?」

 

 さり気なく口にされた言葉にジータの顔が真っ赤に染まった。

 

「そ、そそ、それは家族的なアレとかで?」

「いや、異性として」

「っ~~!!」

 

 有利に立とうと試みてみるが、それもあっさりと覆されて湯気が出そうなほど真っ赤になってしまう。

 

「……じゃ、じゃあその、け、結婚とかは?」

 

 まだ付き合ってもいないのだが、おそらくほぼ全員もう付き合っているようなモノだろうと思っていたので二人がそうなっても不自然はない。二人共二十前後といい年齢でもあることだし。

 

「じゃあするか? 結婚。俺はそれよりも旅の方が大事だろうなって思ってるから後でいいんだけど」

 

 ダナンは平然と告げた。

 

「ま、まぁそれはそうだけど……」

 

 ジータとしては競争相手に三十を越えてしまった人がいるから、できれば乗り遅れたくないしあまり年齢が行き過ぎてしまうのも申し訳ないという気持ちもあるのだが。

 

「じゃ、じゃああの……私のことを、一番に愛してくれる……?」

 

 そこが一番重要である。上目遣いに尋ねたジータに対し、ダナンは即答しなかった。ちらりと他のところへ視線を向けてから、

 

「……まぁ、家族愛と合わせれば一番?」

「……だよねー」

 

 曖昧な答えにジータの目が死んだ。

 とはいえこれはわかっていたことだ。ダナンは心が広くて優しいので、おそらく「俺を好いてくれるなんていいヤツだな」と基本的には受け入れる姿勢に入る(ジータが見ている限り)。兄のように想って暮らしてきたが、グランと同じように誰にでも優しくする癖があるので当然人気は高い。“蒼穹”の団員にはイケメンからショタから老人からと様々な男性が所属しているのだが、大抵グラン派かダナン派かで分かれる勢いである。しかもそれぞれいつも周りに誰かしらはいるとされている通称“近衛”と呼ばれる者達が存在していた。

 ……因みにジータも男性団員からの人気が高いのだが、残念ながら彼女の想い人がわかりやすいので誰もなにもしていない。

 基本的には“ジータの幸せを見守る会”に加入するのだ。

 

「……まぁそれでもいいかな。私は、ダナンの傍にいたいんだから」

 

 ぎゅっ、と愛おしそうに彼に抱き着く。ダナンも優しく抱き返していた。

 幸せそうな二人の周りに、続々と人が集まってくる。早かったのは特に、ダナンに想いを寄せる子達だったが。

 

「あ、ちょっ、今は私の番なのに!?」

 

 結果、協力して引き剥がされたジータであった。膨れる彼女に手を伸ばして頭に置く辺り、ダナンもある程度わかっているようだ。

 

 ダナン達がイチャイチャしている中、改めて“蒼穹”の団員達はイスタルシアに辿り着き団長の父に勝利した達成感と喜びを分かち合う。

 しばらくした後に、改めて双子の父が成長を褒めてこれまでの旅路を労う。

 

「それで、これからどうする?」

 

 彼に尋ねられて、具体的な案が浮かんでこなかったグランとビィは揃って首を傾げた。

 

「神を倒すか、星の世界にでも行くんだろ」

 

 そこにジータと腕を組んだダナンがやってくる。仲睦まじい様子に二人がニヤけそうになって、ジータに睨まれていた。

 

「ビィとルリアを守りたいなら神を倒さなきゃならない。そのためになにが必要かは知らないけどな。もう一個の方はここが“星”の島って言うくらいで、空の果てなんだから星の世界へ通じる場所なんじゃないかっていう勝手な憶測だ。まぁどっちにしたってここが旅の終着点じゃないことは確かだろうけどな」

 

 ダナンの言葉にグランとジータの父親は答えを返さなかった。

 

「とりあえずしばらくは休もう。大事な話はそれからでもいいだろう? ――それに、結婚するのだろう?」

 

 彼は代わりにそう告げる。最後の言葉だけは面白そうに笑ってだったが。実の父に言われて赤面しながらも、こくんと頷いた。

 こうなったきっかけは先程のイチャイチャだ。その中でニーアが「愛し合ってるなら結婚するんだよね?」と言い出したのが始まりで、なら私もと立候補していった結果全員と式を挙げることになってしまったのだ。

 

 星の島イスタルシアで結婚式、なんておそらく彼らだけだろう。

 

「ああ、そうだな。グランはしないのか?」

「えっ!?」

 

 ダナンからのいきなりの発言にグランは頬を染める。

 

「ほう、グランにも意中の相手がいるのか」

「ち、違うって! その……」

 

 面白がる父に反論しようとして、彼の方をじーっとなにかを期待するような目で見ている女性陣に気づいた。

 

「なに言ってんだよ、そいつ俺より多いぞ? そこかしこに手を出しやがって」

「それ、ダナンだけは言っちゃいけないと思う」

 

 やれやれ、と言いたげなダナンにジータがツッコんだ。まぁ当然である。

 

「はは、俺は一途だったからわからない感覚だが、それは良かったな」

 

 彼はジータ似の妻一筋だが、息子のモテっぷりを素直に喜んでいた。

 ともあれ、グランも結局イスタルシアで挙式することになり、某元騎空団団長が「どっちを後継とするか悩むな」と口にするほど大勢と同時に結婚するのだった。

 

 そんな幸せを噛み締めながら“蒼穹”の騎空団は旅を続けていく――。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 彼らが星の島イスタルシアからどこへ旅立ちなにを成し遂げたのか、史実には残っていない。

 

 仲間のために星の神と空の神を倒したのか。

 はたまた星の世界すら旅してきたのか。

 

 全ては語られないままであったが、一つだけ確かなことがある。

 

 彼らは誰一人欠けることなく、ファータ・グランデ空域に戻ってきた。

 

 伝説に挑み、伝説を超え、新たな伝説となった“蒼穹”の騎空団の名は全世界に轟き永久に途絶えることはなかったのだと言う。

 その伝説的な“蒼穹”の騎空団を率いていたのは、三人の若き騎空士だった。

 

 “蒼き空”グラン。

 “赤き陽”ジータ。

 “黒き夜”ダナン。

 

 双子の団長と、その双子と共に育った副団長。若くして世界最多数の団員達を率い、まとめ、先導した彼らはなるべくしてそうなったのだろう。

 

 かくして彼らの旅は終わったが、しかし終わっていないとも言える。

 世界は広く、彼らであってもまだ見ぬモノはまだまだあるのだ。若しくは、新たに生まれてくる。

 

 だから旅は続く。いつになっても、世界がどうなろうとも。

 戻ってきた彼らは一時解散し、全空に散らばった。だが世界になにかあった時はまた集結し、その伝説的な力で世界を救うのだろう。

 

 こう願うのは不謹慎かもしれないが、またいつの日か、彼らの旅路が再開されることを祈って――。

 

 『蒼穹(あおぞら)叙事詩 終の章 最終巻 著・シェロカルテ』より抜粋。




IFルートなのでちょっと変わってきているキャラ設定などを活動報告に載せます。
興味のある方は是非見に来てください。

本編では一切出てきていないキャラもいますしね。


次の更新はいつになるかわかりませんが、「どうして空は蒼いのか」の番外編でも書こうかなと思っています。
なぜ最近番外編が多いのかは、本編が区切りいいのと時系列的に番外編の時間を本編に近づけたいからですね。
「どうして空は蒼いのか」パートⅠは一個目の幕間辺りの時系列で考えています。

番外編ではありますが実際に起きたこととして書くつもりです。
それでは次の更新……まぁ四月中ではあると思いますが、その時にお会いしましょう。

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