明日も更新できると思いますね。
「四大元素に、天司。審判に、新世界ね……」
ダナンはシェロカルテ達から情報を聞いて、顎に手を当てる。
「ドランクはなんか知ってる要素あるか?」
「全然だね~。僕は確かに情報通で通ってるかもだけど、流石に世界の在り方は専門外かなぁ」
ドランクにも思い当たる節はないようだ。
「四大元素と天司に関してはちょっとだけ情報がありますよ~。四大元素というのは、知っている方もいるかもしれませんが『火水土風』の四つですね~。元素というのは目に見えないこの世のあらゆるモノを構成する物質、だと思っていただければ。四大元素とは、それら四つを構築している目に見えないほど細かな物質のことを言うんですね~」
「元素、ねぇ」
「それなら僕も知ってるよ~。人やモノも全てが元素で構築されてるって話だよねぇ」
「知ってる要素あるんじゃねぇか」
なら説明しろよ、と睨んでみるが効果はなかった。
「天司というのは、うろ覚えなので申し訳ないんですが、確か原初の星晶獣の一部の呼び名だったかと~」
「原初の星晶獣?」
「はい~。原初の星晶獣というのは、覇空戦争で空の民と戦わせるために兵器として造られた多くの星晶獣とは違って、その以前に造られた星晶獣達のことを言うのだったと思います~。私も人伝に昔聞いた記憶がある程度の知識なので、保証はできませんが」
「原初の星晶獣の一つ、天司か」
「はい。で、その天司の中には四大元素を司る、四大天司と呼ばれる存在もいるとかいないとか~」
「四大天司なぁ。要は今島が落下してる現象は、四大元素の乱れが原因の可能性が高く、その四大元素を司る四大天司ってヤツに異常が発生してるかもしれないってわけか。星晶獣の暴走とかってんなら戦って鎮めるだけでいいんだろうが、だとするとあの野郎がなんで出てきたかがわからねぇな」
「はい~。あの天司さん、サンダルフォンでしたか。あの人が現れた理由が掴めないですよね~。それに、どうやら彼は“蒼穹”の騎空団、それも中核メンバーが原因ということを仄めかしてるようでしたが」
「本当のことを言う気がない可能性も否定はできないけどな。まぁあいつらが故意にってことはないだろ」
「ですね~」
シェロカルテと話し合いを続ける。
「う~ん。難しいですね~。叡智の殿堂ならもっと詳しい情報があるかもしれませんが」
「叡智の殿堂……確か膨大な書物が保管されてる施設だっけか」
「そうだ。貴重な資料も数多く眠っているらしいな」
「はい~。ですので、そこを調べればなにかわかるかもしれません~。ただそちらには“蒼穹”の団長さん達が行っていると思いますよ~」
「そうなのか?」
「はい、今“蒼穹”の団員さん達は各地に散らばって情報を集めているらしいので~」
総勢二百人を超える規模の騎空団、“蒼穹”。彼らが各地を回っているのなら、情報収集は任せても良さそうだ。
「じゃあ目下の目的はサンダルフォンを見つけ出してぶん殴ることと、四大天司を探して事情を聞くことってわけだな」
「はい~。私達はこれから各地を回って情報を広めますので、ダナンさん達には引き続き災厄に関する情報収集をお願いしたいのですが~」
「ああ。まぁ全くの無関係ってわけじゃないし、追加の報酬があれば手伝うぞ」
「はい~。そちらはお任せください~。では、お願いしますね~」
そう言ってシェロカルテや他の商会は各地に散らばっていく。サンダルフォンの襲撃はあったが、死者は出ておらずダナンのポーションによってすぐ復帰していた。
「……四大元素を司る星晶獣、四大天司。火、水、風、土ねぇ」
彼らがいなくなってから、ダナンは独りごちた。
「どうしたの? なにか気になることでもあった?」
「いや……なんつうか、その四つの元素が強そうな島を知ってるなぁ、って」
「あっ! それならここ、アウギュステもその一つだよねぇ」
「ああ。残りはバルツのフレイメル島、ポート・ブリーズ群島、強いて言うならルーマシーってところだな」
「なるほどな、四大元素に関わるモノが多く集まっている島なら、その四大天司が顕現しやすいかもしれないわけか」
「そういうことだ。……とはいえ、この広い列島を隈なく探すのは骨が折れそうだしなぁ」
「だねぇ。サボっちゃう?」
「おい、空の世界の危機だって言って――」
「よし、じゃあサボるか。海岸でバーベキューでもするか?」
「いいねぇ」
「いいわけあるか!」
「痛ってぇ! って、なんで僕だけ!?」
「刺しやすい位置に立つからだ」
「刺しやすい位置ってなに!?」
そんなバカなやり取りをしていると、遠くから悲鳴が聞こえてくる。
「……どうやら、海岸でバーベキューって感じじゃないねぇ」
「乗り気だったのお前だけだからな」
「えっ、そんなぁ」
「いいから、さっさと行くぞ!」
「「はいは~い」」
緊張感のない二人だったが、スツルムに叱咤されて悲鳴の上がった方へ向かう。と、道中でサンダルフォンが呼び出していた謎の物体が現れた。
「こいつは……!」
「あいつがヴァーチャーズって呼んでたヤツだな」
ダナンが早撃ちで核のような箇所を撃ち抜くと、そいつは消滅していく。
「ちょっと、そこら中にいるんだけど?」
「さっきの悲鳴もこいつらの仕業か」
「みたいだな。迎撃態勢を整えてもらうまで、俺らでなんとかするか。……さっきの区長から謝礼とか出ないんかね」
「がめついぞ」
「騎空艇買うお金足りないもんね~」
「煩い」
よく見れば無数にヴァーチャーズが出現していた。
「片っ端から片づけるぞ」
「了解~」
「問題はないな」
三人は謎の物体を見つけ次第倒してアウギュステを回っていくが、それでも間に合わないモノは間に合わない。何人も怪我人を出していた。
「しゃきっとしろてめえら! これ以上被害出したら自警団の名折れだぞ!」
街を回っていると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。そちらに行ってみると、自警団と思しき集団がヴァーチャーズと戦っている。
その内一体を銃で撃ってから、そこに合流した。
「よぉ、オイゲン。随分な体たらくだな」
ダナンが声をかけると、顔を向けたオイゲンはあからさまに嫌そうな顔をした。彼は脇腹から血を流して応急処置を受けている。
「……お前さん達もこの島にいたのか」
「ああ、ちょっとシェロカルテに依頼を受けてな」
「癪だが、手ぇ貸してくれ。あのよくわからねぇ物体を倒すのに人手が必要だ」
「わかってるよ。俺も別に、見逃す気はねぇしな」
ヴァーチャーズは多く集まっていたが、三人が加勢したことであっさりと殲滅することができた。
「で、なんか事情知ってんのか?」
戦いが一段落してから、オイゲンが尋ねてくる。
「俺達が知ってるのは、区役所で会議してたシェロカルテ達が襲撃されて、襲撃してきたヤツがさっきのヤツらを呼び出してるってことくらいだ」
「重要な情報じゃねぇか!」
「ああ。悪いが、取り逃がしちまってな。一対一じゃ相討ちも難しかったかもしれねぇ」
「……お前さんがそこまで言うなら、何人かで協力しねぇと捕らえられないじゃねぇか」
「その辺はあんたんとこの団長に任せるよ。人数用意できるって言ったらあいつらだろうしな」
それから、具体的に浮力を失って島が落下している現象と今回出現してきた謎の物体などについての情報を連携する。
「……そんなことが」
「ああ。とはいえ下っ端にまで今の情報を晒す必要はない。問題は、サンダルフォンの野郎がどうやろうとしてるかってことだけどな」
「そうだな。流石に俺もなんとも言えねぇが、襲撃してくるってんなら返り討ちにしちまうのが一番の対抗策ってモンだ。お前さんはしばらくこの島に?」
「ああ、まぁな。四大元素の一つ、水を司る天司が顕現できるとするならアウギュステだと思ってるから、ちょっと探そうと思ってるんだ」
「そうか。ならなにかあったら自警団に連絡くれれば手伝えることがあるかもしれねぇからよ、言ってくれ」
娘のことで色々あるだろうに、こういう事態だからこそオイゲンはなにも言わず協力してくれる。娘との関係が上手くいっていないだけで人格者なのである。
「た、大変だ、オイゲンさん!」
「どうしたぁ?」
「あ、あんたに一億ルピの賞金がかかってる!」
「「「っ!?」」」
自警団の一人が慌てた様子で駆け寄ってきて、そう告げた。とんでもない額の賞金に驚愕する者達が多い中、ダナンはちゃきっとオイゲンの頭に銃口を向ける。
「……おい。洒落になってねぇぞ」
「いや、一億ルピ欲しいなぁって」
「本気じゃねぇだろうな!?」
「欲しいのは本気だが、流石に冗談だ」
金が必要なので欲しいは欲しいのだが、流石にアポロの父親を殺したり捕まえたりすることはない。これで相手がグランだったら捕まえて差し出した上で逃げる手助けをしてやるのだが、とか全く思っていない。
あっさりと銃を引いた。周囲にいた自警団の面々があからさまにほっとしている。人望があるのも大変である。
「で、なんだってそんな額の賞金がかけられてんだ? 一応エルステ帝国を倒した英雄的な扱いだと思ってたんだが」
気を取り直して駆け寄ってきた男に問いかけた。
「そ、それが……今起こってる災厄の原因は“蒼穹”の騎空団の主格メンバー達だって噂が流れてて、それを信じた富豪がオイゲンさん達を……」
「ああ、そういやあいつもそんなこと言ってたんだっけな。しかし手が早ぇ。さっきの今でアウギュステを襲撃して、更には賞金までかけさせるとか。会議に乗り込むより先に準備してやがったな。流石に行き当たりばったりの作戦じゃねぇってわけか」
「みてぇだな。幸い賞金がかけられてるのは俺達初期メンバーだけみてぇだし、各地に散ったヤツらが狙われねぇのは不幸中の幸いってヤツか」
問題はバルツに戻ってるイオのヤツになるか、とオイゲンは冷静な頭で考える。
「で、あんたはアウギュステの連中が自分を狙うとか考えねぇの?」
ダナンの無遠慮が問いに、オイゲンはきょとんとした。
「っ、ははっ! そりゃ考えてなかったな!」
そして考えもしなかったというように腹を抱えて笑い、傷が痛んで顔を顰める。
「……こんな人だから、俺達もオイゲンさんをどうこうしようなんて考えてませんよ」
痛がるオイゲンを男が苦笑しながら支えていた。他の自警団も同じような表情である。
周囲を見渡して、これならすぐに狙われるような心配はしなくて良さそうだと判断した。
「そういうことなら別にいいか。ほら、ポーションやるからさっさと治せよ。あんたが怪我してると士気が下がって俺達の負担が大きくなりそうだ」
「おう、ありがとよ」
ダナンは最後にポーションを放ってオイゲン達から離れていく。
「これからどうするの?」
「あのヴァーチャーズとかいうヤツがいつ出てくるともわからねぇから見回りも兼ねて四大天司探しかね」
「天司がどんな姿なのか知らないだろ」
「そこはまぁ、勘だな。大層な名前してるし、なんか見た目からして人間離れしてんだろ」
「適当だねぇ。おっ、イカ焼きの屋台発見~。買ってかない?」
「お前、この非常時に……」
「そこのイカ焼き買うならからしつけるのが美味いぞ」
「了解~」
「……はぁ」
やはりと言うべきか緊張感のないやり取りに、もうツッコむのを諦めたスツルムはため息を吐いた。まぁ、ドランクが三人分買ってきたので一緒に食べることになったのだが。
それからしばらくして、またヴァーチャーズによる襲撃が起こった。一回目より規模の大きくなった襲撃に、三人はそれぞれ街を三分割して担当を分けて行動することにする。そこまで強くないため、スツルムとドランクも二人がかりで相手にする必要もなかったためだ。
その最中のことだ。
妙な気配を感じて街を駆け回っていると、
「きゃっ」
「っと」
曲がり角でうっかり人とぶつかってしまった。気配には気をつけていたはずだが、妙な方に気を取られたのだろうと思い直す。どちらも倒れはしなかったが、ぶつかってしまったのは事実だ。
「悪い」
「いえ、私こそ……ってあなたは」
謝ると相手は顔を上げてからダナンを見て驚いていた。なぜ、と思ったが心当たりはない。
彼の知り合いにピンクの長髪をした美女の看護師なんていう人物はいなかった。
「っ、来る!」
「なにが……」
美女が先になにかを感じ取り、遅れてダナンも感じ取っていた妙な気配が急速に近づいてくるのを察知する。
現れたのは、巨大なヴァーチャーズと呼ぶ以外に表現のない謎の物体だった。そいつが一鳴きすると虚空から小型なヴァーチャーズが現われ出でる。
「なんだこいつ。ヴァーチャーズの親玉みたいなヤツか? まぁいい。まとめて吹っ飛ばすしかねぇな」
「なぜその呼び名を……いえ、今はやめておきましょう。お願い、あれを倒して私を人の多い場所まで連れて行って!」
「……なるほどな。後で事情を聞かせてくれるんならいくらでも、倒してやるよ。戦う気がないなら俺の後ろから離れるんじゃねぇぞ」
美女はヴァーチャーズを知っていて、目の前の敵に追われているらしい。と来れば正体にある程度予測が立てられた。
なら全力で守るしかないだろう。人助けなんて柄ではなかったが、そんなことを言っている場合ではない。
こうして、ダナンは美女を守りながら巨大な個体と戦うのだった。