話数はイベントと一緒にするために、次で終わりにします。
「オーキスちゃん!? えっと、その子は……?」
「……皆は、私が守る」
ぬいぐるみをちょこんと自分の後ろに置いたオーキスは、両手を挙げて構える。
「……ロイド、いこう」
赤い瞳を光らせて戦闘用ゴーレムのロイドが躍りかかった。それを操り、補助するのはオーキスの両手と繋がった細く頑丈な糸である。
「ガブリエル、今の内に」
「ええ」
オーキスとロイドがサンダルフォンを抑えている間にガブリエルが負傷者の回復を行う。
気を失っていた者達はサンダルフォンと戦っているオーキスの姿に驚き、更にサンダルフォンの攻撃を真っ向から捌くほどのパワーを持ったロイドの存在に驚愕させられていた。
「ただの木偶人形如きが……っ!」
「……ロイドはただの人形じゃ、ない」
苛立たしげなサンダルフォンの剣を、ロイドの爪が弾く。逸らす。受け止める。ゴーレムの中でも規格外の戦闘能力を持つロイドの強さは、今のサンダルフォンとすら同等であった。
「いやぁ、間に合って良かったよねぇ。それじゃあ反撃といこうかな?」
「ああ。散々遊ばれた礼はしてやる」
余力はあまり残っていないが、それでも治療を受けた傭兵二人は立ち上がる。
「なにがなんだかわからねぇが、なんにせよまだ戦えるってこったな!」
「おうよ! ここ一番の騎空士の強さってヤツを教えてやるよ!」
「絶対張っ倒してやるんだから!」
「あまり、嘗めない方がいいわよ?」
「皆、ここからが正念場だ!」
気絶させられていた者達も次々と復活し、参戦していく。
「鬱陶しい……集る虫を払う感覚がわかるようだ。何度やっても同じだということを教えてあげよう」
「何度やったって同じだよ。僕達は立ち上がるから」
「うん。諦めることなんて絶対しない」
グランとジータも立ち上がって笑みを浮かべる。
「……愚かな。こうなれば徹底的に君等を始末することにしよう」
サンダルフォンは煩わしそうに吐き捨てると、本気で一行を殺しにかかった。光線を放ち、巨大な剣を振るう。
「……そろそろか。ガブリエル、いけるよな?」
「ええ、もちろんよ」
ダナンはガブリエルに声をかける。
「スツルム! 剣四本に攻撃してくれ! ドランクはそれが終わったらすぐに氷漬けに!」
「わかった」
「任せて〜」
ダナンがこの戦いで初めて二人に指示を出す。二人は戸惑うことなく従った。
「レックレスレイドッ!!」
「フェアトリックレイド、っとぉ!!」
スツルムが火焔の斬撃で四本の剣を攻撃した直後、ドランクが剣を氷漬けにする。
「エーテルブラストッ!!」
ダナンがそこに炎に寄せた奔流を放って追撃した。
「これで、最後っ!!」
ガブリエルが冷水で四本の剣を冷まさせる。
「まさか……! させると思うか!?」
ダナンの狙いを察したサンダルフォンは剣を引き戻そうとするが、その前に剣に絡みついた糸が剣を引き寄せていた。
「……ロイド」
静かな呟きに応えたゴーレムは、その力を持って四本の剣を打ち
「ば、バカな……!?」
砕け散る剣を、サンダルフォンは信じられないモノを見る目で眺めていた。
「隙だらけだぜ!」
「武器壊されて動揺するようじゃ、まだまだ甘いな!」
すかさずラカムとオイゲンの銃弾が襲いかかる。
「ここまでしてもらって、いいとこなしなんて顔向けできないよね!」
「僕達だって、負けるわけにはいかない!」
『ジョブ』を切り替えた二人も追撃する。
「クソッ……!」
形勢が変わり、サンダルフォンは呻く。
「じゃ、後はよろしくなー」
ダナンは自分の仕事は終わったとばかりに言って、
「【ランバージャック】」
しかし『ジョブ』を発動させる。どこかから落ち葉を取り出すと火を点けて焚き火を作り始めた。
「落ち葉焚き」
にこにこと心優しい笑みを浮かべたダナンは穏やかにアビリティを発動する。
「おっ? いいねぇ。焼き芋焼いちゃう?」
「もっと緊張感を持てと……私にも一つくれ」
「わかった、すぐ準備するね」
「……狡い。後で食べるから、残しといて」
「うん、用意しとくよ」
大事な場面で焼き芋まで始めてしまう。落ち葉焚きは焚き火が残っている間ずっと味方全員に強化効果を付与し続ける効果を持つ。焚き火が消えなければ累積で効果が上がっていくため、あれば間違いなく有用なアビリティだ。
それにしても呑気な、というような気はするが。
「……有り難いけど、大事な戦いの最中に焼き芋焼かないで欲しいな!」
「皆、あっちは無視して集中!」
【ランバージャック】というのは自分が戦わなくても強い『ジョブ』である、と二人は知っているからこそただ責めるような真似はしない。ダナンが楽器を取り出して奏で始めたのも聴こえてきたので完全に補助に回る形だと理解しているのだ。
まぁサンダルフォンにとっては戦いを嘗めているとしか思えないのだが。
放っておいても構わないか、と“蒼穹”一行と戦っていると、疲労があるはずなのにどんどん強くなっていることに気づく。そして時折どこからか現れた鳥や熊が襲いかかってくるのだ。大したダメージはなく痛くも痒くもないが、目潰しをしてきたり動きを遅くしてきたりと鬱陶しいことこの上ない。
そこで考えてみると、動物達が攻撃してきたり相手が強化され始めたのは、極力見ないようにしてきた甲板の後ろの方で呑気に焼き芋を焼いているヤツが現れてからだ。
(……まさか、アレにもちゃんとした意味があるのか?)
意味がわからない。ナンセンスにもほどがある。だが『ジョブ』については新しい知識のために知らないことも多い。思いついたことは試してみるべきだ。
「ロウ・プリズン!」
「あれ、気づかれちゃった」
ダナンを囲むように光の檻が形成される。彼は焦ることなくおどけてみせると、
「【アサシン】。バニッシュ」
檻が完成する直前で外へと転移した。
「ま、援護としては充分だろ。ってかなにちんたらしてんだよ。さっさと倒せ?」
「全力も全力だよ、もう!」
「というか休憩してたなら回復してるでしょ、手伝ってよ!」
焼き芋が焼き上がるだけの時間が経過していた。疲労困憊もいいところだがそれは相手も同じである。
あと一押し、あと一押しできれば、と思いながら全力を尽くしていたところだ。サンダルフォンもあと一歩のところでなぜこうも踏み留まれる、と思いながら一行を倒せるように力を尽くしていた。
「まぁ、しょうがねぇか。じゃあ残る全魔力使い切ってでかいのやるとするかぁ。ガブリエル、力を貸してくれるか?」
「ええ、お安い御用よ」
ダナンはガブリエルに一声かけてからブルースフィアを掌の上に乗せて魔力を集中させる。その背後に立ったガブリエルが両手を前に伸ばして瞑目し、周囲から水の元素をブルースフィアへと注ぎ込んだ。
まるで水が周囲からブルースフィアを中心に渦巻いて吸い込まれていくようだ。
羽のある天司が助力するというだけでも脅威で、その力の高まりは味方に希望を、敵に警戒を抱かせるには充分だった。
「させると思うか?」
「……邪魔は、させない」
サンダルフォンが矛先をダナンとガブリエルに向けたのだが、その前にロイドとオーキスが立ち塞がる。他の者達も意識がダナン達に向いたのをいいことに攻撃を仕かけてきて鬱陶しい。かと言って鬱陶しい方から倒そうにもイマイチ押し切れない状態が続いていた。
「チィ! アイン・ソフ――」
「……させない。ロイド」
まとめて一気に吹き飛ばす、と動けばロイドが攻め込み中断させられる。ころころと戦い方を変えてくる双子や援護に回っている連中も面倒だ。
「出来たぞ、下がれ!」
しばらくしてダナンの声が聞こえ、大技の準備が整ってしまったのだと理解する。だが所詮は四大天司一体分程度。直撃しない限りは大したダメージにならないだろう。
「ガブリエルの力を得た程度で、俺を超えられると思うな! ――アイン・ソフ・オウルッ!!」
「ならこいつを受けてみやがれ! 呑まれて消えろ、水龍剛破!!」
サンダルフォンの一撃と、ダナンがブルースフィアから放った水で出来た巨大な龍がぶつかり合う、前に。
「……ロイド」
アイン・ソフ・オウルの正面にロイドを携えたオーキスが立っていた。
「……アンセストラル」
オーキスが紫色の障壁を展開し、ロイドがそれを支えるように手を伸ばす。障壁に激突した波動が押し留められる中、
「……うおおおぉぉぉぉ……っ!」
感情があまり込められていない調子で気合いの声が漏れる。障壁はそこかしこにまでヒビが入っていたが、受け切ってみせた。
「……やっぱり、アポロみたいにはいかない。でも、がんばった」
力を使って疲労を露わにしながら、オーキスは達成感に頷く。
それを見て、サンダルフォンは違和感を覚えた。
(さっきの水はどこへ行った……?)
オーキスとロイドは間に割って入るような位置だった。当然、後ろから当たってしまう形になるのだが。そういえばどこかへ行ってしまっている。サンダルフォンが今感知できる元素の流れを読み取っても、どこに行ったのか理解できなかった。この場にはない、という結論が出るだけだ。
「オーキスちゃんが頑張ってくれたんだし、僕達もきっちりやらないとねぇ」
「ああ。――フロム・ヘル!!!」
接近してきていたスツルムが火焔の斬撃を複数放って攻撃する。またドランクの操る宝珠がサンダルフォンの頭上で六角形を描き浮遊する。
サンダルフォンはまずスツルムの奥義を打ち消し――直後頭上に感じた膨大な水の元素に思わず顔を上げた。
「っ……!?」
見上げれば、六つの宝珠が線で繋がって六角形を描き、その中を夜空のような不思議な空間へと変えている。そこから水の龍が顎を開けて出現した。
「ディー・ヤーゲン・カノーネッ!!」
「デモリッシュ・ピアーズッ!!」
迎撃しようと腕を掲げる前に、両腕に強大な一撃が撃ち込まれて阻害される。
「クリスタル・ガスト!!」
「グラキエス・ネイル!!」
「エンドレス・ローズ!!」
“蒼穹”の仲間達が次々と奥義を放ってサンダルフォンを牽制する。
結果、ガブリエルの力を盛大に込めた水龍が彼へと直撃する。
「ぐあああぁぁぁぁ……!!」
水龍に呑まれたサンダルフォンはこれまでと違って明確に苦しげな悲鳴を零す。上体を前傾させ、両手を甲板に突いた。
「効いてるみたいです!」
「今だ、やっちまえ!」
ルリアとビィが余力の残った二人を鼓舞するが、サンダルフォンはギンと強く睨みつけて威圧する。
「負けるはずがない……! 負けられない、俺は……っ!!」
だが顔を上げたサンダルフォンの眼前に、【剣豪】となったグランと【ザ・グローリー】となったジータが迫っていた。
「儂らも同じだ! 空の世界を守るために、負けられん!!」
「これで全部、終わりにしましょう!!」
渾身の一閃が交差し、サンダルフォンを討つ。
防御も相殺も間に合わなかった彼は攻撃を受けて、大きく仰け反りそのまま力尽きて人ほどの大きさに戻った。天司から奪った羽も分離して持ち主の下へ戻っていく。
「やったぜぇ!!」
「ま、待ってください! あのままじゃ落ちちゃいます!」
ビィが喜びに拳を突き上げる中、ルリアはサンダルフォンの身を案じていた。
「ラカムさん!」
「おうよ! ちっとばかし癪だけどな!」
ジータが操舵士に呼びかけ、ラカムは瞬時に動く。落下しそうなサンダルフォンをタイミング良くグランサイファーの船首に引っかけたのだ。
「このままルーマシーに着陸する。見晴らしのいい岬に降りるぞ」
見事サンダルフォンを打ち破った一行は、慌ただしく島へと降り立つ。そこでサンダルフォンを岬に下ろして天司達と合流した。
サンダルフォンは敗北し、蹲るように座り込んでいる。
その表情はどこか憑き物が取れたかのようですらあった。
彼の周囲に一行と天司達が並ぶ。
直に、物語は終幕する――。