ダナンがアウギュステでサンダルフォンを退け、その後ヴァーチャーズによる襲撃が発生したのとほぼ同時刻。
各地で騎空団として活動するための資金集めなどを行っていた“蒼穹”の騎空団も、丁度分散していたこともあり今全空で起きている厄災について調べてもらえるように打診していた。
団員達が各地で情報を集める中、グラン、ジータ、ビィ、ルリア、カタリナは情報集めのためにいいと思われる本命の場所を訪れていた。
それが、数多の書物や資料が眠る叡智の殿堂である。
ここなら島が落ちる現象についても情報が集められるだろう、との思惑である。
叡智の殿堂で司書を務めるアルシャに協力を仰いで関連書物を持ってきてもらい、全員で一つずつ読み漁るという力業で探っていた。
知識の広いヨハンも連れ立っていたがなかなか進まない。
日が暮れてきた頃、ヨハンの姿が見当たらないことに気づいた一行は、彼が好奇心で叡智の殿堂にある貴重な書物のある一般の立ち入りを禁じた部屋に入っていたことがわかる。
慌てる一行だったが、彼はそこで四大天司にまつわる記述を発見するのだった。
しかしそんな折、衝撃音がして外へ出る。と、アウギュステを襲っていた謎の物体が現れていた。
「すぐ片づけるよ、グラン!」
「わかってる!」
二百人規模の騎空団を率いるのは伊達ではない。二人は『ジョブ』を使うことすらせずに謎の物体の第一陣を切り抜けた。
「私が攻撃パターンを見極める! 一大事だ、指示に従ってくれ!」
「は、はいっ!」
周辺に駐屯していた兵士達を、帝国でも中尉の位についていたカタリナが指揮して謎の物体の軍勢を押し退ける。
「二人共、ルリアのことは任せたぞ」
「カタリナはどうするの!?」
「私のことは心配ない。もう少しここでこいつらを食い止める」
一行を背中で見送るようなカタリナに、ルリアが不安そうにする。そんなルリアを安心させるように微笑した。
「四大天司になにかが起こっているなら、ルリアの力が必要不可欠だ。それに、今もどこかで浮力を失った島が落ちていっているかもしれない。時間がないんだ、急ぎ四大天司がいそうな島に向かってくれ。ポート・ブリーズ、フレイメル、アウギュステ、ルーマシー。私達の知っている島の中ではこれらが有力だ。……ここは私が持たせるから、行くんだ二人共」
「はい、カタリナさん!」
「ここはお願いしますね。アルシャさんとヨハンさんも!」
「お任せください! 貴重な書物を襲うなんて許せません!」
「僕が防壁を張ってるから大丈夫だと思うけどね」
頼りになる仲間達に背中を押されて、双子とビィ、ルリアはポート・ブリーズ群島へ向かおうとする。だが島から島へ移動する騎空艇がなく、この状況では定期船も出ていなかった。
「皆さ~ん。ご無事でなによりです~」
そこに、計ったように聞き馴染みのある間延びした声が聞こえてくる。
「シェロさん! どうしてここに!?」
「今起きている厄災について、島々を回っていまして~」
「そうだ、シェロさん。小型騎空艇に乗ってきたりとかしてないですか?」
「? もちろん乗ってきてますけど?」
ビンゴ、と四人は顔を合わせる。
「良かった。じゃあその小型騎空艇で、私達をポート・ブリーズまで運んでくれませんか? 今起きてる問題を解決するために、必要なことなんです!」
「僕からもお願いします!」
「いいですよ~。皆さんにはいつも助けられていますからね~。一刻を争う事態ですし、早速行きますか~?」
「「「お願いします!」」」
「よしっ、万屋の騎空艇でポート・ブリーズまで行って、ついでにラカム達の様子も見てみようぜっ」
双子とルリアが言ってから、ビィが拳を突き上げる。
こうして四人はシェロカルテと共にポート・ブリーズ群島へと向かうのだった。
到着したポート・ブリーズ群島でティアマトとは違う星晶獣の気配を感じて様々な風が巻き起こる奇妙な事態に見舞われながらも天司と思しき人物と遭遇した。
風を司るラファエルはさっさと消えてしまったが、今回の敵は天司だと教えてくれる。
また、自分達に一億ルピの賞金がかかっていることを知り柄の悪い連中から襲撃されもしていた。謎の物体による襲撃を退けてラカムとも再会したが、天司が襲われているために猶予があまりなく、一行は小型騎空艇でバルツ公国のあるフレイメル島まで向かう。
そこでも謎の物体達による襲撃が発生していた。
それを抑えていたのは団員でもあるイオとアリーザ。アリーザと共に来ていたはずのスタンの姿が見当たらないことを懸念して、一行はスタンの向かった方へと急いだ。
到着した頃には、白髪に赤い鎧を身に纏った美女にスタンが抱き締められ頭を撫でられていたのだが。
彼と両想いであるアリーザがキレたのは言うまでもない。
なんでも、ミカエルが敵に不意を突かれて羽を奪われてしまった後、スタンが男気を見せて守ったのだとか。それを褒め称えているらしい。スタンは殴られた。
ともあれ四大天司の内三体まで羽を奪われてしまった現状、一行は最後に残った羽を守るべくアウギュステ列島へと向かうのだった。
そこで、アウギュステにいた帝国の脱走兵、ユーリがオイゲンが大怪我をしたと言うので大慌てで彼の下に行く。
「「「オイゲンさん、大丈夫ですか!?」」」
彼がいるという病室に駆け込んできた四人が雪崩れ込むように尋ねるが、
「ん? おう、お前らも無事みてぇだな」
そこには、怪我をしてはいるが元気そうな彼の姿があった。
「病室ではお静かに、ね?」
「全くだ、騒々しい」
病室にいた看護師と黒衣の医者が四人を注意する。
「ご、ごめんなさい……」
「オイゲンさんが大怪我したって聞いてつい……」
「ははっ。なんて伝えたらそうなるんだよ、ユーリのヤツ」
ルリアとグランが謝る中、オイゲンは朗らかに笑っていた。傷は治っていないが無事のようで安心する。
「って、ダナン君!? なんでここにいるの?」
ジータが真っ先に気づく。遅れて他の三人も医者が彼だと気づいた。
「ただの依頼、いやこの場合は護衛か。その一貫だ」
「えっと、オイゲンさんを治してあげないの?」
【ドクター】発動中のため理知的な喋り方をするダナンに問いかける。【ドクター】を使っているなら問題なく治療できると思ったのだ。
「……はぁ。こいつは私が治す度、襲撃で毎度の如く怪我を負うのだ。その理由は自警団の新人を庇って、住民を庇ってなど様々だが。今回は商人を庇っての怪我になる。そこで自警団から治すとまた無茶をするから治さず休ませてくれと頼まれている」
「ああ、それで……」
「悪ぃな、つい身体が動いちまってよ」
苦笑する彼らに、オイゲンは笑って頭を掻いている。
「それじゃあごゆっくり。行きましょう、先生」
「ああ」
看護師に腕を取られ、ダナンは病室を出ようとする。距離が近いせいでジータがむっとしていた。
「……いつまで戯れているつもりだ、ガブリエル」
しかし後ろからついてきていたミカエルが合流して、呆れたように言う。
「ふふ、久し振りね。ミカちゃん」
ガブリエルはダナンの腕を放して微笑んだ。
「ガブリエル、ミカちゃん!? も、もしかして……」
「ええ。私は水を司るガブリエル。四大天司の一人よ」
すぐバレてしまったからか、彼女は呆気なく正体を明かした。ダナンも嘆息して『ジョブ』を解除する。
「バラすなら俺も【ドクター】でい続ける必要ねぇじゃねぇか」
「ふふ、ごめんなさいね。楽しかったからつい」
ダナンが呆れて言うも彼女は悪びれず微笑んでいる。
「ダナン君はガブリエルさんが天司だって知ってたの?」
「ああ。で、四大天司を狙ってる敵がいるからってことで護衛してたんだよ」
「さっきの【ドクター】は?」
「ガブリエルが看護師やってるって言うから、一緒にいるのに不都合ない恰好をしなきゃだろ? ただの騎空士がずっと看護師と一緒ってのもおかしな話だし」
「確かにね」
それからお互いの状況を確認していく。ミカエルは既に捕捉されていると思われるので、できる限りガブリエルとは別々に行動しようという話になった。
「赤き竜と蒼の少女が邂逅し、大いなる咆哮によって厄災の封印が緩み二千年前に叛乱を起こした天司の一人が脱獄し、この事態を引き起こしている」
ということをミカエルが口にする。直接そうしようとしてやったわけではないにしろ、それは事実である。天司二人はお前達のせいではないと言ってくれたが、責任を感じてしまったルリアがどこかへ駆け出してしまう。
ルリアは役に立とうと頑張っており、その結果がこの厄災だと知ってショックを受けたのだと聞く。だがダナンにはどうすることもできない。手分けしてルリアを探そうという流れになったのだが。
「久方振り、と言っていいのかな」
一行の前にフードを被った男が現れた。アウギュステ中にヴァーチャーズによる襲撃が起こっている。
「貴様……!」
「四大天司の羽を三つ集めたら残る一つのところへ行く。簡単な考えだろう? 一向に尻尾を出さないから後をつけさせてもらった。……そっちの看護師がガブリエルかな?」
敵の登場に警戒して武器を構える一行だが、彼は飄々と振る舞う。
「バレちゃったら仕方がないわね」
ガブリエルは人の姿から、天司としての真の姿へと変化した。衣装は露出の高いハイレグタードに変わり、羽衣を纏っている。なによりその背中には、青い翼が四枚生えていた。
「ようやくだ。ようやく、これで全ての羽が揃う。……できる限りスピーディに終わらせよう」
サンダルフォンは剣を抜き放つが、その眼前にはグランとジータ、ビィ、そしてミカエルが構えている。その上羽のある天司のガブリエルとその護衛をしているダナンまでいる状況で、随分と余裕である。
「オイラ達がいて、それをさせるわけねぇだろ!」
「赤き竜か……。なにを見て言っているのかわからないが、今の俺はルシフェルと同等だ。君等の敵う相手ではないと思うが?」
「あら。これまで不意打ちで天司の羽を奪ってきて、羽のある天司の強さを知らないんじゃない? 簡単に勝てるとは思わないことね」
ガブリエルが密かに力を強めていく。だが、サンダルフォンはため息を吐いた。
「無駄だ。ルシフェルと同等だと言わなかったか? 今の俺は元素の高まりすら感知できる」
「あっさりバレちゃった。残念ね」
ガブリエルはわざとらしく目を丸くする。その眼前に、サンダルフォンが肉薄した。
「「「っ!?」」」
警戒していたグランとジータ、羽がないとはいえミカエルすら反応できていない。ガブリエルは目で追えていたが迎撃には時間が足りなかった。
「これで俺はルシフェルをも超えられる」
サンダルフォンは距離を置くことも間に合わないガブリエルへと手を伸ばす。
だが、その手は割り込んできた短剣によって引っ込めるしかなくなってしまう。
「これで天司長と同等か。ただの人間に防がれるようでは、どうやら大した力でもないらしい」
「……会議襲撃の時にいた、確かダナンと言ったかな」
その短剣はパラゾニウム。そして、彼は今【ドクター】となっていた。衣装も口調も変わっていたが、声と容姿で思い出したらしい。
「たかが人間が一人増えた程度で――」
「【ベルセルク】!」
「【ハウンドドッグ】!」
サンダルフォンはそれでも余裕そうだったが、追い抜いた二人がClassⅣを発動してそれぞれ攻撃を仕かけている。彼は軽やかに大きく後ろへ宙返りを決めて元々立っていた位置へと戻っていった。
「俺達もいるぜぇ」
「私、狙った獲物は外さないの」
『召喚』したソウルイーターと呼ばれる黒い鎌を持った【ベルセルク】のグランと、ディアボロスの力が宿った弓・ディアボロスボウを構えた【ハウンドドッグ】のジータも臨戦態勢だ。
「三人いたところでそう変わらない。だけど丁度いい、手にした三枚の羽の調子を確かめさせてもらおうかな」
サンダルフォンは言って、余裕を崩さずに剣を構えた。
その場に静けさが降りる。誰もが集中し、相手の一挙手一投足を見落とさないようにしていた。
サンダルフォンの姿が消えた、とビィには錯覚してしまうほどの速度で正面からガブリエルへと向かう。
「おらぁ!」
だが割り込んだグランが鎌を剣にぶつけて押し留めた。
「目標捕捉。対象を指定。……撃ち抜く!」
ジータは弓を番えると、グランの向こう側にいるサンダルフォンの姿を捉えて矢を放つ。矢はグランを越えて曲がり敵へと迫った。それに直前で気づいてサンダルフォンは即座に後退して距離を取り、ジータが発射した矢を全て剣で打ち払った。下がった彼の足元が熱されて光を放つ。直後高熱の火柱が上がったが剣を払う動作一つで掻き消されてしまう。
「今のミカちゃんだと効果ないみたいね。じゃあ、これならどうかしら」
今度はサンダルフォンの身体を天へと突き上げる水の竜巻が襲った。規模、威力共に羽のないミカエルと比べると格段に高い。
その上、どこからか小さな宝珠が飛んできて竜巻に雷を乗せた。立っていた人影は僅かによろめいたが、竜巻が剣によって両断されてしまう。
「チャンス到来、って思ったのにねぇ。全然効いてないじゃーん」
軽い調子で言ったのはドランクだ。
「無駄口を叩いてないで援護に回れ」
その横を駆けて通り抜けたのはスツルムだ。サンダルフォンに迫って二本の剣で襲いかかり、剣を交える。
「スピーディにいきたいが、そうも言っていられないか」
サンダルフォンはボヤいてからスツルムを強引に押し返すと、ガブリエルの方へ全力で駆けた。ドランクの魔法やジータの矢をかわして近づき、割り込んできたグランを力技で押し退ける。
だがガブリエルの一歩手前で、ダナンに防がれてしまった。
「優秀な助手でな、指一本触れさせるわけにはいかん」
「ふふっ、頼もしいわね」
「厄介だな」
ガブリエルに近づこうにも、ダナンが徹底的に邪魔をする。ダナンが邪魔をするせいで突き放した他の者達が対処できるようになってしまう。
それでも諦めるわけにはいかない彼は、一行と戦いを繰り広げていた。
進捗具合がいいので、多分番外編は毎日更新できます。
一応サブタイはイベントをなぞっていますが、同じ話数になるかは微妙なところ。