次は今年のエイプリルフールに投稿したかったIF番外編でお会いしましょう。
予期せぬ共闘により、アバターを倒した一行。
気流も安定したところでやっと一息吐き、帰路の算段をする。
「終わったのか、本当に」
「うん? なにやってんだ、空の底なんか見てよ」
「少なくとも俺が知覚する範囲にも反応はねぇぞ」
「あの、一緒に休憩しませんか? 珈琲じゃなくてお水ですけど」
「俺はいい。ただ、気になるんだ」
ダナンの知覚にも引っかからないが、サンダルフォンは甲板から空の底を眺めて離れない。
「ヤツの再生能力は常軌を逸して――」
口にしている途中で、
「「ッ……!」」
サンダルフォンとダナンの表情が強張る。
「ゥ……オ……オオオ……」
すぐにアバターの呻き声が聞こえてきた。
「嘘だろ……! まだ生きてるってのかよ!?」
「どうする! だがここでやらなければ……!」
「クソ、無限のコアか……。いいだろう、無限に破壊してやる――」
サンダルフォンがそう口にした瞬間、赤い粒子が集まって一つの形を取る。
「なるほど。単純だが、良い案だ」
「なっ……」
現れたのは白髪に赤い鎧を纏う羽を生やした天司、四大天司の一人であるミカエルだった。
「はあぁぁぁ!!」
驚くサンダルフォン達を他所に、ミカエルは炎の柱でアバターを攻撃する。
「ォォォ……!」
続けて他の四大天司も続々と姿を現した。
「ミカエルさん!? 他の天司さん達も……!」
「ふぅ……。良かった、間に合ったみたいね」
「やれやれ、ここは俺らにとっちゃ不利な地なんだけどな。ここまでお膳立てされちゃ、ただ見てるわけにもいかねぇだろ」
「……」
「ふふ、彼が道を創ってくれていたおかげで結構助かっちゃったわ」
ガブリエルがつけ足してダナンにウインクすると、オーキスがむすっとする。
「皆様……! いらしてくださったのですね!」
「ご苦労だった、二人共。エーテルの安定と天国の門の崩壊、そしてそこの小僧の力でカナンまで直行することができたのだ」
「ですが、天司長様は……」
「わかっているわ。でも今は目の前のことに集中しましょう?」
「……どうするつもりだ?」
「サンダルフォン……。どうするもなにもない。貴様が先刻、宣言した通りだ。……無限に破壊するぞ!」
その言葉を合図に、四大天司はアバターに全力を放った。
「フンッ……!」
「オオオォォォ……」
その攻撃は止まることを知らず、
「はあぁぁぁ!!」
アバターを抑え込み、遂には追い詰めたのだった。
「おらおらおらぁ!」
「ゥ……オ……」
「今だ特異点、ヤツにとどめを! 空の未来を切り拓くのだ!!」
ミカエルの言葉に顔を見合わせたグランとジータは、頷き合って颯爽とアバターに飛び移った。そのままアバターの胸に二人同時に剣を突き立てる。
「コアは貫いた! そのまま切り離せェ!!」
ウリエルに言われ、二人はまたしても同時にアバターを両断した。
二人の攻撃により、アバターの心核とも言えるコアに、決定的一撃を見舞ったのだった。
「ァァァ……!」
「「ルリア!!」」
二人はアバターの傍から飛び去り、ルリアに声をかける。
「はい……! ――始原の竜、闇の炎の仔。汝の名は……バハムート!!」
ルリアに呼応して顕現した黒銀の竜が、アバターへと咆哮を放った。そして遂に、アバターの身体が爆散する。
「やったか!?」
「その、ようだ……」
「フッ……流石だな」
跡形もなく消し飛んだアバターに、一行と天司達は安心した表情を浮かべた。
「……」
だが、ダナンだけは難しい顔をしたままだ。
「……ダナン?」
「ん……いや、なんでもない。ただ、全員見逃がしちまったなと思っただけだ」
「……大丈夫。次も負けない」
「ああ、そうだな」
オーキスの言葉に頷いたが、そう簡単にいかないことはわかっていた。
ともあれグランサイファーはなんとか来た道を引き返し、ポート・ブリーズへと帰還する。
◇◆◇◆◇◆
数日後。
ポート・ブリーズでは、復興記念祭を再開して、更なる賑わいを見せていた。
「やっぱ天才だぜ、ラカムは! あの天国の門を突破するなんてよ!」
「はっはっは、なにを言ってやがる。お前さん達の協力あってこそだぜ!」
「オイゲンさん、あの……騎空士ってどうやってなるんですかね? 資格試験とかあるんですか?」
「なんだ、おい? お前、騎空士になりてぇのか? まぁ、根性は合格ってとこだな!」
「えっ、本当にいいの? ネックレス、譲ってもらっても……」
「うん! ねっ? ロゼッタ。皆のおかげで、最後まで頑張れたんだもん」
「ふふ、そうね。是非受け取って頂戴。ちょっとした友情の証よ」
「カタリナ殿~! 是非受け取っていただきたい! 我が国の軍事顧問の勲章をッッッ!」
「だ、だから……! その気はないと言っているだろう!?」
そんな喧騒の中、グランとジータ達が艇に戻ると鋭い視線を送る男がいた。
「ん……。まだ出発しないのか、特異点」
「あのよぅ……その呼び方、なんとかなんねぇのか? 呼びづれぇんじゃねーか?」
「フン……呼びづらいのは事実ではあるが。善処しよう」
「それに、特異点って私とグランのことを言ってるんでしょ? どっちかだけの時呼べないんじゃない?」
「確かにな……」
「じゃあ僕のことはグランでいいよ」
「私のこともジータでいいよ」
「善処しよう」
「善処じゃなくて、呼んでね?」
「あ、ああ……」
ジータの笑顔に妙な迫力が込められているような気がして、サンダルフォンは頷く。あれ以来、ジータから弟のように見られているようだった。
サンダルフォンは今後も一行と共闘することになっていた。ルシフェルの力と意思を継ぎ、まだどこかに眠っているかもしれぬ、『ルシファーの遺産』を破壊するために。
一行もまた空の世界を守るため、ルシファーに関わる存在を看過できず、お互い利害と目的が一致したのだった。
「もどかしいな……天司長の力さえ満ちれば……」
「そんなに焦んなって。相変わらず四六時中、張り詰めてやがんなぁ」
「……君等が緩んでいるのでは?」
「な、なんだとぉ!? ホント憎たらしいヤツだぜ。ちゃんと空を守る気あるのか?」
「ま、まぁまぁビィさん……。サンダルフォンさんも、ね? 空を守って罪を償うんですよね」
「結果論的にね。あの御方の意思のために俺は在る。それは偶々、空を守ることにもなる」
「うわぁ、心底ひねてやがる……」
「す、素直じゃないんですよ。心の中では色々ちゃんと考えてて……」
「フッ……ナンセンスだ」
彼らとやり取りをしながらも、サンダルフォンは笑っていた。
(どうして空は蒼いのか。願いとなった問いに、貴方は酷く惹かれていた。非合理な思考であるからこそ俺達獣も羨望するのだろうか? 親である星の民には備わっていないモノだから……自立できる未来を夢見て……。貴方の言う進化の道筋。その先を、見届けてみせます)
こうして一行は空の旅を続けていくのだった。
「おっ? 揃ってんじゃねぇか。丁度いい、サンダルフォンもいるな」
そこへダナンがやってきた。
「ん? なんだよ、なんか用か?」
「ああ、そんなところだ。あんまりこういう祝い事の時に言いたくはねぇが、俺も祭の後は別の島にいるだろうしな」
聞き返すビィに応えて、真剣な表情になる。そこに普段の様子はなく、周囲の空気がヒリついたように感じた。
「今回の黒い怪物……野郎は『アバター』って呼んでたみたいだが、アバター
ダナンが珍しく真顔で告げた言葉に、一行は顔を強張らせる。
「お、脅かすようなこと言うなよ! なぁ!」
「そ、そうですよ! 今回みたいに天司さん達とも力を合わせれば……!」
「そうやって前向きに捉えるのは勝手だが、楽観視だけはするなよ」
強がるビィとルリアの言葉ににこりともせず、ダナンは告げた。
「ベリアルの野郎は本気を出す気がないのか知らねぇが、余力を残そうとして戦ってやがった。だがいくら強くても天司の範疇だ。なんとかならないわけじゃねぇ。だが、あの野郎は違う」
ダナンは断言する。
「あの黒いフード被った金髪の男……あいつには、今は勝てない」
ここまで真面目なダナンを未だかつて見たことがあっただろうか。そのことがより四人に真実味を持たせる。
「それが俺とワールドが解析して得た答えだ。今のままじゃ、全団員を引き連れて戦えば勝てるだろうけどな。それくらい、実力差が開いてやがる。忌々しい話だが、あいつにとっちゃアバターすら赤子同然だ」
真っ直ぐ見据えて紡ぐ言葉に、四人は唾を呑んだ。あのアバターですら敵わないという男の強さは、どれほどのモノなのか。
「フン……。相手がどれだけ強かろうと関係ない」
サンダルフォンは怖気づかず鼻を鳴らした。
「そういう意地とかで覆せる次元なら、また話は違ったんだろうけどな……」
苦戦するとか、まだ戦いになっているならやりようもある。だがダナンとワールドが分析したところ、あの男の強さは今の自分達から考えるとそういう次元にすらない。敵の攻撃一つで複数人が即死するレベルだ。特にルシフェルを殺せたことを見ると星晶獣の力は相性が悪い。ダナンにとっても厄介な話だった。加えて同じく星晶獣と契約している十賢者も。
「話はそれだけだ。精々その時になって後悔しないよう、頑張れよ」
ダナンはそう締め括ると踵を返して去っていく。
街を歩きながら、ワールドと会話していた。
『忠告とは、優しいことだな』
(俺やお前にとっても悪い話じゃないだろ。世界を手にするのに、強敵は多い。ああいうのはあいつらけしかけるくらいでいいんだよ)
心の中で、唯一男の強さを共有できる二人は相談する。
(ホントに、今いる“蒼穹”と“黒闇”の全団員で立ち向かって勝てるくらいなんだよな?)
『ああ。オレが見たところ、あの星の民はそれほどまでに強い。というより、一人一人が相手にならなさすぎていないようなモノだ』
(俺もあいつの強さはわかっちゃいるが、そこまでの細かい想定はできねぇしな。全く、頭の痛い話だ)
正直なところ、ベリアルやアバターよりも男の方が脅威だった。異常なまでの強さ。分析した時点で勝てないと諦めてしまうほどに。
(あいつに勝つにはもっと強く……それも、もう一段階上の強さが必要だ)
『宛てはあるのか?』
【十の願いに応えし者】の全力を以ってしても、ヤツには敵わないだろう。『ジョブ』は地力を鍛えることでより効果を増すが、その程度の伸びしろでは太刀打ちできない。被害を出さずに勝利するためには、もっと強大な力が必要だった。
ワールドに尋ねられたダナンにはその「もう一段階上の強さ」に至る手段に心当たりが
(あるにはある。だが、無理だろうな)
『なに?』
(少なくとも、俺とお前じゃ無理だ)
『どういう意味だ?』
(今は話しても仕方がねぇよ)
しかしダナンはその方法をワールドに告げなかった。ワールドもそれ以上は突っ込まなかった。
◇◆◇◆◇◆
ダナン達が更なる戦いに頭を悩ませている一方。
「成る程……。カナンの崩壊によって天司長の残り香も消え失せたと思ったが後継が機能したのは予想外だった」
黒いフードを被った金髪に褐色肌の男はカナンにいた。
「だがそれは瑣末なことか。それよりも――二対の『ルシファーの遺産』……白の方は惜しくも失ったが黒を得られただけでも僥倖よ」
「ゥゥ……ァ……」
男の傍らには、再生もままならないアバターの残滓があった。
「もうすぐだ……長き時を経て、計画は最終段階に来た。ルシファー……見ているか? 貴様との戦いは、世界の統合を以って決着よ。全ての一に束ね、余は全となる」
また、別の場所で。
「あ~あ……。結局バブさんが一番楽しやがった。一番身体張ったのオレだよ。まぁ~いいか。おかげで『身体』は手に入った。後は『首』をどうするか、だけど……バブさんにはちょっと萎えたしオレも遊んでみよっかなあ?」
やはりと言うべきか生きていたベリアルはいいことを思いついたとばかりに嗤う。
邪悪なる意思は、その手を再び空に伸ばさんとしていた。
「世界」に向けられた圧倒的な「悪意」との衝突は最早避けられない。
近い未来、天司達の因縁は最後の決着を迎えることとなる――。
個人的な見解ですが、割りとファーさんとかバブさんはマジで強い部類(ファーさんの方が上)なので今の強さでも勝てないんじゃないかと思います。
いつか『000』で戦う日が来た時には、きっとダナン達は今よりもっと強くなっていることでしょう。
とはいえ流石に二つの騎空団全団員共闘して勝てるくらいは盛りすぎかもしれませんけどね。間違いなくダナンや十賢者達とは相性最悪のバブさんなので、警戒しすぎて損はないと思っています。
楽しんでいただけたら幸いです。
次がいつになるかは定かではないですが。