ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

234 / 245
気紛れ更新の失楽園、第一話になります。

3/22に周年アップデート第二弾がありまして、神石に五凸が追加されましたね。思っていたより素材は軽かったですが、それでも神石を砕くのは賛否ありますよねそりゃ。
自分はティターンだけできました。

あ、因みに色々と言われていた金剛の欠片は十賢者の最終で使わされると思ってます。
この作品でも言いましたが、十天衆は武器、十賢者は星晶獣。十天衆で骸晶を使わされたということは……と勘繰ってます。
まぁわかんないですけどね。


EX:『失楽園』闇

 ポート・ブリーズ群島で、厄災の『復興記念祭』が開催されている。

 

 賑やかな祭囃子と人々の笑顔。復興記念祭は活気に満ち溢れていた。

 

 グラン達もまた、シェロカルテに案内される形であちこちの座興を楽しんでいる。

 

「あはは、ホントに大爆笑だったぜ! 大道芸って色々種類があるんだなぁ」

「わ、私も笑いすぎて脇腹が……流石シェロさんのおすすめですね!」

「喜んでいただけて良かったです~。さっきのは“漫才”というモノでして~」

 

 五人は先程まで観ていた催しの感想を言い合って笑っていた。

 

「時事ネタって言ってたよな。邪神とか怪物とか化物とか、サンダルフォンも散々言われてたなぁ」

「そうですね。お客さん達もウンウン頷いて……」

 

 ビィの言葉に相槌を打っていたルリアの表情が不意に曇る。傍にいたジータも同じような表情だった。

 

「ルリアさん~? どうしたんですか~?」

 

 急に表情が落ち込んだことを気にして、シェロカルテが声をかける。

 

「あ、すみません! なんでもありません。……なんでもないんですけど、仕方のないことなんですけど」

 

 ルリアは言葉を探りながら、腰のつけた「白い羽根」を取り出した。この羽根はサンダルフォンの騒動があった後日、共通の夢の中で団員達と黒銀の竜相手に戦いを繰り広げた時のモノである。その夢を見た翌朝、ルリアの近くに落ちていたのを大切にしているのだ。

 夢の内容が余りにもリアルだったこと、そして白い羽根になにか力が宿っているような気がしたからだ。

 

「この羽根を観てると思うんです。サンダルフォンさん、本当は……」

 

 続けるルリアの脳裏には、サンダルフォンに連れ去られていた時に見た夢の内容を思い出していた。

 

『不用品……? ルシフェル様の繋ぎ……? なんの役にも立たない……? 嘘だ……じゃあ俺の存在意義は一体……! ……――ッ!』

 

 天司は必ずなんらかの役割を持たされて生まれる。役割が不明だったために中庭でずっとルシフェルを待ち続ける日々を送っていたサンダルフォンは、いつか天司長ルシフェル様の役に立つことを夢に見ていた。

 

 そしてそれが、夢に終わった瞬間のことだ。

 

 ルシフェルが存在する限り自分は役に立たず、自分が役割を果たすことがあればそれはルシフェルにもしものことがあった場合だ。彼の望む「役に立つ」ことはできない。

 

「邪神みたいに言われると、ちょっと違うような気がしちゃって……」

「私もちょっとわかるかな」

 

 ルリアに同意したのはジータだ。彼女はルリアのように記憶を追体験したわけではないが、彼の思いを知って共感したのは皆が知っている。

 

「でもよぅ、なんだか惨めなヤツではあったけど、それでも大した悪党だったと思うぜ」

「はい……決して許されないことをしたのは間違いないです」

 

 同情はするが、それで全てが許されるわけではない。それはルリアもジータも理解していた。

 

「そういえばルリアは、アイツの心の中を覗いたんだったよな」

「ええと、詳しいことはわからないですけど……。誰かの役に立ちたいと願って、自分の存在意義がないことを苦しんで、誰にも必要とされてないって悩んで……。災厄のことはもちろん許せません。私だって皆さんと一緒です。すごく怒ってます。でも私も自分のことがわからないから、誰かの役に立ちたいと思ってるから、なんだか他人事じゃない気がしてて……」

「ルリアさん……」

「あはは……。すみません、変な話をしちゃいました。ちょっと色々考えてしまって――」

 

 祭を楽しんでいた先程までの空気を壊してしまったこともあり、誤魔化すように苦笑いを浮かべる。

 

「おっと、素敵な羽根だねえ。ソレ」

 

 そこへ、妙な男が話しかけてきた。

 

「うん? え、えっと……?」

「悪い、脅かせちゃった? オレはデザイナーでね。美しいモノにはつい食いついちまう」

 

 戸惑うルリアに、男が告げる。

 

 男は短い黒髪に、赤い瞳をしていた。肌はやけに白く、故に着込んでいる黒いパンツと黒いドレスシャツが際立っている。シャツは胸元を大きく開け、上に黒いファーストールを纏っていた。

 奇抜な恰好だが、しかし彼の名乗ったデザイナーという職業が説得力を持たせている。

 

「で、良かったら……キミの持ってるソレ、見せてもらっても?」

 

 男は薄い笑みを浮かべたままルリアに向けて手を差し出した。

 

「はあ……ど、どうぞ。いいですよね、グラン?」

 

 念のためグランに確認を取って、頷いたことを確認してから男に白い羽根を手渡す。

 

「フフフ……どうも、お二人さん」

 

 彼は白い羽根を受け取ると、人差し指で羽根を撫でた。ゆっくりと堪能するように。そして恍惚とした表情で吐息を漏らす。

 

「ほぉ……。やはり抜群のプロポーションだ。だが問題は光に透かして見た時の……ハハハッ! なんてこった、完全なる黄金比かよ!? ヤバイ、達する達する!」

「ひゃあ……!?」

 

 笑い出したかと思うと急に白目を剥く。急激なテンションの変化にルリアが驚いて声を上げていた。グランとジータもヤバいヤツなのかと若干警戒した様子を見せる。

 

「おっと、また驚かせちゃった? でもキミ達、イイ素材持ってんじゃん」

 

 おどけたように言って笑いかけた。

 

「なぁなぁ……なんか凄ぇ興奮してるけど、その羽根がなんだってんだ?」

 

 ビィが不思議そうに尋ねると、露骨に下がった表情になる。

 

「あぁ~……キミ達にはわからないか。そそるんだよ、最高にね」

「そ、そそる……?」

「ん~……まぁオレの求める理想ってことさ」

 

 理解できない者に長々と説明する気はないらしく、わかるようなわからないような答えだけを返した。そして用は済んだのかルリアの掌に白い羽根を握らせる。

 

「ありがとう、堪能させてもらった」

 

 男は興奮していた時とは打って変わって紳士的に立ち振る舞い踵を返した。

 

「では。良い一日を」

 

 歩き出す男の背を見送って、ビィが正直な感想を零す。

 

「なんか変わったヤツだったなぁ……祭で酔っ払ってんのか?」

「そ、そうかもしれませんね……。じゃあ私達も次のところに――」

「お待ちくださ~い。本物を返してもらってもよろしいですか~?」

 

 男との遭遇をもう終わったモノとして次へ行こうとするルリア達を他所に、じっと男の方を見つめていたシェロカルテが声をかけた。

 

「本物ォ? 一体なんのことだよ?」

「えっ……あ!? この羽根なんだかちょっと小さい……」

「いけませんね~? シェロちゃんの目は誤魔化せませんよ~?」

「え、もしかしてオレに言ってる?」

 

 バレそうになったからか、それまで無視していた男が胡乱気な表情で振り返る。

 

「はい、そうです~。さ、盗ったモノを返してください~」

「よせよ、揉める気か? 偉いさんもいる祝祭なんだぜ」

「私は一向に構いませんが~?」

 

 振り返った男とシェロカルテの視線が交錯する。実際、彼女のコネの数と幅を考えれば多少の騒ぎなど問題にはならない。しかも後ろの方でグランとジータが実力行使も辞さないというアピールで腰の剣に手をかけていた。

 

「フゥ……わかった。降参、だ」

 

 男がにっこり笑うと、どこからか白い羽根が舞い落ちて……

 

「って、これも偽物じゃねぇかよ!」

 

 しかしルリアが今持っている羽根と大差ない大きさだったためか、すぐに気づいたビィのツッコまれる。

 

「あれ、おかしいな……?」

 

 男も不思議そうに首を傾げている。演技ではなく本心から困惑している様子だった。

 

「はぁ……」

 

 そんな男の様子を見てシェロカルテが呆れたように嘆息する。誤魔化そうとしている男に対して苦言を呈する……のではなく。

 

()()()()()。スリはいけませんよ〜」

 

 男の背後に立っていた黒い外套を羽織った少年に声をかけた。男は今になって気づき、肩越しに振り返ってわざとらしく目を丸くしている。

 

「悪い、綺麗な羽根だったんでついな」

 

 ダナンは手に掲げた白い羽根を、歩み寄ってルリアへと返却した。その際握らされていた偽物の羽根を取って男へと投げて返す。

 

「驚いたな。オレのマジックがこうも見破られるなんて」

「はぁ……? なんだか色々怪しい気がしてきたぜ。ホントにマジシャンなのか?」

「もちろん、嘘だ。本当はパティシエなんだけど……信じないだろう?」

 

 肩を竦める男をビィが訝しむが、開き直った様子の男を見て埒が明かないと察してしまう。

 

「だが人間も侮れないモノだ。こんなにもあっさりとバレるとは……」

 

 視線の先にはシェロカルテとダナンがいたが、ダナンは別物のため外した。

 

「正直、勃起した。では今度こそサヨウナラ」

 

 最後に爆弾発言を残して踵を返す。言葉の意味が通じる者は若干顔を顰めていた。

 

「あ……。あの、えっと……」

「な、なんなんだよアイツ……。人間がどうとかって言ってたけど、マジで危ないヤツなんじゃねぇか?」

 

 わからない側のルリアが困惑し、ビィは顔を顰めている。

 正体不明の男に一行が困惑する中、

 

(なぁ、ワールド。あいつ……)

『ああ。アレも天司のようだ』

 

 唯一分析によって正体を探り当てたダナンは、契約しているワールドと心の中で会話する。天司が一行に声をかけた時点で、彼はなにかあると睨み近づいていたのだ。

 しかも、天司の中でもおそらく上位。四大天司よりも上ではないかと思わせるモノがあった。だからこそこの場で戦闘になることを避ける必要があると思い言及はしなかったのだが。

 

「どうする? なんだかオイラ、嫌な予感がするぜ」

 

 ビィが言った直後だった。目に見える変化が起きる。それよりも早くダナンの感知に引っかかっていた。

 

「きゃあ……! そ、空が真っ暗に……?」

 

 ルリアの言う通り、空が暗くなっている。だが雲がない。

 

「通り雨でしょうか〜? でも雨雲は出てませんね〜?」

「来るぞ」

 

 島にいる全ての人々が急に暗くなった空を見上げる中、睨みつけるようなダナンが忠告した。

 

「来るってなにが……」

 

 ジータが尋ねようとした時だ。上空に複数の影が現れる。

 

「ウオォォォン!」

「アアァァァッ!」

 

 緑色の竜と幽霊のような風貌が互いに光と闇を撃ち合っていた。

 

「あれは……星晶獣です!」

「ど、どうなってんだよ……星晶獣同士が戦ってるぜ!?」

 

 人々はかつてない光景に呆然と上空を眺める他ない。だが星晶獣のぶつかり合う衝撃の余波は、やがて街にも波及した。

 

「うわぁ!? 危ない、巻き込まれるぞ!」

「ひ、避難だ! 騎空艇で脱出するんだ……!」

「待ちたまえ、移動は危険だ! 報告では平野にも異常が発生している!」

「じゃあどうすればいいの!? このままだと災厄の二の舞になるわよ!」

 

 混乱する人と混乱を収めようとする人で街は阿鼻叫喚だ。それは数々の死線を潜り抜けてきた一行でも変わりない。

 

「なんてこった……一体どうなってるんだよ!」

「ルリアさん……! なにかわかることはありますか〜!?」

 

 他と違う点を挙げれば、すぐに“原因”を探り始めたことだろう。星晶獣に干渉できるルリアへと視線を向ける。

 

「はい、えっと……!」

 

 ルリアが目を閉じて集中し力を行使した。

 

「この感じ……暴走と言うより混乱して、怯えて凶暴化してるみたいです……! それにこの、気配の、数は……島中の、いえ……ひょっとしたら全空中の」

 

 ルリアが探り探りで感知する中、

 

「ガルアアァァァッ!!」

 

 別の星晶獣が唸りを上げながら突進してきた。

 

「ヤベェ! 別のヤツが街に突っ込んできたぞ! 構えろ!」

 

 ビィに言われるまでもなく、グランとジータが星晶獣の進行方向に立ち塞がる。

 

「「はああぁぁぁぁ!!」」

 

 『ジョブ』を発動する間がなかったが、双子の息の合った剣撃が見事星晶獣の突進を止めた。しかしその戦意が失われたわけではなく、再び襲いかからんと牙を剥いている。

 

「うぅ……! 流石に一筋縄ではいきませんね……!」

「上空の二体もなんとかしねぇと……他のヤツらと合流して対策を練る時間を――」

 

 緊急事態に対してすぐ行動に移せる一行は流石だが、そんな間もないようだ。

 

「うわぁ!? 今度は東の門に別の星晶獣が現れたぞ! 人間を襲ってきた!」

「な、なんてこった……! また災厄が起きるってのかよ!?」

 

 三体の星晶獣に対処する暇もなく次の星晶獣出現の報告が挙がってくる。

 

「【十天を統べし者】を使っても一人一体が限度かな……」

「ダナン君も、じっとしてないで手伝ってよ!」

「そんな……!?」

「クソォ、冗談じゃねぇ! また災厄なんて起こさせるもんか!」

 

 意外にも冷静に状況を判断するグランと、行動を起こさないダナンに突っかかるジータ。顔を青褪めるルリアと、意気込みは一流なビィ。

 状況に振り回される四人とは対照的に空を睨みつけるようにしながら黙っているダナン。

 

 彼らの下に、火の粉のようなモノが出現し集まっていく。それはやがて人型に近くなっていき、五人が見知った姿が現れた。

 

「――その通りだ、特異点達よ」

 

 凛とした声と共に現れたのは、白髪の赤い鎧を纏った美女だ。

 

「ミカエルさん!?」

 

 四大元素の内、火の元素を司る天司。ミカエルである。

 

「獣は妾が引き受ける。貴様等は街の者達を避難させろ」

「お、おぅ、わかったぜ! でもひとりじゃあさすがに……」

 

 頼もしい言葉だったが、ビィは不安な様子だ。ミカエルはそんなビィにやや目を細めると、

 

「妾を誰だと思っておる? あの災厄では醜態を晒したが……はあぁぁぁ!!」

 

 力を開放した。世界の根幹を成す元素を操る彼女の炎が、柱となって突進してきていた星晶獣に直撃する。

 

「グオォォォ……!」

 

 星晶獣は呻き声を漏らしてその巨体を横たえた。

 

「た、たった一撃で星晶獣を~……!?」

 

 シェロカルテは驚き、前回の体たらくを見ている四人はほっと息を零す。

 

「この空域も光と闇の機能不全か。やはり原因は『エーテル』の横溢(おういつ)……天司長の御身に一体、なにが……」

「エーテル……? 天司長ってルシフェルさんの――」

 

 ミカエルの独り言にルリアが反応を示すが、彼女はルリアではなくダナンの方に目を向ける。

 

「おい、貴様。この空域だけでも元素を安定させることは可能か?」

「いいや、流石に無理だな。……全開でやっても持続はしないな。お前らと違ってソレ自体に特化してるわけじゃねぇから」

 

 管理権限を奪えばその限りではないが。というのは言わなかった。言う必要がないことなのと、すぐにできることではないからだ。

 

「そうか。まぁいい、そこまで期待していない」

 

 ミカエルに落胆した様子はなかった。ある程度予想はしていたのだろう。若しくはできると思いたくなかったか。

 

 突如、ミカエルが出現した時のような粒子が集まってくる。

 

「諸君、話は後だ。まずは僕達の張った結界の中に避難を。街の人間達も誘導しよう」

 

 金髪に浅黒い肌を持った、おそらく天司。

 

「うわぁ!? なんだぁ、いきなりなんか出てきたぞ?」

「こんにちは♪ さあ、急いで移動しましょ? ミカエル様の邪魔になるわ」

 

 更に黒髪に白い肌を持った天司も現れる。

 

「安心しろ、特異点。その者達も天司だ」

 

 突然のことに混乱している一行に苦笑しながら告げて安心させる。続けて二人の天司に顔を向けた。

 

「……頼んだぞ。ハールート、マールート」

「承知しました! ミカエル様も、ご武運を!」

「はいはーい♪ では特異点さん達、参りましょ!」

 

 二人の天司がそれぞれ先導して避難していく。

 

「できないとは言ったが、やれないわけじゃねぇし嘗められても癪なんだよな」

 

 ミカエルと二人の指示に従おうとする四人に対して、ダナンは空へ左手を掲げた。

 

「――整え」

 

 一言呟いた直後、彼の手の先にある空から光が広がっていく。暗くなっていた空が明るく晴れて元通りに戻り、暴れていた星晶獣が一斉に停止した。

 

「……まだまだだな」

 

 しかしすぐに暗くなってしまい、再び星晶獣が暴れ出す。収まったのは一瞬のことだったが、ミカエルには充分だった。特大の炎が上空にいた二体の星晶獣を包み込んで撃墜させる。

 

「余計なことを」

「俺としてはあんたらを手伝うべきかと思ってたんだけどな」

「無用だ。貴様もあの者達についていくがいい。……根本原因の排除に人数を割くのは当然のことだ」

「そうか。じゃあ任せるとするか」

 

 他四人がさっさと行ってしまった後に、ダナンも遅れてついていく。ミカエルは気を取り直して次々と星晶獣を倒していった。

 

「皆さん、避難するならこっちへ!」

「この二人についてきてください!」

 

 避難するならするで、行動が早いのは“蒼穹”の双子だ。ハールートとマールートが先導するのについていきながら、混乱の最中にある観光客に声をかけて避難を呼びかけていた。

 その最中に空が一瞬明るくなったことで阿鼻叫喚の事態が収まり声がよく耳に入るようになったのは余談である。

 

 双子の天司が先導した先は街の公民館だった。

 そこには二人が結界を張っていたのだ。

 

 天司という人外が先導する一行はかなり目立つ。一緒にいるのが彼の有名な“蒼穹”の騎空団の団長達だったのなら尚更だ。

 

「最後の一人も見つかったぜ。これで住民と観光客の数はピッタリだ」

「怪我人も全員、軽傷だったよ。応急処置の道具が揃ってて良かったぜ」

「お、そりゃあ良かったぜ! 思ったよりスムーズに避難できたなぁ」

「皆、比較的冷静で助かったよ。非常時に備えて訓練していたようだな」

「あとミカエルさんの迫力よね。星晶獣をどんどん倒してって、凄い安心できたって言うか」

「そうですね。ただ星晶獣達も不思議な力が漲ってて、このままだとキリがありません……」

「本質的な解決策が必要ね。そこで事情を聴きたいのだけれど……」

 

 公民館が安全とわかってから住民と観光客を避難させ、全員無事避難できたことで広がりかけた混乱は収まりつつあった。

 ポート・ブリーズ群島には“蒼穹”の主要面子が揃っていたので、一角に集まって話し合っている。

 ここにいるのはミカエルに会った四人とラカム、オイゲン、カタリナ、イオ、ロゼッタだ。

 

 加えてあまり人数が集まっていなかった“黒闇”のメンバー。一行と一緒にいたダナンと、別行動をしていたオーキス、レオナしかいない。

 

「……ダナン、どう?」

「ん、全員無事だ。まぁあいつらなら当たり前だろ。他にもカインとかラインハルザとか、見知った連中は無事だったぞ」

「そっか……。ありがとう、ダナン君。カインのことも確認してくれて」

 

 ダナンが壁に寄りかかって目を閉じ、知覚範囲を広げて団員達の安否を確認していた。その途中で“蒼穹”の団員達が避難を誘導、星晶獣を足止めしているのが確認できたのだ。というよりも、レオナがあまりにも不安気だったのでカイン達のことは安否確認をしておこうと思っていた。

 各地でも四大天司達が島を移動しながら戦っているが、全く同時に複数箇所存在することはできない。そこで二つの騎空団の団員達が率先して避難や陽動を行っていた。

 

 中でも四大天司の後継と言われるシヴァ、エウロペ、グリームニル、ブローディアの四人は積極的に四大天司の代わりとして戦っていたのだ。……意外だったのはオリヴィエか。あまり姿を見せないようにしているのは確かだが、彼女のいた島の人々が危険に晒されたかと思うと積極的に助けていた。力を使えば天司達に察知されてしまうのは理解していただろうが、やはり根本的には悪人でないということだろう。

 

 珍しくレオナが一人で行動していたのは、精神的な意味で誰かに頼りがちな部分をなんとかしようと思ってのことである。なので普段一緒にいることが多いアリアもいない。ただ流石に誰もいないところへ行くのは勇気がいるので、念のためを考えてダナンもいる島で復興記念祭を楽しんでいたわけである。

 

「もういいかしら、双子の天司さん達?」

 

 ロゼッタが事態の原因を知っていそうな二人へと声をかけ、一行の視線が集中する。だが彼女達は気づいていないようだ。

 

「久々のファータ・グランデだなぁ。確か海があったはずだけど観光するかい?」

「もうちょっと暖かい時期がいいわ。私はPSCっていうレースが見た~い♪」

「走艇を競わせる大会のこと? でも、この時期にやってたかなぁ……」

「え~? ちゃんと調査しといてよ、もお。私達の役割は調査と伝令なのよ」

「おいおい、呑気なカップルかよ……天司ってのは変なヤツばっかだな」

 

 正にラカムの言う通り。異常事態にも関わらずお互いのことばかりだった。

 

「ご、ごほん! 二人共、ちょっといいか? 事情を聞かせて欲しいんだが……」

 

 堪らずカタリナが大きめの咳払いをして注意を引く。流石に気づいた様子で一行に顔を向けた。

 

「あぁ、失礼! じゃあ本題を……」

「実は四大天司様の総意により、皆さんに協力を依頼したいの」

「この状況は先に起きた災厄と同様、解決には特異点達の力が必要なんだ」

「そうそう。なぜなら、今回の件ってあの時起きたことと少なからず繋がりがあると考えてるの」

「なんだと……?」

 

 彼女達の話した本題に、一行も気を引き締める。

 

「まずは星晶獣達の異常と、空の明滅についてなのだけど……」

 

 そうして二人は語り出す。

 

 『希少元素』『エーテル』――空の世界を構成する物質の中で、特に変わった性質の元素である。エーテルには光と闇の二面性があり、特定の周期に従って状態を変えるが……その周期が突如として狂い、星晶獣の精神に影響を来たし、破壊的な行動に走らせているのだった。

 

「え~っとぉ……二面性とか難しい話はわかんねぇけど、エーテルってのが直接の原因ってことか」

「そのエーテルも四大元素みたいに天司さん達が管理してるんですか?」

「エーテルを司り、その周期に影響を及ぼすのはただ一人……」

「天司長、ルシフェル様です……あの御方に危機があったとしか……」

 

 語る二人の表情が曇っていく。同時に一行の表情にも緊張が走る。

 

「ル、ルシフェルさんに危機……? でもミカエルさんより凄い天司なんでしょ?」

「あぁ、僕達も信じられない。でもこのエーテルの状態は明らかに……通常あり得ない、起こり得ないことだと理解している。しかしなにか違和感があるとすれば――」

「天司長様は先の災厄の際、人間である貴方達に接触したわ。それもまたイレギュラーだった」

「もちろん、それ自体で諸君を責めるなどというつもりはないよ。だが、一度起きたイレギュラーは二度三度と続くのが世の習い……。因果の影響も考えられる」

 

 確証のない憶測に不安を増長させても仕方がない。まずは異常事態をなんとかする手段を聞かなければならなかった。

 

「なるほどな。で、そのルシフェルの安否は確認することはできないのか?」

「天司長様は今、『カナン』にいるわ。この空域の中心に位置している地よ」

「カナン……? 記憶にない地名ね、どの島のことかしら?」

 

 マールートの告げた名前に聞き覚えがなく、ロゼッタが悩ましく小首を傾げる。

 

「カナンは島というより球状の厚雲に包まれた、一定の空域そのモノを指す呼び名だ」

「人間達は、え~っと……カナン周辺のことをナントカモンって……」

 

 カナンについて説明する二人が口にした言葉に、知っているらしいオイゲンとラカムが反応を示した。

 

「ナントカ……門!? お、おい、そりゃまさか『天国の門』のことか?」

「あぁ、そうだ! 天国の門! 知っているのかい?」

 

 オイゲンが詰め寄るが如く尋ねると、ハールートから肯定が返ってくる。

 

「カナンは元素の薄い低層にあって、四大天司様は行動が縛られてしまうの。そこで貴方達に調査を頼みたい……と」

「おう、任せろ! 急いでグランサイファーで向かおうぜ!」

 

 マールートの言葉にビィは威勢良く答えて大半もやる気ある様子だったが。肝心のグランサイファーの舵を任されている操舵士ラカムの表情は曇ったままだ。

 

「カナンに至る航路、天国の門か……」

「ラカムさん……?」

 

 彼が難しい表情をしていることに気づき、ルリアが怪訝そうな顔で尋ねる。

 

「……無理だ」

「どういうことだ?」

 

 ラカムの発した一言に、カタリナが眉を寄せた。

 

「今のグランサイファーじゃあ……天国の門の突破は不可能だ」

「……」

 

 ラカムが告げ、オイゲンが黙り込む。

 

「な、なによ、二人共……。随分深刻な顔して……」

 

 あまりにも深刻な様子に、天国の門とは余程の場所なのかと唾を呑んだ。

 

「はぁ……とはいえ、って感じだよな。悪い、時間を貰えるか。なんとか方法を考えてみる……」

 

 険しい表情のラカムと、肯定するように目を伏せるオイゲン。

 重々しい空気に、一行はそれ以上追及せず一旦彼に任せるのだった。

 

「……ダナンは手伝わないの?」

「騎空挺をどう改良するかなんて俺が手を出すわけないだろ」

 

 ワールドを顕現させれば気流だとかを周囲全て整えながら強行突破することはできるだろうが、それをやった上での決戦ともなれば万全の状態にしておいた方がいいだろう。

 

(……天司長ルシフェルが()()()、か。正直今の俺が戦っても勝てる確証はないんだが、そのルシフェルを殺ったヤツが相手ともなると必要以上に消耗したくはねぇよな)

 

 ダナンはワールドの感知能力により、カナンの様子を一足早く探り終えていた。

 強敵が待ち構えてると知っているが故に、力を温存する意味も含めて成り行きを見守るのだった。




更新ペースは気紛れですが月に何回かは更新したいですね。

次回もお付き合いいただけると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。