ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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EX:竜攘虎搏

 ロウファがランファとダナンを引き連れてザハ市へと向かっている最中。

 

 エリクが死に、主だった将軍が首都に召還されたこのタイミングで消極的になったユラントスク軍に対して、エルデニは攻勢に出ていた。

 更に舞い込んでくるロウファがクーデターを起こしたという情報。これを好機と見て攻め入っていた。

 

 ただ専守防衛に努めるユラントスク軍を押し切るだけの余力はエルデニにもなく、徐々にザハ市へと近づいていたがそれでも鬼の居ぬ間にザハ市奪還とはなっていない。

 

 ――その最中、ヴィータリーの指示によって動いていたユラントスク別動隊の様子である。

 

 別動隊は二つあり、ヴィータリーから自爆の魔術を施したエルデニ兵士を二名預かっているのが一部隊。もう片方は大きく迂回してエルデニ国王レオニスを暗殺できないか試す部隊。どちらもエルデニにとっては反撃の機会を断つ厄介な部隊である。

 

 しかしアルタイルはそのどちらも、ある程度予測を立てていた。

 

 先の戦いで前線にレオニスがいることはユラントスクもわかっただろう。故にレオニスを殺してエルデニの心にトドメを刺す動きも警戒していた。

 だからこそ、少数ではあるがエルデニ軍も部隊を巡回させていたのだ。役割は戦闘ではなく、見つけたら退いて基地で待機している軍に報告すること。具体的な警戒を持つことでも大きく変わるのだ。

 

 ともあれ、両軍の部隊の遭遇はおそらく必然だったのだろう。

 

「くっ! こんなところでエルデニ軍に見つかるとは……!」

 

 ばったり遭遇したレオニス王暗殺部隊は、エルデニの部隊を警戒して臨戦態勢に入る。エルデニ側も同様だ。部隊の人数はほぼ同じ。となれば各々の力量と作戦が物を言う。

 

「「かか――ッ!!?」」

 

 「れ」と続けようとしたところで、両部隊は雄叫びを聞いた。雄々しく勇ましい雄叫びだ。しかし聞き覚えがない。両国の主な将軍の存在は頭に入っている。つまり第三者による介入の可能性が高い。となれば、どちらかの援軍かもしれない。そう考えた両部隊は、第三者を警戒して動きを止めた。

 

「ぬおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 雄叫びを上げて突っ込んでくるのは、ドラフの男。ただユラントスク最強のロウファよりも小さいだろうか。しかし両足、なによりも左腕を覆う大きな籠手が目を引いた。その風貌を彼らは知っていた。

 

「“戦車(チャリオッツ)”だと!?」

 

 ユラントスクの隊長が驚愕の声を上げ、エルデニの隊長は“戦車”ことガイゼンボーガがどちらの味方でもないことを察した。噂に聞けば、かつてとある国で戦っていた彼は、今やどこからともなく現れて敵味方関係なく薙ぎ払うという行動を繰り返しているという。

 位置関係の問題でガイゼンボーガが突っ込んだのはユラントスクの方だった。激突と同時に左腕で殴られた兵士が高々と舞い上がり、勢いと装備の重さによって地面に落下した時にごしゃりと潰れた音が聞こえてくる。噂に違わぬ怪力と突進力。ユラントスクで言えばロウファを思わせる力である。

 

「て、撤退! 撤退だ!!」

 

 それを見て完全に敵わないと考えたエルデニは即座に撤退していく。逆にユラントスクは、眼前まで迫ってきた男と戦わなければならない事態となる。

 

「迎え撃て――ッ!!」

 

 間合いに入られた状態では逃げることもままならない。圧倒的な力を見せつけた“戦車”を相手にすることを決意した、が。

 

「ぬぅんっ!!」

 

 突き出した剣が刺さることすら歯牙にも止めず突進しては薙ぎ払っていく。

 

「くくっ……! やはり痛み(これ)がなくてはな……ッ!!」

 

 傷を負いながらも笑うその姿は、“戦車”というより狂人のそれである。怯え、一人ずつ蹂躙されていくことしかできなかったユラントスクの部隊は、あえなく全滅した。

 

「……つまらぬ戦場だ」

 

 エルデニの部隊が去った方を見やって呟く。果敢に挑む者もなく及び腰で戦う兵士相手では、一時の高揚しか得られない。

 

「吾輩の求める戦場ではないか……」

 

 期待外れだ、と言いたげな物言いでガイゼンボーガは踵を返す。戦場はまだまだこの広い空に存在している。……とはいえ戦場はお前の欲を満たす場所じゃねぇよ、と冷静にツッコむ者はいないのだった。

 

 ――場所は変わって。

 

 もう一方のユラントスク別動隊も、運悪くと言うべきかエルデニの部隊と遭遇していた。

 

「こちらには人質がいる。投稿しろ」

 

 もう一方とは違って、圧倒的にユラントスクが優勢だった。ヴィータリーから預かった自爆人間がいたからだ。術が発動していない間なら、拷問で心を病んだ者とそう区別がつかない。明らかに正常ではない様子だったが、その兵士が術を仕込まれているのかどうかは判別がつかず、ユラントスクが人質だと言い切ってしまえばそれを信じるしかなかった。

 ユラントスクは非人道的策も容赦なく使うが、エルデニはそうではない。そうではないが故に人質を取られたまま戦う、反抗するという選択肢が取れなかった。

 

 このまま大人しく投稿するしかないのか!? とエルデニの隊長が頭を悩ませていると、どこからか軽快な足音が聞こえてくる。

 

「ここがユラントスクとエルデニが戦争している真っ只中か。戦場に来ればアルモニーが聴き放題、とはよく言ったモノだ」

 

 楽しげに笑うのは茶髪の青年だ。紺のローブに赤いケープを合わせた恰好をしている。明らかな第三者の登場に、両軍共に困惑を隠せなかった。

 

「んん? なぁ、彼は()()()()? 人の形をしているが、どうやらなにか魔術が仕込まれている……ふむ、興味深い」

 

 青年は困惑する中でもユラントスク兵に刃を突きつけられているエルデニ兵へと近づいていく。緊迫した状況にも関わらず自分のことしか考えていないかのように、人質に顔を近づけて観察していた。

 

 彼の言葉にユラントスク兵は焦りを覚え、エルデニは兵は確信を得た。人質を取り返したとしても、あるいは取り返させて諸共始末する気だったのだと。

 

「クソッ! バラしやがって!!」

 

 人質を取っていた隊長は毒づいてエルデニ兵を青年へと押しつけ部隊を下がらせる。青年はエルデニ兵を受け止めて興味深そうに魔術を眺めるだけだ。

 

「お、おい! あんた死ぬぞ!!」

「もう遅い!!」

 

 エルデニ兵も後退しながら忠告するが、人質だった兵士は青年の腕の中で光を放ち始める。

 

「……なるほど。人体を爆発させる魔術、か。面白い発想だ。くくっ、どんなアルモニーが聴けるのかな?」

 

 だが青年は退く気配がない。それどころか笑みを浮かべてしっかりと兵士を抱えた。

 

 直後、光と共に兵士が爆発、青年ごと爆風の中に消える。

 

「クソッ! ユラントスクめっ! おそらくもう一人ももう手遅れだ! ここは一旦退くぞ!!」

 

 爆風と飛び散る血肉に顔を顰めながら、分が悪いと判断して即座に撤退する。

 

「妙なヤツだったが、兎に角エルデニを追うぞ!」

 

 死んでしまった第三者は捨て置き、エルデニ兵を追い詰めるため追撃を仕かけようとしたその時だ。

 

「あ、そんな……嘘だ……っ」

「? なにをそんなに怯えて……!!?」

 

 一人の兵士が怯えて一点を見つめていた。それに気づいて視線を追い、驚愕の光景を目にすることとなる。

 

「くはっ、くははははっ!!」

 

 先程爆発に巻き込まれた青年が、生き返り高揚したように笑っていたのだ。あの距離で死なないはずがない。そう言い聞かせても目の前の光景を否定することなどできなかった。

 

「人体を破裂させるなら兎も角、人体を爆発させる魔術なんてどうかと思ってたけど、なかなかいいアルモニーを奏でるじゃないか!!」

「き、貴様! 何者だ!? なぜ死んでいない!!?」

「細かいことは気にするなよ。それよりもう一人は……そこのキミかな?」

 

 青年は隊長の追及にも動じず、自我のない残る一人のエルデニ兵士を指差す。部外者だろうと考えてはいるが、見事言い当てられたことに少なからず動揺があった。

 

「人を爆弾に見立てるというのは実にいい考えだ。けどどうせ爆弾にするなら――もっとたくさんあった方が派手でいいと思わないかい?」

「な、なにを言って……!」

 

 戸惑う兵士達の前で、青年はぱちんと指を鳴らす。軽快な音が耳に届き、直後兵士達の身体から光が放たれる。

 

「な、なんだと!? これはまさか、ヴィータリー様の魔術!? なぜ貴様が使える!!」

「オレは魔術の天才だ。まぁ、完全再現とまではいかないが、オリジナルで創るぐらいは造作もない」

 

 青年は得意気に言って、再度指を鳴らそうと手を掲げる。それが発動の合図だと直感した兵士が手を伸ばして制止しようとした。

 

「やめ――」

「残念、フィナールだ」

 

 ぱちん、と指の鳴る音が響く。直後エルデニ兵士を含めた全員が爆発する。

 

 青年――ロベリアは当然ながら間近で爆発を受けたため掲げていた右腕が千切れ飛び、爆風で肌を焼かれる。血肉や臓物が飛び交い辺りを真っ赤に染め上げるのにも構わない。

 

「くっは! くはははははっ!!! いいアルモニーだ! んんッ……!! トレッビアンッ!!!」

 

 恍惚として表情でそれらを受け、音を愉しみ、そして死亡する。だが死亡直後からタワーの契約者であるが故に生き返った。

 

「……ふぅ。なかなかにいいコンセルトだったよ。おかげでオレのコレクションがまた一つ増えた」

 

 ロベリアはどこからともなく巻貝を取り出し、弄ぶ。この巻貝には先程の一部始終が録音されていた。ロベリアは人の壊れる音などを録音した巻貝を収集しているのだ。

 

「さて、そろそろ帰ろうか。あまりやんちゃすると、団長に怒られてしまうからね……くははっ」

 

 愉快そうに笑い、ロベリアは戦場を後にする。

 

 ――ガイゼンボーガとロベリア。両名がこの場に来たのは全くの偶然である。利害が一致しているので助力を請えば意気揚々と来て戦争をぶち壊して満足そうに去っていっただろうが。

 

 正直、国同士の戦争程度であれば、ダナンは一人で終結させられるだけの力を持ってしまっている。今回誰も連れてきていないことがその証左でもあった。

 

 ただ、基本金さえ稼いでいれば自由にしていいと言ってある手前、戦場を求めるガイゼンボーガと“音”を収集するロベリアが好き勝手(多少は自重)すれば、戦場というのは都合のいい場所なのだ。

 

 図らずもエルデニの手助けをした二名が離れてくれて、“世界”を手にした故に知覚範囲の広い誰かさんが胸を撫で下ろしていたとかいないとか。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 時は変わって。

 

 ロウファ達がザハ市のユラントスク本陣に辿り着いた頃には、エルデニがかなり押していた。

 

 軍師のいなくなったユラントスク軍を、“銀の軍師”アルタイルが翻弄しているからである。

 

 ザハ市を囲うように広がったヌフ平原は、自然の亀裂が無数に備わっている。地の利があるエルデニはその亀裂を活かしてユラントスク軍を落下させ、順調に数を減らしていた。

 

 本陣に到着したロウファだが、このまま本陣まで来させて迎え撃った方が早いと判断。戦闘の邪魔になることを考えて本陣を離れるように指示していく。

 ランファは別部隊を指揮してシュラの部隊と交戦していた。その中で一騎打ちをした姉妹は、互いの想いをぶつけ合う。しかし私情を切り捨てた軍人として戦っていたシュラが上回り、ランファを下す。

 

 ユラントスク軍には「本陣にエルデニ軍を進ませろ。そして本陣に敵が辿り着く前に距離を置け」と指示を出していたので、エルデニの複数部隊に分かれての攻撃に対処できず、できたとしてもせず、多少数を減らすだけに留めていた。

 当然ロウファがクーデターを起こしたという話は聞き及んでいたが、それでも敗北して死するよりはマシだとわかっているのだ。加えて、これまで勝利を運んできたのは軍師ヴィータリーと将軍ロウファである。

 これまでもそうだったように、ロウファが負けることなど微塵も考えていなかった。

 

 そうしてアルタイルが指揮する部隊はロウファとダナンの待つユラントスク軍本陣へと到達する。

 

 本陣とは言うが、周囲には人気がない。伏兵でもなく、ただ自分達がまとめて倒せばいいと考えているのがアルタイルにはわかった。

 

 佇むロウファの横に、紺色のローブに赤いケープという恰好の少年もいた。シュラ達が言っていたように、不自然に顔だけが認識できないようになっているが。

 

「うん、間違いない。ダナンだよ、あれは」

 

 一目見た瞬間に直感した。間違いなく、自分達が生涯のライバルとして意識している彼だ。

 

「……うん。じゃあグラン、予定通りに」

「わかった。ホントにいいの?」

「うん。もう、覚悟は決めてるから」

 

 二人は言い合って、表情を引き締める。

 

「来たか、エルデニ軍。先の子供に、エルデニ最強の将軍ザウラまでいるとなると、流石に我だけでは厳しいかもしれんな」

 

 ロウファの正直な感想に、なにか策があるのだと勘繰り緊張が走る。

 

「聡いお前達のことだ。既に我が業については知っているな」

 

 質問に、アルタイルとグラン、ジータが代表して頷く。

 

「ならばこれ以上は語るまい。この戦場にて戯れるのも、これが最後だ。我はこの戦いに勝利し、真の自由を得る」

 

 ロウファは静かに、しかし確固たる決意でエルデニの前に立ちはだかる。

 

「冥土の土産だ。このロウファの正真正銘の全力を受け、空の底へと散るがいい。……今こそ来たれ! 千里を駆けし真紅の麒麟よ!! 顕現せよ、星晶獣セキトバ……!!!」

 

 唱えたロウファの周囲から力が巻き起こるのを感じ取り、警戒を強めた。そして、紅の体躯を持つ馬が顕現する。顕現しているだけで火の粉を散らし、見ている者に畏怖を与える威容の姿――星晶獣である。

 

 星晶獣の顕現を、基地で待機していたルリアが感知しレオニス王の馬に同乗して前線を向かい始める。

 

「ど、どーいうことだよ! なんだよ、星晶獣セキトバって!」

「スイを占領した際の戦利品だ。強者にしか首を垂れぬ気位の高い獣でな。主なくスイに祀られていたのを我が己の力を以って召し抱えたのだ。しかし、この程度で驚いてもらっては困るな」

 

 説明しつつ、セキトバが焔と化してロウファの身体を包み込む。

 

「貴様らが相対するのはこのセキトバでも、このロウファでもない」

 

 炎の渦の中からロウファが告げ、中の人影が変化していく。変化を完了して焔を裂き現れたのは、セキトバの首があったところにロウファの上半身が生えた姿の、異形の将軍だった。

 

「人馬一体……“飛将軍”こそ、貴様らを葬る者の名だ!」

 

 炎を散らし、人を割るのに充分すぎる巨大な戦斧を構えた姿と化している。ロウファが基となった上半身も、セキトバに合わせて大きくなっていた。

 

「だが些か数が多いな……減らせ」

 

 エルデニ軍を見下ろした飛将軍は、未だ洗脳状態にあるダナンへと命令する。

 

 ダナンは右手を振り被り、そこへ青白いエネルギーを凝縮させていく。それを向けられた兵士達の全身をぞわり、と悪寒が襲った。あれを食らったら全軍丸ごと消し飛ぶ……生物としての直感がそう告げている。

 彼が右手を振るったのとほぼ同時。

 

「「【十天を統べし者】!!!」」

 

 双子が同時に現時点最強の『ジョブ』を発動して前に出た。青白いエネルギー波がエルデニ全軍を消し飛ばす直前で、無駄だとわかっていても腕で防御姿勢を取る兵士達が多い中。二人は固有の武器を一点に向けて振るい、両断した。

 

 エネルギー波が収まった頃に顔を上げた兵士達が見たモノは、自分達がいた範囲以外が大きく抉れた地面だった。

 

 その様子を大人しく見ていた飛将軍は、やはりあの時点では手加減されていたかと納得する。

 

 エルデニ軍としては、ロウファの足止めができるほどの脅威が一つ増えた状態である。

 

「ほう、あの一撃を受けるか。だが、我らに勝てるか?」

 

 ClassⅣでは敵わないロウファが更に強化され、【十天を統べし者】と同じ領域まで達しているダナンが相手。

 

 双子の旅史上、最大とも言える戦いが繰り広げられようとしていた――。




いよいよ次回が決戦。エンディングまで向かいます。
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