ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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古戦場の敵が硬くて嫌になりますね……。
今日を乗り越えれば本戦は明日だけなので、頑張って乗り切りましょう。


双子の想い

 グランのClassⅣ発動により蟠りを残していた一行だったが、ジータのおかげでとりあえずの落ち着きを見せていた。

 

 そんな中、ルーマシー群島に一隻の軍艦が降り立つ。

 

「私達帝国は、お前達との和解を望んでいる。詳しくはフュリアス将軍閣下の待つアルビオンへ来てから聞くといい」

 

 一行が警戒する中登場した兵士の一人がそう告げてくる。

 

「アルビオンだと!?」

 

 カタリナが驚くのを他所に、兵士は一方的に用件だけ告げて去ってしまう。

 

「どうしたの、カタリナ?」

「い、いや、なんでもない」

 

 ルリアに答えながらも、彼女の胸中は穏やかではなかった。

 

「……で、どうするよ。十中八九罠だろうけどな」

「うん……。真意を確かめたいところかな。とりあえずグランサイファーでアルビオン方面に向かっておこう。ここで軍艦とやり合う気力はないかな。それに、行き先はやっぱり二人揃ってから決めたいし」

 

 ラカムの言葉に頷きながらも、決断を委ねられる立場のジータが冷静な判断を下す。

 

「そういうことならとっとと行こうぜ。グランも安静にしとかなきゃなんねぇしな」

 

 オイゲンの言葉に皆が頷き、一行は島の端で停めた騎空艇へと戻った。

 

 そして、グランは自室で目を覚ます。見慣れた天井と、嗅ぎ慣れた匂い。身体に馴染んだベッドの感触。

 

「あっ! グランが目を覚ましましたよーっ!」

 

 彼が目を開けたことに真っ先に気づいたルリアが顔を綻ばせる。

 

「……ルリア。ここはグランサイファー? なんでここに……」

「もう終わった後だからだよ」

「ジータ! け、怪我は!? 無事なのか!? ――ぐえ」

 

 もう一つの声に驚き彼女を心配するグランを、他ならぬジータが胸倉を掴み上げる。

 

「じ、ジータ!」

「……グラン。ClassⅣ使ったんだって? アレは使いこなせるようになるまで使わない、って約束したよね?」

 

 泣きじゃくるビィを相手にしていた時とは違う、憤怒の表情である。

 

「っ……。うん、使った後のことも、覚えてるよ」

 

 萎縮しつつも怒っている理由が理解できるのか、抵抗はしなかった。

 

「なんで使ったの?」

「……それはジータが、傷つけられて、ついカッとなって……」

 

 ばちん、とジータがグランの頬を平手打ちした。

 

「じ、ジータ!?」

「違うでしょ。双子だもん、私にはわかる。グランはあの時、怒ったんじゃなくて殺したいって思ったんだよね?」

「っ――!」

 

 ジータに言われて、グランは図星だったのか目を見開いた。

 

「私が傷ついて、銃で撃たれて。死にそうになっているのを見てグランは多分、初めて人を殺したい、傷つけたいって思ったんだ。そのためにClassⅣを使うことを選んだ。違う?」

「……」

 

 ジータの言葉にグランは視線を逸らした。彼女の予想外の切り口に、仲間は皆驚き見守ることしかできなかった。

 

「……ジータ。僕は」

「言い訳無用!」

 

 ばちん、ともう一発ビンタが飛ぶ。ルリアがジータを止めるべきか迷っておろおろとしている。唯一面白そうに眺めているロゼッタ以外はジータを少し恐ろしく思っていた。

 

「……私も同じだったから。だからその気持ちは、よくわかるの。あの時私は、初めて人に殺意を覚えたんだから」

 

 ジータの震える声を聞いて、それがいつのことを言っているのか、グランは理解する。

 

 ――あの時。彼らの故郷ザンクティンゼルでルリアと出会った、あの時のことだ。

 

 グランはルリアを守るために帝国の軍人ポンメルンが操るヒドラに立ち向かい、そして一度死んだ。

 

 目の前で双子の兄が殺され、その死を嘲笑われた彼女の心境を推し量るのは難しいが。それでも大きな怒りと憎しみが殺意となって渦巻いたであろうことは間違いなかった。

 

「グランも同じだったんでしょ? ダナン君を確実に殺すためには、約束を破ってでもClassⅣを使う。確かに怒ってはいたんだろうけど、それ以上に殺したい気持ちが強かったんだと思う。だってあんなにちゃんと、皆から『使うな』って言われてたClassⅣを使ったんだもん。それにはちゃんと、それを使うだけの理由があったと思ってる」

「……」

「どう? 私の考えは間違ってる?」

 

 押し黙るグランへ、ジータは問いかける。そして皆が見守る中、彼は心内を吐露し始めた。

 

「……間違って、ないよ。あの時僕は……ダナンを殺したくなった」

 

 自分の中に生まれた殺意を告白する。

 

「ジータが倒されたところまでなら、使う気はなかったんだ。けどその後銃で撃たれて……そこまでする必要はないって自分の中が全部熱くなったみたいになって、その時ダナンがそれまでと変わらない顔で冷静に人を撃ってるのを見て、殺してやりたいと思ったんだ。人の命はそんな簡単に奪っていいもんじゃないんだって、思い知らせたかったのかもしれない」

 

 彼はまだ十五歳。未熟な精神性が生んだ、衝動的な殺意だった。

 

「じゃあ、ダナン君を殺す直前まで行ったんでしょ? 気分は良かった?」

「……あの時は」

「じゃあ、今は?」

 

 ジータの問いに、グランは自分の右手を見下ろした。

 

「……全然。むしろ最悪、かな」

「うん。グランはそれでいいと思う」

「えっ?」

「ずっと一緒なんだからわかるよ。グランは人を殺すなんてできないって。だから多分、殺意に流されちゃいけない。ダナン君は多分だけど、そういう人だから仕方ないと思う。だからって許していいことと悪いことはあるよ? でもグランは殺さなくて正解だったんじゃないかな」

「……そっか」

「そうだよ。殺してたらきっと、後悔してたんじゃないかな。オルキスちゃんは、ダナン君のこと信頼してるみたいだったし」

「……そうだね」

 

 ジータとのやり取りがあって、ようやくグランは笑みを浮かべた。弱々しくはあったが。

 

「よしっ。じゃあ約束破ったグランへの罰として、一人一発ずつ殴るからね」

「えっ?」

「じゃあ私から」

「えっ? いやさっきから殴って……」

「問答無用!」

 

 ごん、と今度はグーでいった。痛そうに拳骨を食らった頭を抑えるグランの前からジータが退き、オイゲンが前に出てくる。

 

「【ベルセルク】ってヤツもそうだが、感情を制御することも覚えねぇとな。でも時には吐き出すことも大事だぜ。まだ若ぇんだから年上を頼れよ」

 

 ごつんと銃で頭を軽く叩く。

 

「はい。ありがとうございます、オイゲンさん」

 

 次はラカムだった。彼も銃でこつんと頭を叩く。

 

「お前は優しすぎるのが短所でもあり長所だが、それを捨てなきゃいけない場面も出てくる。そん時までに覚悟決めとけ。俺もお前も、な」

「わかったよ。ありがとう、ラカム」

 

 次はイオだ。

 

「てぇい! 反省したら、もうしないこと! 絶対だからね!」

 

 真っ先に杖で思い切り引っ叩いて一言言うとすぐ去った。

 

「うん。ごめん」

「次はアタシね。なにも言うことはなくなっちゃったけど。凄く怖い顔して戦ってたから、あれはあんまりお父さんにも喜ばれないんじゃないかしら。もちろんアタシもね?」

「はい。すみません、ロゼッタさん。……ん?」

 

 今の彼女の言葉に違和感を覚えたグランだったが、こつんと優しく拳骨を受けて我に返る。そして次はルリアが歩み出た。

 

「ルリア……」

「グラン。私、グランが約束破ったこと、すっごく怒ってるんですからね!」

「うん……ごめん」

 

 胸の前で握り拳を二つ作るルリアの姿は可愛らしくもあったが、怒っているのが伝わってきて申し訳ない気持ちになる。

 

「じゃあ、覚悟してくださいね! ――サタン!」

「えっ? ルリアそれは……」

 

 顔を引き攣らせるグランの前でルリアが星晶獣を召喚する。狭い部屋が更に狭くなり、その中で呼び出されたサタンという黒い悪魔のような姿をした星晶獣が拳を振り下ろした。

 

「ぐほぁ!」

 

 怒りの鉄槌は深々と彼の腹部に突き刺さったという。

 

「これ以上はグランの身体にも良くないな。私からは言葉だけを送ろう。……グラン。君は一人で背負い込みすぎだ。何度も言うようだが年上を頼るように。あと【ベルセルク】は使いこなせるようになるまで本当に禁止だからな。もう一つ言わせてもらうと君はジータに少し過保護だな……」

 

 カタリナは言葉だけをくどくどと並べ立てて精神的ダメージを与える。

 そして最後に残ったのは。

 

「……ビィ」

 

 相棒たる赤き竜だった。彼も自分の行いは記憶に残っているため、ゆっくりと前に出るビィの間に気まずい雰囲気が漂った。

 

「……グランのバーカッ!」

 

 そしてビィから行動を起こす。罵りながらグランに突撃して頭突きをかました。

 

「バカ! ホントにバカ! オイラ、オイラぁ……!」

 

 ぽかぽかと頭を叩くビィの拳を受け入れる。やがて気が済んだのか殴るのをやめたビィは、

 

「……なぁグラン。あれってホントのことだったのかよぅ……」

「そんなわけないだろ」

 

 不安そうな相棒の身体を抱えて即座に否定する。

 

「昔からビィは僕達のことを励ましてくれてただろ。そういう元気なとこで、凄く支えになってもらってるよ。いてくれてホントに助かってる」

 

 陰りのない笑顔で決めたグランだったが。

 

「……グラン。それさっき私が似たようなこと言った」

「えっ!?」

「そうだぜぇ、グラン。ここでジータパクるのは良くねぇよ……」

「えぇ!?」

 

 ジータとビィに言われて、その時意識のなかったグランは驚き困惑する。そんな様子に他の皆が笑い出し、ようやく空気が弛緩した。

 

「じゃあ皆はもう行っていいよ。私はもうちょっとグランと話があるから」

 

 一通り済んでから、ジータが言った。彼女以外はグランに声をかけて部屋を出ていく。

 

「ジータ……?」

 

 二人きりになったグランはまだなにかあるのかと、ジータを眺める。

 彼女は近づいてくると、力いっぱい両手で胸倉を掴みグランを睨みつけた。その目には涙が溜まっており、明らかにグランを責める意思が見えている。

 

「じ、ジータ……?」

「ねぇグラン。私はグランのなに?」

「えっ?」

「答えて!」

 

 尋ねられ、困惑を強い声で消され考えてみる。

 

「双子?」

「他には?」

「ええと、家族とか、妹とか」

「そうだね。じゃあ聞くけど、グランにとって私はどういう存在?」

「うんと……大切な存在、かな。かけがえのない」

「そっか。じゃあ、戦ってる時はどう思ってる?」

「戦ってる時?」

「そう」

「……守らなきゃ、って痛っ!」

 

 グランの答えを聞いて、ジータは思い切りグランの身体を壁に叩きつけた。そこには確かな怒りが込められている。

 

「それが嫌なの!」

 

 そして、団長たろうと抑えていた感情を剥き出しにして声を張る。

 

「グランはいつもそうやって私を守ろうとする! ヒドラの時だって、バラゴナさんとの戦いだって、ダナン君の時も!」

 

 ヒドラの時は、ジータを押さえたかと思ったら自分が飛び出していった。

 バラゴナの時は、最後の一撃を決める時反撃があった場合ジータに危険が及ばないように銃を渡した。

 ダナンの時は、二人で戦う中ジータがダメージを受けたことに気を取られて隙を作った。

 

「私のことを守るために、ってそればっかりじゃん! それで自分が危険なことして! グランは私のこと大切だって言うけど、なんでそれと同じくらい私がグランを大切に想ってることに気づかないの!?」

「っ……!!」

 

 ジータの訴えに、ようやくグランは自覚した。……二人の両親は、幼い頃からいない。旅に出るか他界したかは置いておいて、どちらもいない時間が長かった。だから双子の妹は自分が守らなきゃ、という強い意識が半ば無意識の内に行動へ反映されていたのだ。

 そしてその強い意識の結果、自分の行動を省みていないことに。

 

「……ジータ。僕は……」

「聞きたくない! 口でならなんとでも言えるでしょ! だから、わかったら次から行動で示してよ……。もう、一人で勝手に突っ走らないで。私はグランの中で、そんなに頼りないの……?」

 

 グランの言葉を遮り、ジータは言葉を綴る。途中から悲しさが表に出てきたのかグランの胸元に顔を埋める格好になる。

 

「……ううん。いつも、頼りにしてる」

「嘘。だったら私が攻撃されただけでこっち向かないもん」

「うっ。……ええと、まぁそうだね。僕はきっと頼りにしてるつもりで、全然信頼できてなかったんだと思う。ごめん」

「他に言うことは?」

「気づかせてくれて、ありがとう。言葉だとあれだから、今度は行動で示してみせるよ」

「絶対だからね。ちゃんと協力すれば、ダナン君には勝てるはずだったんだよ。だって彼は一人で、私達は二人。それにそこまで差はないみたいだし」

「そう、だね。情けなかったな」

「グランの情けないとこなんていっぱい知ってる。けどあんまり情けないとルリアちゃんに愛想つかされちゃうから」

「うぇ!?」

 

 ジータの予想外の口撃にグランは変な声を出してしまう。顔を上げて悪戯っぽい笑みを浮かべるジータは、心なしか少し晴れやかな表情だった。

 

「ふふっ。グランはわかりやすいなぁ」

「……いつかジータに好きな人ができたらいっぱいからかってやるからな」

「今は無理かなぁ。グランとビィは私がいないと全然ダメだし」

 

 苦し紛れの言葉にもジータは余裕ある笑みを浮かべる。

 僅かに生まれるのが早かったとはいえほぼ同じ時間を生きてきている。それなのになぜかグランはジータに口で敵わないのだった。

 

「……いつか絶対からかってやる」

「できるといいねー。そのためにも心配かけないようにしてくれないと」

「わかってるよ。心も身体も、もっと強くならないと。ダナンも黒騎士も強かった。もっと頑張らないとね」

「皆で一緒に、だからね」

「わかってるって。僕一人じゃ、できることは少ないから。皆で勝てるように強くなる」

 

 確かな意志の込められた言葉を聞いて、ジータはとりあえず安心かと考える。

 

「それで、グランが倒されてユグドラシルが起こされて、その後なんとか倒したんだけど」

 

 急な話題転換に首を傾げるグラン。

 

「帝国の人が来て、和解しないかって言ってきたの」

「えっ?」

「おかしいでしょ? しかもフュリアスだって。絶対なんか企んでると思う」

「そうだね……」

「だから真意を確かめるためにもフュリアスのいるアルビオンまで行こうと思ってる。グランはどう思う?」

「う〜ん。僕も行っていいと思う。アルビオンがどういうところかわからないけど、ポート・ブリーズの時みたいにフュリアスが島の人達を苦しめてるなら、助けないと」

「うん。じゃあ決まり! 皆にこのままアルビオンへ、って伝えてくるね」

 

 行き先について話し合って、ジータはぱたぱたとグランの部屋から出ていった。

 

「……痛つつぅ。ジータは怒らせると怖いんだよなぁ」

 

 思い切り叩きつけられたせいでまだ痛む背中を押さえて苦笑する。

 

「でも今回は自業自得。次ないように、頑張ろう」

 

 気を引き締めて言い聞かせグランも自室を出る。こういう前向きなところがグランのいいところでもあった。

 

 ちなみに。

 ジータがグランへ訴えた声は大きく部屋の外にまで聞こえていたため、実は全員聞いてしまっているという事実があった。

 二人はしばらくの間、生温かい目で仲間達から見られることになるのだった。

 

 そしてアルビオンへ行った彼らがやはりと言うか騒動に巻き込まれるのは、また別の話。




実を言うと表のプロローグ、一番最初のヤツは大分あとに書いた話です。
なのでちょくちょく説明が被ってたりするかもしれません。

あとグランだけがルリアと命を共有した代わりと言ってはなんですが
若干ジータちゃんが闇堕ちしそう感出てましたかね?
そんなつもりはないということが、前話の天使感(出てたらいいな)で
伝わればいいなと思ってます。

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