ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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本日9/2を持ちまして、『ナンダーク・ファンタジー』は連載開始より一年が経ちました!
本当は一話目と同じ時間に更新したかったのですが、間に合わなかったんです……。
皆様のおかげもあり、ここまで来ることができました。
初期から読んでくださっている方、最近読み始めたという方、色々いらっしゃると思いますが今後ともよろしくお願いします!

前回イベント番外編やるよ、という話をしていたのですが一周年記念当日になにも更新しないのもなぁと思ったので急遽描き始めた次第です。
記念パーティーでイチャイチャするだけの話です。
次こそちょっと間が空いてイベント番外編になります。

あと、明日辺りに今後の予定を活動報告の方で上げる予定です。主にアウライ・グランデどーすんのという話にしようと思っています。まぁ簡単には前書き後書きでも言おうと思っているので見ないとダメということはないのですけれどね。


EX:『一周年記念』

 複数のシャンデリアが高い天井から吊り下がって屋内全体を(まばゆ)いばかりに照らしている。しかしその真下にいても目がチカチカしないのは建築の工夫が凝らしてあるからだろうか。

 天井を仰いでも金のかかり具合がわかるというモノだが、床を見下ろしても感じ取れる。革靴で床を歩くとコツコツという澄んだ音を奏でるこの床は、鏡のようにとはいかないまでも俺やシャンデリアの姿をぼんやりと映し出していた。磨き抜かれた床も、ここを訪れるまでに通った庭園も、一切手抜きが感じられない仕事振りである。

 

 普段の俺の生活風景からすれば華美とも取れる装飾品に彩られた建物の広い屋内で、着慣れない窮屈なタキシードの襟元に指を差し込んで隙間を確保した。

 

「窮屈そうだねぇ。かっちりしてるのも似合ってると思うよ~?」

 

 (しき)りに着心地が悪そうにしていたせいか、傍に立っていたドランクにそう声をかけられた。

 

 ドランクも俺と同じくタキシードに身を包んでいる。俺が黒なのに比べて、ドランクは紺色だ。……普段の緩い調子とは裏腹にと言うべきか、きっちりした服装が似合う。身体つきの問題だろうな。長身痩躯にタキシードは似合いすぎる。

 

「……それはこっちのセリフだろ。ってかお前はあんまり窮屈そうじゃないのな。素性云々(うんぬん)は知らないけど、いいとこの出とか? 着替えるの早かったし」

「さぁ、どうだろうね~?」

 

 あからさまに誤魔化されてしまった。とはいえ、大体当たっているのだろうとは思う。タキシードを難なく着こなし蝶ネクタイをあっさり結ぶ手際の良さは、他のヤツも驚いていた。あれはちゃんとした教育がないとできない芸当だ。俺はもうしんどかった。出自の関係で教養がないと言ってもいいからな。

 

「ダナン、そっちの騎空団はあんまりいないみたいだけど、どうかしたの?」

 

 青のタキシードを纏ったグランが声をかけてきた。考えなしに突っ込む所謂“やんちゃ”な部類に入るグランだが、タキシードを着ていると少し落ち着いているように見えるから不思議だ。

 そう、これは“蒼穹”と“黒闇”の合同パーティーなのだ。元々“蒼穹”の方が規模が大きいので少なく見えて当然なのだが。

 

「あー……うちの男連中は、こういう堅苦しいの苦手なんだと」

 

 今は支度の時間が短かった男しか会場にいない。女性は支度に時間がかかるので、後から入場するようになっていた。

 そして我が騎空団からは俺、ドランク、トキリ、カイム、シヴァ、グリームニル、バラゴナ、ロベリア、カッツェ、そしてハクタクが参加している。俺は団長だから、ドランクは付き添い。トキリはツジリに無理矢理引っ張られてきて、カイムはこういう場をじっくり見てみたいから。シヴァは人の営みを知るためとかで、グリームニルは一回こういうのやってみたかったから。バラゴナは王族でもあるので拒否することなく、カッツェも同様。ロベリアは気紛れなので厄介なことを仕出かさなければそれでいい。

 ザンツ、ゼオ、レラクルはこういう堅苦しい場が苦手だから来ていない。ガイゼンボーガとエスタリオラは興味がないらしく、リューゲルは立場上の問題で不参加だそうだ。アラナンは過度な贅沢を好ましく思っていない。特に自分が、という点において。

 

 という具合に付き合いが悪かったわけだ。ただでさえ人数が少ないのに結構減ってしまった。まぁ威厳だとかを出したいわけじゃないからいいんだが。

 

「そうなんだ。と言ってもうちもそんなに人数がいるわけじゃないけどね」

「まぁ、パーティーだからな。多すぎても面倒だ」

 

 見渡せば、それぞれの団員達が何ヶ所かに集まって雑談している。うちの団員もそれなりだが、正装している連中を見渡すと綺麗どころしかいないな。一般に開放したら各地のご令嬢が我先にと殺到しそうなヤツらが多い。

 まぁ内々のパーティーなのでその心配は無用だと思う。というか一般開放のパーティーだったら俺はこっちじゃなくて厨房に籠もる。そもそも今からでも厨房に回りたい。

 

「……はぁ、ったく。パーティーに参加するくらいなら厨房でパーティー用の料理を作りたい」

「ははっ。ダナンはホント料理好きだよね」

 

 思わずため息を()くとグランに苦笑されてしまった。仕方ないだろ、料理は楽しいんだから。

 

「ほら、来たみたいだよ。お待ちかねのお姫様達がね~」

 

 ドランクの珍しく気障ったらしい言い回しに視線の先を追うと、重く荘厳な音を響かせて入り口にある大きな扉が開いていく。従業員が二人がかりで押し開いているようだ。既に来ている者達が皆そちらに注目していると、女性陣が入場する。

 

 姿を現したドレス姿の女性陣に、普段同じ騎空団として見慣れているはずの者達ですら「おぉ」と感嘆の声を漏らしていた。

 

 先頭を歩くのはジータ、ルリア、そしてオーキスの三人だ。

 

 ジータは深紅のドレスで口の紅を差している。そのせいか普段より大人びて見えた。左耳にのみつけたイヤリングも色香を増幅させているようだ。

 ルリアは純白のドレスだ。大人びたジータとはまた違った印象で、清楚且つ可憐を体現しているようである。頭の髪飾りは、確かグランが買ってやったモノだとニヤニヤしたジータから聞いたことがあった。おそらく思惑通り、グランがぽかんと口を開けて見惚れていたので成果ありだ。おめかしした甲斐もあるというモノだろう。

 

 そしてオーキス。入場から真っ直ぐ俺に向かって歩いてきていた。オーキスは紫紺色のドレスを着込んでいる。若干普段もドレスのような服装をしているが今夜は雰囲気が違った。髪は下ろした後に左側を少しだけ括っている。それだけでも随分と印象が変わる。ドレスは胸元までで背を回るようになっているが、そこから上の首までの部分には黒い薄手の生地があった。露出という点では普段より減っているのだが、薄手の生地の奥に覗く鎖骨や首筋が大人っぽさを演出している。今日猫(ぬいぐるみ)は留守番のようだ。

 

「……どう?」

「似合ってる。普段とはまた違う雰囲気だな。大人っぽくてびっくりした」

「……ふふ」

 

 目の前まで来たオーキスに尋ねられて率直な感想を述べると、仄かな笑みを浮かべてドレスの裾を摘まんで身体を揺らしていた。表情はあまり変わらないが、照れているらしい。

 

「ほらグラン、さらっと褒めなきゃ」

「う、うん。えっと……凄く似合ってるよ、ルリア。それにその髪飾り、つけてくれたんだ」

「は、はい……折角だからと思って……えへへ」

 

 ジータが背中を押しつつ、照れて頬を赤くしながらグランとルリアが対峙している。

 

「良かったな、ルリア。その髪飾りに合うようにとドレスを選んでいたから」

「カタリナっ! それは内緒にしてって言ったのに!」

 

 後ろからやってきた蒼のドレスを着込む麗しき女性、カタリナが茶化すと頬を膨らませてルリアが反論する。

 続々とやってきては俺達の方へと流れてきていた。まぁ二つの団の団長が固まっていればこっちに来るのは当たり前か。

 

「あまりはしゃぐなよ、オーキス。ヒールで転んだら事だ」

「貴女こそ浮かれて転ばないといいですが」

「貴様……」

「ま、まぁまぁ。二人共、折角のパーティーなんだから仲良くしましょう、ね?」

 

 オーキスの後ろを歩いていたのはアポロとアリアだ。アポロが黒、アリアが白と対極的なドレスにスタイルなどまで加味すると対照的な組み合わせだ。狙ってやっているのではないかと思うほどである。アポロもは珍しくと言うべきかきっちりおめかしをしてきていて、アリアは王女という立場上慣れているのかドレスなどの恰好が馴染んでいる様子だ。別に見たことがあるわけではないのだが。

 その二人を苦笑しながら諫めるのがレオナ。オレンジ色で裾の短いドレスを着ていた。左肩のみかかっているデザインで、スリットが入っていることも相俟ってレオナの長い美脚が強調されているようにも感じる。というか布面積が少なくなると自然に目がいくような脚をしていると言うべきなのか。

 

「似合ってるな。ところでアポロとアリアはわざと対照的になるように選んだのか?」

「そんなわけがないだろう。むしろ合わないようにしていたくらいだ」

「……その結果正反対になっていったのがこの恰好だと思ってください」

「「仲がいいのか悪いのか」」

 

 最初からそうだろうとは思っていたが。思わず俺とレオナの言葉が被ってしまった。アポロとアリアは複雑そうな顔をしていたが。

 

「ダナンちゃんダナンちゃん、お姉さんのドレスはどう?」

 

 ひょっこりと横から近づいてきたナルメアが、期待を瞳に込めて尋ねてくる。

 

 彼女は青のドレスを選んだようだ。ナルメアは紫のイメージが強いが、正直なところ何色でも似合うと思う。ドラフ特有の胸元に目がいきそうになるが、ドレスのワンポイントはその少しした。谷間の終わりから下に入った切れ込み部分だそう。肌面積は通常のドレスとそう変わらないがそこがあるかないかで印象が変わる。

 

「ああ、可愛いな」

「そっかぁ、えへへ~」

 

 褒められて嬉しいのか口元を緩めてにこにこしていた。その横に同じドラフの、淡い水色のドレスを纏ったアネンサが姿を現す。ドレスの形はほぼ同じだ。こちらは髪の色とほぼ同じ色合いなのでイメージ通りなのが違う点か。

 

「お兄ちゃん、私は~?」

「似合ってるぞ。ナルメアと同じドレスで、姉妹みたいだな」

「だって、ナルメアお姉ちゃん~」

「良かったわね、アネンサちゃん」

「うん~」

 

 アネンサもにっこにこでナルメアの傍に寄っていた。仲が良くて結構。特にアネンサには、過去のこともあるし充分に甘えて欲しいと思う。

 

「ダナン君。どう、かな……?」

 

 しずしずと進み出てくるのはニーアだ。少し暗めの赤を基調としたドレスである。着飾っているのを見ることはあまりなかったが、思いの外似合っていた。やはり素体がいいとどんな衣装でも似合うモノなのだろう。

 

「いいんじゃないか? 普段とは違った印象が見えて、綺麗だと思う」

「良かった……!」

 

 俺も良かったよ、ニーアの琴線に触れなくて。

 

「ねぇ、ダナン。私は?」

 

 そこにフラウが登場する。黒のドレスを着ていた、のだがかなり露出が多めな気がした。胸元が大きく開いているのは言うまでもなく、裾も短い。ほとんど太腿の付け根ぐらいまでしかない長さで、その上左側にスリットが入っていた。ただそれだけだと心許ないからか裾の上に黒い透けたベールがついていたのだが。それでも随分と扇情的な恰好をしていることに違いはない。

 

「……なんか、布少なくないか?」

「普段のローブ脱いだ後と比べればまだマシじゃない?」

「まぁ、確かに」

「それに、裾が短くないと動きづらくて嫌になるの、ほら動きやすい」

 

 フラウは片足を軽く上げてみせる。しかもスリットが入ってベールのない左脚だったために太腿の付け根ギリギリぐらいまでが明るみに出てきていた。思わずといった様子で目を惹かれた男連中がいたほどだ。

 

「はしたないからここではやめとけって」

「はーい。……じゃあ、二人きりになった後でね」

 

 適当に返事をした後、声を潜めて耳打ちしてきた。周囲に皆が集まってきているので聞こえた者もいただろう。特にニーアはわかりやすく耳をぴくりと反応させていた。

 しかし誰かがなにかを言う前に、

 

「すまない、通してくれないか?」

 

 やや張り上げたモニカの声が聞こえてきた。

 

「も、モニカさん! まだ心の準備ができてませんからっ!」

 

 続けてリーシャの慌てた声が聞こえる。どうやらリーシャが恥ずかしがって前に出てこれず、モニカが背中を押している状況のようだ。前に集まっている団員達に隠れて見えなかったが容易に想像できた。

 

 どこか微笑ましい空気が発生して俺の真ん前にいた団員達が左右に捌けていく。……ただリーシャが咄嗟に感づいて右に避けてしまったのでひらりと浮かんだ深い緑色の裾しか見ることはできなかった。ベージュのドレスで着飾ったモニカが呆れたように嘆息している。

 モニカは小柄なので子供っぽく見られがちだが、ドレスに身を包んでいることで妙な大人っぽさを見せていた。首元の黒いチョーカーがぐっと印象を引き締めてくれている。髪をアップにしてまとめているため普段あまり見る機会のない白いうなじが露わになっているのも印象を変えている一因だろう。

 

「ほら、リーシャ」

 

 そのモニカは見えないように逃げるリーシャの後ろに回り込んでいる。

 

「あっ、ちょ、モニカさん、押さないでくださいっ!」

「心の準備をさせるといつまで経っても動かないからな。行ってこいっ」

 

 なんだかんだリーシャの後押しをする辺り、本当に姉らしいというか。

 

 成り行きを見守っていると、どうやらモニカが背中をどんと強く押したらしく、

 

「わっ! あ、ちょっと……!」

 

 ヒールを履いているからかかつかつと覚束ない足取りで、なんとか転ばないようにバランスを取りながら俺の見えるところにまで出てきた。

 

 正直言って、言葉を失った。

 

 さっきちらりと見えたのでわかっていたが、深い緑色のドレスだ。注目すべきはそのデザイン。胸元から角度によっては臍まで見えるほどに真ん中が開いているのだ。大胆な衣装である。裾は左側だけ短くなったモノだ。リーシャが、と考えればかなり大胆なドレスを選んだモノだと思う。それはまぁ、前に出てくるのも躊躇うか。

 だが大胆なドレスも開けた胸元に落ちているネックレスも、髪飾りで括って大きく右側を持ち上げた髪型も、全てがリーシャという存在を際立たせている。

 

「あっ……」

 

 目が合った。それまでも羞恥で頬に朱を差していたが、広がって顔全体どころか耳まで真っ赤になる。

 

「あ、あんまり見ないでください……!」

 

 リーシャは恥ずかしさが立ったのか自分の腕でドレスの前部分を隠そうとしていた。

 

「リーシャにしては大胆な恰好だな。けどよく似合ってる。綺麗だぞ」

 

 普段も臍出しスタイルだが、胸元はあまり開いてなかった気がする。その点今回のドレスはかなり頑張ったのだと思う。ので、ちゃんと褒めておく。

 ぼんっ、と音が鳴りそうなくらい真っ赤になってしまったので良かったのかどうかは置いておこう。

 

「ねぇトキリ、このドレスどう?」

「べ、別にどうでもいいけど?」

「ふぅん? その割りには顔赤いけど?」

「そ、そんなことないし……」

「ふぅん……?」

 

 トキリはトキリでドレス姿のツジリに見惚れてしまい、そのことを指摘されて顔を赤くしている。ツジリもニヤニヤしてからかっているのでいい組み合わせなのかもしれない。あのトキリが変わっていくきっかけになりそうなツジリの存在はいいモノである。

 

「皆さん集まりましたね〜」

 

 会場全体に間延びした声が響いた。今回のパーティーを主催した張本人、シェロカルテである。彼女もドレスに身を包んでいた。シェロカルテがああいう正装をした姿は珍しい気がする。季節に合わせた恰好をしているのはよく見かけるのだが。

 

「それではこれより“蒼穹”と“黒闇”、二つの騎空団によるパーティーを開催します〜。皆さん、今日は存分に楽しんでいってくださいね〜」

 

 普段なら歓声が上がる挨拶も、場に合わせてか拍手になっている。

 本人から聞いたが、今回のパーティーは立食と舞踏に分かれて行われるそうだ。食事だけにすると若干一名そっちを手伝いたがる人がいるから、だそうだ。是非ともそいつと会ってみたいな、気が合いそうだ。

 

 最初は立食から行われる。豪勢な料理が運ばれてきて振舞われていく。今回の調理係はバウタオーダ、エルメラウラ、そして助っ人のハリソンだ。できれば混ざりたかったが断られてしまった。

 当時仲良くなった残る一人、ローアインはタキシード姿でカッコつけてカタリナに声をかけようとしていたが目敏く赤のドレスを着込んだヴィーラにバレてしまい恨めしそうな目で見られていたのだがそこへトモイとエルセムがケツアゴが特徴的な緊張した面持ちの男を連れてきてヴィーラに話しかけさせることにより見事ローアインとカタリナが一対一で話す機会を設けることに成功していた。……あっ、キレたヴィーラに三人まとめて吹っ飛ばされてら。

 

 他だと雰囲気にそぐわないらぁめんのコーナーへとリルル、カシウスの二人が足を向けている。誰が作ったかよくわかるなぁ。らぁめん師匠は厨房の係ではなかったはずだが、メニューにらぁめんがないと知って乗り込んだのだろう。

 

 ともあれ。

 俺は珍しく作る側に回ることなく食べる側として純粋に立食パーティーを楽しんでいた。

 

 そこではやいのやいの言い合うことなく楽しく過ごせていたのだが。

 

「これより舞踏パーティーを始めますよ〜」

 

 料理が片づけられて楽器が運び込まれた後、シェロカルテから宣言があった。そういえば俺、あんまり踊りってやったことなったなぁ、と呑気に考えていたのだが。

 

「ねぇ。ダナン、私と一緒に踊りましょう?」

「ダナン君、私と踊ってくれるよね?」

「お姉さんと踊ろっ?」

 

 演奏される中、一斉に踊りの申し込みを受けてしまった。困惑していると、

 

「だ、ダナンっ! わ、私と踊ってくれませんか!?」

 

 顔を真っ赤にしたリーシャが割り込んでくる。女性は手を取ってもらうように差し出すのだが、それに準じている。……ドレスに加えてここまで勇気を出されたら、応えないわけにもいかないよな。

 

「じゃあ、踊ろうか」

 

 俺は差し出された手を取って握る。リーシャはぱぁと顔を輝かせて飛び切りの笑顔を見せた。

 

「……私と、踊ってくれないの……?」

「そういうわけじゃないでしょ。順番よ、一人ずつね」

 

 ニーアの鬱々とした声にフラウが応えて精神を持たせている。……うん、次は絶対ニーアにしよう。

 

 兎に角、最初はリーシャと踊ることになった。俺が不慣れなこともあったが、他を盗み見てなんとか合わせていく。リーシャも高いヒールで動くのにあまり慣れていないのか、なんだかんだ互いにややぎこちない踊りになってしまっていた。

 

「あっ」

「っとと」

 

 踊り慣れていないせいもあってか終盤リーシャが足を縺れさせてしまい、俺は足を止めて前のめりに倒れ込むリーシャを身体で受け止めることとなる。

 

「っ……!」

 

 顔を上げたリーシャを見下ろすとかなり近い位置に顔があった。そのせいか湯気が出そうなほど赤くなっていた。

 苦笑しつつ、曲が終わったので誰かに割って入られない内に声をかける。

 

「大丈夫か? 足挫いてないか?」

「……は、はい。大丈夫です」

 

 リーシャは顔を茹蛸みたいにしながら俺に手を引かれて歩いた。

 

「……あざとい」

「ああ、あれは半分わざとだな」

「やるではないか、リーシャ」

 

 多分素で足が縺れたのだろうが、戻ったリーシャは散々な言われようだった。

 皆の下に戻ると次は誰か、という話になるのだが俺の中でニーアに決定していたので彼女と踊ることにする。なんとか機嫌を取り持てたので良かった。それからフラウ、ナルメア、アネンサ、モニカ、アポロ、アリアと順に一人ずつ踊っていく。

 

 ふとドランクがどこにいるのかと思って視線を巡らせると、“蒼穹”の団員の一人であるフェリに声をかけていた。フェリが壁際に立っていたので気にかけたという感じのようだ。

 いつもの飄々とした調子でなにかを話しかけていて、結果としてフェリは意を決した様子でどこかへ歩いていき、それをドランクは手を振って見送っていた。

 

 その後赤のドレスで着飾ったスツルムが登場して、いつものように言い合いをしてドランクがスツルムを怒らせたかと思うと、ドランクからスツルムを踊りに誘っていた。スツルムは面食らった様子だったが少し頬を染めてそっぽを向きつつその手を取っていた。……クソッ。なんで会話内容が聞こえる位置にいないんだ。聞こえてたらきっと面白かっただろうに。

 

「レオナも踊ったらどうですか?」

「えっ? い、いいよ私は」

「深く考えず、ただ楽しめばいいんですよ」

 

 レオナは一歩引いて見ていたのだが、興味本位か踊ったアリアが勧めていた。それでも乗り気でない様子だ。別の人が声をかけてくることもなかったので、アリアの思惑に乗ってみることにする。

 

「私と踊ってくださいませんか?」

 

 気取った仕草でレオナに向けて手を差し出した。

 

「もう、それって狡くない?」

 

 レオナの呆れた声が聞こえてきて顔を上げ、小さく舌を出してお道化(どけ)てみる。少し間はあったが、俺の手を取ってくれた。

 

「言っておくけど、私あんまりこういうの得意じゃないよ?」

「さっきから踊りっ放しだから任せておけ」

「うん、じゃあリードしてもらっちゃおうかな」

 

 別に踊りたくないわけではなかったようだ。まぁそれならアリアが勧めるわけもないか。

 少なくとも、終始楽しそうだったので良しとしよう。

 

 レオナと踊り終えて、そろそろ時間が空くかと思ったのだが。……そういえば一人こういう時真っ先に声をかけてくるヤツがいたはずなのだが。まだ大人しくしている。今はルリアと談笑しているようだ。

 

「ダナン君、空いてるなら私と踊らない?」

 

 その時、ジータが声をかけてきた。

 

「いいけど、あんまり踊れないぞ?」

「大丈夫。無茶な動きにもダナン君ならついてこれるだろうし」

「無茶する気満々じゃねぇか」

 

 呆れたが、まぁ断る気もない。無茶な動きというのがどういうモノなのかも少し気になるし。

 

 と思っていたら、大分アクロバティックな踊りをやらされた。

 例えばジータの身体を横回転させながら投げて腰を抱くように受け止めるとか。なまじ動けるだけに大分激しい踊りだった。

 

 ……なぜか、その後【ダンサー】の『ジョブ』を取得したのだが。

 

 終わりにウインクされたので、おそらく俺に【ダンサー】を取得させるために誘ってくれたのだろう。自分がやりたいようにやったというのもあるだろうが。俺と同じことができるだろうグランは多くの団員達にひっきりなしに誘われていて空かなさそうだしな。

 

 それからは偶に踊りに誘われつつものんびりと談笑して過ごしていた。

 

 やがて終わりの一曲となるというアナウンスが入った時、俺は他のヤツが見ていないタイミングを見図られて外へと引っ張り出される。

 

 中の演奏が薄っすらと聴こえる外の庭園に俺を連れ出したのは、いつもは積極的なオーキスだった。

 

「普段なら真っ先に誘うかと思ってたんだが、それをしなかったのはこれが理由か?」

「……ん。パーティー会場で踊るのも、あり。でも本命は静かな外での、二人きりの時間」

 

 オーキスはそう言うとすっと手を差し出してくる。

 

「……私と踊って、ダナン」

 

 月明かりに映し出されたオーキスが俺を誘っていた。

 

「ああ、もちろんだ」

 

 迷わずその手を取って身体を引き寄せる。

 微かに聞こえる会場からの演奏に合わせて、二人だけの舞踏会を催すことになった。

 

 やがて曲が終わり、舞踏パーティーも幕を閉じる。

 

「……ダナン」

「ん?」

 

 終わって互いの身体が近い距離のままオーキスが声をかけてきた。

 

「……ちょっとしゃがんで」

「ああ」

 

 なんだろうと思いながらオーキスと目線が合うくらいにまで膝を曲げると、途端に顔が近づいてきて唇に唇が触れた。

 しばらくそうしていて、やがてオーキスの方から離れていく。

 

「……別に不意打ちにする必要ないんじゃないか?」

「……不意打ちの方が、効果ある」

「そういうもんか」

「……ん。そういうモノ」

 

 言い合って、そろそろ会場に戻るかと思い顔をそちらへ向けると見慣れた顔がたくさんあった。……まぁ、そりゃバレるよな。

 

「じゃあ、戻るか」

「……ん」

 

 苦笑して歩き出すと、オーキスがあからさまに腕を絡ませてきた。見せつけるかのようなこの行動、普段のオーキスだ。

 

「そういや、一つ思ったんだが」

「……なに?」

「これって、結局なんのパーティーだったんだ?」

「…………さぁ?」




※ナンダク一周年記念パーティーです。

あと本当はこの日までにダナンの絵を描きたかったのですが、流石に間に合いませんでしたね。皆さんもやりたいと思ったことがあったらそれが長くかかることほど早めに始めるといいですよ、今日も遅れましたし。

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