ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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いやぁ、生放送楽しかったですね。
色々楽しみなことがあってテンション上がってました。賢者スキンがめっさ早いことに驚きましたけどね。
全体的に良きでした。

※前書き書いてる間に日付変わってましたすみません。


再会

 ゼオとレラクルがいた場所から立ち去ったトキリは、妙な苛立ちを抱えながら街を彷徨っていた。

 

 目的はない。やることもない。強いて言うなら弱者を見つけて甚振ることだが、それで目をつけられても困る。できれば調子に乗ったチンピラぐらいの適度に弱くて滅多打ちにしてもあまり責められないような相手だとやりやすいな、と思いながら歩いていると。

 

 その途中でまた、見知った顔を見かける。

 

 ……よくやるよ、ホント。

 

 以前の自分は本当に自分だったのかと思うほどの熱意に満ち溢れていたが、今は違う。だからこそ必死になって頑張っている人間の心内が全くわからなかった。

 

 手合わせしているのは七曜の騎士が一人アリアとレオナ、そして一応トキリも同じ括りにされている“六刃羅”の一人クモルクメルである。

 クモルクメルはさっき会った男二人とは違ってトキリと年齢が近いわけではない。ハーヴィンなので全くそうは見えないのだが、年上のお姉さんなのである。

 アリアはクモルクメルに近しい年齢だと思われ、レオナは二十七と二人より少しだけ年上になる。まぁ団内でも比較的年齢が近い者で集まっているということだろう。

 

 手合わせは三人で行っており、誰と誰が組んでということではないようだ。レオナとクモルクメルがアリアに襲いかかったかと思えば、今度はクモルクメルを二人が攻める。三つ巴の戦いをしているようであった。アリアは七曜の騎士で他二人より強いため、若干攻め入られる回数が多いだろうか。

 

 アリアは剣、レオナは薙刀、クモルクメルは刀。それぞれ使う武器は異なりトキリが真似できそうなのは……強いて言うならアリアだろう。刀を使う点でクモルクメルも候補に入っているのだが、実際には蜘蛛の糸を自在に操ることで独自の戦闘方法を確立している。刀を振る技術もハーヴィン特有のコツを取り入れているためヒューマンであるトキリが真似する必要はない。まぁ応用はできるのかもしれないが。

 ただアリアは七曜の騎士だ。軽いが速いという特徴を有している剣技だと定義すると、それでも威力が高いのは七曜の騎士として真王の加護を得ているから、という結論に至るだろう。つまりヒューマンであるトキリが真似しても仕方がない。

 

「……」

 

 それでもぼーっと気紛れ程度に眺めていると、やがて手合わせを中断したところで三人が近寄ってきた。気づいた様子は見せなかったので、元々彼に気づいていたのだろう。

 

「……なんだよ」

「それはこちらのセリフですよ。随分と覇気のない顔をしていますが、なにか用ですか?」

 

 アリアとしてもじっと手合わせを眺めているトキリがなにを思っているのかは気になっていた。当然、普段あまり見かけないからと言っても様子の違いは察している。

 

「いや、別に。ただぶらついてただけだよ」

「ふぅん……?」

 

 クモルクメルは訝しむようにじろじろと見上げてきた。居心地が悪くなって視線を横に流す。

 

「まぁ、私には関係ないわね」

 

 しかしそれ以上はなにも言わなかった。彼女にはなにか察したことがあったのかもしれないが。トキリも聞く気はなかった。今の自分には関係のないことだろうからと。

 

「……ふん。別に僕もなにかして欲しいとは思ってないよ。もしかしたら団を抜けるかもしれないし」

「なに? 勝てないからってイジけてるの? だから団を抜けて自分より弱い人探そうって魂胆?」

「……っ」

 

 呆れたような声を受けて、思わず向き直ってしまった。正しく自分が考えていたことに近かったから。

 

「図星? まぁ今のあんただったらそうなるかなって思ってたから別にいいけど。せめて自分を省みるぐらいはした方がいいと思うけど、その様子じゃ無理そうね」

「……なんだよ、知った風な口利きやがって」

「あんたがわかりやすいだけでしょ。大体こう見えてもあんたより私の方が十歳上なんだから。当然でしょ?」

 

 そういえばそうだった、と思い出す。クモルクメルは二十四歳だそうだ。……種族のせいでそうは思えないだけで。

 

「……チッ。好き勝手言って」

 

 なんだかそれ以上話していたくない。少し足早にその場を去った。

 

「……クモルさんって意外と言うんですね」

「だってムカつくもの」

「はっきりした性格ですね。少し羨ましい気もします」

「そう?」

 

 どうやら色々と抑圧されて育ってきたと思われるアリアは率直な彼女を羨ましく思ったらしい。レオナは性格上そういったことを口にしないので、大人しく見ていたのだが。

 

「なにかあったみたいですけど、変わるには誰かが手を出してくれないとダメそうですね」

「その当てはあるから大丈夫だろ」

 

 ぽつりと呟いたレオナの声に応えたのは他の二人ではない。突然聞こえた男の声にビクリと肩を震わせる三人だったが、その顔を見て胸を撫で下ろした。

 

「……なんで盗み聞きしているんですか? 趣味が悪いですよ」

「そう言うなよ、これも団長の責務ってヤツだ」

 

 いたのは当然、ダナンである。アリアにジト目をされているが、本人はどこ吹く風だ。

 

「団長の責務ということは、ダナン君はある程度トキリ君の事情を知ってるの?」

「まぁな。あいつが最終的に団を抜けるって言い出すか、それとも別の結果になるか。そこは俺じゃなく別のヤツがどうするかが大事なんだけど」

「……責務とか言っておいて、随分と楽しそうね」

 

 レオナに聞かれて答えたダナンが楽し気に笑っていたので、クモルクメルもジト目になった。

 

「趣味と実益を兼ねる、実にいいことだろ?」

 

 しかし返ってきたのは晴れやかな笑顔だった。ジト目にはなっていなかったレオナも苦笑気味である。

 

「……だが、一度なら兎も角二度目だからなこれは。あいつにも最後の堤防が残ってると信じてやりたいところだが、さてさて」

 

 

 彼が呟いた言葉の意味はわからなかったが、自分達の知らないところでトキリが変わろうとしていることだけはよくわかった。団長の意向を汲んで、とまでは言わないが成り行きを見守ることを決める。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 トキリはまた、ぶらついていたところで見知った顔を見かけた。どうやら知らぬ間に秩序の騎空団のアウギュステ駐屯所まで来てしまっていたらしい。そこでは第四騎空艇団の団長、副団長だった二人が団員達の前で手合わせしている。どうやら日頃からただイチャイチャしているだけではないようだ。今は役職に就いていないが、その実力は秩序の騎空団全体で見ても屈指と思われる。団員達からしたら二人の手合わせを観戦するだけでも学べることは多いだろう。

 疾風と紫電がぶつかり合う。互いの実力に大差がないのか全力だったが互角の戦いを繰り広げていた。

 

 多くの団員が囲っているため遠目に見て、下らないと小さく呟いてその場を後にした。

 

 次に見かけたのはクラウスとアラナンが言い合っているところだったが……宗教関係なので無視した。下手に近づいたら「どっちが正しいと思う!?」と詰め寄られること間違いなし。見て見ぬフリをするのが一番である。

 まぁそれでも見つかって捕まりそうになり、全力で逃げ出したのは余談だが。

 

 なんとかシスターと爺さんを撒いたトキリは息を切らしながらふらふらと歩き、また見知った顔を見かける。昨日の今日で考えると少し見たくなかった顔だ。

 

 ナルメア、そしてアネンサの二人である。

 

 ナルメアは言わずもがな昨日心をへし折られた。アネンサは種族が違うとしても同年代ではあるのだが完膚なきまでにボコボコにされた記憶がある。正直言って苦手だ。

 小さいからと油断していたとは思わないが、でかい刀を普通の刀を扱うが如く振り回す様は圧倒される。打ち合っても相手の方が力が強いのに、相手の方が大きい刀を使っているので間合いが長いという嫌な相手だ。加えて同年代ということも苦手意識を加速している。

 

 しばらくこっそりと眺めてから、トキリは声をかけずかけられることもなく立ち去った。

 

「……クソ」

 

 なぜだか無性に胸の奥が重い。気持ちが落ち着かない、イライラする――それを他者にぶつけたくなる。

 

「……なんで僕がこんな風に」

 

 鍛錬なんてしなくていい。今の自分が勝てるヤツを痛めつければいいだけ。そう思ったはずなのに、なぜか心が苛立っている。悔しいという感情が湧いてくる。そんな風に思う必要は一切ないはずなのに。

 

「クソッ……!」

 

 適当に誰かを斬って憂さ晴らしをしよう。そう決めて街の外へ出た。街の中は比較的安全で、それこそ秩序の騎空団やアウギュステの自警団、駐屯している騎空団などが守っている。

 しかも今の時期は天下の“蒼穹”の騎空団とそのライバルである“黒闇”の騎空団が大勢いる。流石にそんな場所で無謀にも犯罪に走るヤツなんていないだろう。

 そのせいで街の外も比較的安全なのだが、街から離れると街から遠ざかるように拠点を移した荒くれ共が屯している。そこへ行くつもりなのだ。

 

 ある意味で自尊心を取り戻すための行為でもある。

 

 盗賊程度なら強くならなくても狩れる。そう思うと気分が高揚してきた。

 

「あの、すみません。この辺りで希少な魔物が出ると聞いたのですが、ご存知ありませんか?」

 

 トキリは以前やっていたのと同じように、人懐っこい笑みを浮かべて盗賊の根城に乗り込んだ。人の住処があったので訪ねてきただけ、という体を装って。

 因みに実際今いる地域では滅多に姿を現さないレアな魔物がいるという噂がある。目撃情報が少ないため真実味はないが、確保できれば高値で売れる。そう思って盗賊達もここで暮らしているのかもしれない。

 

「なんだぁ、坊主。ここはお子様が来ていい場所じゃねぇんだよ」

「すみません、それでも是非探したいので……。あのこれ、少ないのですが情報料です」

 

 入口にいた男に追い払われそうになったので、わざとらしく膨らんだルピのたくさん入った袋を取り出し、一部を握って手渡す。袋の中身いっぱいに詰まったルピを目にした途端、男が目の色を変えたのが丸わかりだった。

 

「へぇ? わかってんじゃねぇか。まぁ詳しい話は中で聞いてやるよ。俺より詳しいヤツだっているだろうしな」

「わぁ、ありがとうございます」

 

 男がルピに眩んだことははっきりわかる。無邪気な笑顔を見せて大人しく男についていった。

 相手の狙いは手に取るようにわかる。仲間達が集まる広場のようなところに着いたら、盗賊達はトキリを囲み逃げ場のないように位置を取った。

 

 そして、案内を買って出た男が短剣を抜き放ってトキリの喉元に突きつける。

 

「な、なんの真似ですか!?」

「なんの、って決まってんだろ? 俺たちゃ盗賊だぜ? わかったら有り金全部置いてきな。死にてぇってんなら話は別だが?」

 

 わざとらしく驚いてみせると、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた。周りも武器を取り出して脅しをかけてくる。

 見えている範囲で三十人。見えない範囲にもいることを考えれば五十人は下らないだろう。外に出ている可能性も考えたらもう少し多いかもしれない。

 

 トキリが帯刀しているからか全員姿を見せないのは慎重だった。それくらいはできないと“蒼穹”もいるこの島で生き残れはしなかっただろう。

 まぁそれも今日で終わるのだが。

 

「ほら、もたもたしてねぇで金出せってんだよ!」

 

 他の男がドスの効いた声で手に持った凶器をチラつかせながら急かす。

 

「……それは、困ったなぁ」

 

 内心でほくそ笑みながらそんなことを言って腰の柄に手をかけるトキリ。

 

「動くんじゃねぇ! 下手な真似したら――」

 

 男が怒鳴る中、トキリは素早く屈んで突きつけられた短剣から逃れると目の前の男に足払いをかけた。男は呆気なく体勢を崩して倒れていく中立ち上がって腰を低く構え、居合い一閃。倒れる最中にあった男の驚いた顔の下に刃を潜り込ませて切断した。

 

「なっ!?」

「て、てめえ!」

 

 先程まで圧倒的有利だった盗賊達だが、トキリがあっさりと一人殺したことで動揺が走る。首を落とされた男の死体から血が噴出するのを気に留めず、浴びながら笑みを深めた。

 

 ……ああ、やっぱりこれだ。

 

 命に関して思うところはない。死んでようが生きてようが些細な問題だ。だが優位に立っていると思い込んだバカなヤツらを斬るのは堪らない。

 

「……ふ、くくっ。ああ、やっぱりだ。僕はこのために剣を握ったんだって実感する。やっぱりいいよ、人斬りはさぁ」

 

 本性を露わにして瞳孔を開き血濡れたまま嗤うトキリを見え、盗賊達は背筋に悪寒が走った。

 

「く、クソッ! 人数はこっちが上なんだ! やっちまうぞ!!」

「魔法で焼いちまえ!!」

 

 動揺は激しくなるばかりで、浮足立つ。そんな状態で“人斬り”に勝てるはずもなく。

 トキリはたった一人で盗賊達を殲滅した。

 

 と言っても最初の一人以降は誰も死んでいない。当然のことながら盗賊達に情けをかけたわけではない。

 

「クソ、クソぉ……」

「いてぇ、いてぇよ……」

「お願いだから殺してくれ……!」

 

 情けなく命乞いをする連中が見たいから生かしているというだけの話である。

 

 全員漏れなく、身体の一部を欠損していた。少なくとも逃げられないように足だけは斬り落とされている。それでも這って逃げようとしたヤツは腕まで斬り落とされてしまい、もう誰も逃げ出そうとしていない。ただ痛みに呻き泣き叫ぶ男達の残骸が転がっているだけだ。直接は殺していないが、煩いという理由で何度も斬られたヤツは出血多量で死んでいるかもしれない。まだ辛うじて息があるかもしれない。

 

 その後トキリは何人か刀を刺して捩じり痛めつけてから殺すなどを行い、場が恐怖に染まって反応が一辺倒になりつまらなくなってから。

 

「もう飽きちゃった。ありがとね、僕満足できたよ」

 

 にっこりと笑って、彼は残骸含めてオイルをぶち撒ける。助ける気はないと突きつけられて絶望する盗賊達を無視して、鼻歌混じりに下準備を整えて、最後に火を放る。焼死は最も苦しい死に方、とも言われるくらいに死ぬまでの時間が長い死に方だ。燃え盛る炎の中から聞こえてくる絶叫をBGMに、トキリは立ち去った。

 やったこととしては盗賊退治だ。やり方は褒められたモノではないが、例えバレたとしても取り締まられることはないだろう。

 

 とりあえず身体を綺麗にしたいかな、と思いながら高揚したまま歩いていると、ふと目の前に立ち塞がった人物がいた。

 

 清楚さを印象づける白装束に、艶のある黒髪。長い髪を後頭部で一つに括っている。顔立ちや身長から考えてもトキリとそう変わらない少女だろう。左腰に提げている刀から剣士だとは思うのだが。

 

「……?」

 

 トキリはなぜか、彼女の顔に見覚えがあるような気がした。だが誰だったか思い出せない。知り合いにこんな少女がいた覚えもない。

 

「久し振りだね、トキリ。八年振りくらいになるかな?」

 

 少女はトキリを知っているようでそう声をかけてきた。八年前? とトキリが記憶を呼び起こそうとしている前で、少女は腰の刀を抜き放ち、構える。

 

「っ……!」

 

 そこでようやく、トキリは目の前の人物が誰なのかを思い出した。

 

 八年前、トキリが六歳の頃故郷の村にいた子供。

 彼を道場に誘い剣の道に引き込んだ当人だ。

 

「――“人斬り”のトキリ。その首、貰い受ける」

 

 動揺を隠せないトキリだったが、彼女の発する気迫を感じ取って刀を握り直す。

 内心では確信していた。彼女は昔会った、道場主の子供だ。




宝箱はリミモニ出ました嬉しい。
ロベリア加入させました。

更新はこのペースを続けていきたいですねぇ。

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