ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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予告通り、ダナン視点ダイジェストです。
一応全部回収してあったはず。


EX:一方ダナンは

 俺がその依頼を受けたのは、全くの偶然だった。

 

 今後空域を渡ってアウライ・グランデ大空域に乗り込むことを考慮し、俺達“黒闇”の騎空団としても資金集めなどは課題の一つであった。

 そのため今は各々好きに過ごしながらも、依頼などを受けて資金を集めている最中である。

 

 俺が一人でのんびり街を周り依頼を探していると、急遽戦争を行っている国に物資を運び込むため護衛が欲しいとの依頼が舞い込んできた。

 

 まぁ、誰もいない。俺やあいつらなら気にしないが、一般の騎空士なら戦争中の国へ物資を届けるという戦争相手に襲撃されそうな依頼を受ける者などそうはいないのだ。

 しかも戦況を調べてみれば、負けそうな国の物資補給らしい。援助を行えば勝った方の国が仕かけてくる可能性もなくはない。となると難しい問題なのだろう。

 

 ただそういう問題は俺にとって問題ではない。

 

「俺が受けてもいいか?」

 

 それなりに金額が良ければなんだって良かったのだ。流石に異常なまでに高い金額を提示されれば怪しむが、危険な分金額が高いと考えれば相場より少し低めぐらいか。相場より高ければもう少し人が集まったのかもしれないが。

 

 しかも緊急の依頼だ。俺が来た時点で誰もおらず、また名乗りを上げる者もいなかったので結局護衛が俺一人。余程余裕のない国のようだ。

 俺が依頼を受けて他にいないと見るや、早速出立した。その間暇だったので、その負けそうな国――エルデニという小国と大国ユラントスクとの戦争内容について尋ねていた。

 

 どうやらユラントスク側にとんでもなく強い将がいるらしく、そいつが打ち破れないのだとか。

 

 この時に俺は、どうせならそいつうちの騎空団に引き抜けねぇかなと思ったものだ。人数不足とまでは言わないが、“蒼穹”に比べれば少ない。もう少し戦力を集めてもいいとは思っている。まぁ人数が増えすぎても今でさえ手に余るところはあるので、多少融通の効く相手だといいなという感じ。

 襲撃してくる魔物を撃退する傍ら、にそう考えてどうせなら炊き出しぐらい作ってやるかと思い立ったのが本当の始まりだった。

 

 一応顔がわからないようにフードを被り、その上で顔が認識できないようにしておく。団員は欲しいが極端に有名にはなりたくない。自分でも面倒だとは思うが、“蒼穹”のように大々的に世界へ名が広まるようなことにはなって欲しくないのだ。

 

 顔の知れない怪しい騎空士に料理を作らせるのは良くないのでは? という意見も挙がっていたのだが。そこはいつもの通り実力で捩じ伏せてやった。俺が敵国のスパイではという懸念もあっただろうが、そこはごり押した形になる。問答無用で食べたくなるほど美味しそうな匂いをさせればイチコロなのである。本当に敵の回し者だったら終わってたなとは思ったが。

 俺は料理には嘘を吐かない主義だ。

 

 港で真っ先に俺の料理を口にしてくれたのが、ポラリスというエルデニの将だった。ハーヴィンの女性で余所者の俺に対しても気さくに接してきた。自らが積極的に接することでエルデニ民の警戒を解かせ、また監視しているぞと思わせることができる。……というのは俺の穿った関係なのでそこまで考えていたかどうかまでは知らないが。

 なにせ補給船を護衛してきたというだけで直々に美味しい果実の菓子をくれたので、いい人ではあるようだ。

 

 そんな中、俺は物資を削減しながら満足いく料理を振る舞ったことで国王から追加の報酬が貰えると聞き、王の待つ首都へ招かれた。

 

 そこで国王レオニスから褒美の言葉を貰っていると、

 

「やはり外部の者に軍師を任せるのは良くありませんでしたな」

「おかげで戦は負け続き、どう責任を取るのやら」

 

 一部でそんなヒソヒソ声が聞こえてきた。客人の前でそれを言うかと思うモノだが、どうやらエルデニの貴族達は身分差別、余所者嫌いが大半らしい。とはいえ国王はそうではないらしく、黙らせる意味を込めて強く咳払いしていたが。

 その批難を受けている軍師とやらは、多分整列している中にいた女性だろう。黒い長髪を真っ直ぐに伸ばした長身の女性だ。顔が俯き気味で悔しさを滲ませていたのですぐにわかった。

 

 しかし、俺は文官共が言っていたのとは違う印象を抱いていた。確かに戦況は悪く攻め入られるばかりで反攻できていない。だがロウファとかいう途轍もなく強いヤツが率いているユラントスク軍を相手に数年戦争を続けていられるというのは充分に凄いことなのではないかと思ったのだ。

 エルデニで唯一対抗できそうなのは、エルデニの英雄とも呼ばれているドラフのザウラだと言う。だがザウラは王の側近、軽々しく前線に出すわけにはいかない。その状況で、勝てないとわかっているヤツを相手にどうすれば長期間耐えられるのか、俺にはわからなかった。

 

「……すまない、見苦しいところを見せてしまったな」

 

 レオニスは嘆息した後聞こえていたであろう俺に謝ってきた。

 

「いえ、お気になさらず。それよりも……貴国の軍師は随分と優秀な方のようですね」

 

 だが俺は正直な印象を口にすることにする。俺の言葉は先程の声とは真逆の意味を持つため、この場にいた全員が驚いて俺を注視することになった。

 

「だってそうでしょう? 敵将のロウファなる人物は相当に強く、エルデニ国内ではザウラ様しか対抗できないほどと目されているとか。しかしザウラ様は陛下の側近であり、軽々に前線へ出ることはない。となれば絶対に強さで勝てない敵を相手に未だ敗北していないのですから。少なくとも私にはどうやればいいのか見当もつきません。その方の優秀さがわからないのであればきっと……より良い案をお持ちな方か、戦知識のない愚者でしょう」

 

 だから俺ははっきりと言ってやった。これで例え国王が打ち首を命じたとしても、俺にはそれを御する力がある。ただ国王は俺の発言を咎めたとしても否定することはない。でなければ今の軍師と任命することはないからだ。軍師が無能であるという風になってしまえば、それは軍師を務めるように命じた国王の責任でもある。なにより無能だから他の軍師を、と代えられるならとっくに変えているだろう。

 

 俺が明らかに先程の文官達を愚者と定義していることがわかったのか、一部で色めき立つ気配があった。

 

「これは、出過ぎた発言をしましたね」

「……いや。先に不用意な発言をしたのはこちらだ」

 

 恭しく頭を下げると、レオニスは咎めることもなく不問としてくれた。この王様も王様で色々と国内の対応について思うところがあるのだろうか。

 

「国王陛下。一つお願いがあるのですが……」

「なんだ?」

「この戦争、私にも助力させていただけませんか?」

「……? なぜ急にそのような申し出をした?」

「簡単です。貴国の軍師に興味が湧きましたので。少なくとも騎空艇を一人で護衛するくらいは強いのですが、素性も知れない私をどう使うか気になったのですよ」

 

 それに、うだうだ悩んでいそうなヤツを放置するのなんとなく気持ちが悪い。

 

「……力を貸してくれると言うなら有り難く貸してもらおう。ただし最終的な判断はシュラ、お前に任せる」

 

 レオニスは軍師に顔を向けて告げた。これで俺は、参戦させるもさせないも自由な身となる。

 

「……はっ」

 

 シュラと呼ばれた軍師、俺が予想を立てていた女性が恭しく応えその場はお開きとなった。助力する分報酬を上乗せしてくれるとも言ってくれたので金銭面ではかなり捗った。

 

「改めまして、このエルデニで僭越ながら軍師を務めさせていただいております、シュラと申します」

「無名のしがない騎空士だ。誇って名乗るほどの名はない」

「では、騎空士様。この度はご助力いただきありがとうございます。振る舞っていただいた料理には兵達も大変喜んでおりました」

 

 シュラは年下であろう俺にも敬語を使ってきた。特に人に聞かれているわけでもないだろうに、生真面目なことだ。ただ俺にはなにも言ってこないので、自分に厳しいのかもしれない。

 

「いや、人手も足りなさそうだったから手伝っただけだ。それで、あんたは俺をどう使う?」

 

 改まった謝意を受け取り、本題へ流す。

 

「……それなのですが、貴方がどれほどの実力をお持ちか私にはわかりません」

「そうだな」

「ですので、基本作戦に加わっていだたくことはありません」

「そうか」

「貴方にやっていただきたいのは、敵特記戦力の足止めです。……敵軍のロウファという将のお話は既に耳に入っていると思いますが、彼が出てきた時は率先して足止めを行なって欲しいのです」

「ユラントスクで一番強い将、だったか」

「はい。ザウラ様以外では太刀打ちできないロウファの相手をお願いする、というのは些か貴方自身の危険が大きいのですが……」

「なるほど。しかし随分と大胆な策だな。実力も知らない俺を相手の一番強いヤツにぶつけるなんて。……まぁそれもそうか。急遽連携なんてできるはずもなし、かと言って素性が知れないから作戦の要になるような部隊には放り込めない。ならもし前線に出てこられたら敗北必至の相手を足止めさせてみる、と。それなら元々部隊壊滅するかもしれないところを、もしかしたら多少マシにできるかもしれない。俺が動かなかったとしても被害は想定の範囲内になる」

「え、ええ……そうですね」

 

 シュラは少し驚いた様子で頷いた。もしかしたらそこまで細かくは考えず、最も影響のないところへ組み込んだのかもしれない。

 

「わかった。じゃあロウファの足止め、引き受けるとしようか」

「ありがとうございます。ロウファ進軍の情報が入り次第貴方へ伝達するようにいたしますので」

「いや、ある程度の範囲なら知覚できるから問題ない。あんたはあんたの役目に集中していればいいさ」

「は、はあ」

 

 納得はいかなかったようだが、人員を極力割かないで済むというのであれば断る理由もないだろう。

 

「それでは次のユラントスクの進軍が始まる前に、前線へ向かいましょうか」

「そうだな。……というか、軍師のあんたがここにいて大丈夫なのか?」

「はい。ある程度、想定できるユラントスクの攻めに対抗できるよう指示は出しておりますので。……尤も、ロウファが本格的に攻めてきた場合は除きます」

「それでも極力ロウファが出てこれないような状況にさせる工夫はしてあるんだろ?」

「はい。ですが、それもどれほど効果を持つかわかりません」

「多分大丈夫だろ。そんなに不安なら早めに出立した方がいいだろうけどな」

「そうですね」

 

 物資を前線に補給する――のはエルデニ軍の役目だった。俺は港まで護衛し、そこで多少料理を振る舞っただけ。まだ前線の様子は知らないのだ。ただ知覚範囲を広げてみても前線方面での慌ただしい動きはなさそうだ。ちゃんと策は機能している。事実として負けているのだから無能呼ばわりも仕方ない部分はあると思う。ただこのシュラという軍師は優秀だ。飛び抜けて優秀などこぞの本の虫ほどではないが、優秀な方ではあるらしい。でなければエルデニはとっくに負けているだろう。

 

 こうして、俺はシュラが連れてきていた部隊の中に混じって前線であるザハ市へ向かった。

 

 前線の雰囲気はより酷い、と断言していいほどだ。暗く沈鬱で敗色濃厚の雰囲気が丸出しである。

 素性の知れない俺をある程度は警戒させないため、料理を作るために呼んだという形で美味い飯を食わせてやり、多少は改善しただろうか。そこまでしてやる義理はなかったが、暗い顔で俺の飯を食うのは許さん。

 

 シュラが離れている間に前線崩壊、などという事態はなかったがシュラが想定していなかった事態がいくつか発生し現場指揮のみでなんとか凌いでいたらしいが被害はあったようだ。シュラは慌てて現状の確認を行い今後の方針を立てていく。

 

 それを人気のない離れた場所からワールドの能力によって知覚して聞いていた俺は、

 

「んー……優秀ではあるが、想定が甘いってところかな。知識と経験不足ってヤツかね」

『そうだろうな。非力な空の民が覇空戦争で生き延びたのは工夫によるところが大きいとの推論が出ている。そして工夫を凝らすために必要なのが、知識と経験だ』

 

 周りからは声が聞こえないように特殊な空間を設置している。だからこそワールドとも会話ができていた。

 

「覇空戦争ねぇ。星晶獣や星の民と争ったってんなら、随分と強いヤツがいたんだろうなと思ってたが。違うのか?」

『いや、中にはお前やあの双子のような……特異点とも呼べる存在がいた。だがほとんどは、平和になったために多少弱体化しているとはいえそう変わらん。練度の高い兵士程度の強さだったはずだ』

「へぇ? それで星の民とやり合ったのか。相当だな」

 

 覇空戦争時代の話なんて、早々聞けるモノではない。ワールドがあまり情報を開示してくれないのもあって珍しい機会だった。

 

『どうする? この戦争、勝たせるつもりか?』

「いいや。最初に言った通り俺はあのシュラの作戦に乗るだけだ。ロウファってヤツ、ちょっと知覚してみたがあれは凄いな。引き抜ければいいんだが」

『常人とは膂力が異なるようだ。だが改造を受けた形跡はない。ヒューマンにしては異常なほど強いな』

 

 ただ、引き抜きに関してはあまり期待していなかった。戦争真っ只中で素性も知らない男にほいほいついていくようなことはないだろう。勝敗が自分の肩にかかっていると自覚していれば尚更だ。

 

「ああ。足止めとなるとClassⅣは必須か。いい運動にはなりそうだ」

 

 その上を使ってもいい。全力で戦えば間違いなく勝てるだろうが、そこまで手助けをする気はなかった。俺個人、エルデニに肩入れする気はないからな。ただ優秀な人材は是非とも引き抜きたい。

 

 それからユラントスクの侵攻に向けて準備を進めながら、エルデニ側もポラリスが率いてきた援軍を加えての戦力となっていた。

 ユラントスクの侵攻が開始されると同時にシュラはエルデニの部隊を展開させ、迎撃作戦を始動する。

 

 俺の役目はあくまでロウファの足止めだ。ロウファに動きがない限り余計な手出しはしない。

 

 ということで、部隊が展開していない場所で待機していた。どこに現れても最悪近場まで転移すればいい。というか俺ならロウファの現在位置まで把握しているので、別段慌てる必要はなかった。

 

「……あー、これはダメだな」

『ああ。完全に裏をかかれたようだ』

 

 知覚範囲を広げて全体を見渡していた俺とワールドは、戦況の流れを見てエルデニの敗北だと悟る。

 

 ユラントスクが大きな部隊を率いて進軍してきたところへ、シュラ達の部隊が移動し始めたのだ。大軍を率いているユラントスクの将は、生意気クソ王子ことエリクだったか。王子を討ち取れればロウファが不可能と考えるとエルデニ側に多少傾きが戻るだろうと思うのも当然だ。

 ただどうやらそれこそが敵の思惑通りだったらしい。ロウファが単騎でザハ市防衛のために残っているエルデニ本陣へと迫っていた。……それなりに数がいるんだが、一人で攻め落とせるってか。

 

「さて、じゃあ足止め役の務めを果たすとするか」

 

 言って、俺は全速力でザハ市へと向かう。俺が到着した頃には、ロウファが本陣へと差し迫っていた。だがまだ手出しはされていない。その寸前ってところか。

 

「おおぉ……!!」

 

 知覚してはいたが視認してみると確かにヒューマンとは思えない肉体だ。ドラフほどもある背丈と筋力。黒い衣装で迫る様は正に暴力の化身。エルデニ兵も腰が引けている。これでは最早勝ち目などないだろう。

 

 だが、軍師殿に指示された以上俺が割って入らないわけにもいかない。

 

「【スパルタ】、ファランクス」

 

 襲いかかるロウファとエルデニ兵達の間に躍り出て、防御に特化した『ジョブ』を発動する。ロウファは驚いていたが関係なく戦斧を振るってきた。

 耐えられるだろうと思ってのことだったが、ファランクスで造った障壁はあっさり砕け散ってしまった。その余波が全身を襲い、内心で毒づく。

 

 ……マジかよ。一応日々鍛えてる中のClassⅣが通常の最上位だぞ? それに対抗できるレベルなのは一部の強者のみ。それこそ“蒼穹”で噂に聞くジーフフリートやガウェイン辺りぐらいなモノか。つまりその次元の強者。

 

「ほう? 我の一撃を受けて息があるとはな」

 

 ロウファは感心したように呟く。顔を上げて視線を合わせると身体の大きさがよくわかる。本当にドラフと相対しているような感覚に陥る。だが角はない。特徴は確かにヒューマンのそれだ。ワールドの能力で知覚していたから知っていたが実際に目で見るとやはり違うな。

 

「……そりゃこっちのセリフだ、全く。まさかあっさり超えられるなんてなぁ」

 

 言いながら、『ジョブ』を解いて恰好を戻す。

 

「それよりほら、さっさと撤退しとけ。ここにこいつが来たってことは、作戦失敗だ」

 

 その後及び腰なエルデニ軍を追い払うようにした。

 

「逃がすと思うか?」

「逃がすさ。俺の役目は、あんたの足止めなんでな」

 

 一歩踏み出したロウファにも退かない。ちゃんと態度で足止めすることを示さないとな。

 

「……い、いや俺達も――」

「やめとけ。俺も流石に、あんたらを庇いながらじゃ厳しいだろうしなぁ」

「……」

 

 数年もユラントスクと戦争していれば、ロウファの強さなんかは心の奥底に沁みついているだろう。俺が割って入ってから武器を構える素振りすらなかったのがいい証拠だ。

 

「さぁて、やるとするか――【十の願いに応えし者】」

 

 そして俺は、足止めに徹するため最強の『ジョブ』を解禁する。俺の放つ雰囲気が変わったのか、ロウファが明らかに警戒してきた。

 

「さぁ、かかってこいよ。ここから先には行かせないぜ?」

 

 全く、俺に似合わないセリフだが。ローブの裾をはためかせてロウファの前に立ちはだかってみる。

 

「おぉ……!」

 

 だが流石ユラントスク最強の将軍か。怯むことなく渾身の一撃をかましてきた。

 

「甘ぇ」

 

 俺は一言告げて【スパルタ】のファランクスを三枚圧縮した障壁を挟み込む。今度は破壊されることなく弾くことができた。ロウファが目を見開いて驚いているのが見える。おそらく後ろでも同じような顔をした兵士達が並んでいることだろう。

 

「ほら、早く撤退しろよ。俺の役目はあくまで足止め、時間稼ぎだ」

 

 俺は言って肩越しにエルデニ軍を撤退させる。ロウファはその間も障壁に攻撃し続けており、三撃目で破砕した。だがその頃には撤退を開始してくれている。

 

「……逃がしたか。だが、我の役目はザハ市の制圧。貴様が残ることになんの意味がある?」

「少なくともあんたをここに留められる。そうすれば多少はマシになるだろうよ」

「だといいがな」

 

 ロウファは斧を構えて力を溜めていく。本格的な戦闘の開始だ。

 

 大地を蹴り上げて巨体が接近してくる。巨体に見合わず、とは思わないが相当な速さだ。全体的に膂力が高いのだろう。

 

「ふんッ!!」

「はあぁ!!」

 

 ロウファの振り下ろした一撃と、俺の拳が激突する。正確には、俺は拳の前に空気を圧縮しており直接は激突していない。だが圧縮した空気の塊に衝撃が見舞われたタイミングで、轟音を響かせるようにしている。流石に首都までは届かないが、その直前にあった山頂の砦までは届くだろう。当然、撤退中の軍にも届くはずだ。

 

 ロウファは強い。常人とは一線を画す力を持っている。それは事実だ。

 

 だが、【十の願いに応えし者】を使えば俺の方が強い。だから勝とうと思えば勝てる。ただ俺の役割はロウファの足止めであって打倒ではない。なので俺は足止めしかしない。ロウファがエルデニにとっての絶望なのであれば、ロウファさえ止めてしまえばエルデニにも反撃の機会が訪れるだろう、とは思うが。その辺りは軍師殿の腕の見せ所かね。

 

『酔狂なことだ。倒してしまえばいいモノを』

 

 ワールドが俺にしか聞こえない声で若干の呆れを露わにしてくる。

 

(いいんだよ、これで。俺はこいつに興味がある。だから多少は手助けしてやるんだ)

 

 それを汲み取って仲間になってくれればとは思うが、おまけ程度だ。とりあえず武力は高いが相手になる敵がいなかったのか、やや大雑把にも感じる。なのでその辺りから矯正してやるとしよう。

 あまり人に教える、なんてことをやってきてないから上手くいく保証はない。ただ俺がそうしたいから、そうするのだ。

 

 その後、俺とロウファは三日三晩休みなく戦い続けた。

 

 終わりを迎えたのは、どちらかが限界に達したからではない。

 

「ロウファ様ッ!! もうおやめください!!!」

 

 周囲の風景地形を変えるような激しい戦いの最中、一人の女性が飛び込んできたのだ。俺は当然気づいていたが、俺から手を止めるわけにもいかないので応戦するしかなかった。一応流れ弾(?)が当たらないようにだけはしていたが。

 

「ッ!!? ランファ!!!」

 

 攻撃に転じていたロウファが、なんとか身体を停止させて女性を傷つけないように振る舞い、敵との交戦中であることを考慮してか彼女を抱えて後退した。……三日間戦い続けて一切怯むこともなかったヤツが、女性が入ってきて退いた、か。これはアレだな。男女の仲というヤツだ。

 

「なぜここに来た!?」

「ご自身を省みてくださればわかります!!」

 

 責めるような口調のロウファに負けじと、ランファという女性も言い返す。怪訝に思って自分の巨躯を見下ろせば、かなりの傷を負っているのがわかったのだろう。はっとしていた。

 

「ロウファ様。ここは一度退きましょう。これ以上は……」

 

 荒れ果てたエルデニ本陣を見渡し、周囲を取り囲むように見守っていたユラントスク軍へ目を向ける。横槍が入らなかったのは、単に入れられなかったということに過ぎない。魔法や矢を放っても余波で消し飛んでしまうのだから当然か。常人が割って入ったとして、肉塊になる以外の選択肢はなかった。

 

「……」

 

 ロウファはおそらく初めて攻め切れなかったからか俺を睨むようにして顔を上げた。俺は退くなら戦う気はないということを示すために、ローブのポケットに両手を突っ込む。

 

「俺の役目はあくまであんたの足止めだけだ。退くっていうなら追撃はしない。ザハ市で待機してるさ」

「この状況であなたを逃がすとでも思っているのですか?」

 

 俺があえて口で告げると、割り込んでくる声があった。笑みを湛える胡散臭い青年だ。

 

「逆に聞くが、ロウファですら倒せてない俺を倒せるとでも?」

 

 俺はフード越しに視線を交わす。

 

「ええ。疲弊している今なら。……やりなさい」

 

 そいつが合図した直後、無数の矢が俺に向けて放たれた。

 

「――止まれ」

 

 だが、その程度で死ぬわけがない。俺に当たる寸前で停止させる。ユラントスク軍が驚く間もなく矢先を反対側に向けた。

 

「返すぜ」

 

 そして弓で放つよりも速く射手全員の心臓へと叩き返す。

 

「「「……」」」

「これでわかったか? 俺はこいつの足止めだけできればいいんだ。余計な手出しさえしなければ、無駄に兵を減らすことはねぇよ」

 

 唖然とする空気の中、平然と言い放つ。

 

「……ヴィータリー、やめておけ。我がいずれ打ち破る。徒らに兵を減らす必要はない」

「そのようですね。ここは大人しく通しましょう。……どうやらあなた以外の兵が進軍する分には手出ししないようですので。エルデニ追撃には充分でしょう」

 

 ヴィータリーと呼ばれた男は肩を竦めて言うと、ザハ市へ戻る道を塞いでいた兵士達を退去させる。俺は悠々と開いた道を通ってザハ市まで戻った。なぜザハ市内にしたかと言うと、既にユラントスクが制圧済みでユラントスクの民も滞在しているからだ。流石に味方のいるところなら俺に手出しする確率が減るかなといったところだ。ただ急に戦われても迷惑だろうし、目立つ広場で鎮座しておく。数日ぐらい寝ず食べずでも問題はないだろう。いざとなったら創ればいい。

 

 と思っていたのだが甘かったようだ。夜間、物陰から俺に弓矢で奇襲をかけてきた。あのヴィータリーとかいう野郎が指示したのだろう。もちろん一人残らず撃退してやった。

 俺が不思議な力で矢を返せるのなら、矢を放った直後に身を隠せばいい、という結論に至ったらしいが。俺は別に投げ返しているわけではないので、軌道変更、威力増減も自由自在。障害物を避け、貫き、弓を射たヤツの急所を貫いて始末する。

 

 夜間も監視は怠らないようで、ずっと見張られていた。睡眠若しくは食事を行おうとすると邪魔が入ったので、自軍のロウファを夜休ませつつ俺を休ませないという方針なのだろう。それならそれで構わない。付き合ってやることにしよう。

 

 日中はロウファ、夜間はヴィータリーの兵士。俺はザハ市の中央で日夜ユラントスクと戦い続けることになった。

 

 その途中、

 

『我が契約者よ。……来たぞ』

 

 ワールドに声をかけられた。ああ、わかってるよ。内心でそう返して笑う。

 

 知覚範囲に、グランとジータが来たのだ。しかもザウラと共にエルデニへ向かっている。おそらくエルデニの本命は同行しているアルタイルの方か?

 

『“銀の軍師”と呼ばれるあの男の助力を求めたようだな』

「ああ。加えてあの双子まで、となると俺の出番はそろそろ終わりだな」

 

 面倒だったので周囲と遮断して話す。

 

『ならば手を引くか?』

「いいや、とりあえずは続ける。一応顔はバレてないはずだし、アルタイルじゃなきゃ気づかないだろ」

『あのヒューマンなら気づくと?』

「ああ。多分な。まぁあの二人やルリア、ビィに言うかは兎も角としてな」

 

 アルタイルとは直接会ったことがない。頭がキレるヤツだという情報くらいだ。なんでも見透かしているような雰囲気すらあって空恐ろしい。だがいくつかヒントはある。おそらく話を聞いた段階である程度予想されてしまうだろう。

 

「とりあえずはこのままロウファの足止めに徹するか。エルデニがここまで盛り返すのが先か、ユラントスクが俺をなんとかするのが先か」

『倒される気があると?』

「負けはしねぇよ? ただ、状況によっては変わるなぁ」

 

 正直に言ってしまえば、俺は負けることがない。疲労困憊の空腹状態であってもロウファ程度の強さであれば勝てる。例え俺との戦いを通じてロウファが日々強くなっていっているとしても、だ。

 そこにあの双子や軍師サマまで加われば、確実にエルデニは勝利を収めることだろう。ユラントスクに勝ち目がないと断言してもいいくらいだ。

 

 ともあれ、あいつらが来たなら俺が無理にロウファの足止めをする必要もない。他所から向かおうとしても止めてきていたが。ただシュラからの指示はそれだけなので、それくらいはやっておきたいところだ。

 

「さぁて、どうなることやら」

 

 とりあえずは、双方の出方を窺うためにこれまで通りに振る舞っておくことを決めた。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 俺が普段通り、ロウファを待つためにザハ市中央の広場にある噴水の縁だった瓦礫に腰かけていると、ヴィータリーが兵士達を引き連れて俺の前に姿を現した。

 

「……なんの用だ? まさかその程度の人数で俺を足止めして、ロウファを行かせようってんじゃないだろうな?」

 

 兵士達は大人数だ。道を埋め尽くすほどの人数が用意されている。だが、雑兵程度が何人集まろうが同じことだ。それはもうヴィータリーもわかっているはず。つまり別の狙いがあるということだ。それに関わってくるのはおそらく、ユラントスク兵ではない者達――捕虜となったエルデニ兵だ。ただ俺がロウファのみの足止めに徹していることからも、エルデニに強い恩義があって行動しているわけではないということは察しているはず。となれば人質に取るという愚策はない。

 

(へぇ? 初めて見る魔術だな。どんな効果だ?)

 

 だから俺は、捕虜達の身体に刻まれた術に注目する。

 

『魔術が刻まれた者を、爆発させる効果のようだ。威力は人一人を簡単に消し飛ばせるほど。密集しているところで使えば数人は殺せるだろうな』

 

 俺の疑問に、ワールドが分析して答えてくれた。……なるほど。ってことは、ヴィータリーはエルデニの捕虜を返す名目で俺にそいつらを近づけさせて、一緒にドカン! が作戦ってところかね。

 

『お前に情で訴えかけるような作戦が通用すると思っているとはな』

 

 人じゃないお前にだけは言われたくないんだが。

 

「そうではありません。――ここで、あなたにはご退場願いたく」

 

 ヴィータリーはムカつくほど恭しく一礼してみせる。

 

「俺に勝てるとでも?」

「ええ。こちらの方々に、見覚えはありませんか?」

 

 ヴィータリーが合図すると、ユラントスクの兵士達がエルデニ軍の捕虜達を差し出してくる。……魔術を刻んだ実験の影響か、それともそれ以外が原因なのかはわからねぇが自意識ってモノがねぇな。廃人になってやがる。

 

「ねぇな。んで? そいつらと一緒に爆発して死ねってか? お断りだな」

「……っ。これはこれは、気づかれていたとは予想外です。ですが、やることは変わりません」

 

 ヴィータリーが指示するとユラントスク兵が捕虜の一人に押し出した。ある程度は自力で動けるのか、勢いに任せてこっちへ駆けてくる。

 

 そいつを掴んで引き止めた。一発、どんな威力か受けてみるか。

 

 掴んだ瞬間にヴィータリーから魔力が流れ込み、そいつの身体に幾何学模様が浮かび上がる。なるほど、遠隔からだとどうかは知らないが、近くにいれば手動でできるのか。掴んでいた右腕が肩口まで消し飛んでしまう。

 

「……いって」

「わかっていて片腕を失うとは意外でしたね。こちらとしては好都合――ッ!?」

 

 消し飛んだ腕を再生していると、ヴィータリーがぎょっとしていた。まぁ普通は再生するとは思わないよな。千切れてしまったローブも元に戻しておく。

 

「まぁ、そんなに威力は高くねぇな」

 

 爆風で肌が焼ける程度だった。抱き着かれでもしない限り死ぬことはないだろう。

 

「あくまで不意討ち用ってことか?」

「……これほどとは思いませんでしたよ。やはり――欲しい」

 

 尋ねたが答えは返ってこない。代わりにヴィータリーは嬉々として呟いた。……欲しい? 一応俺は表立って裏切る気はないんだが。

 

「どういう意味だ?」

「そのままの意味ですよ。あなたが障害となるならあなたをこちらに引き込んでしまえばいい……簡単な話でしょう?」

「ロウファみたいにか?」

「あなたはアレほど易くないでしょうから、交渉や説得という手段は使いませんよ」

 

 障害となる敵を引き込む。それは、ある種ロウファに当て嵌まることだった。エルデニで聞いていたが、ロウファは元々レオニスの義兄弟だったそうな。そこから前国王を殺しユラントスクについたと言うのだから、きっとそこにはユラントスクからの干渉があったんじゃないかと睨んでいたわけだ。ヴィータリーは肩を竦めて断言しなかったが、おそらく俺が鎌をかけたのが事実。随分と口が巧いようだ。

 

「ですので、あなたを瀕死に追い込んで捕らえることにしましょう。恐るべき再生力ですが、身体の中枢を欠損すれば時間がかかるでしょう?」

「さぁな。だが捕らえるだけで俺を御せると思ってるなら愚かもいいとこだな」

「ええ、それだけなら。私は軍師という地位をいただいている身ですので、それだけで終わるわけにはいきません。……あなたを、洗脳させていただきます」

「洗脳ねぇ」

 

 なるほど、考えたな。それなら俺の意思に関係なく駒として使えるってわけだ。正直こいつの手駒になるとか嫌だし上回られるとも思っていないが、丁度いいな。

 

(ワールド。洗脳をかけられたら、即時に分析して相手にわからないように弾いてくれ。かけられたフリをしたいから、誤魔化せるように効果を教えてくれよ)

『どういう理由か、聞こうか?』

(簡単だ。洗脳っていう免罪符片手に、グランかジータと全力で戦ってみようぜ)

『……』

(なんで呆れるんだよ。無言が返ってきても感情が読み取れてんぞ)

『いや、どういう経緯でその理由に至ったのか理解ができなかっただけだ』

(理由は簡潔だろ。あいつらが今どこまで強くなってるのか確かめるためだ。俺にとってもお前にとっても利益のある行為だろ?)

『確かに、あの二人は未知数だ。定期的にデータを収集するのは悪くない』

(だろ? 俺もお前を出した方が強いのはわかったんだが、あいつらがどこまで強くなってるかは正直見当もつかねぇ。だから、放置だけはしたくねぇんだよな。【十天を統べし者】ってのがどれくらい強いのかも、実際に戦ったわけじゃねぇからわかんないしな)

『そうだな。ここはお前の提案に乗っておくか』

(ああ、頼んだ)

 

 ワールドとの話し合いに決着がつくまでにもヴィータリーがぺらぺらと喋っていたようだが、あまりよく聞いていなかった。まぁなんとかなるだろう。

 

「エルデニの民が人質に取られれば、流石のあなたでも大人しくしているしかないようですね」

 

 おっと。話を聞いていない間にザハ市民が人質に取られてしまっている。

 

「少しでも動けばこの方を殺します」

「動かなくても奪還はできるんだな、これが」

 

 ヴィータリーに意趣返しをするように言って、人質を俺の後ろへ転移させた。

 

「逃げていいぞ。大人しく家に帰っておけ」

「は、はいっ!」

 

 人質に取られていた男性を逃がすと、ユラントスク兵から弓を射かけられた。標的はもちろん男性の方だ。途中で不可視の壁を張って落としておく。

 

「おや、意外ですね。市民を守るとは」

「一応助っ人だからな」

「では仕方がありません。直接やるしかありませんね」

 

 ヴィータリーが合図をするとユラントスク軍が規則正しく動き始める。よく訓練された兵士達だ。

 

 四方から兵士達が剣を構えて突っ込んできた。後方では弓矢を構えている部隊もある。波状攻撃か。確かに一人相手に対抗するにはいい手だ。

 前衛が辿り着く前に矢が放たれる。放物線を描いて俺に降ってきた矢の雨を全て空間操作で受け止め、逆向きにする。その間に前衛が辿り着いて俺に攻撃を仕かけてきた。……普通にやれば勝てるし、ここはヴィータリーに弱点っぽく見せて負けるか。

 

 洗脳されてあいつらとやり合うなら、ここで負けておかないといけない。向こうも絶賛ロウファと戦っている最中だが、勝つだろう。

 

 俺は兵士達の攻撃を凌ぎながら、捕まえた矢を弓兵に返却した。これで矢は使用者以外へは返せない、不思議な力は一回ずつしか使えない。この二点を読み違える材料が出来たわけだ。後はこれを徹底しながら戦い続ければ、自然と俺の弱点を誤解してくれるというわけだ。もちろんこれまでのロウファとの戦いでこの条件に外れていないことが必須だが。それについてもロウファとの戦いでは拳の前に空気を圧縮していただけで、ほぼ肉弾戦だった。拳に付与した能力があったから他の能力を使えなかった、と誤解することのできる状況だ。

 

 さぁて、引っかかってくれるかな?

 

 期待して戦うこと数時間。確実に始末していっているはずだが、ユラントスク兵はまだ残っていた。……基本的には肉弾戦で倒していたとはいえ大人数を連れてきたもんだな。

 

「わかりましたよ、あなたの弱点が」

 

 ようやくか。待ちくたびれたぞ。そう口に出しそうになるのを堪えて怪訝な顔をしてみせる。

 

「あなたのその不可思議な能力ですが……同時に複数のことはできないようですね。加えて矢を放った時は必ず射かけた本人に返すしかない。違いますか?」

 

 上出来だ。そう思ってくれたのなら万々歳。さっさと勝ってくれ。

 

「ですので、矢を順に撃ちつつ捕虜で爆破することにしましょう」

「作戦を言っていいのか? 俺の弱点を読み違えていたらどうする?」

「弱点に関してあなたの弁を信じることはありません。それにあなたは回復できるから、と能力で受けられない攻撃は防御すらしないようです。それなら勝機はこちらにありますよ」

「へぇ?」

 

 確かに、その指摘は正しいな。一々大袈裟に避けるのも面倒だったから受けてたんだ。

 

「では作戦通りに!」

 

 既に伝達してあったのか、ヴィータリーの合図で一斉に動き出した。まず最初に、全方位から術の刻まれた捕虜が押し出されて迫ってくる。

 それからユラントスク兵が全方位満遍なく、五人ずつ矢を放ち続けてきた。矢に対処させつつ捕虜を使おうという魂胆のようだ。今挙げた弱点が本当に弱点なら厄介な状況だ。だが、まぁ想定の範囲内。流石の軍師サマも超常の現象については読み取れないらしい。若しくは、それがアルタイルとの差か。

 

 適当に先頭のヤツをぶん殴る。すると術が発動して肩口まで爆発に呑まれて消し飛んでしまった。

 

「あなた用に、爆発の条件を調整したんですよ」

 

 ヴィータリーの嫌味な笑みが癪に触る。だがもちろんわかっていてやったことだ。ワールドの分析能力を持ってすれば読み取れないわけがない。

 

 顔を顰めているところへ背後から別のヤツがしがみついてきた。引き剥がそうとしている間に別のヤツからも掴まれ、大ピンチになってしまう。

 

「では、これで終わりですね」

 

 ヴィータリーが術を発動させて俺を消し飛ばそうとしてくる。

 

 ……ふむ。正直このまま吹き飛んで瀕死になり、洗脳されたフリをするのがいいんだろうが。ヴィータリーが五体満足でいるのはムカつくなぁ。

 

 悪どい笑みを浮かべるユラントスクの軍師を睨みつける。適度に痛めつけておくか。終始思い通りにしてやった、と粋がられても面倒だし。

 

 俺はワールドが算出した、攻撃してから魔術が起動するまでの時間を考慮する。

 

 ……ああ、全力で蹴っ飛ばせば間に合うな。

 

 答えを出して一番左脚で蹴りやすい位置にいた捕虜を、全力で蹴飛ばした。

 

「えっ……?」

 

 そいつは銃弾よりも速く、爆発するまでの僅かな時間でヴィータリーの眼前へと到達する。突然の出来事に間の抜けた表情を晒すヴィータリーにほくそ笑みながら、俺は一緒に爆発された。

 

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 ヴィータリーの絶叫を聞きながら、俺の身体は八割ほど消し飛んでしまう。軍師の負傷に慌しい空気を感じつつ、身体と衣服を同時に再生しながら横たわっていた。残ったのが首から少し下だけなので、普通の人間なら死んでいる。というか半分死んだようなモノだった。ワールドがいるとはいえ、死亡するのは困る。ワールドが俺の記憶を弄ることがないと言い切れないからな。

 

「ヴィータリー様!?」

「肩を貸しなさい! 一刻も早く洗脳の魔術を使わなければ……!」

 

 見てみれば、右半身に火傷を負ったヴィータリーが焦って指示を出している。それもそうか。負傷したとはいえ折角訪れた好機だ。活かさない手はない。俺は今も少しゆっくりめに再生を続けている。完治すればまた戦えてしまうので、復帰する前に事を済ませる必要があった。

 

「……随分と、いい面になったモンだな?」

 

 俺は覗き込むようにしてきたヴィータリーへ負け惜しみのように告げる。

 

「ええ、お陰様で」

 

 彼は短く応えて早速術を行使した。ヴィータリーも負傷しているので、早く済ませて治療したいのだろう。不思議能力は再生にも使用しているため攻撃されない、とでも思っているのか余裕がないのか割りと不用心だ。本当なら近寄ってきたところで殺してやるんだが、今回は他に目的がある。

 

 こうして俺はヴィータリーに洗脳された――フリをすることになったのだった。

 

『まさかここまで上手くいくとはな』

(まぁ俺がロウファですら倒せない強い相手ってことはわかってたからな。もし俺が能力の制限とかないんだったらどうしようもないだろ? だから、あいつとしても強力だが制限のある能力、だと思いたい。思うしか道がなかったんだよ。なにせ、全力なら一瞬で全員始末できちまうしな)

 

 最初から加減していたのが功を奏した結果だ。もちろん最初から思い描いていたわけじゃない。偶々が重なった結果でもある。だがその偶々を活かせる状況が俺の思惑に傾いたというだけの話。

 

『それもまた運命か。この後はヤツの言う通りにエルデニの者を殺すのか?』

(それでもいいが、言うこと聞き続けるのも癪なんだよなぁ。同じ命令は一度しか聞かないとか、そういう制限を勝手に設けとくか。抵抗されて上手くいかなかったと思ってもらえばいい)

 

 どうせ自意識のない状態にする洗脳だ。質問には答えられないし、命令をどんな風に解釈するかは個人差があるだろう。

 

「さて、とりあえず一つ命令してみましょうか。――エルデニを滅ぼしなさい」

 

 おっと。初っ端から良くない命令が来てしまった。

 

『どうするつもりだ? 本当に滅ぼすのか?』

(いいや。こういう時こそ、解釈の差を使うんだよ)

 

 自我があると思われないように、命令には従っているがそういう意味じゃないと言いたくなるような解釈で実行すればいい。この場合だったら比較的簡単だ。

 

 俺はヴィータリーの前で左手を掲げ、そこに力を凝縮する。

 

(ワールド、全力全開だ。補助してくれ。エルデニの()()()()を破壊するだけの威力を込めるぞ)

『……なるほど、それは考えたな』

 

 俺が力を凝縮していくのに、ワールドの補助が加わる。正真正銘、今俺達ができる最大のエンド・オブ・ワールドの発動である。俺の左手を中心に空間が歪み、周囲のモノを引き寄せて消滅させていく。おかげでユラントスクの本陣に張っていたテントが引き寄せられてなくなった。

 

「ヴ、ヴィータリー様ッ!!」

「わかっています! 命令を中止なさい!!」

 

 近くにいた兵士が声を上げ、ヴィータリーが命令を追加する。……チッ、感づかれたか。仕方がないので大人しく中断して手を下す。

 

「な、なぜここであのような規模の攻撃を放とうとしたのでしょうか……」

「推測ではありますが、おそらくここがエルデニだからでしょう」

「? ……ッ!! な、なるほど! ここは今我々が制圧しているとはいえ元々エルデニの国土! つまり今の攻撃は――」

「ええ。おそらく、エルデニ全土を滅ぼす威力を持っているのでしょう。もちろん、それを実行するに限りなく近い威力の攻撃だとは思いますが」

 

 確かに、エルデニが小国とはいえ島を叩き割るほどの攻撃手段を持っている、と考えるよりそちらの方が現実的か。

 

「……恐ろしいモノですね。もしこの者が本気で我々に勝ちに来たらどうなっていたか」

「ええ。ですが、今は私の手の中にあります。実験を続けましょう」

 

 ということで、俺は自我のないフリをしながら矛盾のないように勝手にルールづけしてヴィータリーの実験に付き合っていた。

 

 ただ途中で俺がどれだけダメージを受けて再生できるのかの実験をさせられたのは面倒だった。身体の大半は消し飛ぶし、痛いのに顔を歪めることもできないし。

 殺す時は無様に死んでくれるようにしてやらないとな。

 

 それからエルデニの進軍があったが、ヴィータリーは俺を使わなかった。どうやら勝たなくていいらしい。動きを窺っていたら、ヴィータリーはユラントスク国王と結託してロウファを嵌めようとしているようだ。目的はランファを奪うこと。そのためにエリク王子を殺させるつもりのようだ。……仮にも自分の息子に対する行いじゃねぇな。

 どうやらユラントスクは内乱があった後らしく、王子が碌に動いていないらしい。その中でもエリクはバカで扱いやすく死んでも、と言うか死んだ方が利益になる立ち位置になると。いや、そう育てたのはあんたらだろ。やっぱ親なんて碌なモノじゃないな。

 

 エルデニは俺が来た段階で食糧不足が間近に迫っていた。故にユラントスク本陣へ進軍しなければならなかったのだろう。ザハ市は流通都市だと言っていたから、ザハ市が制圧されると物資の面で厳しくなるからの現状だ。

 

 それは優先的にザハ市を押さえたユラントスクにもわかっていた。だからこそどう足掻いてもここ数日の内に仕かけてくると予想を立てた。俺が護衛した物資で多少はマシになったのだろうが、それでも焼け石に水だったか。

 ともあれユラントスクにとっては読みやすい状況だったわけだ。アルタイルは頭のキレる軍師だが、食糧不足をなんとかする手立ては専門外だろう。知識量が多いので長い目を見ればできるかもしれないが。

 

 食糧のやり繰りにも限界はある。作る、補給する以外の選択肢はその場凌ぎでしかない。ワールドの創造能力があれば万事解決とはいえ、それこそ神の所業。星晶獣でなければ不可能だ。

 

 兎も角。エルデニは進軍を開始し、前線に送り込まれたエリクも戦っている。俺は扱いが慣れていないのとエリク死亡確率を上げるため留守番。折角腕を治してやったってのに。ロウファは首都に呼び戻されていたのと怪我を負ったのとで今回は前線に出ないようだ。

 

 エリクの生死が今後の動きを決める。俺は集中してエリクを知覚した。

 

 どうやら今はポラリスの部隊と戦っているようだ。エリクは知覚範囲の評判を聞いたところ、傍若無人にして強さに惹かれる性質。ユラントスク内上位ではロウファを買っている数少ない人物ではあるようだ。ただ他人を見下しモノのように扱う非道さを持っている。

 

 英才教育の賜物か多少はやるようだ。だが前線に出たのがこの間だそうで、実戦経験が少なすぎる。ポラリスが隙を突いて優位に立っていた。だがそこで味方を盾にしたりエルデニの捕虜を自爆させたりしてポラリスの隙を作り出している。……手段はともあれ、どんな手を使っても勝つという執念だけは立派だな。

 

 ポラリスが死にそうなタイミングで、俺は能力を行使した。

 

『手を出すのか?』

(ああ。ポラリスから貰った菓子は美味かった。なによりあそこであいつが率先して歓迎することで兵士達の警戒心を解こうとしてたしな。個人的な恩は返すさ)

 

 頭の中で言って、俺が再構築してやったエリクの腕の制御を乗っ取る。自由に動かなくなり、また改変すら自在。まぁ分析が終わった相手なら俺が再構築していなくても改変可能なんだが。洗脳されたことになっているので、全身に干渉するのはマズいだろう。俺の治癒は新たな腕を生やす能力だとでも思ってもらえればいい。ただし、人の皮を被った触手のな。

 

 ついでに触手を操って近くにいたユラントスク兵を殺していく。ポラリスなら気づいて攻勢に転じるだろう。と思っていたら早速気づいてエリクを仕留めていた。

 

 これで、エリクが死んだことによりヴィータリーはまんまとロウファを嵌めるだろう。あいつがどんな事情でユラントスクに尽くしているのか知らないが、大事にしていそうなランファを奪われると知ったら離反したくなるだろう。最悪ヴィータリーを殺害する可能性だってある。そこでヴィータリーは死んで洗脳解けたことだし俺の味方になれよ、ってのもアリかもだが。

 

 それだと当初の目的であるあいつらとの全力バトルってのができないしなぁ。謀反を起こすなら起こすで、洗脳状態のままにしとくか。

 

「ついてきなさい」

 

 そんなことを考えてぼーっと突っ立っていると、近づいてきたヴィータリーに命令された。ロウファを呼び戻すように伝令を行っていたようなので、俺をロウファへの抑止力にするつもりだろうか。だとしたら面倒だな。俺がいるからロウファは始末してしまえ、という結論に至らなければいいんだが。まぁ殺せと言われても互角の戦いしかしてないから、サボって接戦しながら攻撃の角度でヴィータリー仕留めれば問題ないだろう。

 

 ということで、俺は首都の国王の御座で待機していた。ヴィータリーの横で、しわがれた国王の声を聞き策士の予定通りに話が進んでいく。ロウファがエリクを殺させてしまった罰として、ランファを取り上げるというモノだ。

 ……ヴィータリーもそうだが、国王もロウファやランファをまるでモノみたいに認識してるのはなんなんだろうな。いや、俺も昔はそんな感じだったかもしれんが。それに違和感を覚えるってことは、俺も変わってきたってことかね。

 

「な、なんということを……! 自分がなにをしたのかわかっているのですか!?」

 

 考え事をしている内に佳境を迎えていた。ヴィータリーの策略を聞かされたロウファが逆上して国王の首を握り潰し殺したところだ。ヴィータリーもここまでやるとは思っていなかったようだ。やはり軍師としてはアルタイルの方が上手だな。あいつならきっと、ロウファとレオニスの因縁を聞いた時点で国王の忠臣にならないことは理解したはずだ。だからこそロウファが国に従う理由を失くすような真似はしないと断言できる。

 

 要は、ロウファをちゃんと一人のヒトとして認識していなかったことが敗因なわけだ。

 

「私を守りなさい!」

 

 ロウファがヴィータリーに手をかけようとしたところで、俺に命令が下った。本音を言えばヴィータリーなんぞを守りたくはないが、今はまだ洗脳のフリだから聞かないわけにもいかない。

 

「ロウファを捕まえろ!!」

 

 ロウファとヴィータリーの間に割り込んだ俺に、更なる命令が下った。仕方がないのでロウファの腕をがっしり掴んで離さない。……とはいえ単純に殺せという命令でなかったのは意外だ。俺の強さの底がわかっていない状態だからだろうか。慎重だな。

 

「そのまま自爆しろ! そしてその獣を、殺してしまえ!!」

 

 ヴィータリーの命令で、俺の身体に魔術が発動する。……これをこのまま食らうのはちょっとな。ロウファもランファも焦ってるし、なにかいい手はないモノか。

 

(そうだ、いい案を思いついたぞ。ワールド、もうこの術の分析は終わってるよな?)

『ああ、当然だ。どうするつもりだ? ただ解除するだけでは不自然だが』

(わかってるさ。だから、自動防衛機能が反応した体にする)

 

 ワールドに語りかけて、俺の思惑を話す。

 

(一度目に防がなかった理由づけとして、一度受けて解析した術は術者に返すっていう設定を適当に作ろう。実験の時に一回受けてるからいけるだろ。それ以外に受けてないしな)

『急に反応すれば怪しまれると思うがな』

(ああ。だから、俺の中の別の存在が反応している……みたいな感じにするんだよ。ってことでワールド、俺に合わせて喋ってくれ)

『……わかった。好きにするがいい』

 

 というわけで、俺は頭の中で口にする言葉を思い浮かべてワールドに教えながら無感情に呟くことにした。一応異変が起こったことを示すために首から提げている飾りを赤く光らせておく。

 

「『契約者の身体に魔術が組み込まれたことを確認』」

 

 ワールドが完璧にタイミングを合わせてくれたおかげで、違和感なく口にできただろうか。

 

「『対象を解析――完了済み。効果、術の仕込まれた身体が爆発する。契約者の身体を著しく損なう術のため、対処を行う。敵性存在の攻撃と判断――術を返還する』」

「……は?」

 

 俺とワールドが告げると、ヴィータリーは間の抜けた声を上げていた。

 

(ワールド。今だ、俺の方を解除してヴィータリーのヤツに同じ術を返してやれ)

 

 ワールドの能力によって俺の思う通りに術が返還される。

 

「……ま、待て! どういうことだ!? なぜ僕に術を――は、早くやめろ!!」

 

 ヴィータリーが珍しく動揺している。当たり前か。……そうか、やめて欲しいか。ならやめてやろう。

 

 俺は今受けているヴィータリーからの命令、つまりロウファを捕まえることをやめて棒立ちになった。

 

「違う、そっちじゃない! クソッ、こんなはずじゃ――ッ!!!」

 

 目元が見えないのをいいことに、目を閉じて後ろに視界を作りヴィータリーの顔が悔しげに歪んでいることを確認する。

 

(お前のその顔が見たかったんだよ、ヴィータリー。因果応報ってヤツだ。精々後悔して死んでくれよ?)

『……』

 

 おい。なんでお前がため息吐いてるんだよ。お前は気持ち的にこっち側だろうが。世界ごと消滅させようとしてる癖によ。

 

 背後で爆発したヴィータリーの肉片は受けたくなかったので、不可視の障壁で防御しておく。俺の前にロウファとランファがいるので必然一緒に守る形になるが、まぁそこはおまけだ。

 

 さて。後はロウファがこれからどうするかに委ねるとするか。このままエルデニとの戦争を続けるなら洗脳が解けないフリをする。もし停戦に向かうなら洗脳が解けたことにして別れる。

 

 ロウファに寄り添うランファを見て自分がやるべきことを定めたらしい。

 

「まずはエルデニに勝利し、次はユラントスクだ。この国に勝利して、俺が自由を勝ち取る」

「どこまでもお供します」

 

 戦う覚悟を決めたようだ。……じゃあ、俺はこのまま洗脳されておくとするか。

 

「ついてこい。……エルデニを堕とす」

 

 ロウファは棒立ち状態の俺の方を見て、そう告げてきた。利用できるモノは利用する、いい心がけだ。俺は内心でほくそ笑みながらロウファの後をついていった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 その後、ロウファは切り札と呼べる存在を連れてザハ市へと舞い戻った。……その途中でうちの問題児二名が戦争に参加しそうになっていたが、まぁいいだろ。多分バレないだろうし今は去ったみたいだし。

 

 ともあれ。

 

 ロウファはセキトバという星晶獣の力を借りてエルデニに挑むようだ。これまで双子やルリアが全力でユラントスクに挑んでいないのはおそらくアルタイルの拘りだろう。流石にロウファの相手をするのに『ジョブ』なしは無理だったみたいだが。

 

(セキトバってのがどんな星晶獣か知ってるか?)

『ああ。強者にしか首を垂れぬ星晶獣だ。認めた者と融合し大幅に強化する能力を持つ特殊な星晶獣だ』

(へぇ。確かにそれは珍しいな。星晶獣ってのは島や村で信仰された神みたいな存在のことが多いんだが。人に従う特性を持った星晶獣とはな)

『覇空戦争で言うのであれば星の民と融合していたのかもしれんが』

(それもあるか。なんにせよ、かなり強そうだ。お前なら俺と融合できるだろうけど、そうした方が強いのか?)

『いいや。オレが融合したところで顕現している時とそう変わらない。セキトバは融合することで機動力を大幅に引き上げることができる、そういう利点を目的に創られた星晶獣だろうからな』

(そっか)

 

 もっと強くなるための手がかりとしては弱いか。

 

 そしていよいよ、俺はエルデニ軍と対面した。

 

 俺はロウファと一緒にユラントスク本陣で待機していた。そこへエルデニ軍が切り込んできたという形だ。邪魔になるためユラントスク兵は既に展開してしまっている。本陣には俺とロウファしかいない状態だった。

 

「うん、間違いない。ダナンだよ、あれは」

 

 顔が認識できないようになっているはずだが、グランは神妙な顔で言い当てた。……直感ってヤツか。逆の立場だったとしてもわかりそうな気がするから不思議だ。

 二人共覚悟はしてきたようで、表情が引き締まっている。これは遠慮とかしなさそうだ。良かった良かった。

 

 その後ロウファが星晶獣セキトバを召喚し、融合して下半身が赤色の馬の身体をした飛将軍となった。今の俺でも苦戦しそうなほどに強い覇気を感じる。切り札と呼ぶに相応しい。

 

「だが些か数が多いな……減らせ」

 

 命令が下ってしまった。特に別解釈にする必要もないので、俺はそのまま全力で数を減らしにかかる。右手を振り被り、そこへ青白いエネルギーを凝縮させていく。本当に全力で消し飛ばすつもりだった。

 しかし、

 

「「【十天を統べし者】!!!」」

 

 エルデニ軍に直撃する前、グランとジータが割って入って対処してみせた。……あれは、俺の攻撃を斬ったのか? 前に見た時はあんな武器持ってなかったはずだが……分析するとヤバいな。

 俺が星晶獣なら、あいつらは武器ってことか。やっぱりまた強くなってやがる。定期的な情報収集は必須だな。

 

「ほう、あの一撃を受けるか。だが、我らに勝てるか?」

 

 それが開戦の合図となった。開始と同時、グランとジータが俺達に突っ込んでくる。俺の方にはジータが来ていた。

 

「そっちは任せたよ、ジータ!」

「うん! ――レギンレイヴ・天星!!」

 

 俺の眼前まで肉薄したジータは、十本の天星器を模したエネルギーの塊を右掌に凝縮して俺に向けて放ってくる。……俺だけを引き剥がそうってわけか。ならそれに乗ってやるかな。俺はグランとジータのどっちかと戦えればそれでいいんだし。

 防御態勢を取って吹き飛ばされるに任せてロウファのいる場所から離れていった。その間ロウファはグランが押さえているようだ。俺がロウファを手助けするのはここまでになるか。ここからはジータと全力で戦闘するとしよう。

 

「この、バカッ!! 簡単に洗脳されて……もうっ!!」

 

 場所を変えて戦っていると、急に罵られてしまった。まぁこの二人のことだ、心優しいからきっと心配してるんだろう。まるで無用なんだが。

 

 しかしこうして初めて【十天を統べし者】と戦ってみるとあれだな。本当に【十の願いに応えし者】と同等の力を持っているとわかる。

 一応攻撃も防御も全力で行っているはずだが、全く有利にならない。対応力で言えば俺の方が高いんだろうが、それでも押し切れないことを考えるとやや身体能力は向こうの方が上なのか?

 

 このままでは埒が明かない。ただジータの顔は真剣であるが焦りがない。勝って俺の洗脳を解くことが目的なら、互角の勝負をしている間焦りを抱いていてもいいモノだが。

 そう思っていると、ジータが攻撃の手を止めて距離を取った。

 

「絶対、目を醒まさせるから。――力を貸して」

 

 なにかしてくる、と思っていたらジータは手にしている武器に呼びかけた。途端、彼女の身に纏う気配が変わる。

 

「いくよ。ちょっと痛いけど、許してね」

 

 うなじ辺りの産毛が逆立ち脳内で警報が鳴り響く。直後、ジータが目の前まで迫っていた。

 

 ……マジかよ!

 

 急激な強化に対応できず、拳が顔面を直撃する。防御も間に合わなかったせいで無様に地面を跳ねて吹き飛ばされてしまった。

 

(クソッ、痛ぇ! 再生するからって手加減ねぇなぁ、全く!)

 

 なんとか空中で身を捻って体勢を立て直す――がその間に剣を振り被ったジータに上を取られていた。……ホント、お前を出し抜くなんて無理だと思えてくるよ。

 

(仕方ねぇ。ワールド、出ていいぞ)

『ああ』

 

 どうやら【十天を統べし者】は十種の武器を扱う十天衆を束ねた者の証。つまり武器と呼応することで強くなる。

 逆に俺の【十の願いに応えし者】はアーカルムシリーズの星晶獣と相性のいい十賢者を束ねた者の証。つまり星晶獣と呼応することで強くなる。

 

 ジータが武器に呼びかけて強くなるように、俺もワールドが顕現することで強くなるのだ。

 

 首飾りが赤い光を放ち、ワールドの力が加算された。これでジータの動きが目で追えて、その動きに身体がついていける。

 

「ッ!!?」

 

 よって、ジータの振り下ろした剣を素手で受け止めつつ衝撃を消去することができた。

 

(ここからはお前が身体を操ってる体で話していいぞ。顔見知りではあるんだろ?)

『そうだな、ではそうするか。オレも実際にこの者の強さを測っておく必要がありそうだ』

 

 ということで、ワールドに喋ってもらう。

 

「『なるほど。これが今のお前達の全力か』」

 

 俺の口を介しての会話となったため、声が重なって発せられた。近い距離にあるジータの顔の驚愕が更に増していた。

 

「そ、その声……! まさかアマルティアの――」

「『そう。あえて形容するならば、オレは胎動する世界そのモノ。若しくはザ・ワールドと名乗っておこうか』」

 

 一言聞いただけでピンと来たようだ。まぁ世界をどうこうする、とか言っているヤツを簡単に忘れるわけないか。

 それから言葉を交わし、倒せば俺の洗脳が解けるというジータの勝利条件が明確になった。

 

 ジータが剣にエネルギーを纏い斬られそうだったので手を放す。距離を取ったのに合わせてワールドが久々に真の姿を現した。

 

「以前のオレと同じと思うな、特異点の少女」

「そっちこそ!」

 

 それが第二ラウンドの開始だった。ただワールドは直接戦闘を得意としていない。どちらかというと事象改変や創造などを得意としている。ジータは迷わずワールドへと突っ込んでいくが、俺が割り込んで行く手を阻んだ。

 

「太陽の焔に焼かれるがいい――」

「リメイク=サン」

 

 ワールドが顕現した状態の技は、俺が単体で使うよりも威力が高まる。これは普段俺がワールドの能力を借りているからだ。直撃すれば人体が瞬時に炭化するほどの熱量を持っているのだが。

 

「水の一伐槍!!」

 

 だがジータは掲げた右手の中に水の魔力を凝縮した槍を作り出す。それを俺の攻撃にぶつけて相殺してみせた。炎に水が激突して水蒸気が舞い上がる。俺達はジータの位置が正確にわかるので、そのまま攻撃に移った。

 

「星の数だけ受けるがいい――」

「リメイク=スター」

「シエン・ミル・エスパーダッ!!!」

 

 だが水蒸気を切り裂いて迫る光の球体が見えた瞬間に六属性の七星剣が無数に飛んできて次々と相殺されていってしまう。……いや、一応俺が自主的に戦っていないフリをするぐらいの程度に抑えてるとはいえ、ワールドが顕現しても同等ってのはな。相当強くなってやがる。

 

(いやぁ、やっぱり強ぇな)

『ああ。お前の言う通り、一度戦っておいて良かったようだ』

 

 おっ、珍しい。ワールドが素直だ。とはいえワールドの最終目的を叶える最大の障害は、俺はグランとジータ含む“蒼穹”の連中だと思っている。だからこそワールドはこいつらの調査をしなければならない。

 

 ただこの調子だと互角。本気で殺し合わなければ勝負は着かなさそうだな。ロウファの方の決着がついたらこっちも終わりにするとするか。

 ジータの攻撃を捌き、迎撃し続けながらロウファとグラン達の戦いの様子を確認しておく。

 

 しばらく戦っているとロウファが倒されたのが知覚できた。なので、勝手に戦いの衝撃で洗脳が解けたフリ……ももう面倒だし終わりでいいか。

 

(ワールド。情報収集はもう充分か?)

『ああ、問題ない』

 

 じゃあ最後に、思い切り攻撃してみることにしようか。

 

「この世界に終焉を齎そう――」

「エンド・オブ・ワールド」

「レギンレイヴ・天星ッ!!!」

 

 必殺の一撃を放つと、ジータもそれに対抗してきた。……うーん。やっぱり全力でも相殺されんな。

 

「……そろそろいいか」

 

 俺自ら声を発することでワールドへの終戦の合図とする。

 

「そうだな。情報は充分に収集できただろう。流石に今のオレでは、二人共を相手して勝てる保証がない」

「だな。加勢される前に終わっておくか」

 

 それから【十の願いに応えし者】を解除する。

 

「……ふぅ。いやぁ、おかげで洗脳解けたわ。助かった」

 

 俺はフードを取って笑顔でジータに声をかけた。だがきょとんとしていたジータはジト目に変わる。

 

『おい』

「こ、これでめでたしになるわけないでしょ!? というか、さっきダナン君自分から口開いてたよね!?」

 

 ワールドとジータからツッコまれてしまった。

 

 

「気のせいだろ? だって洗脳されてたし」

「絶対嘘だ! も、もしかして最初から洗脳されてなかったんじゃないの!?」

「そんなわけないだろ。ヴィータリーのヤツが言ってたんじゃないか?」

「言ってたけど、結局その人も死んじゃったし……エリクさんの腕が触手になったのだってダナン君の仕業でしょ? ポラリスさんが言ってたけど、いいタイミングだったらしいし」

 

 流石に騙せないか。まぁやることはやったから騙す気もないんだが。

 

「いくら油断してても洗脳なんてされるわけないだろ、なに言ってんだよ」

 

 だから俺は、にっこりと笑って告げた。一瞬きょとんとしていたが、すぐジータに睨まれてしまう。向こうの戦いを見に行くということで、逃げないように掴まえられてしまった。

 

 でまぁ結局は丸く収まったようだ。ロウファとランファはレオニスの温情(?)で島流しの刑に処されることとなった。ロウファはずっと誰の思惑にも左右されない自由を手に入れたかったらしい。ユラントスクに寝返ったのも、確かな地位を手に入れられると言われたというのがあるようだ。

 まぁ戦争も無事終結したようだし、めでたしということで。

 

 戦後の復興は、シュラの方で指揮することになっていた。……シュラはシュラでなんていうか危ういところがあるから、その辺は気にしておくか。あとザハ市内で思い切り戦闘したのは俺だしな。広場とか盛大に壊しちまったし、復興の手伝いくらいはしてやるべきだろう。ワールドの能力で直すと言ったら断られたんだけどな。

 ロウファは騎空団には入らなさそうだったし、せめてシュラでも勧誘しておくかと思って色々してはみたが。本人はエルデニに恩義があるので来れないそうだったが。

 

 とりあえずシュラの心持ちに一区切りついたようなので、俺はジータにワールドとのことについて言及される前にさっさと退散することにした。

 

『おい。追いつかれるぞ』

 

 だが、ワールドの忠告通り猛然と迫ってきていた。……いや、この速度【十天を統べし者】使ってるだろ。そこまでするか?

 

「「見つけたーっ!!」」

 

 と思っていたらぎゅんと物凄い速度で俺の進行方向に回り込んできた。砂煙が巻き起こったので全身を薄い膜で覆いかかるのを防いだ。フードモノは砂入ると面倒なんだよ。

 

「傍迷惑だな。なんの用だよ?」

 

 ビィとルリアも置いてきやがって。この様子だとシュラに預けてるんじゃないか?

 

「わかってるでしょ? ダナン君が、その星晶獣と契約してることについて、話を聞きに来たの」

「胎動する世界はこの世界を消滅させて新世界を創ろうとしてる星晶獣だよ。目的をわかって契約してるの?」

 

 回り込んで『ジョブ』を解除して真剣な表情で尋ねてきた。……ふむ。さて、どう答えたモノか。

 

「一応話には聞いてるし、その辺も考えてはいるけどな。ワールドが本当に全部を話してるかは知らねぇよ」

「新世界を創造させる気なの? それともなにか考えがあるの?」

「大層なことは考えてねぇよ。でも、まぁなんとかなるだろ」

「そんな適当なことじゃダメだよ! 世界が滅びるかもしれないんだよ!?」

「その時はその時だが、しばらくは問題ねぇって。……流石に俺も急に世界が消滅するような真似はさせねぇさ」

 

 俺も声のトーンを落とす。双子は黙り込んで、少ししてから息を吐いた。

 

「一度決めたことを覆させるのは難しいよね」

「うん。というか、ダナン君が私達が言ったところで聞くのが想像できないんだけど」

 

 二人は諦めたように苦笑している。

 

「そういうことだ。どうしても力尽くで止めたいんだったら――本気で殺し合ってみるか?」

 

 殺気を滲ませて笑みを浮かべるが、残念ながら怯まなかった。

 

「もう、すぐそういうこと言うんだから」

「そんなこと言ったって、いくらダナンでも二人相手じゃ無理じゃない?」

 

 ジータはちょっと拗ねた風に、グランは少しドヤって言ってきた。……そりゃ二人相手じゃ無理だろうが余計なんだよ。

 

「……チッ。まぁいい。聞きたいことがそれだけなら、俺はもう行くぞ」

「あ、うん。なにかあったら相談していいからね」

「お前らに相談するくらいなら、先に相談するヤツらがいるからねぇよ」

 

 言って、空間転移を実行する。俺はそのままグランとジータの前から去った。騎空挺のあるアウギュステの海に浮かぶ無人島へ転移する。ここなら人目がつかないので転移してもバレることはない。

 

『お前は、オレが全てを話していないと思っているのか?』

 

 他の人の目がないからか、声を発して尋ねてきた。

 

「ああ。けど、お前に話すつもりがないなら聞くつもりもねぇよ。お前が全貌を話さないことで俺が焦ることはねぇからな」

『まるで、オレが焦ることはあるような言い方だな』

「さぁな。先々のことなんか、俺には視えねぇからわからねぇよ。気が向いたら話してくれればいいんだ」

『……』

 

 ワールドからの返答はなかった。そして、ワールドが会話している証である首飾りの明滅はなくなる。

 

 これはあくまで俺の推測に過ぎないが、あの双子の強さには底がない。今はまだ俺と同等だが、いずれ今俺達が立っている域を超えるはずだ。だが逆に俺は、ここから先がない。なぜならワールドとわかり合っていないからだ。俺が星晶獣との契約を力としている以上、今以上の強さを手に入れる手段に見当はついている。

 

 星晶獣との契約を基にしている以上、辿り着く先は一つ――教えの最奥だ。

 

 だが、教えの最奥はヒトと星晶獣が互いのことをわかり合っていなければならない。その上で共に戦う決意をしなければ至れない、ようなモノだと思っている。つまりワールドが己の思いの丈を吐き出し、計画の全貌を話してくれない限りは。そして心の底から俺と目線を同じにする必要がある、というわけだ。その時はもちろん俺の目的も洗い浚い告げる必要はあるだろうが。

 

 ワールドは神にも等しい星晶獣だ。そんな星晶獣と教えの最奥に至れればそれはもう強大な力になる。しかしそうなっても、おそらくあの双子はついてくるだろう。教えの最奥なのか、それとも別の方法なのかはわからないが。だが今と同じように武器と対話するとか、星晶獣の力を得るとか、どちらにしてもあいつらの性格上簡単に辿り着きかねない。

 だからあいつらが手がかりを見つける前に俺とワールドは腹を割って話さなきゃいけないと思うんだが……果たしてワールドはそのことを気づくのかね。

 

 あと、もう一つ。

 あいつらに対抗するためには必要不可欠な要素がある。奇しくもグランに言われてしまったが、向こうは二人、こっちは一人ってことだ。だからどうしても“蒼穹”を止めるには俺とワールドだけでは足りない。

 俺達と同じ『ジョブ』を持っているヤツはもういないだろうが、せめて俺達みたく特殊な力を持ったヤツがいればいいんだが。流石に親父の子供は……俺以外にいねぇはずだよな。期待するだけ無駄だ。

 

 ……はぁ、都合良く俺に妹でもいれば丁度いいんだけどな。流石にねぇか。




次になにを書くかがまだ未定なので、また番外編になるか本編に戻るかはわかりません。

周年も近いし、どう空第二弾でも書きますかね。三月ぐらいには更新したところ。
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