ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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『こくう、しんしん』が始まってしまいましたね。
できればイベント開催期間中の番外編完結を目指したい所存。ただしそうなるとは言ってない。


EX:『失楽園』繭

 なんとかベリアルを退けた一行。ダナンの協力がなければ相当な苦戦を強いられていたであろう相手を撃退できて、少しほっとした様子だった。

 

「――世界は箱の中に(ワールド・イン・ボックス)

 

 だがダナンが手元に黒い立方体の小さな箱を形成したことで怪訝に思い注目が集まる。

 

「圧壊」

 

 そのまま黒い箱を両手で左右から潰すようにすると、箱は見事にぺしゃんこになった。見ているだけでは一体なにをしているのかわからない。

 

「……はっ。()()()()()()

 

 ダナンは吐き捨てるように笑う。内心で冷静に分析しながら。

 

「……なにしたの?」

「気にするな、大したことじゃねぇよ」

 

 オーキスの質問に返答して、警戒しつつも余分な力は使いたくないので追撃の手は止めておく。

 

 なにも言わないことに対して不満そうな面々もいたが。ティアマト達が協力して起こした風の力によってギリギリ飛翔している状態のグランサイファーが航行し、ようやくカナンを目にすることができたので意識がそちらに逸れる。

 

「カナンが見えてきました!」

「あぁ! 飛ばすぜ、グランサイファー! もうちょっとの辛抱だ!」

 

 カナンへの到着に光明が見えてきて明るい雰囲気を作る一行だったが、ボォと甲板が燃え上がったのを確認して騒然となった。

 

「お、おい! 甲板が燃えてるぞ!」

「どうして……!? 爆発物など置いていないのに……!」

 

 カタリナの言う通り、爆発物は置いていない。爆発音などもしなかった。となれば第三者の仕業である。

 黒い影が視界の端を通ったかと思うと、

 

「フ、フフフ、ウフフフ……」

 

 傷を負ったベリアルが舞い降りてきた。倒したはずの相手が無事だったとなれば驚愕もする。

 

「ベリアル……! まだ生きていたのか!?」

「忘れたのか、オレの役割を。他人を騙すことが生き甲斐なのさ」

 

 全員の気持ちを代弁したハールートの言葉に、ベリアルは余裕を持って応える。【十天を統べし者】の大技を、それも二人同時で受けても余裕そうな相手に、彼の実力を上方修正した。

 

「『狡知』……。役割なんてほとんど無視する癖に……ルシファー直属の元天司のことなんて――」

「『堕天司』と呼んでくれよ。創造主のファーさん直々の命令だぞ?」

「なにがルシファーだ! 知ってるんだぞ、ルシフェルにやられたヤツだろ!」

 

 過去の幻影を見てビィが告げると、ルシファーのことを語る時は気分が良さそうだったベリアルの表情がすっとつまらなさそうに変化する。

 

「ルシフェルね。完璧で、公明正大で、無私無欲で……実に退屈なヤツだった。人も獣も神も、少々偏ってこそ魅力的なモノだろう? その意味ではファーさんの偏り具合は、無限にイキまくれるほど際どいモノだった。そして……その彼が遺した作品……天司長が封印した『ルシファーの遺産』も」

 

 ルシファーのことを語る度に、ベリアルの表情は高揚していく。

 

「アレを拝める日が来ると想像するだけで昇天モノだ……! 世界がオシマイになっちまうんだぜ? そんなの、生きてる内にどうやったって拝みたい!!」

 

 白目を剥きかけ興奮し切った様子で熱弁する。言い方こそ耳障りだったが、内容は聞き捨てならないモノだった。

 

「あ、あなたの目的はその危険な遺産の封印を……!?」

「天才の所業を世に開示する。そのための施錠は破壊する」

 

 ベリアルは断言した。

 

「では今度こそ本当にサヨウナラ」

 

 言うが早いが、ベリアルは姿を消す。グランサイファーの炎は取り逃がした手前ダナンがさっさと消していた。

 

「待て……! 天司長様になにをした……!」

 

 呼び止めようとするハールートだが、彼女らの受けた傷は浅くない。

 

「動いてはダメだ! 君達は羽の損傷が特に酷い。ここは堪えて機会を待とう」

「わかったわ。でもこのままだと艇が空の底に……」

 

 カタリナが止めて、双子の天司は浮かせた腰を落ち着けた。カタリナはマールートの発言に考え込む様子を見せる。そしてラカムへと顔を向けた。

 

「ラカム。『あの艇』の推進力は、カナンまで届きそうか?」

「可能性はある。遠心力が加わるように射出すればな」

 

 明言しなかったが、ラカムには伝わったようだ。わかっていない様子の者も多いが。

 

「あの艇……? なんの話をしてるんだ、姐さん?」

 

 ビィも首を傾げている。カタリナは悩んでいる様子で、グラン、ジータ、ダナンを順に眺めた。

 

「グランかジータとルリア、そしてビィ君。若しくは――」

「俺はパスでいい。ぶっつけ本番じゃ無理だろ」

 

 ダナンとオーキスと言おうとしたのだろうが、先んじてダナンが手を振り断る。知覚範囲の広い彼はカタリナがなにをしようとしているのかを大体察していたのだ。

 

「そうか。ならグランかジータのどちらかに、格納庫まで来て欲しいんだが……」

 

 カタリナが告げると、双子は顔を見合わせた。なにをやろうとしているのかはよくわからないが、どうやら二人一緒には無理な様子だ。

 

「時間がない。どちらか片方、決めてくれないか」

「えっと……」

「そう言われても……」

 

 急かされるも戸惑う二人に、ダナンが歩み寄る。

 

「深く考える必要もねぇが、俺はジータが行くべきだと思うな」

「私?」

「ああ。俺やグランよりも向いてる」

「??」

 

 明言を避けているせいで余計に頭を悩ませているようだが、

 

「ダナンがそう言うなら、ジータでいいんじゃないかな」

「グランまで……」

「ダナンはちょっとアレなところもあるけど、こういう時に嘘は言わないだろうし」

 

 グランからの評価に、本人は肩を竦めていた。

 

「……わかった。じゃあ私が行ってくるね」

「「よろしく」」

 

 二人に軽く肩を叩かれたジータがルリア、ビィと共に装備を整えて格納庫まで向かう。

 

「こ、こりゃあ……」

「ナイトサイファー!?」

 

 格納庫にあったのは、速度に特化した小型騎空艇の一種で、走艇と呼ばれるレース用の艇だった。

 ナイトサイファーは、かつて一行が参加したレースで乗り、見事に準優勝を果たしたモノである。一応ジータも操縦はしていたが、本番レースではグランが操縦していたモノになる。

 

「シェロカルテ殿の案で、緊急時のために運び込んでおいたんだ。定員は概ね二人……ジータ達は先行してカナンに向かって欲しい」

「ちょ、ちょっと待てよ! じゃあ姐さん達がどうするんだ?」

「そうだよ……! イオとロゼッタが魔力を込め直して、ラカムとオイゲンが策を練っている。それに先のベリアル……ルシフェル殿は今も危機の渦中だろう。だとすれば君達の力が必要だ」

「う、う~ん……そうかもしれねぇけどよぉ……」

 

 ルリアとビィは他の仲間を置いて先に行くことに不安があるようだ。だがジータはそんな二人を尻目に着々と準備を進めている。

 

「ハールート達によると、ルシフェル殿の気配はカナンの中央地点の神殿にあるそうだ。……だが、走艇は飛行と言うより走行……射出後は滑空する形で乗ることになる。つまり君達も大きな危険を伴うんだ。頼めるか?」

「……後でカタリナ達も来るんだよね?」

「もちろんだ。あの災厄の時も約束は果たしただろう?」

「うん! 行こう、二人共! カナンの神殿に向かって! ……って、あれ?」

 

 ルリアがカタリナとのやり取りの後、後ろにいるはずのビィとジータを振り返ってようやく気づいた。ビィはそこにいるが、ジータはいない。というかもう準備万端でナイトサイファーに乗り込んでいた。

 

「っておい! もう乗り込んでるじゃねぇかよっ!」

「あはは……ジータは皆のことが心配じゃないんですか?」

 

 ツッコミを入れるビィと尋ねてくるルリアに顔を向けたジータは、明るい笑顔を浮かべる。

 

「うん。だって、グランもダナン君もいて、心配する必要なんてないでしょ?」

 

 屈託のない笑みを見て、三人は苦笑するしかなかった。

 

「それもそうだな! よし、景気づけにアレをやるか?」

「アレ? まさかルリアが作った応援歌のことか? ちょ、ちょっと待っ……!」

「「「wow wow wow wow♪ wow wow wow wow♪」」」

 

 ジータ、ルリア、ビィが声を揃えて歌う。同調圧力がかかり、カタリナも仕方なく加わることになるのだった。

 

「ふふ……!」

 

 士気を上げたところで、三人共がナイトサイファーに乗り込み射出を行う。

 ナイトサイファーは天国の門を突破し、弧を描いてカナンの空を走り出した。そのまま旋回するように、神殿が佇む岩塊へと滑り込んでいく。

 

 遠目で見ていたカタリナ達は安心したように笑顔になると、早速艇の修理に取りかかるのだった。

 

「ねぇ、ダナン」

「ん?」

 

 修理に取りかかる中、グランがダナンへと声をかけた。

 

「ジータに行かせたのってさ、もしかしてカナンにサンダルフォンがいるから?」

 

 思わぬ質問に、一度瞬きをする。

 

「なんでそう思ったんだ?」

「天司関連で、僕達よりジータが適任だって言うならサンダルフォンがいるからかな、って思ったんだけど」

「へぇ?」

 

 グランの回答に、ダナンはにやりと笑った。

 

「お前も頭でモノを考えるようになったんだな」

「酷くない? 元からちゃんと考えて動いてるよ」

 

 むすっとするグランだったが、話を聞いていた彼の仲間達が苦笑しているのを見ると察しの通りである。

 

「ま、いるって言うと微妙なところだけどな。天司関連は俺達でも分析できない部分が多い」

「……なぁ。カナンの様子がわかるということは、キミは天司長様が今どんな状態かわかるのかい?」

 

 グランと話していると、休んでいるハールートが尋ねてきた。

 

「んー……」

 

 正直に言えば、わかる。だがルシフェルを慕う天司に対して事実をそのまま告げると無謀にも直接飛翔して突っ込んでいかないかと思ってしまう。ちらりとグランに目を向けると、何事か察したらしく小さく頷いた。ダナンとしては無理をしそうなら力尽くでも押さえろよと言いたいのだが伝っているのかどうか。

 

「まぁ、わかるぞ」

「なら教えて頂戴。天司長様の安否を」

 

 マールートも気になる様子だ。いつの間にか修理の手を止めて全員の視線がダナンへ集中している。

 

「……死にかけも死にかけの状態だ。もうじき死ぬ。辛うじて保ってるが、長くは続かねぇな」

 

 言い淀んだが、期待を持たせるのはより残酷な行為であるため、飾らず事実を口にした。いつか息を呑む声が聞こえてきたが、双子の天司は声を荒げるようなことも慌てて飛び出すようなこともしない。

 

「なんだ。感情任せに否定するか、飛び出すんじゃないかと思ってたんだけどな」

「……異常事態が起こってから、覚悟はしていたよ」

「でも天司長様が倒されるような相手なんて……」

「それが起こったからの“異常事態”なんだろ。ったく、面倒なことしてくれやがる」

 

 ダナンにはおそらくルシフェルを殺ったであろう敵の目星もついている。だがワールドの知覚能力を以ってしてもどういう相手か断言ができない。多分星の民……だとは思うが混じっているせいでわかりづらい。

 

 更なる困難が待ち受けているかもしれない状況下で、カナンへと向かった三人の無事を祈りながら今後に備えてグランサイファーの修理を続けるのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 ジータ、ルリア、ビィの三人はなんとかカナンへと上陸することができていた。ナイトサイファーを降りてルシフェルの気配がするという神殿内を探索していく。

 神殿は色も装飾も乏しい空間で、異様なまでの静寂に包まれており、自分達の呼吸の音さえ耳についた。

 

「ふぃ〜……なんなんだよ、ここは。妙に息が詰まっちまうぜ」

「そうですね。どの部屋もとても綺麗なんですけど、清らかすぎるというか……?」

「そうそう。でかい癖にすっからかんだしよ。なんか落ち着かないぜ」

「ルシフェルさんがいるっていう話だけど、誰かがいそうな気配はないよね」

 

 神聖にして厳格。そんな神殿内の空気に呑まれないよう話す三人。そこで、ビィが思いついたように告げる。

 

「そういえばルシフェルの気配はどうだ? ここまで来りゃあルリアもわかるのか?」

「う〜ん……。わかるんですけど、なんだか変なんです。あちこちに広がってる感じで。すみません。この神殿の中にいるのは確かだと思うんですけど……」

「いいってことよ! 天国の門だって変なことばっかだったし、ここはもっと常識が通用しねぇんだろ」

 

 励まし合う二人を、微笑ましく見守るジータ。

 

「はい。じゃあどっちの道に行きましょうか、ジータ」

 

 そんな彼女をルリアが振り返った直後、ルリアの方から光が発せられる。

 

「ひゃい!? な、なんですか、この光は……?」

 

 驚きつつも光の出所を探ると、ルリアの腰に飾った羽根が輝き、風が吹いているかのように靡いていた。

 

「ど、どういうことだ? あっちに向かって流れてるような……」

 

 ビィが羽根の指し示す方向に、やや高めに飛ぶ。

 

「お? ジータ、ルリア! あっちの台座になんかあるぜ!?」

「あ、本当です! 行ってみましょう!」

 

 ビィの指した方向に近づいたことで二人もそれを発見し、駆け足で向かった。

 

 向かった先には台座があり、その上に奇妙な物体がある。空域を渡って旅をしている三人でも見たことがない形状の物体だ。

 

「なんだぁこりゃあ? ワッカのついた卵みてーな置物があるぜ」

「ワッカと言えば天司さんですけど……この白いところはなんだか温かいです」

 

 腕を組み首を傾げるビィと、卵みたいな部分に触れるルリア。ジータは首を傾げて考え込んでいる。

 

「おいおい、あんまり不用意に触るなよ。あの変態堕天司の罠かもしれないぜ?」

「そ、それは嫌です……。えっと、他に変わったところは……」

 

 ビィの言葉に触るのをやめて、別方向から見てみようと右側から覗き込むルリア。ジータは逆の左側から覗き込んでいた。

 

 その瞬間、ルリアの羽根と物体が共鳴するように輝き出す。目も眩む光はどんどん輝度を増していき――。

 

「うわぁ! め、目が見えねぇ!」

「ジータ、ビィさん! どこですか! どこに……!?」

「二人共、あんまり動かないで!」

 

 光に視界を潰された二人は慌てそうになるが、ジータの叱責に動揺を僅か抑え込む。

 やがて目を閉じてもわかる光の明るさが和らぎ、目を開けた。目が眩んだ影響でよく見えないが、少なくとも神殿の中ではない。

 

「う……う~ん。二人共、そこにいるのか?」

「は、はい。ジータもいますよね?」

「うん。ここにいるよ」

 

 互いの姿がどこにあるのかもわからないため、声で無事を判断して少しほっとする。

 

「とりあえず一安心だぜ。目が慣れてきたけど、ここはなんなんだ?」

 

 ビィがきょろきょろと辺りを見回す。緑豊かな自然と街並みが広がる、彩のない神殿とは打って変わって普通の場所だった。

 

「私達、神殿にいましたよね……? でもここはカナンでもなさそうです」

「うん。全く別の場所って感じかな」

 

 カナンは特殊な天候を越えた先にある島だからか、人気を一切感じない。だが今三人がいる場所は穏やかな風景が広がっていた。

 

「驚いたな。ここに人が来るなんて。どこから来た? うん……?」

 

 そこに、第三者から声をかけられる。現れた人物と聞き覚えのある声に、三人は一斉にそちらを向いた。

 

「んなッ! お、お前は……!?」

「……! さ、サンダルフォンさん……!?」

「どうしてここに……!」

「き、君等は……!」

 

 向こうもこちらに気づいていなかったのか、声をかけてから驚愕している。謎の世界に引き込まれて、予期せぬ再会をしたのだった。

 

 サンダルフォンは話を聞くためにひとまず自身の住処に案内してくれる。そこで三人はここに来た経緯と事情を語るのだが。

 

「カナン? 不思議な繭に引き込まれた?」

 

 口にした単語がピンと来ていないのか、繰り返すと考え込んでしまう。

 

「わからないな……。その羽根がなにかの扉の鍵といったところか」

「お前でもわかんねぇのか。元の場所に帰る方法はどうだ?」

「それもわからないが、探せば出口はあるかもしれないな」

「探せば? サンダルフォンさんは探したことはないんですか?」

 

 まるで他人事のような物言いに、ルリアは小首を傾げて尋ねた。

 

「ないよ。あの後、目を覚ましたらここにいた」

 

 彼の言う「あの後」とは前回サンダルフォンがルシフェルによって回収された時のことを言っているのだろう。

 

「天司長の意図は俺ごときが推測しても無意味だ。だが、俺は納得しているよ。審判を気取って空を壊そうとしたんだ。君達にもすまないことをした。どんな罰でも受け入れるさ」

 

 サンダルフォンからは以前のような八つ当たり気味の雰囲気がなくなり、穏やかになったように見える。

 

「お、おぅ……。でもよぅ、すまないで済む話じゃねーんじゃねぇか?」

「だろうさ。だからどんな罰でもと」

「罰、ったって、なぁ……」

 

 ビィはサンダルフォンと会話しているが、ルリアとジータは黙り込んでいる。

 

 誰もなにも報われない不毛な問答になることは理解していたため、その後は沈黙が続く。

 

「……ああ、ところで」

「は、はい?」

 

 数秒の沈黙を破りサンダルフォンから口を開いた。

 

「天司長が危険だと言っていたな? あの彼が滅びるとは思えないが……。とりあえず脱出方法が見つかるまで、ここを拠点にしてもらって構わないよ。この空間には時間が存在しないんだ。偶には寛いで英気を養ってみては?」

「時間がない? ちょっとよくわかんねーけど」

 

 首を傾げ三人の気持ちを代弁するビィ。

 

「いつもなにをして過ごしてるんですか?」

「はは、別になにも。ただ珈琲の木々を育てている。実がなったら収穫して、焙煎して抽出して淹れて飲む。何年か何十年か、あるいは……。ずっと一人でそうしている。時間が存在しないのに何年というのもナンセンスだが。兎に角そういうところだ」

「おいおい……。ずっと繰り返してるっていうのかよ。そんなの頭が変になっちまいぜ」

「フフフ、なにを気にしている。加害者の心配なんてどうかしているぞ?」

「心配っていうかよぉ……。もちろん災厄のことは許せねぇけど、なんか神妙で調子狂っちまうぜ」

 

 サンダルフォンの以前とは全く異なる様子に困るビィとは裏腹に、ルリアとジータはややむっとした表情になっている。

 

「ジータ、ルリア。ここを出る方法を探すとするか。まずはこの辺りを見て回――」

 

 ビィが二人のいる方を振り返ろうとした時のことだった。

 

「ウソです……」

 

 ルリアが小さく呟いた。

 

「うん……?」

「ルリア?」

 

 話していたサンダルフォンとビィが怪訝そうに彼女の方を向く。

 

「サンダルフォンさん。どうしてウソなんか吐いてるんですか? あなたは本当の意味で反省してません!」

 

 サンダルフォンの今の態度を糾弾するように、ルリアは断言した。

 

「あなたは必要とされたいのに……ルシフェルさんの役に立ちたいのに……。ただ全てを諦めて、悩み事を放り投げて、ここに閉じ籠もって……それでいいんですか!?」

「蒼の少女、なにが不服なのかな? 災厄は君達が阻止した。空は安寧が戻り、俺は裁かれるんだぞ?」

「そういう……そういうことを言ってるんじゃないんです!」

 

 ルリアの必死の訴えも、未だサンダルフォンには届かない。

 

「どう言えばいいのかわからないけど、このまま裁かれてもなにも変わらない。あなたが変わらなければ、災厄は終わらないんです!」

 

 ルリアの珍しい剣幕に、他二人もサンダルフォンも黙っていた。

 

「……では、どうすればいいと?」

「それは……」

 

 彼の問いに、ルリアは明確な答えを持ち合わせていない。ただこのままではダメだという感情に突き動かされて言葉を発していた。

 

「俺に悩み続けろと言うのか? 苦悩を抱えて永遠に生きればいいのか? なるほど、それも確かに罰と言える。だがそれこそ以前となにも変わらない。解決できない苦悩を忘れて、静かに暮らすことのなにが悪い?」

「本当に解決できないんですか? ルシフェルさんはわかろうとして――」

「国王と平民の子供が、対等に相互の心を理解できると思うか?」

「君はわかっていない。アレの見ている地平はあまりに高い……」

「でもあの時、ルシフェルさんは歩み寄りました!」

「そうだな。裕福な者が貧しい者を同情するように」

「どうして……! そんなことない、ルシフェルさんは――」

「もういいだろう! 君がルシフェルのなにを知っている!?」

「知りません!!」

「……ッ!」

 

 ルリアとサンダルフォンの言い合いは白熱していく。ルリアも精神的に未熟な部分があるため感情を落とし込む言葉を持たず、おそらくそれはサンダルフォンにも言えることだった。

 

「けど! サンダルフォンさんのことなら、ちょっとわかってるつもりです! 似てるんです、私も……! 帝国に捕まってた時は特に……。私は何者なんだろう? なんでここにいるんだろう? なんの役に立てるんだろう? でも、その、存在意義? というのがわからないままでも……私は元気です! 皆と出会えてわかり合えたから!」

「元、気……。なにが、言いたい……?」

 

 ルリアの言いたいことが理解できないのか、理解しようとしていないのか。

 

「君が特異点に救われたとして、捨て駒の俺など誰も救わない! そうだ、俺は捨て駒だ! 初めからその役割を与えられた! 埋めようのない差なんだよ!」

「――いい加減にしろ!!」

 

 サンダルフォンの左頬に、それまでずっと黙っていたジータの右拳が炸裂した。突然のことに誰もなにも言えず、サンダルフォンは後ろによろけて半ば呆然と殴られた左頬に手を当てている。

 殴った本人であるジータはと言えば、珍しく額に青筋を浮かべなんらかのオーラでも出ていそうな形相だった。

 

「さっきから黙って聞いてればうじうじぐだぐだいじいじと、もうっ!! ホントに昔の自分を見てるみたいでイライラする……ッ!!!」

 

 ルリアからしてみれば初めて見る荒ぶった様子だが、ビィは初めてではない。

 

「特異点……君は」

「悪いことをしたら謝る。次にしないことを誓う。心を入れ替えたところを行動で示す。簡単なことを、二千年も生きててなんでわからないの? いじけて閉じ籠もってもなにも変わらない。誰も救えない。結局、自分が楽な方に逃げてるだけじゃん」

 

 ふーっと大きく息を吐いて、しかし突き刺すような刺々しい言葉を放つ。

 

「サンダルフォンはそれでもいいかもしれないけど、じゃあルシフェルさんは? ルシフェルさんは歩み寄って謝った。それで終わりじゃないでしょ? ルシフェルさんはきっと、サンダルフォンが心を入れ替えてくれるのを待ってる」

「やめろ、俺なんかに構うな……!」

「まだそんなこと言うなら無理矢理にでもルシフェルさんの前に引っ張り出してやる……!」

 

 尚抵抗するサンダルフォンに、ジータは眉を吊り上げて手首をがっしり掴んだ。

 

「やめろと言っているだろう!」

「でも、ここで自分を虐めるだけじゃなにも変わらない! ルシフェルさんも、サンダルフォンも! そんな哀しいままの結末を、私は認めない!」

「煩いっ!」

「サンダルフォン!!」

「やめろぉぉ――――!!!」

 

 ばき、となにかがヒビ割れる音が聞こえた。見ればのどかな風景そのモノに亀裂が入っている。亀裂はどんどん大きくなっていき、蜘蛛の巣のように広がっていった。

 そして、呆気なく砕け散るのだった。

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