ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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困ったこと

 天司達の騒動が一旦区切りとなり、束の間の平穏を謳歌している時のことだった。

 

 一時的にエルステ王国に帰っていたオーキスとアポロが戻ってきたので会いに行ったのだが。

 

「「……」」

 

 二人共難しい顔をして黙り込んでいた。

 

「どうしたんだ、二人して?」

 

 なにか異変でもあったのかと思って尋ねると、そこでようやく俺の存在に気がついたようだった。二人の表情は神妙そのモノで、なにか事件があったのかと俺も気を引き締める。

 

「……困ったことになった」

「エルステ王国でなにか問題が起きたのか?」

 

 尋ねたが二人は首を振った。自分で口にして思ったが、それはないか。エルステ王国で問題が起きたら二人がさっさと帰ってくるわけがない。絶対に問題を解決するか、手が足りないなら二人を送り届けたザンツに俺達へ伝言を残すだろう。

 

「そうではないが、少し困ったことになってな」

 

 アポロもオーキスと同じことを言う。

 

「その困ったことってのはなんだ?」

 

 俺の質問に二人が顔を見合わせた。……言うにも困ることなのか?

 

「……実は、オルキスからブルトガングの在処を聞かれてな」

「……私も、ロイドの改良にパラゾニウムが必要って言われた」

 

 ……あー、それは困ったことだわ。

 

 二人から話を聞いて、納得してしまう。

 アポロが持っていたブルトガング、オーキスが持っていたパラゾニウムの二つは俺が二人から譲り受けたモノだ。今現在俺の手元にある。

 

 実を言うとかなり戦闘時には役立たせてもらっているのだが。

 

「そういうことなら、返却するか」

「……いいの?」

「ああ。俺も別方面での強化は考えてるし、武器も集めてはいるからな。ロイドの性能が上がるってんなら、その方がいい」

「……ん、ありがと」

 

 急な話ではあったが、仲間から受け取った武器は基本的に携帯している。気持ち的には思うところがないわけではないのだが、必要なら返すのも構わない。

 いつも背負っている荷袋からパラゾニウムを取り出してオーキスに手渡す。

 

「ほら、アポロも。ないと困るんだろ?」

「ああ、すまない。ブルトガングはエルステの宝剣でな。使う者もいないのでいいかと思っていたのだが」

 

 そんな大事なモノなら勝手に持ち出した上に勝手に他人に渡すんじゃねぇよ、と思わないでもない。まぁ二人やスツルムとドランクから武器を受け取った時にも思ったが、信頼の証ではあるんだろうけど。

 アポロにもブルトガングを返しておく。……この様子だとスツルムやドランクからも返せと言われそうな気もするが、とりあえず言われるまではいいか。俺もあいつらが持ってる天星器みたいな特殊で強力な武器が欲しい。

 

「そういやパラゾニウムがロイドの強化に必要って話だが、そんなこと可能なのか?」

 

 武器は二人に返したが、エルステで二人がどういう話を聞いたのかまでは話していない。少し気になることではあったので、聞いてみることにした。

 

「……って聞いた。エルステにいるゴーレム研究の人に」

「へぇ? そいつにそんなことができるとは知らなかったな」

 

 武器として活用してきたが、ロイドの強化に使えるような特殊な能力があるとは思っていなかった。色々な武器を見てきたからこそよくわかるが、かなり切れ味の鋭い武器だというくらいだ。

 

「……超高速演算能力を搭載してるとか、なんとか」

「ふぅん?」

 

 俺が持っていても一切そんな気配はなかったな。もしかしたらただの人間には扱えない能力なのかもしれない。例えば脳に負荷がかかりすぎるとか。

 

「まぁ俺もアーカーシャの代わりになるように力を与えることしかしてないしな。もっと強くなれるって言うなら構わないさ」

「……ありがと」

「で、そのロイドは?」

「……向こうに置いてきた。ロイドの強化ができないか、ゴーレム研究者に頼むつもりだったから」

「そっか」

 

 オーキスも彼女なりに強くなる道を探しているようだった。いつも感情の見えにくい瞳に確かな決意が秘められているのがわかって、それ以上深くは言及しなかった。

 

「アポロはどうして宝剣の話になったんだ?」

「いや、特に理由はない。雑談程度のことだったのだが……お前に渡したことを言うと、オルキスとしては私に持っていて欲しいと言われてしまってな」

「そりゃ返しておくべきだな」

「私から渡しておいて悪いな。そもそもブルトガングとは、かつてエルステの王が国を守るために振るい、代々受け継がれてきた宝剣だ。オルキスからしてみればただの飾りになってしまうが、一応エルステの関係者に持っていて欲しいということだ」

「そういうことなら仕方ない。というか、知ってたなら気軽に渡すなよな」

「今更なことだが、お前への信頼とこれを扱えるだけの実力を手にしろという二つの意味があったからな。無論、私が黒騎士としての装備を手にしたこともある。……それに、真の力は発揮できていなかったようだからな」

 

 どこか自嘲するような笑みを浮かべて言う。アポロにも真の力が発揮できないとはな。俺もできているとは思えないが……持ち手のなにかを待っているのか? 宝剣と呼ばれているくらいだから、なんらかのルーツがあっても不思議じゃない。それこそ天星器は使い手を選ぶらしいし。

 

「じゃあとりあえずエルステ王国に返すのか?」

「そうなるだろうな。私も武器に困っているわけではない」

 

 ブルトガングを使いこなせるなら話は変わってくるだろうが、まぁ仕方ないか。

 

「ならまたエルステに戻るのか。俺も一緒に行っていいか? ロイドの強化っていうのも気になるしな」

「……ん。ロイドの動力源を変えるなら、ダナンにも一緒に来てもらった方がいいと思ってた」

「じゃあ行くか」

 

 というわけで、三人で改めてエルステ王国の王都、メフォラシュに向かうことになったのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 メフォラシュに到着してから、俺とオーキスはアポロと分かれて行動することにする。アポロの行き先はオルキスのいる城の方だからだ。ゴーレムの研究者は城にも出入りしているが、いつもいるわけではない。研究所の方に顔を出そうというわけだ。

 

 そこで、ゴーレム研究の第一人者であるというハーヴィンの女性に出迎えられる。

 

「そっちは初対面だよなー。あたしはアルスピラ。こっちはあたしの同僚。覚えとけー」

 

 アルスピラと名乗った女性は無造作な茶色の長髪の上に眼鏡を乗っけていた。白衣を着ているが身嗜みが整っているとは言い難い。

 彼女の同僚はヒューマンの男性だ。

 

「ダナンだ。オーキスが世話になるな」

「こっちとしてもロイドのことを調べられるのは助かるからなー。相互扶助ってヤツだ」

 

 物言いはぶっきらぼうで身嗜みにも頓着がなさそうな様子だが、ちゃんとした人物ではあるらしい。特に視線はきちんと俺のことを注視している。いい加減そうにも見えるが、中身までは違うようだ。

 

「……アルスピラ。ロイドの様子は?」

「あのゴーレムは相当性能がいいよなー。現代の最新ゴーレムよりも性能が高いながらに、ゴツくない。あたし達から見れば大きいが、ゴーレムにしちゃ小さい方だからなー。研究者としては参考になる部分は多い、が」

 

 オーキスが預けてから色々と調べていたらしい。だがあまり表情は晴れやかではなかった。

 

「逆に言えば現代の技術が追いついてなくて、強化が難しいってことか?」

「そんなとこだなー。特に動力源がよくわかんないところでなー」

 

 俺がある程度言葉を予測すると、アルスピラは肯定した。言われてみれば、確かに不思議だな。

 エルステ王国のゴーレムは星の民が攻めてくるよりも前に繁栄していた技術だ。天司達が空の世界を管理し始めたのが二千年以上も前の話だから……それよりも前の時代に栄えていた産物だろう。だと言うのに、ゴーレムであるロイドは星晶獣アーカーシャのコアを動力源として動いていた。いつ造られたのかはわからないが、誰がどういう意図で設計したのかは謎だらけだ。

 

「動力源は、確かにな。元々は星晶獣アーカーシャのコアを動力源にしてて、それがなくなってからは俺が代わりになるモノを創って動いてるような状態だ」

「そういやそう言ってたなー。今のも星晶獣のコアと似たモノってことでいいか?」

「ああ。俺がやったことは、あくまでアーカーシャのコアに代わる動力源を創ることだからな」

 

 元々ワールドの能力で分析していたモノを、似せて創り出しただけだ。

 

「これはロイドを調べててなんとなーくわかったことだけどなー。ロイドは動力源によって性能が変わるゴーレムだ。そんなん今の技術じゃ信じられないんだけどよー」

「……動力源によって性能が変わる?」

「ああ、これはあたしの推測なんだけどよー。ロイドが星晶獣と張り合えるくらい強いってのは、星晶獣のコアを使ってたからじゃないかなってなー」

 

 興味深い仮説だった。となるとロイドを強化するとしたら――

 

「……よりいい動力源にすれば、ロイドが強くなる?」

「その可能性はあるなー。けど星晶獣のコア以上に強いモノってのは限られてくるよなー」

「そこでパラゾニウムが出てくるわけか」

「うん?」

 

 オーキスから聞いていた話と統合して口にしたのだが、アルスピラは首を傾げた。……あれ、そういう話じゃなかったのか?

 

「パラゾニウムのことは、私が話しました。偶々見つけた資料に書いてあったのでエルステの地下にあると踏んでいたのですが、それそのモノは見つけることができなかったのでてっきり存在しないモノかと思っていまして。かつてゴーレムのために製造されたので、手がかりの一つになればと思いまして……」

「ふーん……」

 

 同僚の男性が説明する。……アルスピラのいないところでパラゾニウムの話をオーキスにしたのか。それに今、若干焦りが入っていたせいか早口だったな。偶然とはいえアルスピラの前でパラゾニウムの話を出したのは正解だったか? 彼女も妙に訝しんでいる様子だ。

 

「まぁ、見つけられなかったなら机上の空論で終わることだしな――」

「……パラゾニウムなら、ここにある」

「……――」

 

 アルスピラの言葉を遮るようにオーキスが持ってきたパラゾニウムを掲げると、彼女は言葉を失って口をぱくぱくさせていた。少し申し訳ない。

 それはそれとして、パラゾニウムを見た同僚の目が怪しく光ったように感じた。やはりこいつにはなにか別の狙いがありそうだな。

 

「そっかー。まぁあるなら仕方ないよなー、うん。とはいえそいつは人体実験にも関わっていた代物だ。安全は保証できないぞ」

 

 アルスピラはどこか諦めた様子で告げる。

 

「……それでも、強くなれるなら試したい」

 

 しかしオーキスの決意は変わらなかった。オーキスも単体として強くなってきているが、強さの最大値はロイドの性能に左右される。これからの戦いに備えるなら、オーキスがロイドの強化を望むのもわからなくもない。

 

「……そっかー。じゃあ試すだけは試してやるかー。まずはロイドの停止と、パラゾニウムの調査からだなー。パラゾニウムは真価を発揮すると人じゃ制御できない可能性もあることだし、使用者がゴーレムだとはいえある程度の調査はしとくべきだしなー」

「……ん、それでいい」

 

 俺としてもいきなり試す、という話でないのは有り難い。オーキスが危険に晒されても困るからな。

 

 ということで、まずはそれぞれの状態を確認するところから始まるようだ。

 アルスピラに連れられて、ロイドが寝かされている部屋まで向かった。まずは俺がロイドの中に創ったコアの代替物を消去する。それからロイドが寝ている台とは別の台にパラゾニウムを置いた。

 

「じゃあ準備するから、パラゾニウムのことが書かれた資料ってヤツを持ってきてくれるかー? 情報が多いに越したことはないしなー」

「わかりました」

 

 アルスピラが同僚に指示を出して、彼は部屋から出ていく。

 

「あたしは道具やらを持ってくるから、ちょっと待っててくれよなー」

 

 アルスピラも部屋を離れるようだ。オーキスを一人にした内に同僚がなにか吹き込まないかも警戒したいし、俺は一緒にいるかと思っていたのだが。

 

「ダナンはあたしについてきてくれるかー? 運ぶの大変だからよー」

 

 アルスピラから声をかけられてしまった。……流石に心配しすぎか? オーキスは戦えるし、あの同僚は戦う身体をしてない。不意を突かれてもどうにかされるとは思えない。なによりこんなわかりやすい場所で大胆な行動に出るとも考えにくい。あんまり強引に断って妙な勘繰りをされても困るし、ここは従っておくか。

 

「ああ、わかった」

「……いってらっしゃい」

 

 オーキスはついてくるとは言い出さなかった。ロイドの傍にいたいからか、それとも別の理由かはわからない。

 

 一応同僚は警戒しておくとして、俺はアルスピラについていった。

 

 道具の倉庫みたいな場所に連れられて、ごそごそとモノを探す彼女を待つ。……さっきの部屋に同僚が戻ってきたな。先に出たから別に不思議じゃないが、さてどうかな。

 

 ただの考えすぎならそれでいい。不測の事態なんて起こらない方がいいに決まっているからな。

 

「こいつとそいつ、あと一応これも持ってくかー」

 

 アルスピラは独り言を言いながら道具を物色している。

 

「ダナンは特に重いこいつを運んでくれるかー?」

 

 しばらく物色していた彼女から、抱えて運ばないとならない大きさのなんらかの装置を指差された。確かにハーヴィンの彼女では運べなさそうな道具だ。俺は研究者じゃないのでなんの装置なのか見当もつかなかったが。

 

 結局なにも起こらなかったか、と思いながら装置の方へ歩いていくと――

 

「ッ……!?」

 

 さっきまでいた部屋に、妙な気配が()()()。……いや、これはロイドが動いてるのか? 動力源はさっき俺が消したはずなのに。

 

「どうかしたか?」

 

 急に立ち止まった俺を見て、アルスピラが尋ねてくる。俺が口を開く前に、

 

「ひ、ひいいいぃぃぃぃ!!」

 

 男の悲鳴が聞こえてきた。

 

「これ、あたしの同僚の声か!?」

「みたいだな。悪い、先行ってる!」

 

 驚くアルスピラを置いて、俺は一目散に駆け出す。オーキスも戦える、がロイドが一人でに動いて暴走しているなら手に余る。ワールドの能力で探ったところオーキスが糸でロイドを封じて抑えたようだが、なにか異変が起きているのは間違いなかった。

 

「……野郎、なんかしてくれやがった上に真っ先に逃げやがって」

 

 オーキスの無事を祈りながら逃げ出した同僚を罵って、俺は部屋に急行するのだった。

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