ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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大分遅れましたが更新です。
年度を跨ぐのはやっぱりちょっと忙しくなりますね。

あとモンハンと原神が悪い。


EX:『失楽園』嘘

 天国の門へ向けて出航した彼らを、上空から眺めている人影があった。

 

「おいおい……本気でカナンに向かうつもりかよ。まぁ単一元素を纏った四大天司より、可能性はあると言えばあるけどねえ。だが……さて、どうしたもんか。バブさんは特異点を警戒してるが、オレだって前戯を楽しみたいわけで。ふぅむ……。オーケイ、お手並拝見だ。一緒に昇天しようぜ、特異点……!」

 

 やけに危ない言葉選びの人影は、そう呟くとどこかへ飛び立つのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 一方、天国の門に今、一隻の騎空艇が挑んでいた。

 

 言わずもがな、グラン達の乗るグランサイファーである。

 

 吹き荒ぶ風は刃物より鋭利だった。

 飛来する岩屑は集中豪雨のようだった。

 

 それでも艇は後退の兆しを見せずただ前に向かって突き進んでいた。

 

「あ、クッソ! 随分とまぁ激しい洗礼だぜ! だが俺達はなぁ……ここで沈むわけにはいかねぇんだよ!」

 

 舵を握るラカムは天国の門の気候の異常さをより感じていた。少しでも油断すれば騎空艇ごと持っていかれる。

 それでも団員プラスその他の命を預かっている以上ラカムに許されているのは、全員を生還させることだけである。

 

「ロゼッタ、また竜巻だ! こっちに向かってくるぞ!」

「わかったわ、任せて頂戴! これで打ち消すわ……ダーティ・ローズ!」

 

 グランサイファーを襲う竜巻を、ロゼッタの放った奥義が搔き消した。

 

「やったぜ! 竜巻を相殺できたな!」

「……! イオちゃん、右よ!」

 

 喜ぶビィとは打って変わってロゼッタは油断を見せない。すぐに次の天候による襲撃を察知した。

 

「うん、あの岩石ね! あたしの魔法で粉々にしちゃうんだから! エレメンタルガスト! それぇ!」

 

 巨大な岩石が騎空艇に向かって一直線に飛んできていたのだ。イオも奥義を駆使して岩石を粉砕する。……岩石の破片は騎空艇に当たる直前で金の粒子となり消滅していった。

 

「ラカム、尾翼が破損してるぞ! 三十秒でいい、艇の平行を保てるか!?」

「任せろ! 足滑らせんなよ!」

「誰に言ってやがる! 熟練の技術ってヤツを見せてやるぜ」

 

 ラカムの軽口に勇ましく応えたオイゲンだったが、乱気流に乗って現れた魔物の群れに行く手を阻まれる。

 

「なッ、魔物の群れだと……!? 乱気流に流されて迷い込んだってのか? いつも間の悪ぃこったぜ! 邪魔すんじゃねぇ!」

 

 オイゲンが行く手を阻む翼竜のような魔物に向けて銃を抜き放つ前に。

 

「はあぁぁぁ!」

 

 カタリナが剣を一閃して魔物を後退させた。

 

「オイゲンは艇の修理を! グラン、ジータ、ルリア! 舳先に誘い込んで反転攻勢に出るぞ!」

「うん! いこう、グラン!」

 

 カタリナの指示に従ってルリアが近くにいたグランに声をかける。

 

「ダナン君もちょっとは手伝ってよ」

「俺は一番対処しづらい破片やらを担当してるだろうが。お前らだけでも問題ねぇだろ、あの程度」

「そうだけどさ……もういい」

 

 ジータは傍目にはあまり働いていないダナンにも声をかけたが、少し拗ねた様子でグラン達についていった。

 

 ジータとしては彼をフォローするつもりだったが、本人に取り繕う気がないため諦めている。ダナンもダナンで遠目からこちらを窺っていた人影を警戒して下手に消耗するわけにはいかないと踏んでいた。

 

 ともあれ、実際ダナンが手を出すまでもなく魔物の掃討は終わる。星晶獣なら兎も角ただの魔物程度で苦戦する一行ではないのだ。

 

 一行とグランサイファーを猛然と襲う自然の脅威。そこに魔物の群れまで追加され一瞬の油断も許さぬ状況だったのだが、航路の中間と思しきところまで達すると、その圧力は奇妙に静まり返っていた。

 すると、誘導灯を務めていた双子の天司が一旦戻ってくる。

 

「お〜い、特異点達!」

「ふぅ……お疲れ様、皆さん調子はいかが?」

 

 二人が戻ってきたことから警戒をやや緩めて一息吐く一行。持ち場を維持しつつ束の間の休息となった。

 

「あぁ、一応なんとか……。アンタらこそ平気なのか? いくら天司っつっても大変だろ?」

「僕達のことは気にするな。カナンでは諸君の力が重要になる」

「天司長様の危機の原因に、悪者が関わってる可能性もあるもの」

 

 ビィの心配に対して双子の天司がそれぞれ応える。

 

「でも、無理は禁物ですよ? 私達は仲間なんですから! 一緒にカナンへ行きましょう!」

 

 そこへルリアが告げると、ハールートは彼女に目を向け微笑んだ。

 

「仲間……。君の心は本当に美しいね、蒼の少女。外見と同様に」

「はわわ……? うつ、美しい……!?」

 

 爽やかな笑みと共に紡がれる飾り気のない褒め言葉に、ルリアも戸惑うやら照れるやらである。

 

「あぁ。君は自分の美貌に気づいていないのか? 可愛らしいな。そうだ。依頼の後、僕に時間を貰えないか? 君を更に輝かせられる自信がある」

「か、かわわ……!? えっと、その、あの……!」

「ちょっと、は〜ちゃん? ルリアさんを口説いてどうするつもり?」

 

 言い慣れているのか淀みない言葉を続けるハールートに、マールートの責めるような視線が突き刺さる。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。僕は口説いてなんかない。原石は磨かずにはいられないんだ」

 

 マールートに咎められるとやや焦ったように言い訳した。

 

「その意味わかんない趣味のせいで、何百という少女を誤解させたことか……」

「うぅ……。それは反省してるけど……」

「おいおい……お前、二千年の生きてなにやってんだよ?」

「あははは……。な、なんだか天司さんも身近に感じてきましたね……」

 

 呆れたようなビィの的確なツッコミが入る。周囲で待機していた者達も同じような表情だった。

 

 和やかな雰囲気に気が緩みそうになったその時、大きな衝撃がグランサイファーを襲う。

 

「うわぁぁぁ! なんだ、またなんか当たったのか!?」

 

 崩れそうになる体勢を制御して耐える者が多い中、ビィが驚いた声を上げた。

 

「で、でもなにも見えませんでした! ひょっとしてラカムさんが言ってた……」

「グラン、ジータ! 良かった、お前達もここにいたか!」

 

 ルリアが最後まで口にする前にラカムが甲板へ出てくる。

 

「ラカム! どうしたんだ、なにかトラブルか!?」

「動力機関が限界だ。予想よりは遥かに保ってたんだがな」

「ど、どうするの?」

「第二動力機関を発動させた。装置自体は突貫で粗っぽい出来だが、イオ達の込めた魔力で飛んでる状態だ。この推進力でカナンまで奔る。届かなければ空の底だ。誘導を頼むぜ!」

「わかった!」

「頑張ってね!」

 

 ラカムの指示に従い、双子の天司は再び空に舞い上がる。

 

「第二は順調に動いてるぜ。だが遂に余力に頼るってわけだ」

「心配ないわよ! 皆と頑張って魔力を込めたんだもん。きっと、きっと……」

「そうね。魔力の純度は保証するわ。動力機関を休ませる時間は確保できる」

 

 心配ないと言いつつ不安気なイオの肩に優しく手を置き、ロゼッタが口添えする。

 

「そうだな。その間に修理を済ませられれば、帰る時の推進力も」

「きゃあ!」

 

 ラカムの言葉を遮るように、ルリアが悲鳴を上げた。

 

「どうした、また魔物か!?」

 

 カタリナ含め周囲を警戒するが、なにもない。

 

「あ、ううん。今、雲の中になにか……その……」

「雲の中? なにが見えたってんだよ?」

 

 ルリア自身も戸惑っている様子だが、ビィに尋ねられて自分の見たモノを自信なく答えた。

 

「……フネ?」

「うん? 私達の他に艇が飛んでいただと……?」

「う〜ん。近くを飛んでればとっくに気づいてもいいと思うんだけど……」

 

 しかしカタリナもジータもピンと来ていない様子だ。

 

「きゃあ!」

 

 ルリアに続いてイオまでも声を上げる。

 

「イオちゃん? どうしたの、まさか本当に……?」

「……あっち」

 

 ロゼッタも困惑する中、オーキスが左舷の雲を指差す。

 

「おいおいおい……! 左舷の雲見ろ、お前ら」

「嘘だろ、おい……。なんなんだよ、あの艇は……!?」

 

 それとほぼ同時、ラカムとオイゲンまでもが驚きの声を上げた。そうして一行の視線が同じ方向を見る。

 

 そこには、現代の騎空艇とは違った型の艇が無数に飛ぶ光景が映っていた。いや、映っているのではなく実際にそこに存在しているようだ。

 

「ここまでか……! だが俺達、空の民の勝利は目前だ! 既に星の民は撤退を始めている! 俺達は空を取り戻せるんだ……! 数百年に及ぶ支配は終わるんだ!」

 

 鬼気迫る声と、自らを奮い立たせるような強すぎる声。

 

「そのためなら俺は……うおぉぉぉ!!」

 

 一隻の騎空艇が敵らしき影に突っ込み、そのまま墜落していく。

 実際に目の前で起きていることのようなリアルさに呆気に取られた一行だが、見ている光景がふっと消えて全く別の光景を目にしたことで今の出来事ではなく、幻影だと理解する。

 

 それでも生々しさ故に声を上げることもできていなかった。……赤く点滅する首飾りを提げてくつくつと笑うダナン以外は。

 

 次々と現れては消える幻影が、やがて空の歴史の断片であることを察する。

 

「なぁなぁ……。時空が歪んでるってのはまさか……」

「あ、あぁ。この過去の幻影かもしれねぇ……」

「実際に起きた出来事よ。あの古い型式の騎空艇は記憶にあるわ」

 

 過去の幻影、歴史の残滓を目にした一行は呆然とそれらを眺めていた。

 

「――……」

 

 その中で、妙な人影が見える。今度は外の出来事ではなくどこか建物の中の光景らしい。

 

「あの人は……」

「これは……!?」

 

 現れた人影の顔は、いつか見た天司長ルシフェルと酷似していた。しかしルシフェルと似ている、ほぼ同じであっても雰囲気が異なる。それにその人影とルシフェルが対峙していたので別人だとわかった。

 ルリアだけはサンダルフォンの過去を覗き見た時に、彼の姿を見ている。

 

「どうした、改まって」

 

 平然と尋ねる彼に、ルシフェルが言葉を返す。

 

「……友よ、話がある。かつての星晶獣の叛乱についてだ」

「叛乱? ただの波状的に広がった暴動だろう? お陰で獣を造った俺も疑われたものだ」

 

 ルシフェルに友と呼ばれた男は肩を竦めていた。だがルシフェルの表情が険しい。

 

「その疑惑は真実でないと?」

「その疑惑は真実であると?」

 

 全く同じように返されて、ルシフェルは切り込む。

 

「……首謀者は君だ」

「……ほう?」

 

 断言したルシフェルに対して、相手は否定しなかった。

 

「君の直接指揮下にある天司が、各地で扇動していたのだろう。叛乱が失敗することもまた、君の目論見の範疇だった。何故だ? 星の民である君にとって――」

「大量のコアを効率的に得るためだ」

 

 ルシフェルの言葉を遮って、あっさりと彼は白状する。

 

「お陰で禁忌の実験が可能になった。フッ……それで話は終わりか、ルシフェル?」

 

 叛乱を裏で操っていたと暴露した上で、彼は余裕を崩していなかった。

 

「なにをしようとしている? 君の目的は『進化』の研究だったはずだ。その行動と一致しない」

「『進化』の行末、その結論は出た。お前も既に行き着いているのだろう? 空も、星も、人間も。その身を裂いた創造神の、ホメオスタシスに過ぎん。宛がわれた揺り籠の中で神の都合に振り回されるだなどと……極めて不愉快だ。お前はそうは思わないか? 小石を積み上げ塔を築くが如く。無数のコアを繋いだ実験体も、全て神を否定するための代物というわけだ」

 

 語る彼を見て、ルシフェルは顔を歪める。

 

「その反抗心のために……世界を滅ぼす可能性を造り続ける気か?」

「フフフ……お前と見解を違えることはわかっていた。こうなることもな」

 

 笑みすら浮かべた彼に対して、ルシフェルは武器の柄に手をかけた。

 

「ルシファー……!」

 

 そして躊躇なく一閃、ルシファーの首が地面に転がり身体が後から倒れていく。

 

「無駄、だ……。俺の研究を知る者が必ず……。遺産は……引き継がれる……」

「それでも私は……空の可能性を信じたいのだ」

「……」

 

 ルシファーからの返事はなかった。星の民とは言えど、首を落とされれば死ぬだろうとは思うが。そこで幻影が途絶えてしまったため、その後ルシフェルがなにをしたのかまではわからなかった。

 

「な……なんだったんだよ、今のは……」

「わ、わかりません……。ただ、世界を滅ぼす可能性って……」

「ルシフェルは、その可能性を造り続けるつもりだった、ルシファーという星の民を止めた?」

「でも遺産がどうとかって言ってたわ。それってつまり危険は残ってるって――」

 

 各々が重要そうな幻影について語る中、グランサイファーが大きく揺れる。

 

「うおッ!? なんだ、高度が下がってるだと!?」

「ヤベェぞ、おい! この一帯は妙な磁場が働いてやがる!」

「船底の下の雲が渦を巻いてるぜ! なんか引き寄せられてるみてぇだぞ!」

「このままだと……艇が空の底に落ちる……!?」

 

 突然の事態に慌てつつも、なんとか持ち堪えるためにそれぞれ行動を開始した。

 

 第二動力機関をフル稼働させ、重い荷物を捨てていく。

 

「見ろ、雲海が開いてる! あとちょっとでカナンだぜ!」

「あ、本当です! 出口まであと一歩……!」

「だがジリ貧だぜ。クソ、ここまで来て沈んでたまるかよ!」

「重い荷物は全て捨てたが、他になにかできることはないのか!」

「カタリナ、こっち! このコンテナを捨てるの手伝って!」

「なんてこった……雲の渦が目の前まで迫ってるぜ! あとは祈るしかねぇってのかよ!?」

「なにか……祈る他になにかできること……」

 

 ダナン達も一行を手伝って対応していたが、それでも限界はある。他に手はないのかと探る中、ルリアがなにかを察知した。

 

「な、なに、この感覚は……!?」

「ルリア! どうした、一体なにが……」

 

 コンテナを落として戻ってきたカタリナが声をかける。

 

「わからない! わからないけど、なにか力が……」

「――!」

 

 皆がルリアに注目する中、ルリアの傍に四体の星晶獣が出現した。ティアマト、コロッサス、リヴァイアサン、ユグドラシル。一行が旅の中で出会った星晶獣達である。

 

「ティアマト!? それに他の皆も!」

「ルリアの意思ではない? 自分達の意思で顕現したということか!?」

 

 突然現れた星晶獣達は目配せをして人にはわからない言葉で会話する。すると物凄い追い風が吹き、グランサイファーがぐんと持ち上がった。

 

「んなッ!? 凄ぇ風が吹いてきたぜ!」

「皆……! そっか、そうだよね……。皆も仲間で応援してるんだよね! ありがとう! 本当にありがとう!」

「ははははは! 流石だぜ、ここ一番の追い風だ!」

 

 星晶獣達の力によってグランサイファーはなんとか雲の渦にぶつからずカナンへ至る道を行く。

 

「遂に……遂に俺達は突破したんだ……! 数多の騎空士を阻んだ、天国の門を――」

「……」

 

 危機的状況を脱して一行の表情が明るくなる中、ダナンは一人空を見上げて左手を上に突き出した。それに気づいたのはオーキスとレオナくらいで、他は喜びを分かち合っている。

 左手に光を集束させて球体を創ると、明るさで一行からもバレてしまう。

 

「えっ?」

「――いけ」

 

 きょとんとした声を無視して、それを放つ。球体は無数の光線となって雨のように散っていく。明らかに攻撃の意思がある行動だった。光線は雲間に消えていく。

 

「……な、なにしてるの!?」

「……当たった?」

 

 驚くジータと、全く別のことを尋ねるオーキス。

 

「いや、避けやがった。――来るぞ」

「来るってなにが……きゃあ!?」

 

 首を横に振るダナンが言った直後、グランサイファーの船首側になにかが落下してきたような音が聞こえて少し揺れた。

 

「皆、気をつけて! 船首になにかいるわ!」

 

 ロゼッタの警告と、先のダナンの攻撃を避けたという“なにか”。二つが合わさってすぐに臨戦態勢を整える。

 

 こつこつという軽快な足音と共に船首から歩いてきたのは、やけに色白な黒い服の男だった。

 

「んん……? まさか本当に突破するとはねえ……」

「お、お前は! 祭の時の変態野郎!」

 

 ビィの率直且つ直球な悪口にも、笑みを浮かべて返す。

 

「よせよ、公衆の面前で。オレのマゾヒズムを擽る気か? まぁそれでもいいが。少々時間を貰えるか? 先ほどサディズムを満たしたばかりでね」

 

 そう言うと、男は腕に抱えた双子の天司を甲板に放り捨てた。二人は傷だらけになっており、この男一人に敗北したことが窺える。

 

「ハールートさん! マールートさん!」

「う……うぅ……。皆、気をつけろ……!」

「この男……ベリアルは……天司のひとり……ルシファーに組する……」

 

 不幸中の幸いか痛めつけられただけで済んだ様子だ。だがいくら天司とはいえ、瀕死の状態ではどうなるかわからない。

 

「喋るな! 今、応急手当をする!」

 

 カタリナとロゼッタが双子の天司を運んだが、ベリアルはそれを邪魔しなかった。カタリナとイオとで二人の回復に努める。

 

「てんめぇ……! ルシフェルの敵の一味ってことかよ! オイラ達の邪魔をする気か!?」

 

 怒りを露わにするビィと、それぞれ武器を構える一行。だがベリアルは飄々とした態度を崩さない。

 

「そういうことになるな。キミには本当に申し訳ないと思ってる。パティシエなんて嘘を吐いて悪かった」

「バカにしてんのか! そこはどうでもいいんだよ!」

 

 悪びれた様子もなく、また的外れな謝罪だった。

 

「カッカするなよ。別に通してあげてもいいんだが……条件としてオレと姦淫しないか?」

「うん? えっと、カン……?」

 

 ベリアルの言葉の意味がわからずきょとんとするルリアと、わかった者は嫌悪感を示しわからない者を守るように前に出た。ラカムもその一人である。

 

「下がってろ、ルリア。この下品な野郎に耳を貸すな」

「キミがやるのか? いいね、ソドミーといこうか」

「はぁ……?」

「ソドミーはいいぞ。半永久的なオーガズムが得られる」

「このヤロウ……! やるぞ!」

 

 ふざけた答えを返すベリアルに痺れを切らし、交戦に入る。

 ベリアルは笑みを浮かべたまま跳躍すると、背中から黒い蝙蝠のような翼を六枚生やした。グランサイファーの前に立ち塞がるように翼を広げ、背に不気味な紋章を浮かべる。赤黒い剣が四本滞空する様は、どこかサンダルフォンにも似ていた。その身から放たれるプレッシャーの強さからもひしひしと伝わってくるが、どれだけふざけた言動をしていてもベリアルが上位の天司であることに間違いはないのだろう。

 

「オーケイ、やろうか」

 

 ベリアルはあっさりと戦闘態勢を取り、一行に牙を剥く。

 グランとジータが飛ぶ相手に有効な『ジョブ』を選択する中、ダナンが両手を突き出して光を集束し始めた。

 

「ん? あぁ、さっきのはキミか」

 

 先ほどよりも距離が短く、数も単純に二倍。だがベリアルの感想はたったそれだけで、手から放った黒い波動によりまとめて消し飛ばしてしまう。

 

「……チッ」

 

 ふざけた物言いとは裏腹に、紛れもない強敵である。ダナンの舌打ちを聞いたグランとジータは迷いを捨てた。

 

「「【十天を統べし者】!」」

 

 カナンへ辿り着いた時にどんな障害が待ち受けているかはわからない。だが出し惜しみができる相手ではなかった。

 グランとジータが揃って十天衆と同じ衣装に身を包む。

 

「フフッ……いいねえ。俺を楽しませてくれよ、特異点?」

 

 二人の本気を目の当たりにして尚、ベリアルの余裕は崩れない。だが軽い足音とほぼ同時に、三寅斧を持ったグランが眼前まで迫っていた時は驚いた様子を見せていた。

 

「おっと」

 

 一撃をさらりと避け、

 

「いいのかい? そんな無防備な姿を晒して」

 

 空中で身動きの取れないグランへと赤黒い剣の切っ先を向ける。しかし落下するグランの後方から、無数の矢が飛来してきた。それらの対処をしている間にグランは落ちていくが、氷の板が形成されて着地する。

 

「ありがとう、ジータ、イオ」

「ちょっとは考えてから向かってよね」

「グランはホントに無茶ばっかりするんだから」

 

 一旦グランサイファーの甲板まで戻ってきて、彼をフォローした二人へと礼を告げた。

 退いたグランの代わりに遠距離攻撃のできるラカム、オイゲン、イオ、ロゼッタがベリアルを攻撃するが大きな隙は生まれていない。サンダルフォンと違って巨大化しているわけではないものの、逆に小回りが利くため対処しづらかった。

 

「ダナン君。私とグランが動くのに合わせて足場を設置できる?」

 

 【十天を統べし者】グランですらベリアルに決定打を与えられていない。相手が飛んでいるからというのもあるが。

 だからこそジータはベリアルの様子を見つつ、ダナンへと尋ねた。彼女の考えとしては、【十天を統べし者】の驚異的な身体能力を活かせるだけの足場さえあれば、ベリアルに対抗できるというモノ。

 

「できなくはないが、お前ら二人の動きを先読みして足場を作り続けるのは面倒だな」

「じゃあお願いね」

「……はぁ」

 

 遠回しにやりたくないと発言するのだが、全く取り合ってもらえずついため息で返事をしてしまう。

 

「オーキス、レオナ。流石に俺も集中する必要があるから、無防備になる。任せていいか?」

「……もちろん」

「任せてください」

 

 とはいえダナンもジータの提案が有効であると判断してからこそ、信頼の置ける二人に任せて提案に乗ることにしたのだった。

 

「頼んだからね!」

「わかってるよ、いいところで落としたりしないって」

「それ言うのはやるってことだよね!?」

 

 冗談交じりの返答にツッコミつつも、ジータはベリアルとの戦闘に加わる。ベリアルは遠距離攻撃に対処しながら、跳んでくるグランの攻撃をひらひらとかわしていた。未だ直撃は与えられていない。

 

「グラン! 自由に動き回っていいよ!」

「……っ! わかった!」

 

 ジータが声をかけて、グランも大体の状況を察する。彼も考えていたことだが、安定した足場を創れる者がいれば、なんとかなりそうだった。それが解決したということだろう。

 

「……ったく」

 

 仲間になったつもりはないが二人からの信頼に嘆息しながら、ダナンは近くにあった木箱に座る。立ったままよりは集中しやすい。

 

(……ワールド、補助してくれ。流石に【十の願いに応えし者】を使ってない状態であいつらの動きについていけるとは思えねぇ)

『では使えばいいのではないか?』

(バカ言え。こいつ相手に全力出してたら、別のヤツに敵わないだろうが)

 

 頭の中でワールドと会話し、知覚と創造に意識を集中させる。

 

「はぁ!!」

 

 ジータが一伐槍を手にベリアルへと真っ直ぐ突っ込んでいく。

 

「おっと。けどいいのかい? そんなに勢いよく突っ込んだら落ちて――ッ!?」

 

 簡単に避けられてしまうが、後方まで跳んでいってしまったジータが突如現れた壁に足をつけて方向転換した。ベリアルが振り返った頃には眼前まで迫ってきていて、回避が間に合わず攻撃を受けてしまう。

 

「なかなか激しいプレイじゃないか」

「はっ!!」

 

 それでも余裕を崩さなかったベリアルだが、続けてグランも肉薄している。それを回避する中でファーストールに攻撃が掠り黒い羽根が散った。口を開く間もなくジータが接近、赤黒い剣で防御しているとグランの七星剣に背後から斬りつけられる。

 

「ッ――!!」

 

 ベリアルが体勢を崩すと双子が同時に蹴りを放って追撃。その勢いを利用して離れまた虚空から現れた壁に足をつけて跳躍する。空中を縦横無尽に跳び回りながら攻撃してくる双子に、流石のベリアルも苦戦している様子だった。

 ダナンは普通の人の目には追えないほどの速度で動く二人を先読みして壁を創り、更には遠距離攻撃がしやすいように邪魔な壁から消している。ワールドの補助があるとはいえ戦闘と両立できないのも納得だ。

 

 

「なるほどねえ。キミを狙えばいいわけだ。――ゴエティア」

 

 だが余裕が真に崩れることはなかった。剣や翼で二人の猛攻の被害を最小限に抑えると、今の自分が不利になっている状況を作り出した張本人を割り出す。赤黒い剣の一本を巨大化させ、ダナンへと向けて放った。

 ダナンは攻撃を知覚してはいたが仲間二人に任せていたため、瞑目したまま一切動かない。

 

「……ロイド」

 

 オーキスの声に応じたロイドが星晶獣並みの豪腕を振るって剣を受け止める。

 

「はぁっ!」

 

 動きを止めた剣に対し、跳び上がったレオナが薙刀をぶつけ跳ね返すことに成功していた。二人共遠距離攻撃手段を持たないが故に、自分ができることに対しては全力である。一筋縄ではいかなかった。

 

「それなら、もっと激しくしたらどうかな? ――アナゲンネーシス」

 

 しかしベリアルの余裕が崩れることはない。大技を放つべく力を溜めて、

 

「獅子烈爪斬ッ!!」

 

 背後に現れたレオナの渾身の一撃をまともに食らった。空中でよろけたベリアルだったが、すぐさま振り返って攻撃に移る。だがその時には既にレオナの姿はない。大技の溜めという隙を確実に突くためだけに空間転移を使ったようだ。

 体勢を立て直す間もなくグランとジータの二人が飛び出している。

 

「「レギンレイヴ・天星!!!」」

 

 双子の大技がベリアルに叩き込まれた。天星器のエネルギーを凝縮した波動が相手の身体を呑み込み、空の底へと墜落させる。

 消し飛ばすとまではいかなかったが、確実に倒したという手応えがあった。

 

 ベリアルは力なく落下しながら、どんどん遠くなっていく騎空艇を見上げる。

 ……本当は特異点の二人だけと遊べればいいはずだった。もう一人の方は、所詮ファーさん以外の創った星晶獣の力を使っているだけ。原初の星晶獣を知る自分からしてみればそうそそることはないと思っていた。だが存外、楽しめそうだ。

 

 上から見えなくなったところで飛翔して上がろうとした直後、黒い箱に閉じ込められて壁に激突する。ぶつかった衝撃から考えても相当に頑丈な箱だ。少なくとも内側から破るのは至難の業だろう。そしてよくわからない現象を引き起こせる相手は見たところ一人しかいなかった。

 

「フフ……」

 

 こちらが力尽きていないことを察してトドメを刺しに来たと言ったところか。ベリアルが不敵な笑みを浮かべた次の瞬間には、黒い箱ごと空間が圧し潰された。




エウルア完凸しました。
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