ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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この話を書いている時に「圧迫面接」というタイトルのコマ漫画を思いつきましたが描くだけの技量がなかった……
オリヴィエが受ける側で、四大天司が圧迫してくる感じのヤツです。


堕天司の加入

 俺がオリヴィエを連れてアウギュステまで戻ってくると、なぜかシヴァ、エウロペ、ブローディア、グリームニルの四体が待ち伏せしていた。エウロペとブローディアは一緒にいることも多いが、シヴァとグリームニルすら一緒にいるとなると彼らの目的はオリヴィエだろうな、とわかる。

 オリヴィエは今恰好はそのままに堕天司特有らしい漆黒の羽をしまってもらっている。ただでさえ人間離れした美貌なのに羽が生えていたら目立つからな。

 

 ……なぜか一緒にいるのが俺だとわかった瞬間街の人が「ああ、あいつね」と呆れたような目になるのだが。

 

「……やはり、ダナン様も一緒でしたか」

「どういうことか説明してもらうぞ」

 

 四大天司と通じているらしい彼らが堕天司の存在を見逃すはずはない、か。まぁこんなこともあろうかと既にオリヴィエと打ち合わせはしてあるので大丈夫だ。

 

「落ち着け。確かにこいつは堕天司だが、本体は封印されてる身だ。分身だから力も普通の星晶獣くらいしかない。お前ら一人ずつと戦っても苦戦するくらいだろうよ」

 

 本来の力は原初に創られた星晶獣に近しいので覇空戦争のために創られた星晶獣達よりは強いのだろう。しかし残念ながら本体がパンデモニウムにあるため、そこまでの力は出し切れていない。

 

「だからそう脅威でもないし、こいつも無茶無謀をするほどバカでもねぇよ。なぁ?」

「……ああ。今の私では到底叛乱など起こせはしない。起こす気もない、と言ったところで信用されないのはわかっているが」

「まぁ、なにか怪しい素振りがあったら問い詰めればいい。俺も別に完全に信用しているわけじゃないからな」

 

 とは言うが、四体共難しい顔をしている。シヴァはあまり表情が変わらないが、思うところがないわけではないだろう。

 

「……人の子についていくと決めた身の上。好きにするがいい」

 

 シヴァは簡潔に言って、踵を返し去っていく。一応在籍を認めてくれたらしい。

 

「僕は別にどっちでも。『宵闇』の堕天司ってカッコいいしね」

 

 グリームニルは興味なさそうに素で答えていた。天司だとかに拘る気はないのかもしれない。一応使徒って四大天司それぞれの後継者だから、関係あることだと思うのだが。

 

「……納得はできんが、ウリエル様やルシフェル様が貴様を放置していることから考えても、そう脅威でないと思っているのだろう。妙な真似をすれば我が神剣の錆にする。肝に銘じておけ」

 

 ブローディアは終始厳しい顔で言って、足早に去っていった。真面目だからな、納得いかない部分はどうしても出てきてしまうだろう。俺ももちろんフォローはするが、結局はオリヴィエの態度次第だろう。後で話しておくか。

 

「……ふぅ。私もおおよそはブローディアと同じ意見です。ですが手の届かぬところで画策されるよりは、手の届くところで監視した方が良いとも思います。くれぐれも、妙な真似はしないでくださいね」

「ああ」

 

 エウロペは水の天司ガブリエルを敬愛しているところがあるから納得しないかもしれないと思ったが、どうやらある程度自分の中で折り合いをつけてくれたようだ。

 まぁ、実際に四大天司が納得してくれるかどうかはわからないが。会った時の人格(?)を見る限り「堕天司死すべし!」というような感じでもなかったから大丈夫だとは思う。……オリヴィエがなにもしなければ。

 

「と、いうわけで後々裏切るにしても今は大人しくぬいぐるみ集めてろよ」

「ああ、わかっている」

 

 オリヴィエは大人しく頷いてくれた。これでしばらくは下手な動きは見せないだろう。

 

「泊まるのは宿か俺達が持ってる騎空艇のどっちかが基本だ。騎空艇なら宿代はかからないが、偶に団員を運ぶために他の島に行くこともあるから、宿を取るのもありだ。俺は宿を取ってるしな」

 

 オリヴィエに説明しつつ、俺は騎空艇の停めてある港へ足を向ける。

 

「まずは騎空艇に案内する。空いている部屋からお前の部屋を決めないといけないからな」

「まだ部屋に余裕はあるのか?」

「ああ。団員を一気に増やす予定ももうないし、お前一人が部屋持つくらいの余裕はあるぞ」

「そうか。なら有り難く使わせてもらおう」

 

 というわけで進空式以来あまり乗ることのない騎空艇アルトランテへと案内した。早くこいつに乗って空域を越えアウライ・グランデ空域へと乗り込みたい気持ちはあるのだが。まぁ賢者とかワールドとの契約とかで忙しかったからな。力を使いこなす練習をきちんとしてから乗り込みたい気持ちはあるし。真王がどう出るかわからない以上、万全の準備は整えておきたい。

 

「珍しいですね、ダナンが騎空艇のところに来るなんて。……ああ、女を連れ込むのですね」

 

 甲板の掃除をしてくれていたらしいアリアがジト目を向けてきた。そういうんじゃねぇよ。

 

「そう言うなよ、アリアの嬢ちゃん。男ってのは好かれてナンボだからな」

「大勢から好かれるのと大勢を侍らすのとは意味合いが違いますよ」

 

 掃除を手伝ってもらっていたザンツの言い分にもつんと返している。最近アリアはこういう反応を返すことが多い。

 

「オリヴィエはそういうのじゃないから。取引相手というか共犯というか」

「あなたの共犯と聞くといい予感はしませんが?」

「お前も大分俺のことわかってきたみたいだな」

 

 最悪の場合世界を滅ぼしかねない相手だからな。

 

「……はぁ。新しい団員ですよね? レオナさんが空き部屋の掃除をしているので、掃除の終わっている部屋の中から適当に選んでください」

「なんだ、わかってるじゃないか」

 

 呆れたようなアリアではあったが、俺がここに来た理由は察していたらしい。

 

「ええ、あなたのことがわかってきましたので」

 

 彼女は少し微笑んでそう返してきた。俺がさっき言った言葉を使う辺り、茶目っ気を見せてくれるようになったと言うか。一応団長の責務だと思って団員には適度に連絡を取っているが、その成果なのかもしれない。

 

 ともあれレオナが船内の掃除をしてくれているようなので、そっちに掃除の終わって綺麗になった部屋を教えてもらうとしよう。

 

「そうか。じゃあ、レオナに聞いてくる」

「はい、そうしてください」

 

 甲板の掃除をしているアリアとザンツに労いの言葉をかけてから、オリヴィエを連れて騎空艇内に入る。

 

「……騎空艇、と言うらしいなこれは」

 

 俺の話が終わったからか彼女はそう口にした。

 

「ああ。知らないのか?」

「何度か通りかかったモノを見たことはあるが、実際に乗るのは初めてだ。そもそも、私が自由だった頃空の世界にはなかった代物だ」

「そうなのか?」

「ああ。かつて空の世界にはなかったモノ……覇空戦争の時に星の民がより空の世界を侵略しやすくするように造らせたのが始まりだったかと思うが、私も最近学んだ程度だから確かなことは言えない。どこかに騎空艇を司る星晶獣がいるようだが」

「へぇ、そんな経緯だったんだな」

 

 騎空艇がどうやって出来たかなんて気にしたことがなかった。歴史の勉強も大してやってないしな。星晶獣を除くとうちの団で長生きなのはエスタリオラだが、あいつもまだ(?)百二十一歳だ。エスタリオラの友人で同じく長生きなマルキアレスとかいう爺さんは二百二十七歳。覇空戦争が五百年近く前だったとすると今を生きている人間にはいないんじゃないかと思う。それこそ星晶獣だけだろう。

 まぁ、星晶獣に話を聞くって言うなら“黒闇”より“蒼穹”の方がそういうのに縁がありそうだ。……そう考えるとうち天司関係の星晶獣多いな。

 

「あ、ダナン君。……そっちの人は?」

 

 船内の掃除をしていたらしく、バケツを淵に雑巾をかけた状態で持ちもう片方の手には箒とはたきを持ったレオナが丁度部屋から出てきたところだった。頭に白い頭巾を被り白いエプロンをしている。……うわぁ、やたら似合うなその恰好。いい嫁さんになりそう。って言ったら過去を掘り起こすことになるので言わないが。

 

「新しい団員だ。部屋を割り当ててやろうと思ってな。今空いてるところで、掃除終わってしばらく経ったところはあるか?」

 

 掃除終わった直後だと床が湿っていたり埃が舞っていたりするかもしれない。掃除していても完璧になくなりはしないからな。

 

「使ってない部屋の端からやってきたから、あっちの方なら大丈夫だと思うよ?」

「そうか、ありがとな。掃除までやってもらって」

「ううん。私が好きでやってることだから。気にしないで」

 

 レオナは首を振って微笑んだ。……過去に縛られてなきゃ、今頃結婚できてたんだろうなぁ。まぁ過去に縛られてるのも一途な証拠、と言えばそうなんだが。まぁ今の状況を楽しむだけの心の余裕ができていればそれで良しとするかな。

 

「えっと、私レオナって言います。同じ団員として、これからよろしくお願いしますね」

「ん、ああ……。私はオリヴィエだ。不慣れなことも多いだろうから、よろしく頼む」

 

 ぺこりと頭を下げるレオナに、関係ないフリをしていたオリヴィエが少し戸惑いながら自己紹介を返した。案外きちんとした自己紹介ができるもんなんだな、と密かに感心していたが。

 

「それならオリヴィエが家具を買うのを手伝ってやってくれないか? 男の俺じゃセンスの合う合わないもあるだろうし、服とかも必要だろ」

「そうだね。それじゃあ掃除が終わったらオリヴィエさんと買い物行こうかな。いいですか?」

「ああ、構わないが……」

「良かった。じゃあアリアさんも誘って三人で出かけましょう」

 

 にこにこと愛想良く振舞うレオナにオリヴィエは少し圧倒されているようだった。あまりそういう人付き合いをしてこなかったのだろう。“人”付き合いというか、天司だしな。

 

「じゃあさっさと部屋決めるか。オリヴィエはなんか希望とかあるか?」

「特にないが……端でいいだろう」

「そうか。じゃあこっちかこっちだな。……こっちにするか」

 

 通路を挟んで左右の部屋を見比べて、俺は右側の部屋を選ぶことにした。左側は丁度あの野郎の真下になるんだよな。新入りにその位置はキツい。いつか埋まることになるかもしれないが。

 先導して扉を開けると綺麗に清掃された一室が飛び込んでくる。元々中にあった家具は貴重なモノ以外全て捨ててしまったので、部屋にはなにもない状態だ。

 

「今日からここがお前の部屋だ。好きに使ってくれていい。とは言っても家具もなにもない状態だからな。まずは家具の買い出しからになる。レオナとアリアが一緒に行ってくれるみたいだから、適当に家具を集めてくればいい。カーテンすらないが、まぁあの二人が必要なモノは揃えてくれるだろうから大丈夫だろ。服は今羽を隠してるからヒューマンの服でも着れるだろうが、念のため背中の空いた衣装があると便利かもな」

「わかっている。わかってはいるのだが……」

 

 オリヴィエは言い淀んでいた。不思議に思って首を傾げていると、言いづらそうにその理由を口にする。

 

「……金がない」

 

 けれど最終的には俺の目を見て告げてきた。

 

「ああ、そうか」

 

 そういえば他の星晶獣四体もそうだったな、と少し前のことを思い返す。星晶獣は人とは違うので、同じような見た目をしていても成長せず風邪も引かないので食事を取る必要がなく、睡眠も必要ない。子が生まれるわけでもなかった。まぁその辺りは星晶獣それぞれの創り方に寄るだろうが。実際あの四体は食事ができる。必要ではないというだけで。例えばだが星晶獣ミスラやキクリなんかは同行していたとしても食事すらしないだろう。口ないしな。

 要は、金を払って生活するという習慣がない。

 

 だからルピを一切持っていない。

 

 それがオリヴィエの言い淀んだ理由である。

 まぁ俺は“蒼穹”と違って「私物は基本自腹な」とは言ってあるのだが、こういう特殊なケースのヤツもいるのでそういう場合は一律でルピを渡して揃えていいぞ、という風にしている。

 

「そういうことなら仕方がない。家具や衣服などを揃えるのに五十万ルピ。それから個人的な稼ぎがない場合は生活費を五十万ルピ。ただしそれ以上は用意しないのでそれでも尚金を稼げなかったら勝手に飢え死んでくれってことで」

「その金額がどれほどの価値を持つのかわからないが、意外としっかりしているな」

「まぁお前がさっき会った星晶獣がそうだったしな。常識がないことが多いし、いきなり自腹ってのは無理がありすぎるからこういう手段を取ることにしたんだよ。ま、“黒闇”の騎空団はあんまり団員が多いってわけでもないからな。それくらいの援助はできる」

 

 放浪の旅をしていたらしいロベリアはあまり金を持っていなかったのだが、「は? てめえに援助する金はねぇよ。真っ当に働いてこい」と優しく説得して騎空士としての仕事をやってもらったという経緯がある。レラクルは金はオロチを倒した時に回収していたので有り余っていて、配達料まで上乗せして家具を運び込ませてずっと引き籠っていた。あいつは筋金入りだ。今の把握能力を使えば自室でごろごろしているのがわかる。

 

「そうか。では、有り難く受け取っておこう。……とはいえ、そうなると私も働かなければな」

「そう思うなら、街の人に聞いて万屋のシェロカルテを頼ればいい。騎空士に仕事を斡旋してくれる。まぁ世間知らずの星晶獣ができる仕事は大抵魔物退治とかの簡単な仕事だけどな。お前愛想悪いし店の手伝いとかできないだろ」

 

 そう言うとなぜか少しだけむっとした気がした。

 

「そこまで言うなら、私にも普通の仕事ができることを証明してやろう」

「へぇ? まぁ頑張ってくれ。因みにシヴァは串焼き屋の店員。グリームニルは劇団員代役。ブローディアは兵士への剣術指南。エウロペは喫茶店の店員だな」

「……なんと言うか、馴染んでいるな」

 

 そうなんだよ。すっかり溶け込んでいてな。とはいえ有名にはなっていても問題にはなっていないのが大半ではあったのだが、残念ながらエウロペだけは問題が発生していた。エウロペを見に来る人で喫茶店が溢れ返ってしまうという事態が発生してしまったのだ。常連の時間を邪魔しない時間帯に勤務に入るという謎の勤務形態になっているらしい。客が多くて手が足りなくなってしまうらしいので俺が料理を作りに行ったこともあるのだが、ヤバかった。あそこだけ視線の熱帯雨林だった。

 

「ああ、意外なことにな。まぁお前もあいつらを見習って、とは言わないが精々頑張れよ。馴染めるように振舞わないと怪しまれるから気をつけてな」

「わかっている」

 

 オリヴィエの部屋が決まったので、あとはレオナとアリアに彼女のことを任せて退散することにする。俺の団では比較的常識人な二人と接することになったので、おそらくオリヴィエは大丈夫だ。世間知らずではあるだろうがきっちり常識を与えてくれるだろう。これをハーゼとかに頼むと厄介なことを仕込んでくれてたりするから嫌なんだが、あの二人ならきっと大丈夫。悪ふざけを入れてくることはないだろう。安心して任せられた。

 

 戦力もかなり増えてきたことだし、そろそろ次の段階へ行きたい気もするが。

 

「……さて、どうするかな」




次も三日後の三十日に更新予定です。
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